ポリフェニルサルホン

概要

項目内容
材料名ポリフェニルサルホン
略記号PPSU(PPSFと表記される場合もある)
IUPACPoly[oxy-1,4-phenylene-1,4-phenyleneoxy-1,4-phenylenesulfonyl-1,4-phenylene](代表的表記)
英語名Polyphenylsulfone / Polyphenylene sulfone
日本語名(別名)ポリフェニルサルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフェニレンサルホン
分類芳香族ポリアリールエーテルスルホン系樹脂
プラスチック分類非晶性熱可塑性スーパーエンジニアリング・プラスチック
化学式又は代表構造–[O–C₆H₄–C₆H₄–O–C₆H₄–SO₂–C₆H₄]ₙ–
CAS No.25608-64-4(代表的なPPSU)
構造・主成分ビフェニル骨格、芳香族エーテル結合及びスルホニル基を主鎖に有するポリアリールエーテルスルホン
主な用途医療器具、反復蒸気滅菌部品、内視鏡・手術器具部品、歯科器具、食品接触部品、哺乳びん、配管継手、航空機内装、電気・電子部品

ポリフェニルサルホン(PPSU)は、主鎖に芳香族環、エーテル結合及びスルホニル基を有する非晶性の熱可塑性スーパーエンジニアリング・プラスチックである。ポリアリールエーテルスルホン(PAES)群の一種であり、一般にポリスルホン(PSU)及びポリエーテルスルホン(PESU)よりも高い耐衝撃性、耐環境応力割れ性及び反復蒸気滅菌耐久性を示す。

PPSUは透明から半透明の淡い琥珀色を呈し、Tg約220℃、高い熱水・蒸気耐久性、本質的難燃性及び良好な電気絶縁性を併せ持つ。このため、医療器具、歯科器具、内視鏡部品、配管継手、哺乳びん、食品機械及び航空機内装等に使用される。特に121~134℃の蒸気滅菌を繰り返す用途では有力な候補となる。

一方、PPSUは万能な耐薬品材料ではない。水、希薄酸、希薄アルカリ、洗剤及び油脂には概ね良好であるが、NMP、DMAc、DMF、塩素系溶剤、一部ケトン・エステル・芳香族溶剤では膨潤、溶解又は環境応力割れを生じる可能性がある。実使用では、グレード、温度、濃度、接触時間、荷重、残留応力、湿度、滅菌回数及び成形条件を含めて評価する必要がある。

特徴

項目内容
長所高い耐衝撃性、耐熱水性、耐加水分解性、反復蒸気滅菌耐久性、寸法安定性、本質的難燃性、電気絶縁性を併せ持つ。
短所材料価格及び成形温度が高い。極性溶剤、芳香族塩素系溶剤、一部ケトン・エステル・アミド系溶剤には膨潤、溶解又は応力割れを生じ得る。
外観自然色は透明から半透明の淡い琥珀色又は蜂蜜色である。着色、不透明、充填材入りグレードもある。
耐熱性Tgは一般に約220℃であり、非晶性樹脂として高温域まで剛性を保持する。連続使用温度は用途・認証・荷重条件により概ね160~180℃が目安である。
耐薬品性水、熱水、蒸気、希薄な酸・アルカリ、洗剤、油脂に概ね良好である。一方、NMP、DMAc、DMF等の高極性溶剤、塩素系溶剤及び一部芳香族溶剤には注意が必要である。
加工性射出成形及び押出成形が中心である。高温成形材料であり、予備乾燥、樹脂滞留時間、局所過熱、金型温度及び残留応力の管理が重要である。
分類上の注意PPSUはPSU及びPESUと同じポリアリールエーテルスルホン群に属するが、化学構造と性能は異なる。略号PPSはポリフェニレンサルファイドを指すため、PPSUと混同しない。

構造式

ポリフェニルサルホン(PPSU)の代表的な繰返し単位を以下に示す。

ポリフェニルサルホン PPSUの代表構造式

代表構造単位は、–[O–C₆H₄–C₆H₄–O–C₆H₄–SO₂–C₆H₄]ₙ–で表される。ビフェニル骨格は高い剛性と耐熱性に、エーテル結合は一定の分子運動性と溶融加工性に、スルホニル基は極性、耐熱性及び難燃性に寄与する。PPSUは非晶性であり、明確な融点を持たず、ガラス転移温度を境に軟化挙動が大きく変化する。

代表的な原料は4,4′-ビフェノールと4,4′-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)である。実際の市販グレードでは、分子量、末端基、流動性、着色、離型性、耐候性、強化材及び規制適合性が調整される。

種類・代表グレード

種類・代表グレード主成分又は特徴長所短所主な用途
非強化・標準無充填PPSU高靭性、透明性、耐蒸気性高価格、高温成形医療器具、配管、食品接触部品
高流動・射出分子量又は流動性を調整薄肉・複雑形状に対応靭性・耐ESCとのバランス確認薄肉筐体、継手
高粘度・押出高分子量化押出安定性、ブロー成形性、耐応力割れ性高い溶融粘度シート、棒、チューブ、ボトル
医療用途向け生体適合性・滅菌耐久性を管理した個別グレード反復蒸気滅菌、薬品消毒への対応USP Class VI、ISO 10993等は個別証明が必要手術器具、歯科器具、内視鏡部品
食品接触用途向け食品接触規制に適合する個別グレード熱水、洗剤、繰返し使用に強い国・用途・温度・接触条件ごとの確認が必要哺乳びん、給食・調理器具
ガラス繊維強化GFを一般に20~40質量%程度配合する設計が可能剛性、強度、寸法安定性向上透明性、衝撃性、表面外観、溶着性が低下し得る構造部品、電気部品
難燃・低発煙難燃設計又は本質難燃性を活用UL 94 V-0等を取得したグレードが存在厚さ、色、添加剤で認定が異なる航空・鉄道・電気電子
摺動・導電等PTFE、炭素系充填材等による改質例摩擦、摩耗、帯電特性を調整医療・食品適合性、摩耗粉、物性低下を確認特殊機械部品

成形加工

加工方法適性理由・主な注意点
射出成形主要加工法。高温対応の可塑化装置、十分な乾燥及び高温金型が必要。
押出成形シート、棒、チューブ、フィルム等。高粘度押出グレードを選定する。
ブロー成形押出ブロー又は射出延伸ブロー対応グレードがある。溶融強度を確認する。
真空成形押出シートを用いる。均一加熱、予備乾燥及び残留応力管理が必要。
圧空成形シートグレードで可能。成形窓はグレード及び板厚に依存する。
圧縮成形特殊用途で可能であるが一般的な量産方法ではない。
3Dプリント高温FFF等の専用設備と材料が必要。層間強度、反り、乾燥に注意。
切削加工板・丸棒から加工可能。発熱、クランプ応力、切欠き及びバリを管理する。
溶着超音波、振動、熱板、レーザー等を検討できる。形状とグレードによる。
接着表面清浄化、プラズマ処理又はプライマーが有効な場合がある。溶剤接着は薬品影響に注意。
塗装・印刷脱脂、表面処理、インキ・塗料の耐熱及び密着性確認が必要。
めっき・蒸着前処理及び密着層設計が必要。熱履歴と応力割れを確認する。
代表的な成形条件

以下は材料群としての一般的な目安であり、特定グレードの絶対条件ではない。実際にはメーカーの加工条件表、成形機、スクリュー径、滞留量、製品形状、肉厚、ゲート及び要求外観に合わせて調整する。

項目単位代表範囲又は状態補助値補助単位備考
予備乾燥140~1503~5h材料群の一般的目安。乾燥空気露点及びペレット履歴で調整。
許容含水率%0.02以下シルバー、加水分解、外観不良防止の目安。メーカー値を優先。
シリンダー温度・供給部340~360グレード、機械サイズ、滞留時間で調整。
シリンダー温度・圧縮部350~380局所過熱及び長時間滞留を避ける。
シリンダー温度・計量部360~390高温対応設備を使用する。
ノズル温度350~390糸引き、滞留、固化を確認する。
樹脂温度360~400特定グレードの上限を超えない。
金型温度140~180外観、ウェルド、残留応力、寸法安定性に影響。
射出圧力MPa80~160製品形状・肉厚・ゲートにより大きく変動。
成形収縮率・流動方向%0.6~0.8非強化代表範囲。充填材入りは別管理。
成形収縮率・流動直角方向%0.6~0.8非晶性で比較的等方的だが、形状と流動で変化。
推奨肉厚mm1.0~4.0急激な肉厚差を避ける。
アニール条件により実施180~200残留応力低減目的。時間は肉厚に応じて設定し、メーカー推奨を優先。
接合・表面処理及び設計上の注意
  • 超音波溶着、振動溶着、熱板溶着及びレーザー溶着を検討できるが、グレード、着色、板厚、リブ形状及びエネルギーディレクター設計を確認する。
  • ねじ締結、圧入及び金属インサートでは、ボス根元の応力集中、クリープ、成形残留応力及び熱膨張差を考慮する。
  • 短時間の引張強さをそのまま設計許容応力に使用しない。温度、寿命、応力集中、滅菌回数、薬品及び安全率を考慮したクリープ設計が必要である。
  • 接着、塗装及び印刷では、IPA等による脱脂後、必要に応じてプラズマ又はコロナ処理を行う。処理液及び接着剤が環境応力割れを誘発しないことを確認する。
品質・成形不良
不良主な原因発生しやすい条件外観・性能への影響主な対策
シルバーストリークペレット吸湿、ガス発生乾燥不足、高温・長時間滞留銀条、強度低下乾燥条件と露点管理、滞留短縮
変色・黒点熱酸化、滞留炭化、汚染高温、デッドスペース、停止再開黄変、褐変、黒点温度低減、パージ、設備清掃、滞留管理
ウェルド強度低下低い樹脂温度・金型温度、ガス巻込み多点ゲート、薄肉、長流動割れ、外観線ゲート・ベント最適化、温度・速度調整
反り冷却差、残留応力、繊維配向不均一肉厚、低金型温度寸法不良均一肉厚、高温金型、保圧・冷却最適化
ガス焼けベント不足、過大射出速度流動末端、盲部焦げ、脆化ベント追加、射出速度段階制御
離型不良・割れ高い金型密着、抜き勾配不足、残留応力深リブ、鏡面、急冷白化、クラック抜き勾配、離型設計、金型温度・保圧調整

代表的な物性値又は機械的性質

数値は原則として非強化・無充填・標準グレードの代表値又は代表範囲である。試験規格、試験片厚さ、成形方向、乾燥状態、調湿条件及び製品グレードにより変動する。比較機能へ登録する場合は、代表値、下限値、上限値、単位、規格、材料状態及び信頼度を分離して扱う。

項目単位代表値代表範囲試験規格試験温度材料状態グレード区分信頼度
密度g/cm³1.291.28~1.31ISO 1183相当23℃絶乾又は成形直後非強化標準A~B
比重無次元1.291.28~1.31代表値23℃絶乾又は成形直後非強化標準B
吸水率・24時間%0.370.3~0.5ASTM D570相当23℃乾燥試験片、水中24h非強化標準B
成形収縮率・流動方向%0.70.6~0.8代表値成形条件依存成形直後非強化標準B
引張強さ・降伏MPa7068~75ISO 527又はASTM D638相当23℃乾燥状態非強化標準A~B
引張弾性率GPa2.32.2~2.5ISO 527相当23℃乾燥状態非強化標準A~B
引張破断伸び%6040~100ISO 527又はASTM D638相当23℃乾燥状態非強化標準B
曲げ強さMPa9590~110ISO 178又はASTM D790相当23℃乾燥状態非強化標準B
曲げ弾性率GPa2.42.2~2.6ISO 178又はASTM D790相当23℃乾燥状態非強化標準B
アイゾット衝撃強さ・ノッチ付きkJ/m²データなしグレード依存ISO 18023℃乾燥状態非強化標準
ガラス転移温度220218~223DSC又はDMA乾燥状態非強化標準A~B
融点該当なし該当なし非晶性非強化標準A
荷重たわみ温度・1.80 MPa207195~210ISO 75又はASTM D648相当乾燥状態非強化標準A~B
連続使用温度170160~180用途・認証依存長期使用非強化標準B
熱伝導率W/(m・K)0.350.30~0.40代表値23℃乾燥状態非強化標準C
線膨張係数10⁻⁵/K5.55.0~6.0流動方向代表23~100℃乾燥状態非強化標準B~C
体積抵抗率Ω・cm1×10¹⁶1×10¹⁵~1×10¹⁷IEC 60093相当23℃乾燥状態非強化標準B
絶縁破壊強さkV/mm2016~25IEC 60243相当23℃乾燥状態非強化標準B
比誘電率・1 MHz無次元3.43.3~3.6IEC 60250相当23℃乾燥状態非強化標準B
UL 94燃焼性等級V-0グレード・厚さ依存UL 94認定グレード非強化又は難燃A(個別認定時)
強化・改質グレードの代表傾向
グレード区分密度単位密度代表範囲弾性率単位弾性率代表範囲引張強さ単位引張強さ代表範囲注意点
GF20~30%g/cm³1.40~1.55GPa5~9MPa110~160透明性と衝撃性低下、異方性及び繊維浮きに注意。個別グレード値を使用する。
CF強化又は導電グレード依存データなしグレード依存データなしグレード依存データなし一般化困難。導電性、摩耗、繊維配向、食品・医療適合性を個別確認。
難燃性

PPSUは芳香族骨格及びスルホニル基を有し、本質的に難燃性が高い。UL 94 V-0を取得したグレードが存在するが、材料名だけで一律の等級を断定できない。試験片厚さ、色、添加剤、製造拠点及び認定番号を個別のUL Yellow Cardで確認する必要がある。限界酸素指数、GWIT、GWFI、発煙性及び燃焼ガスは、対象グレードの試験データを使用する。

比較用評価スコア
項目5段階評価評価理由
引張強度4非強化で約70MPa級であり、スーパーエンプラとして良好。
剛性3非強化で約2.3GPa。高剛性材料より低いが靭性とのバランスが良い。
衝撃強度5PPSUの代表的長所であり、低温及び反復滅菌後も高靭性を維持しやすい。
耐熱性5Tg約220℃、HDT約200℃級。
耐薬品性3水・酸・アルカリ・油に良好だが、極性溶剤には弱い。
耐候性2無安定・自然色では黄変に注意。耐候グレード又は遮光設計が必要。
耐加水分解性5熱水及び反復蒸気滅菌に優れる。
寸法安定性4非晶性・低収縮で良好だが、高温クリープと吸水を考慮。
低吸水性424時間吸水率は概ね0.3~0.5%で、PAより低いが無視はできない。
摺動性2標準グレードは摺動専用ではない。改質グレード又は実機試験が必要。
電気絶縁性5高温域でも良好な絶縁・誘電特性を示す。
難燃性5芳香族スルホン骨格により本質的難燃性が高く、V-0認定品が存在。
透明性4透明から半透明であるが淡い琥珀色を呈する。
成形加工性3射出・押出可能だが、高温設備と厳密な乾燥が必要。
切削加工性4素材形状から加工可能。発熱、応力、切欠きを管理する。
接着性3接着可能だが、表面処理と接着剤適合性の確認が必要。
リサイクル性3熱可塑性で再溶融可能だが、高温履歴、汚染、医療用途の分別が課題。
価格優位性1高価格帯のスーパーエンプラである。

耐薬品性

以下は一般的な非強化PPSUを対象とした選定初期段階の目安である。実際の耐薬品性は、濃度、温度、時間、浸漬又は短時間接触、応力、成形残留応力、洗浄剤中の界面活性剤及び添加剤によって変化する。

薬品名濃度温度接触条件評価主な劣化形態備考
23℃長期浸漬・無応力影響小吸水による微小な寸法変化を確認。
温水80~100℃長期浸漬・無応力影響小加水分解性は良好だが荷重・寿命を確認。
飽和水蒸気121~134℃反復滅菌色調変化、応力緩和の可能性サイクル数、洗浄剤、応力を含む実機試験が必要。
塩酸10%以下23℃浸漬・無応力条件により変色又は強度低下濃度・温度上昇時は要試験。
硫酸10%以下23℃浸漬・無応力条件により変色又は脆化濃硫酸・高温は避け、個別試験。
硝酸希薄23℃短時間酸化、変色、脆化濃度・温度・時間に強く依存。
酢酸10%以下23℃浸漬・無応力軽微な膨潤の可能性高濃度・高温は確認。
水酸化ナトリウム10%以下23℃浸漬・無応力影響小高温・高濃度では確認。
水酸化カリウム10%以下23℃浸漬・無応力影響小高温・高濃度では確認。
エタノール99%以下23℃浸漬・無応力応力下でクレージングの可能性残留応力を含め確認。
IPA99%以下23℃浸漬・無応力応力下でクレージングの可能性消毒用途は濃度・繰返し回数を確認。
グリセリン23~80℃浸漬影響小添加物を含む実液で確認。
MMB(3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール)23℃短時間膨潤・ESCの可能性公開データが限定的なため実測必須。
n-ヘキサン23℃浸漬影響小高温・応力条件を確認。
トルエン23℃短時間膨潤・応力割れ長時間接触を避け、実部品試験。
キシレン23℃短時間膨潤・応力割れ異性体混合物、温度、応力に依存。
アセトン23℃短時間表面荒れ、膨潤、ESC洗浄用途でも短時間評価が必要。
MEK23℃短時間×膨潤、軟化、応力割れ一般に不適。
酢酸エチル23℃短時間膨潤、ESC応力下で特に注意。
ジクロロメタン23℃短時間×溶解又は著しい膨潤不適。
NMP23℃短時間×溶解又は著しい膨潤PPSUの溶液加工に用い得る強溶剤。
DMAc23℃短時間×溶解又は著しい膨潤不適。
DMF23℃短時間×溶解又は著しい膨潤不適。
鉱物油・潤滑油23~100℃浸漬影響小添加剤、温度、酸化油で確認。
ガソリン・燃料23℃浸漬芳香族成分で膨潤の可能性燃料組成、温度、応力に依存。
ブレーキ液(グリコール系)23~80℃浸漬吸収・応力変化の可能性実液・温度・寿命で確認。
次亜塩素酸ナトリウム0.1~1%有効塩素23℃短時間洗浄酸化、変色の可能性濃度、pH、接触時間、繰返し回数を管理。
過酸化水素3~6%23℃短時間消毒酸化、変色の可能性高濃度・高温・金属触媒混入は要試験。
界面活性剤・洗剤使用濃度23~80℃繰返し洗浄添加成分によるESC製品処方全体で評価する。
SP値(溶解度パラメータ)

PPSUの代表的なHildebrand SP値は、資料及び推算法により差があるが、概ね23 MPa1/2前後を選定初期の参考値として扱うことができる。ただし、この値は単一パラメータによる参考値であり、データ信頼度はC程度と考えるべきである。

SP値差だけでは耐薬品性を判断できない。水素結合、極性、分子サイズ、結晶性、温度、応力、加水分解、酸化、環境応力割れ及び添加剤抽出を併せて評価する必要がある。

溶解性の目安
SP値差 Δδ(MPa1/2溶解・膨潤の目安判定
0~2膨潤・軟化しやすい×
2~5条件により膨潤する
5~8短時間接触では比較的安定
8以上溶解・膨潤しにくい
SP値から見た耐溶剤性

下表はPPSUの代表SP値を23.0 MPa1/2として単純差を求めた参考評価である。実際の薬品評価と一致しない例があるため、判定には実浸漬試験及び応力負荷下試験を優先する。

溶剤SP値 MPa1/2PPSUとの差SP差評価実務上の注意
アセトン20.0約3.0SP差だけでは△だが、実際には応力割れ・膨潤に注意。
MEK19.0約4.0実用上は不適となる場合が多い。
酢酸エチル18.6約4.4短時間でも応力下で注意。
トルエン18.2約4.8芳香族相互作用とESCを考慮。
IPA23.5約0.5×SP差では危険側だが、実際の耐性は比較的良好な場合がある。SP単独判定不可。
エタノール26.0約3.0水素結合成分差により実挙動は単純なδ差と異なる。
NMP23.1約0.1×強い溶解性を示し得る。
DMAc22.8約0.2×強い溶解性を示し得る。
ジクロロメタン20.2約2.8実際には溶解又は著しい膨潤の可能性が高い。
n-ヘキサン14.9約8.1非極性で一般に安定。
環境応力割れ(ESC)

PPSUはPSU等と比較して耐環境応力割れ性に優れる傾向があるが、残留応力、ノッチ、圧入、ねじ締結、急激な肉厚変化及び高温成形品では、溶剤又は洗浄剤との組合せによりクレージングや亀裂を生じ得る。薬品に接触する実部品は、成形条件を変えた試験片を用い、定ひずみ又は定荷重下で評価することが望ましい。

注意点・劣化及び故障モード
劣化現象主な原因発生しやすい条件影響予防策推奨確認試験
環境応力割れ極性溶剤、洗剤成分、残留応力成形品の高応力部、ノッチ、圧入部クレージング、亀裂、漏れ高温金型、アニール、応力低減、薬品変更定ひずみ又は定荷重ESC試験
熱酸化劣化高温、酸素、長時間滞留成形機内滞留、連続高温使用変色、分子量低下、脆化滞留短縮、温度管理、適切な安定化グレード熱老化後の強度・色差測定
蒸気滅菌劣化高温水蒸気、洗浄剤、反復応力121~134℃の多数サイクル色調変化、応力緩和、クラック医療グレード選定、応力低減、実サイクル評価実機オートクレーブ反復試験
紫外線劣化UV、酸素、顔料屋外曝露黄変、光沢低下、脆化耐候グレード、顔料、遮光キセノンアーク促進耐候試験
クリープ変形高温、持続荷重締結部、圧入部、配管内圧変形、緩み、漏れ長期許容応力設計、金属インサート、肉厚最適化温度・応力別クリープ試験
アウトガス残留低分子、添加剤、熱分解真空、高温、光学・半導体環境汚染、曇り、接点障害低アウトガスグレード、予備ベークTML/CVCM又は用途別アウトガス試験
法規制・認証
法規制・認証一般的な状況確認事項
RoHS・REACH・SVHC一般に対応可能なグレードが存在メーカー、色、添加剤、製造拠点ごとの適合証明書を確認する。
FDA食品接触適合グレードが存在食品種、温度、接触時間、繰返し使用条件を確認する。
EU食品接触規則適合グレードが存在EU 10/2011等への個別適合宣言を確認する。
日本食品衛生法・ポジティブリスト適合可能なグレードが存在対象ポリマー、添加剤、使用条件、事業者証明を確認する。
USP Class VI・ISO 10993医療用途向け個別グレードで対応例材料名だけでは適合を断定できない。滅菌方法と最終製品評価が必要。
UL認証V-0等の認定グレードが存在厚さ、色、グレード、温度定格、製造拠点をUL Yellow Cardで確認する。
PFAS関連PPSU骨格自体はフッ素を必須としない摺動改質等でフッ素系添加剤を含む場合があるため個別組成を確認する。
環境・リサイクル性及び供給性
  • PPSUは熱可塑性樹脂であり、理論上は再溶融及びマテリアルリサイクルが可能である。ただし、高温履歴による変色・分子量低下、異物、医療用途由来の衛生管理及び規制適合性を確認する。
  • 生分解性又はコンポスト適合材料ではない。PPSU骨格には硫黄及び酸素を含むため、焼却条件と排ガス処理を適切に管理する。
  • 価格区分は一般に「高価格」である。PSU、PC、PBT等より高価で、PEEKより低い場合が多いが、購入量、色、医療・食品認証、供給地域及び最小購入量で大きく変動する。
  • ペレット、板、丸棒、チューブ等が流通するが、少量調達性及び国内在庫はグレード・形状により異なる。

製法

PPSUは一般に、4,4′-ビフェノールと4,4′-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)を、炭酸カリウム等の塩基及び高沸点極性溶媒中で反応させる求核芳香族置換(SNAr)重縮合により製造される。スルホニル基により活性化された芳香族塩素にフェノキシドが求核攻撃し、芳香族エーテル結合が形成される。

PPSUの代表的な製造工程

代表反応は、n HO–C₆H₄–C₆H₄–OH + n Cl–C₆H₄–SO₂–C₆H₄–Cl → –[O–C₆H₄–C₆H₄–O–C₆H₄–SO₂–C₆H₄]ₙ– + 塩化物塩等、と概念的に表される。実際には副生水の除去、溶媒選定、末端封止、分子量制御、塩除去、析出・洗浄及び乾燥条件が品質を左右する。

代表的な製造工程
工程内容主な管理点
原料調製4,4′-ビフェノール、DCDPS、塩基及び高沸点極性溶媒を所定比率で仕込む。原料純度、等モル比、水分、金属イオン。
フェノキシド化ビフェノールを塩基でフェノキシド化し、副生水を除去する。水分除去、温度、塩基量。
重縮合高温でSNAr反応を進め、高分子量化する。粘度、温度履歴、撹拌、末端基、滞留。
末端封止・分子量調整単官能化合物又は原料比により末端基及び流動性を調整する。分子量分布、残留反応性末端。
析出・洗浄反応液からポリマーを析出し、溶媒、塩及び低分子を除去する。残留溶媒、イオン、洗浄効率。
乾燥・造粒乾燥後、必要に応じ添加剤・着色剤・強化材を溶融混練しペレット化する。熱劣化、黒点、異物、ペレット含水率。

詳細な利用用途

用途適性採用理由注意点
医療器具・滅菌部品高靭性、反復蒸気滅菌、透明性洗浄剤、消毒剤、滅菌回数、生体適合性を個別確認。
食品機械・飲料容器熱水、洗剤、耐衝撃、透明性食品接触認証、着色、臭気移行、繰返し洗浄を確認。
配管・継手・バルブ耐熱水、耐加水分解、寸法安定性内圧クリープ、薬液、ねじ・圧入応力を確認。
電気コネクタ・絶縁部品耐熱、絶縁、難燃、低収縮CTI、UL厚さ、金属インサート応力を確認。
航空機内装・輸送機器難燃、低発煙、衝撃性航空・鉄道規格は個別グレード・部品試験が必要。
ギア・軸受・ブッシュ靭性は高い標準PPSUは摺動専用ではない。PV値、摩耗、潤滑を確認。
ポンプ部品耐熱水、強度、寸法安定性薬液、キャビテーション、疲労、クリープを確認。
透明カバー透明性と高耐熱淡琥珀色、UV黄変、表面傷に注意。
自動車エンジンルーム耐熱、靭性燃料、油、冷却液、長期温度、コストを確認。
半導体・真空装置絶縁性、寸法安定性アウトガス、イオン汚染、プラズマ耐性は専用評価が必要。
フィルム・膜溶液又は溶融加工が可能溶剤回収、残留溶剤、厚み均一性を確認。
塗料・コーティング溶液化して耐熱膜を形成可能NMP等の強溶剤、安全・環境規制、基材攻撃性に注意。

用途適性は材料群としての一般的評価である。実使用では、グレード、荷重、温度、薬品、湿度、寿命、滅菌回数、法規制、寸法公差及び成形条件を確認する。

関連材料との比較

比較材料特徴PPSUとの違い・選定目安
ポリスルホン(PSU)透明、耐熱水、比較的加工しやすいPPSUの方が一般に耐衝撃性、耐ESC、反復蒸気滅菌耐久性に優れる。PSUはコスト面で有利な場合がある。
ポリエーテルスルホン(PESU)高Tg、高剛性、耐熱水、膜用途PESUは高温剛性、PPSUは靭性・衝撃性・反復滅菌耐久性を重視する選定が多い。
ポリエーテルイミド(PEI)高耐熱、透明、難燃、低発煙PPSUは熱水・蒸気・衝撃、PEIは剛性・航空電装・低発煙で選ばれる場合がある。
PEEK結晶性、最高水準の耐薬品・耐疲労・耐摩耗PEEKは有機溶剤、高温強度、摺動で優れるが高価。PPSUは透明性、成形収縮、蒸気滅菌、靭性で有利。
ポリフェニレンサルファイド(PPS)結晶性、低吸水、耐溶剤、難燃PPSは有機溶剤・寸法安定・価格で有利。PPSUは透明性、衝撃性、熱水・蒸気耐久性で有利。
ポリカーボネート(PC)透明、高衝撃、成形性、比較的低価格PPSUは耐熱、蒸気滅菌、耐加水分解で優れる。PCは光学透明性、価格、加工温度で有利。
液晶ポリマー(LCP)超薄肉、高流動、低吸水、高HDTLCPは薄肉精密・高周波部品、PPSUは等方性、靭性、透明性、耐蒸気で有利。

代表的なメーカー

メーカー代表製品・ブランド概要
Syensqo(旧Solvay Specialty Polymers)Radel® PPSU医療、配管、食品接触、航空等で広く用いられる代表的PPSUブランド。グレードごとの規制・滅菌・色・物性を確認する。
BASFUltrason® PPPSUの射出・押出・ブロー用途向けグレードを展開。高靭性、耐薬品性、過熱蒸気耐性を特徴とする。

メーカー名、事業主体、ブランド所有者及び供給グレードは再編等により変更される場合がある。採用時には最新の技術資料、SDS、規制適合証明書及び供給状況を確認する。

関連キーワード

ポリフェニルサルホン / PPSU / Polyphenylsulfone / スーパーエンジニアリング・プラスチック / ポリスルホン(PSU) / ポリエーテルスルホン(PESU) / ポリエーテルイミド(PEI) / PEEK / ポリフェニレンサルファイド(PPS) / 蒸気滅菌 / オートクレーブ / 環境応力割れ / 耐加水分解性 / 医療用プラスチック / 食品接触材料 / 射出成形 / 押出成形 / UL 94

用途決定前に推奨される確認試験
  • 実薬品浸漬試験:実使用濃度及び温度で24時間、168時間、500時間等を設定し、質量、寸法、外観、引張又は曲げ強度を測定する。
  • 環境応力割れ試験:実部品又はノッチ付き試験片へ設計ひずみを付与し、洗浄剤、消毒剤、溶剤又は燃料に接触させる。
  • 蒸気滅菌耐久試験:121℃又は134℃で、実際の乾燥工程及び洗浄工程を含む反復サイクルを行い、色差、クラック、寸法、強度及び溶着部を評価する。
  • 高温高湿・熱老化試験:使用上限温度付近及び85℃・85%RH等で、強度保持率、絶縁性、クリープ及び外観を評価する。
  • クリープ・内圧試験:設計温度、設計応力及び寿命を反映し、配管、ねじ締結、圧入及び荷重支持部を評価する。
  • 実成形試験:乾燥条件、樹脂温度、金型温度、滞留時間及びアニール条件を振り、残留応力、ウェルド強度、寸法及び外観を確認する。
  • 医療・食品用途では、滅菌後の溶出、生体適合性、臭気・味、残留物及び法規制適合を最終製品で確認する。
  • 真空・半導体・光学用途では、アウトガス、イオン汚染、曇り、粒子及びプラズマ耐久性を評価する。
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