概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 材料名 | ジエチレングリコールビスアリルカーボネート |
| 略記号 | ADC、DADC、硬化物はPADCと表記される場合がある |
| IUPAC名 | 2-[2-(prop-2-enoxycarbonyloxy)ethoxy]ethyl prop-2-enyl carbonate |
| 英語名 | Diethylene glycol bis(allyl carbonate)、Allyl diglycol carbonate、Diallyl diglycol carbonate |
| 日本語名・別名 | アリルジグリコールカーボネート、ジアリルジグリコールカーボネート、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート) |
| 分類 | アリルカーボネート系二官能性モノマー、光学用熱硬化性樹脂原料 |
| プラスチック分類 | 硬化後は熱硬化性透明プラスチック。一般的な熱可塑性ポリカーボネートとは異なる |
| 化学式 | C12H18O7 |
| 分子量 | 274.27 g/mol |
| CAS No. | 142-22-3(モノマー) |
| 代表構造 | CH2=CH-CH2-O-C(=O)-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-C(=O)-O-CH2-CH=CH2 |
| 構造・主成分 | ジエチレングリコール骨格の両末端をアリルカーボネート化した二官能性モノマー。ラジカル重合により三次元架橋したPADCを形成する |
| 主な用途 | 眼鏡レンズ、サングラス、保護眼鏡、溶接用フィルター、透明注型品、光学フィルター、放射線・粒子線用固体飛跡検出器 |
ジエチレングリコールビスアリルカーボネートは、両末端にアリル基を持つ二官能性カーボネートモノマーである。常温では一般に無色から淡黄色の透明液体であり、有機過酸化物などのラジカル開始剤を用いて加熱硬化すると、架橋した透明熱硬化性樹脂であるポリ(アリルジグリコールカーボネート)(PADC)を形成する。
眼鏡レンズ分野では、PPG Industriesの商標であるCR-39が広く知られている。ただし、CR-39という呼称はモノマー、硬化樹脂、レンズ材料系のいずれにも慣用的に使われるため、技術文書では「ADCモノマー」と「PADC硬化物」を区別することが望ましい。硬化物は屈折率約1.50、比較的高いアッベ数、良好な透明性、染色性、表面硬度を持つ一方、ポリカーボネートほどの耐衝撃性はない。
本ページの液体物性はADCモノマー、機械的性質、光学特性、耐薬品性および用途適性は原則として非強化・無充填の標準PADC硬化物を対象とする。実際の性能はモノマー純度、開始剤、硬化温度履歴、厚さ、後硬化、共重合成分、紫外線吸収剤、染料、ハードコートおよび残留応力により変化する。
特徴
長所
- 可視光域で高い透明性を得やすく、屈折率とアッベ数のバランスが良い。
- 一般的な未コート光学用プラスチックの中では表面硬度と耐擦傷性が比較的良好である。
- 染色性が良く、サングラス、調光、着色レンズへの展開が容易である。
- ガラスより軽く、破損時の危険性を低減できる。
- 注型重合により厚肉、曲面、複雑な光学形状を形成できる。
- 一般的な家庭用洗浄剤、希酸、油類に対して比較的安定である。
短所
- 熱硬化性であり、硬化後は再溶融成形できない。
- 重合時間が長く、発熱、収縮、気泡、脈理、残留応力の管理が必要である。
- ポリカーボネートやTrivex系材料と比較すると耐衝撃性が低い。
- 強アルカリ、ケトン、芳香族溶剤、塩素系溶剤では膨潤、白化、クラックまたは表面コート損傷に注意が必要である。
- 硬化不十分な場合、残留モノマー、臭気、アウトガス、寸法変化が生じる可能性がある。
- マテリアルリサイクルが難しく、切削くずや不良硬化品の再利用に制約がある。
| 評価項目 | 概要 |
|---|---|
| 外観 | モノマーは無色から淡黄色透明液体。硬化物は無色透明で、配合により着色、調光、UVカット化が可能である。 |
| 耐熱性 | 硬化物は短時間で100℃前後まで使用される例があるが、連続使用温度は荷重、光学精度、コート仕様により一般に70~90℃程度を目安とする。 |
| 耐薬品性 | 希酸、脂肪族炭化水素、油類には比較的良好である。強アルカリ、ケトン、芳香族・塩素系溶剤には注意が必要である。 |
| 加工性 | 注型重合、研削、研磨、染色、ハードコート、反射防止コートに適する。射出、押出、ブローなどの溶融成形には適さない。 |
| 分類上の注意 | 分子内にカーボネート結合を持つが、ビスフェノールA系熱可塑性ポリカーボネートとは化学構造、成形法、物性が異なる。 |
構造式
ADCは、柔軟なエーテル結合を含むジエチレングリコール骨格と、二つのアリルカーボネート基から構成される。アリル基の二重結合が重合反応点となり、硬化時に分子間架橋を形成する。硬化物は単一の直鎖状繰返し単位で表すことが難しく、PADCは三次元網目構造として理解する必要がある。
| 構造要素 | 物性への主な影響 |
|---|---|
| アリル基 | ラジカル重合と架橋形成に寄与する。反応速度はアクリレート類より比較的遅く、段階的な加熱硬化が用いられる。 |
| カーボネート結合 | 極性、透明性、接着・コーティング適性に寄与するが、強アルカリや高温水中では加水分解に注意を要する。 |
| エーテル結合 | 分子運動性と靭性に寄与する一方、極性溶剤との相互作用に影響する。 |
| 三次元架橋 | 不溶不融性、寸法安定性、耐溶剤性、表面硬度を与える。架橋密度が高すぎると脆性や残留応力が増加する場合がある。 |
| 共重合・改質 | 含硫黄モノマー、ウレタン系成分、他のアリル系モノマーなどにより屈折率、衝撃性、硬度、収縮、染色性を調整できる。 |
種類
| 種類・代表グレード区分 | 主成分・改質方法 | 長所 | 短所 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 標準光学グレード | 高純度ADC、一般的な有機過酸化物開始剤 | 高透明、高アッベ数、染色性、表面硬度のバランスが良い | 耐衝撃性はPCより低い。硬化時間が長い | 屈折率1.50クラスの眼鏡レンズ、光学フィルター |
| 低収縮・低開始剤グレード | ADC組成、開始剤要求量、反応性を調整 | 複雑形状の注型性、色調、歩留まりを改善しやすい | 専用硬化条件が必要である | 厚肉レンズ、複雑曲面レンズ |
| 耐熱・高硬度グレード | 架橋密度、共重合成分、後硬化条件を調整 | 耐熱変形、表面硬度を改善できる | 脆性、収縮、残留応力が増える場合がある | 保護眼鏡、溶接用フィルター、工業光学部品 |
| 着色・染色対応グレード | 色材適合性、染料拡散性を調整 | 色濃度、色再現性、染色均一性を得やすい | 染料やUV吸収剤により耐候性、透明性が変化する | サングラス、ファッションレンズ |
| UV・ブルーライトカットグレード | 紫外線吸収剤、可視光選択吸収剤を配合 | 紫外線や特定波長域の透過を低減できる | 黄味、色調、経時変化、重合阻害に注意を要する | 眼鏡レンズ、保護フィルター |
| 高屈折改質系 | 含硫黄、芳香族、ウレタン系などの高屈折モノマーを共重合 | レンズを薄肉化できる | アッベ数、密度、耐候性、コストが変化し、純粋なPADCとは別材料系になる | 高屈折率眼鏡レンズ |
| 放射線検出用高純度PADC | 低欠陥、高均一、高純度硬化物 | 荷電粒子飛跡を化学エッチングで可視化できる | 光学レンズ用とは品質評価項目が異なる | 中性子、重イオン、ラドン測定用固体飛跡検出器 |
成形加工
| 加工方法 | 適性 | 理由 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 注型重合 | ◎ | ADCの代表的な成形方法であり、厚肉・曲面・高透明品を得やすい。 | 濾過、脱泡、型間隔、発熱、温度勾配、収縮、残留応力を管理する。 |
| 金型内熱硬化 | ◎ | ガラス型とガスケットを用いたレンズ成形に適する。 | 急速加熱を避け、段階昇温と徐冷を行う。 |
| 圧縮成形 | △ | 液状樹脂の一般的主成形法ではないが、プリフォームや複合系で適用例がある。 | 流出、気泡、硬化むらに注意する。 |
| 射出成形 | × | 硬化後は熱硬化性で再溶融できず、通常の射出成形には適さない。 | 熱可塑性PCとの混同を避ける。 |
| 押出成形 | × | 硬化後は不融であり、連続溶融押出には適さない。 | 未硬化液の連続塗工とは別工程である。 |
| ブロー成形 | × | 溶融パリソンを形成できない。 | 該当なし。 |
| 真空・圧空成形 | × | 硬化シートを熱軟化して成形する用途には一般に適さない。 | 薄板の曲げ加工は割れや光学ひずみに注意する。 |
| 切削・研削 | ○ | 硬化品のレンズ加工、外周加工、穴加工が可能である。 | 欠け、微小クラック、発熱、切削応力を抑える。 |
| 研磨 | ◎ | 光学面の仕上げに適する。 | 局所発熱、うねり、残留砥粒を管理する。 |
| 染色 | ◎ | 染料を表層へ拡散させやすい。 | 温度、時間、前処理、コート有無で色濃度が変わる。 |
| 接着 | ○ | エポキシ、ウレタン、UV硬化型などを選定できる。 | 応力、溶剤、黄変、屈折率差を確認する。 |
| 塗装・ハードコート | ◎ | 耐擦傷、防曇、反射防止などの表面機能を付与しやすい。 | 洗浄、プライマー、硬化収縮、密着、熱膨張差を確認する。 |
| めっき・蒸着 | ○ | 真空蒸着やスパッタによる光学膜形成が可能である。 | アウトガス、表面清浄度、膜応力、プラズマ損傷に注意する。 |
| 3Dプリント | - | 標準ADCを用いる一般的な積層造形法は確立されていない。 | 専用光硬化配合は別材料として評価する。 |
代表的な注型・硬化条件
| 項目 | 単位 | 一般的な目安 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 予備乾燥 | - | 通常は樹脂ペレット乾燥に相当しない | モノマー、型、ガスケット、配合剤の水分管理を行う。 |
| モノマー濾過 | µm | 0.2~5 | 要求清浄度、設備、レンズ用途により選定する。 |
| 脱泡 | - | 真空または静置 | 減圧しすぎると揮発・発泡を招く場合がある。 |
| 開始剤 | - | 有機過酸化物 | ジイソプロピルペルオキシジカーボネート系などが代表例。種類と濃度は配合専用条件とする。 |
| 硬化開始温度 | ℃ | 35~50 | 厚さ、開始剤、型材、設備により変動する。 |
| 最高硬化温度 | ℃ | 85~100 | 段階昇温を基本とし、急激な発熱を避ける。 |
| 総硬化時間 | h | 12~24 | 代表的なレンズ注型の目安。厚肉品や低温硬化では長くなる。 |
| 後硬化温度 | ℃ | 90~120 | 残留モノマー、寸法安定性、色調とのバランスを確認する。 |
| 成形収縮率 | % | 10~14 | 体積収縮の代表的目安。線収縮として単純換算しない。 |
| アニール | - | 必要に応じて実施 | 残留応力、後加工、コーティング工程に応じて設定する。 |
上記条件は材料群としての一般的な目安であり、特定メーカーの処方または保証条件ではない。開始剤濃度、硬化プログラム、レンズ厚さ、型の熱容量、共重合成分により最適条件は大きく異なる。
代表的な物性値又は機械的性質
ADCモノマーの代表物性
| 項目 | 単位 | 代表値 | 代表範囲 | 条件・備考 |
|---|---|---|---|---|
| 分子量 | g/mol | 274.27 | - | 化学式C12H18O7から算出。 |
| 密度 | g/cm³ | 1.14 | 1.13~1.15 | 20~25℃の代表値。 |
| 動粘度 | mm²/s | 9 | 8~12 | 20℃付近。純度、温度により変動する。 |
| 屈折率 | - | 1.45 | 1.44~1.46 | 液体、20~25℃付近。 |
| 融点・凝固点 | ℃ | -4 | -6~-2 | 代表値、純度依存。 |
| 外観 | - | 無色透明液体 | 無色~淡黄色 | 光学グレードでは低色数が要求される。 |
標準PADC硬化物の物理・光学特性
| 項目 | 単位 | 代表値 | 代表範囲 | 試験・条件 | 材料状態 | 備考・信頼度 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 密度 | g/cm³ | 1.31 | 1.30~1.32 | 23℃付近 | 完全硬化品 | 架橋度、配合剤で変動。信頼度A~B。 |
| 比重 | - | 1.31 | 1.30~1.32 | 23℃付近 | 完全硬化品 | 水=1。信頼度A~B。 |
| 屈折率 nd | - | 1.498 | 1.495~1.502 | 589 nm、20~25℃ | 光学グレード | 屈折率1.50クラス。信頼度A。 |
| アッベ数 | - | 58 | 57~59 | 光学測定 | 無色光学グレード | 色収差が比較的小さい。信頼度A。 |
| 全光線透過率 | % | 92 | 90~93 | 可視光、厚さ依存 | 無色・研磨品 | コート、UV吸収剤、厚さで変動。信頼度B。 |
| ヘーズ | % | データなし | データなし | 規格・厚さ依存 | 光学グレード | 光学用途では低ヘーズ管理されるが一般化困難。 |
| 吸水率・24時間 | % | 0.15 | 0.10~0.25 | 23℃水中、厚さ依存 | 完全硬化品 | 代表範囲、規格差あり。信頼度B~C。 |
| 線膨張係数 | 10-5/K | 12 | 10~14 | ガラス転移域以下 | 完全硬化品 | 方向性は小さいが硬化応力の影響を受ける。信頼度B。 |
| 硬度 | M | 90 | 85~100 | ロックウェルM、代表値 | 完全硬化品 | 硬化条件、コート有無で変動。信頼度C。 |
標準PADC硬化物の機械的性質
| 項目 | 単位 | 代表値 | 代表範囲 | 試験・条件 | 材料状態 | 備考・信頼度 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 引張強さ・破断 | MPa | 55 | 45~65 | 23℃、規格差あり | 完全硬化品 | 降伏点が明確でない場合がある。信頼度B~C。 |
| 引張弾性率 | GPa | 2.7 | 2.3~3.1 | 23℃ | 完全硬化品 | 硬化度、ひずみ速度依存。信頼度B。 |
| 引張破断伸び | % | 3 | 2~5 | 23℃ | 完全硬化品 | 脆性寄りの熱硬化樹脂。信頼度B~C。 |
| 曲げ強さ | MPa | 90 | 75~110 | 23℃ | 完全硬化品 | 試験片厚さ、表面傷の影響が大きい。信頼度C。 |
| 曲げ弾性率 | GPa | 2.8 | 2.4~3.2 | 23℃ | 完全硬化品 | 引張弾性率と同一視しない。信頼度C。 |
| アイゾット衝撃強さ・ノッチ付き | kJ/m² | データなし | データなし | ISO条件の一般値不足 | 完全硬化品 | ASTMのJ/m値と混同しない。 |
| シャルピー衝撃強さ・ノッチ付き | kJ/m² | 2 | 1~4 | 代表範囲、規格差あり | 完全硬化品 | 比較用途では同一規格の実測を推奨。信頼度C。 |
| 圧縮強さ | MPa | 110 | 90~130 | 23℃ | 完全硬化品 | 代表範囲、規格不明資料を含む。信頼度C。 |
| ポアソン比 | - | データなし | データなし | - | 完全硬化品 | 一般化困難。 |
| 疲労強度 | MPa | データなし | データなし | 応力比、回数依存 | 完全硬化品 | 実部品条件で確認する。 |
熱的性質
| 項目 | 単位 | 代表値 | 代表範囲 | 試験・条件 | 材料状態 | 備考・信頼度 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ガラス転移温度 | ℃ | 90 | 80~100 | DSCまたはDMA、測定法依存 | 完全硬化品 | 架橋度、後硬化で変動。信頼度B。 |
| 融点 | ℃ | 該当なし | 該当なし | 熱硬化性架橋体 | 完全硬化品 | 加熱しても溶融せず、最終的に熱分解する。 |
| 荷重たわみ温度・0.45 MPa | ℃ | データなし | データなし | グレード依存 | 完全硬化品 | 一般化困難。 |
| 荷重たわみ温度・1.80 MPa | ℃ | 70 | 60~80 | 代表値、規格差あり | 完全硬化品 | 光学寸法の許容温度とは一致しない。信頼度C。 |
| 連続使用温度 | ℃ | 80 | 70~90 | 無荷重から低荷重の目安 | 完全硬化品 | 光学精度、コート、荷重、寿命で制限される。信頼度C。 |
| 短時間耐熱温度 | ℃ | 110 | 100~130 | 短時間、無荷重に近い条件 | 完全硬化品 | 変色、反り、コート損傷を確認する。信頼度C。 |
| 低温使用限界 | ℃ | -40 | -50~-30 | 衝撃、応力条件依存 | 完全硬化品 | 低温脆性とコート割れを確認する。信頼度C。 |
| 熱伝導率 | W/(m・K) | 0.20 | 0.18~0.22 | 23℃付近 | 完全硬化品 | 一般的な透明樹脂の範囲。信頼度C。 |
| 比熱 | J/(g・K) | 1.2 | 1.0~1.4 | 23℃付近 | 完全硬化品 | 代表範囲、信頼度C。 |
| 熱分解開始温度 | ℃ | 250 | 220~300 | 雰囲気、昇温速度依存 | 完全硬化品 | 使用温度ではなくTGA上の参考値。信頼度C。 |
電気的性質・燃焼性
| 項目 | 単位 | 代表値 | 代表範囲・等級 | 条件・備考 |
|---|---|---|---|---|
| 体積抵抗率 | Ω・cm | 1×1015 | 1014~1016 | 乾燥状態、23℃付近。吸湿で低下する場合がある。 |
| 絶縁破壊強さ | kV/mm | 18 | 15~22 | 厚さ、電極、周波数依存。信頼度C。 |
| 比誘電率・1 kHz | - | 3.3 | 3.0~3.6 | 乾燥状態、23℃付近。信頼度C。 |
| 誘電正接・1 kHz | - | 0.02 | 0.01~0.03 | 乾燥状態、周波数・温度依存。信頼度C。 |
| UL 94 | - | データなし | グレード依存 | 材料群全体の等級として断定できない。認証グレードと厚さを個別確認する。 |
| 限界酸素指数・LOI | % | データなし | データなし | 難燃材として一般化できる公開値が不足している。 |
| ハロゲン含有 | - | 基本骨格は非ハロゲン | 添加剤依存 | 着色剤、コート、難燃剤を含む最終製品では個別確認する。 |
比較用評価スコア
| 評価項目 | スコア | 評価理由 |
|---|---|---|
| 引張強度 | 3 | 標準的な硬質透明熱硬化樹脂の範囲である。 |
| 剛性 | 3 | 弾性率は約2~3 GPaであり、一般的な透明樹脂と同程度である。 |
| 衝撃強度 | 2 | ガラスより安全性は高いが、PCやTrivex系より低い。 |
| 耐熱性 | 3 | 一般光学用途には十分であるが、高温構造用途には限定的である。 |
| 低温特性 | 3 | 低温使用は可能であるが、脆性とコート割れを確認する必要がある。 |
| 耐薬品性 | 3 | 日用品、希酸、油には比較的良好であるが、強アルカリや一部溶剤に弱い。 |
| 耐候性 | 4 | 光学用途で長い実績があり、適切なUV安定化で良好である。 |
| 耐加水分解性 | 3 | 常温水には比較的安定だが、高温水・強アルカリではカーボネート結合に注意する。 |
| 寸法安定性 | 4 | 完全硬化後は良好だが、硬化収縮と残留応力の管理が前提である。 |
| 低吸水性 | 4 | 吸水率は比較的低い。 |
| 摺動性 | 2 | 摺動専用材料ではなく、傷や摩耗粉が問題になりやすい。 |
| 電気絶縁性 | 4 | 乾燥状態では高い体積抵抗率を持つ。 |
| 難燃性 | 1 | 標準材は難燃用途を主目的とせず、UL等級はグレード依存である。 |
| 透明性 | 5 | 眼鏡レンズ用途で高い透明性と低色収差を示す。 |
| 成形加工性 | 2 | 注型には適するが、硬化時間が長く溶融成形できない。 |
| 切削加工性 | 4 | 研削、研磨、外周加工に適するが、欠けと残留応力に注意する。 |
| 接着性 | 3 | 適切な洗浄、表面処理、接着剤選定により接合可能である。 |
| リサイクル性 | 1 | 熱硬化性架橋体であり、再溶融によるマテリアルリサイクルが難しい。 |
| 価格優位性 | 3 | 標準眼鏡レンズ材料として供給実績があるが、汎用熱可塑性樹脂より高価である。 |
耐薬品性
以下は未コートの標準PADC硬化物に対する一般的な目安である。ハードコート、反射防止膜、染色層は基材と異なる耐薬品性を示す。実使用では薬品濃度、温度、接触時間、浸漬か拭き取りか、残留応力、荷重、端面状態を再現して確認する必要がある。
| 薬品・分類 | 濃度 | 温度 | 接触条件 | 応力 | 評価 | 主な劣化形態 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 水 | 純水・水道水 | 23℃ | 長時間浸漬 | なし | ◎ | わずかな吸水 | 寸法・屈折率の高精度用途では吸水影響を確認する。 |
| 温水 | 水 | 60~80℃ | 長時間浸漬 | なし | ○ | 吸水、表面変化、コート劣化 | 時間と温度の上昇で影響が増える。 |
| 熱水・蒸気 | 水・飽和蒸気 | 100℃以上 | 反復 | あり得る | △ | 加水分解、白化、反り、コート剥離 | 蒸気滅菌用途には一般に慎重な評価が必要である。 |
| 塩酸 | 5~10% | 23℃ | 短時間~24 h | なし | ○ | 表面変化 | 高濃度、高温、応力下は個別確認する。 |
| 硫酸 | 5~10% | 23℃ | 短時間 | なし | ○ | 表面変化 | 濃硫酸、高温では不適となる可能性が高い。 |
| 硝酸 | 5~10% | 23℃ | 短時間 | なし | △ | 酸化、黄変、表面荒れ | 酸化性のため濃度と時間を厳格に確認する。 |
| 酢酸 | 5~10% | 23℃ | 短時間~24 h | なし | ○ | わずかな膨潤 | 氷酢酸では評価が悪化する。 |
| 水酸化ナトリウム | 1~5% | 23℃ | 短時間 | なし | △ | 加水分解、表面曇り | 高濃度、高温、長時間では不適。 |
| 水酸化ナトリウム | 10%以上 | 40℃以上 | 浸漬 | なし | × | 加水分解、クラック、強度低下 | カーボネート結合のアルカリ加水分解に注意する。 |
| アンモニア水 | 5~10% | 23℃ | 短時間 | なし | △ | 表面曇り、コート劣化 | 眼鏡洗浄剤では配合全体で確認する。 |
| エタノール | 70~100% | 23℃ | 拭き取り~短時間 | なし | ○ | わずかな膨潤、コート影響 | 長時間浸漬と応力下では確認が必要である。 |
| イソプロピルアルコール | 70~100% | 23℃ | 拭き取り~短時間 | なし | ○ | 表面変化 | 反射防止膜やハードコートの耐性が支配する場合がある。 |
| グリセリン | 100% | 23℃ | 長時間 | なし | ◎ | 影響小 | 高温では吸水との複合影響を確認する。 |
| MMB | 100% | 23℃ | 短時間 | なし | △ | 膨潤、表面軟化 | 3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール。実浸漬試験を推奨する。 |
| アセトン | 100% | 23℃ | 短時間 | なし | × | 膨潤、白化、クラック | 洗浄用途には避ける。 |
| メチルエチルケトン | 100% | 23℃ | 短時間 | なし | × | 膨潤、表面損傷 | 応力下では短時間でも割れに注意する。 |
| 酢酸エチル | 100% | 23℃ | 短時間 | なし | △ | 膨潤、曇り | 長時間接触は避ける。 |
| トルエン | 100% | 23℃ | 短時間 | なし | △ | 膨潤、応力割れ | 硬化度と残留応力の影響が大きい。 |
| キシレン | 100% | 23℃ | 短時間 | なし | △ | 膨潤、曇り | 長時間浸漬では不適となる可能性がある。 |
| n-ヘキサン | 100% | 23℃ | 24 h | なし | ◎ | 影響小 | 添加剤抽出の有無を確認する。 |
| ヘプタン | 100% | 23℃ | 24 h | なし | ◎ | 影響小 | 表面コートは別評価とする。 |
| ガソリン | 市販相当 | 23℃ | 短時間 | なし | ○ | 添加剤抽出、膨潤 | 芳香族含有率、含酸素成分で変動する。 |
| 灯油 | 市販相当 | 23℃ | 24 h | なし | ◎ | 影響小 | 長期は質量・寸法変化を確認する。 |
| 鉱物油・潤滑油 | 100% | 23~80℃ | 長時間 | なし | ○ | 添加剤移行、着色 | 高温と添加剤系により変動する。 |
| ジクロロメタン | 100% | 23℃ | 短時間 | なし | × | 著しい膨潤、クラック | 使用を避ける。 |
| トリクロロエチレン | 100% | 23℃ | 短時間 | なし | × | 膨潤、白化、割れ | 洗浄用途に不適。 |
| 次亜塩素酸ナトリウム | 200~1000 ppm | 23℃ | 短時間 | なし | ○ | 酸化、コート変色 | 繰返し、pH、高温で劣化が進む。 |
| 過酸化水素 | 3% | 23℃ | 短時間 | なし | ○ | 酸化、黄変 | 高濃度・高温では個別評価する。 |
| 塩水・海水 | 3.5%相当 | 23℃ | 長時間 | なし | ◎ | わずかな吸水 | 金属部品との組合せでは腐食生成物に注意する。 |
| 中性洗剤 | 0.1~3% | 23~40℃ | 洗浄 | なし | ◎ | 影響小 | 眼鏡洗浄では十分にすすぐ。 |
| 食品油 | 100% | 23~60℃ | 長時間 | なし | ○ | 着色、臭気移行 | 食品接触適合性はグレード個別確認。 |
SP値(溶解度パラメータ)
PADC硬化物のHildebrand SP値は、架橋体であるため測定法や推算法による幅があり、代表的には約20~22 MPa1/2の範囲を目安とする。比較用代表値として21 MPa1/2を用いることができるが、確定値ではない。架橋樹脂はSP値が近くても完全溶解せず、膨潤、白化、軟化、応力割れとして現れる場合が多い。
耐薬品性はSP値差だけで判断できない。水素結合、極性、分子サイズ、拡散速度、架橋密度、加水分解、酸化、温度、残留応力、コーティングの有無を併せて評価する必要がある。
溶解性の目安
| SP値差 | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|
| 0~2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2~5 | 条件により膨潤する | △ |
| 5~8 | 短時間接触では比較的安定 | ○ |
| 8以上 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP値から見た耐溶剤性
| 溶剤 | 溶剤SP値 MPa1/2 | PADCとの差 MPa1/2 | 評価 | 実務上の注意 |
|---|---|---|---|---|
| アセトン | 19.9 | 1.1 | × | 膨潤、白化、応力割れの懸念が高い。 |
| メチルエチルケトン | 19.0 | 2.0 | × | 短時間でも表面損傷に注意する。 |
| 酢酸エチル | 18.6 | 2.4 | △ | 硬化度、時間、応力により膨潤する。 |
| トルエン | 18.2 | 2.8 | △ | 芳香族相互作用と拡散を考慮する。 |
| キシレン | 18.0 | 3.0 | △ | 長時間接触は避ける。 |
| イソプロピルアルコール | 23.5 | 2.5 | ○ | SP差だけでは厳しめに見えるが、短時間拭き取りでは比較的使用される。コートを確認する。 |
| エタノール | 26.0 | 5.0 | ○ | 長時間浸漬、応力下、温度上昇では注意する。 |
| n-ヘキサン | 14.9 | 6.1 | ◎ | 基材への影響は小さいが添加剤抽出を確認する。 |
| 水 | 47.9 | 26.9 | ◎ | SP差は大きいが、吸水、熱水加水分解は別途評価する。 |
評価基準は、◎:非常に良好、○:概ね良好、△:注意が必要、×:不適である。SP値は溶解・膨潤傾向の一次スクリーニングであり、化学反応性、架橋構造、温度、応力を含む実試験に置き換えることはできない。
製法
工業的には、ジエチレングリコール由来中間体とアリルアルコールを用いるルート、またはジエチレングリコールとジアリルカーボネートを用いるエステル交換ルートが代表的である。製法設計では、着色抑制、高純度化、塩素残渣低減、水分低減、副生成物低減が重要となる。
代表的な製法
- ジエチレングリコールビスクロロホルメートとアリルアルコールを反応させる法
- ジエチレングリコールとジアリルカーボネートのエステル交換法
- 精製では洗浄、相分離、乾燥、濾過、減圧蒸留または薄膜蒸発などを用いる
原料とモノマー合成
代表的な合成経路では、ジエチレングリコールの二つの水酸基をアリルカーボネート化する。工業的には原料、触媒、塩基、副生成物回収、精製方法がメーカーごとに異なるため、一つの反応経路に限定できない。
代表的な反応式
HO-CH2-CH2-O-CH2-CH2-OH + 2 CH2=CH-CH2-O-C(=O)-Cl → CH2=CH-CH2-O-C(=O)-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-C(=O)-O-CH2-CH=CH2 + 2 HCl
実工程では、塩化カルボニル系中間体を直接扱わない別経路、炭酸ジアリルとのエステル交換なども考えられる。反応後は未反応物、副生成物、触媒残渣、水分、着色成分を低減し、光学用途に必要な純度へ精製する。
重合・硬化
ADCモノマーへ有機過酸化物開始剤を配合し、濾過・脱泡後にガラス型へ注入する。低温側から加熱を開始し、ゲル化、架橋、後硬化へ段階的に温度を上げる。急速な昇温は局所発熱、気泡、ひけ、屈折率むら、クラック、残留応力を生じやすい。
重合反応の概念式
n ADC + ラジカル開始剤 + 熱 → 三次元架橋ポリ(アリルジグリコールカーボネート)(PADC)
硬化後は離型、徐冷、必要に応じたアニールを行い、研削、研磨、染色、ハードコート、反射防止膜などの二次加工を行う。一般的なPADCレンズはペレット化や溶融コンパウンドを経ず、液状モノマーから直接注型硬化される。
詳細な利用用途
| 用途分野 | 具体例 | 適性 | 選定上の注意 |
|---|---|---|---|
| 眼鏡・光学 | 度付きレンズ、サングラス、色付きレンズ、フィルター | ◎ | 屈折率、アッベ数、UV透過、染色、コート密着、耐衝撃規格を確認する。 |
| 保護具 | 保護眼鏡、溶接用フィルター、フェイスシールド部品 | ○ | 高衝撃用途ではPCやTrivex系との比較が必要である。 |
| 放射線計測 | 中性子、重イオン、ラドン用固体飛跡検出器 | ◎ | 純度、均一性、エッチング条件、感度校正を確認する。 |
| 工業光学 | 透明窓、光学フィルター、撮影用フィルター | ○ | 温度、衝撃、薬品、屋外暴露、膜応力を確認する。 |
| 自動車 | 限定的な光学部品、表示窓 | △ | 耐衝撃、難燃、量産サイクル、耐熱、耐候の要求から熱可塑性材が優先される場合が多い。 |
| 電気・電子 | 絶縁透明部材、センサー窓 | △ | UL、RTI、難燃、アウトガス、量産性を個別確認する。 |
| 医療 | 光学窓、診断機器用透明部品 | △ | ISO 10993、USP Class VI、滅菌耐久は特定グレードで確認する。 |
| 食品機械 | 透明確認窓、保護カバー | △ | 食品接触適合、洗浄薬品、熱水、割れ、破片管理を確認する。 |
| 建築・設備 | 特殊透明板、表示窓 | △ | 大型化、難燃、衝撃、供給形状、コストでPCやPMMAが優位になりやすい。 |
用途別選定
| 用途 | 適性 | 理由 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ギア・軸受・ブッシュ | × | 脆性、摩耗、再成形性の点で摺動構造材に適さない。 | POM、PA、PEEKなどを比較する。 |
| ポンプ・バルブ部品 | × | 圧力、衝撃、薬液、ねじ締結に対する構造用途実績が限定的である。 | 透明観察窓として用いる場合も応力と薬液を確認する。 |
| シール・ガスケット・Oリング | × | 硬質架橋樹脂であり弾性シール材ではない。 | エラストマーを選定する。 |
| チューブ・ホース・配管 | × | 連続押出に適さず、脆性がある。 | 透明配管にはPC、PVC、フッ素樹脂などを比較する。 |
| タンク・容器 | △ | 注型は可能だが、大型化、衝撃、製造サイクルに制約がある。 | 薬液と残留応力の組合せを確認する。 |
| フィルム・シート | △ | 薄板注型は可能だが、一般的な連続フィルム用途には不向きである。 | PMMA、PC、PETなどが量産性で優位である。 |
| 透明カバー | ○ | 透明性、硬度、耐候性を活用できる。 | 高衝撃・大型用途ではPCを優先検討する。 |
| レンズ | ◎ | 高透明、高アッベ数、染色性、表面硬度に優れる。 | 衝撃規格、コート、エッジ加工を確認する。 |
| 電気コネクタ・ソケット | × | 射出量産、耐熱、難燃、寸法設計に不向きである。 | PBT、PA、PPS、LCPなどを比較する。 |
| 一般筐体 | × | 注型時間と脆性から一般筐体には非効率である。 | ABS、PC、PMMAなどを比較する。 |
| 医療機器光学部品 | ○ | 透明性を活用できる。 | 生体適合性、滅菌、抽出物、規制証明を個別確認する。 |
| 屋外部品 | ○ | 適切な安定化で耐候性を得やすい。 | 衝撃、黄変、コート劣化、温度サイクルを確認する。 |
| 接着剤・塗料・コーティング | △ | 架橋性モノマーとして特殊配合へ利用できる。 | 反応速度、収縮、刺激性、残留モノマーを管理する。 |
| 複合材料マトリックス | △ | 歴史的にFRP用途へ検討された材料系である。 | 現在は不飽和ポリエステル、エポキシなどとの経済性・性能比較が必要である。 |
寸法精度・設計特性
- 硬化収縮が大きいため、金型間隔、ガスケット変形、重合温度勾配を含めた形状補正が必要である。
- 完全硬化後の吸水と熱膨張は比較的小さいが、精密光学用途では温湿度による屈折率と寸法変化を評価する。
- 表面傷、穴、鋭い角、ねじ締結部は応力集中源となり、クラック起点になりやすい。
- 短時間の引張強さを設計許容応力として直接使用せず、クリープ、疲労、残留応力、薬品環境を考慮した安全率を設定する。
- 金属インサート、圧入、タッピングねじは熱膨張差と局部応力から割れを生じやすいため、機械締結より接着または応力分散構造を検討する。
品質・成形不良
| 不良 | 材料側の主因 | 工程側の主因 | 主な対策 |
|---|---|---|---|
| 気泡・ボイド | 溶存ガス、水分、開始剤分解ガス | 脱泡不足、注入時巻込み、急速加熱 | 濾過・脱泡、穏やかな注入、段階昇温、型の漏れ確認を行う。 |
| 黄変・変色 | 不純物、開始剤、色材、酸化 | 過熱、長時間滞留、汚染 | 高純度原料、温度管理、設備洗浄、酸素・光管理を行う。 |
| 脈理・屈折率むら | 配合不均一、反応率差 | 温度勾配、対流、局所発熱 | 均一混合、型温分布改善、硬化速度の緩和を行う。 |
| クラック | 高架橋密度、脆性、異物 | 急冷、離型応力、切削傷、残留応力 | 徐冷、アニール、角部R、工具条件、型離れを改善する。 |
| 未硬化・べたつき | 開始剤不足、阻害物質、水分 | 温度不足、時間不足、混合不良 | 配合計量、温度履歴、開始剤保管、硬化度を確認する。 |
| 型転写不良 | 濡れ性不足、汚染 | 型洗浄不足、離型剤過多、気泡 | 型表面管理、洗浄、適正離型剤、真空補助を検討する。 |
| コート剥離 | 表面低分子、残留モノマー | 洗浄不足、硬化不足、膜応力 | 後硬化、表面洗浄、プラズマ処理、プライマー、膜厚最適化を行う。 |
注意点・劣化故障モード
| 劣化現象 | 主な原因 | 発生しやすい条件 | 外観・性能への影響 | 予防策 | 推奨確認試験 |
|---|---|---|---|---|---|
| 熱酸化劣化 | 酸素、熱、開始剤残渣 | 高温長時間、UV併用 | 黄変、脆化、光線透過率低下 | 十分な後硬化、安定剤、温度上限管理 | 熱老化後の透過率、黄変指数、曲げ強さ測定 |
| 紫外線劣化 | UV吸収、光酸化 | 屋外、強UV、長期暴露 | 黄変、表面微細亀裂、コート劣化 | UV吸収剤、耐候コート、遮光 | キセノンアークまたはUV促進耐候試験 |
| 加水分解 | カーボネート結合の分解 | 高温水、蒸気、強アルカリ | 白化、強度低下、表面荒れ | 高温高pHを避ける、洗浄条件最適化 | 熱水・アルカリ浸漬後の質量、強度、FT-IR |
| 膨潤・応力割れ | 溶剤拡散と残留応力 | ケトン、芳香族・塩素系溶剤、曲げ応力 | 白化、微細亀裂、破断 | 溶剤回避、アニール、角部R、低応力設計 | 定ひずみ治具を用いたESC試験 |
| 疲労破壊 | 繰返し荷重、表面傷 | 穴加工、縁なし眼鏡、振動 | 端面や穴からクラック進展 | 面取り、研磨、締結応力低減 | 実部品繰返し荷重試験 |
| アウトガス | 残留モノマー、低分子、コート成分 | 真空、高温、硬化不足 | 曇り、汚染、臭気、膜密着低下 | 十分な後硬化、真空ベーク、低揮発配合 | TML/CVCM相当またはGC-MSアウトガス試験 |
| 滅菌劣化 | 熱、蒸気、薬品、放射線 | オートクレーブ、反復消毒、γ線 | 黄変、反り、クラック、物性低下 | 滅菌法を限定し、適合グレードを選ぶ | 実滅菌サイクル後の光学・機械試験 |
| コート損傷 | 基材と膜の膨張差、洗浄薬品 | 温度サイクル、溶剤拭き、湿熱 | 剥離、クラック、干渉色変化 | 基材前処理、膜応力低減、洗浄剤選定 | クロスカット、湿熱、温度サイクル、溶剤拭き試験 |
推奨確認試験
- 実薬品浸漬試験:実濃度、実温度、実接触時間で質量、寸法、外観、透過率、強度を測定する。
- 環境応力割れ試験:実部品と同等の残留応力または定ひずみを与え、洗浄剤、アルコール、溶剤への接触を評価する。
- 熱老化・高温高湿試験:70~90℃、相対湿度85%など、用途寿命に応じた条件で黄変、屈折率、接着、寸法を確認する。
- ヒートサイクル試験:低温から高温までの反復により、基材クラック、コート剥離、反りを確認する。
- 実部品耐久試験:穴加工部、端面、締結部、コーティングを含む完成品で衝撃、疲労、洗浄、耐候を確認する。
法規制・認証
| 規制・認証 | 一般的な扱い | 確認事項 |
|---|---|---|
| RoHS | 対応可能 | 最終グレード、色材、UV吸収剤、コーティング、製造拠点ごとの適合証明を確認する。 |
| REACH・SVHC | 個別確認 | モノマー、開始剤、安定剤、不純物、添加剤の最新SDSとSVHC宣言を確認する。 |
| TSCA | 個別確認 | 米国での化学物質登録状況と用途制限を供給者へ確認する。 |
| 日本の食品衛生法・ポジティブリスト | 適合グレードの確認が必要 | 材料名だけで食品接触適合を断定できない。最終製品の接触条件と溶出試験を確認する。 |
| FDA食品接触 | 適合グレードの確認が必要 | 使用条件、添加剤、コートを含めた供給者証明が必要である。 |
| ISO 10993・USP Class VI | 医療用特定グレードのみ | 一般光学グレードを医療適合とみなさず、抽出物、滅菌、接触部位、期間を評価する。 |
| UL認証 | グレード依存 | UL 94、RTI、厚さ、色、製造拠点を個別に確認する。 |
| 眼鏡・保護眼鏡規格 | 完成品評価 | ISO、JIS、ANSI、ENなどの光学性能、耐衝撃、難燃、透過特性はレンズ完成品で確認する。 |
| PFAS関連規制 | 基本骨格は非フッ素 | 離型剤、コーティング、添加剤にフッ素化合物を使用する場合があるため、サプライチェーンで確認する。 |
環境・リサイクル性、価格・供給性
| 項目 | 評価 | 内容 |
|---|---|---|
| 樹脂分類 | 熱硬化性 | 硬化後は三次元架橋し、再溶融できない。 |
| マテリアルリサイクル | 低い | 粉砕充填材としての利用は考えられるが、透明光学材へ戻すことは困難である。 |
| ケミカルリサイクル | 研究・限定的 | 架橋体の選択的分解やモノマー回収は一般的商業プロセスとして限定的である。 |
| サーマルリサイクル | 条件付き | 炭素、水素、酸素を主成分とするが、添加剤、コート、色材を含む廃棄物管理が必要である。 |
| 生分解性 | なし | 一般環境で生分解性プラスチックとして扱わない。 |
| バイオベース | 一般品は非バイオベース | バイオ由来原料の採用可能性と生分解性は別概念である。 |
| 価格区分 | 比較的高価格 | 汎用熱可塑性樹脂より高い。光学純度、開始剤、少量購入、特殊グレードで上昇する。 |
| 供給性 | 専門用途で安定 | 眼鏡レンズ用モノマーとして国際供給があるが、一般成形材料店での小口流通は限定的である。 |
| 供給形態 | 液状モノマー、完成レンズ、注型板 | ペレット、一般押出シート、丸棒としての流通は限定的である。 |
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | ADC/PADCとの違い |
|---|---|---|
| CR-39 | PPG Industriesの商標として著名なADC系光学材料である。 | 化学的には密接に関連し、CR-39はADCモノマーまたはその硬化レンズ材料を指す慣用名である。 |
| ポリカーボネート(PC) | 高衝撃、透明、射出・押出成形可能な熱可塑性エンプラである。 | PCは耐衝撃性と量産性に優れる。PADCは表面硬度、染色性、アッベ数で有利だが熱硬化性である。 |
| ポリメチルメタクリレート(PMMA) | 高透明、高光沢、耐候性に優れる熱可塑性樹脂である。 | PMMAはシート、射出品の量産性に優れる。PADCは眼鏡レンズの染色性と耐擦傷性で有利な場合がある。 |
| 環状オレフィンコポリマー(COC) | 低吸水、高透明、低複屈折の熱可塑性光学樹脂である。 | COCは射出成形と精密光学量産に適する。PADCは注型レンズと染色に適する。 |
| ポリスチレン(PS) | 透明性と成形性に優れ、比較的低価格である。 | PSは量産性と価格に優れるが、耐衝撃・耐溶剤性に制約がある。PADCは光学品質と表面硬度で優位である。 |
| ポリウレタン(PU) | 配合により柔軟から硬質、高屈折、高衝撃まで設計できる。 | 光学用ウレタン系はPADCより高衝撃・高屈折化が可能であるが、黄変、加水分解、配合管理が異なる。 |
| ポリエチレンテレフタレート(PET) | 透明シート、フィルム、ボトルに広く使用される熱可塑性ポリエステルである。 | PETは連続成形とリサイクル性に優れる。PADCは厚肉光学注型と研磨・染色用途に適する。 |
| 不飽和ポリエステル樹脂(UP) | 低粘度熱硬化性樹脂として注型、FRPに広く使用される。 | UPは大型複合材と価格で有利である。PADCは光学透明性、低色、レンズ用途に特化する。 |
代表的なメーカー
| メーカー | 代表製品・ブランド | 概要 |
|---|---|---|
| PPG Industries, Inc. | PPG CR-39® Monomer | ADC系眼鏡レンズモノマーの代表的供給者である。CR-39は同社の商標であり、屈折率1.50クラスの光学材料として長い実績を持つ。 |
| 三井化学株式会社 | RAV 7™シリーズ | 低屈折率1.50クラスの眼鏡レンズ用ADC系光学モノマーを展開する。標準、低収縮、着色、UV・ブルーライト対応などの用途別グレードがある。 |
メーカー、ブランド、供給地域、グレード構成は変更される場合がある。採用時には最新の技術資料、SDS、規制証明、商標表示、供給条件をメーカーへ確認する。
関連キーワード
ジエチレングリコールビスアリルカーボネート | CR-39 | PADC | アリルジグリコールカーボネート | ポリカーボネート | アクリル樹脂 | 環状オレフィンコポリマー | 熱硬化性樹脂 | 透明プラスチック | SP値 | 耐薬品性 | 眼鏡レンズ | 注型重合 | 環境応力割れ | 光学樹脂
本ページの物性値および評価は、非強化・無充填の標準ADC/PADC材料群に関する代表値または代表範囲であり、特定グレードの保証値ではない。実使用では、グレード、純度、開始剤、硬化条件、温度、濃度、荷重、応力、湿度、使用時間、試験片形状、コーティングおよび法規制適合を確認し、実部品または実使用条件による試験を行う必要がある。