フェノール樹脂

概要

項目内容
材料名フェノール樹脂
略記号PF、PH、Phenolic、フェノール
IUPACフェノール樹脂は三次元架橋構造を持つ熱硬化性樹脂であり、単一のIUPAC名で表しにくい。代表的には poly(oxybenzylmethylene glycol anhydride) と表記されることがある。
英語名Phenolic Resin、Phenol Formaldehyde Resin、Phenol-Formaldehyde Resin
日本語名フェノール樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、石炭酸樹脂、ベークライト
分類熱硬化性樹脂、縮合系樹脂、フェノール系樹脂
プラスチック分類熱硬化性プラスチック。用途上は電気絶縁材料、耐熱部品、成形材料、積層板、摩擦材、接着剤、バインダーに分類されることが多い。
化学式または代表構造フェノールとホルムアルデヒドの縮合硬化物であり、代表的にはフェノール環がメチレン結合 -CH2– またはメチレンエーテル結合 -CH2-O-CH2– を介して架橋した構造である。
CAS No.9003-35-4(フェノール・ホルムアルデヒド樹脂の代表CAS No.として扱われることが多い)
構造・主成分フェノール、クレゾール、キシレノールなどのフェノール類とホルムアルデヒドを主原料とする。ノボラック型、レゾール型、成形材料、積層材料、変性フェノール樹脂などがある。
主な用途電気絶縁部品、配線器具、スイッチ、コネクタ、ブレーキ部材、クラッチ部材、砥石バインダー、鋳物砂バインダー、合板接着剤、FRP、積層板、耐熱部品、調理器具ハンドルなど。

フェノール樹脂は、フェノール類とホルムアルデヒドを縮合反応させて得られる代表的な熱硬化性樹脂である。古くから工業的に使用されている合成樹脂であり、一般にベークライトとも呼ばれる。硬化後は三次元架橋構造を形成するため、熱可塑性樹脂のように再溶融せず、耐熱性、難燃性、電気絶縁性、寸法安定性に優れる。

成形材料として使用されるフェノール樹脂は、樹脂単体ではなく、木粉、紙粉、無機充填材、ガラス繊維、カーボン、黒鉛、摩擦調整材などを配合したコンパウンドとして用いられることが多い。そのため、物性値は樹脂の種類、充填材、繊維量、硬化条件、成形条件により大きく変化する。

材料選定上は、耐熱性、難燃性、電気絶縁性、低コスト性を重視する場合に有効である。一方で、熱硬化性でリサイクルしにくいこと、成形時に硬化反応が必要であること、衝撃性や靭性に限界があること、強アルカリや強酸化性酸に弱いことに注意が必要である。

特徴

項目内容
長所耐熱性、難燃性、電気絶縁性、耐油性、寸法安定性、圧縮強さ、クリープ性、コストバランスに優れる。充填材設計により摩擦材、絶縁材、耐熱部品へ展開しやすい。
短所熱硬化性で再溶融できない。一般に靭性、透明性、耐衝撃性は高くない。強アルカリ、強酸化性酸、長時間の温水、吸湿環境では劣化や強度低下に注意が必要である。
外観未充填樹脂は黄褐色から赤褐色の樹脂状である。成形材料は黒色、茶色、赤褐色が多く、充填材や顔料により外観は変わる。透明成形品には通常適さない。
耐熱性一般に熱硬化性樹脂として良好であり、成形材料では連続使用温度120〜180℃程度が目安である。耐熱グレードや無機充填材配合ではより高温側で使用される場合がある。
耐薬品性油、脂肪族炭化水素、弱酸、低級アルコール、水系薬品には比較的安定な場合が多い。一方で、強アルカリ、濃硝酸、濃硫酸、酸化剤、長時間温水、特定溶剤には注意が必要である。
加工性射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、積層成形、含浸、接着剤、バインダー用途に適する。熱硬化反応を伴うため、温度、時間、金型温度、硬化度、ガス抜き管理が重要である。
分類上の注意フェノール樹脂は熱硬化性樹脂であり、PPS、PBT、PA、POMなどの熱可塑性エンジニアリングプラスチックとは成形原理が異なる。切削用のベークライト板、紙基材積層板、布基材積層板、成形材料は同じフェノール系でも物性が大きく異なる。
難燃性一般に自己消火性が高く、酸素指数は比較的高い傾向がある。UL94はグレード、厚み、充填材、試験片条件により異なるため、認定用途では必ずメーカーのULファイルを確認する必要がある。
法規制RoHS、REACH、食品衛生、FDA、医療用途への適合は、樹脂単体ではなく、硬化剤、未反応モノマー、添加剤、充填材、顔料、成形条件、抽出条件を含めて確認する必要がある。

構造式

フェノール樹脂は、フェノール類とホルムアルデヒドが縮合して形成する架橋性高分子である。硬化後は明確な繰り返し単位だけで表しにくいが、代表構造は以下のように表記できる。

項目構造・内容
代表的な構造単位Ar-OH-CH2-Ar、Ar-CH2-Ar、Ar-CH2-O-CH2-Ar など。Arはフェノール環を示す。
代表構造の表記[-C6H3(OH)-CH2-]n を基本骨格の目安として表すことがある。ただし、実際の硬化物は直鎖状ではなく三次元架橋構造である。
モノマーまたは構成単位フェノール C6H5OH、ホルムアルデヒド CH2O。必要に応じてクレゾール、キシレノール、レゾルシノール、ビスフェノール類などが使用される。
ノボラック型酸触媒下、フェノール過剰条件で得られる熱可塑性のフェノール樹脂中間体である。通常はヘキサメチレンテトラミンなどの硬化剤を加えて加熱硬化させる。
レゾール型アルカリ触媒下、ホルムアルデヒド過剰条件で得られる自己硬化性のフェノール樹脂である。接着剤、含浸、積層板、バインダー用途に使用される。
共重合体・変性グレードエポキシ変性、ゴム変性、カシューナッツ殻液変性、シリコーン変性、メラミン変性、レゾルシノール変性、リン系難燃設計などがある。耐熱性、柔軟性、接着性、摩擦特性、耐水性を調整する目的で使用される。

基本反応は、フェノールのオルト位またはパラ位にホルムアルデヒドが付加し、メチロールフェノールを経由して脱水縮合する反応である。

反応段階代表反応式
メチロール化C6H5OH + CH2O → HO-C6H4-CH2OH
縮合反応HO-C6H4-CH2OH + C6H5OH → HO-C6H4-CH2-C6H4OH + H2O
硬化反応フェノール核間のメチレン架橋およびメチレンエーテル架橋が進行し、三次元架橋構造を形成する。

種類

種類の名称主成分または特徴長所短所主な用途
ノボラック型フェノール樹脂酸触媒、フェノール過剰条件で得られる樹脂。硬化剤を併用して硬化する。保存安定性、成形材料設計、耐熱性、電気絶縁性に優れる。硬化剤、加熱、成形条件の管理が必要である。成形材料、摩擦材、砥石、鋳物砂バインダー、電気部品。
レゾール型フェノール樹脂アルカリ触媒、ホルムアルデヒド過剰条件で得られる自己硬化性樹脂。接着性、含浸性、バインダー性、積層加工性に優れる。保存安定性、ゲル化、遊離フェノール、遊離ホルムアルデヒド管理が必要である。合板接着剤、積層板、断熱材、FRP、鋳物、研磨材。
木粉充填フェノール成形材料フェノール樹脂に木粉などの有機充填材を配合した汎用成形材料。成形性、電気絶縁性、コストに優れる。耐水性、寸法安定性、耐衝撃性は無機充填や繊維強化品より劣る場合がある。配線器具、スイッチ、ノブ、ハンドル、一般電装部品。
無機充填フェノール成形材料シリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウムなどを配合したグレード。寸法安定性、耐熱性、低収縮、圧縮強さに優れる。比重が高くなりやすく、脆さや金型摩耗に注意が必要である。耐熱部品、電気絶縁部品、機械部品、耐摩耗部品。
GF強化フェノール樹脂ガラス繊維を配合した高強度・高剛性グレード。曲げ弾性率、寸法安定性、耐熱性、強度に優れる。異方性、成形収縮差、金型摩耗、外観、ウェルド強度に注意が必要である。自動車部品、電装部品、機械構造部品、耐熱絶縁部品。
紙基材フェノール積層板紙にフェノール樹脂を含浸し、加熱加圧して積層した板材。電気絶縁性、切削加工性、コストに優れる。吸湿、寸法変化、層間剥離、耐衝撃性に注意が必要である。絶縁板、端子板、治具、スペーサー、機械加工部品。
布基材フェノール積層板綿布、ガラス布などにフェノール樹脂を含浸した積層板。紙基材より機械強度、耐衝撃性、耐摩耗性に優れる。基材種類により吸水率、絶縁性、加工性が変わる。ギア、軸受、摺動板、治具、絶縁部品。
摩擦材用フェノール樹脂カシューダスト、黒鉛、金属粉、繊維、摩擦調整材などと組み合わせるバインダー。耐熱性、炭化残渣、摩擦安定性に優れる。摩擦材配合、熱履歴、アウトガス、摩耗粉の管理が必要である。ブレーキパッド、クラッチ、鉄道用制動材、産業機械用摩擦材。
食品接触対応グレード食品接触用途向けに、抽出物、添加剤、硬化条件、法規制を管理したグレード。耐熱性と寸法安定性を活かし、取っ手、ハンドル、調理器具部品に使用できる場合がある。全てのフェノール樹脂が食品接触に適するわけではない。食品衛生法、FDA、EU規制、抽出試験の確認が必要である。調理器具ハンドル、厨房機器部品、耐熱把手など。

代表グレード

代表グレード特徴主な用途選定上の注意
汎用グレード木粉、有機充填材を配合した成形材料。成形性とコストを重視する。配線器具、スイッチ、ノブ、一般電気部品。高温高湿、衝撃、薄肉部品ではグレード確認が必要である。
耐熱グレード無機充填材や耐熱設計により、高温剛性、HDT、寸法安定性を高めたグレード。耐熱電装部品、モーター周辺部品、調理器具部品。連続使用温度は荷重、雰囲気、酸化、絶縁要求により変わる。
難燃グレードフェノール樹脂自体の難燃性を活かしたグレード。厚み条件によりUL94 V-0相当の設計が可能な場合がある。電気・電子部品、端子台、絶縁部品。UL認定はグレード、色、厚み、メーカーごとに確認する必要がある。
GF強化グレードガラス繊維により高剛性、高強度、低収縮を付与したグレード。機械部品、車載部品、構造絶縁部品。繊維配向による反り、異方性、金型摩耗、ウェルド部強度に注意する。
摺動グレード黒鉛、PTFE、二硫化モリブデン、繊維基材などを配合し、摩擦摩耗特性を調整したグレード。軸受、ギア、摺動板、摩擦材。相手材、面圧、速度、潤滑、温度、粉塵条件で摩耗挙動が変わる。
食品接触対応グレード食品接触用途向けの法規制、抽出物、残留成分を管理したグレード。調理器具ハンドル、食品機械周辺部品。実使用温度、食品種、洗浄剤、接触時間に応じた適合確認が必要である。

成形加工

加工方法適正内容注意点
射出成形フェノール成形材料の主要加工法である。加熱シリンダーで可塑化し、加熱金型内で硬化させる。熱硬化性のため滞留時間、シリンダー温度、金型温度、硬化時間、ガス抜きが重要である。
圧縮成形古くから使用される代表的な成形法であり、厚肉品、積層品、熱硬化性成形材料に適する。予熱、投入量、加圧タイミング、硬化不足、バリ、寸法ばらつきに注意する。
トランスファー成形電気・電子部品、インサート成形、封止、複雑形状部品に適する。ランナー硬化物、充填性、インサート周辺の応力、ボイドに注意する。
押出成形一般的な熱可塑性樹脂のような連続押出には適さない。レゾール樹脂やバインダー、含浸用途では連続工程に組み込まれることがある。硬化反応が進行するため、ゲル化、滞留、スケールアップ時の熱管理が必要である。
ブロー成形×熱硬化性樹脂であり、通常の中空ブロー成形には適さない。中空容器用途では他材料の選定が一般的である。
真空成形×熱可塑性シートのように再加熱して軟化させる加工には適さない。シート成形品が必要な場合は熱可塑性樹脂を検討する。
積層成形紙、布、ガラスクロスに樹脂を含浸し、加熱加圧して積層板を作る。含浸量、揮発分、圧力、硬化度、層間密着、吸湿を管理する。
切削加工ベークライト板、紙基材・布基材積層板、成形品の追加加工に使用される。欠け、粉じん、層間剥離、工具摩耗、熱による焦げに注意する。
接着・含浸合板、FRP、断熱材、鋳物砂、砥石、摩擦材のバインダーとして使用される。遊離フェノール、遊離ホルムアルデヒド、硬化温度、硬化収縮、作業環境を管理する。

成形条件

項目代表条件・目安備考
乾燥温度一般に60〜90℃程度成形材料の吸湿状態、充填材、メーカー推奨条件により異なる。過乾燥や長時間加熱で流動性が変わる場合がある。
シリンダー温度前部70〜100℃、中部60〜90℃、後部40〜70℃程度熱硬化性成形材料のため、シリンダー内で硬化させない温度管理が重要である。実際は成形機、滞留時間、グレードで調整する。
金型温度150〜190℃程度硬化反応を進めるため高温金型を用いる。厚肉品では硬化時間を長くする必要がある。
成形圧力射出成形では80〜180MPa程度が目安充填材量、流動性、ゲート、肉厚により変化する。
硬化時間数十秒〜数分程度肉厚、金型温度、材料反応性により大きく変わる。硬化不足は後収縮、臭気、強度不足、絶縁不良の原因となる。
成形収縮率0.2〜1.0%程度充填材、繊維配向、成形法、硬化収縮により変わる。GF強化品では異方性が出やすい。
後硬化必要に応じて120〜180℃程度で実施耐熱性、寸法安定性、アウトガス低減、硬化度向上を目的に行う場合がある。

代表的な物性値又は機械的性質

項目単位フェノール成形材料GF強化フェノール紙基材フェノール積層板備考
密度g/cm31.30〜1.501.55〜1.901.30〜1.45充填材、繊維量により大きく変わる。
比重1.3〜1.51.6〜1.91.3〜1.45代表値であり、無機充填材が多いと高くなる。
引張強さMPa35〜7060〜12050〜90試験方向、基材、充填材、硬化度に依存する。
伸び%0.5〜2.00.5〜1.51〜3一般に靭性は高くなく、脆性破壊しやすい。
曲げ強さMPa70〜140120〜220100〜180GF強化、布基材では高くなる傾向がある。
曲げ弾性率GPa5〜1210〜256〜12充填材の種類と配合量で大きく変わる。
アイゾット衝撃強さkJ/m21〜53〜102〜8ノッチ有無、基材方向、含水率により変動する。
荷重たわみ温度150〜220180〜260130〜200荷重条件、充填材、硬化度に依存する。
融点なしなしなし熱硬化性樹脂であり、明確な融点は示さず、加熱により炭化・分解する。
ガラス転移温度150〜220程度160〜230程度条件により変動測定法、硬化度、変性内容により値が変わる。
連続使用温度120〜180150〜200120〜160電気特性、荷重、酸化、湿度、要求寿命で判断する。
吸水率%0.2〜1.50.1〜0.80.8〜3.0紙基材、木粉充填では吸水率が高くなりやすい。
体積抵抗率Ω・cm1012〜10151011〜10141010〜1014湿度、充填材、炭素系添加材、汚染により低下する。
誘電率4〜6程度4〜7程度4〜6程度周波数、湿度、基材で変わる。
酸素指数%30〜40程度35〜50程度30〜40程度難燃性は比較的高いが、UL94は認定グレードごとに確認する。

上記の物性値は代表値・目安である。フェノール樹脂は充填材や基材の影響が大きいため、設計値として使用する場合は、メーカーのグレード別データシート、成形条件、含水率、温度、荷重、応力、使用時間を確認する必要がある。

耐薬品性

薬品分類代表薬品評価備考
酸類希塩酸、希硫酸、酢酸弱酸、希酸には比較的安定な場合が多い。濃酸、高温、長時間では劣化する可能性がある。
強酸・酸化性酸濃硝酸、濃硫酸、クロム酸混液×酸化分解、表面劣化、強度低下のリスクが高い。
アルカリ類水酸化ナトリウム、KOH、アンモニア水△〜×フェノール樹脂は一般に強アルカリに弱い。濃度、温度、時間により表面劣化や強度低下が起こりやすい。
低級アルコール類メタノール、エタノール、IPA短時間接触では比較的安定な場合が多いが、吸湿、抽出、クラックには注意する。
高級アルコール類ブタノール、ベンジルアルコール、グリセリン、MMB○〜△極性、温度、接触時間により膨潤や抽出が起こる場合がある。
芳香族炭化水素類トルエン、キシレン○〜△フェノール樹脂硬化物は溶解しにくいが、長時間接触では膨潤、抽出、充填材界面への影響を確認する。
脂肪族炭化水素類ヘキサン、ヘプタン、ミネラルスピリット◎〜○一般に良好である。燃料や油との接触では添加剤、芳香族分、温度を確認する。
ケトンアセトン、MEK、MIBK、シクロヘキサノン短時間では耐える場合があるが、膨潤、表面軟化、クラック、抽出に注意が必要である。
エステル酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル溶剤性が高く、長時間接触、高温、応力下では不適となる場合がある。
塩素系溶剤ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン△〜×膨潤や抽出、割れのリスクがある。安全衛生・環境規制面でも使用には注意が必要である。
水・温水水、温水、蒸気○〜△短時間の水接触には比較的安定であるが、紙基材、木粉充填品では吸水と寸法変化に注意する。温水・蒸気では劣化が進みやすい。
鉱物油、潤滑油、植物油、動物油脂◎〜○一般に耐油性は良好である。酸化油、添加剤、高温油では確認が必要である。
燃料ガソリン、軽油、灯油○〜△脂肪族成分には比較的安定な場合があるが、芳香族分、アルコール混合燃料、温度で影響を受ける。
洗浄剤中性洗剤、弱アルカリ洗浄剤、溶剤系洗浄剤○〜×中性洗剤は比較的良好である。強アルカリ洗浄剤、ケトン系、塩素系、強溶剤系は注意が必要である。

耐薬品性評価は、一般的なフェノール樹脂硬化物または成形材料の目安である。実使用では、グレード、充填材、硬化度、表面状態、温度、濃度、接触時間、荷重、応力、洗浄頻度を確認する必要がある。特に紙基材フェノール積層板や木粉充填成形品では、吸水や基材界面からの劣化を考慮する。

SP値(溶解度パラメータ)
項目内容
代表的なSP値フェノール樹脂硬化物のSP値は、代表値としておおよそ22〜27 MPa1/2程度で扱われることが多い。
推奨代表値耐溶剤性の概算には25 MPa1/2を代表値として用いると比較しやすい。ただし、硬化度、フェノール類の種類、変性、充填材、吸水で変動する。
注意点フェノール樹脂は三次元架橋構造を持つため、SP値が近くても熱可塑性樹脂のように単純に溶解するとは限らない。一方で、膨潤、抽出、クラック、界面劣化は起こり得る。

SP値だけで耐薬品性を判断することはできない。フェノール樹脂では、架橋密度、硬化度、充填材、基材、残留成分、薬品の酸塩基性、酸化性、温度、応力、接触時間が実使用結果を大きく左右する。

溶解性の目安
SP値差溶解・膨潤の目安判定
0〜2SP値上は膨潤・軟化しやすい範囲である。ただしフェノール樹脂硬化物は架橋構造のため、完全溶解ではなく膨潤、抽出、表面劣化として現れることが多い。×
2〜5条件により膨潤する。温度上昇、長時間接触、応力負荷、未硬化成分がある場合は注意が必要である。
5〜8短時間接触では比較的安定な場合がある。実使用では重量変化、寸法変化、曲げ強度、絶縁抵抗を確認する。
8以上SP値上は溶解・膨潤しにくい範囲である。ただし酸、アルカリ、酸化剤、水蒸気などはSP値差だけで判断できない。
SP値から見た耐溶剤性

以下では、フェノール樹脂の代表SP値を25 MPa1/2として、代表的な薬品とのSP値差から溶解・膨潤リスクを概算する。数値は代表値であり、文献値、温度、純度、混合溶剤、含水状態により変動する。

薬品名代表SP値 MPa1/2SP値差SP値上の評価実務上の注意
47.922.9SP値差は大きいが、吸水、温水、蒸気、紙基材の劣化には注意する。
メタノール29.74.7極性が高く、長時間接触では膨潤や抽出を確認する。
エタノール26.01.0×SP値上は近いが、硬化物は直ちに溶解しにくい。表面変化、吸液、絶縁低下を確認する。
IPA23.51.5×短時間洗浄では使用される場合があるが、長時間浸漬や応力下は確認が必要である。
アセトン20.34.7膨潤、表面白化、抽出、クラックのリスクがある。
MEK19.06.0SP値差は中程度であるが、ケトン系溶剤として注意が必要である。
酢酸エチル18.26.8短時間では耐える場合があるが、長時間浸漬や高温では確認が必要である。
トルエン18.26.8硬化物は溶解しにくいが、膨潤、抽出、充填材界面への影響を評価する。
キシレン18.07.0高温、長時間、応力下では耐溶剤試験が必要である。
ヘキサン14.910.1一般に比較的良好であるが、燃料混合物では芳香族分や添加剤を確認する。
灯油16〜17程度8〜9程度耐油性は比較的良好である。高温油では酸化生成物や添加剤を考慮する。
ジクロロメタン20.24.8塩素系溶剤は膨潤、抽出、割れのリスクがあり、使用は慎重に判断する。
フェノール29〜30程度4〜5程度原料成分に近いが、硬化物の挙動は温度と濃度に依存する。安全性にも注意する。
グリセリン33〜36程度8〜11程度◎〜○SP値差は大きいが、高温、吸湿、長時間接触では確認する。

評価基準は、◎非常に良好、○概ね良好、△注意が必要、×不適である。ただし、フェノール樹脂ではSP値差が小さくても架橋構造により完全溶解しない場合があり、逆にSP値差が大きくても酸、アルカリ、酸化剤、温水、蒸気では劣化する場合がある。実使用では浸漬試験、重量変化、寸法変化、外観、曲げ強さ、絶縁抵抗、硬度、割れの有無を確認することが重要である。

製法

ノボラック又はレゾールを合成し、加熱硬化する。

  • 製法には、レゾール(1段法又は湿式法)からのものと、ノボラック(2段法又は乾式法)からのものの2種類がある。
  • 1段法ではレゾールのアルコール液に木粉やその他の添加剤を加えて、加熱乾燥後に粉砕し、ベークライトB状態の成形粉とする。
  • 成形粉の大半は、2段法によって製造されており、レゾール型のものは、積層用、含浸用、注型用などに用いられる。
  • 2段法で反応させ、ノボラックを得て減圧脱水し、ボールミルで粉砕、これには硬化剤(ヘキサメチレンテトラミンなど)、滑剤(ステアリン酸カルシウムなど)、木粉、パルプ粉、ガラス繊維、マイカなどの充填剤、可塑剤、染料、顔料などを加えてブレンダーやニーダー、バンバリーミキサーなどで混合して、ハンマーミル、クラッシャーなどで粉砕して製品とする。

上:レゾール型(立体構造)、下:ノボラック型(直線構造)

フェノール樹脂

工程内容実務上の注意
原料フェノール、ホルムアルデヒドを主原料とする。用途によりクレゾール、キシレノール、レゾルシノール、カシューナッツ殻液、メラミン、エポキシ樹脂、ゴム成分などを併用する。遊離フェノール、遊離ホルムアルデヒド、臭気、作業環境、法規制を管理する必要がある。
重合方法酸触媒ではノボラック型、アルカリ触媒ではレゾール型が得られる。反応はメチロール化、縮合、脱水、架橋形成の順に進行する。pH、F/Pモル比、温度、反応時間、水分、粘度管理が品質に影響する。
ノボラック型の硬化ノボラック樹脂にヘキサメチレンテトラミンなどの硬化剤を配合し、加熱によりメチレン架橋を形成する。硬化剤量、硬化温度、ガス発生、ボイド、硬化不足を管理する。
レゾール型の硬化自己反応性のメチロール基を持つため、加熱、酸、触媒、乾燥工程などにより硬化する。保存中の粘度上昇、ゲル化、作業可能時間、含浸性を管理する。
ペレット化・コンパウンド樹脂、硬化剤、充填材、顔料、離型剤、潤滑剤などを混合し、粉砕、造粒、ペレット化またはタブレット化する。熱履歴で硬化が進まないように混練温度を管理する。
添加剤硬化剤、促進剤、離型剤、顔料、難燃補助剤、潤滑剤、カップリング剤などが使用される。電気特性、耐熱性、食品接触、アウトガスに影響するため、用途別確認が必要である。
充填材・強化材木粉、紙粉、タルク、シリカ、マイカ、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛、アラミド繊維、金属粉などが使用される。強度、収縮、吸水、比重、摩擦特性、絶縁性、金型摩耗が変わる。
成形・硬化射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、積層成形、含浸、接着などの工程で加熱硬化させる。硬化度、成形収縮、揮発分、ボイド、バリ、寸法安定性を管理する。
後処理必要に応じて後硬化、機械加工、バリ取り、表面処理、洗浄を行う。後硬化により寸法、残留応力、アウトガス、絶縁特性が変化する場合がある。

詳細な利用用途

分野主な用途採用理由注意点
自動車ブレーキパッド、クラッチ部材、プーリー、電装部品、耐熱絶縁部品、モーター周辺部品。耐熱性、摩擦材バインダー性、寸法安定性、電気絶縁性、コストバランス。高温酸化、摩耗粉、振動、熱衝撃、樹脂の炭化挙動を確認する。
電気・電子スイッチ、端子台、コネクタ、配線器具、リレー部品、絶縁スペーサー、積層板。電気絶縁性、難燃性、耐熱性、寸法安定性に優れる。湿度による絶縁低下、トラッキング、UL認定、アウトガスを確認する。
機械部品ギア、軸受、摺動板、ノブ、ハンドル、ローラー、治具。圧縮強さ、耐摩耗性、切削加工性、寸法安定性。衝撃荷重、層間剥離、摺動発熱、相手材摩耗を評価する。
医療限定的な治具、絶縁部品、耐熱部材など。耐熱性、寸法安定性、加工性。医療用途では生体適合性、抽出物、滅菌条件、残留成分を個別確認する。一般グレードの流用は避ける。
食品機械・調理器具鍋・フライパンのハンドル、把手、耐熱ノブ、厨房機器部品。耐熱性、難燃性、寸法安定性、比較的低い熱伝導性。食品接触対応、洗浄剤、熱水、蒸気、アルカリ洗浄、抽出物を確認する。
建築・設備合板接着剤、断熱材バインダー、積層板、配電部品、耐火関連材料。接着性、耐熱性、難燃性、寸法安定性、コスト。ホルムアルデヒド放散、建材規制、湿気、長期耐久性を確認する。
研磨・砥石砥石バインダー、研磨材保持材。硬化物の強度、耐熱性、加工性、砥粒保持性。研削熱、破壊安全性、硬化条件、粉じん管理が必要である。
鋳造鋳物砂バインダー、シェルモールド。硬化性、砂粒結合力、熱分解性、量産性。ガス発生、臭気、作業環境、廃砂処理を確認する。
複合材料FRP、耐火複合材、航空・鉄道向け内装材、断熱構造材。難燃性、低発煙性、耐熱性、炭化残渣。吸湿、脆性、成形サイクル、後硬化、規格認証を確認する。

用途別選定

用途推奨されやすいグレード重視する特性確認試験
ギア布基材フェノール積層板、摺動グレード耐摩耗性、衝撃性、寸法安定性、静音性。歯元強度、摩耗、吸水寸法変化、相手材摩耗。
軸受布基材積層板、黒鉛配合、摺動グレード摺動性、耐熱性、面圧、潤滑適性。PV試験、摩擦係数、摩耗量、発熱、焼付き。
筐体汎用成形材料、難燃グレード難燃性、絶縁性、寸法安定性、コスト。UL94、絶縁抵抗、落下衝撃、熱老化。
コネクタ・端子台耐熱・難燃・電気絶縁グレード耐熱性、絶縁性、トラッキング性、寸法精度。耐電圧、CTI、はんだ耐熱、湿熱、UL認定。
チューブ通常は不向き熱硬化性のため柔軟チューブや押出チューブには一般に適さない。用途によりPTFE、PFA、PA、PEEK、PPSなどを比較する。
フィルム通常は不向き熱可塑性フィルムのような連続成形には適しにくい。絶縁フィルム用途ではPI、PET、PPSフィルムなどを検討する。
ハンドル・把手耐熱汎用グレード、食品接触対応グレード耐熱性、断熱性、寸法安定性、外観。熱サイクル、洗浄剤、食品接触、落下衝撃、臭気。

注意点

注意項目内容対策・確認方法
加水分解・吸水フェノール樹脂自体は比較的安定であるが、紙基材、木粉充填品では吸水により寸法変化、絶縁低下、強度低下が起こりやすい。吸水率、湿熱試験、絶縁抵抗、寸法変化を確認する。
応力割れ脆性材料であり、応力集中、インサート、締結、薬品接触で割れが発生する場合がある。R付け、肉厚均一化、締付トルク管理、薬品接触下の応力試験を行う。
吸湿充填材、基材、保管環境により吸湿し、成形時のガス、絶縁低下、寸法変化を招く。乾燥条件、保管条件、防湿包装、成形前含水率を管理する。
熱劣化高温では酸化、炭化、変色、強度低下が進行する。短時間耐熱と長期連続使用温度は区別する必要がある。熱老化試験、TGA、曲げ強度保持率、絶縁特性保持率を確認する。
アウトガス未硬化成分、遊離フェノール、遊離ホルムアルデヒド、硬化副生成物が問題になる場合がある。後硬化、GC-MS、TDS、臭気評価、密閉空間での部品評価を行う。
リサイクル性熱硬化性のため、熱可塑性樹脂のような再溶融リサイクルは困難である。粉砕再利用、フィラー化、サーマルリサイクル、廃棄物処理条件を事前確認する。
作業環境成形、切削、硬化工程で粉じん、臭気、フェノール類、ホルムアルデヒドに注意が必要である。局所排気、保護具、SDS確認、作業環境測定、粉じん対策を行う。

関連材料との比較

比較材料特徴フェノール樹脂との違い
エポキシ樹脂接着性、電気絶縁性、耐薬品性、機械強度に優れる熱硬化性樹脂。エポキシ樹脂は接着・封止・複合材で高性能化しやすい。フェノール樹脂は耐熱性、難燃性、コスト、摩擦材バインダーで優位になりやすい。
メラミン樹脂硬度、耐熱性、耐汚染性、表面外観に優れる熱硬化性樹脂。メラミン樹脂は化粧板や食器表面用途で使われやすい。フェノール樹脂は機械部品、絶縁部品、バインダー用途に強い。
ユリア樹脂木材接着剤や成形品に使用される熱硬化性樹脂。ユリア樹脂は低コストで木材接着用途が多いが、耐水性や耐熱性はフェノール樹脂が有利な場合が多い。
ポリアミドイミド高耐熱、高強度、耐摩耗性に優れるスーパーエンジニアリングプラスチック。PAIは高性能な熱可塑性または熱硬化性樹脂として精密摺動部品に使われる。フェノール樹脂はコストと絶縁・摩擦材用途で有利である。
ポリアミド靭性、耐摩耗性、成形性に優れる結晶性熱可塑性樹脂。ポリアミドは射出成形性と靭性に優れるが、吸水による寸法変化が課題である。フェノール樹脂は耐熱性、難燃性、絶縁性に優れるが、脆性と再溶融不可が課題である。
高耐熱ポリアミド低吸水、高耐熱、高剛性を狙った半芳香族ポリアミド系材料。高耐熱ポリアミドは薄肉コネクタや車載部品で有効である。フェノール樹脂は熱硬化性による高温寸法安定性と難燃性が特徴である。
PPS耐熱性、耐薬品性、寸法安定性、難燃性に優れるスーパーエンプラ。PPSは熱可塑性で量産射出成形とリサイクル性に優れる。フェノール樹脂は熱硬化性で耐熱絶縁、摩擦材、低コスト成形材に適する。
ポリイミド非常に高い耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性を持つ高性能樹脂。ポリイミドは高温絶縁フィルムや航空宇宙用途で優れるが高価である。フェノール樹脂は耐熱性とコストのバランスに優れる。

代表的なメーカー

メーカー代表製品・ブランド概要
住友ベークライト株式会社フェノール樹脂、フェノール成形材料、フェノール系材料各種フェノール樹脂、成形材料、電子材料、産業材料を扱う主要メーカーである。成形材料、バインダー、電子・自動車用途などで展開している。
アイカ工業株式会社フェノール樹脂系接着剤、樹脂関連製品建材、化成品、接着剤、樹脂製品を扱う国内メーカーである。木材、建材、工業用途向けにフェノール系樹脂が使用される場合がある。
DIC株式会社フェノール樹脂、変性フェノール樹脂、工業用樹脂塗料、接着剤、電子材料、工業材料向け樹脂を展開する化学メーカーである。フェノール系樹脂は用途別グレードとして扱われる。
レゾナック株式会社フェノール樹脂、電子材料・工業材料向け樹脂電子材料、半導体材料、工業材料分野で実績を持つメーカーである。フェノール系樹脂は封止材、積層板、複合材料などに関連する場合がある。
Hexion Inc.Phenolic Resinsフェノール樹脂、レゾール樹脂、ノボラック樹脂、接着剤、バインダー用途で知られる海外メーカーである。
Prefere ResinsPhenolic Resins欧州を中心にフェノール樹脂、アミノ樹脂、接着剤、バインダー用途の樹脂を展開するメーカーである。
SI GroupPhenolic Resins工業用樹脂、添加剤、フェノール系材料を扱う海外メーカーである。摩擦材、ゴム、接着、工業用途に関連するグレードがある。

代表メーカーと代表製品は用途、地域、事業再編、販売代理店により変わる場合がある。採用時は、メーカーの最新データシート、SDS、UL認定、食品接触適合、REACH、RoHS、各国規制、長期供給性を確認する必要がある。

関連キーワード

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