| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 材料名 | 電子封止材用エポキシ |
| 略記号 | EMC、Epoxy Molding Compound、エポキシ封止材 |
| IUPAC | 単一高分子ではなく、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材、添加剤からなる熱硬化性複合材料であるため、厳密なIUPAC名は一義的に定まらない |
| 英語名 | Epoxy Encapsulant、Epoxy Molding Compound、Semiconductor Encapsulation Epoxy |
| 日本語名 | 電子封止材用エポキシ、半導体封止用エポキシ、エポキシモールド材、エポキシ封止材、エポキシ封止樹脂、EMC |
| 分類 | 熱硬化性樹脂、電子材料、半導体封止材料、複合材料 |
| プラスチック分類 | 熱硬化性プラスチック。汎用プラスチック、エンプラ、スーパーエンプラの分類とは別に、電子材料用機能性樹脂として扱われることが多い |
| 化学式または代表構造 | 代表的なビスフェノールA型エポキシ樹脂の構造単位:[-O-C6H4-C(CH3)2-C6H4-O-CH2-CH(OH)-CH2-]n。実際の電子封止材では、エポキシ樹脂、フェノール硬化剤、シリカ充填材などを含む複合系である |
| CAS No. | 混合物としては一義的に定まらない。代表的なビスフェノールA型エポキシ樹脂はCAS No. 25068-38-6、ビスフェノールF型エポキシ樹脂はCAS No. 28064-14-4が用いられることがある |
| 構造・主成分 | エポキシ樹脂、フェノール系硬化剤、硬化促進剤、溶融シリカ、球状シリカ、難燃成分、離型剤、カップリング剤、低応力化剤、イオン捕捉剤、着色剤など |
| 主な用途 | 半導体パッケージ、IC、LSI、パワー半導体、LED、センサー、車載電子部品、モジュール部品、コイル、基板実装部品の保護・絶縁・封止 |
概要
電子封止材用エポキシは、半導体チップ、ワイヤ、リードフレーム、基板実装部品などを外部環境から保護するために用いられる熱硬化性樹脂材料である。一般にはエポキシ樹脂単体ではなく、エポキシ樹脂を母材とし、フェノール系硬化剤、硬化促進剤、シリカなどの無機充填材、密着性向上剤、難燃成分などを配合した複合材料として使用される。
半導体封止用では、低吸湿性、耐熱性、電気絶縁性、低イオン性、低応力性、低反り性、耐はんだリフロー性が重要である。特に車載電子部品、パワー半導体、高密度パッケージ、BGA、CSP、SiP、FOWLPなどの用途では、熱伝導性、低線膨張係数、低アウトガス、ハロゲンフリー難燃性なども重視される。
一般のエポキシ樹脂と比較して、電子封止材用エポキシは高充填シリカによる寸法安定性、低膨張性、低吸湿性、耐熱信頼性に重点を置いた材料である。熱可塑性樹脂のように再溶融して再成形する材料ではなく、硬化反応により三次元架橋構造を形成するため、成形後の再加工性には制限がある。
特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 長所 | 電気絶縁性、接着性、耐熱性、耐湿信頼性、寸法安定性に優れる。シリカ高充填により低線膨張、低反り、高剛性化が可能である |
| 短所 | 熱硬化性であり再溶融成形ができない。硬化収縮、内部応力、吸湿後のリフロー膨れ、界面剥離、クラックに注意が必要である |
| 外観 | 黒色、灰黒色、淡色、透明または半透明の液状品などがある。半導体用EMCでは黒色または暗色のタブレット、顆粒、粉末が多い |
| 耐熱性 | 一般に良好である。ガラス転移温度は約120〜220℃程度、グレードにより250℃級の高耐熱品もある。連続使用温度は用途と信頼性条件により異なる |
| 耐薬品性 | 硬化後は水、油、弱酸、弱アルカリに比較的安定である。一方、強酸、強アルカリ、ケトン、塩素系溶剤、芳香族溶剤では膨潤、劣化、界面剥離を生じる場合がある |
| 加工性 | トランスファー成形、圧縮成形、液状封止、ポッティング、ディスペンス塗布に適する。熱硬化性のため、保存温度、ゲルタイム、硬化条件の管理が重要である |
| 分類上の注意 | 電子封止材用エポキシは単一樹脂名ではなく用途材料名である。液状エポキシ封止材、EMC、モールドアンダーフィル、ポッティング材などで配合と物性が大きく異なる |
構造式
化学式の画像
画像タグは使用せず、HTML本文内で代表構造を文字式として示す。白黒の構造式画像を別途作成する場合は、MS Pゴシック相当の読みやすいフォントで、エポキシ基、芳香環、硬化後のβ-ヒドロキシエーテル結合が分かるように表示するとよい。
代表的な構造単位
電子封止材用エポキシでは、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、クレゾールノボラック型、ビフェニル型、多官能型、脂環式などのエポキシ樹脂が使用される。代表的なビスフェノールA型エポキシ樹脂の構造は、以下のように表される。
CH2-CH-CH2-O-C6H4-C(CH3)2-C6H4-O-CH2-CH-CH2
上記の両末端にエポキシ基を有するジグリシジルエーテル型構造が代表例である。硬化剤との反応後は、エポキシ基の開環によりヒドロキシ基を含む三次元架橋構造を形成する。
モノマーまたは構成単位
| 構成成分 | 代表例 | 役割 |
|---|---|---|
| エポキシ樹脂 | ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、クレゾールノボラック型、ビフェニル型、多官能型 | 架橋構造の主骨格を形成し、接着性、耐熱性、絶縁性を付与する |
| 硬化剤 | フェノールノボラック、フェノールアラルキル樹脂、酸無水物、アミン系硬化剤 | エポキシ基と反応して熱硬化性の三次元網目構造を形成する |
| 充填材 | 溶融シリカ、球状シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム | 低熱膨張化、高剛性化、低吸湿化、熱伝導性付与を行う |
| 添加剤 | シランカップリング剤、離型剤、硬化促進剤、難燃剤、低応力化剤、着色剤、イオン捕捉剤 | 成形性、密着性、難燃性、保存安定性、信頼性を調整する |
代表的な硬化反応式
エポキシ基 + フェノール性水酸基 → β-ヒドロキシエーテル結合
R-CH-CH2-O(エポキシ環) + Ar-OH → R-CH(OH)-CH2-O-Ar
実際の封止材では、この反応が多官能エポキシ樹脂と多官能フェノール硬化剤の間で進行し、三次元架橋構造を形成する。硬化促進剤、温度、フィラー表面処理、樹脂骨格によりゲルタイム、硬化収縮、ガラス転移温度、密着性が変化する。
共重合体や変性グレード
電子封止材用エポキシには、低応力化のためにシリコーン変性、ゴム変性、フェノールアラルキル骨格、ビフェニル骨格、ナフタレン骨格などを導入したグレードがある。また、パワー半導体向けでは高熱伝導フィラーを配合した高熱伝導タイプ、高温信頼性を重視した高Tgタイプ、先端パッケージ向けの低反り・低弾性タイプなどが使用される。
種類
| 種類の名称 | 主成分または特徴 | 長所 | 短所 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| EMC | エポキシ樹脂、フェノール硬化剤、シリカを主成分とする固形封止材 | 生産性、寸法安定性、耐湿信頼性に優れる | 金型成形設備が必要で、再溶融成形はできない | IC、LSI、QFP、SOP、DIP、BGA、CSP |
| 液状エポキシ封止材 | 液状エポキシ樹脂、硬化剤、フィラーを配合した注入・塗布型材料 | 複雑形状や局所封止に適する | 粘度管理、気泡、硬化収縮に注意が必要である | センサー、コイル、基板部品、ポッティング |
| アンダーフィル材 | 低粘度エポキシを主成分とし、微細隙間に毛細管浸透する材料 | はんだバンプ部の応力緩和、接続信頼性向上に有効である | 流動性、ボイド、硬化条件の管理が難しい | フリップチップ、CSP、BGA、SiP |
| モールドアンダーフィル | 成形封止とアンダーフィル機能を兼ねるエポキシ系封止材 | 工程短縮、量産性向上が期待できる | 流動バランス、充填性、反り制御が難しい | FOWLP、FC-BGA、先端半導体パッケージ |
| 高熱伝導エポキシ封止材 | アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどを配合 | 放熱性に優れ、パワー素子に適する | 高充填により粘度上昇、成形性低下、工具摩耗が生じやすい | パワー半導体、LED、車載モジュール |
| 低応力エポキシ封止材 | 低弾性樹脂、低応力化剤、球状シリカなどを使用 | チップクラック、界面剥離、反りを抑制しやすい | 耐熱性や剛性とのバランス設計が必要である | 薄型パッケージ、大型チップ、BGA、CSP |
| 高耐熱エポキシ封止材 | 多官能エポキシ、ビフェニル型、ナフタレン型、フェノール系硬化剤など | 高Tg、高温信頼性、耐リフロー性に優れる | 硬化物が硬くなり、応力集中に注意が必要である | 車載電子、パワーデバイス、高温環境部品 |
代表グレード
| グレード区分 | 特徴 | 主な用途 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 汎用EMC | 標準的な成形性、絶縁性、耐湿性を持つ | 一般IC、リードフレーム系パッケージ | 高温・高湿・高電圧用途では信頼性確認が必要である |
| 耐熱グレード | 高Tg、耐リフロー性、高温保管安定性を重視 | 車載電子、パワー半導体、産業機器 | 硬化応力、界面密着性、クラックを確認する |
| 難燃グレード | UL94 V-0相当を狙う設計が多く、ハロゲンフリー品もある | 電子部品、基板実装部品、電源部品 | 難燃成分のイオン性、不純物、アウトガスを確認する |
| GF強化グレード | ガラス繊維を用いる構造用エポキシ系複合材料 | 積層板、絶縁板、構造用電子材料 | 半導体封止用EMCでは、一般にGFよりシリカ充填が中心である |
| 摺動グレード | 電子封止材としては一般的ではない | 摩耗部品よりも封止・絶縁用途が中心である | 摺動部品ではPTFE、POM、PEEKなどを検討する |
| 食品接触グレード | 電子封止用途では一般的ではない | 食品機械用センサーなど限定用途 | 食品衛生法、FDA、EU規則などは個別グレードで確認する必要がある |
成形加工
| 加工方法 | 適性 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 射出成形 | △ | 一般的な熱可塑性樹脂の射出成形とは異なり、熱硬化性樹脂用の特殊成形で対応する場合がある | ポットライフ、硬化反応、金型温度の管理が必要である |
| 押出成形 | × | 通常の連続押出成形には適さない | ペレット化やタブレット化は製造工程で行われるが、製品成形法とは異なる |
| ブロー成形 | × | 中空成形材料ではなく、ブロー成形には適さない | 熱可塑性樹脂とは加工原理が異なる |
| 圧縮成形 | ◎ | 顆粒状EMCや粉体材料を用いた圧縮成形に適する | 先端パッケージ、ウエハレベル封止では流動、ボイド、反りの管理が重要である |
| トランスファー成形 | ◎ | 半導体封止用EMCの代表的な成形法である | スパイラルフロー、ゲルタイム、金型汚れ、バリ、ワイヤ流れを確認する |
| 真空成形 | × | シート状熱可塑性樹脂の真空成形には該当しない | 真空脱泡、真空注型とは区別する |
| 液状注型・ポッティング | ◎ | 液状エポキシ封止材で適用される | 混合比、脱泡、粘度、硬化温度、発熱を管理する |
| ディスペンス封止 | ◎ | アンダーフィル、ダムアンドフィル、局所封止に用いられる | 塗布量、チキソ性、濡れ性、硬化収縮に注意する |
| 切削加工 | △ | 硬化物の切削、研削、ダイシングは可能である | フィラーによる工具摩耗、チッピング、粉じん管理が必要である |
成形条件
| 項目 | 代表値・目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 保管温度 | 5〜25℃程度 | 材料により冷蔵保管が指定される。吸湿、硬化進行、ブロッキングに注意する |
| 乾燥温度 | 40〜80℃、数時間程度 | EMCでは材料仕様に従う。過乾燥や吸湿戻りに注意する |
| シリンダー温度 | 一般的な熱可塑性樹脂のような管理はしない | 熱硬化性材料であり、射出成形用樹脂とは加工原理が異なる |
| 金型温度 | 160〜180℃程度 | トランスファー成形、圧縮成形の代表的な目安である |
| 成形圧力 | 5〜15MPa程度 | 金型、パッケージ、流動長、フィラー量により大きく異なる |
| 硬化時間 | 60〜180秒程度 | ゲルタイム、パッケージ厚み、金型温度により調整される |
| 後硬化 | 150〜180℃、2〜8時間程度 | 耐熱性、ガラス転移温度、残留応力、信頼性を安定化させる目的で行われる |
| 液状封止材の硬化条件 | 80〜150℃、30分〜数時間程度 | 一液型、二液型、低温硬化型、UV併用型などで大きく異なる |
| 成形収縮率 | 0.1〜0.5%程度 | 高シリカ充填品では低い傾向があるが、硬化収縮と熱収縮を分けて確認する |
代表的な物性値又は機械的性質
| 項目 | 単位 | 標準EMC | 高Tg・耐熱EMC | 高熱伝導EMC | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 密度 | g/cm3 | 1.8〜2.1 | 1.8〜2.2 | 2.1〜2.8 | フィラー種類と充填量により変化する |
| 比重 | – | 1.8〜2.1 | 1.8〜2.2 | 2.1〜2.8 | 密度とほぼ同じ目安で扱われることが多い |
| 引張強さ | MPa | 40〜80 | 50〜90 | 40〜80 | 硬化条件、温度、試験片形状で変動する |
| 伸び | % | 0.3〜1.5 | 0.2〜1.0 | 0.2〜1.0 | 熱硬化性高充填材料のため伸びは小さい |
| 曲げ強さ | MPa | 90〜160 | 100〜180 | 80〜160 | シリカ充填量により高剛性化する |
| 曲げ弾性率 | GPa | 10〜25 | 12〜30 | 15〜40 | 低応力品では低め、高充填品では高めとなる |
| アイゾット衝撃強さ | kJ/m2 | 2〜8 | 2〜6 | 1〜5 | 脆性材料でありノッチ感受性がある |
| 荷重たわみ温度 | ℃ | 150〜220 | 180〜260 | 170〜250 | HDTはTg、充填材、荷重条件に依存する |
| 融点 | ℃ | なし | なし | なし | 熱硬化性樹脂であり、明確な融点は示さない |
| ガラス転移温度 | ℃ | 120〜180 | 170〜230 | 150〜220 | DSC、TMA、DMAで測定値が異なる場合がある |
| 連続使用温度 | ℃ | 120〜150 | 150〜200 | 150〜200 | 実使用では封止構造、通電、湿度、使用時間で判断する |
| 吸水率 | % | 0.1〜0.4 | 0.1〜0.3 | 0.05〜0.3 | 85℃/85%RH、PCT、HASTなどの条件で評価される |
| 体積抵抗率 | Ω・cm | 10^14〜10^16 | 10^14〜10^16 | 10^13〜10^16 | 吸湿、温度、イオン性不純物により低下する場合がある |
| 誘電率 | – | 3.5〜4.5 | 3.5〜4.8 | 4.0〜7.0 | 1MHz付近の代表値。フィラー種類により変化する |
| 誘電正接 | – | 0.005〜0.025 | 0.005〜0.025 | 0.008〜0.035 | 高周波用途では周波数、温度、吸湿後の値を確認する |
| 線膨張係数 | ppm/K | 8〜20 | 8〜18 | 7〜18 | Tg以下の代表値。Tg以上では大きくなる |
| 熱伝導率 | W/m・K | 0.6〜1.2 | 0.7〜1.5 | 2〜8 | 高熱伝導品ではフィラー設計により大きく変わる |
複合材との比較
| 材料 | 密度 | 曲げ弾性率 | 熱伝導率 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 標準シリカ充填EMC | 1.8〜2.1g/cm3 | 10〜25GPa | 0.6〜1.2W/m・K | 半導体封止材として一般的なバランス型である |
| 高シリカ充填EMC | 1.9〜2.3g/cm3 | 15〜35GPa | 0.8〜1.5W/m・K | 低線膨張、低反り、寸法安定性に優れる |
| アルミナ充填エポキシ | 2.2〜3.0g/cm3 | 15〜40GPa | 2〜6W/m・K | 高熱伝導性を付与しやすいが、密度と粘度が高くなりやすい |
| 窒化ホウ素充填エポキシ | 1.8〜2.4g/cm3 | 10〜30GPa | 2〜10W/m・K | 絶縁性と熱伝導性の両立に使われる場合がある |
| GF強化エポキシ | 1.6〜2.0g/cm3 | 15〜35GPa | 0.3〜0.8W/m・K | 積層板や構造部材で使われるが、半導体EMCとは用途が異なる |
| CF強化エポキシ | 1.4〜1.7g/cm3 | 50GPa以上 | 方向により大きく異なる | 高剛性であるが導電性を持つため、絶縁封止材としては通常適さない |
吸水率の比較
耐薬品性
| 薬品分類 | 代表薬品 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 酸類 | 希塩酸、希硫酸、酢酸 | ○ | 短時間接触では比較的安定である。濃酸、高温、長時間では劣化する場合がある |
| 強酸 | 濃硫酸、濃硝酸、発煙酸 | × | 樹脂骨格の劣化、酸化、充填材界面の劣化に注意する |
| アルカリ類 | NaOH、KOH、水酸化ナトリウム水溶液 | △ | 低濃度では使用できる場合があるが、高温高濃度では加水分解や界面劣化が起こりやすい |
| 低級アルコール類 | メタノール、エタノール、IPA | ○ | 短時間洗浄では比較的安定である。吸湿、抽出、クラックを確認する |
| 高級アルコール類 | グリセリン、MMB、ブタノール | ○ | 膨潤は比較的小さいが、温度、時間、添加剤抽出に注意する |
| 芳香族炭化水素類 | トルエン、キシレン | △ | 架橋エポキシは溶解しにくいが、膨潤や界面浸透が起こる場合がある |
| 脂肪族炭化水素類 | ヘキサン、ヘプタン、ミネラルスピリット | ○ | 一般に比較的安定であるが、長期浸漬では重量変化を確認する |
| ケトン | アセトン、MEK、MIBK | △ | 膨潤、表面軟化、密着界面への浸透に注意する |
| エステル | 酢酸エチル、酢酸ブチル | △ | 短時間接触では使用できる場合があるが、封止界面への浸透に注意する |
| 塩素系溶剤 | ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン | × | 膨潤、クラック、抽出、環境規制の観点から使用は避けることが多い |
| 水・温水 | 純水、温水、85℃/85%RH環境 | ○ | 短時間では良好であるが、吸湿、イオン移動、界面剥離を評価する |
| 油 | 鉱物油、シリコーン油、潤滑油 | ◎ | 一般に良好である。ただし添加剤、酸化生成物、高温条件を確認する |
| 燃料 | ガソリン、軽油、アルコール混合燃料 | △ | 車載用途では燃料蒸気、温度サイクル、膨潤を確認する |
| フラックス洗浄剤 | IPA系、準水系洗浄剤、グリコールエーテル系 | ○〜△ | 洗浄条件、超音波、乾燥条件、残渣により評価が変わる |
SP値(溶解度パラメータ)
電子封止材用エポキシの代表的なSP値は、硬化エポキシ樹脂相として約18〜22MPa1/2程度である。実際のEMCはシリカなどの無機充填材を多量に含むため、樹脂単体のSP値だけで溶解性や耐薬品性を判断することはできない。
SP値は樹脂と溶剤の親和性を推定する目安であるが、電子封止材では架橋密度、フィラー量、シラン処理、吸湿、温度、内部応力、界面密着性、イオン性不純物が耐薬品性に大きく影響する。実使用では、封止体、リードフレーム、基板、チップ、ワイヤを含めた状態で評価する必要がある。
溶解性の目安
| SP値差 | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|
| 0〜2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2〜5 | 条件により膨潤する | △ |
| 5〜8 | 短時間接触では比較的安定 | ○ |
| 8以上 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP値から見た耐溶剤性
| 薬品名 | SP値 MPa1/2 | 硬化エポキシとの差 | 評価 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 水 | 47.9 | 約26〜30 | ○ | SP値差は大きいが、吸湿による絶縁低下、界面剥離に注意する |
| メタノール | 29.7 | 約8〜12 | ○ | 短時間接触では比較的安定だが、吸湿と抽出を確認する |
| エタノール | 26.0 | 約4〜8 | ○〜△ | 洗浄用途では時間、温度、乾燥条件を確認する |
| IPA | 23.5 | 約2〜6 | △ | 一般的な洗浄で用いられるが、長時間浸漬では膨潤や界面劣化を確認する |
| アセトン | 20.0 | 約0〜2 | ×〜△ | SP値が近く、表面軟化や膨潤に注意する |
| MEK | 19.0 | 約0〜3 | ×〜△ | 膨潤、クラック、密着界面への浸透に注意する |
| 酢酸エチル | 18.6 | 約0〜3 | △ | 硬化物は溶解しにくいが、封止界面では注意が必要である |
| トルエン | 18.2 | 約0〜4 | △ | 芳香族溶剤は膨潤や抽出を生じる場合がある |
| キシレン | 18.0 | 約0〜4 | △ | 高温、長時間では寸法変化と重量変化を確認する |
| ジクロロメタン | 20.2 | 約0〜2 | × | 膨潤性が高く、電子部品洗浄には通常適さない |
| ヘキサン | 14.9 | 約3〜7 | ○〜△ | 脂肪族炭化水素には比較的安定であるが、長期浸漬で確認する |
| シリコーンオイル | 約14〜16 | 約4〜8 | ◎〜○ | 一般に安定であるが、温度と添加剤を確認する |
評価基準:◎非常に良好、○概ね良好、△注意が必要、×不適。SP値差は目安であり、架橋樹脂では「溶解」よりも「膨潤」「クラック」「界面剥離」「絶縁低下」が問題になりやすい。
製法
原料
- エポキシ樹脂:ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、クレゾールノボラック型、ビフェニル型、多官能型など
- 硬化剤:フェノールノボラック、アラルキルフェノール樹脂、酸無水物、アミン系硬化剤など
- 無機充填材:溶融シリカ、球状シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなど
- 添加剤:硬化促進剤、シランカップリング剤、離型剤、難燃成分、低応力化剤、着色剤、イオン捕捉剤など
重合方法・硬化反応
電子封止材用エポキシでは、成形時または加熱硬化時にエポキシ基が硬化剤と反応し、三次元架橋構造を形成する。フェノール硬化系では、エポキシ基とフェノール性水酸基が開環付加反応を起こし、エーテル結合とヒドロキシ基を持つ架橋構造となる。
代表反応式:エポキシ樹脂 + フェノール硬化剤 → 架橋エポキシ硬化物
R-CH-CH2-O(エポキシ環) + Ar-OH → R-CH(OH)-CH2-O-Ar
ペレット化やコンパウンド
固形EMCでは、原料を計量し、予備混合、加熱混練、冷却、粉砕、ふるい分け、タブレット化または顆粒化を行う。半導体封止用では、金属異物、イオン性不純物、粒度分布、流動性、ゲルタイム、スパイラルフローの管理が重要である。
添加剤、充填材、強化材
溶融シリカや球状シリカは、低線膨張化、低吸湿化、成形収縮低減、剛性向上に使用される。高熱伝導用途では、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどが用いられる場合がある。シランカップリング剤は、樹脂と無機充填材、金属、チップ表面との界面密着性を改善するために使用される。
代表的な工程
| 工程 | 内容 | 管理項目 |
|---|---|---|
| 原料受入 | 樹脂、硬化剤、フィラー、添加剤を受け入れる | 水分、純度、粒度、金属異物、イオン性不純物 |
| 予備混合 | 粉体原料と樹脂成分を均一に混合する | 分散性、偏析、異物混入 |
| 加熱混練 | ロール、ニーダー、押出混練機などで混練する | 温度、粘度、硬化進行、フィラー分散 |
| 冷却・粉砕 | 混練物を冷却し、粉砕または顆粒化する | 粒度、粉じん、ブロッキング |
| タブレット化 | トランスファー成形用のタブレットに成形する | 寸法、重量、密度、流動性 |
| 成形・硬化 | 金型内で封止し、加熱硬化する | ボイド、ワイヤ流れ、バリ、未充填、密着性 |
| 後硬化 | 熱処理により硬化を進め、物性を安定化する | Tg、残留応力、吸湿性、信頼性 |
詳細な利用用途
| 分野 | 用途例 | 求められる特性 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 自動車 | ECU、センサー、パワーモジュール、インバータ、車載IC | 高温信頼性、耐湿性、熱サイクル性、低イオン性 | 150℃以上の長期使用、温度サイクル、振動、湿熱試験を確認する |
| 電気・電子 | IC、LSI、メモリ、ロジック、電源IC、BGA、CSP | 絶縁性、低吸湿、低反り、耐リフロー性 | パッケージ薄型化に伴う反り、剥離、クラックを確認する |
| 機械部品 | 電子制御部品、封止モジュール、樹脂封止センサー | 寸法安定性、耐薬品性、耐振動性 | 機械的衝撃や熱膨張差によるクラックに注意する |
| 医療 | 医療機器用センサー、計測回路、電子モジュール | 絶縁性、低アウトガス、安定性 | 生体適合性、滅菌条件、規制適合は個別材料で確認する必要がある |
| 食品機械 | 温度センサー、制御基板、検出器の封止 | 絶縁性、耐湿性、耐洗浄剤性 | 食品接触部では食品衛生法、FDA、洗浄剤耐性を確認する |
| 建築・設備 | 太陽光発電部品、電源モジュール、屋外センサー | 耐湿性、耐熱性、電気絶縁性 | 紫外線、結露、温湿度サイクル、屋外耐久性を確認する |
| 通信 | 5Gモジュール、高周波部品、光通信モジュール | 低誘電率、低誘電正接、寸法安定性 | 高周波特性は周波数、温度、吸湿により変化する |
| パワー半導体 | SiC、GaN、IGBT、MOSFET、ダイオード | 高Tg、高熱伝導、耐熱衝撃性、密着性 | 高温通電、熱応力、部分放電、絶縁破壊を確認する |
用途別選定
| 用途 | 推奨される材料タイプ | 重視する特性 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| IC封止 | 標準EMC、低イオンEMC | 流動性、絶縁性、耐湿性 | ワイヤ流れ、ボイド、未充填を確認する |
| BGA・CSP | 低反りEMC、低応力EMC | 低反り、低CTE、密着性 | 基板との熱膨張差、リフロー後剥離を確認する |
| アンダーフィル | 液状低粘度エポキシ | 浸透性、接着性、低応力性 | ボイド、硬化収縮、フラックス残渣に注意する |
| パワー半導体 | 高Tg・高熱伝導エポキシ | 耐熱性、熱伝導性、絶縁性 | 高温通電試験、温度サイクル試験で確認する |
| LED封止 | 透明エポキシ、シリコーン変性エポキシ | 透明性、耐熱性、黄変抑制 | 高出力LEDではシリコーン系が選ばれる場合も多い |
| コイル封止 | 液状ポッティングエポキシ | 含浸性、絶縁性、耐振動性 | 発熱、硬化収縮、クラックを確認する |
| センサー封止 | 低応力液状エポキシ、低アウトガス品 | 低応力、耐湿性、寸法安定性 | 感圧部、感湿部、光学部への影響を確認する |
| ギア・軸受 | 通常は対象外 | 摺動性、耐摩耗性 | 摺動用途ではPTFE、POM、PEEKなどを検討する |
| チューブ・フィルム | 通常は対象外 | 柔軟性、連続成形性 | 熱硬化性のため、押出チューブやフィルム用途には一般に適さない |
| 筐体・コネクタ | PBT、PPS、LCPなどとの併用が多い | 寸法安定性、耐熱性、電気特性 | エポキシ封止材は筐体材料ではなく封止・保護材料として扱う |
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | 対象材料との違い |
|---|---|---|
| エポキシ樹脂 | 接着性、絶縁性、耐薬品性に優れる熱硬化性樹脂 | 電子封止材用エポキシは、エポキシ樹脂を高充填・高信頼性用途に設計した複合材料である |
| シリコーン | 柔軟性、耐熱性、耐候性に優れる | エポキシより低応力であるが、一般に機械強度、接着性、バリア性はエポキシが優れる場合が多い |
| シリコーンゴム | 柔軟で熱衝撃に強い弾性材料 | パワーモジュールなどでは応力緩和に有利だが、硬質封止や寸法保持ではエポキシが有利である |
| ポリウレタン | 柔軟性、耐衝撃性、注型性に優れる | エポキシより柔軟だが、耐熱性、低吸湿性、高温絶縁性ではグレードにより制約がある |
| フェノール樹脂 | 耐熱性、難燃性、寸法安定性に優れる熱硬化性樹脂 | 封止材ではエポキシ硬化剤として使われることが多い。接着性や低応力設計ではエポキシ系が多用される |
| PBT | 電気部品、コネクタに多い熱可塑性ポリエステル | PBTは射出成形筐体に適し、エポキシ封止材は半導体・電子部品の保護封止に適する |
| PPS | 耐熱性、耐薬品性、寸法安定性に優れるスーパーエンプラ | PPSは成形部品用熱可塑性樹脂であり、エポキシ封止材は硬化後に再溶融しない封止材料である |
| PEEK | 高耐熱、高強度、耐薬品性に優れるスーパーエンプラ | PEEKは機械部品や絶縁部品に使われ、電子封止材用エポキシは半導体保護・絶縁封止に使われる |
代替材料比較
| 比較 | 選定の目安 | 注意点 |
|---|---|---|
| エポキシ封止材 vs シリコーン封止材 | 硬質封止、寸法保持、接着性を重視する場合はエポキシが選ばれやすい。低応力、耐熱衝撃、光学用途ではシリコーンが選ばれる場合がある | シリコーンはアウトガスや低分子シロキサン、エポキシは硬化応力と吸湿後リフローを確認する |
| エポキシ封止材 vs ポリウレタン封止材 | 高絶縁性、耐熱性、硬質封止ではエポキシが有利である。柔軟性、耐衝撃性ではポリウレタンが有利な場合がある | ポリウレタンは加水分解、エポキシはクラックと界面剥離に注意する |
| エポキシ封止材 vs PBT筐体 | 封止・保護にはエポキシ、成形筐体・コネクタにはPBTが適する | 用途が異なるため、封止材と成形部品材料を混同しない |
| エポキシ封止材 vs PPS筐体 | 高耐熱筐体やコネクタではPPS、半導体封止ではエポキシが適する | PPSは熱可塑性、エポキシは熱硬化性であり加工方法が異なる |
| エポキシ封止材 vs フェノール樹脂 | フェノール樹脂は耐熱・難燃性に優れるが、電子封止ではエポキシ系の接着性と低応力設計が利用されやすい | フェノール成分はエポキシ硬化剤として配合されることも多い |
難燃性・法規制・注意点
| 項目 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| UL94 | V-0相当を狙うグレードが多い | 厚み、色、フィラー、難燃設計により認定条件が異なる |
| 酸素指数 | 25〜35程度 | 配合により異なる。シリカ高充填により燃焼性は低下しやすい |
| RoHS | 鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBB、PBDE、フタル酸エステル類などを確認する | 電子部品用途では適合確認が一般に必要である |
| REACH | SVHC、制限物質、登録状況を確認する | 輸出先、サプライチェーン要求により確認する |
| 食品衛生・FDA | 食品接触可否、抽出物、使用温度を確認する | 電子封止材では一般用途ではなく、個別グレードで確認する |
| 医療用途 | 生体適合性、滅菌耐性、抽出物、低アウトガスを確認する | 医療機器用途では部品構成全体で確認する |
| 加水分解 | 強アルカリ、高温水蒸気、長時間の温湿度負荷では界面劣化や絶縁低下が起こる場合がある | 85℃/85%RH、PCT、HASTなどで確認する |
| 応力割れ | 硬化収縮、熱膨張差、チップサイズ、基板構造によりクラックや剥離が発生する場合がある | 低応力グレード、低反りグレードの検討が必要である |
| 吸湿 | 吸湿後のはんだリフローでは、ポップコーン現象や界面剥離に注意する | MSL管理、乾燥条件、保管条件を確認する |
| 熱劣化 | 高温通電、酸化、熱サイクルにより物性低下が生じる場合がある | 実使用温度、使用時間、通電条件で評価する |
| アウトガス | 低分子成分、シロキサン、塩素、硫黄成分などが問題になる場合がある | 接点障害、光学部品汚染、真空用途では個別確認が必要である |
代表的なメーカー
| メーカー | 代表製品・ブランド | 概要 |
|---|---|---|
| 住友ベークライト株式会社 | SUMIKON EME 代表例 | 半導体封止用エポキシ樹脂成形材料を展開する主要メーカーの一つである |
| レゾナック株式会社 | CELシリーズ 代表例 | リードフレーム、BGA、CSP、パワー半導体向けなどのエポキシモールド材を扱う |
| 京セラ株式会社 | Epoxy Molding Compounds 代表例 | 半導体用エポキシモールドコンパウンド、導電・絶縁材料などを扱う |
| パナソニック インダストリー株式会社 | LEXCM 代表例 | 半導体パッケージ封止材料、アンダーフィル、接着材料などを展開する |
| NAMICS株式会社 | アンダーフィル、ダムアンドフィル材料 代表例 | 半導体・電子実装向けの絶縁材料、導電材料、次世代実装材料を扱う |
| Henkel | LOCTITE、ECCOBOND 代表例 | 半導体・電子部品向けのエポキシ封止材、アンダーフィル、接着剤を展開する |
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