概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 材料名 | ポリ酢酸ビニル |
| 略記号 | PVAc、PVAc樹脂 |
| IUPAC | poly(1-acetoxyethylene)、poly(vinyl acetate) |
| 英語名 | Polyvinyl Acetate、Poly(vinyl acetate) |
| 日本語名 | ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセテート、酢酸ビニル樹脂、酢ビ樹脂 |
| 分類 | 熱可塑性樹脂、非晶性樹脂、ビニル系樹脂、接着剤用樹脂 |
| プラスチック分類 | 汎用プラスチック系材料、機能性樹脂、接着剤・エマルション用樹脂 |
| 化学式または代表構造 | (C4H6O2)n、−CH2−CH(OCOCH3)− の繰り返し構造 |
| CAS No. | 9003-20-7 |
| 構造・主成分 | 酢酸ビニルモノマーをラジカル重合して得られるビニル系ポリマーであり、側鎖に酢酸エステル基を持つ。 |
| 主な用途 | 木工用接着剤、紙加工剤、繊維加工剤、塗料、粘着剤、エマルション、チューインガムベース、ポリビニルアルコール原料など |
ポリ酢酸ビニル(PVAc)は、酢酸ビニルを重合して得られる代表的なビニル系熱可塑性樹脂である。一般には単独樹脂として射出成形品に多用される材料というよりも、水性エマルション、溶液樹脂、接着剤、粘着剤、紙加工剤、塗料用バインダーなどとして使用されることが多い。
PVAcは透明性、造膜性、接着性、顔料・充填材との分散性に優れる一方で、耐熱性、耐水性、耐アルカリ性、耐溶剤性には制限がある。ガラス転移温度は一般に30〜40℃付近であり、室温付近で硬さや粘着性が変化しやすい。そのため、使用温度、湿度、被着材、乾燥条件、可塑剤、共重合成分、架橋剤の有無を確認して選定する必要がある。
また、PVAcはけん化によりポリビニルアルコールを得るための中間原料としても重要である。エチレンとの共重合体であるエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、塩化ビニルとの共重合体、アクリル系樹脂との共重合・ブレンドなど、用途に応じて多くの変性系が使用される。
特徴
長所
- 木材、紙、繊維、皮革、セラミックス、多孔質材料に対する接着性が良好である。
- 水性エマルション化しやすく、作業性、安全性、低臭気性を高めやすい。
- 透明な皮膜を形成しやすく、塗料、紙加工、繊維加工、接着剤に適する。
- 可塑剤、保護コロイド、乳化剤、架橋剤、共重合成分により、柔軟性、耐水性、粘着性を調整しやすい。
- けん化によりポリビニルアルコールを得る原料として重要である。
短所
- 耐熱性は高くなく、荷重下では軟化、クリープ、接着強度低下を生じやすい。
- 水、温水、高湿度環境では白化、膨潤、接着力低下を生じる場合がある。
- アルカリにより酢酸エステル基がけん化され、物性が変化しやすい。
- ケトン、エステル、芳香族炭化水素、塩素系溶剤などでは溶解または膨潤しやすい。
- 屋外長期用途では、耐水性、耐候性、防かび性、可塑剤移行、加水分解、アウトガスを確認する必要がある。
外観
固体樹脂は一般に無色から淡黄色の透明または半透明固体である。エマルションは白色乳濁液であり、乾燥後に透明から半透明の皮膜を形成することが多い。顔料、充填材、可塑剤、保護コロイドの種類により外観、粘度、乾燥皮膜の透明性は変化する。
耐熱性
PVAcは非晶性樹脂であり、明確な融点を持たず、ガラス転移温度は代表値として約30〜40℃である。ガラス転移温度付近から軟化しやすく、接着剤や皮膜用途では温度上昇により粘着性、クリープ、接着強度が変化する。実使用では温度、荷重、接着面積、乾燥状態、可塑剤量を確認する必要がある。
耐薬品性
酸、塩類水溶液、低濃度薬品には条件により使用できる場合があるが、アルカリ、ケトン、エステル、芳香族炭化水素、塩素系溶剤には注意が必要である。特にアルカリでは酢酸エステル基のけん化により、ポリビニルアルコール様の構造へ変化し、耐水性や接着性が変化する場合がある。
加工性
PVAcは熱可塑性であるが、一般的な成形材料としてよりも、エマルション重合品、溶液樹脂、ホットメルト、接着剤、粘着剤として加工されることが多い。押出、フィルム形成、コーティング、含浸、塗布、乾燥、ラミネートなどに適する。射出成形やブロー成形は一般用途では限定的である。
分類上の注意
PVAcは汎用プラスチック系の熱可塑性樹脂であるが、一般成形品用の構造材料というより、接着剤・バインダー・エマルション樹脂として扱われることが多い。EVA、VAEエマルション、酢酸ビニル−アクリル共重合体、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体とは、酢酸ビニル単位を含む点では近いが、物性、耐水性、柔軟性、耐熱性、溶剤適性は異なる。
構造式

ポリ酢酸ビニルは、ビニル主鎖に酢酸エステル基を持つ高分子である。 この酢酸エステル基により極性を持ち、接着性、造膜性、有機溶剤への溶解性を示す。
また、ポリ酢酸ビニルの酢酸エステル基をけん化すると、ポリビニルアルコール(PVA)になる。 このためPVAcはPVA製造の中間体としても重要である。
化学式の表記
ポリ酢酸ビニルの代表構造は、以下のように表される。
構造単位:−CH2−CH(OCOCH3)−
繰り返し構造:[−CH2−CH(OCOCH3)−]n
分子式:(C4H6O2)n
代表的な構造単位
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主鎖 | 炭素−炭素結合からなるビニル系ポリマー主鎖 |
| 側鎖 | 酢酸エステル基 −OCOCH3 |
| 構造上の特徴 | 極性のある酢酸エステル基を持つため、接着性、造膜性、極性溶媒との相互作用を示す。 |
| 結晶性 | 一般に非晶性であり、透明性を示しやすい。 |
モノマーまたは構成単位
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モノマー | 酢酸ビニル、Vinyl Acetate Monomer、VAM |
| モノマー式 | CH2=CH−OCOCH3 |
| 重合後の構成単位 | −CH2−CH(OCOCH3)− |
| 基本反応 | n CH2=CH−OCOCH3 → [−CH2−CH(OCOCH3)−]n |
共重合体や変性グレード
PVAcは単独重合体のほか、エチレン、アクリル酸エステル、バーサチック酸ビニル、塩化ビニル、クロトン酸などとの共重合体として使用される。共重合により、柔軟性、耐水性、低温造膜性、耐アルカリ性、接着性、耐候性を調整できる。エチレンを共重合した材料は、EVAまたはVAEエマルションとして扱われることが多い。
種類
| 種類の名称 | 主成分または特徴 | 長所 | 短所 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| PVAcホモポリマー | 酢酸ビニルの単独重合体 | 透明性、接着性、造膜性が良い | 耐水性、耐熱性、耐アルカリ性に制限がある | 木工用接着剤、紙加工、繊維加工、塗料バインダー |
| PVAcエマルション | 水中にPVAc粒子を分散した水性樹脂 | 作業性が良く、低臭気で扱いやすい | 凍結、乾燥条件、耐水性に注意が必要 | 木工用ボンド、紙器、包装、建材内装用接着剤 |
| 溶液型PVAc | 有機溶剤にPVAcを溶解した樹脂液 | 均一な皮膜を形成しやすい | 溶剤臭、VOC、可燃性、法規制に注意が必要 | 塗料、インキ、粘着剤、コーティング |
| 可塑化PVAc | 可塑剤により柔軟性を付与したグレード | 柔軟性、粘着性、低温造膜性を調整しやすい | 可塑剤移行、べたつき、アウトガスに注意 | 粘着剤、柔軟皮膜、チューインガムベース、加工助剤 |
| 架橋型PVAc | 架橋剤や反応性官能基を利用する改質系 | 耐水性、耐熱性、耐クリープ性を高めやすい | 保存安定性、硬化条件、ポットライフ管理が必要 | 耐水接着剤、木材接着、紙加工、建材用途 |
| VAEエマルション | 酢酸ビニル−エチレン共重合エマルション | 柔軟性、低温造膜性、接着性が良い | 耐熱性、耐溶剤性は用途により確認が必要 | 建材接着剤、紙加工、塗料、繊維、不織布バインダー |
| 酢酸ビニル−アクリル共重合体 | 酢酸ビニルとアクリル酸エステルなどの共重合体 | 耐候性、柔軟性、耐水性を調整しやすい | 単独PVAcと物性が異なり、配合確認が必要 | 建築塗料、粘着剤、紙加工、コーティング |
| 塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体 | 塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体 | 接着性、溶剤溶解性、フィルム形成性が良い | 熱安定性、溶剤規制、塩素含有に注意 | インキ、塗料、接着剤、コーティング |
成形加工
PVAcは熱可塑性樹脂であるが、一般的なペレット成形よりも、エマルション、溶液、塗布、乾燥、含浸、ラミネート、接着剤配合で使用されることが多い。加工適性は分子量、可塑剤、共重合成分、固形分、粘度、乾燥温度、被着材により変化する。
| 加工方法 | 適性 | 主な製品例 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 射出成形 | △ | 特殊成形品、試験片、改質樹脂 | 一般用途では少ない。熱軟化、べたつき、熱劣化に注意する。 |
| 押出成形 | △〜○ | フィルム、シート、ホットメルト、改質樹脂 | 温度管理、粘着性、ブロッキング、熱劣化を確認する。 |
| ブロー成形 | × | 一般的な中空成形品にはほとんど使用されない | 溶融強度、耐熱性、耐水性の面で制限が大きい。 |
| 圧縮成形 | △ | 特殊用途、試験片、複合材料バインダー | 軟化、流動、離型性、熱履歴に注意する。 |
| 真空成形 | ×〜△ | 単独PVAcでは一般的でない | シート成形材料としての使用は限定的である。 |
| 切削加工 | △ | 固体樹脂、試験片 | 軟化、発熱、工具への付着に注意する。 |
| 塗布・コーティング | ◎ | 紙加工、繊維加工、塗料、インキ、保護皮膜 | 乾燥条件、白化、皮膜厚み、残留水分を確認する。 |
| 接着剤配合 | ◎ | 木工用接着剤、紙器用接着剤、包装用接着剤 | 被着材、圧締時間、含水率、耐水性、クリープを確認する。 |
| エマルション重合・分散加工 | ◎ | 水性接着剤、バインダー、塗料用樹脂 | 乳化剤、保護コロイド、凍結安定性、粘度管理が重要である。 |
代表的な成形条件・加工条件
| 項目 | 代表条件 | 備考 |
|---|---|---|
| 乾燥温度 | 40〜60℃ | 固体樹脂や配合物では吸湿、残留水分、ブロッキングに注意する。 |
| シリンダー温度 | 80〜150℃程度 | 熱可塑加工を行う場合の目安であり、グレードにより大きく異なる。 |
| 金型温度 | 20〜50℃程度 | 射出成形用途は限定的である。 |
| 成形収縮率 | 0.3〜1.0%程度 | 分子量、可塑剤、充填材、加工方法により変化する。 |
| エマルション乾燥温度 | 常温〜80℃程度 | 被着材、膜厚、風量、湿度により乾燥時間が変わる。 |
| 推奨確認項目 | 粘度、固形分、pH、粒子径、最低造膜温度 | 水性接着剤・バインダーでは特に重要である。 |
代表的な物性値又は機械的性質
以下の値は代表値であり、分子量、可塑剤、残留モノマー、共重合成分、含水率、測定温度、試験片作製条件により変化する。実使用ではメーカー物性表と実機条件で確認する必要がある。
| 項目 | 単位 | PVAcホモポリマー代表値 | 可塑化PVAc・接着剤皮膜目安 | VAE系エマルション皮膜目安 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 密度 | g/cm3 | 1.17〜1.20 | 1.05〜1.20 | 1.00〜1.15 | 配合、可塑剤、充填材により変化する。 |
| 引張強さ | MPa | 20〜50 | 1〜20 | 1〜15 | 皮膜状態、含水率、可塑剤量に強く依存する。 |
| 伸び | % | 10〜100 | 50〜500 | 100〜800 | 柔軟化、共重合により大きく増加する。 |
| 曲げ弾性率 | MPa | 1,000〜2,500 | 10〜1,000 | 5〜500 | Tg付近で大きく低下する。 |
| アイゾット衝撃強さ | J/m | 20〜80 | グレードにより変動 | グレードにより変動 | 一般成形材料としてのデータは少ない。 |
| 荷重たわみ温度 | ℃ | 30〜45程度 | 20〜40程度 | 0〜40程度 | 荷重、可塑剤、共重合成分で変化する。 |
| 融点 | ℃ | 明確な融点なし | 明確な融点なし | 明確な融点なし | 非晶性樹脂である。 |
| ガラス転移温度 | ℃ | 30〜40 | -20〜35 | -20〜20程度 | 可塑剤、溶剤、水分、エチレン共重合で低下する。 |
| 連続使用温度 | ℃ | 40〜60程度 | 20〜50程度 | 20〜60程度 | 接着用途では荷重、湿度、クリープを確認する。 |
| 吸水率 | % | 0.5〜2.0程度 | 配合により変動 | 配合により変動 | 水分により白化、軟化、接着力低下を生じる場合がある。 |
| 体積抵抗率 | Ω・cm | 1012〜1015 | 109〜1014 | 108〜1013 | 含水率、添加剤、残留界面活性剤により低下する。 |
| 難燃性 | UL94 | HB相当が多い | 配合により変動 | 配合により変動 | 難燃グレードは添加剤設計が必要である。 |
| 酸素指数 | % | 18〜21程度 | 配合により変動 | 配合により変動 | 一般に自己消火性は高くない。 |
代表グレードと選定目安
| 代表グレード | 特徴 | 主な確認項目 |
|---|---|---|
| 汎用PVAcエマルション | 木工、紙、包装用に使われる標準タイプ | 固形分、粘度、pH、圧締時間、耐水性 |
| 耐水グレード | 架橋剤や共重合により耐水性を高めたタイプ | 湿潤接着強さ、煮沸水、温水、長期湿熱 |
| 耐熱グレード | 高Tg成分、架橋、充填材により耐熱性を高めたタイプ | クリープ、熱老化、HDT、使用温度 |
| 難燃グレード | 難燃剤を配合した接着剤・バインダー系 | UL94、酸素指数、煙、腐食性ガス |
| GF強化・充填材配合 | ガラス繊維、炭酸カルシウム、シリカなどを配合した複合系 | 粘度、沈降、剛性、接着力、収縮、加工性 |
| 摺動グレード | PVAc単独では一般的でなく、潤滑添加剤配合または他樹脂改質用途が中心 | 摩耗、ブリード、相溶性、表面移行 |
| 食品接触グレード | 食品包装用接着剤、チューインガムベースなどに使用される規格適合品 | 食品衛生、FDA、溶出、残留モノマー、添加剤 |
耐薬品性
PVAcの耐薬品性は、樹脂の分子量、けん化度、可塑剤、エマルション保護コロイド、架橋の有無、乾燥状態、温度、薬品濃度、接触時間により変化する。以下は常温短時間接触を中心とした目安であり、実使用では浸漬、湿熱、応力負荷、接着状態で確認する必要がある。
| 薬品・溶剤 | 代表例 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 酸類 | 希塩酸、希硫酸、酢酸水溶液 | ○〜△ | 低濃度・常温では比較的安定な場合があるが、長時間では加水分解や接着力低下に注意する。 |
| 強酸 | 濃硫酸、濃硝酸 | × | 分解、変色、膨潤、接着力低下を生じやすい。 |
| アルカリ類 | NaOH、KOH、水酸化ナトリウム水溶液 | × | 酢酸エステル基がけん化されやすく、構造と物性が変化する。 |
| 低級アルコール類 | メタノール、エタノール、IPA | △ | 膨潤、軟化を生じる場合がある。配合品では白化や粘着変化に注意する。 |
| 高級アルコール類 | ブタノール、ベンジルアルコール、グリセリン、MMB | △〜× | SP値が近いものでは膨潤・軟化しやすい。グリセリンは吸湿との複合影響に注意する。 |
| 芳香族炭化水素類 | トルエン、キシレン、ベンゼン | × | 溶解または著しい膨潤を生じやすい。 |
| 脂肪族炭化水素類 | ヘキサン、ヘプタン、ミネラルスピリット | ○〜△ | 芳香族溶剤より影響は小さいが、可塑剤抽出や膨潤に注意する。 |
| ケトン | アセトン、MEK、MIBK、シクロヘキサノン | × | 溶解、軟化、白化を生じやすい。 |
| エステル | 酢酸エチル、酢酸ブチル | × | PVAcと相溶しやすく、溶剤型樹脂液に使用されることがある。 |
| 塩素系溶剤 | ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン | × | 溶解または膨潤しやすい。安全衛生・法規制にも注意する。 |
| エーテル類 | THF、ジオキサン | × | 強い溶解性を示すものがある。 |
| 水・常温水 | 水道水、純水 | △〜○ | 乾燥皮膜では短時間接触に耐える場合があるが、白化、膨潤、接着力低下に注意する。 |
| 温水・熱水 | 40〜80℃温水、湿熱環境 | △〜× | 耐水グレード以外では接着力低下、白化、軟化を生じやすい。 |
| 油 | 鉱物油、植物油、潤滑油 | ○〜△ | 油種、添加剤、可塑剤抽出により変化する。 |
| 燃料 | ガソリン、灯油、軽油 | △〜× | 芳香族成分や添加剤により膨潤、軟化を生じる場合がある。 |
SP値(溶解度パラメータ)
ポリ酢酸ビニルの代表的なSP値(δ)は、約18.8〜19.6 MPa1/2である。従来単位では約9.4〜9.6 (cal/cm3)1/2に相当する。SP値は溶解・膨潤傾向を見るための目安であり、耐薬品性はSP値だけで判断できない。結晶性、架橋、分子量、温度、応力、薬品濃度、接触時間、添加剤、残留水分を含めて評価する必要がある。
| 材料 | SP値 δ MPa1/2 | 特徴 |
|---|---|---|
| ポリ酢酸ビニル(PVAc) | 18.8〜19.6 | 酢酸エステル基を持つ極性樹脂であり、ケトン、エステル、芳香族溶剤に影響を受けやすい。 |
| EVA | 17〜21程度 | 酢酸ビニル含有量が増えるほどPVAcに近い挙動を示す。 |
| ポリビニルアルコール | 約25程度 | 水酸基を持ち、水やアルコールとの相互作用が強い。 |
溶解性の目安
| SP値差 | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|
| 0〜2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2〜5 | 条件により膨潤する | △ |
| 5〜8 | 短時間接触では比較的安定 | ○ |
| 8以上 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP値から見た耐溶剤性
PVAcのSP値を19.2 MPa1/2として、代表的な溶剤とのSP値差を示す。SP値差が小さい溶剤でも、水素結合性、極性、分子サイズ、拡散速度、温度、樹脂の乾燥状態により結果は変わるため、実液での確認が必要である。
| 薬品名 | SP値 δ MPa1/2 | PVAcとの差 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| アセトン | 19.9 | 0.7 | × | 溶解・軟化しやすい。 |
| MEK | 19.0 | 0.2 | × | PVAcに対して強い溶剤となる。 |
| 酢酸エチル | 18.2 | 1.0 | × | 溶液型PVAcで使用される代表的溶剤である。 |
| トルエン | 18.2 | 1.0 | × | 膨潤・溶解に注意する。 |
| キシレン | 18.0 | 1.2 | × | 芳香族溶剤であり、耐性は低い。 |
| エタノール | 26.0 | 6.8 | △ | SP値差は大きいが、膨潤や白化を生じる場合がある。 |
| IPA | 23.5 | 4.3 | △ | 短時間では使用できる場合があるが、接着剤皮膜では注意する。 |
| 水 | 47.9 | 28.7 | △〜○ | SP値差は大きいが、エマルション由来成分や吸水により白化・接着力低下が起こる。 |
| ヘキサン | 14.9 | 4.3 | ○〜△ | 可塑剤抽出、配合成分の溶出に注意する。 |
| グリセリン | 33.8 | 14.6 | ○〜△ | 吸湿性、界面作用、配合成分との相互作用に注意する。 |
製法
原料
| 原料 | 内容 |
|---|---|
| 酢酸ビニルモノマー | CH2=CH−OCOCH3。PVAcの主原料である。 |
| 重合開始剤 | 過硫酸塩、有機過酸化物、アゾ系開始剤などが使用される。 |
| 乳化剤・保護コロイド | エマルション重合では界面活性剤、ポリビニルアルコールなどが用いられる。 |
| 改質モノマー | エチレン、アクリル酸エステル、バーサチック酸ビニル、クロトン酸などが用途により使用される。 |
| 添加剤 | 可塑剤、消泡剤、防腐剤、防かび剤、架橋剤、増粘剤、充填材、難燃剤などを配合する場合がある。 |
重合方法
PVAcは主にラジカル重合により製造される。工業的には、エマルション重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合が用いられる。接着剤用途では水性エマルション重合品が多く、溶液型樹脂や固体樹脂では溶液重合または懸濁重合品が使用される。
| 重合方法 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| エマルション重合 | 水中で酢酸ビニルを重合し、白色乳濁液として得る方法である。 | 木工用接着剤、紙加工、繊維加工、建材接着剤 |
| 懸濁重合 | 粒状またはビーズ状の樹脂として得やすい。 | 固体樹脂、改質用樹脂、けん化原料 |
| 溶液重合 | 溶剤中で重合し、溶液型樹脂として利用しやすい。 | 塗料、インキ、粘着剤、コーティング |
| 塊状重合 | 溶媒を用いないが、発熱と粘度上昇の管理が必要である。 | 特殊用途、原料樹脂 |
代表的な反応式
酢酸ビニルのラジカル重合により、ポリ酢酸ビニルが生成する。
n CH2=CH−OCOCH3 → [−CH2−CH(OCOCH3)−]n
けん化によるポリビニルアルコールの製造
PVAcはアルカリまたは酸触媒下でけん化・アルコリシスすることにより、ポリビニルアルコール系材料へ変換される。完全けん化、部分けん化により水溶性、結晶性、接着性、ガスバリア性が変化する。
[−CH2−CH(OCOCH3)−]n + n CH3OH → [−CH2−CH(OH)−]n + n CH3COOCH3
ペレット化やコンパウンド
PVAc単独では一般的な射出成形ペレットとしての使用は限定的であるが、固体樹脂、ホットメルト、粘着剤、改質樹脂、マスターバッチ、バインダー用途ではペレット、フレーク、粉末、溶液、エマルションとして供給される。充填材、可塑剤、難燃剤、着色剤、粘着付与樹脂、ワックスなどを配合することで、粘度、軟化点、接着性、耐水性、乾燥皮膜性を調整する。
詳細な利用用途
| 分野 | 主な用途 | 選定理由 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 自動車 | 内装材接着、繊維・不織布バインダー、紙管、ラベル接着 | 接着性、柔軟性、低臭気化が可能 | 耐熱、湿熱、VOC、アウトガス、長期クリープを確認する。 |
| 電気・電子 | 紙基材バインダー、絶縁紙加工、ラベル、仮固定接着 | 造膜性、接着性、電気絶縁性 | 含水率、イオン性不純物、耐熱、難燃性を確認する。 |
| 機械部品 | 仮止め、保護皮膜、研磨材バインダー、紙・繊維複合材 | 塗布しやすく、乾燥皮膜を形成しやすい | 構造部材用樹脂としては剛性・耐熱性に制限がある。 |
| 医療 | 粘着剤、ラベル、包装材料用接着剤の一部 | 配合により柔軟性、粘着性を調整しやすい | 医療適合性、皮膚刺激性、抽出物、滅菌適性を確認する。 |
| 食品機械・食品包装 | 紙器接着、ラベル、包装材接着、チューインガムベース | 食品接触適合グレードが利用される場合がある | 食品衛生法、FDA、溶出、残留モノマー、添加剤を確認する。 |
| 建築・設備 | 内装用接着剤、壁紙、床材、木材接着、建材バインダー | 水性で作業性が良く、木材や多孔質材料に接着しやすい | 耐水性、耐湿熱、防かび、可塑剤移行、ホルムアルデヒド規制を確認する。 |
| 紙・包装 | 紙器、封筒、段ボール、紙管、製本、紙加工剤 | 紙への浸透性、初期接着性、乾燥性が良い | 乾燥速度、耐ブロッキング、耐水性、低温造膜性を確認する。 |
| 繊維・不織布 | 繊維処理剤、不織布バインダー、硬仕上げ剤 | 造膜性、接着性、風合い調整が可能 | 洗濯耐久性、柔軟性、黄変、吸湿を確認する。 |
| 塗料・インキ | バインダー、コーティング、保護皮膜、顔料分散 | 透明皮膜、顔料保持、塗布性が良い | 耐水性、耐溶剤性、耐候性、白化を確認する。 |
| 用途別選定 | フィルム、筐体、チューブ、コネクタなどの一般成形用途 | PVAc単独では限定的で、EVA、PVC共重合体、アクリル系などを検討する | 成形用途では耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、難燃性を比較する。 |
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | 対象材料との違い |
|---|---|---|
| エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA) | エチレンと酢酸ビニルの共重合体で、柔軟性、透明性、低温特性に優れる。 | PVAcより柔軟で成形材料として使いやすい。VA含有量が高いほどPVAcに近い接着性を示す。 |
| ポリビニルアルコール(PVA) | PVAcをけん化して得られる水酸基を持つ水溶性または親水性樹脂である。 | PVAcは酢酸エステル基を持ち有機溶剤に溶けやすい。PVAは水素結合性が強く、水溶性、ガスバリア性に特徴がある。 |
| ポリ塩化ビニル(PVC) | 塩素を含むビニル系樹脂で、難燃性、耐薬品性、耐候性に優れる。 | PVAcは接着性と造膜性に優れるが、PVCのような構造材・配管材用途には向きにくい。 |
| アクリル樹脂(PMMA) | 透明性、耐候性、表面硬度に優れる非晶性透明樹脂である。 | PMMAは成形品、光学部品に適し、PVAcは接着剤・バインダー用途に適する。 |
| ポリスチレン(PS) | 透明性、成形性、電気絶縁性に優れる汎用プラスチックである。 | PSは成形品用途に多く、PVAcは塗布・接着用途が中心である。どちらも芳香族溶剤やケトンには注意が必要である。 |
| ポリエチレン(PE) | 耐水性、耐薬品性、電気絶縁性、柔軟性に優れる非極性樹脂である。 | PEは耐水性に優れるが接着しにくい。PVAcは接着性に優れるが耐水性は限定的である。 |
| ポリエチレンテレフタレート(PET) | 機械強度、透明性、耐薬品性、ガスバリア性に優れるポリエステル系樹脂である。 | PETはフィルム・ボトル・繊維用途に適し、PVAcは接着剤や紙・繊維加工のバインダーとして使用される。 |
| [[酢酸ビニル・アクリル共重合体]] | 酢酸ビニルとアクリル成分を共重合した水性樹脂である。 | PVAcホモポリマーより耐候性、柔軟性、耐水性を調整しやすく、建築塗料や粘着剤に使われる。 |
代表的なメーカー
PVAcは接着剤、エマルション、溶液樹脂、共重合体、原料モノマーとして流通形態が異なる。以下は酢酸ビニル系樹脂、PVAc系樹脂、VAE・酢酸ビニル系エマルション、関連原料で知られる実在メーカーの代表例である。グレードの供給状況は地域、用途、時期により変わるため、最新のメーカー資料で確認する必要がある。
| メーカー | 代表製品・ブランド | 概要 |
|---|---|---|
| Wacker Chemie AG | VINNAPAS | ポリ酢酸ビニル系樹脂、酢酸ビニル系共重合体、VAE系ディスパージョンなどを展開する代表的メーカーである。 |
| Celanese Corporation | Vinamul、酢酸ビニル系エマルション関連製品、VAM | 酢酸ビニルモノマーおよび酢酸ビニル系エマルション・関連材料で知られるメーカーである。 |
| Synthomer plc | Revacryl、Plextol、酢酸ビニル系・アクリル系エマルション製品群 | 接着剤、建築塗料、紙加工、繊維加工向けの水性ポリマーエマルションを展開するメーカーである。 |
| Kuraray Co., Ltd. | 酢酸ビニル関連原料、PVOH樹脂、EVOH関連製品 | 酢酸ビニル系化学品、ポリビニルアルコール、EVOHなどを展開する日本メーカーであり、PVAcから派生する材料分野と関係が深い。 |
| 日本酢ビ・ポバール株式会社 | 酢酸ビニル、ポバール関連製品 | 酢酸ビニルおよびポリビニルアルコール関連製品を扱う国内メーカーである。 |
| Dow Inc. | 酢酸ビニル系・アクリル系エマルション製品群 | 建築塗料、接着剤、紙・繊維用途向けの水性ポリマー技術を展開するメーカーである。 |
法規制・注意点
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| RoHS | PVAc樹脂自体よりも、可塑剤、安定剤、難燃剤、顔料、防腐剤などの配合成分を確認する必要がある。 |
| REACH | 残留モノマー、添加剤、SVHC、溶剤、保存剤の確認が必要である。 |
| 食品衛生 | 食品包装、紙器、チューインガムベース用途では、食品接触適合グレードを選定し、溶出、残留モノマー、添加剤を確認する。 |
| FDA | 米国向け食品接触、医療、包装用途では、該当するFDA規格への適合をメーカー資料で確認する。 |
| 医療用途 | 生体適合性、抽出物、滅菌適性、残留溶剤、粘着剤成分の移行を確認する。 |
| 加水分解・けん化 | アルカリ、高温水、高湿度では酢酸エステル基の変化により、皮膜物性や接着性が変化する場合がある。 |
| 応力割れ・白化 | 溶剤、水分、温度、応力が重なると、白化、クラック、接着力低下を生じることがある。 |
| 吸湿 | 水性エマルション由来成分、保護コロイド、添加剤により吸湿性が変化する。 |
| 熱劣化 | 高温加工や長期熱履歴では黄変、臭気、分解、粘度変化に注意する。 |
| アウトガス | 可塑剤、残留モノマー、溶剤、防腐剤、低分子成分の揮発・移行を確認する。 |
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