概要
| 材料名 | ポリエーテルサルフォン |
| 略記号 | PES(PESUと表記される場合もある) |
| IUPAC名(概略) | poly(oxy-1,4-phenylenesulfonyl-1,4-phenylene) |
| 英語名 | Polyethersulfone / Poly(ether sulfone) |
| 日本語名(別名) | ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルスルホン、PES樹脂、PESU(いずれも表記・呼称の違いであり同一材料を指す) |
| 分類 | 非晶性熱可塑性樹脂(芳香族ポリスルホン系樹脂) |
| プラスチック分類 | スーパーエンジニアリング・プラスチック(スーパーエンプラ) |
| 化学式または代表構造 | [-O-C6H4-SO2-C6H4-]n(詳細な構造式は「構造式」を参照) |
| CAS No. | 25667-42-9(一般に流通するポリエーテルサルフォンの代表的な登録番号として広く用いられる。関連する構造として25608-63-3が併記される資料もある) |
| 構造・主成分 | ベンゼン環(フェニレン基)がエーテル結合(-O-)とスルホン結合(-SO2-)を介して交互に連結した主鎖を持つ、全芳香族系の非晶性樹脂である |
| 主な用途 | 医療機器(滅菌トレー、手術器具ハウジング)、限外濾過膜・血液透析膜などの分離膜、航空機内装部品、電気・電子部品、食品加工機器部品など |
ポリエーテルサルフォン(PES)は、ベンゼン環をエーテル結合とスルホン結合で交互に連結した全芳香族構造を持つ非晶性の熱可塑性樹脂であり、ポリサルホン(PSU)、ポリフェニルサルホン(PPSU)と並ぶ芳香族ポリスルホン系樹脂の一種である。スーパーエンジニアリング・プラスチックに分類され、非晶性樹脂でありながらガラス転移温度が220℃前後と高く、長期間にわたり高温環境下で使用しても機械的性質の低下が小さいという特徴を持つ。透明性(淡黄色〜琥珀色の自然な着色を伴う半透明〜透明)を保持しながら高い耐熱性と寸法安定性を両立できる点が、他の非晶性エンプラとの大きな相違点である。
PESは一般に、4,4’-ジクロロジフェニルスルホンとビスフェノールSなどの原料を、炭酸カリウムを触媒として極性非プロトン性溶媒中で高温重縮合させる求核芳香族置換反応(SNAr)により製造される。詳細な製法は「製法」の項を参照されたい。分子中にハロゲンを含まない場合が多く、難燃剤を添加しなくても比較的高い自己消火性・低発煙性を示すことも実用上の大きな利点である。一方で、極性の高い有機溶剤(ケトン類、エステル類、塩素系溶剤、および重合溶媒として用いられるNMP・DMAc・DMSOなど)に対する耐性は限定的であり、溶剤選定には注意を要する。
用途面では、高温蒸気滅菌(オートクレーブ)を繰り返し行う医療機器部品、血液透析・限外濾過・逆浸透などの分離膜、航空機内装材(難燃性・低発煙性規格への適合)、電気・電子部品のコネクタやハウジングなど、耐熱性・耐薬品性・寸法安定性・難燃性を同時に要求される用途で採用されている。グレードにより、汎用グレード、ガラス繊維(GF)強化グレード、難燃グレード、摺動グレード、食品接触・医療用途対応グレードなどが供給されており、実使用にあたってはグレード、温度、濃度、荷重、応力、使用時間を必ず確認したうえで選定する必要がある。
特徴
長所
- 非晶性樹脂でありながらガラス転移温度が220℃前後と高く、高温下での剛性・寸法安定性の低下が小さい
- 繰返し高温蒸気滅菌(オートクレーブ)に対する耐久性に優れ、医療機器用途で長期実績がある
- 加水分解安定性に優れ、高温の水・水蒸気環境下でも比較的安定である
- 難燃剤を添加しなくても自己消火性・低発煙性を示すグレードが多く、UL94 V-0を取得しているグレードが存在する
- 透明性を保持しつつ耐熱性を両立できる、数少ない非晶性スーパーエンプラである
- クリープ特性・寸法安定性に優れ、精密部品や薄肉部品に適する
短所
- ケトン類、エステル類、塩素系溶剤、極性非プロトン性溶剤(NMP、DMAc、DMSO等)に対する耐性が乏しく、溶解・膨潤・応力割れを生じやすい
- 非晶性樹脂特有の環境応力割れ(ESC)感受性があり、残留応力・外部応力が存在する状態での薬品接触には注意が必要である
- 成形温度・乾燥条件がPPSやPPS等と比較して高く、成形加工コストが相対的に高い
- 自然色は淡黄色〜琥珀色を呈するため、完全な無色透明が必要な用途には不向きな場合がある
- 原料樹脂価格が汎用エンプラと比較して高価である
- 紫外線に対する耐候性は必ずしも高くなく、屋外長期暴露用途では変色・強度低下に注意を要する
| 外観 | 自然色は淡黄色〜琥珀色の透明〜半透明。着色グレードも供給される |
| 耐熱性 | 非晶性樹脂の中では最高水準。連続使用温度は目安として180〜200℃程度(グレード・評価基準により変動) |
| 耐薬品性 | 酸・アルカリ・炭化水素・油類には一般に良好。ケトン・エステル・塩素系溶剤・極性非プロトン性溶剤には弱い(詳細は耐薬品性参照) |
| 加工性 | 吸湿性が高いため予備乾燥が必須。成形温度・金型温度ともに高めの設定が必要 |
| 分類上の注意 | PSU・PPSUと同じ芳香族ポリスルホン系に属するが、化学構造・物性は個別に異なるため、代替検討時は必ず対象グレードのデータシートで確認すること |
構造式
PESの主鎖は、フェニレン基がエーテル結合(-O-)とスルホン結合(-SO2-)を介して交互に連結した構造を基本とする。代表的な構成単位は次のとおりである。
- 繰返し単位:-O-C6H4-SO2-C6H4-(nは重合度を表す)
- モノマー(原料):4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)と4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールS)の重縮合により生成する
- 結合様式:エーテル結合による柔軟性と、スルホン基(極性が高く電子求引性を持つ)による剛性・耐熱性・難燃性が両立した主鎖構造である
市販グレードには、上記の基本構造をベースにガラス繊維や炭素繊維で強化した複合グレード、難燃剤・摺動性改良剤(PTFE等)を配合した変性グレード、非晶性を保持したまま分子量・末端基を調整した高流動グレードなどが存在する。これらは主鎖骨格自体はPESと同一であり、化学構造上の共重合体(コポリマー)ではなく、コンパウンド(配合)による物性改質が中心である。なお、ポリフェニルサルホン(PPSU)やポリサルホン(PSU)はビスフェノール成分が異なる類縁樹脂であり、PESとは別材料として扱う。
種類・代表グレード
| 種類の名称 | 主成分または特徴 | 長所 | 短所 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 汎用(未強化)グレード | 無充填・非強化の標準PES | 透明性、加工性のバランスが良い | 剛性・耐摩耗性は強化グレードに劣る | コネクタ、汎用成形品、フィルム |
| ガラス繊維(GF)強化グレード | GF10〜30質量%程度を配合 | 剛性・HDT・寸法安定性が向上 | 伸び・衝撃強さが低下、外観に繊維浮きが出やすい | 構造部品、精密機構部品 |
| 難燃グレード | 難燃剤を追加配合、またはPES自体の自己消火性を活用 | UL94 V-0等の高難燃性能 | グレードにより機械物性がやや低下する場合がある | 航空機内装、電気・電子筐体 |
| 摺動・低摩擦グレード | PTFEや黒鉛などの摺動性改良剤を配合 | 摩擦係数低減、耐摩耗性向上 | 強度・剛性がやや低下 | ギア、軸受、摺動部品 |
| 食品接触・医療用途向けグレード | 食品衛生法・FDA等の規制に対応した原料・添加剤を使用 | 繰返し滅菌適性、溶出物管理 | グレード選定・証明書確認が必須 | 医療器具、食品加工機器部品 |
| パウダー(粉体)グレード | 重合後に造粒せず粉体のまま供給 | 塗料・コーティング、複合材マトリックスへの利用に適する | 成形加工には別途コンパウンド化が必要 | 粉体塗装、プリプレグ用マトリックス樹脂 |
| フィルムグレード | 高い透明性・靭性を持つ薄膜成形用グレード | 耐熱性を持つ薄膜が得られる | 薄肉部での応力割れに注意 | 耐熱フィルム、電気絶縁フィルム |
上記のグレード区分は主要メーカーの製品ラインアップに基づく一般的な整理であり、実際の含有率・添加剤の種類・グレード名称はメーカー・製品により異なる。選定にあたっては必ず該当グレードの技術資料(データシート)を確認すること。
成形加工
| 成形加工方法 | 適性 | 備考 |
|---|---|---|
| 射出成形 | ◎ | 最も一般的な加工法。予備乾燥と高めのシリンダー・金型温度設定が必須 |
| 押出成形 | ○ | フィルム・シート・チューブ等に対応するグレードが供給される |
| ブロー成形 | △ | 一般的な適用例は少なく、専用グレード・条件検討が必要 |
| 圧縮成形 | △ | 粉体(パウダー)グレードを用いた成形実績があるが一般的ではない |
| 真空成形 | △ | 薄肉シートで可能な場合があるが、高い成形温度管理が必要 |
| 切削加工 | ○ | 丸棒・板材からの機械加工に対応。乾燥・低速切削で加工歪みを抑制する |
| 溶着(超音波・熱板) | ◎ | 超音波溶着・熱板溶着とも実績が多い |
| 接着 | ○ | 表面処理(プラズマ処理等)により接着性が向上する場合がある |
| 塗装・印刷 | ○ | 表面処理を行うことで密着性が向上する |
| 二次成形(アニール) | ◎ | 成形後の残留応力除去のためアニールが推奨される |
| 成形条件項目 | 単位 | 代表値・目安 |
|---|---|---|
| 予備乾燥の要否 | - | 要(吸湿性が高く、未乾燥では成形品にシルバーストリーク・強度低下が生じやすい) |
| 推奨乾燥温度 | ℃ | 135〜150 |
| 推奨乾燥時間 | h | 3〜4(除湿熱風乾燥機使用を推奨) |
| 許容含水率の目安 | % | 0.02以下 |
| シリンダー温度 | ℃ | 340〜390(グレード依存、代表値・規格不明) |
| 金型温度 | ℃ | 130〜160 |
| 成形収縮率(流動方向) | % | 0.5〜0.7 |
| 成形収縮率(流動直角方向) | % | 0.6〜0.8 |
| アニールの要否 | - | 推奨(残留応力・耐薬品性の向上のため) |
| 推奨アニール温度 | ℃ | 150〜170 |
| 推奨アニール時間 | h | 1〜4(肉厚により調整) |
成形条件はメーカー・グレード・成形機・製品形状によって異なるため、上表はあくまで一般的な目安である。実生産条件は必ず採用グレードのメーカー技術資料に基づき決定し、初回成形時にはパージ方法・滞留時間・局所過熱防止についても確認すること。
代表的な物性値又は機械的性質
下表は非強化・標準グレードを基準とした代表値または代表範囲である。グレード、試験温度、含水状態、試験片厚さ、試験規格により数値は変動するため、実設計では必ず採用グレードのデータシートで確認すること。
| 項目 | 単位 | 代表値・代表範囲(標準グレード) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 密度 | g/cm³ | 1.36〜1.38(代表値 1.37) | 非強化グレード。GF強化グレードは別掲 |
| 吸水率(24時間、23℃水中) | % | 0.3〜0.6 | 飽和吸水率は1.1〜2.1%程度とされる。乾燥状態との混同に注意 |
| 引張強さ(降伏) | MPa | 80〜90 | ISO 527またはASTM D638。降伏点と破断点の混同に注意 |
| 引張破断伸び | % | 40〜80 | 試験速度・試験片形状により変動幅が大きい |
| 引張弾性率 | GPa | 2.4〜2.6 | - |
| 曲げ強さ | MPa | 125〜140 | ISO 178またはASTM D790 |
| 曲げ弾性率 | GPa | 2.4〜2.7 | 引張弾性率と混同しないこと |
| アイゾット衝撃強さ(ノッチ付き) | kJ/m² | 4〜7 | ISO 180準拠の代表値。ASTM D256(J/m)とは単位・試験片形状が異なるため単純比較不可 |
| ガラス転移温度 | ℃ | 220〜225 | 非晶性樹脂のため融点は該当なし |
| 融点 | ℃ | 該当なし | 非晶性樹脂のため明確な融点を持たない |
| 荷重たわみ温度(1.80 MPa) | ℃ | 200〜216 | ISO 75またはASTM D648。荷重条件の明記が必須 |
| 荷重たわみ温度(0.45 MPa) | ℃ | 210〜220 | 同上 |
| 連続使用温度(目安) | ℃ | 180〜200 | 熱老化・強度保持率・使用環境により評価が異なる一般的な目安 |
| 熱伝導率 | W/(m・K) | 0.16〜0.20 | 代表値、規格不明 |
| 線膨張係数 | 10⁻⁵/K | 5.0〜5.5 | 成形時の流動方向・直角方向で差が生じ得る |
| 体積抵抗率 | Ω・cm | 10¹⁶〜10¹⁷ | 吸湿状態により低下する場合がある |
| 比誘電率(1 kHz) | - | 3.4〜3.6 | 測定周波数を明記。吸湿により上昇する |
| 誘電正接(1 kHz) | - | 0.001〜0.003 | グレード依存、代表値・規格不明 |
| UL94燃焼性 | 等級 | V-0(厚さ0.4〜1.5mm程度で取得例あり) | グレード・厚さ・色により結果が異なるため個別証明書確認が必要 |
| 限界酸素指数(LOI) | % | 38〜42 | 代表値、規格不明 |
参考として、ガラス繊維(GF)強化グレードの代表値を非強化グレードと対比して以下に示す。強化グレードは標準グレードと混在させず、選定時には必ず繊維含有率を確認すること。
| 項目 | 単位 | 標準グレード(非強化) | GF強化グレード(GF約20〜30質量%) |
|---|---|---|---|
| 密度 | g/cm³ | 1.36〜1.38 | 1.50〜1.60 |
| 引張強さ | MPa | 80〜90 | 120〜150 |
| 引張破断伸び | % | 40〜80 | 2〜4 |
| 曲げ弾性率 | GPa | 2.4〜2.7 | 6.5〜9.0 |
| 荷重たわみ温度(1.80 MPa) | ℃ | 200〜216 | 212〜220 |
| アイゾット衝撃強さ(ノッチ付き) | kJ/m² | 4〜7 | 7〜12 |
短時間の引張・曲げ試験値のみで長期荷重下の部品適否を判断することはできない。クリープ特性、疲労特性、熱老化後の強度保持率についても、実使用条件を模擬した確認試験の実施を推奨する。
耐薬品性
| 薬品分類(代表薬品例) | 評価 | 備考・主な劣化形態 |
|---|---|---|
| 酸類(希塩酸、希硫酸等) | ◎ | 一般に良好。濃厚な酸化性酸(発煙硫酸、濃硝酸等)では劣化のおそれがあり個別確認が必要 |
| アルカリ類(希NaOH、希KOH等) | ○ | 希薄・短時間では概ね良好だが、高温・高濃度の強アルカリでは加水分解・強度低下に注意 |
| 低級アルコール類(エタノール、IPA等) | ◎ | 一般的な条件で影響は小さい。消毒用アルコール接触部品での実績が多い |
| 高級アルコール類(グリセリン、MMB等) | ◎ | 一般に良好 |
| 芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等) | ○ | 短時間接触では比較的安定だが、応力下では環境応力割れに注意 |
| 脂肪族炭化水素類(ヘキサン、灯油等) | ◎ | 一般に良好 |
| ケトン類(アセトン、MEK等) | × | 膨潤・溶解・応力割れを生じやすく、原則として使用を避ける |
| エステル類(酢酸エチル等) | △ | グレード・濃度・接触時間により膨潤のおそれがある |
| 塩素系溶剤(ジクロロメタン等) | × | 溶解・著しい膨潤のおそれが高い |
| 極性非プロトン性溶剤(NMP、DMAc、DMSO等) | × | PESの重合溶媒として用いられる系統であり、溶解性が高いため使用不可 |
| 水・温水 | ◎ | 加水分解安定性に優れる。繰返し蒸気滅菌にも耐える実績がある |
| 油類(鉱油、作動油等) | ◎ | 一般に良好 |
耐薬品性はSP値差のみで決定されるものではなく、加水分解、酸化、応力割れ、添加剤の抽出・移行など化学的・物理的要因が複合的に関与する。特にPESは非晶性樹脂であるため、残留応力や外部荷重が存在する状態での薬品接触では、耐薬品性表の評価が良好な薬品であっても環境応力割れ(ESC)が発生する場合がある点に留意されたい。
SP値(溶解度パラメータ)
PESの溶解度パラメータ(δ)は、公開文献に基づく代表値としてδ ≈ 21.0 MPa1/2(分散項δD ≈ 18.3、極性項δP ≈ 8.2、水素結合項δH ≈ 6.4、いずれもMPa1/2)が報告されている。これはPSU(δ ≈ 21.5 MPa1/2)と近い値であり、芳香族ポリスルホン系樹脂に共通する傾向である。SP値はあくまで溶解・膨潤のしやすさの目安であり、SP値だけで耐薬品性を判断することはできない点に注意が必要である。
溶解性の目安
| SP値差(MPa1/2) | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|
| 0〜2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2〜5 | 条件により膨潤する | △ |
| 5〜8 | 短時間接触では比較的安定 | ○ |
| 8以上 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP値から見た耐溶剤性
| 代表的な溶剤 | 溶剤のSP値(MPa1/2) | PESとのSP値差 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| NMP(N-メチル-2-ピロリドン) | 約23 | 約2 | × | PESの代表的な重合・溶解溶媒 |
| DMF(N,N-ジメチルホルムアミド) | 約24.8 | 約3.8 | △ | 条件により膨潤・溶解のおそれ |
| アセトン | 約20 | 約1 | × | 膨潤・応力割れのおそれが高い |
| トルエン | 約18.2 | 約2.8 | △ | 短時間接触は比較的安定だが応力下では注意 |
| メタノール | 約29.6 | 約8.6 | ◎ | 一般に安定 |
| 水 | 約47.8 | 約26.8 | ◎ | 加水分解安定性は別途確認が必要 |
SP値差による目安はあくまで参考情報であり、実際の耐薬品性は温度・濃度・接触時間・応力の有無によって大きく変化する。用途決定前には必ず実薬品浸漬試験および応力負荷下での環境応力割れ試験の実施を推奨する。
製法
原料
- 4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)
- 4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールS)
- 炭酸カリウム(K2CO3、脱ハロゲン化水素反応の塩基として使用)
- 極性非プロトン性溶媒(スルホラン、NMP等)
重合方法
PESは一般に、DCDPSとビスフェノールSを炭酸カリウムの存在下、極性非プロトン性溶媒中で高温(約160〜320℃、多段階昇温)にて反応させる求核芳香族置換(SNAr)型の脱ハロゲン化水素重縮合により製造される。反応の進行に伴い塩化カリウム(KCl)と水(H2O)が副生し、これらを系外に除去しながら重合度(分子量)を制御する。
ペレット化・コンパウンド
重合後のポリマー溶液は貧溶媒(水等)に滴下してポリマーを析出させ、濾過・水洗により残留溶媒・塩類を除去したのち乾燥し、粉体(パウダーグレード)として得られる。成形用途向けには、押出機で溶融混練してペレット化し、必要に応じてガラス繊維などの強化材や難燃剤、摺動性改良剤等の添加剤を配合したコンパウンドグレードとして供給される。
添加剤・充填材・強化材
用途に応じてガラス繊維(GF)、難燃剤、摺動性改良剤(PTFE、黒鉛等)、着色剤、酸化防止剤、離型剤などが配合される場合がある。強化材の配合はベース樹脂の耐熱性・剛性を高める一方、伸び・衝撃強さの低下を伴うため、標準グレードとは区別して評価する必要がある。
詳細な利用用途
| 分野 | 代表的な用途例 |
|---|---|
| 自動車 | センサー部品、電装コネクタ、エンジンルーム周辺の耐熱部品(一般に構造材としてはPPS・PA等の比率が高く、PESは限定的な採用にとどまる) |
| 電気・電子 | コネクタ、リレー部品、電気絶縁部品、はんだ耐熱を要する表面実装部品周辺部材 |
| 機械部品 | 耐熱性・寸法安定性を要する精密機構部品、ギア・軸受(摺動グレード) |
| 医療 | 繰返し高圧蒸気滅菌を行う手術器具ハウジング・トレー、内視鏡部品、血液透析(ダイアライザー)用中空糸膜 |
| 食品機械 | 熱水・蒸気洗浄(CIP洗浄等)に耐える食品加工機器部品、飲料・食品接触部品 |
| 建築・設備 | 耐熱性を要する配管部品、計装部品(実績は他のエンプラと比較して限定的) |
| 分離膜 | 限外濾過(UF)膜、精密濾過(MF)膜、逆浸透(RO)前処理膜、水処理膜(PESの主要用途の一つ) |
| 航空機・輸送機器 | 内装部品、難燃性・低発煙性・低毒性(FST)規格への適合が求められる部材 |
上記は材料群としての一般的な適性であり、実使用にあたってはグレード、荷重、温度、薬品接触条件、湿度、使用時間、関連法規制を必ず個別に確認すること。
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | 対象材料(PES)との違い |
|---|---|---|
| ポリサルホン(PSU) | ビスフェノールAを含む芳香族ポリスルホン系樹脂 | PESより耐熱性(Tg)はやや低めだが、原料・価格面で選択されることがある。同じスルホン系だが主鎖構成成分が異なる |
| ポリフェニルサルホン(PPSU) | ビフェニル構造を含む芳香族ポリスルホン系樹脂 | PESより耐衝撃性・靭性に優れる一方、価格は一般に高め。医療用途での競合材料となることが多い |
| ポリエーテルイミド(PEI) | イミド環を含む非晶性スーパーエンプラ | PESと同様に非晶性・高耐熱だが、PEIはより高い剛性・難燃性を示す一方、耐薬品性の傾向が異なる |
| ポリフェニレンサルファイド(PPS) | 硫黄原子を含む半結晶性の耐薬品性樹脂 | PPSは結晶性樹脂で耐薬品性に極めて優れるが、PESのような透明性はなく、靭性もPESとは傾向が異なる |
| ポリエーテルエーテルケトン(PEEK) | 結晶性のスーパーエンプラで最高水準の耐熱・耐薬品性を持つ | PEEKはPESより高価だが耐熱性・耐薬品性・耐摩耗性に優れ、より過酷な条件での代替候補となる |
| ポリカーボネート(PC) | 透明性・耐衝撃性に優れる汎用エンプラ | PCはPESより安価で透明性・耐衝撃性に優れるが、耐熱性・耐薬品性ではPESが上回る |
| ポリアミドイミド(PAI) | イミド結合とアミド結合を持つ非晶性スーパーエンプラ | PAIはPESより高強度・高耐熱だが、吸湿性が高く加工が難しい傾向がある |
代表的なメーカー
| メーカー | 代表製品・ブランド | 概要 |
|---|---|---|
| Solvay Specialty Polymers | Veradel®(PESU) | 芳香族ポリスルホン系樹脂(PSU、PESU、PPSU)を幅広く展開するグローバルメーカー |
| BASF | Ultrason® E(PESU) | Ultrasonブランドの一部としてPSU・PESU・PPSUを製造・供給 |
| 住友化学株式会社 | スミカエクセル™ PES | 国内エンジニアリングプラスチックスメーカーとしてPES樹脂を製造・供給 |
上記は本稿執筆時点で確認できる主要な樹脂メーカーであり、実際の取扱いグレード・在庫状況・規格適合状況は各社の最新技術資料で確認すること。