概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 材料名 | ポリブチレンアジペートテレフタレート |
| 略記号 | PBAT |
| IUPAC | Poly(butylene adipate-co-butylene terephthalate)、Poly(tetramethylene adipate-co-tetramethylene terephthalate) |
| 英語名 | Polybutylene Adipate Terephthalate、Poly(butylene adipate-co-terephthalate) |
| 日本語名 | ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンアジペート-co-テレフタレート、PBAT樹脂、生分解性芳香族脂肪族ポリエステル |
| 分類 | 生分解性プラスチック、脂肪族・芳香族共重合ポリエステル、熱可塑性樹脂 |
| プラスチック分類 | プラスチック、バイオプラスチック、生分解性プラスチック、軟質熱可塑性ポリエステル |
| 化学式または代表構造 | 代表構造:[-O-(CH2)4-O-CO-(CH2)4-CO-]x[-O-(CH2)4-O-CO-C6H4-CO-]y |
| CAS No. | 55231-08-8、130479-65-1、60961-73-1などがPBATまたは近似組成の共重合体として用いられる場合がある |
| 構造・主成分 | 1,4-ブタンジオール、アジピン酸、テレフタル酸またはジメチルテレフタレートからなる脂肪族・芳香族ランダム共重合ポリエステルである。 |
| 主な用途 | 生分解性袋、コンポスト袋、農業用マルチフィルム、包装フィルム、ラミネート、紙コーティング、PLAや澱粉系樹脂の柔軟化改質材など |
ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)は、柔軟性と生分解性を両立させた熱可塑性ポリエステルである。脂肪族ポリエステル成分であるブチレンアジペート単位により柔軟性と分解性を持ち、芳香族ポリエステル成分であるブチレンテレフタレート単位により機械的強度、耐熱性、加工安定性を補っている。
一般にPBATは、単独では軟質フィルム用途に近い性質を示し、低密度ポリエチレン(LDPE)に似た柔軟性、伸び、耐屈曲性を示す場合がある。一方で、剛性、耐熱性、透明性、ガスバリア性は用途やグレードにより制約があるため、実用上はポリ乳酸(PLA)、澱粉系プラスチック、ポリブチレンサクシネート(PBS)、無機フィラーなどとブレンドして用いられることが多い。
PBATは生分解性プラスチックとして扱われるが、生分解挙動は温度、湿度、微生物環境、厚み、結晶化度、添加剤、ブレンド成分により大きく変化する。特に工業的コンポスト条件と、土壌、淡水、海水、屋外暴露環境では分解速度が異なるため、材料選定では認証規格、用途、廃棄環境、法規制を確認する必要がある。
特徴
長所
- 柔軟性、伸び、耐屈曲性に優れ、フィルムや袋用途に適する。
- 工業的コンポスト条件下で生分解性を示すグレードがある。
- 押出成形、インフレーションフィルム成形、ブロー成形、ラミネート加工に適用しやすい。
- PLA、澱粉系樹脂、PBSなどの生分解性材料に柔軟性を付与する改質材として使用される。
- ポリエステル系でありながら、比較的軟質で低温柔軟性を持つ。
- グレードにより食品接触用途、農業用途、コンポスト袋用途に使用される。
短所
- 単独では剛性、寸法安定性、耐熱性が高くない。
- ポリエステルであるため、加水分解、アルカリ加水分解、熱劣化に注意が必要である。
- 芳香族炭化水素、塩素系溶剤、エステル、ケトンなどでは膨潤・軟化・溶解の可能性がある。
- 高温多湿下や長期保管では分子量低下により物性が変化する場合がある。
- 一般的なポリエチレンやポリプロピレンより材料価格が高くなりやすい。
- 生分解性は環境条件に依存し、自然環境で短期間に完全分解するとは限らない。
外観
PBATは一般に乳白色から半透明のペレット、フィルム、シートとして供給される。フィルム化した場合はグレード、厚み、結晶化状態、ブレンド成分により透明から半透明、白濁まで幅がある。澱粉、炭酸カルシウム、タルクなどを配合したコンパウンドでは不透明になりやすい。
耐熱性
PBATの融点は一般に約110〜125℃程度であり、連続使用温度は目安として約50〜70℃程度である。熱変形温度は高くないため、熱湯、蒸気、高温乾燥、車内高温環境などでは変形、軟化、寸法変化を確認する必要がある。耐熱性を重視する場合はPLA、PBS、PBT、PETなどとの比較が必要である。
耐薬品性
PBATは水、低級アルコール、弱酸、植物油などに対しては短時間接触で比較的安定な場合がある。一方で、強アルカリ、強酸、高温水、芳香族溶剤、塩素系溶剤、エステル、ケトンでは加水分解、膨潤、軟化、溶解が起こる可能性がある。実使用ではグレード、温度、濃度、応力、接触時間、成形品厚みを確認する必要がある。
加工性
PBATは熱可塑性樹脂であり、押出成形、インフレーションフィルム成形、Tダイフィルム成形、ブロー成形、ラミネート加工に適する。射出成形も可能であるが、軟質で剛性が低いため、厚肉部品や精密機構部品では用途が限定される。乾燥不足や過度な滞留は加水分解、分子量低下、外観不良の原因となる。
分類上の注意
PBATは名称に「テレフタレート」を含むためPBTやPETに近い芳香族ポリエステル構造を一部持つが、実務上は硬質エンプラではなく、軟質の生分解性プラスチックとして扱われることが多い。また、バイオマス由来材料とは限らず、石油由来原料から合成されるPBATも多い。したがって、「生分解性」と「バイオマス由来」は区別して判断する必要がある。
構造式
化学式の画像
白黒の構造式として表す場合は、MS Pゴシック相当の日本語フォントで、下記の代表構造単位を横方向に配置すると読みやすい。
HOOC-(CH2)4-COOH + HOOC-C6H4-COOH + HO-(CH2)4-OH → [-O-(CH2)4-O-CO-(CH2)4-CO-]x[-O-(CH2)4-O-CO-C6H4-CO-]y + H2O
代表的な構造単位
| 構造単位 | 表記 | 役割 |
|---|---|---|
| ブチレンアジペート単位 | [-O-(CH2)4-O-CO-(CH2)4-CO-]x | 柔軟性、生分解性、低温特性に寄与する。 |
| ブチレンテレフタレート単位 | [-O-(CH2)4-O-CO-C6H4-CO-]y | 強度、熱安定性、成形加工性に寄与する。 |
| PBAT共重合構造 | [-BA-]x[-BT-]y | 脂肪族ポリエステルと芳香族ポリエステルの共重合体である。 |
モノマーまたは構成単位
| 原料 | 化学式 | 役割 |
|---|---|---|
| 1,4-ブタンジオール | HO-(CH2)4-OH | ジオール成分であり、アジピン酸およびテレフタル酸とエステル結合を形成する。 |
| アジピン酸 | HOOC-(CH2)4-COOH | 脂肪族ジカルボン酸成分であり、柔軟性と分解性に寄与する。 |
| テレフタル酸 | HOOC-C6H4-COOH | 芳香族ジカルボン酸成分であり、強度と耐熱性に寄与する。 |
| ジメチルテレフタレート | CH3OOC-C6H4-COOCH3 | テレフタル酸の代替原料としてエステル交換法で使用される場合がある。 |
共重合体や変性グレード
PBATは共重合比率により柔軟性、結晶化挙動、融点、生分解性、引張強さが変化する。実用グレードでは、PLAブレンド、澱粉ブレンド、PBSブレンド、炭酸カルシウム充填、タルク充填、鎖延長剤添加、滑剤添加、アンチブロッキング剤添加、食品接触対応グレードなどがある。
種類
| 種類の名称 | 主成分または特徴 | 長所 | 短所 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 汎用PBAT | 標準的な脂肪族・芳香族共重合ポリエステル | 柔軟性、伸び、フィルム成形性が良い | 剛性、耐熱性は限定的である | 袋、包装フィルム、コンポスト袋 |
| フィルム用PBAT | インフレーション成形、Tダイ成形に適した粘度・結晶化設計 | 薄膜化、ヒートシール性、耐屈曲性に優れる | ブロッキング、寸法安定性に注意が必要である | 生分解性袋、食品包装補助材、農業用フィルム |
| PLAブレンドPBAT | PBATにPLAを配合した生分解性コンパウンド | PLAの剛性とPBATの柔軟性を調整できる | 相溶化、脆化、加水分解管理が必要である | 包装材、使い捨て成形品、フィルム |
| 澱粉ブレンドPBAT | 澱粉、可塑剤、PBATからなるコンパウンド | コスト低減、バイオマス度向上、生分解性の設計がしやすい | 吸湿、物性ばらつき、耐水性低下に注意が必要である | 買物袋、ごみ袋、農業資材 |
| PBSブレンドPBAT | PBATにPBSを配合したポリエステル系ブレンド | 柔軟性と剛性のバランスを取りやすい | ブレンド比率により成形条件と結晶化が変化する | フィルム、シート、成形品 |
| 無機フィラー充填PBAT | 炭酸カルシウム、タルク、シリカなどを配合 | 剛性、寸法安定性、コスト面で有利な場合がある | 伸び、透明性、耐折性が低下しやすい | 袋、シート、農業資材、包装材 |
| 耐熱改良PBAT | 結晶化制御、ブレンド、フィラーにより耐熱性を補ったグレード | 標準PBATより熱変形しにくい場合がある | 透明性、柔軟性、成形性が低下する場合がある | 容器、シート、耐熱性を要求する包装材 |
| 食品接触対応PBAT | 食品接触用途を想定した添加剤・規格対応グレード | 包装用途で採用しやすい | 国・用途・接触条件ごとに適合確認が必要である | 食品包装フィルム、紙コーティング、袋 |
成形加工
| 加工方法 | 適性 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 射出成形 | ○ | 軟質成形品、柔軟部材、ブレンドグレードで適用できる。 | 単独PBATは剛性が低いため、精密部品では形状設計が必要である。 |
| 押出成形 | ◎ | フィルム、シート、ラミネート、チューブに適する。 | 乾燥、滞留時間、溶融粘度管理が重要である。 |
| インフレーションフィルム成形 | ◎ | 袋、農業用フィルム、包装フィルムに広く使用される。 | ブロッキング、厚みむら、結晶化、滑り性を確認する。 |
| Tダイフィルム成形 | ◎ | 薄膜フィルム、ラミネート基材、コーティング用途に適する。 | ネックイン、冷却条件、巻取条件を管理する。 |
| ブロー成形 | ○ | 軟質容器、特殊用途の中空成形品に適用される場合がある。 | 剛性と耐熱性が不足する場合がある。 |
| 圧縮成形 | △ | 試験片、シート、研究用途で用いられる。 | 量産加工としては押出や射出の方が一般的である。 |
| 真空成形 | ○ | シート化後の二次成形に適用できる。 | 加熱温度、ドローダウン、寸法安定性を確認する。 |
| 切削加工 | △ | 試作や評価片の加工は可能である。 | 軟質で変形しやすく、精密切削には不向きである。 |
| 溶着・ヒートシール | ◎ | 袋、包装材、フィルム加工で有効である。 | ブレンド成分、厚み、温度、圧力、時間によりシール強度が変化する。 |
代表的な成形条件
| 項目 | 代表値・目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 乾燥温度 | 60〜80℃ | 3〜6時間程度が目安である。過乾燥や高温乾燥による劣化に注意する。 |
| 推奨水分率 | 0.05%以下が目安 | ポリエステル系であるため、乾燥不足は分子量低下につながる。 |
| シリンダー温度 | 130〜180℃ | グレード、MFR、ブレンド成分により調整する。 |
| ダイス温度 | 140〜180℃ | フィルム成形では厚み安定性、ゲル、焼けを確認する。 |
| 金型温度 | 20〜50℃ | 射出成形では冷却と離型性を確認する。 |
| 成形収縮率 | 1.0〜2.5%程度 | 結晶化度、厚み、配向、フィラー量により変動する。 |
| 滞留時間 | 短く管理 | 高温長時間滞留では熱劣化、臭気、着色、分子量低下が起こる場合がある。 |
代表的な物性値又は機械的性質
| 項目 | 単位 | PBAT標準グレード | PLAブレンドPBAT | フィラー充填PBAT | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 密度 | g/cm3 | 1.20〜1.28 | 1.22〜1.30 | 1.30〜1.60 | 充填材量により大きく変化する。 |
| 引張強さ | MPa | 20〜40 | 25〜55 | 15〜45 | フィルム方向、ブレンド比率、試験速度により変動する。 |
| 伸び | % | 400〜800 | 50〜500 | 50〜500 | PBAT単独では非常に大きい伸びを示す場合がある。 |
| 曲げ弾性率 | MPa | 40〜200 | 200〜1500 | 300〜2000 | PLA、タルク、炭酸カルシウムで剛性が上がる。 |
| アイゾット衝撃強さ | kJ/m2 | 破壊しにくい、または20以上 | 5〜50 | 3〜30 | ノッチ有無と温度により大きく変わる。 |
| 荷重たわみ温度 | ℃ | 40〜60 | 50〜90 | 60〜110 | 荷重条件、結晶化、フィラー量により変動する。 |
| 融点 | ℃ | 110〜125 | 110〜160 | 110〜160 | PLAブレンドではPLA由来の熱挙動が加わる。 |
| ガラス転移温度 | ℃ | -35〜-25 | -30〜60 | -30〜60 | ブレンド成分により複数のTgを示す場合がある。 |
| 連続使用温度 | ℃ | 50〜70 | 50〜80 | 60〜90 | 長期使用では加水分解、熱変形、応力緩和を確認する。 |
| 吸水率 | % | 0.2〜0.6 | 0.2〜1.0 | 0.3〜2.0 | 澱粉系ブレンドでは吸水率が大きくなる。 |
| 体積抵抗率 | Ω・cm | 1013〜1016 | 1012〜1016 | 1010〜1015 | 吸湿、添加剤、帯電防止剤により低下する。 |
| 酸素指数 | % | 約19〜22 | 約20〜25 | 約20〜28 | 一般に自己消火性は高くない。 |
| 難燃性 | UL94 | HB相当が多い | HB〜V-2相当 | 配合により変動 | 難燃グレードは限定的で、認証確認が必要である。 |
耐薬品性
| 薬品・分類 | 代表例 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 酸類 | 希塩酸、希硫酸、酢酸 | ○〜△ | 低濃度・常温では比較的安定な場合があるが、高濃度・高温では加水分解に注意する。 |
| 強酸 | 濃硫酸、濃硝酸 | × | 分解、劣化、着色、強度低下の可能性がある。 |
| アルカリ類 | 水酸化ナトリウム、KOH、アルカリ洗浄剤 | ×〜△ | ポリエステルのアルカリ加水分解により劣化しやすい。 |
| 低級アルコール類 | メタノール、エタノール、IPA | ○ | 常温短時間では比較的安定な場合が多い。 |
| 高級アルコール類 | グリセリン、MMB、ベンジルアルコール | ○〜△ | 温度、分子量、芳香族性、接触時間により膨潤の可能性がある。 |
| 芳香族炭化水素類 | トルエン、キシレン、エチルベンゼン | △〜× | 膨潤、軟化、溶解の可能性がある。 |
| 脂肪族炭化水素類 | ヘキサン、ヘプタン、ミネラルスピリット | ○〜△ | 短時間では比較的安定な場合があるが、油性成分の浸透に注意する。 |
| ケトン | アセトン、MEK、MIBK | △〜× | 膨潤、白化、軟化、溶解に注意する。 |
| エステル | 酢酸エチル、酢酸ブチル | △〜× | SP値が近く、膨潤・軟化しやすい場合がある。 |
| 塩素系溶剤 | ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン | × | 溶解または著しい膨潤が起こる可能性が高い。 |
| 水・温水 | 水道水、温水、湿熱環境 | ○〜△ | 常温水では比較的安定な場合があるが、高温水や長期湿熱では加水分解に注意する。 |
| 油 | 植物油、鉱物油、潤滑油 | ○〜△ | 用途により抽出、膨潤、添加剤移行を確認する。 |
| 燃料 | ガソリン、軽油、灯油 | △〜× | 炭化水素や芳香族成分により膨潤・軟化する可能性がある。 |
| 洗剤・界面活性剤 | 中性洗剤、アルカリ洗浄剤 | ○〜× | pH、温度、界面活性剤種、応力により耐久性が変化する。 |
SP値(溶解度パラメータ)
| 材料 | SP値(δ) | 備考 |
|---|---|---|
| PBAT | 約19〜22 MPa1/2 | 共重合比率、結晶化度、分子量、添加剤、ブレンド成分により変動する。 |
| PLA | 約19〜21 MPa1/2 | PBATと近いSP値領域にあるが、相溶性は組成や相溶化剤に依存する。 |
| PBS | 約19〜21 MPa1/2 | 脂肪族ポリエステルであり、PBATとのブレンド対象になる。 |
| PBT | 約21.5〜23.5 MPa1/2 | 芳香族ポリエステルであり、PBATより剛性と耐熱性が高い。 |
SP値は溶剤との親和性を推定する指標であるが、耐薬品性をSP値だけで判断することはできない。結晶化度、分子量、ガラス転移温度、溶剤の極性、水素結合性、温度、応力、接触時間、添加剤、ブレンド成分を含めて評価する必要がある。
溶解性の目安
| SP値差 | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|
| 0〜2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2〜5 | 条件により膨潤する | △ |
| 5〜8 | 短時間接触では比較的安定 | ○ |
| 8以上 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP値から見た耐溶剤性
| 薬品名 | SP値(δ) | PBATとの差 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 水 | 約47.9 MPa1/2 | 約26〜29 | ○ | SP値差は大きいが、高温水では加水分解に注意する。 |
| メタノール | 約29.7 MPa1/2 | 約8〜11 | ○ | 常温短時間では比較的安定な場合がある。 |
| エタノール | 約26.0 MPa1/2 | 約4〜7 | ○〜△ | 長時間接触や高温では確認が必要である。 |
| IPA | 約23.5 MPa1/2 | 約1.5〜4.5 | △ | 条件により膨潤や物性変化を確認する。 |
| アセトン | 約20.3 MPa1/2 | 約0〜3 | ×〜△ | SP値が近く、膨潤・軟化の可能性がある。 |
| MEK | 約19.0 MPa1/2 | 約0〜3 | × | 膨潤・溶解に注意する。 |
| 酢酸エチル | 約18.6 MPa1/2 | 約0.4〜3.4 | ×〜△ | エステル系溶剤であり、ポリエステルとの親和性が高い場合がある。 |
| トルエン | 約18.2 MPa1/2 | 約0.8〜3.8 | △〜× | 芳香族溶剤で膨潤・軟化しやすい。 |
| キシレン | 約18.0 MPa1/2 | 約1〜4 | △〜× | 温度上昇で影響が大きくなる。 |
| クロロホルム | 約19.0 MPa1/2 | 約0〜3 | × | 溶解性が高い溶剤として扱う。 |
| ジクロロメタン | 約20.2 MPa1/2 | 約0〜3 | × | 短時間でも膨潤・溶解に注意する。 |
| ヘキサン | 約14.9 MPa1/2 | 約4〜7 | ○〜△ | 短時間では比較的安定な場合があるが、油性成分の浸透を確認する。 |
| グリセリン | 約33〜36 MPa1/2 | 約11〜17 | ◎〜○ | SP値差は大きいが、吸湿や温度条件を確認する。 |
| MMB | 約21〜23 MPa1/2 | 約0〜4 | △ | グリコールエーテル系であり、長時間接触では確認が必要である。 |
評価基準:◎非常に良好、○概ね良好、△注意が必要、×不適である。SP値差は代表的な目安であり、実際の耐薬品性はグレード、温度、濃度、荷重、応力、使用時間で確認する必要がある。
製法
原料
PBATの主な原料は、1,4-ブタンジオール、アジピン酸、テレフタル酸またはジメチルテレフタレートである。グレードにより、触媒、安定剤、鎖延長剤、分岐剤、末端封止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、無機フィラー、相溶化剤などが使用される。
重合方法
PBATは、エステル化またはエステル交換反応によりオリゴマーを形成し、その後、減圧下で脱水または脱メタノールを進める重縮合により高分子量化する。工業的には、反応温度、真空度、触媒量、原料比率、分子量制御、着色抑制が重要である。
代表的な反応式
直接エステル化法の概略式:
x HOOC-(CH2)4-COOH + y HOOC-C6H4-COOH + (x+y) HO-(CH2)4-OH → [-O-(CH2)4-O-CO-(CH2)4-CO-]x[-O-(CH2)4-O-CO-C6H4-CO-]y + 2(x+y)H2O
ジメチルテレフタレートを用いるエステル交換法では、テレフタル酸成分からメタノールが副生する。
ペレット化やコンパウンド
重合後のPBATはストランドカットまたは水中カットによりペレット化される。実用材料では、単独PBATのほか、PLA、澱粉、PBS、PCL、炭酸カルシウム、タルク、滑剤、可塑剤、鎖延長剤、加水分解抑制剤などを二軸押出機で混練したコンパウンドとして供給されることが多い。
添加剤、充填材、強化材
- アンチブロッキング剤:フィルム同士の密着を抑える。
- 滑剤:押出安定性、巻取性、フィルムの滑り性を調整する。
- 鎖延長剤:分子量、溶融張力、耐加水分解性を補う場合がある。
- 炭酸カルシウム、タルク:剛性、寸法安定性、コストを調整する。
- 相溶化剤:PLA、澱粉、PBSなどとのブレンド安定性を改善する。
- 着色剤:用途に応じて白色、黒色、半透明、各種着色グレードがある。
詳細な利用用途
| 分野 | 用途例 | 採用理由 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 包装 | 生分解性袋、コンポスト袋、包装フィルム、ラップ、ラミネート | 柔軟性、ヒートシール性、フィルム成形性が良い。 | 食品接触適合性、臭気、移行性、保管安定性を確認する。 |
| 農業 | 農業用マルチフィルム、苗木ポット、結束材 | 使用後の回収負荷低減を狙える場合がある。 | 土壌分解速度、作物期間、厚み、地域環境を確認する。 |
| 食品機械 | 一時使用フィルム、包装補助材、ライナー | 柔軟性と成形性を活かせる。 | 高温洗浄、アルカリ洗浄、油脂接触には注意が必要である。 |
| 電気・電子 | 一時保護フィルム、緩衝包装、帯電防止包装の基材 | 柔軟な包装材として使用できる。 | 耐熱性、難燃性、寸法安定性は限定的である。 |
| 自動車 | 保護フィルム、梱包材、一時使用部材 | 柔軟性と環境配慮訴求を両立しやすい。 | 車内高温、耐候性、耐油性、長期耐久性は確認が必要である。 |
| 医療・衛生 | 衛生包装、使い捨て補助材、研究用フィルム | 軟質フィルムとして加工しやすい。 | 医療適合性、滅菌適性、生体適合性は個別認証が必要である。 |
| 建築・設備 | 養生フィルム、保護シート、仮設用途 | 軟質フィルム、シートとして使用しやすい。 | 屋外耐候性、紫外線劣化、湿熱劣化を確認する。 |
| 紙加工 | 紙カップコーティング、紙包装ラミネート | 耐水性付与とコンポスト対応を狙える場合がある。 | 紙との接着性、リサイクル性、認証範囲を確認する。 |
代表グレード
| グレード分類 | 特徴 | 主な用途 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 汎用 | 標準的なPBAT樹脂であり、柔軟性と伸びを重視する。 | 袋、フィルム、シート | 剛性と耐熱性は限定的である。 |
| 耐熱 | ブレンドやフィラーにより熱変形を抑えたグレードである。 | シート、包装材、紙コーティング | 柔軟性や透明性が低下する場合がある。 |
| 難燃 | 難燃剤を配合した特殊グレードである。 | 限定的な電気・電子包装用途 | UL94の取得有無を必ず確認する。 |
| GF強化 | 一般的ではないが、剛性向上を目的に検討される場合がある。 | 試作部材、特殊コンパウンド | 生分解性、柔軟性、加工性への影響が大きい。 |
| 摺動 | 滑剤や低摩擦添加剤を配合する場合がある。 | フィルム巻取、搬送性改善、袋加工 | 機械部品用摺動材としては一般的ではない。 |
| 食品接触 | 食品包装を想定した規格適合グレードである。 | 食品包装、紙ラミネート、袋 | FDA、EU、食品衛生法など用途地域ごとの確認が必要である。 |
法規制・規格・注意点
| 項目 | 内容 | 確認事項 |
|---|---|---|
| RoHS | 電気・電子用途で有害物質制限への適合が求められる。 | グレード、添加剤、着色剤ごとの適合証明を確認する。 |
| REACH | EU向けでは化学物質登録・制限への対応が必要である。 | SVHC、添加剤、モノマー残留、サプライヤー証明を確認する。 |
| 食品衛生 | 食品包装用途では食品衛生法、ポジティブリスト、溶出試験などを確認する。 | 温度、食品種、接触時間、厚み、着色剤を確認する。 |
| FDA | 米国食品接触用途ではFDA適合グレードが必要である。 | 適用条項、使用条件、配合成分を確認する。 |
| コンポスト認証 | EN 13432、ASTM D6400、OK compostなどが用いられる場合がある。 | 材料単体ではなく、最終製品の厚み、配合、印刷、添加剤も確認する。 |
| 医療用途 | 医療用途では生体適合性、滅菌適性、抽出物評価が必要である。 | 医療グレードとしての供給可否を確認する。 |
| 加水分解 | ポリエステル結合を持つため、湿熱、酸、アルカリで分子量が低下する場合がある。 | 保管湿度、乾燥条件、使用温度を確認する。 |
| 応力割れ | 溶剤、油、界面活性剤、応力が重なると割れや白化が起こる場合がある。 | 薬品接触下での実部品試験が必要である。 |
| 熱劣化 | 高温滞留や過乾燥により着色、臭気、分子量低下が起こる場合がある。 | 成形温度、滞留時間、リサイクル材混入率を管理する。 |
| アウトガス | 添加剤、残留モノマー、低分子成分により臭気や揮発成分が問題となる場合がある。 | 食品、医療、電子部品包装では個別評価が必要である。 |
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | 対象材料との違い |
|---|---|---|
| ポリ乳酸(PLA) | バイオマス由来の代表的な生分解性ポリエステルであり、剛性と透明性が高い。 | PBATはPLAより柔軟で伸びが大きいが、剛性と耐熱性はPLAが有利な場合がある。 |
| ポリブチレンテレフタレート(PBT) | 結晶性芳香族ポリエステル系エンプラであり、耐熱性、電気特性、寸法安定性に優れる。 | PBATはPBTより柔軟で生分解性を持つが、PBTほどの剛性、耐熱性、機械強度はない。 |
| ポリエチレン(PE) | 軽量で耐薬品性、柔軟性、フィルム成形性に優れる汎用プラスチックである。 | PBATはLDPEに近い柔軟性を示す場合があるが、一般的なPEは生分解性を持たず、耐水性と耐薬品性はPEが有利である。 |
| PETG樹脂 | 透明性、耐衝撃性、熱成形性に優れる非晶性コポリエステルである。 | PBATは生分解性と柔軟性を重視する用途に向き、PETGは透明成形品や硬質包装材に向く。 |
| 熱可塑性コポリエステル(TPC、TPEE) | ポリエステル系熱可塑性エラストマーであり、反発弾性、耐屈曲性、耐油性に優れる。 | PBATは生分解性包装用途に向くが、TPEEは工業部品、ホース、ブーツ、摺動部品など耐久用途に向く。 |
| エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA) | 柔軟性、接着性、低温特性に優れるエチレン系共重合体である。 | PBATは生分解性を持つ点が異なる。EVAは一般に耐水性と低温柔軟性で有利な場合がある。 |
| バイオポリプロピレン | 植物由来原料を用いて製造されるPPであり、分子構造は通常PPに近い。 | PBATは生分解性プラスチックであるが、バイオPPは一般に生分解性ではない。耐熱性と剛性はPPが有利である。 |
| ポリブチレンナフタレート(PBN) | PBTに近い芳香族ポリエステルであり、耐熱性、バリア性、耐薬品性を高めた材料である。 | PBATは軟質・生分解性用途、PBNは高耐熱・高機能部品用途に適する。 |
代表的なメーカー
| メーカー | 代表製品・ブランド | 概要 |
|---|---|---|
| BASF | ecoflex、ecovio | PBAT系生分解性ポリエステルの主要メーカーであり、ecovioはPBATとPLAなどを組み合わせたコンパウンドとして知られる。 |
| Novamont | Origo-Bi、Mater-Bi | 生分解性プラスチックの主要メーカーであり、PBAT系ポリエステルや澱粉系ブレンドを展開している。 |
| Kingfa Sci. & Tech. | PBAT系生分解性樹脂、Ecoworld系製品などの代表例 | 中国の大手樹脂・コンパウンドメーカーであり、生分解性材料を展開している。 |
| JinHui Zhaolong | Ecoworld、Ecowill | PBATおよび生分解性コンパウンドを展開するメーカーとして知られる。 |
| Zhuhai Wango Chemical | Wango | PBAT系生分解性樹脂のメーカーとして知られる。 |
| Eastman Chemical | Eastar Bio | 生分解性コポリエステルの代表例として知られるが、現行供給状況や地域展開は確認が必要である。 |
| 三菱ケミカルグループ | BioPBSなどの生分解性ポリエステル関連製品 | PBATそのものではなく、PBS系を含む生分解性ポリエステルの比較対象メーカーとして扱われる場合がある。 |
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PBAT ポリブチレンアジペートテレフタレート 生分解性プラスチック バイオプラスチック 脂肪族芳香族ポリエステル コンポスト認証 ポリ乳酸 PLA PBS PCL 澱粉系プラスチック 農業用マルチフィルム 生分解性袋 包装フィルム 軟質ポリエステル エステル加水分解