パーフロロエラストマー

概要

項目内容
材料名パーフロロエラストマー
略記号FFKM
IUPAC単一化学物質ではないため単一のIUPAC名は定義しにくい。一般には、主鎖及び置換基が実質的に全フッ素化されたポリメチレン型エラストマー群として扱われる。
英語名Perfluoroelastomer / Perfluorinated Elastomer / Perfluorocarbon Elastomer
日本語名パーフロロエラストマー、パーフルオロエラストマー、全フッ素ゴム、全フッ素化エラストマー
分類フッ素系合成ゴム、高機能エラストマー、架橋型エラストマー
プラスチック分類プラスチックではなく高機能ゴム材料に分類される。性能水準はスーパーエンジニアリングプラスチックと比較されることがあるが、材料分類としてはエラストマーである。
化学式または代表構造代表例:−[CF2−CF2]m−[CF2−CF(ORf)]n−。Rfはパーフルオロアルキル基であり、架橋サイトモノマーを共重合して三次元網目を形成する。
CAS No.FFKMは材料群であり単一CAS No.に統一できない。個別ポリマー、コンパウンド、架橋剤のCAS No.はメーカーSDSで確認する必要がある。
構造・主成分TFE(テトラフルオロエチレン)とPAVE(パーフルオロアルキルビニルエーテル、例:PMVE)等を主体とし、架橋可能な少量のサイトモノマーを導入した全フッ素化共重合体である。フッ素含有率は製品群により異なるが、一般にFKMより高い。
主な用途Oリング、ガスケット、バルブシール、メカニカルシール、半導体製造装置シール、化学プラント、石油・ガス、航空宇宙、高温薬液設備、分析・医療機器の高信頼シール。

パーフロロエラストマー(FFKM)は、炭化水素系ゴムの水素原子を実質的にフッ素原子で置換した高フッ素含有の架橋型エラストマーである。代表的にはTFEとPAVEを共重合し、さらに架橋サイトを導入して加硫する。C−F結合の高い結合エネルギーと、全フッ素化骨格による低い化学反応性により、酸、アルカリ、アミン、炭化水素、燃料、ケトン、エステル、多くの有機溶剤に対して極めて広い耐薬品性を示す。

最大の特徴は、PTFEに近い広範な耐薬品性と、ゴム材料としての弾性シール性を両立する点である。一般的な市販グレードの連続使用温度はおおむね200~300℃級であり、高耐熱グレードでは300℃を超える使用温度が示される例もある。ただし、耐熱上限はコンパウンド、架橋系、シール形状、圧縮率、薬品、圧力、時間によって大きく変化する。

一方、FFKMは極めて高価であり、低温柔軟性、機械強度、耐摩耗性、加工性の全てが常に最良とは限らない。半導体向けでは低アウトガス、低金属、耐プラズマ、低パーティクル性、湿式薬液耐性などがグレードごとに最適化される。実使用では「FFKM」という材料名だけで選定せず、対象薬品の濃度、温度、圧力、応力、プラズマ種、使用時間、滅菌条件、法規制を個別に確認する必要がある。

特徴

項目概要設計・選定上の注意
長所最高水準の耐薬品性、高温シール性、耐オゾン性、耐候性、低ガス透過性、耐燃料性、低吸水性を持つ。強薬品と高温を同時に受けるシール用途で特に有効である。グレードによって耐アミン、耐蒸気、耐プラズマ、低アウトガス性が異なる。
短所極めて高価格であり、低温性、加工性、引裂・摩耗特性はグレード依存が大きい。汎用FKMで十分な用途にFFKMを用いると過剰品質になりやすい。ライフサイクルコストで判断する。
外観黒色、白色、クリーム色、半透明など。充填材、架橋系、高純度仕様により外観が異なる。色だけで組成や耐薬品性を判断しない。
耐熱性一般に非常に高い。代表的な連続使用温度は200~300℃級で、特殊グレードでは300℃超の例がある。高温では圧縮永久ひずみ、応力緩和、熱酸化、媒体との複合劣化を確認する。
耐薬品性エラストマー中で最上位クラス。酸、塩基、燃料、油、ケトン、エステル等へ広く耐える。溶融アルカリ金属、一部高温フッ素化媒体、強い求核剤、プラズマ等ではグレード選定が必要である。
加工性ゴム混練後、圧縮・トランスファー・射出成形等で加硫する。熱可塑性樹脂のように再溶融成形できない。ポストキュア条件は高純度性・圧縮永久ひずみに大きく影響する。
分類上の注意FFKMはASTM D1418で用いられる材料記号であり、FKMとは区別される。「フッ素ゴム」の総称の中にFKM、FEPM、FFKM等が含まれる場合があるため、仕様書では略号まで明記する。

構造式

FFKM パーフロロエラストマーの代表構造式

FFKMは単一の繰り返し単位だけで表せる材料ではなく、TFE由来の−CF2−CF2−単位と、PAVE由来の−CF2−CF(ORf)−単位を主体とする共重合体が代表的である。PAVEにはPMVE等が用いられ、さらに架橋反応を可能にする少量のサイトモノマーが導入される。

構成要素代表的な構造役割
TFECF2=CF2耐熱性、耐薬品性の高い全フッ素化主鎖を形成する。
PAVE(例:PMVE)CF2=CF−ORfゴム弾性、低温性、共重合性、加工性の調整に寄与する。
架橋サイトモノマーメーカー・グレード依存過酸化物系等の架橋反応点を導入し、三次元ネットワークを形成する。

種類・代表グレード

種類・グレード区分主成分・改質方法長所短所・注意主な用途
汎用FFKMTFE/PAVE系+標準架橋系耐薬品性、耐熱性、圧縮永久ひずみのバランスが良い。価格が非常に高い。低温限界は通常FKMより必ずしも優れない。化学設備、バルブ、ポンプ、メカニカルシール。
超耐熱グレード高耐熱ポリマー設計+高耐熱架橋系300℃級又はそれ以上の高温シールに対応する例がある。低温性や一部薬品適合性とのトレードオフがあり得る。高温化学プロセス、航空宇宙、石油・ガス。
耐アミン・耐塩基グレード架橋系、共重合組成を塩基環境向けに最適化アミン、アンモニア、アルカリ水溶液に対する耐久性を高める。すべての高温蒸気・プラズマ条件に万能ではない。化学プラント、油田薬品、洗浄設備。
耐蒸気・熱水グレード加水分解・高温水環境向け架橋設計高温蒸気での物性保持と圧縮シール性を重視する。条件によって体積変化や圧縮永久ひずみが進行する。蒸気配管、SIP設備、化学プロセス。
半導体ドライプロセス用低金属・低アウトガス配合、耐プラズマ設計低パーティクル、低アウトガス、耐F/O系プラズマ。プラズマ種と温度によって侵食速度が大きく異なる。Etch、CVD、ALD、PVD、チャンバーシール。
半導体ウェットプロセス用高純度配合、薬液耐性重視酸、アルカリ、酸化剤、洗浄液に対する低抽出性を狙う。高温強酸化剤では個別評価が必要である。Wet Etch、洗浄、CMP周辺、薬液供給。
食品・医薬対応グレード抽出物、充填材、配合剤を規制用途向けに管理FDA、3-A、USP Class VI等へ適合する製品例がある。材料群全体の適合ではない。色、サイズ、製造拠点を含む証明書確認が必要である。食品設備、医薬・バイオプロセス、分析機器。
低摩擦・耐摩耗グレードPTFE等のフッ素系充填材を配合する例摩擦・摩耗、パーティクル、摺動性を改善できる。フィラーは清浄度、プラズマ侵食、硬度へ影響する。動的シール、半導体搬送、摺動シール。

成形加工

加工方法適性理由主な注意点
射出成形専用コンパウンドでは量産成形が可能である。金型温度、スコーチ、滞留時間、加硫速度をグレード別に管理する。
圧縮成形Oリング、ガスケット等で一般的な加工法である。成形圧、金型温度、一次加硫、ポストキュア条件を管理する。
トランスファー成形複雑形状やインサートシールに適する。流動長、ウェルド、スコーチを確認する。
押出成形専用配合では可能であるが、一般的な熱可塑押出とは異なる。未加硫ゴムの流動性と連続加硫条件が必要である。
ブロー成形×架橋ゴムであり、熱可塑性ブロー成形には適さない。中空部品は他材料又は成形後接合を検討する。
インフレーション成形×フィルム用熱可塑溶融成形材料ではない。PFA、FEP、ETFE等を比較する。
Tダイフィルム成形×通常の溶融フィルム成形には適さない。薄膜用途はフッ素樹脂を比較する。
真空成形×熱可塑性シートではない。該当なし。
圧空成形×熱可塑性シートではない。該当なし。
3Dプリント一般的な市販FFKMの標準加工法ではない。特殊材料・研究用途を除き一般化困難である。
切削加工加硫成形品の仕上げ加工は可能である。軟質・弾性材料のため寸法保持とバリに注意する。
接着剤接合低表面エネルギーのため未処理では難しい。プラズマ、化学処理、専用プライマー、接着剤選定が必要である。
インサート成形金属等への一体シール部品が可能である。金属前処理、接着系、熱膨張差、残留応力を管理する。
成形条件の一般的な目安
項目単位一般的な目安備考
予備乾燥通常は樹脂ペレットのような乾燥管理ではない未加硫コンパウンドは保管温度、保管期限、吸湿・汚染防止をメーカー指示に従う。
金型温度150~200代表的な加硫成形域の目安。架橋系で大きく異なる。
一次加硫時間min数分~数十分製品肉厚、金型温度、架橋速度による。
ポストキュア温度200~300級段階昇温を用いる場合がある。過度の昇温は変形や表面劣化に注意する。
ポストキュア時間h数時間~数十時間低アウトガス、高温圧縮永久ひずみ、揮発分低減に重要。グレード固有条件を優先する。
成形収縮率%データなしコンパウンド、金型、加硫・ポストキュアで変動が大きく、材料群として一般化困難である。
接合・表面処理適性
方法適性概要
熱板溶着×架橋ゴムのため再溶融溶着はできない。
超音波溶着×熱可塑性樹脂のような溶融接合には適さない。
レーザー溶着×通常の樹脂溶着用途には適さない。
接着剤接合専用プライマー、表面活性化、接着系の組合せで可能である。
機械締結ガスケット等ではフランジ締結が一般的である。締付率とクリープ・応力緩和を管理する。
プラズマ処理接着性向上に有効な場合があるが、処理条件が強すぎると表面劣化・エッチングが生じる。
プライマー処理金属接着や二次接着で一般的に検討される。

代表的な物性値又は機械的性質

以下はFFKM材料群の比較用代表範囲である。特定メーカーの単一グレード値ではなく、主として市販高性能シール用FFKMの公開データ範囲を整理したものである。比較用数値は非強化・一般的なコンパウンドを想定するが、FFKMは充填材・架橋系の影響が大きく、実設計では必ず対象グレードのTDSを優先する。

物理・機械特性
項目単位代表値代表範囲データ信頼度備考
密度g/cm³1.951.85~2.05B充填材、色、架橋系により変動する。
比重1.951.85~2.05B23℃付近の概略。
硬度Shore A7570~95A市販シール材では70~90台が多い。DuPont公表例では75及び91。
引張強さ・破断MPa1810~22AASTM D412等。配合、硬度、試験片で変動する。
引張破断伸び%150100~200ADuPont公表例では125~160%等。
100%モジュラスMPa117~17A硬度、充填材、架橋密度で変動する。
圧縮永久ひずみ 70 h・204℃%1510~30AASTM D395系。試験片形状で結果が異なる。高耐熱グレード例を含む。
引裂強さkN/mデータなしグレード依存Cシール設計ではノッチ・バリ・組付け傷に注意する。
吸水率・24時間%データなし一般に低いCFFKMは低吸水性であるが、統一条件の材料群代表値は一般化しない。
熱的・電気的性質
項目単位代表値代表範囲データ信頼度備考
ガラス転移温度-5-20~0BPAVE組成により低温性が変化する。低温特殊グレードは別範囲となる。
融点該当なし該当なしA架橋エラストマーであり、熱可塑性樹脂の明確な融点による再溶融成形は行わない。
連続使用温度275200~300A材料群の一般的目安。特殊品では300℃超の公表例がある。
短時間耐熱温度データなし300超の例ありB時間、薬品、圧力、圧縮率で変化する。
低温使用限界-15-40~-5B低温グレードを含めると範囲が広い。シール復元性はTR10等で確認する。
熱伝導率W/(m・K)データなしグレード依存C充填材依存が大きい。
線膨張係数10⁻⁵/Kデータなしグレード依存Cシール溝設計では金属との熱膨張差を確認する。
体積抵抗率Ω・cmデータなしグレード依存Cカーボンブラック配合では導電性が上がる場合がある。
比誘電率・1 MHzデータなしグレード依存C周波数・温度・配合依存。
燃焼性・難燃性
項目代表的傾向注意
UL 94グレード依存FFKMという材料名だけでV-0等を断定しない。認証グレード、色、厚さごとにUL Yellow Card等を確認する。
限界酸素指数(LOI)データなし高フッ素含有により一般に燃焼しにくいが、統一代表値は一般化しない。
燃焼時の主な発生ガスフッ素系分解生成物過熱・火災・不適切な焼却ではHF等の有害な分解生成物が生じ得るため、局所排気・保護具・廃棄基準を確認する。
ハロゲン含有あり(フッ素)一般的な「ハロゲンフリー」用途には該当しない。
比較用評価スコア
評価項目スコア評価理由
引張強度3シール材として十分な強度を持つが、高強度樹脂・PU等と比較すると標準的である。
剛性1エラストマーであり、構造剛性を目的とする材料ではない。
衝撃強度4ゴム弾性により衝撃吸収性は高いが、規格化された樹脂衝撃値での単純比較は不適切である。
耐熱性5エラストマー中で最高水準である。
低温特性2一般FFKMは低温柔軟性が主目的ではなく、特殊低温グレードを除くとVMQ等に劣る。
耐薬品性5エラストマー中で最上位クラスであり、PTFEに近い範囲を狙える。
耐候性5UV、オゾン、酸化環境に一般に強い。
耐加水分解性5一般に非常に高いが、高温蒸気では専用グレード確認が必要である。
寸法安定性3吸水は低いが、ゴム弾性、熱膨張、圧縮永久ひずみを設計に含める必要がある。
低吸水性5全フッ素化骨格により一般に低い。
摺動性4フッ素系材料として比較的良好。専用低摩擦配合ではさらに改善する。
耐摩耗性3配合依存が大きく、動的シールでは専用グレードが必要である。
電気絶縁性4未導電配合では良好だが、カーボンブラック等の影響を受ける。
難燃性5高フッ素含有で燃焼しにくい傾向。ただしUL認証はグレード別確認が必要である。
透明性1一般にシールコンパウンドであり、透明材料用途ではない。
成形加工性2加硫、ポストキュア、専用設備が必要であり、熱可塑性樹脂より工程負荷が高い。
切削加工性2弾性体のため高精度切削には不向きである。
接着性1低表面エネルギーのため未処理接着は難しい。
リサイクル性1架橋体で再溶融できず、マテリアルリサイクルは難しい。
価格優位性1エラストマー中でも極めて高価格である。

耐薬品性

FFKMの耐薬品性は一般に非常に高いが、以下は材料群としての代表評価である。温度、濃度、接触時間、圧力、応力、架橋系、充填材により結果は変化する。特に高温アミン、高温蒸気、強酸化剤、フッ素系プラズマ等は専用グレードの確認が必要である。

分類薬品名濃度温度接触時間応力評価主な劣化形態備考
23℃長期影響小一般に非常に良好。
温水温水80~100℃長期圧縮永久ひずみ高温長期ではシール力保持を確認する。
水蒸気飽和蒸気150~260℃級条件依存体積変化、シール力低下耐蒸気専用グレードを推奨。
無機酸塩酸~35%23℃長期影響小高温・加圧条件は個別確認。
無機酸硫酸~98%23℃長期影響小発煙硫酸、高温条件は個別確認。
無機酸硝酸~60%23℃長期酸化劣化の可能性高濃度・高温では酸化性を考慮する。
有機酸酢酸100%23℃長期影響小一般に良好。
強アルカリ水酸化ナトリウム10~50%23℃長期影響小高温濃厚アルカリでは専用品確認。
強アルカリ水酸化カリウム10~50%23℃長期影響小高温では架橋系依存。
弱アルカリアンモニア水~28%23℃長期膨潤、架橋系への影響耐アミン系グレードを優先する。
アミンMEA、DEA等実液23~150℃長期膨潤、硬化、シール力低下高温アミンはグレード差が大きい。
低級アルコールエタノール100%23℃長期影響小一般に良好。
低級アルコールIPA100%23℃長期影響小半導体洗浄用途でも候補となる。
多価アルコールグリセリン100%23℃長期影響小一般に良好。
高級アルコールMMB(3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール)100%23℃長期影響小実液評価を推奨。
ケトンアセトン100%23℃長期影響小FKMとの差が大きい代表溶剤。
ケトンMEK100%23℃長期影響小一般に良好。
エステル酢酸エチル100%23℃長期影響小一般に良好。
エーテルTHF100%23℃長期膨潤の可能性FFKMでも配合差を確認する。
芳香族炭化水素トルエン100%23℃長期影響小一般に非常に良好。
脂肪族炭化水素n-ヘキサン100%23℃長期影響小一般に非常に良好。
ハロゲン化炭化水素ジクロロメタン100%23℃長期膨潤の可能性グレード別実浸漬を推奨。
燃料ガソリン、芳香族含有燃料実液23~100℃長期影響小燃料種、添加剤、バイオ成分を確認する。
潤滑油鉱物油・合成油実液23~200℃長期シール力低下高温油では添加剤との相互作用を確認する。
ブレーキ液グリコール系実液23~150℃長期影響小実液評価を推奨。
冷却液EG/水50/5080~150℃長期シール力低下防錆剤、pH、温度を確認する。
界面活性剤非イオン・アニオン系洗浄剤実用濃度23~80℃長期抽出・膨潤の可能性混合溶剤を含む洗浄剤は実液評価する。
酸化剤過酸化水素3~35%23~80℃長期酸化、体積変化高純度・半導体用途は専用グレードを確認。
次亜塩素酸塩次亜塩素酸ナトリウム0.01~12%23℃長期酸化劣化有効塩素濃度、pH、温度で評価する。
塩水NaCl水溶液3.5%23~80℃長期影響小金属側腐食との組合せに注意する。
食品油植物油100%23~180℃長期影響小食品接触規制はグレード別確認。
SP値(溶解度パラメータ)

FFKMは架橋された全フッ素化エラストマーであり、通常の熱可塑性ポリマーや低分子液体のように「溶解してSP値を求める」扱いが困難である。公開一次資料で材料群全体に適用できる代表Hildebrand SP値又はHansen HSP値を確認できないため、本ページでは比較機能用の確定値を設定しない。

したがって、FFKMの耐薬品性をSP値差だけで推定することは推奨しない。実務では、メーカーの浸漬データ、体積膨潤率、硬度変化、引張保持率、圧縮シール力、温度、圧力、時間、架橋系を優先する。

溶解性の目安
SP値差溶解・膨潤の目安判定
0~2膨潤・軟化しやすい×
2~5条件により膨潤する
5~8短時間接触では比較的安定
8以上溶解・膨潤しにくい

上表は一般的な非架橋ポリマーの溶解・膨潤予測に用いられる簡易目安であり、FFKMへ直接適用できる保証はない。FFKMは架橋体であるため通常は「溶解」よりも体積膨潤、硬度変化、架橋構造の劣化として現れる。

SP値から見た耐溶剤性
溶剤SP値 δ単位FFKMとのSP値差実務評価
n-ヘキサン14.9MPa1/2算出せず
トルエン18.2MPa1/2算出せず
酢酸エチル18.2MPa1/2算出せず
MEK19.0MPa1/2算出せず
アセトン19.9MPa1/2算出せず
IPA23.5MPa1/2算出せず
エタノール26.0MPa1/2算出せず
47.9MPa1/2算出せず

FFKMの確定SP値を設定していないため、SP値差は意図的に算出していない。上記溶剤のSP値は溶剤側の比較情報であり、耐薬品性評価は公開されているFFKMの耐薬品傾向を優先した。評価基準は◎:非常に良好、○:概ね良好、△:注意が必要、×:不適である。

環境応力割れ・長期シール挙動

FFKMはPCやPSのような典型的なESC材料ではないが、シール部品では圧縮応力、引張応力、ノッチ、押出し隙間、急減圧、高温媒体が同時に作用する。したがって「薬品浸漬で膨潤が小さい」だけでは適合判断できない。高圧ガスではRapid Gas Decompression(RGD)、高温では圧縮応力緩和、動的シールでは摩耗・発熱を評価する必要がある。

製法

FFKM パーフロロエラストマーの代表的な製造工程

代表的にはTFEとPAVE、架橋サイトモノマーをフッ素系ポリマーの重合技術により共重合し、得られた高分子を凝析、洗浄、乾燥してベースポリマーを得る。その後、架橋剤、必要に応じて補強材、充填材、加工助剤等を混練し、圧縮成形、トランスファー成形又は射出成形で一次加硫する。

代表的な反応概念は、m CF2=CF2 + n CF2=CF−ORf → −[CF2−CF2]m−[CF2−CF(ORf)]n− である。ただし、実際には架橋サイトモノマーを含み、分子量、共重合組成、末端基、乳化剤、開始剤、架橋系はメーカー固有技術を含む。

一次加硫後は高温ポストキュアを実施することが多い。ポストキュアは架橋反応の完結、揮発成分低減、圧縮永久ひずみ改善、半導体用途でのアウトガス低減等に寄与する。高純度グレードでは、低金属、低イオン、低抽出物、低パーティクル化のために配合材や洗浄工程が特別に管理される。

品質・成形不良
不良材料側の要因成形条件側の要因主な対策
気泡・ボイド揮発分、混練時の巻込み急加熱、排気不足、加圧不足真空脱気、予熱、成形圧、ポストキュア昇温条件を見直す。
バリ低粘度配合、加硫前流動性型締力不足、パーティング精度金型クリアランス、型締、投入量、温度を調整する。
欠け・クラック高硬度、低伸び配合離型時応力、急冷、アンダーカット離型設計、金型表面、加硫条件、取出し温度を見直す。
変色配合剤、熱履歴過加熱、長時間ポストキュア温度均一化、酸素雰囲気、昇温プロファイルを管理する。
寸法ずれ架橋収縮、充填材差金型温度、ポストキュア収縮ロット・金型補正値を管理し、最終ポストキュア後寸法で保証する。
表面汚染充填材、加工助剤、異物金型汚染、取扱い汚染クリーン環境、専用治具、洗浄、包装管理を行う。
寸法精度・設計特性
  • ゴムシールであるため、樹脂の寸法公差設計とは異なり、圧縮率、溝充填率、熱膨張、体積膨潤を同時に管理する。
  • 高温では圧縮永久ひずみと応力緩和がシール寿命を支配するため、短時間引張強さを設計許容応力として使用しない。
  • 圧力が高い場合は押出し隙間によるニブリングを防ぐため、硬度、バックアップリング、溝寸法を検討する。
  • 高圧ガスではRGD耐性を確認し、急減圧速度を含む実条件試験を行う。
  • 半導体用途では寸法だけでなく、パーティクル、金属、イオン、アウトガス、プラズマ侵食量を管理する。
注意点・劣化故障モード
劣化現象主な原因発生しやすい条件外観・性能への影響予防策推奨確認試験
圧縮永久ひずみ高温長期圧縮、架橋緩和200℃超、長時間、過大圧縮復元不足、漏れ高耐熱グレード、適正圧縮率、温度低減ASTM D395相当、実溝シール力保持試験
膨潤薬品吸収、配合剤との親和性高温溶剤、混合液寸法増加、硬度低下実液適合グレード選定23/80/150℃等で168~1000h浸漬、体積・硬度・引張保持率
熱劣化主鎖・架橋点の分解温度上限付近、酸化雰囲気硬化、亀裂、シール力低下温度マージン確保熱老化1000h以上、圧縮応力緩和
プラズマ侵食F/O/N系ラジカル、イオン衝撃半導体ドライプロセス質量減少、パーティクル、表面荒れプラズマ専用グレード実プラズマ暴露、質量減少、粒子数、表面分析
アウトガス残留低分子、配合剤真空・高温汚染、歩留まり低下高純度配合、適正ポストキュアTML/CVCM、GC-MS、実チャンバー評価
RGD損傷溶解ガスの急膨張高圧CO₂、H₂S、天然ガスの急減圧内部亀裂、ブリスターRGD対応グレード、減圧速度管理NORSOK M-710 / ISO 23936等を用途に応じ確認
摩耗摺動、相手材粗さ、潤滑不足動的シール、高速軸摩耗粉、漏れ低摩擦配合、相手材・潤滑最適化摩耗量、摩擦係数、実軸シール耐久試験
推奨確認試験
  • 実薬品浸漬試験:実使用濃度で23℃、使用温度、上限温度の3条件を設定し、168h、500h、1000h等で体積変化、質量変化、硬度、引張保持率を確認する。
  • 圧縮永久ひずみ・シール力保持試験:実溝圧縮率で使用温度×100~1000h以上を評価する。
  • 高温高湿・熱水・蒸気試験:SIP等では実温度・圧力・サイクル数を再現する。
  • プラズマ耐久試験:半導体用途では実ガス種、RF条件、温度、時間で質量減少、パーティクル、表面粗さ、シール力を評価する。
  • アウトガス試験:真空・高温用途ではTML/CVCM、GC-MS又は実装置による汚染評価を行う。
  • 高圧ガス用途ではRGD試験を行い、減圧速度、圧力、温度、ガス組成を実条件に合わせる。
法規制・認証
規制・認証一般的な扱い確認事項
RoHS対応可能なグレードが存在FFKM材料名だけで適合を断定せず、製品別証明書を確認する。
REACH / SVHC個別確認ポリマー本体、配合剤、製造助剤、更新されたSVHC候補リストを確認する。
PFAS関連規制重要な検討対象FFKMはフッ素系高分子であり、地域・用途によりPFAS規制の定義や除外条件の影響を受け得る。2026年時点の最新法令、用途別適用除外、サプライヤー声明を必ず確認する。
TSCA個別確認米国輸出ではポリマー・添加剤・用途に応じたインベントリ/証明を確認する。
FDA食品接触適合製品例あり特定コンパウンド・用途・温度の適合証明を確認する。材料群全体の認証ではない。
日本の食品衛生法個別確認ポジティブリスト対象、用途区分、接触温度、食品種、溶出条件を確認する。
USP Class VI / ISO 10993医療向け適合製品例あり製品・色・製造工程別の証明を確認し、最終医療機器の生体適合性評価を別途行う。
ULグレード依存UL 94、RTI等は個別グレード、厚さ、色の認証情報を確認する。
NORSOK / ISO 23936油・ガス向け対応品ありRGD、H₂S、温度、圧力条件を含め、該当コンパウンドの試験範囲を確認する。
環境・リサイクル性
項目内容
熱可塑性/熱硬化性架橋型エラストマーであり、実質的に熱硬化性材料として扱う。
マテリアルリサイクル再溶融できないため困難。粉砕再利用等は性能・清浄度要求から限定的である。
ケミカルリサイクル一般流通レベルでは限定的。フッ素回収技術を含め専門処理が必要となる場合がある。
サーマルリサイクル不適切な焼却ではHF等の有害分解物発生に注意し、適切な排ガス処理設備が必要である。
再生材利用高信頼シール、半導体、医療用途では一般に限定的である。
生分解性なし。
バイオベース一般的なFFKMは該当しない。
価格・供給性
項目評価
相対価格極めて高価格
汎用的な流通性限定的。一般ゴム商社より、メーカー、専門シールメーカー、指定代理店経由が中心である。
国内入手性主要ブランドは入手可能であるが、グレード・サイズ・納期に制約がある。
少量購入標準Oリングは比較的入手しやすいが、特殊コンパウンドや大型成形品は最小ロットが大きくなりやすい。
供給形態ベースポリマー、コンパウンド、Oリング、ガスケット、カスタム成形シール等。

詳細な利用用途

分野代表部品選定理由注意点
半導体チャンバーOリング、ゲートバルブ、シャワーヘッド周辺シール耐プラズマ、低アウトガス、低パーティクル、耐薬液性ドライ/ウェット、ガス種、プラズマ直曝、温度により専用グレードを使い分ける。
化学プラントポンプ、バルブ、メカニカルシール、ガスケット強酸、強アルカリ、溶剤、混合薬品への広い耐性温度・圧力・薬品混合物・蒸気条件を確認する。
石油・ガスダウンホールシール、バルブ、コンプレッサー高温、炭化水素、H₂S、CO₂への耐性RGD、圧力、温度、ガス組成を重視する。
航空宇宙エンジン周辺シール、燃料・潤滑系高温、航空燃料、潤滑油、熱サイクル耐久AMS等の適合と低温復元性を確認する。
医薬・バイオバルブ、ポンプ、SIP/CIPシール耐薬液、耐蒸気、高純度、低抽出USP、FDA、抽出物・溶出物、SIPサイクルを確認する。
食品機械高温洗浄部シール、充填設備洗浄薬品・熱・油への耐性食品接触認証は特定グレードで確認する。
分析機器流体経路、ポンプシール、バルブ広い薬品適合範囲と低抽出性微量分析ではブランク、アウトガス、抽出物を評価する。
用途別選定
用途適性理由注意点
ギア×構造剛性が不足する。PEEK、PPS、POM等を検討する。
軸受・ブッシュ低摩擦グレードはあるが、主用途ではない。荷重、PV値、摩耗粉を確認する。
ポンプ部品シール・ダイヤフラム等で有効。構造体よりシール部材として使用する。
バルブ部品弁座、Oリング、ステムシールで高い耐薬品性を活かせる。摺動、圧力、温度を確認する。
シールFFKMの代表用途。溝設計、圧縮率、薬品、温度、RGDを確認する。
ガスケット強薬品・高温で有効。締付圧、クリープ、フランジ面粗さを確認する。
Oリング最も代表的な用途。規格寸法、圧縮率、バックアップリングを確認する。
チューブ・ホース特殊押出で可能な場合がある。コストが極めて高く、PFA/PTFE系を比較する。
配管・タンク×構造材として非効率。PTFE、PFA、PVDF等のフッ素樹脂が通常適する。
フィルム・シート×一般フィルム材料ではない。FEP、PFA、ETFE等を比較する。
電気コネクタシール部には有効。ハウジング材ではなく防水・耐薬品シール用途。
自動車エンジンルーム高温油・燃料に強い。通常はFKMで十分な場合が多く、コスト比較が必要。
燃料系部品燃料・添加剤・高温に強い。低温性、透過性、法規格を確認する。
食品機械部品シール用途に優れる。食品接触適合グレード限定。
医療機器部品高純度・耐薬品シールに適する。生体適合性・抽出物評価が必要。
滅菌部品蒸気・薬液滅菌に対応可能なグレードがある。オートクレーブ回数、放射線、薬液を確認する。
半導体製造装置主要用途の一つ。ドライ/ウェット専用品の使い分けが重要。
真空装置低アウトガスグレードが選べる。真空度、ベーク温度、抽出物を確認する。
屋外部品耐候・耐オゾン性は高い。価格面から通常は他ゴムを優先する。
接着剤・塗料・コーティング×FFKMは通常、完成シール材料として用いる。フッ素系コーティングは別材料群を検討する。

関連材料との比較

比較材料特徴FFKMとの違い
フッ素ゴム(FKM:関連フッ素材料ページ)耐熱、耐油、耐燃料、耐薬品性に優れる高機能エラストマー。FFKMは耐アミン、ケトン、エステル、強薬品、高温限界で有利な場合が多いが、FKMは価格、加工性、低温グレードの選択肢で有利である。
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)最高水準の耐薬品性、低摩擦性、非粘着性を持つフッ素樹脂。PTFEは薬品耐性と低摩擦で非常に優れるがゴム弾性がない。FFKMは弾性シールとして圧縮復元性を持つ。
パーフルオロアルコキシアルカン樹脂(PFA)PTFEに近い耐薬品性を持ち、溶融成形可能なフッ素樹脂。PFAはチューブ、配管、ライニング、構造部品に向く。FFKMはOリング等の弾性シール用途に向く。
FEP透明性、耐薬品性、溶融成形性に優れるフッ素樹脂。FEPはフィルム・電線・チューブ向け。FFKMは高温弾性シール向けである。
PVDF機械強度、耐候性、耐薬品性、溶融成形性のバランスが良い。PVDFは構造材・配管材に適するが、強溶剤や高温薬品への範囲はFFKMが広い場合が多い。
シリコーンゴム(VMQ)低温柔軟性、高温性、電気特性、圧縮特性に優れる。VMQは低温性とコストで有利。FFKMは油、燃料、溶剤、強薬品への耐性で大きく優れる。
EPDM / EPM系耐水、耐蒸気、耐候、耐オゾン性に優れる。EPDMは水系・コストで有利。FFKMは油、溶剤、燃料を含む広範な薬品と高温で有利である。
NBR耐油性と価格バランスに優れる汎用耐油ゴム。NBRは低~中温油用途で経済的。FFKMは温度・薬品範囲が圧倒的に広いが高価である。

代表的なメーカー

メーカー代表製品・ブランド概要
DuPontKalrez®化学、半導体、石油・ガス、航空宇宙等向けのFFKMシール部品を展開。高耐熱、耐薬品、高純度等の複数グレードがある。
ダイキン工業DAI-EL Perfluor(ダイエル パーフロ)汎用、高耐熱、耐アミン、高純度等のFFKMを展開。半導体、化学、石油・ガス用途向け。
SyensqoTecnoflon® PFR FFKM高耐熱、高純度、耐プラズマ等のFFKMベースポリマー/材料を展開。NFS(non-fluorosurfactant)技術の製品群もある。
Greene TweedChemraz®半導体、化学、エネルギー、航空宇宙、ライフサイエンス向けのFFKMシール製品を展開。

関連キーワード

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本ページの評価値は材料群としての一般的傾向であり、特定グレードの保証値ではない。実使用では、グレード、温度、濃度、荷重、圧力、応力、湿度、使用時間、試験片形状、成形条件、架橋系、充填材、法規制を確認し、必要に応じて実薬品浸漬、圧縮永久ひずみ、シール力保持、RGD、プラズマ、アウトガス等の実機条件試験を行う必要がある。

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