ジエチレングリコールビスアリルカーボネート

概要

材料名ジエチレングリコールビスアリルカーボネート
略記号ADC
英語名Allyl diglycol carbonate / Diethylene glycol bis(allyl carbonate)
関連呼称ADCCR-39(商標・慣用名として広く流通)
化学式C12H18O7
CAS No.142-22-3
分類アリルカーボネート系二官能性モノマー、光学樹脂用熱硬化性モノマー
外観無色〜淡黄色透明液体
主用途眼鏡レンズ用樹脂、透明注型樹脂、光学部材、放射線トラック検出材原料、各種アリル系架橋材料

ジエチレングリコールビスアリルカーボネートは、アリルカーボネート系の二官能性モノマーである。英語では allyl diglycol carbonate、diethylene glycol bis(allyl carbonate) などと表記される。眼鏡レンズ材料として著名なCR-39は、このモノマーを重合・架橋して得られる材料系の名称として広く用いられるが、技術的にはモノマー名と重合体名を区別して扱う方が望ましい

常温では無色〜淡黄色の透明液体として扱われ、加熱または開始剤存在下でラジカル重合し、三次元架橋した透明熱硬化性樹脂を形成する。光学用途では高い透明性、比較的低い比重、良好な染色性、表面硬化処理との相性の良さが評価される。

特徴

ジエチレングリコールビスアリルカーボネートは、二つのアリル基を持つため、重合時に架橋しやすいモノマーである。単なる熱可塑性樹脂用モノマーではなく、硬化後に透明で寸法安定性のある熱硬化性ネットワークを形成しやすい点が特徴である。既存のプラスチック素材辞典の各材料ページと同様に、実使用特性は純度、開始剤、共重合成分、硬化条件、後硬化条件、添加剤、コーティング仕様によって変動する。

眼鏡レンズ用途では、硬化後の材料がガラスより軽く、ポリカーボネートよりアッベ数が高く、家庭用洗剤や一般的な清掃条件に対して比較的安定である点が利点である。一方、モノマー自体は有機液体であり、保管中の重合防止、純度管理、水分管理、着色管理が重要である。また、アセトン、MEK、芳香族溶剤などのようにSP値が近い溶剤に対しては、硬化後樹脂でも白化・膨潤・応力割れの懸念がある。

長所
  • 二官能性であり、透明な架橋体を形成しやすい。
  • 光学用途で実績が長く、眼鏡レンズ材料として広く知られる。
  • 硬化後は比較的低比重で、透明性と染色性のバランスが良い。
  • ハードコート、防曇、反射防止などの表面処理と組み合わせやすい。
  • モノマー設計、共重合、硬化条件の調整により物性制御がしやすい。
短所
  • モノマー段階では液体であり、単体では機械部材として使用できない。
  • 硬化収縮、残留応力、硬化速度、黄変、微量不純物の影響を受けやすい。
  • 硬化後樹脂はポリカーボネートほどの耐衝撃性は持たない。
  • 有機溶剤やアルカリ洗浄条件によっては光学特性低下やクラックの懸念がある。
  • 実務上は純度、水分、開始剤、温度履歴の管理が必須である。
成形加工

本材料はモノマーであるため、通常の熱可塑性樹脂のような射出成形・押出成形の主原料として直接使う材料ではない。一般には、注型、重合硬化、脱泡、徐冷、後硬化、表面処理を組み合わせて透明硬化体を得る。したがって加工というより、重合・硬化プロセス管理が中核となる。

加工方法適正主な内容
注型重合光学レンズ、透明板、試験片の作製に用いる代表的手法である。
金型内熱硬化ガラス型または専用型中で徐々に昇温し、気泡・収縮・残留応力を抑えて硬化する。
脱泡・真空処理透明性確保のために有効であり、光学用途では重要である。
後硬化未反応成分低減、寸法安定化、硬化度向上に有効である。
射出成形×モノマー単体の主加工法ではない。
押出成形×モノマー単体の主加工法ではない。
加工条件

代表例では、モノマーに開始剤を加え、濾過・脱泡後にガラス型へ注入し、段階昇温で重合させる。具体条件は開始剤種、レンズ厚み、共重合成分、色調要求、硬化設備により異なる。一般には低温側から開始し、徐々に温度を上げてゲル化・架橋を進める設計が多い。

構造式

本材料は、ジエチレングリコール骨格の両末端がアリルカーボネート化された二官能性構造を持つ。エーテル結合により柔軟性を持ちつつ、両末端のアリル基がラジカル反応点となるため、硬化時には三次元架橋網目を形成する。

構造式の表記例を以下に示す。

CH2=CH-CH2-O-CO-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-CO-O-CH2-CH=CH2

簡略表記では、Allyl-O-CO-O-(CH2CH2-O)2-CO-O-Allyl とみなせる。重合後はアリル基が反応して架橋し、CR-39 として知られる透明熱硬化性樹脂となる。

種類

モノマー自体は化学種としては同一であるが、実務上は純度、着色、含水率、開始剤適合性、光学用途適合性、共重合設計により区分されることが多い。

種類の名称
種類名称構成・仕様特徴・用途
標準品ADCモノマー標準グレード一般純度品汎用の注型・硬化用途向けである。透明硬化体用途の基本原料となる。
光学用光学グレード低着色・低含水・低不純物眼鏡レンズや高透明注型用途に適する。色調、気泡、屈折率の安定性を重視する。
高純度品高純度ADC副生成物・ダイマー低減重合安定性、黄変抑制、再現性向上を狙う用途に適する。
改質系共重合・高屈折改質系他アリル系または含硫黄系との併用硬化後の屈折率、耐衝撃性、染色性、硬度を調整する用途に用いられる。

代表的な物性値又は機械的性質

モノマーであるため、ここでは主として液状モノマーとしての代表物性を示す。硬化後の機械特性は開始剤、金型条件、厚み、後硬化条件、コート仕様に強く依存するため、別途CR-39側で評価するのが適切である。

性質単位代表値備考
外観無色〜淡黄色透明液体高純度・光学用では低着色が求められる。
分子量g/mol274.27化学式 C12H18O7 に基づく。
密度(20〜25℃)g/cm31.143〜1.150純度や測定温度により差がある。
屈折率 nD201.451前後光学用途では管理値として重要である。
融点約-4低温では粘度上昇に注意する。
沸点約160〜161(減圧)公開値は減圧条件の記載が多い。
粘度(20℃)mm2/s または cSt約9〜12グレード・純度差を含む目安である。
水溶解度(20℃)g/L約2.36水に易溶ではないが、完全不溶でもない。
揮発性低い高沸点側の液体であるが、長期保管では酸化・重合防止管理が必要である。
機械特性単体モノマーでは該当しない機械特性は硬化後樹脂で評価する。

耐薬品性

モノマーとしてのジエチレングリコールビスアリルカーボネートは有機液体であり、硬化後のCR-39樹脂とは薬品応答が異なる。そのため、ここではモノマー保管・取扱い時の安定性と、硬化後樹脂の実用上の耐薬品傾向を区別して考える必要がある。

モノマーは強酸化剤、強塩基、高温条件、光、ラジカル源に注意が必要である。硬化後樹脂は家庭用洗剤や水、希薄アルコールには比較的安定なことが多いが、アセトン、MEK、酢酸エチル、トルエンなどでは白化・膨潤・応力割れの懸念がある。

薬品・環境モノマー
取扱い時
硬化後
樹脂の目安
備考
モノマーは低溶解性であるが、長期接触や加熱下では管理が必要である。
エタノール△〜○短時間洗浄では問題が少ない場合が多いが、応力下では注意する。
IPA△〜○一般清拭では使われるが、残留応力品ではクラックに注意する。
アセトン×硬化後樹脂では白化・膨潤・クラックを生じやすい。
MEK×アセトン同様に注意が必要である。
トルエン△〜×光学用途では外観劣化を起こしやすい。
キシレン△〜×長時間接触は避ける方がよい。
希酸高温・高濃度では加水分解や表面劣化に注意する。
強アルカリ×カーボネート結合の分解リスクがある。
強酸化剤×モノマー保管時には特に避ける。

更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照

SP値(溶解度パラメータ)

ジエチレングリコールビスアリルカーボネートのSP値は、公開情報と近縁アリルカーボネート系材料の傾向を踏まえると、おおむね 20.5〜21.5 MPa1/2 程度が目安である。重合・架橋後は単純な液体同士の溶解則では評価し切れないが、硬化後CR-39樹脂の膨潤傾向や応力割れリスクの一次判定には有用である。

項目SP値(δ)
MPa1/2
備考
ADCモノマー(標準)20.5〜21.5アリルカーボネート系二官能性液状モノマーとしての代表域である。
ADCモノマー(光学グレード)20.6〜21.4化学種は同じであり、主差異は着色、不純物、水分、重合安定性にある。
ADCモノマー(高純度品)20.6〜21.3純度向上で硬化再現性は改善するが、SP値自体の差は小さい。
高架橋CR-39硬化体21前後架橋体はSP値近接だけでは溶解せず、主として膨潤・白化・応力割れとして現れる。
SP値から見た耐溶剤性
溶解性の目安
Δδ溶解・膨潤の目安
0〜2溶解または膨潤しやすい。特に液状モノマーでは相溶しやすい。
2〜5膨潤・軟化・応力割れが起こりうる。
5以上溶解しにくいが、加水分解・酸化・応力クラックは別途考慮が必要である。
SP値から見た耐溶剤性
溶剤SP値(δ)
MPa1/2
評価特徴・注意点
47.9SP値差は大きい。溶解性は低いが、加水分解や長期暴露は別評価である。
メタノール29.7常温短時間では大きな影響が出にくいが、長期接触は確認が必要である。
エタノール26.0短時間清拭では許容される場合が多いが、残留応力品では注意する。
IPA23.5SP値が比較的近い。硬化後樹脂では応力割れリスクに留意する。
アセトン20.0×極めて近く、白化・膨潤・クラックを起こしやすい代表溶剤である。
MEK19.0×アセトン同様に不適である。
酢酸エチル18.6×接触により外観変化や軟化を生じやすい。
トルエン18.2△〜×芳香族溶剤として応力クラックや光学劣化に注意する。
キシレン18.0△〜×長時間接触では膨潤しやすい。
NMP23.1極性が高く、浸透・膨潤評価が必要である。
DMF24.8高温では影響が大きくなりやすい。
DMSO26.7SP値差だけでは安全側に見えても、浸透性が高く注意が必要である。
5% NaOH47付近SP値差は大きいが、カーボネート結合の加水分解観点から注意する。
濃硫酸35以上×化学分解の観点から不適である。

◎:非常に良好 ○:概ね良好 △:注意が必要 ×:不適

※上表の評価は、ADC/CR-39系のSP値中央値を約21 MPa1/2として、SP値差に加えて既知の光学樹脂での実用傾向を加味した参考値である。

※特にアセトン、MEK、酢酸エチル、トルエン、キシレンは注意が必要である。硬化後樹脂では短時間接触でも白化、膨潤、クラック、表面コート低下、光学特性劣化を生じる場合がある。

製法

工業的には、ジエチレングリコール由来中間体とアリルアルコールを用いるルート、またはジエチレングリコールとジアリルカーボネートを用いるエステル交換ルートが代表的である。製法設計では、着色抑制、高純度化、塩素残渣低減、水分低減、副生成物低減が重要となる。

代表的な製法
  • ジエチレングリコールビスクロロホルメートとアリルアルコールを反応させる法
  • ジエチレングリコールとジアリルカーボネートのエステル交換法
  • 精製では洗浄、相分離、乾燥、濾過、減圧蒸留または薄膜蒸発などを用いる
基本反応式

HO-CH2-CH2-O-CH2-CH2-OH + 2 CH2=CH-CH2-O-CO-Cl → CH2=CH-CH2-O-CO-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-CO-O-CH2-CH=CH2 + 2 HCl

または

HO-CH2-CH2-O-CH2-CH2-OH + 2 (CH2=CH-CH2O)2CO → ADC + 副生成アルコール類

重合反応の概念式

n CH2=CH-CH2-O-CO-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-CO-O-CH2-CH=CH2 → 架橋ポリ(allyl diglycol carbonate)

ラジカル開始剤存在下でアリル基が反応し、三次元網目構造を形成する。

詳細な利用用途

  • 眼鏡レンズ用透明樹脂
  • サングラス、着色レンズ、フォトクロミック基材
  • 透明注型板、光学サンプル、試験片
  • 放射線トラック検出器用PADC原料
  • 透明架橋樹脂の共重合原料
  • 耐擦傷コート、反射防止膜と組み合わせた光学基材

関連材料との比較

比較材料関係相違点
CR-39同一系材料である。ADCはモノマー名、CR-39は慣用的には硬化後材料名として使われることが多い。
ADC同義である。ADCは略号表記である。
ポリカーボネート眼鏡レンズ用途で比較対象となる。PCは熱可塑性で耐衝撃性が高い。CR-39系はアッベ数や染色性で優位なことが多い。
PMMA透明材料として比較される。PMMAは熱可塑性で加工しやすいが、用途によってはCR-39系の光学バランスが有利である。
チオウレタン系樹脂光学レンズ用途で競合する。高屈折率化に有利だが、密度や色調、加工条件、コストが異なる。

代表的なメーカー

メーカー代表的な製品・位置付け備考
PPG IndustriesCR-39 MonomerCR-39の商標・光学モノマーとして著名である。
Mitsui Chemicals光学レンズ関連材料レンズ関連分野での材料供給実績がある。
Nanjing Chemical Material Corp.ADC Monomer一般公開仕様値が確認できる供給例である。
各種眼鏡レンズメーカー硬化後CR-39系レンズ多くはモノマーそのものではなく、硬化体・コート済み製品として流通する。
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