概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 材料名 | 不飽和ポリエステル樹脂 |
| 略記号 | UP、UPR、Unsaturated Polyester Resin |
| IUPAC | 特定の単一構造ではなく、不飽和ジカルボン酸又はその無水物とグリコール類から得られる不飽和ポリエステルを、スチレンなどの反応性希釈剤で架橋硬化させた熱硬化性樹脂である。 |
| 英語名 | Unsaturated Polyester Resin |
| 日本語名 | 不飽和ポリエステル樹脂、UP樹脂、ポリエステル樹脂、FRP用ポリエステル樹脂 |
| 分類 | 熱硬化性樹脂、複合材料用マトリックス樹脂、注型用樹脂、塗料用樹脂 |
| プラスチック分類 | 熱硬化性プラスチック、汎用熱硬化性樹脂、FRP用樹脂 |
| 化学式または代表構造 | [-O-R-O-CO-CH=CH-CO-]n を含む不飽和ポリエステル鎖を、スチレンなどのビニルモノマーで三次元架橋した構造 |
| CAS No. | 不飽和ポリエステル樹脂全体としては配合物であり、単一のCAS No.で扱われない場合が多い。原料として無水マレイン酸 CAS No. 108-31-6、無水フタル酸 CAS No. 85-44-9、スチレン CAS No. 100-42-5 などが用いられる。 |
| 構造・主成分 | 不飽和ポリエステル、スチレンなどの反応性希釈剤、硬化剤、促進剤、充填材、ガラス繊維など |
| 主な用途 | FRP成形品、浴槽、浄化槽、タンク、船舶、建材、波板、電気部品、人工大理石、ボタン、注型品、レジンコンクリート |
不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和結合を持つポリエステルをスチレンなどの反応性希釈剤に溶解し、ラジカル硬化により三次元架橋させる熱硬化性樹脂である。一般に常温硬化又は加熱硬化が可能であり、ガラス繊維と組み合わせたFRP用途で広く使用される。
樹脂単体では硬く脆い傾向があるが、ガラス繊維、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、難燃剤などを配合することで、強度、剛性、寸法安定性、難燃性、耐薬品性を調整できる。成形方法としてはハンドレイアップ、スプレーアップ、SMC、BMC、RTM、引抜成形、フィラメントワインディングなどが代表的である。
一方で、硬化収縮、スチレン臭、揮発成分、耐アルカリ性、加水分解、長期耐熱性には注意が必要である。実使用では、グレード、硬化条件、ガラス繊維量、充填材、温度、薬品濃度、荷重、応力、使用時間を確認して選定する必要がある。
特徴
長所
- 常温硬化、加熱硬化の両方に対応しやすく、大型成形品の製作が比較的容易である。
- ガラス繊維との組み合わせにより、軽量で高強度のFRPを形成できる。
- エポキシ樹脂と比較して、一般に材料コストが低く、成形作業性が良い。
- 充填材、顔料、難燃剤、低収縮剤を配合しやすく、用途に応じた設計が可能である。
- 耐水性、耐候性、電気絶縁性はグレードにより良好である。
短所
- 硬化収縮が比較的大きく、寸法精度や反りに注意が必要である。
- スチレンを含むグレードでは臭気、揮発、作業環境対策が必要である。
- アルカリ、強酸、強溶剤、温水、蒸気環境では劣化する場合がある。
- 樹脂単体では脆い傾向があり、衝撃用途では補強材や改質グレードの検討が必要である。
- 硬化条件が不足すると、残留モノマー、未硬化、耐薬品性低下、臭気残りが生じる場合がある。
外観
未硬化樹脂は、一般に淡黄色から褐色の粘性液体である。硬化後は透明から半透明、又は充填材や顔料により白色、不透明、着色状態となる。FRPではガラス繊維の配向や含有率により外観が変化する。
耐熱性
一般的なオルソ系では中程度の耐熱性であり、イソ系、テレ系、ビスフェノール系、耐熱グレードでは荷重たわみ温度や連続使用温度が向上する。実使用では硬化度、架橋密度、補強材、荷重条件により耐熱変形性が大きく変化する。
耐薬品性
水、塩水、弱酸、油類に対しては比較的良好な場合が多い。一方で、アルカリ、芳香族溶剤、ケトン、エステル、塩素系溶剤、強酸、温水長期接触では膨潤、軟化、加水分解、クラックが生じる場合がある。耐食用途ではイソ系、ビスフェノール系、ビニルエステル系との比較が必要である。
加工性
液状樹脂としてガラス繊維へ含浸しやすく、ハンドレイアップ、スプレーアップ、RTM、引抜成形、フィラメントワインディングなどに適する。SMC、BMCでは圧縮成形、トランスファー成形、射出成形に近い量産加工も可能である。
分類上の注意
不飽和ポリエステル樹脂は、熱可塑性のポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートとは異なり、硬化後は再溶融しない熱硬化性樹脂である。また、FRPとして使われる場合は、樹脂単体ではなく、ガラス繊維、充填材、硬化剤、添加剤を含む複合材料として評価する必要がある。
構造式
化学式の画像
HO-R-OH + HOOC-CH=CH-COOH + HOOC-Ar-COOH → HO-[-R-O-CO-CH=CH-CO-O-R-O-CO-Ar-CO-]n-OH + H2O
不飽和ポリエステル鎖 + CH2=CH-C6H5(スチレン) → 三次元架橋硬化物

代表的な構造単位
| 項目 | 代表構造・内容 |
|---|---|
| 不飽和ポリエステル鎖 | [-O-R-O-CO-CH=CH-CO-]n、又は芳香族ジカルボン酸成分を含む共縮合構造 |
| 架橋成分 | スチレン、ビニルトルエン、メタクリレート系モノマーなど |
| 硬化構造 | ポリエステル鎖中の二重結合とビニルモノマーがラジカル反応し、三次元架橋網目を形成する。 |
| 強化構造 | ガラス繊維、炭素繊維、無機充填材と組み合わせて複合材料化される。 |
モノマーまたは構成単位
- 不飽和酸成分:無水マレイン酸、フマル酸など
- 飽和酸成分:無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸など
- グリコール成分:プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコールなど
- 反応性希釈剤:スチレン、ビニルトルエン、アクリレート系、メタクリレート系など
- 硬化剤:メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、有機過酸化物など
共重合体や変性グレード
不飽和ポリエステル樹脂には、オルソ系、イソ系、テレ系、ビスフェノール系、DCPD変性、低収縮グレード、難燃グレード、耐熱グレード、低スチレン又はスチレンフリーグレードなどがある。耐薬品性、耐水性、耐熱性、硬化収縮、作業性はグレードにより大きく異なる。
種類
| 種類の名称 | 主成分または特徴 | 長所 | 短所 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| オルソ系UP | 無水フタル酸を主な飽和酸成分とする汎用タイプ | 低コスト、成形性良好、一般FRPに使いやすい | 耐水性、耐薬品性、耐熱性は高機能グレードに劣る | 一般FRP、波板、カバー、タンク、成形雑貨 |
| イソ系UP | イソフタル酸を用いた耐食・耐水性向上タイプ | 耐水性、耐薬品性、耐熱性が比較的良い | オルソ系よりコストが高い | 浴槽、浄化槽、薬液タンク、船舶、配管 |
| テレ系UP | テレフタル酸又はPET由来成分を含むタイプ | 機械強度、耐熱性、コストバランスが良い場合がある | グレードにより粘度、硬化性、耐薬品性が異なる | SMC、BMC、建材、一般成形品 |
| ビスフェノール系UP | ビスフェノール骨格を含む耐食グレード | 耐酸性、耐アルカリ性、耐熱性に優れるグレードがある | コストが高く、硬化条件管理が重要である | 耐食タンク、耐薬品ライニング、排ガス設備 |
| DCPD変性UP | ジシクロペンタジエン変性により低収縮性や作業性を調整 | 低収縮、低粘度、表面性に優れるグレードがある | 耐熱性や耐薬品性は設計により差がある | FRP成形品、浴槽、建材、人工大理石 |
| 難燃UP | ハロゲン系、リン系、水酸化アルミニウムなどで難燃化 | 電気部品、建材、車両部品に適用しやすい | 機械強度、成形性、比重、発煙性に注意が必要 | 電気絶縁部品、建築部材、鉄道・車両内装 |
| SMC・BMC用UP | 低収縮剤、充填材、ガラス繊維を含む成形材料用 | 量産性、寸法安定性、表面性、電気特性に優れる | 材料設計と成形条件の管理が必要である | 自動車外板、電気部品、筐体、ブレーカ部品 |
| スチレン低減・スチレンフリーUP | 低揮発モノマー又は代替反応性希釈剤を使用 | 臭気、VOC対策に有利である | 硬化性、価格、耐熱性、入手性は確認が必要である | 建材、室内成形品、環境対応FRP、補修材料 |
代表グレード
| グレード区分 | 特徴 | 主な確認項目 |
|---|---|---|
| 汎用 | オルソ系を中心とした標準グレードであり、FRP一般用途に使われる。 | 粘度、ゲルタイム、硬化収縮、作業時間 |
| 耐熱 | イソ系、テレ系、ビスフェノール系などによりHDTを高めたタイプである。 | HDT、連続使用温度、熱劣化、硬化度 |
| 難燃 | 難燃剤や水酸化アルミニウムを配合し、燃焼性を抑えたタイプである。 | UL94、酸素指数、発煙性、機械強度 |
| GF強化 | ガラス繊維を補強材として強度、剛性、寸法安定性を高める。 | ガラス繊維含有率、繊維長、配向、界面接着 |
| 摺動 | PTFE、黒鉛、二硫化モリブデンなどを配合する場合があるが、一般的な主用途ではない。 | 摩耗量、相手材、潤滑条件、発熱 |
| 食品接触 | 食品設備や水槽用途では、原料、残留モノマー、抽出物、法規適合性の確認が必要である。 | 食品衛生法、FDA、溶出試験、硬化条件 |
成形加工
| 加工方法 | 適性 | 内容・注意点 |
|---|---|---|
| 射出成形 | △ | 通常の液状UP単体では一般的ではない。BMCなどの成形材料では専用設備により可能である。 |
| 押出成形 | △ | 熱可塑性樹脂のような押出成形は困難である。引抜成形、連続板成形、FRP波板成形として行われる。 |
| ブロー成形 | × | 熱硬化性であり、一般的な中空ブロー成形には適さない。 |
| 圧縮成形 | ◎ | SMC、BMCに適する。自動車部品、電気部品、筐体などに用いられる。 |
| 真空成形 | × | 熱可塑性シートのような再加熱成形はできない。FRP積層時の真空バッグ成形とは区別する。 |
| 切削加工 | ○ | 硬化後のFRPや注型品は切削、穴あけ、研磨が可能である。粉じん、繊維露出、工具摩耗に注意する。 |
| ハンドレイアップ | ◎ | 大型品、少量品に適する。樹脂含浸、脱泡、硬化条件、作業環境管理が重要である。 |
| スプレーアップ | ◎ | ガラスロービングを短く切断しながら樹脂と吹き付ける。浴槽、タンク、カバーなどで使用される。 |
| RTM | ○ | 金型内に繊維基材を配置し、低粘度樹脂を注入する。表面性と寸法安定性を得やすい。 |
| 引抜成形 | ◎ | 棒材、形材、梯子、グレーチングなど連続断面品に適する。 |
| フィラメントワインディング | ◎ | タンク、パイプ、圧力容器などに適する。耐食性用途では樹脂選定が重要である。 |
| 注型 | ○ | 人工大理石、透明注型品、封入品などに使用される。発熱、収縮、気泡に注意する。 |
成形条件
| 項目 | 代表条件・目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 乾燥温度 | 液状樹脂は通常乾燥しない。SMC、BMCは保管条件管理が重要である。 | 吸湿、増粘、ゲル化、保存安定性を確認する。 |
| シリンダー温度 | BMC射出成形では約40〜80℃程度の低温側管理が多い。 | 熱可塑性樹脂のように高温溶融させない。早期硬化を避ける。 |
| 金型温度 | SMC、BMCでは約120〜170℃程度が目安である。 | 樹脂系、硬化剤、肉厚、成形サイクルにより変化する。 |
| 常温硬化 | 20〜30℃程度で硬化剤、促進剤により硬化可能である。 | 低温では硬化遅延、高温ではポットライフ短縮が起こる。 |
| ポストキュア | 60〜120℃程度で数時間行う場合がある。 | 耐熱性、耐薬品性、残留スチレン低減に有効な場合がある。 |
| 成形収縮率 | 樹脂単体で約4〜8%、FRPや低収縮グレードで約0.1〜1.5%程度 | 配合、繊維量、充填材、硬化条件により大きく変化する。 |
| ゲルタイム | 数分〜数十分程度 | 硬化剤、促進剤、温度、樹脂量により調整される。 |
| 保管条件 | 冷暗所、密栓、火気厳禁 | 過酸化物、促進剤、スチレンを含むため安全データシートの確認が必要である。 |
代表的な物性値又は機械的性質
| 項目 | 単位 | UP樹脂注型品 | GFRP標準品 | SMC・BMC | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 密度・比重 | g/cm3 | 1.1〜1.3 | 1.4〜2.0 | 1.7〜2.1 | 充填材、ガラス繊維量により大きく変化する。 |
| 引張強さ | MPa | 30〜80 | 80〜300 | 40〜150 | 繊維方向、繊維含有率、成形方法に依存する。 |
| 伸び | % | 1〜5 | 1〜3 | 0.5〜2 | 一般に硬く、伸びは小さい。 |
| 曲げ弾性率 | GPa | 2.5〜4.5 | 6〜20 | 8〜18 | ガラス繊維、無機充填材で高くなる。 |
| 曲げ強さ | MPa | 60〜130 | 120〜400 | 80〜220 | 積層構成、繊維方向の影響が大きい。 |
| アイゾット衝撃強さ | kJ/m2 | 2〜8 | 10〜80 | 5〜40 | 樹脂単体は脆いが、繊維補強で向上する。 |
| 荷重たわみ温度 | ℃ | 60〜150 | 100〜220 | 150〜250 | 耐熱グレード、ポストキュア、補強材により向上する。 |
| 融点 | ℃ | なし | なし | なし | 熱硬化性樹脂であり、明確な融点を持たない。 |
| ガラス転移温度 | ℃ | 約70〜160 | 約80〜180 | 約120〜200 | 樹脂設計、硬化度、測定法により異なる。 |
| 連続使用温度 | ℃ | 約80〜120 | 約100〜150 | 約120〜180 | 荷重、雰囲気、薬品接触、時間により確認が必要である。 |
| 吸水率 | % | 0.1〜0.5 | 0.1〜1.0 | 0.1〜0.6 | 長期温水、加水分解、界面劣化に注意する。 |
| 体積抵抗率 | Ω・cm | 10の13乗〜10の16乗 | 10の12乗〜10の15乗 | 10の12乗〜10の15乗 | 充填材、吸湿、汚染、温度により変化する。 |
| 線膨張係数 | 1/K | 約60〜120×10^-6 | 約10〜40×10^-6 | 約15〜40×10^-6 | 繊維補強で低下し、方向性を持つ。 |
| 難燃性 | UL94等 | HB相当が多い | グレードによる | V-0対応品あり | 難燃剤、水酸化アルミニウム、ハロゲン系配合により異なる。 |
| 酸素指数 | % | 約20〜25 | 約20〜30 | 難燃品で30以上の場合あり | 代表値であり、配合により大きく変化する。 |
耐薬品性
不飽和ポリエステル樹脂の耐薬品性は、オルソ系、イソ系、ビスフェノール系、DCPD変性、ガラス繊維量、硬化度、ポストキュア、薬品濃度、温度、応力、接触時間により大きく変化する。下表は常温短時間接触を中心とした一般的な目安であり、耐食設備では実液試験が必要である。
| 薬品分類 | 代表薬品 | 評価 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 酸類 | 塩酸、希硫酸、酢酸 | ○ | 弱酸、希酸では比較的良好な場合がある。強酸、高温、長期では劣化に注意する。 |
| 強酸 | 濃硫酸、硝酸、クロム酸 | △〜× | 酸化性酸では分解、クラック、強度低下が生じる場合がある。 |
| アルカリ類 | NaOH、KOH、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム | △〜× | エステル結合の加水分解により劣化しやすい。高温アルカリは不適な場合が多い。 |
| 低級アルコール類 | メタノール、エタノール、IPA | △〜○ | 短時間では使用可能な場合があるが、膨潤、白化、抽出に注意する。 |
| 高級アルコール類 | ブタノール、グリセリン、MMB | ○ | 常温では比較的安定な場合がある。グレードと接触時間を確認する。 |
| 芳香族炭化水素類 | トルエン、キシレン、エチルベンゼン | △〜× | SP値が近く、膨潤、軟化、クラックが起こりやすい。 |
| 脂肪族炭化水素類 | ヘキサン、ヘプタン、ミネラルスピリット | ○ | 芳香族溶剤より影響は小さいが、燃料や混合溶剤では確認が必要である。 |
| ケトン | アセトン、MEK、MIBK | × | 膨潤、軟化、表面劣化が起こりやすく、長期接触には一般に適さない。 |
| エステル | 酢酸エチル、酢酸ブチル | △〜× | 膨潤、軟化が起こりやすい。塗料溶剤、洗浄剤では注意する。 |
| 塩素系溶剤 | ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン | × | 溶解、膨潤、クラックの可能性が高く、一般に不適である。 |
| 水・温水 | 水、温水、蒸気 | ○〜△ | 常温水は比較的良好であるが、温水、蒸気、長期浸漬では加水分解や界面劣化に注意する。 |
| 油 | 鉱物油、潤滑油、植物油 | ○ | 一般油類には比較的良好な場合が多い。添加剤、温度、燃料混入を確認する。 |
| 燃料 | ガソリン、軽油、灯油 | △ | 芳香族成分、アルコール混合燃料、温度により膨潤や劣化が起こる場合がある。 |
| 塩水 | 海水、食塩水 | ○ | FRP船舶や水槽用途で使用されるが、長期では表面保護層、硬化度、浸透に注意する。 |
SP値(溶解度パラメータ)
不飽和ポリエステル樹脂の代表的なSP値(δ)は、グレードによりおおよそ18〜23 MPa1/2程度である。オルソ系では約18〜21 MPa1/2、イソ系では約19〜22 MPa1/2、ビスフェノール系では約20〜23 MPa1/2が目安となる。
SP値は溶解・膨潤傾向を推定するための指標であり、耐薬品性そのものを直接保証する数値ではない。架橋密度、結晶性ではなく網目構造、充填材、ガラス繊維、硬化度、薬品の反応性、温度、応力、接触時間を含めて判断する必要がある。
溶解性の目安
| SP値差 | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|
| 0〜2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2〜5 | 条件により膨潤する | △ |
| 5〜8 | 短時間接触では比較的安定 | ○ |
| 8以上 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP値から見た耐溶剤性
下表では、不飽和ポリエステル樹脂の代表SP値を20.5 MPa1/2として、代表溶剤とのSP値差を示す。実際の耐性はSP値だけでなく、硬化度、架橋密度、溶剤の反応性、温度、応力、時間により変化する。
| 薬品名 | 薬品のSP値 MPa1/2 | UPとの差 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 水 | 約47.9 | 約27.4 | ○ | SP差は大きいが、温水では加水分解に注意する。 |
| メタノール | 約29.7 | 約9.2 | △〜○ | 極性が高く、抽出や白化を確認する。 |
| エタノール | 約26.0 | 約5.5 | ○〜△ | 短時間では使用可能な場合がある。 |
| IPA | 約23.5 | 約3.0 | △ | 長期接触では膨潤、軟化を確認する。 |
| アセトン | 約20.0 | 約0.5 | × | SP値が近く、膨潤・軟化しやすい。 |
| MEK | 約19.0 | 約1.5 | × | 塗料溶剤、洗浄剤用途では不適な場合が多い。 |
| 酢酸エチル | 約18.6 | 約1.9 | × | 膨潤、軟化、表面荒れに注意する。 |
| トルエン | 約18.2 | 約2.3 | △〜× | 芳香族溶剤のため長期接触には注意する。 |
| キシレン | 約18.0 | 約2.5 | △〜× | 膨潤、軟化を確認する。 |
| ヘキサン | 約14.9 | 約5.6 | ○ | 脂肪族炭化水素としては比較的影響が小さい。 |
| ジクロロメタン | 約20.2 | 約0.3 | × | 塩素系溶剤であり不適である。 |
| グリセリン | 約33.8 | 約13.3 | ○ | 高粘度・高極性であるが、温度条件を確認する。 |
評価基準:◎非常に良好、○概ね良好、△注意が必要、×不適
製法
原料
- 不飽和ジカルボン酸又は無水物:無水マレイン酸、フマル酸など
- 飽和ジカルボン酸又は無水物:無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸など
- グリコール:プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコールなど
- 反応性希釈剤:スチレン、ビニルトルエン、アクリレート系モノマーなど
- 硬化剤:有機過酸化物
- 促進剤:コバルト塩、アミン類など
- 添加剤:重合禁止剤、低収縮剤、顔料、難燃剤、離型剤、充填材、補強繊維など
重合方法
まず、酸成分とグリコール成分をエステル化又は縮合反応させ、不飽和結合を含むポリエステルを合成する。次に、得られた不飽和ポリエステルをスチレンなどの反応性希釈剤に溶解し、液状樹脂として調整する。成形時には有機過酸化物を用いてラジカルを発生させ、不飽和結合とスチレンが共重合し、三次元架橋構造を形成する。
代表的な反応式
無水マレイン酸 + グリコール + 飽和二塩基酸 → 不飽和ポリエステル + 水
HO-R-OH + HOOC-CH=CH-COOH → [-O-R-O-CO-CH=CH-CO-]n + H2O
不飽和ポリエステル + スチレン + 有機過酸化物 → 架橋不飽和ポリエステル硬化物

ペレット化やコンパウンド
液状UP樹脂はペレット化せず、粘性液体として供給されることが多い。一方、SMCやBMCでは、不飽和ポリエステル樹脂、低収縮剤、充填材、離型剤、顔料、硬化剤、ガラス繊維などを混練し、シート状又は塊状の成形材料として供給される。
添加剤、充填材、強化材
充填材として炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、タルク、シリカなどが使用される。強化材としてガラス繊維が最も一般的であり、用途により炭素繊維、アラミド繊維、不織布、マット、ロービング、クロスなどが使用される。難燃用途では水酸化アルミニウム、臭素系難燃剤、リン系難燃剤などが使われる場合がある。
詳細な利用用途
| 用途分野 | 代表用途 | 選定理由 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 自動車 | SMC外板、バンパービーム、トラック部品、電装カバー | 軽量、高剛性、寸法安定性、量産性 | 塗装性、耐熱性、衝撃性、成形収縮を確認する。 |
| 電気・電子 | ブレーカ部品、絶縁板、端子台、モータ部品、封止材 | 電気絶縁性、耐トラッキング性、難燃化が可能 | UL94、CTI、耐アーク性、発煙性を確認する。 |
| 機械部品 | カバー、ハウジング、治具、ローラー、構造部材 | 軽量、耐食性、加工性 | 摺動用途では摩耗、発熱、相手材を確認する。 |
| 医療 | 医療機器カバー、補助具、成形部材 | 成形自由度、軽量性、着色性 | 生体適合、滅菌、残留モノマー、法規制を確認する。 |
| 食品機械 | カバー、水槽、パネル、搬送設備周辺部材 | 耐水性、耐食性、成形自由度 | 食品接触適合、洗浄薬品、熱水、アルカリ洗浄に注意する。 |
| 建築・設備 | 波板、平板、浴槽、浄化槽、水槽、屋根材、人工大理石 | 耐候性、耐水性、軽量、施工性 | 紫外線劣化、難燃性、長期水接触を確認する。 |
| 船舶・海洋 | 小型船舶、ボート、デッキ、浮体、海水タンク | 耐海水性、軽量、補修性 | 浸透、ブリスター、表面ゲルコート、衝撃性に注意する。 |
| 化学設備 | 薬液タンク、ダクト、スクラバー、配管、ライニング | 耐食性、現場施工性、軽量 | 薬品濃度、温度、耐食グレード、ポストキュアを確認する。 |
| 土木 | グレーチング、マンホール蓋、レジンコンクリート、補修材 | 耐食性、軽量、施工性、電気絶縁性 | 荷重、疲労、屋外暴露、難燃性を確認する。 |
用途別選定
| 用途 | 推奨されるグレード傾向 | 重視する特性 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ギア | 一般には主用途ではない。BMC又は摺動充填グレードを検討する。 | 寸法安定性、摩耗、強度 | 衝撃、連続摺動、発熱に注意する。 |
| 軸受 | 摺動充填グレード又は他材料との比較が必要である。 | 摩擦係数、耐摩耗性、相手材攻撃性 | PTFE、POM、PAとの比較が必要である。 |
| チューブ・パイプ | FW成形又は引抜成形用耐食グレード | 耐薬品性、耐圧、耐水性 | 内面ライニング、樹脂リッチ層、薬品条件を確認する。 |
| 筐体 | SMC、BMC、難燃グレード | 寸法安定性、絶縁性、難燃性、塗装性 | UL規格、成形収縮、ねじ締結部を確認する。 |
| フィルム | 一般的なフィルム用途には適さない。 | 硬化膜、塗膜、ライニングとして評価 | 熱可塑性ポリエステルフィルムとは区別する。 |
| コネクタ | BMC、難燃・電気絶縁グレード | 耐熱性、寸法安定性、電気特性 | PBT、PPS、LCPとの比較が必要である。 |
法規制
| 項目 | 確認内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| RoHS | 鉛、カドミウム、水銀、六価クロム、臭素系難燃剤、フタル酸エステル類など | 難燃剤、顔料、充填材を含むグレードでは個別確認が必要である。 |
| REACH | SVHC、残留モノマー、添加剤、硬化剤関連物質 | スチレン、過酸化物、促進剤、難燃剤の確認が必要である。 |
| 食品衛生 | 食品接触用途では溶出、残留モノマー、添加剤、硬化条件を確認する。 | 一般工業用グレードを食品接触にそのまま使うべきではない。 |
| FDA | 米国食品接触用途では該当規則への適合を確認する。 | 樹脂、添加剤、顔料、硬化剤の全配合確認が必要である。 |
| 医療用途 | 生体適合性、滅菌適性、抽出物、残留モノマーを確認する。 | 標準UPは医療材料として汎用的に使う材料ではない。 |
| 消防・建築規制 | 難燃性、不燃・準不燃認定、発煙性、燃焼ガス | 建材、鉄道、車両、船舶では用途別規格の確認が必要である。 |
| 作業安全 | スチレン、有機過酸化物、コバルト促進剤、粉じん | SDS、換気、防爆、保護具、保管分離を確認する。 |
注意点
- 加水分解:エステル結合を持つため、温水、蒸気、アルカリ環境では劣化する場合がある。
- 応力割れ:溶剤、残留応力、硬化収縮、ガラス繊維端部によりクラックが発生する場合がある。
- 吸湿:吸水率は比較的小さいが、長期浸水では界面劣化やブリスターに注意する。
- 熱劣化:連続高温では酸化、強度低下、変色、クラックが生じる場合がある。
- アウトガス:未硬化成分、残留スチレン、硬化副生成物により臭気やアウトガスが問題となる場合がある。
- 硬化発熱:厚肉注型や大量混合では発熱により割れ、変色、発煙が生じる場合がある。
- 硬化剤管理:有機過酸化物と促進剤を直接混合すると危険であり、取扱説明書とSDSに従う必要がある。
- リサイクル:熱硬化性樹脂であるため、熱可塑性樹脂のような再溶融リサイクルは困難である。
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | 対象材料との違い |
|---|---|---|
| エポキシ樹脂 | 接着性、寸法安定性、低収縮、機械強度に優れる熱硬化性樹脂 | UPより高性能な場合が多いが、一般にコストが高く、硬化条件管理も重要である。 |
| ビニルエステル樹脂 | エポキシ骨格と不飽和基を持ち、耐食性と作業性のバランスが良い | UPより耐薬品性、靭性に優れる場合が多く、耐食タンクや薬品設備で比較される。 |
| フェノール樹脂 | 耐熱性、難燃性、低発煙性に優れる熱硬化性樹脂 | UPより難燃性に優れるが、成形性、靭性、外観、コストバランスは用途により異なる。 |
| ガラス繊維強化プラスチック | ガラス繊維と樹脂を組み合わせた複合材料 | UPはGFRPの代表的なマトリックス樹脂の一つであり、GFRPは材料形態を表す。 |
| 炭素繊維強化プラスチック | 炭素繊維を補強材とする高強度・高剛性複合材料 | UP系CFRPも可能であるが、高性能CFRPではエポキシ樹脂が主流である。 |
| ポリエチレンテレフタレート | 熱可塑性ポリエステルであり、フィルム、繊維、ボトル、成形品に使われる | UPは熱硬化性で再溶融しない。PETとは同じポリエステル系でも分類と加工方法が異なる。 |
| ポリブチレンテレフタレート | 結晶性熱可塑性ポリエステルで、電気・電子部品に多い | PBTは射出成形向けのエンプラであり、UPはFRPや熱硬化成形材料として使われる。 |
| アクリル樹脂 | 透明性、耐候性に優れる熱可塑性樹脂 | UPは注型透明品にも使われるが、透明性や光学用途ではPMMA、ADC樹脂などと比較する。 |
代替材料比較
代表的なメーカー
| メーカー | 代表製品・ブランド | 概要 |
|---|---|---|
| DIC株式会社 | 不飽和ポリエステル樹脂、FRP用樹脂各種 | 国内の樹脂・化学メーカーであり、FRP、塗料、複合材料向けの樹脂を扱う。 |
| ジャパンコンポジット株式会社 | 不飽和ポリエステル樹脂、SMC・BMC関連材料 | 不飽和ポリエステル樹脂及び成形材料を扱う国内メーカーである。 |
| シュアライン株式会社 | 不飽和ポリエステル樹脂、成形材料 | 国内では事業再編があるため、最新の供給元と製品名を確認する必要がある。 |
| AOC | UPR、Vinyl Ester、SMC/BMC用樹脂 | 複合材料向け不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂の主要メーカーの一つである。 |
| Polynt Group | Unsaturated Polyester Resins、Gelcoats、Vinyl Ester Resins | 不飽和ポリエステル、ゲルコート、複合材料用樹脂を展開するグローバルメーカーである。 |
| INEOS Composites | Unsaturated Polyester Resins、Vinyl Ester Resins | 複合材料用途のUPR、ビニルエステル樹脂を扱う主要メーカーである。 |
| Scott Bader | Crystic、Crestapol など | 不飽和ポリエステル樹脂、ゲルコート、構造接着材などを扱うメーカーである。 |
| 日本ユピカ株式会社 | ユピカ、不飽和ポリエステル樹脂関連製品 | 不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、複合材料関連製品を扱う国内メーカーである。 |
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