概要
| 材料名 | ポリ乳酸 |
|---|---|
| 略記号 | PLA |
| 英語名 | Polylactic Acid、Poly(lactic acid) |
| 分類 | バイオマスプラスチック、生分解性プラスチック、脂肪族ポリエステル、結晶性又は半結晶性熱可塑性樹脂 |
| 化学式 | (C3H4O2)n |
| 構成単位 | −O−CH(CH3)−CO− |
| 主な種類 | PLLA、PDLA、PDLLA、ステレオコンプレックスPLA、耐熱PLA、耐衝撃PLA、GF強化PLA |
| 主な用途 | 食品容器、包装フィルム、3Dプリンターフィラメント、農業用フィルム、繊維、不織布、医療材料、日用品、射出成形部品 |
ポリ乳酸(PLA)は、乳酸又はラクチドを原料として製造される脂肪族ポリエステルである。植物由来原料から製造できる代表的なバイオマスプラスチックであり、透明性、剛性、成形性に優れる。
一方で、一般グレードは耐熱性、耐衝撃性、耐加水分解性が十分でない場合がある。実使用では、温度、湿度、荷重、薬品、結晶化度、改質剤、充填材の影響を考慮して材料選定する必要がある。
特徴
- 植物由来原料を使用できるバイオマスプラスチックである。
- 透明性が高く、外観性に優れる。
- 剛性が高く、ポリスチレンやPETに近い硬質材料として使える。
- 一般グレードは耐熱性が低く、荷重たわみ温度は50〜60℃程度である。
- 結晶化、ステレオコンプレックス化、充填材添加により耐熱性を高められる。
- 加水分解を受けやすく、高温多湿環境では分子量低下に注意する必要がある。
- 生分解性は条件依存であり、通常の自然環境で短期間に完全分解する材料ではない。
長所
- バイオマス由来原料を使用でき、環境対応材料として扱いやすい。
- 透明性、光沢、剛性が良い。
- 射出成形、押出成形、フィルム成形、ブロー成形、3Dプリンター用途に使用できる。
- 結晶化グレードや改質グレードにより、耐熱性、耐衝撃性、成形性を改善できる。
短所
- 一般グレードは耐熱性が低く、熱変形しやすい。
- 耐衝撃性が低く、割れやすい場合がある。
- 高温多湿、アルカリ、酸、長期水接触では加水分解に注意が必要である。
- 結晶化速度が遅く、耐熱グレードでは金型温度や成形条件の管理が必要である。
成形加工
ポリ乳酸は熱可塑性樹脂であり、射出成形、押出成形、フィルム成形、ブロー成形、熱成形、繊維化、3Dプリンター用フィラメントに利用される。吸湿した状態で成形すると加水分解により分子量が低下するため、成形前乾燥が重要である。
| 加工方法 | 適性 | 主な製品例 |
|---|---|---|
| 射出成形 | ○ | 食品容器、日用品、筐体、カトラリー、一般成形部品に使用する。 |
| 押出成形 | ○ | シート、フィルム、繊維、3Dプリンターフィラメントに使用する。 |
| ブロー成形 | △〜○ | ボトル、容器に使用する。溶融張力を高めたグレードが適する。 |
| 熱成形 | ○ | 食品トレー、包装容器、透明カバーに使用する。 |
| 3Dプリンター | ◎ | FDM方式の造形材料として広く使用される。 |
加工条件
| 項目 | 射出成形 | 押出成形 | 3Dプリンター |
|---|---|---|---|
| 乾燥 | 60〜80℃ × 3〜6時間 | 60〜80℃ × 3〜6時間 | 必要に応じて40〜60℃で乾燥 |
| 成形温度 | 170〜220℃ | 170〜230℃ | 190〜220℃ |
| 金型温度 | 20〜40℃、耐熱グレードは80〜110℃ | 用途により調整 | ベッド温度40〜70℃程度 |
| 成形収縮率 | 0.2〜0.6% | グレードにより変動 | 比較的小さい |
| 注意点 | 吸湿、熱分解、結晶化不足に注意 | 溶融張力、ドローダウンに注意 | 吸湿による糸引き、脆化に注意 |
構造式
ポリ乳酸の基本構造は、乳酸由来のエステル結合を繰り返す脂肪族ポリエステル構造である。
構成単位:−O−CH(CH3)−CO−
繰り返し構造:
[−O−CH(CH3)−CO−]n
L体乳酸由来のPLLA、D体乳酸由来のPDLA、L体とD体を含むPDLLAがあり、立体規則性、結晶化度、分子量により透明性、耐熱性、機械的性質、生分解性が変化する。
種類
種類の名称
| 種類 | 構成 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| PLLA | L-乳酸主体 | 代表的なPLAであり、透明性、剛性、成形性のバランスが良い。 | 包装材、成形品、繊維、フィルム、3Dプリンター |
| PDLA | D-乳酸主体 | PLLAと組み合わせることでステレオコンプレックスを形成できる。 | 耐熱PLA、改質材、コンパウンド |
| PDLLA | D体・L体混合 | 非晶性になりやすく、透明性が高いが耐熱性は低い。 | 透明成形品、医療材料、フィルム |
| ステレオコンプレックスPLA | PLLAとPDLAの複合結晶 | 通常PLAより融点、耐熱性が高い。 | 耐熱部品、繊維、フィルム、高機能成形品 |
| 耐衝撃PLA | PLAに柔軟成分や改質剤を配合 | 脆さを改善したグレードである。 | 筐体、日用品、容器、3Dプリンター |
| GF強化PLA | PLAにガラス繊維を配合 | 剛性、寸法安定性、耐熱性を改善する。 | 構造部品、治具、工業用成形品 |
特徴
- PLLAは最も一般的なPLAであり、透明性と剛性に優れる。
- PDLAはPLLAとの組み合わせで耐熱性を高める目的で使用される。
- 耐衝撃PLAは柔軟性が改善されるが、耐熱性や剛性が低下する場合がある。
- GF強化PLAは剛性と寸法安定性が良いが、透明性は失われる。
代表的な物性値又は機械的性質
| 性質 | 単位 | PLA標準 | 耐熱PLA | GF30強化PLA |
|---|---|---|---|---|
| 比重 | – | 1.24〜1.26 | 1.24〜1.28 | 1.40〜1.50 |
| 引張強さ | MPa | 50〜70 | 55〜75 | 80〜110 |
| 引張伸び | % | 2〜10 | 2〜8 | 1〜4 |
| 曲げ強さ | MPa | 80〜120 | 90〜130 | 120〜170 |
| 曲げ弾性率 | GPa | 3.0〜4.5 | 3.5〜5.0 | 7.0〜10.0 |
| アイゾット衝撃強さ (ノッチ付き) | kJ/m2 | 1.5〜4 | 2〜5 | 3〜8 |
| ガラス転移温度 | ℃ | 55〜60 | 55〜65 | 55〜65 |
| 融点 | ℃ | 150〜175 | 160〜180 | 160〜180 |
| 荷重たわみ温度 (0.45MPa) | ℃ | 50〜60 | 80〜120 | 90〜130 |
| 成形収縮率 | % | 0.2〜0.6 | 0.3〜0.7 | 0.2〜0.5 |
耐薬品性
ポリ乳酸はアルコール類、油脂類、弱酸に対しては比較的安定である。一方で、アルカリ、強酸、高温水、ケトン、塩素系溶剤、芳香族溶剤では、加水分解、膨潤、白化、クラック、強度低下が発生する場合がある。
| 薬品・溶剤 | 耐性 | 備考 |
|---|---|---|
| 水 | △〜○ | 常温短時間では使用可能だが、高温水、長期浸漬、加水分解に注意する。 |
| 酸 | △〜○ | 弱酸では比較的安定であるが、強酸や高温条件では分解しやすい。 |
| アルカリ | ×〜△ | エステル結合が加水分解しやすく、強アルカリでは不適である。 |
| アルコール | ○〜△ | エタノール、IPAは短時間では比較的安定であるが、応力負荷や長時間接触では注意する。 |
| ケトン | △〜× | アセトン、MEKでは白化、膨潤、クラックの可能性がある。 |
| 芳香族溶剤 | △〜× | トルエン、キシレンでは膨潤や物性低下に注意する。 |
| 油・燃料 | △〜○ | 短時間接触では使用できる場合があるが、添加剤や温度条件により変化する。 |
更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照。
SP値(溶解度パラメータ)
ポリ乳酸のSP値は、立体規則性、結晶化度、分子量、可塑剤、耐衝撃改質剤、充填材により変動する。一般的なPLAのSP値は、おおよそ20〜21 MPa1/2付近で扱われることが多い。
| 項目 | SP値(δ) MPa1/2 | 備考 |
|---|---|---|
| PLA(標準グレード) | 20.0〜21.0 | 透明性と剛性に優れる。ケトン、塩素系溶剤、芳香族溶剤では膨潤・白化に注意する。 |
| PLLA | 20.0〜20.8 | 結晶化度が上がると耐溶剤性はやや改善する。 |
| PDLLA | 20.2〜21.2 | 非晶性になりやすく、透明性は高いが溶剤影響を受けやすい。 |
| 耐熱PLA | 20.0〜21.0 | 結晶化や核剤添加により耐熱性を改善したグレードである。SP値自体の変化は小さい。 |
| 耐衝撃PLA | 19.0〜21.0 | 柔軟成分や改質剤により耐衝撃性を改善する。添加剤の種類により耐溶剤性が変化する。 |
| GF30強化PLA | 20.0〜21.0 | ガラス繊維により剛性と寸法安定性が向上する。樹脂相の耐溶剤性は標準PLAに近い。 |
溶解性の目安
| Δδ | 挙動 | 目安 |
|---|---|---|
| 0〜2 | 溶解・膨潤しやすい | SP値が近く、溶剤が樹脂中に浸透しやすい。 |
| 2〜5 | 膨潤・白化・軟化に注意 | 短時間では使用できる場合があるが、応力や温度に注意する。 |
| 5以上 | 溶解しにくい | SP値差は大きいが、加水分解や化学反応は別途確認が必要である。 |
SP値から見た耐溶剤性
| 溶剤 | SP値(δ) MPa1/2 | 耐性 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|---|
| 水 | 47.9 | △〜○ | SP値差は大きいが、PLAは加水分解性を持つため、高温水や長期浸漬に注意する。 |
| メタノール | 29.7 | △〜○ | 短時間では比較的安定だが、長時間接触では物性低下に注意する。 |
| エタノール | 26.0 | ○〜△ | 常温短時間では比較的良好である。応力負荷状態ではクラックに注意する。 |
| IPA(イソプロパノール) | 23.5 | △ | PLAのSP値に比較的近く、白化や応力クラックに注意する。 |
| アセトン | 20.0 | × | PLAのSP値に近く、膨潤、白化、軟化、クラックの可能性が高い。 |
| MEK(メチルエチルケトン) | 19.0 | × | 膨潤や溶解に注意する。洗浄溶剤としては不適である。 |
| 酢酸エチル | 18.6 | △〜× | 接着、塗装、洗浄用途では膨潤や白化に注意する。 |
| トルエン | 18.2 | △〜× | 芳香族溶剤であり、膨潤や表面劣化の可能性がある。 |
| キシレン | 18.0 | △〜× | 高温、長時間接触では膨潤・軟化に注意する。 |
| THF(テトラヒドロフラン) | 18.5〜19.0 | × | PLAを侵しやすい代表的溶剤であり、不適である。 |
| クロロホルム | 19.0 | × | PLAを溶解しやすい塩素系溶剤である。 |
| ジクロロメタン | 20.2 | × | PLAのSP値に近く、溶解・膨潤しやすい。 |
| DMF(ジメチルホルムアミド) | 24.8 | △〜× | 高極性溶剤であり、温度条件により膨潤・劣化に注意する。 |
| DMSO(ジメチルスルホキシド) | 26.7 | △ | SP値差はややあるが、高温条件では浸透や劣化に注意する。 |
| 水酸化ナトリウム水溶液 | 47付近 | × | SP値差だけでは判断できない。PLAはエステル結合を持つため、アルカリ加水分解を受けやすい。 |
◎:非常に良好 ○:概ね良好 △:注意が必要 ×:不適
※ 耐溶剤評価は、PLAのSP値中央値(約20.5 MPa1/2)を基準とし、溶剤とのSP値差、ポリエステルとしての加水分解性、実際の化学耐性を総合的に考慮した参考評価である。
実務上の注意
- SP値は溶解・膨潤予測の一次判断であり、耐薬品性そのものではない。
- PLAはエステル結合を持つため、水、酸、アルカリでは加水分解を考慮する必要がある。
- 成形残留応力がある場合、アルコールやケトンとの接触で白化、クラックが発生する場合がある。
- 最終判断は、実使用温度、濃度、接触時間、応力条件に近い浸漬試験で行う。
特に注意が必要な溶剤
- アセトン・MEK
PLAのSP値に近く、膨潤、白化、クラックが発生しやすい。 - THF・クロロホルム・ジクロロメタン
PLAを溶解又は強く膨潤させやすいため、洗浄用途には不適である。 - 水酸化ナトリウムなどのアルカリ
SP値差が大きくても、エステル結合の加水分解により劣化しやすい。 - 高温水・高湿環境
分子量低下、脆化、強度低下が起こる場合がある。
製法
ポリ乳酸は、乳酸の直接重縮合又はラクチドの開環重合により製造される。高分子量PLAでは、ラクチドを経由する開環重合法が代表的である。
乳酸の直接重縮合
n HO−CH(CH3)−COOH → [−O−CH(CH3)−CO−]n + n H2O
乳酸から水を除去しながら重縮合する方法である。高分子量化には脱水、減圧、触媒、反応条件の制御が必要である。
ラクチドの開環重合
乳酸 → ラクチド → [−O−CH(CH3)−CO−]n
乳酸を脱水環化してラクチドを得た後、ラクチドを開環重合してPLAを得る。L-ラクチド、D-ラクチド、meso-ラクチドの比率により、結晶性、透明性、耐熱性が変化する。
詳細な利用用途
代表用途
- 食品容器
- 包装フィルム
- 透明カップ、トレー
- 3Dプリンター用フィラメント
- 農業用フィルム
- 繊維、不織布
- 医療用吸収性材料
工業用途
- 日用品、雑貨、カトラリー
- 射出成形部品
- 透明成形品
- 耐熱改質グレードによる筐体、治具、機構部品
- ガラス繊維強化グレードによる高剛性部品
- バイオマス材料を重視する製品設計
関連材料との比較
| 比較材料 | 違い | 選定ポイント |
|---|---|---|
| PET | PLAはバイオマス由来性と透明性に優れる。PETは耐熱性、耐水性、機械的強度、ボトル用途で実績が大きい。 | 環境対応や低温用途ならPLA、耐熱・耐水・ボトル用途ではPETを選ぶ。 |
| PBT | PBTは結晶化が速く、電気電子部品や機構部品で使用しやすい。PLAは耐熱性と耐加水分解性で劣る。 | 工業部品ではPBT、環境対応の成形品や包装ではPLAを検討する。 |
| PS | PLAはPSに近い透明性と剛性を持つが、耐衝撃性は低い。PSは低コストで成形性が良い。 | 透明性と低コスト重視ならPS、バイオマス由来性重視ならPLAを選ぶ。 |
| PP | PPは耐薬品性、耐水性、耐疲労性が良い。PLAは透明性と剛性が高いが、耐熱性と耐水性に注意が必要である。 | ヒンジ、耐薬品、耐水用途ではPP、透明硬質包装ではPLAを検討する。 |
| PC | PCは耐衝撃性と耐熱性が高い。PLAは環境対応性と成形時の扱いやすさに特徴がある。 | 耐衝撃・耐熱透明部品ではPC、環境配慮型の低荷重透明部品ではPLAを選ぶ。 |
代表的なメーカー
| メーカー | 代表的な製品・商品名 | 備考 |
|---|---|---|
| NatureWorks | Ingeo | PLAの代表的メーカーであり、射出、押出、フィルム、繊維、3Dプリンター用途のグレードを展開する。 |
| TotalEnergies Corbion | Luminy | 高純度PLA、耐熱PLA、ステレオコンプレックス向けグレードを展開する。 |
| ユニチカ | TERRAMAC | PLA系バイオマス材料として、射出、押出、シート、耐熱、耐衝撃グレードを展開する。 |
| 三菱ケミカルグループ | BioPBS、バイオマス系コンパウンド関連材料 | PLA単独ではなく、バイオマス・生分解性材料の周辺材料として比較対象になる。 |
| 東レ | エコディア関連材料 | バイオマス系樹脂、繊維、フィルム分野で関連材料を展開する。 |