概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 材料名 | アルキド樹脂 |
| 略記号 | ALK、Alkyd |
| IUPAC | 特定の単一ポリマー名ではなく、多塩基酸、多価アルコール、脂肪酸又は油脂成分からなる変性ポリエステル樹脂の総称である。 |
| 英語名 | Alkyd Resin |
| 日本語名 | アルキド樹脂、油変性ポリエステル樹脂、塗料用ポリエステル樹脂 |
| 分類 | 熱硬化性樹脂、塗料用樹脂、油変性ポリエステル樹脂 |
| プラスチック分類 | 熱硬化性樹脂、塗料・コーティング用樹脂である。射出成形用プラスチックとして扱う材料ではなく、主に塗膜形成樹脂として使用される。 |
| 化学式または代表構造 | 代表構造:-[O-R-O-CO-Ar-CO-]n- に脂肪酸残基 R’-COO- 又は乾性油成分を含む変性ポリエステル構造である。Rはグリセリン、ペンタエリスリトールなどに由来し、Arは無水フタル酸、イソフタル酸などに由来する芳香族骨格である。 |
| CAS No. | アルキド樹脂は組成範囲を持つ樹脂群であり、一般に単一のCAS No.では管理されない。製品、油種、酸成分、多価アルコール、溶剤、固形分によりCAS登録が異なる。 |
| 構造・主成分 | 多塩基酸、多価アルコール、脂肪酸又は植物油を縮合反応させたポリエステル骨格を主成分とする。 |
| 主な用途 | 建築塗料、金属塗装、木工塗料、一般工業用塗料、焼付塗料、エナメル塗料、防錆塗料、プライマー、顔料分散用樹脂などである。 |
アルキド樹脂は、多塩基酸と多価アルコールからなるポリエステル骨格に、脂肪酸又は植物油由来成分を導入した塗料用樹脂である。一般に、光沢、顔料分散性、刷毛塗り性、密着性、塗膜形成性のバランスが良く、古くから建築塗料、金属塗料、木工塗料に広く使用されている。
材料設計上の重要点は、油長、油種、酸成分、多価アルコール、乾燥方式、架橋方式である。長油性アルキドは柔軟性や刷毛塗り性に優れやすく、短油性アルキドは硬度、乾燥性、焼付適性を高めやすい。乾性油を用いた酸化乾燥型、メラミン樹脂などと併用する焼付型、ウレタン変性、水性化、シリコーン変性などの変性品がある。
一方で、エステル結合を含むため強アルカリ、水分、高温水、加水分解条件には注意が必要である。また、耐溶剤性、耐候性、黄変性、乾燥性はグレード、油種、硬化条件、膜厚、顔料、ドライヤー、使用環境により大きく変化する。実使用では、温度、湿度、薬品濃度、接触時間、下地材、膜厚、応力、屋外暴露条件を確認して選定する必要がある。
特徴
長所
- 光沢、肉持ち感、平滑性、顔料分散性が良好で、塗料用バインダーとして扱いやすい。
- 金属、木材、建材への密着性が比較的良好で、プライマーや上塗り塗料に使用しやすい。
- 油長、油種、酸価、水酸基価、変性成分により、硬度、柔軟性、乾燥性、耐候性を調整しやすい。
- メラミン樹脂、尿素樹脂、イソシアネート、シリコーン樹脂、アクリル樹脂などとの組み合わせにより性能設計が可能である。
- 一般に原料選択の幅が広く、塗料の作業性、コスト、外観のバランスを取りやすい。
短所
- エステル結合を含むため、強アルカリ、熱水、長時間の水分接触では加水分解や白化が起こる場合がある。
- 酸化乾燥型では乾燥時間が温度、湿度、膜厚、酸素供給、ドライヤー量の影響を受けやすい。
- 屋外用途では黄変、チョーキング、光沢低下が起こる場合があり、アクリル樹脂やシリコーン変性品と比較して耐候性で劣ることがある。
- 強溶剤、芳香族炭化水素、ケトン、エステル類により軟化、膨潤、再溶解が起こる場合がある。
- 乾燥油、溶剤、金属ドライヤーを含む配合では、臭気、VOC、皮張り、貯蔵安定性、法規制への確認が必要である。
外観
アルキド樹脂は、一般に淡黄色から褐色の粘稠液、樹脂溶液、又は固形樹脂として供給される。色相、粘度、固形分、溶剤組成はグレードにより異なる。塗膜は透明から着色塗膜まで設計可能であり、顔料配合によりエナメル塗料、防錆塗料、木工用クリヤー塗料などに使用される。
耐熱性
アルキド樹脂塗膜の耐熱性は、油長、架橋密度、併用樹脂、顔料、焼付条件に依存する。常温乾燥型では一般に連続使用温度はおおむね60〜100℃程度が目安であり、メラミン架橋型やシリコーン変性型ではより高温側で使用できる場合がある。ただし、長時間高温では黄変、硬化、脆化、光沢低下が起こるため、実使用温度で確認する必要がある。
耐薬品性
一般に、弱酸、油類、脂肪族炭化水素には比較的耐えやすいが、強アルカリ、熱水、ケトン、エステル、芳香族炭化水素、塩素系溶剤には注意が必要である。耐薬品性は硬化状態、膜厚、顔料、架橋剤、乾燥時間、薬品濃度、温度、接触時間により変化する。
加工性
アルキド樹脂は、一般の射出成形や押出成形に用いる熱可塑性プラスチックではなく、塗料化、塗装、焼付、硬化、乾燥により塗膜として使用する材料である。スプレー、刷毛、ローラー、ディップ、カーテン、ロールコートなどの塗装加工に適する。切削加工は樹脂単体ではなく、硬化塗膜、積層板、塗装品に対して行う場合がある。
分類上の注意
アルキド樹脂はポリエステル樹脂の一種であるが、FRP用の不飽和ポリエステル樹脂や、成形材料としてのPET、PBTとは用途と設計思想が異なる。主用途は塗料用バインダーであり、プラスチック成形材料としての比較ではなく、塗膜形成樹脂として評価する必要がある。
構造式
アルキド樹脂の代表構造は、ポリエステル骨格に脂肪酸又は油脂由来の長鎖炭化水素基を含む構造である。厳密な構造式は原料組成により異なるため、以下は代表的な模式構造である。

ポリエステル骨格に脂肪酸や乾性油成分を含む構造。構造中の官能基、結晶性、架橋密度、芳香族骨格、充填材の有無により、耐熱性、耐薬品性、機械的性質、成形性が変化する。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 代表的な構造単位 | -[O-R-O-CO-Ar-CO-]n-、及び -OCO-R’- で表される脂肪酸残基を含むポリエステル構造 |
| 代表構造の読み方 | Rはグリセリン、ペンタエリスリトール、エチレングリコールなどの多価アルコール由来基、Arは無水フタル酸、イソフタル酸などの多塩基酸由来芳香族基、R’は大豆油、亜麻仁油、トール油脂肪酸などの脂肪酸残基を示す。 |
| モノマー又は構成単位 | 無水フタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、脂肪酸、乾性油、半乾性油、不乾性油などである。 |
| 基本反応式 | 多塩基酸 + 多価アルコール + 脂肪酸 → アルキド樹脂 + 水 |
| 縮合反応の模式式 | n HO-R-OH + n HOOC-Ar-COOH + m R’-COOH → HO-[R-OCO-Ar-COO]n-R-OCO-R’ + 水 |
| 酸化乾燥の模式 | 不飽和脂肪酸残基 + O2 → 過酸化物生成 → ラジカル架橋 → 三次元網目状塗膜 |
| 共重合体・変性グレード | 油長別アルキド、ウレタン変性アルキド、シリコーン変性アルキド、アクリル変性アルキド、水性アルキド、メラミン硬化型アルキドなどがある。 |
種類
| 種類の名称 | 主成分または特徴 | 長所 | 短所 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 長油性アルキド樹脂 | 油長がおおむね55%以上のアルキド樹脂である。 | 刷毛塗り性、柔軟性、濡れ性、屋外作業性に優れやすい。 | 乾燥が遅く、硬度、耐溶剤性、耐ブロッキング性で不利になる場合がある。 | 建築塗料、木工塗料、一般防錆塗料、常温乾燥塗料 |
| 中油性アルキド樹脂 | 油長がおおむね45〜55%程度のアルキド樹脂である。 | 乾燥性、光沢、柔軟性、硬度のバランスを取りやすい。 | 用途により長油性又は短油性ほどの特化性能は得にくい。 | 一般工業用塗料、金属塗料、建材塗料 |
| 短油性アルキド樹脂 | 油長がおおむね45%未満のアルキド樹脂である。 | 硬度、速乾性、焼付適性、耐溶剤性を高めやすい。 | 柔軟性や刷毛塗り性が低下しやすく、硬く脆い塗膜になる場合がある。 | 焼付塗料、工業用上塗り、金属塗装 |
| 乾性油変性アルキド樹脂 | 亜麻仁油、桐油、脱水ヒマシ油などの乾性油成分を含む。 | 酸化乾燥しやすく、常温乾燥塗料に使用しやすい。 | 黄変、臭気、皮張り、乾燥ムラに注意が必要である。 | 自然乾燥塗料、建築塗料、防錆塗料 |
| 半乾性油変性アルキド樹脂 | 大豆油、サフラワー油などを用いる場合が多い。 | 色相、耐黄変性、塗膜外観のバランスを取りやすい。 | 乾燥性は乾性油系より遅くなる場合がある。 | 白色塗料、淡彩色塗料、建築塗料 |
| 不乾性油変性アルキド樹脂 | ヤシ油、ヒマシ油など、酸化乾燥性の低い油成分を使用する。 | 焼付型や架橋型で色相、柔軟性、塗膜外観を調整しやすい。 | 単独では酸化乾燥しにくく、架橋剤や焼付工程が必要になりやすい。 | 焼付塗料、アミノアルキド塗料、工業塗装 |
| メラミン硬化型アルキド樹脂 | アルキド樹脂とメラミン樹脂を組み合わせ、加熱硬化させる。 | 硬度、耐溶剤性、耐薬品性、外観を高めやすい。 | 焼付設備が必要であり、基材の耐熱性に制約を受ける。 | 金属焼付塗装、家電、工業部品 |
| ウレタン変性アルキド樹脂 | ウレタン結合又はイソシアネート反応を利用して変性したグレードである。 | 硬度、耐摩耗性、密着性、耐水性を改善しやすい。 | 配合設計により可使時間、湿気反応、黄変性に注意が必要である。 | 木工塗料、床材塗料、工業用塗料 |
| シリコーン変性アルキド樹脂 | シリコーン樹脂又はシロキサン成分で変性したグレードである。 | 耐候性、耐熱性、光沢保持性を改善しやすい。 | コストが高くなりやすく、密着性や再塗装性は配合確認が必要である。 | 屋外塗料、耐熱塗料、金属外装材 |
| 水性アルキド樹脂 | 乳化、自己乳化、又は水分散化したアルキド樹脂である。 | VOC低減に有利であり、水性塗料設計に使用できる。 | 耐水性、貯蔵安定性、防腐、乾燥性、凍結融解安定性に注意が必要である。 | 水性建築塗料、水性木工塗料、水性金属塗料 |
成形加工
アルキド樹脂は、一般的な熱可塑性プラスチックのようにペレットを射出成形する材料ではなく、主に塗料用樹脂として溶剤又は水に分散・溶解し、塗装後に乾燥又は硬化して使用する材料である。そのため、成形加工性は塗装加工性、硬化性、乾燥性、塗膜形成性として評価するのが実務的である。
| 加工方法 | 適性 | 主な製品例 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 射出成形 | × | 一般的な射出成形部品には通常使用しない。 | 塗料用樹脂であり、熱可塑性ペレット材料ではない。 |
| 押出成形 | × | 押出成形シート、チューブ用途には通常使用しない。 | 樹脂単体の溶融押出材料としては扱いにくい。 |
| ブロー成形 | × | 中空成形品には通常使用しない。 | 塗膜形成用途が中心である。 |
| 圧縮成形 | △ | 特殊な熱硬化性樹脂組成物、塗膜付き部材 | 一般的なアルキド樹脂単独では主要加工法ではない。 |
| 真空成形 | × | 熱可塑性シート成形には通常使用しない。 | 基材に塗装して使用する方が一般的である。 |
| 切削加工 | △ | 塗装板、硬化塗膜、試験片の加工 | 塗膜割れ、欠け、熱影響、密着剥離に注意する。 |
| スプレー塗装 | ◎ | 金属塗装、建材塗装、工業用塗装 | 粘度、希釈溶剤、霧化条件、膜厚、乾燥条件を管理する。 |
| 刷毛・ローラー塗装 | ◎ | 建築塗料、木工塗料、補修塗装 | 長油性グレードが適しやすい。乾燥ムラとたれに注意する。 |
| ディップ塗装 | ○ | 小物金属部品、防錆塗装 | 引き上げ速度、粘度、膜厚、液管理が重要である。 |
| 焼付硬化 | ○〜◎ | メラミンアルキド塗料、金属焼付塗装 | 基材耐熱性、焼付温度、焼付時間、架橋剤量を確認する。 |
| 常温酸化乾燥 | ◎ | 自然乾燥塗料、防錆塗料、建築塗料 | 酸素供給、膜厚、湿度、温度、ドライヤー量により乾燥性が変化する。 |
代表的な成形・塗装条件
| 項目 | 代表条件・目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 乾燥温度 | 常温〜80℃程度、焼付型では120〜180℃程度 | 酸化乾燥型、焼付型、併用樹脂により大きく異なる。 |
| シリンダー温度 | 該当しない | 射出成形用熱可塑性樹脂ではないため、通常設定しない。 |
| 金型温度 | 該当しない | 塗装・硬化工程で管理する材料である。 |
| 成形収縮率 | 成形材料としての代表値は設定しにくい | 塗膜では乾燥収縮、硬化収縮、膜厚変化として評価する。 |
| 推奨膜厚 | 乾燥膜厚20〜50μm程度が一つの目安 | 用途、顔料、塗装方法、防錆要求により異なる。 |
| 乾燥時間 | 指触乾燥 数十分〜数時間、硬化乾燥 数時間〜数日 | 温度、湿度、膜厚、油長、ドライヤー、酸素供給で変化する。 |
| 代表グレード | 汎用、速乾、長油性、中油性、短油性、焼付、ウレタン変性、水性、シリコーン変性、食品接触配慮設計など | 食品接触、玩具、医療、飲料水用途では法規制と抽出物確認が必須である。 |
代表的な物性値又は機械的性質
以下の値は、アルキド樹脂塗膜又は樹脂固形分としての代表的な目安である。アルキド樹脂は塗料配合、溶剤、顔料、架橋剤、硬化条件、膜厚により物性が大きく変化するため、成形材料用プラスチックのような単一の物性値として扱うべきではない。
| 項目 | 単位 | 代表値・目安 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 密度 | g/cm3 | 約1.05〜1.25 | 樹脂固形分又は硬化塗膜の目安。顔料配合品ではさらに高くなる。 |
| 塗料溶液比重 | – | 約0.9〜1.2 | 溶剤、固形分、顔料量により大きく変化する。 |
| 引張強さ | MPa | 約10〜40 | 自由塗膜の目安。長油性では低く、焼付型や高架橋型では高くなる傾向がある。 |
| 伸び | % | 約2〜80 | 油長、可塑性、架橋密度、膜厚により大きく変化する。 |
| 曲げ弾性率 | MPa | 約500〜2500 | 硬化塗膜の目安。成形材料としての標準値ではない。 |
| アイゾット衝撃強さ | kJ/m2 | 成形材料としての代表値は設定しにくい | 塗膜では耐衝撃性、デュポン衝撃、折り曲げ試験で評価する方が実務的である。 |
| 鉛筆硬度 | – | B〜3H程度 | 常温乾燥型から焼付型まで幅が大きい。 |
| 荷重たわみ温度 | ℃ | 成形材料としての代表値は設定しにくい | 塗膜では耐熱変色、耐熱密着、熱サイクルで評価する。 |
| ガラス転移温度 | ℃ | 約-20〜80 | 油長、脂肪酸、架橋密度により大きく変化する。 |
| 融点 | ℃ | 明確な融点を示さない場合が多い | 架橋塗膜では再溶融しない。未硬化樹脂は軟化範囲で扱う。 |
| 連続使用温度 | ℃ | 約60〜100 | 一般的な常温乾燥塗膜の目安。焼付型、シリコーン変性型では条件により高くなる。 |
| 吸水率 | % | 約0.5〜3 | 塗膜組成と硬化状態に依存する。水性グレードでは耐水白化を別途評価する。 |
| 体積抵抗率 | Ω・cm | 約1012〜1015 | 絶縁塗膜としては配合、顔料、吸湿状態により変化する。 |
| 難燃性 | UL94 | 一般にHB相当又は規格未設定が多い | 油脂成分と有機溶剤を含むため難燃材料ではない。難燃要求では個別グレード確認が必要である。 |
| 酸素指数 | % | 代表値は設定しにくい | 塗料配合、顔料、難燃剤、膜厚に依存する。 |
複合材・変性材との比較目安
| 材料・塗膜系 | 密度目安 | 耐熱性 | 耐薬品性 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 汎用アルキド塗膜 | 約1.05〜1.25 | △〜○ | △〜○ | 作業性、外観、コストのバランスが良い。 |
| メラミンアルキド塗膜 | 約1.1〜1.3 | ○ | ○ | 焼付硬化により硬度、耐溶剤性を高めやすい。 |
| ウレタン変性アルキド塗膜 | 約1.05〜1.3 | ○ | ○ | 耐摩耗性、耐水性、密着性を改善しやすい。 |
| シリコーン変性アルキド塗膜 | 約1.1〜1.4 | ○〜◎ | ○ | 耐候性、耐熱性、光沢保持性を改善しやすい。 |
| 顔料・充填材配合アルキド塗膜 | 約1.2〜2.5 | △〜○ | △〜○ | 防錆性、隠ぺい性、耐摩耗性、コストを調整できる。 |
耐薬品性
アルキド樹脂の耐薬品性は、塗膜の硬化状態、油長、架橋剤、顔料、膜厚、乾燥時間、薬品濃度、温度、接触時間により大きく変化する。以下は常温、短時間から中時間接触、十分に乾燥又は硬化した一般塗膜を想定した目安である。浸漬、加温、応力下、屋外、水蒸気、洗剤、強アルカリ洗浄では評価が低下する場合がある。
| 薬品・環境 | 代表例 | 評価 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 酸類 | 希塩酸、希硫酸、酢酸水溶液 | △〜○ | 弱酸では比較的耐える場合があるが、濃酸、加温、長時間接触では劣化しやすい。 |
| アルカリ類 | 水酸化ナトリウム、KOH、アルカリ洗浄剤 | ×〜△ | エステル結合の加水分解により軟化、白化、密着低下が起こりやすい。 |
| 低級アルコール類 | メタノール、エタノール、IPA | △〜○ | 短時間拭き取りでは耐える場合があるが、浸漬や未硬化塗膜では軟化しやすい。 |
| 高級アルコール類 | ブタノール、グリセリン、MMB | △〜○ | 溶解性、浸透性、沸点、接触時間により膨潤する場合がある。 |
| 芳香族炭化水素類 | トルエン、キシレン、エチルベンゼン | ×〜△ | アルキド樹脂の溶剤として用いられることがあり、再溶解、軟化、膨潤に注意する。 |
| 脂肪族炭化水素類 | ヘキサン、ミネラルスピリット、灯油 | ○ | 短時間では比較的安定しやすいが、未硬化塗膜や長時間浸漬では軟化する場合がある。 |
| ケトン | アセトン、MEK、MIBK | × | 強い溶解・膨潤作用を示しやすく、塗膜の軟化や剥離に注意する。 |
| エステル | 酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル | ×〜△ | 塗料溶剤として使用される場合があり、耐溶剤性は硬化状態に強く依存する。 |
| 塩素系溶剤 | ジクロロメタン、トリクロロエチレン、クロロホルム | × | 膨潤、軟化、密着低下を起こしやすい。作業安全と法規制にも注意する。 |
| 水・温水 | 水道水、温水、湿潤環境 | △〜○ | 常温短時間では耐える場合があるが、温水、浸漬、水蒸気では白化、ふくれ、加水分解に注意する。 |
| 油 | 鉱物油、潤滑油、植物油 | ○ | 油種、添加剤、温度により軟化や汚染が起こる場合がある。 |
| 燃料 | ガソリン、軽油、灯油 | △ | 芳香族成分、アルコール混合燃料、添加剤により膨潤しやすい。燃料接触用途では専用塗膜が必要である。 |
| 洗剤・界面活性剤 | 中性洗剤、アルカリ洗浄剤、脱脂剤 | ×〜○ | pH、界面活性剤、キレート剤、温度、接触時間の影響が大きい。 |
| 屋外環境 | 紫外線、雨水、湿熱、酸性雨 | △〜○ | グレードにより光沢低下、黄変、チョーキングが起こる。耐候用途では変性品を検討する。 |
SP値(溶解度パラメータ)
アルキド樹脂のSP値は、油長、脂肪酸組成、芳香族酸成分、水酸基価、酸価、架橋密度により変化する。代表的な目安として、未硬化又は低架橋のアルキド樹脂ではδ=約18〜22 MPa1/2程度で扱われることが多い。油長が長く脂肪族性が高いほど低SP側に寄り、短油性、芳香族成分、高極性成分が多いほど高SP側に寄る傾向がある。
| 項目 | 代表値・目安 【MPa1/2】 | 注意点 |
|---|---|---|
| アルキド樹脂のSP値 | 約18〜22 | 油長、油種、変性、硬化状態により変化する。 |
| 長油性アルキド | 約18〜20 | 脂肪酸成分が多く、非極性溶剤への親和性が高くなりやすい。 |
| 短油性アルキド | 約20〜22 | 芳香族ポリエステル性が強くなり、極性溶剤との相互作用が増える場合がある。 |
| 硬化アルキド塗膜 | 実測又は配合推定が必要 | 架橋後は単純なSP値だけで溶解性を判断しにくい。 |
SP値は溶解性・膨潤性の一次スクリーニングには有効であるが、耐薬品性をSP値だけで判断することはできない。特にアルキド樹脂では、加水分解、酸化劣化、架橋密度、膜厚、顔料、乾燥不足、薬品のpH、界面活性剤、温度、接触時間が重要である。
溶解性の目安
| SP値差 | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|
| 0〜2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2〜5 | 条件により膨潤する | △ |
| 5〜8 | 短時間接触では比較的安定 | ○ |
| 8以上 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP値から見た耐溶剤性
以下では、アルキド樹脂の代表SP値を20 MPa1/2と仮定し、代表溶剤とのSP値差から溶解・膨潤リスクを整理する。実際の耐溶剤性は、樹脂グレード、油長、架橋剤、焼付条件、膜厚、乾燥時間、温度、接触時間で変化するため、実液で確認する必要がある。
| 溶剤・薬品 | 代表SP値 【MPa1/2】 | アルキドとの差 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| ヘキサン | 約14.9 | 約5.1 | ○ | 短時間では比較的安定しやすいが、長時間浸漬では軟化に注意する。 |
| ミネラルスピリット | 約15〜16 | 約4〜5 | △〜○ | アルキド塗料の希釈溶剤に用いられるため、未硬化塗膜では注意が必要である。 |
| トルエン | 約18.2 | 約1.8 | × | SP値が近く、軟化・膨潤・再溶解が起こりやすい。 |
| キシレン | 約18.0 | 約2.0 | ×〜△ | 塗料溶剤として使用されることがあり、接触条件に注意する。 |
| 酢酸エチル | 約18.6 | 約1.4 | × | 塗膜を軟化させやすい。完全硬化塗膜でも長時間接触は避ける。 |
| MEK | 約19.0 | 約1.0 | × | 強い溶解・膨潤性を示しやすく、耐溶剤試験で厳しい薬品である。 |
| アセトン | 約20.0 | 約0 | × | SP値が近く、軟化、白化、剥離のリスクが高い。 |
| エタノール | 約26.0 | 約6.0 | ○〜△ | SP値差はあるが、水素結合性と浸透性により塗膜が軟化する場合がある。 |
| IPA | 約23.5 | 約3.5 | △ | 拭き取り程度では耐える場合があるが、浸漬や未硬化塗膜では注意する。 |
| 水 | 約47.9 | 約27.9 | ○ | SP値差は大きいが、加水分解、白化、ふくれは別要因で発生する。 |
| グリセリン | 約33〜36 | 約13〜16 | ◎〜○ | SP値上は溶解しにくいが、吸湿環境や添加剤の影響を確認する。 |
| ジクロロメタン | 約20.2 | 約0.2 | × | SP値が近く、塗膜への攻撃性が高い。安全衛生上も注意が必要である。 |
評価基準:◎非常に良好、○概ね良好、△注意が必要、×不適である。ただし、SP値差が大きくても、アルカリ加水分解、酸化、界面活性剤による浸透、応力、温水、蒸気、乾燥不足により劣化する場合がある。
製法
アルキド樹脂は、多塩基酸、多価アルコール、脂肪酸又は油脂を加熱縮合して製造する。代表的には、脂肪酸法とモノグリセリド法がある。製造では酸価、粘度、固形分、色相、油長、分子量、ゲル化を管理する必要がある。

| 工程 | 内容 | 管理項目 |
|---|---|---|
| 原料選定 | 無水フタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、グリセリン、ペンタエリスリトール、脂肪酸、植物油などを選定する。 | 油長、酸価、水酸基価、色相、乾燥性、耐候性 |
| エステル化・縮合 | 多塩基酸と多価アルコールを加熱し、生成水を除去しながらポリエステル化する。 | 温度、反応時間、酸価、粘度、水分除去、ゲル化防止 |
| 油脂又は脂肪酸導入 | 脂肪酸法では脂肪酸を直接反応させ、モノグリセリド法では油脂をアルコール分解してから酸成分と反応させる。 | 乾性、柔軟性、色相、黄変性、乾燥速度 |
| 変性 | ウレタン変性、シリコーン変性、アクリル変性、水性化、メラミン硬化設計などを行う場合がある。 | 耐候性、耐水性、硬度、密着性、VOC、貯蔵安定性 |
| 希釈・調整 | キシレン、ミネラルスピリット、芳香族溶剤、エステル系溶剤、水などで固形分と粘度を調整する。 | 固形分、粘度、溶剤規制、引火点、臭気 |
| 添加剤配合 | ドライヤー、酸化防止剤、皮張り防止剤、分散剤、消泡剤、レベリング剤、顔料、充填材、防錆顔料などを配合する。 | 乾燥性、貯蔵安定性、塗膜外観、防錆性、法規制 |
| ろ過・出荷 | 異物やゲル分を除去し、ドラム、缶、コンテナなどで出荷する。 | 外観、粘度、酸価、色相、異物、固形分 |
代表的な反応式
多価アルコール + 多塩基酸 + 脂肪酸 → アルキド樹脂 + 水
例:グリセリン + 無水フタル酸 + 脂肪酸 → 脂肪酸変性ポリエステル樹脂 + 水
酸化乾燥型では、不飽和脂肪酸残基が空気中の酸素と反応し、過酸化物生成、ラジカル反応、架橋反応を経て塗膜を形成する。金属ドライヤーはこの酸化乾燥反応を促進する。
詳細な利用用途
| 分野 | 主な用途 | 採用理由 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 自動車 | 補修塗料、部品塗装、一部工業用塗装 | 外観、光沢、作業性、顔料分散性を得やすい。 | 高耐候、高耐薬品、自動車外板用途ではアクリル、ウレタン、メラミン系との比較が必要である。 |
| 電気・電子 | 絶縁ワニス、部品塗装、金属筐体塗装 | 電気絶縁性と塗膜形成性を両立しやすい。 | 耐熱性、アウトガス、難燃性、絶縁劣化、RoHS、REACHを確認する。 |
| 機械部品 | 防錆塗装、銘板、カバー、一般工業塗装 | 密着性、塗装作業性、コストのバランスが良い。 | 油、切削油、アルカリ洗浄剤、溶剤拭き取り条件を確認する。 |
| 医療 | 一般には直接医療材料としては限定的である。 | 塗装部材として使用する場合がある。 | 生体適合性、抽出物、滅菌、薬機法、ISO 10993などの確認が必要である。 |
| 食品機械 | 外装塗装、非接食品部材、設備塗装 | 外観、防錆、補修性に使いやすい。 | 食品接触部では食品衛生、FDA、溶出、洗浄剤、熱水、アルカリ洗浄への耐性を確認する。 |
| 建築・設備 | 建築鉄部塗装、木部塗装、建具、設備外装 | 刷毛塗り性、光沢、密着性、補修性に優れる。 | 屋外耐候性、チョーキング、黄変、VOC、乾燥時間に注意する。 |
| 木工 | 木工用クリヤー、家具塗装、床材塗装 | 濡れ色、光沢、作業性、研磨性を調整しやすい。 | 耐水性、耐アルコール性、耐摩耗性、乾燥臭、黄変を確認する。 |
| 防錆塗料 | 鉄骨、鋼材、農機具、一般金属部品 | 防錆顔料との相性が良く、コストを抑えやすい。 | 重防食、海浜、化学薬品環境ではエポキシ、ウレタン、フッ素系との比較が必要である。 |
| 用途別選定 | 筐体、カバー、金属板、木材、チューブ外装、フィルム塗工、コネクタ外装 | 塗装性と外観を重視する用途で使いやすい。 | ギア、軸受など摺動部品の母材としては通常使用しない。必要な場合は塗膜の摩耗試験を行う。 |
法規制・環境対応
| 項目 | 確認内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| RoHS | 鉛、カドミウム、六価クロム、水銀、PBB、PBDE、フタル酸エステル類など | 樹脂単体だけでなく、顔料、防錆顔料、ドライヤー、添加剤を確認する。 |
| REACH | SVHC、溶剤、添加剤、金属触媒、残留モノマー | 欧州向け製品では最新のSVHCリスト確認が必要である。 |
| 食品衛生 | 食品接触適合、ポジティブリスト、溶出試験 | 食品接触部に使用する場合は、塗膜としての適合性を確認する。 |
| FDA | 米国食品接触用途での該当規格 | 用途、接触食品、温度、時間により要求が異なる。 |
| 医療用途 | 生体適合性、抽出物、滅菌耐性 | 一般グレードを医療用途に転用することは避け、専用品を確認する。 |
| VOC・有機溶剤 | 溶剤種、固形分、塗装作業環境、排気 | 水性アルキド、ハイソリッド型への置換を検討する場合がある。 |
| 難燃性 | UL94、酸素指数、燃焼性 | 一般アルキド塗膜は難燃材料ではない。必要に応じて難燃配合を選定する。 |
注意点
- 加水分解:アルカリ、温水、水蒸気、湿熱条件ではエステル結合の加水分解に注意する。
- 応力割れ:硬い焼付塗膜や厚膜では、基材変形、熱膨張差、曲げ加工により割れが起こる場合がある。
- 吸湿:水分により白化、ふくれ、密着低下が起こる場合がある。
- 熱劣化:高温では黄変、脆化、光沢低下が起こる場合がある。
- アウトガス:焼付、加熱、電子部品用途では残留溶剤、低分子成分、乾燥不足によるアウトガスを確認する。
- 乾燥不足:酸化乾燥型では表面乾燥していても内部硬化が不十分な場合があり、耐溶剤性と耐水性が低下する。
- 皮張り:酸化乾燥型塗料では容器内で皮張りが起こる場合があるため、貯蔵条件と皮張り防止剤を確認する。
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | 対象材料との違い |
|---|---|---|
| 不飽和ポリエステル樹脂 | 不飽和ポリエステルをスチレンなどで架橋硬化するFRP用熱硬化性樹脂である。 | アルキド樹脂は主に塗料用バインダーであり、不飽和ポリエステル樹脂はFRP成形、注型、ライニング用途に使われる点が異なる。 |
| エポキシ樹脂 | 接着性、耐薬品性、耐食性、電気絶縁性に優れる熱硬化性樹脂である。 | アルキド樹脂は作業性、光沢、コストに優れやすいが、重防食や強薬品環境ではエポキシ樹脂が選ばれやすい。 |
| アクリル樹脂 | 透明性、耐候性、硬度、色保持性に優れる樹脂である。 | アルキド樹脂は塗装作業性と顔料分散性に優れやすいが、屋外耐候性や黄変抑制ではアクリル樹脂が有利な場合が多い。 |
| ポリウレタン | ウレタン結合を持ち、柔軟性、耐摩耗性、耐薬品性を設計しやすい材料である。 | アルキド樹脂は酸化乾燥型や焼付型で使いやすく、ポリウレタンは耐摩耗性、耐水性、弾性、耐薬品性を重視する塗膜で有利である。 |
| シリコーン樹脂 | シロキサン骨格を持ち、耐熱性、耐候性、撥水性に優れる樹脂である。 | アルキド樹脂は汎用塗料として扱いやすいが、耐熱・耐候要求が高い場合はシリコーン樹脂又はシリコーン変性アルキドを検討する。 |
| ビニルエステル樹脂 | エポキシ骨格と不飽和基を持ち、耐食FRP用途に使用される熱硬化性樹脂である。 | アルキド樹脂は塗料用樹脂であり、ビニルエステル樹脂は耐食ライニング、FRPタンク、薬液設備用途で使われる点が異なる。 |
| ウレタンアクリレート | UV硬化、EB硬化に対応し、硬化速度、耐摩耗性、柔軟性を設計しやすい樹脂である。 | アルキド樹脂は酸化乾燥や焼付硬化が中心であり、ウレタンアクリレートは光硬化による高速硬化塗工に適する。 |
| メラミン樹脂 | アミノ樹脂の一種で、焼付塗料の架橋剤として使用される。 | アルキド樹脂は主バインダーとして使われ、メラミン樹脂はアルキド樹脂の水酸基と反応して硬度、耐溶剤性、耐薬品性を高める架橋剤として使われる。 |
代表的なメーカー
アルキド樹脂は塗料メーカー、樹脂メーカー、合成樹脂メーカーが地域別・用途別に供給している。代表製品・ブランドは国、用途、販売時期により変わるため、実際の採用時には最新の製品カタログ、SDS、技術資料を確認する必要がある。
| メーカー | 代表製品・ブランド | 概要 |
|---|---|---|
| allnex | SETAL、RESYDROL、BECKOSOLなどの代表例 | 塗料用樹脂メーカーであり、溶剤系、水性、変性アルキド樹脂を含む幅広い塗料用樹脂を扱う。 |
| Polynt | アルキド樹脂、ポリエステル樹脂系製品 | コーティング、複合材料、特殊樹脂分野のメーカーであり、塗料用樹脂を扱う。 |
| Synthopol | SYNTHALATなどの代表例 | 塗料・コーティング向け合成樹脂メーカーであり、アルキド、アクリル、ポリエステル系樹脂を扱う。 |
| Arkema | 塗料用樹脂・添加剤関連製品 | コーティング材料、添加剤、特殊樹脂を扱う化学メーカーである。アルキド系配合で使用される関連材料も多い。 |
| DIC | 塗料用樹脂、コーティング用樹脂 | 日本の化学メーカーであり、塗料、インキ、コーティング材料分野で樹脂製品を扱う。具体的なアルキド系グレードは用途別に確認する必要がある。 |
| 三菱ケミカルグループ | 塗料・コーティング関連樹脂 | 日本の総合化学メーカーであり、塗料・コーティング用途の樹脂材料を扱う。アルキド系の採用可否は現行製品情報を確認する必要がある。 |
| レゾナック | 塗料・工業材料向け樹脂 | 工業用樹脂、塗料関連材料として扱われる場合がある。現行の会社名、製品名、供給状況は都度確認が必要である。 |
関連キーワード
アルキド樹脂 熱硬化性樹脂 塗料用樹脂 不飽和ポリエステル樹脂 エポキシ樹脂 アクリル樹脂 ポリウレタン シリコーン樹脂 ビニルエステル樹脂 ウレタンアクリレート メラミン樹脂 焼付塗料 防錆塗料 木工塗料 水性アルキド シリコーン変性アルキド