ページ内メニュー
概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 材料名 | 水素化ニトリルゴム |
| 略記号 | HNBR、HSN(Hydrogenated Nitrile / Highly Saturated Nitrileの業界表記として用いられる場合がある) |
| IUPAC | 単一の厳密なIUPAC名で表すことは困難である。代表的には、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)のブタジエン由来炭素-炭素二重結合を選択的に水素化した共重合体である。 |
| 英語名 | Hydrogenated Nitrile Butadiene Rubber / Hydrogenated Acrylonitrile Butadiene Rubber / HNBR |
| 日本語名・別名 | 水素化ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、水素化NBR、高飽和ニトリルゴム |
| 分類 | 合成ゴム、ニトリル系エラストマー、耐油・耐熱性ゴム、架橋型エラストマー |
| プラスチック分類 | 一般の熱可塑性プラスチックではなく、加硫・架橋して使用する高機能合成ゴムである。エンプラ、スーパーエンプラとは分類軸が異なる。 |
| 化学式または代表構造 | 代表模式構造:[-CH2-CH(CN)-]x[-CH2-CH2-CH2-CH2-]y[-CH2-CH=CH-CH2-]z。zは残存不飽和単位を示し、グレードにより異なる。 |
| CAS No. | HNBRは共重合組成、水素化度、官能基及び製品形態により登録形態が異なるため、単一CAS No.で一律に扱わない。SDS記載の個別番号を確認する。 |
| 構造・主成分 | アクリロニトリル由来単位と、水素化されたブタジエン由来飽和単位を主体とする。残存二重結合量、結合ACN量、分子量、ムーニー粘度、官能基の有無で性能が変化する。 |
| 主な用途 | Oリング、オイルシール、ガスケット、ダイヤフラム、タイミングベルト、ホース、油圧・空圧シール、冷媒シール、油田・ガス田用シール、ロール、ブーツ、自動車エンジン周辺部品。 |
水素化ニトリルゴム(HNBR)は、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)の主鎖に残るブタジエン由来二重結合を選択的に水素化し、耐熱老化性、耐オゾン性、耐候性及び高温での機械特性保持を向上させた高機能エラストマーである。NBRが持つ耐鉱油性・耐燃料性を維持しながら、より高温かつ長寿命のシール、ベルト、ホース等に適用される。
性能設計上は、結合アクリロニトリル(ACN)量と水素化度が特に重要である。一般にACN量が高いほど鉱油・燃料など非極性媒体に対する膨潤を抑えやすいが、低温柔軟性は低下しやすい。水素化度を高めると主鎖の不飽和結合が減少し、耐熱・耐酸化・耐オゾン性が向上しやすい。一方、硫黄加硫性や動的特性とのバランスから部分水素化グレードが選択される場合もある。
実際のHNBR部品は、ベースポリマーだけでなく、カーボンブラック又はシリカ、可塑剤、老化防止剤、加工助剤、過酸化物、共架橋剤等を含む配合物である。同じHNBRでも、硬度、ACN量、水素化度、架橋方式、充填材、ポストキュア条件によって、圧縮永久ひずみ、耐低温性、耐薬品性、摩耗、ガス透過及び長期寿命が大きく変化するため、用途ごとの実機評価が必要である。
特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 長所 | 耐油性、耐燃料性、耐熱老化性、耐オゾン性、耐摩耗性、引張強さ、動的耐久性のバランスに優れる。NBRより高温域で機械特性を保持しやすい。 |
| 短所 | NBRより高価である。ケトン、エステル、エーテル、塩素系溶剤、強酸などでは膨潤又は劣化しやすい。ACN量が高いグレードでは低温柔軟性が低下する。 |
| 外観 | 未配合ポリマーは淡色から乳白色のゴム状固体である。実用配合物はカーボンブラックにより黒色が多いが、着色コンパウンドも存在する。 |
| 耐熱性 | 一般的な長期使用の目安は約-30~150℃であり、配合及びグレードによって-40~160℃程度、メーカーの高性能グレードでは165℃級が示される場合がある。短時間はさらに高温で使用される例がある。 |
| 耐薬品性 | 鉱油、潤滑油、脂肪族炭化水素、動植物油、各種油圧作動液、希薄酸・希薄アルカリ・塩類には比較的良好である。一方、極性溶剤及び塩素系溶剤は注意を要する。 |
| 加工性 | 混練後、圧縮成形、トランスファー成形、ゴム射出成形、押出成形、カレンダー加工等を行い、加熱架橋する。熱可塑性樹脂のような再溶融成形材料ではない。 |
| 分類上の注意 | HNBRは単一配合ではなく材料群である。部分水素化、高水素化、低ACN、高ACN、低温、カルボキシル変性、ラテックス等を同一性能として扱わない。 |
代表グレード
| グレード区分 | 主な改質・組成 | 代表的特徴 | 物性への影響 | 主用途 |
|---|---|---|---|---|
| 標準・中高ニトリル | ACN約34~40%級、高水素化又は部分水素化 | 耐油・耐熱・低温性のバランス | 代表的HNBR物性を得やすい | Oリング、シール、ホース、ベルト |
| 高ニトリル | ACN約44~50%級 | 鉱油・燃料中の膨潤を抑えやすい | Tg上昇、低温柔軟性低下の傾向 | 燃料・油系シール |
| 低温グレード | ACN約18~24%級 | 低温柔軟性を改善 | Tgを-40℃級まで低下できるグレードがある | 寒冷地シール、低温動的部品 |
| 高水素化グレード | 残存二重結合を極小化 | 耐熱・耐酸化・耐オゾン性に優れる | 過酸化物架橋を主体とする | 高温シール、長寿命部品 |
| 部分水素化グレード | 一定量の残存二重結合 | 加工・架橋設計の自由度 | 硫黄架橋可能な場合があるが耐熱は高水素化品に劣る場合がある | 動的部品、特殊配合 |
| 高硬度・耐RGD | 高補強・高架橋密度 | 押出し、急減圧損傷への耐性を狙う | 伸び・低温性とのトレードオフ | 油田・ガス田、API/NORSOK用途 |
| 摺動・耐摩耗 | 補強材・潤滑系を最適化 | 摩耗、摩擦、動的耐久性を調整 | 摩擦係数と圧縮特性が配合依存 | 回転シール、ロール、ベルト |
| 食品接触用途向け | 配合剤、抽出物を用途規制に合わせて管理 | 低抽出、着色・充填材管理 | 一般工業配合と物性が異なる場合がある | 食品機械シール |
| 医療用途向け | 生物学的安全性や抽出物を管理した特定コンパウンド | 特定規格に対応する製品が存在 | 滅菌耐性は方法ごとに確認が必要 | 医療・分析機器シール |
難燃性
HNBRは一般的な炭化水素系架橋ゴムであり、材料名だけでUL 94等級を決めることはできない。難燃剤を配合した特殊コンパウンドが存在し得るが、UL 94、LOI、鉄道・自動車燃焼規格等はグレード、厚さ、色、添加剤及び認定条件ごとに確認する必要がある。
法規制
RoHS、REACH、SVHC、ELV、TSCA、FDA食品接触、日本の食品衛生法、USP Class VI、ISO 10993等については、材料群全体を一律に適合品とみなしてはならない。適合グレード又は特定コンパウンドが存在する場合があるため、メーカー、製品番号、色、添加剤、製造拠点、接触条件、使用温度及び滅菌条件を指定して証明書を確認する。HNBRのベースポリマー自体はフッ素系高分子ではないが、PFAS関連規制については配合助剤まで含めた個別確認が必要である。
構造式

代表構造は、アクリロニトリル由来の-CH2-CH(CN)-単位と、水素化されたブタジエン由来の-CH2-CH2-CH2-CH2-相当単位を主体とし、グレードによって少量の-CH2-CH=CH-CH2-残存不飽和単位を含む。実際の共重合配列は統計的であり、図は構造理解のための代表模式図である。
| 構成要素 | 化学式・役割 |
|---|---|
| アクリロニトリル | CH2=CH-CN。ニトリル基により極性を与え、鉱油・燃料等への耐膨潤性とガスバリア性を高める。増量すると低温柔軟性が低下しやすい。 |
| 1,3-ブタジエン | CH2=CH-CH=CH2。NBRのゴム弾性骨格を形成し、その主鎖二重結合が後工程で選択水素化される。 |
| 水素化ブタジエン単位 | -CH2-CH2-CH2-CH2-相当。主鎖の飽和化により酸化、オゾン、熱老化に対する安定性を高める。 |
| 残存不飽和単位 | -CH2-CH=CH-CH2-。部分水素化グレードでは架橋反応性と動的特性の調整に利用される。 |
種類・代表グレード
| 種類の名称 | 主成分または特徴 | 長所 | 短所 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 極高ニトリルHNBR | ACN約49%級の例がある | 油・燃料による体積膨潤を抑えやすい | 低温柔軟性が低下しやすい | 高燃料耐性シール |
| 高ニトリルHNBR | ACN約44%級 | 耐油性と機械強度が高い | 寒冷域では低温限界を確認 | 自動車燃料・油系部品 |
| 中高ニトリルHNBR | ACN約34~40%級 | 耐油・低温・耐熱のバランス | 用途によりさらに低温又は高耐油品が必要 | 汎用高性能シール、ベルト |
| 耐寒HNBR | ACN約18~24%級 | Tgを低くし、低温シール性を改善 | 高ACN品より油膨潤が増える場合がある | 寒冷地、自動車、油圧機器 |
| 高飽和HNBR | 水素化率を高く設定 | 耐熱・耐オゾン・耐老化性 | 架橋系の選択肢が限定される場合がある | 高温長寿命シール |
| 部分水素化HNBR | 残存二重結合を一定量保持 | 硫黄系を含む架橋設計が可能な場合がある | 高飽和品より耐熱老化で不利な場合がある | 動的部品、特殊配合 |
| HNBRラテックス | 水分散形態 | コーティング、含浸等に適用可能 | 固形ゴムと加工方法が異なる | 含浸材、特殊皮膜、複合材 |
成形加工
| 加工方法 | 適性 | 理由・主な注意点 |
|---|---|---|
| 射出成形 | ◎ | ゴム射出対応コンパウンドで量産性が高い。スコーチ、金型温度、射出せん断、ランナー滞留を管理する。 |
| 押出成形 | ◎ | ホース、チューブ、プロファイルに適する。押出後に熱風、塩浴、マイクロ波等の連続加硫を組み合わせる場合がある。 |
| ブロー成形 | × | 一般的な熱可塑性ブロー成形には適さない。 |
| インフレーション成形 | × | 熱可塑性フィルムの一般的なインフレーションには適さない。 |
| Tダイフィルム成形 | △ | 未加硫シートの連続成形は可能であるが、一般の熱可塑性フィルムとは加工方式が異なる。 |
| 真空成形 | × | 架橋ゴムであり、一般的な熱可塑性シート真空成形には適さない。 |
| 圧空成形 | × | 一般的な熱可塑性圧空成形には適さない。 |
| 圧縮成形 | ◎ | Oリング、ガスケット、厚肉部品で代表的な加工法である。加硫時間とエア抜きを管理する。 |
| トランスファー成形 | ◎ | 複雑形状、インサート、精密シールに適する。流路の滞留とスコーチに注意する。 |
| 回転成形 | × | 一般的な粉末熱可塑性回転成形には適さない。 |
| 発泡成形 | △ | 特殊配合で可能であるが一般的ではない。セル構造、加硫速度、耐油性低下を確認する。 |
| 3Dプリント | △ | 一般材料としては限定的であり、ペースト押出等の特殊プロセスに限られる。 |
| 切削加工 | △ | 加硫ゴムは変形しやすい。高硬度品では研削、冷却、治具固定により対応できる。 |
| 溶着 | × | 架橋後は熱可塑溶着できない。未加硫ゴム同士の共加硫接合を検討する。 |
| 接着 | ○ | 金属・樹脂との接着には専用接着剤、プライマー及び表面処理が必要となる場合が多い。 |
| 塗装・印刷 | △ | 配合剤のブルームや低表面活性の影響を受ける。前処理とインキ適合性を確認する。 |
| めっき | × | 一般的な用途ではない。 |
| 蒸着 | △ | 特殊用途で可能だが、真空アウトガス、密着性、弾性変形を確認する。 |
| レーザーマーキング | △ | 顔料及び配合により可能。コントラストと熱損傷を評価する。 |
| 二次成形・インサート成形 | ○ | 金属との加硫接着で広く用いられる。接着剤、金属表面処理、熱膨張差を管理する。 |
代表的な成形条件
| 項目 | 単位 | 一般的な目安 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 予備乾燥 | - | 通常は熱可塑性樹脂のような乾燥工程を必須としない | コンパウンド保管中の水分、異物、ブルーム、温度履歴を管理する。 |
| コンパウンド予熱 | ℃ | 30~60 | 流動性改善のため行う場合がある。スコーチ余裕を確認する。 |
| 射出機シリンダー | ℃ | 40~90程度の低温管理域 | 熱可塑性樹脂の溶融温度ではない。装置・配合・スコーチ特性により設定し、長時間滞留を避ける。 |
| 金型温度 | ℃ | 160~190 | 過酸化物系を中心とする一般的な加硫温度域の目安。加硫曲線に従う。 |
| 一次加硫時間 | min | 2~20 | 肉厚、金型温度、架橋剤、射出・圧縮方式で大きく変わる。 |
| 射出圧力 | MPa | 50~150 | ゴム射出機、金型流路、硬度、粘度に依存する。 |
| 二次加硫 | ℃ | 150~180 | 必要性及び温度は配合依存。圧縮永久ひずみ、揮発分、長期耐熱性を改善する目的で実施される場合がある。 |
| 二次加硫時間 | h | 2~8 | 製品厚さ、要求物性、架橋系で変更する。高温長時間処理は酸化劣化に注意する。 |
| 成形収縮率・流動方向 | % | 1.5~3.5 | ゴム配合、硬度、金型拘束、ポストキュアで変化する。 |
| 成形収縮率・流動直角方向 | % | 1.5~3.5 | 異方性は繊維強化熱可塑材ほど大きくないが、流れ・加硫収縮を確認する。 |
| 推奨肉厚 | mm | グレード・形状依存 | 厚肉では内部加硫不足、気泡、温度勾配を確認する。 |
| アニール | - | 通常はポストキュアとして評価 | 熱可塑性樹脂の残留応力除去アニールとは目的が異なる。 |
上記成形条件はHNBR材料群の一般的な目安である。実際の条件は、コンパウンドメーカーのムーニースコーチ、加硫曲線、最適加硫時間、金型構造、成形機、製品厚さ、接着剤及び要求寿命に基づいて決定する。
接合・表面処理適性
| 方法 | 適性 | 実務上の要点 |
|---|---|---|
| 熱板・超音波・振動溶着 | × | 架橋後は熱可塑溶着できない。 |
| レーザー・高周波・熱風溶着 | × | 一般的なHNBR加硫ゴムでは適用しにくい。 |
| 接着剤接合 | ○ | 専用ゴム接着剤、プライマー、脱脂、研磨、プラズマ等を組み合わせる。 |
| 金属との加硫接着 | ◎ | シール、ダンパー等で実績が多い。金属表面処理と接着剤の耐熱・耐油性を確認する。 |
| 機械締結・インサート | ○ | 座屈、切込み、応力集中、締付け過多による永久変形に注意する。 |
| コロナ・プラズマ処理 | ○ | 接着・印刷前処理として有効な場合がある。処理後の経時失活を確認する。 |
| プライマー処理 | ◎ | ゴム-金属、ゴム-樹脂接着で重要である。媒体・温度・架橋条件に合わせて選定する。 |
代表的な物性値又は機械的性質
以下は、非発泡の標準的な加硫HNBRコンパウンド及びベースポリマーの公開情報を整理した代表値・代表範囲であり、特定メーカーの単一グレード値ではない。HNBRは充填・架橋して使用するため、「非強化・無充填ポリマー」と「実用加硫配合物」を完全に同一条件で比較することは難しい。比較機能では材料状態、硬度、ACN量、水素化度及び試験条件を分離して扱う必要がある。
物理的・機械的性質
| 項目 | 単位 | 代表値 | 代表範囲 | 試験規格 | 試験条件・材料状態 | 備考 | 信頼度 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 密度 | g/cm³ | 1.10 | 0.95~1.30 | ISO 1183 / ASTM D297相当 | 23℃、加硫配合物 | ベースポリマーは約0.95 g/cm³級の例がある。充填材で上昇する。 | A/B |
| 比重 | 無次元 | 1.10 | 1.00~1.30 | 代表値、規格不明 | 23℃、加硫配合物 | 配合依存 | B |
| 吸水率・24時間 | % | 0.5 | 0.2~1.0 | 代表値、規格不明 | 23℃水、24 h | ゴム配合では体積変化と抽出も併せて評価する。 | C |
| 硬度 | Shore A | 75 | 50~95 | ISO 48-4 / ASTM D2240相当 | 23℃、加硫配合物 | シールでは70~90A級が多い。 | A/B |
| 引張強さ・破断 | MPa | 20 | 15~30 | ISO 37 / ASTM D412相当 | 23℃、標準状態 | 高補強配合では30 MPa級を示す場合がある。 | B |
| 引張破断伸び | % | 250 | 100~500 | ISO 37 / ASTM D412相当 | 23℃、標準状態 | 硬度、充填、架橋密度で大きく変化する。 | B |
| 100%引張応力 | MPa | 6 | 3~12 | ISO 37 / ASTM D412相当 | 23℃ | エラストマーでは弾性率より実務的な剛性指標となる。 | B |
| 引張弾性率 | GPa | データなし | 一般化困難 | - | - | ゴムでは非線形弾性のため100%モジュラス等を優先する。 | - |
| 曲げ強さ | MPa | 該当なし | 該当なし | - | - | 加硫ゴムでは一般的設計指標ではない。 | - |
| 曲げ弾性率 | GPa | 該当なし | 該当なし | - | - | 加硫ゴムでは一般的設計指標ではない。 | - |
| 圧縮永久ひずみ | % | 20 | 10~40 | ISO 815-1 / ASTM D395相当 | 例:150℃×70 h、25%圧縮 | 配合、硬度、断面、ポストキュアで大きく変化する。 | C |
| 引裂強さ | kN/m | 35 | 20~60 | ISO 34-1 / ASTM D624相当 | 23℃ | 試験片形状を揃えて比較する。 | B |
| 反発弾性 | % | 45 | 30~60 | ISO 4662相当 | 23℃ | 動的配合で変化する。 | C |
| アイゾット衝撃強さ | kJ/m² | 該当なし | 該当なし | - | - | 加硫ゴムでは低温衝撃、引裂、反発等を用いる。 | - |
| 成形収縮率・流動方向 | % | 2.5 | 1.5~3.5 | 金型成形目安 | 一次加硫後 | 配合・肉厚・ポストキュア依存 | C |
| 成形収縮率・流動直角方向 | % | 2.5 | 1.5~3.5 | 金型成形目安 | 一次加硫後 | 実金型で補正する。 | C |
熱的性質
| 項目 | 単位 | 代表値 | 代表範囲 | 試験規格 | 試験条件・材料状態 | 備考 | 信頼度 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ガラス転移温度 | ℃ | -27 | -43~-15 | DSC又はDMA | ベースポリマー | ACN量が低いほど低温側になりやすい。公開グレード例に基づく範囲。 | A |
| 融点 | ℃ | 該当なし | 該当なし | - | 架橋後 | 熱硬化性エラストマーとして明確な融点を設計指標としない。 | - |
| 荷重たわみ温度・0.45 MPa | ℃ | 該当なし | 該当なし | - | - | 熱可塑性樹脂用指標であり通常適用しない。 | - |
| 荷重たわみ温度・1.80 MPa | ℃ | 該当なし | 該当なし | - | - | 同上。 | - |
| ビカット軟化温度 | ℃ | 該当なし | 該当なし | - | - | 架橋ゴムには通常適用しない。 | - |
| 連続使用温度・上限 | ℃ | 150 | 140~165 | 長期熱老化目安 | 空気又は油中 | 寿命基準、媒体、応力、硬度で変化する。 | A/B |
| 短時間耐熱温度 | ℃ | 160 | 160~180 | 短時間目安 | 媒体依存 | 長期連続使用温度と混同しない。 | B/C |
| 低温使用限界 | ℃ | -30 | -48~-20 | シール用途目安 | 低温柔軟性 | 低ACN・低温グレードでは-40℃以下の例がある。 | A/B |
| 熱伝導率 | W/(m・K) | 0.22 | 0.18~0.30 | 代表値、規格不明 | 23℃、加硫配合物 | 充填材及び硬度で変化する。 | C |
| 線膨張係数 | 10⁻⁵/K | 18 | 12~25 | TMA等 | 加硫配合物 | 金属より大きく、拘束部では熱応力を確認する。 | C |
電気的性質・燃焼性
| 項目 | 単位 | 代表値 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 体積抵抗率 | Ω・cm | 108~1013 | カーボンブラック配合量で大きく変化する。導電配合は別区分とする。 |
| 表面抵抗率 | Ω | グレード依存 | 配合、湿度、汚染に依存する。 |
| 絶縁破壊強さ | kV/mm | データなし | 一般化困難。電気絶縁専用材料として採用する場合は個別コンパウンドを評価する。 |
| 比誘電率・1 kHz | 無次元 | データなし | ACN量及び充填材で変化する。 |
| 比誘電率・1 MHz | 無次元 | データなし | 周波数条件を揃えて測定する。 |
| 誘電正接・1 kHz / 1 MHz | 無次元 | データなし | 一般化困難。 |
| UL 94燃焼性 | - | グレード依存 | 材料名だけでHB、V-0等を断定しない。厚さ、色、難燃剤及び認定番号を確認する。 |
| 限界酸素指数・LOI | % | データなし | 難燃配合と標準配合を分離して評価する。 |
耐摩耗・摺動・長期耐久
HNBRは一般にNBRより高温での強度保持と耐摩耗性に優れ、タイミングベルト、回転シール、油圧シール等の動的用途に適する。一方、摩擦係数、比摩耗量、限界PV値は相手材、表面粗さ、潤滑、荷重、速度、温度、硬度及び配合に大きく依存するため、材料群の一律数値として比較することは適切でない。長期部品では短時間引張強さだけでなく、圧縮永久ひずみ、応力緩和、クリープ、疲労、発熱及び摩耗を同一媒体・温度で確認する。
耐候性・環境耐久性
| 項目 | 評価 | 概要 |
|---|---|---|
| 耐オゾン性 | ◎ | 高水素化品では主鎖不飽和が少なく、NBRより大幅に改善される。 |
| 紫外線・屋外耐候性 | ○ | NBRより良好であるが、配合、顔料、表面温度、応力に依存する。 |
| 熱老化性 | ◎ | HNBRの主要な長所。高温での硬化、伸び低下、圧縮永久ひずみを確認する。 |
| 湿熱老化性 | ○ | 一般に良好だが、架橋剤・充填材・添加剤抽出の影響を評価する。 |
| 耐熱水・蒸気 | ○ | 特定配合では高温水・蒸気にも使用される。全HNBRを一律評価せず、温度と圧縮条件を確認する。 |
| 耐放射線性 | △ | 線量、雰囲気、架橋度で硬化・脆化するため個別試験が必要である。 |
寸法精度・設計特性
HNBRは架橋エラストマーであり、熱可塑性樹脂の寸法設計とは異なる。金型収縮、ポストキュア収縮、熱膨張、圧縮永久ひずみ、応力緩和、媒体による体積膨潤を同時に考える必要がある。Oリング等では溝充填率、圧縮率、伸張率、押出し隙間、バックアップリング、減圧速度を考慮する。短時間の引張強さをそのまま設計許容応力として使用せず、温度、媒体、時間、繰返し、ノッチ及び安全率を考慮する。
比較用評価スコア
| 評価項目 | スコア | 理由 |
|---|---|---|
| 引張強度 | 5 | ゴム材料として高い強度を得やすい。 |
| 剛性 | 3 | 硬度調整範囲は広いが、エラストマーであり剛性部材用途ではない。 |
| 衝撃強度 | 4 | 弾性体として衝撃吸収性が高い。 |
| 耐熱性 | 5 | NBRより大幅に高く、150~165℃級で用いられる。 |
| 低温特性 | 4 | 低温グレードは-40℃以下に対応する例があるが、ACN量依存。 |
| 耐薬品性 | 4 | 油・燃料に強いが、ケトン、エステル、塩素系溶剤等に弱い。 |
| 耐候性 | 5 | 高水素化によりオゾン・酸化に強い。 |
| 耐加水分解性 | 4 | ポリエステル系PU等より有利だが、高温水・蒸気は配合確認が必要。 |
| 寸法安定性 | 3 | 熱膨張と媒体膨潤、圧縮永久ひずみを考慮する必要がある。 |
| 低吸水性 | 4 | 比較的低いが、配合及び高温水での抽出を確認する。 |
| 摺動性 | 4 | 耐摩耗性が高く、動的シールに広く用いられる。 |
| 耐摩耗性 | 5 | HNBRの主要な長所。 |
| 電気絶縁性 | 3 | 配合により大きく変化し、電気絶縁専用材ではない。 |
| 難燃性 | 2 | 標準HNBRに一律の難燃性は期待しない。 |
| 透明性 | 1 | 実用配合は不透明で黒色が多い。 |
| 成形加工性 | 4 | ゴム成形として成熟しているが、加硫工程が必要。 |
| 切削加工性 | 2 | 弾性変形により精密切削は難しい。 |
| 接着性 | 3 | 専用プライマー・加硫接着で良好にできるが前処理が必要。 |
| リサイクル性 | 2 | 架橋後は再溶融できない。 |
| 価格優位性 | 2 | NBR、EPDM等より高価である。 |
耐薬品性
以下は一般的な加硫HNBRの目安である。耐薬品性はACN量、水素化度、硬度、充填材、可塑剤、架橋系、温度、濃度、接触時間、圧縮率及び応力により変化する。特にシール材では、体積変化、質量変化、硬度変化、引張特性、圧縮永久ひずみ及び急減圧損傷を併せて確認する。
| 薬品・媒体 | 濃度 | 代表条件 | 応力 | 評価 | 主な劣化形態 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 水 | 100% | 23℃・168 h浸漬 | 無応力 | ◎ | 変化小 | 添加剤抽出を確認する。 |
| 温水 | 100% | 80℃・168 h | 無応力 | ○ | 硬度・圧縮特性変化 | 長期高温水は実配合で確認する。 |
| 水蒸気 | 飽和 | 120~150℃級 | 圧縮あり | ○ | 圧縮永久ひずみ、抽出 | 耐蒸気配合では良好な例があるが一律ではない。 |
| 塩酸 | 10% | 23℃・168 h | 無応力 | ○ | 長期で硬化・物性変化 | 濃塩酸・高温は注意。 |
| 硫酸 | 10% | 23℃・168 h | 無応力 | ○ | 長期物性変化 | 高濃度・高温では酸化性を含め確認。 |
| 硫酸 | 50%以上 | 23~80℃ | 無応力 | △ | 硬化、膨潤、劣化 | 濃度・温度依存が大きい。 |
| 硝酸 | 10% | 23℃ | 無応力 | △ | 酸化、硬化 | 酸化性酸であり低濃度でも実液確認を推奨。 |
| NaOH | 10% | 23℃・168 h | 無応力 | ○ | 変化小~配合剤影響 | 高温・高濃度では確認が必要。 |
| KOH | 10% | 23℃・168 h | 無応力 | ○ | 変化小~配合剤影響 | 同上。 |
| エタノール | 100% | 23℃・168 h | 無応力 | ○ | わずかな膨潤 | 燃料中混合では組成依存。 |
| IPA | 100% | 23℃・168 h | 無応力 | ○ | 軽微な膨潤 | 高温では抽出・体積変化を確認。 |
| メタノール | 100% | 23℃ | 無応力 | ○ | 膨潤・抽出 | 特定HNBRシールで適合例がある。燃料混合条件で確認。 |
| グリセリン | 100% | 23~80℃ | 無応力 | ◎ | 変化小 | 高温長期では配合剤抽出を確認。 |
| n-ヘキサン | 100% | 23℃・168 h | 無応力 | ○ | 膨潤 | ACN量が高いほど膨潤を抑えやすい。 |
| イソオクタン | 100% | 23℃ | 無応力 | ○ | 膨潤 | 燃料評価の代表非極性成分。 |
| トルエン | 100% | 23℃・168 h | 無応力 | △ | 体積膨潤、軟化 | 高ACNでも芳香族含有量が高い媒体は要確認。 |
| キシレン | 100% | 23℃・168 h | 無応力 | △ | 膨潤、軟化 | 高温では影響増大。 |
| アセトン | 100% | 23℃ | 無応力 | × | 著しい膨潤・物性低下 | 極性ケトンは一般に不適。 |
| MEK | 100% | 23℃ | 無応力 | × | 膨潤・軟化 | 一般に不適。 |
| 酢酸エチル | 100% | 23℃ | 無応力 | × | 膨潤・軟化 | エステル系溶剤は一般に不適。 |
| THF | 100% | 23℃ | 無応力 | × | 著しい膨潤 | エーテル系は一般に不適。 |
| ジクロロメタン | 100% | 23℃ | 無応力 | × | 膨潤・軟化 | 塩素系炭化水素は一般に不適。 |
| トリクロロエチレン | 100% | 23℃ | 無応力 | × | 膨潤・劣化 | 塩素系溶剤は避ける。 |
| エンジン油 | 市販油 | 120~150℃長時間 | 圧縮あり | ◎ | 低膨潤、熱硬化 | HNBRの主要用途。添加剤パッケージ差を確認する。 |
| ATF | 市販液 | 120~150℃ | 圧縮あり | ◎ | 軽微な体積変化 | 高温油用途で代表的。 |
| 鉱物系油圧油 | 100% | 80~130℃ | 圧縮あり | ◎ | 変化小 | シールで広く使用される。 |
| HFA/HFB/HFC作動液 | 規定混合 | 中温域 | 圧縮あり | ○ | 体積変化 | 適合例が多いが配合確認。 |
| ブレーキ液 | DOT系 | 23~120℃ | 圧縮あり | ○ | 膨潤、抽出 | メーカー資料に適用例があるが、液種・温度・水分で個別評価する。 |
| ガソリン | 市販燃料 | 23~80℃ | 圧縮あり | ○ | 膨潤 | 芳香族、エタノール、酸素化剤含有率で変化する。 |
| ディーゼル燃料 | 市販燃料 | 23~100℃ | 圧縮あり | ◎ | 軽微な膨潤 | HNBRの代表的適合媒体。 |
| 冷却液 | EG/PG水溶液 | 80~130℃ | 圧縮あり | ○ | 硬度・圧縮特性変化 | 添加剤、pH、濃度を指定して試験する。 |
| 塩水・海水 | 3~3.5%塩 | 23~80℃ | 無応力 | ◎ | 変化小 | 金属接着品では金属腐食を別途確認。 |
| 次亜塩素酸Na | 低濃度 | 23℃短時間 | 無応力 | △ | 酸化、表面硬化 | 濃度、pH、温度、遊離塩素量に依存。 |
| 過酸化水素 | 3% | 23℃短時間 | 無応力 | △ | 酸化、硬化 | 高濃度・高温は避け、実液評価する。 |
| 界面活性剤・洗浄剤 | 使用濃度 | 23~80℃ | 応力あり/なし | ○ | 添加剤抽出、膨潤 | 溶剤、アルカリ、酸化剤を含む配合は個別評価。 |
SP値(溶解度パラメータ)
HNBRの単一SP値を全グレードに適用することは難しい。ACN量と水素化度によって極性が変わるため、代表的な中高ニトリルHNBRのHildebrand型SP値は概ね18.5~20.5 MPa1/2程度を目安とし、比較用代表値として19.5 MPa1/2程度を用いることがある。ただし、これは配合ゴムの耐薬品性を直接保証する数値ではなく、特に架橋体では溶解より膨潤として現れる。
溶解性の目安
| SP値差 | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|
| 0~2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2~5 | 条件により膨潤する | △ |
| 5~8 | 短時間接触では比較的安定 | ○ |
| 8以上 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP値から見た耐溶剤性
| 溶剤 | SP値 δ MPa1/2 | HNBRとの差 目安 | SP目安評価 | 実務上の評価・注意 |
|---|---|---|---|---|
| n-ヘキサン | 14.9 | 4.6 | △ | 架橋HNBRは高ACN品を中心に比較的耐えるが膨潤量を確認する。 |
| トルエン | 18.2 | 1.3 | × | SP差が小さく、芳香族溶剤で膨潤しやすい。実務評価も△~×となりやすい。 |
| キシレン | 18.0 | 1.5 | × | 高温・長時間で膨潤に注意。 |
| 酢酸エチル | 18.6 | 0.9 | × | エステル系であり一般に不適。SPと実務評価が同方向。 |
| MEK | 19.0 | 0.5 | × | ケトン系で著しい膨潤の可能性が高い。 |
| アセトン | 19.9 | 0.4 | × | 極性ケトンとして不適。 |
| IPA | 23.5 | 4.0 | △ | 実用上は比較的良好な場合が多く、架橋・水素結合・液体サイズの影響でSP単独評価とずれる。 |
| エタノール | 26.0 | 6.5 | ○ | 一般に比較的良好。燃料混合では共溶媒効果に注意。 |
| グリセリン | 36.1 | 16.6 | ◎ | 一般に膨潤しにくい。 |
| 水 | 47.9 | 28.4 | ◎ | 常温水では良好。高温水・蒸気はSPではなく熱・抽出・圧縮特性で評価する。 |
SP値差は、主として物理的な溶解・膨潤傾向をみる一次スクリーニングである。HNBRでは、架橋密度、ACN含有量、水素化度、可塑剤抽出、酸化、加硫結合の変化、温度、混合溶剤の共溶媒効果によって結果が大きく変わる。したがって、SP値だけで耐薬品性を決定してはならない。
環境応力・シール応力下の注意
HNBRは熱可塑性非晶性樹脂で問題となる典型的なESCとは評価体系が異なるが、引張・圧縮応力下で薬液に接触すると、膨潤、亀裂、押出し、摩耗、圧縮永久ひずみ及び接着界面剥離が加速する場合がある。特に高圧ガス用途では急減圧(RGD:Rapid Gas Decompression)による内部ブリスターや亀裂が問題となる。高圧CO2、H2S、炭化水素ガス等では、NORSOK M-710、ISO 23936等に対応した特定コンパウンドの採用を検討する。
製法

| 工程 | 概要 |
|---|---|
| 原料 | 1,3-ブタジエンとアクリロニトリルを主原料とする。 |
| NBR重合 | 一般に乳化重合によりNBRを合成する。ACN量、分子量、分岐、重合温度等で基礎特性を調整する。 |
| 回収・精製 | NBRラテックスを凝固・洗浄・乾燥し、選択水素化工程に適した形態へ調整する。工業プロセスでは溶液中で水素化する方式が用いられる。 |
| 選択水素化 | 水素と金属触媒を用いて、ニトリル基を基本的に保持しながら主鎖C=C結合を選択的に水素化する。触媒系としてRh又はRu系等が代表例として知られる。 |
| HNBR回収 | 触媒除去、溶媒回収、洗浄、乾燥を行い、ベール又はその他の供給形態にする。 |
| コンパウンド | カーボンブラック、シリカ、可塑剤、老化防止剤、加工助剤、過酸化物、共架橋剤等を混練する。 |
| 成形・加硫 | 圧縮、トランスファー、射出、押出等で成形し、加熱架橋する。高飽和HNBRでは過酸化物架橋が代表的である。 |
代表反応概念は、NBR中の-CH2-CH=CH-CH2– + H2 → -CH2-CH2-CH2-CH2-である。実際の工業プロセスでは共重合体配列、触媒、溶媒、圧力、温度、残存不飽和度の管理が重要であり、単純な一段反応として一般化しすぎないことが必要である。
詳細な利用用途
| 分野 | 代表用途 | 選定理由・注意点 |
|---|---|---|
| 自動車 | Oリング、オイルシール、タイミングベルト、燃料系・空調系シール、ホース、ブーツ | 高温油、燃料、冷媒、オゾン、動的疲労への耐性。低温及び燃料組成を確認する。 |
| 油圧・空圧 | ロッドシール、ピストンシール、ワイパー、アキュムレータ部品 | 耐油・耐摩耗・高強度。押出し隙間、圧力、摺動速度を確認する。 |
| 石油・天然ガス | 高圧シール、パッカー、バルブシール、ダウンホール部品 | 高圧炭化水素、H2S、CO2、急減圧耐性。NORSOK/ISO適合コンパウンドを選定する。 |
| 機械部品 | ロール、ダンパー、ベルト、ガスケット | 耐摩耗、高温機械特性、油中耐久性。 |
| 電気・電子 | 耐油シール、防振部品 | 使用可能だが、電気絶縁専用材料としては配合の体積抵抗率を確認する。 |
| 食品機械 | ポンプ・バルブ・継手シール | 適合コンパウンドに限定し、食品接触証明、抽出物、洗浄剤、蒸気条件を確認する。 |
| 医療・分析機器 | シール、ダイヤフラム | 生物学的安全性・滅菌耐性が確認された特定グレードを使用する。 |
| 冷凍・空調 | 冷媒シール、コンプレッサーシール | 冷媒と潤滑油の混合系で膨潤と低温弾性を確認する。 |
| 建築・設備 | 特殊耐油ガスケット、機械設備シール | 一般屋外シールではEPDMが低コストとなる場合が多く、油・高温がある場合にHNBRが候補となる。 |
用途別選定
| 用途 | 適性 | 理由 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ギア | △ | 弾性歯車等の特殊用途に限られる。 | 精密歯車は樹脂・金属を優先。 |
| 軸受・ブッシュ | △ | 防振・シール一体用途には使える。 | 高PV摺動材ではない。 |
| ローラー | ◎ | 耐油・耐摩耗・高温耐久性。 | 表面硬度と発熱を確認。 |
| シール | ◎ | 代表用途。耐油・耐熱・耐摩耗に優れる。 | 媒体、圧力、温度、RGDを確認。 |
| ガスケット | ◎ | 高温油・ガス環境で有力。 | 圧縮永久ひずみを確認。 |
| Oリング | ◎ | HNBRの主要用途。 | 低温、溝設計、押出し隙間、媒体適合。 |
| チューブ・ホース | ◎ | 耐油・耐熱が必要なホースに適する。 | 補強層との接着と曲げ疲労。 |
| 配管・タンク | △ | ゴムライニングや柔軟部材では候補。 | 剛性構造材用途ではない。 |
| フィルム・シート | ○ | 加硫シートとして使用可能。 | 熱可塑フィルムのような再加工は不可。 |
| ボトル・容器 | × | 一般的容器材料ではない。 | - |
| 電気コネクタシール | ○ | 耐油・耐熱シールとして有効。 | 電気特性と接点汚染を確認。 |
| 一般筐体 | × | 剛性筐体材料ではない。 | - |
| 透明カバー・レンズ | × | 透明光学材ではない。 | - |
| 自動車内装 | △ | 局所シール・防振用途に限る。 | コスト面で他材料が有利。 |
| 自動車外装 | ○ | 耐オゾン性は良好。 | 油環境がなければEPDM等が低コスト。 |
| エンジンルーム部品 | ◎ | 高温油・オゾン・動的耐久性に優れる。 | 160℃超や薬品条件ではFKM等と比較。 |
| 燃料系部品 | ◎ | 高ACN HNBRで優れた耐燃料性。 | 芳香族・アルコール含有率を指定する。 |
| 食品機械部品 | ○ | 適合コンパウンドがあれば使用可能。 | 規制証明と洗浄条件必須。 |
| 医療機器部品 | △ | 特定配合で可能。 | ISO 10993/USP、滅菌耐性を個別確認。 |
| 半導体製造装置 | △ | 一部油・ガス系で使用可能。 | 高純度薬液、プラズマ用途はFFKM/FKM等を比較。 |
| 真空装置 | ○ | 低ガス透過・耐油が有利な場合がある。 | アウトガス、圧縮永久ひずみを測定。 |
| 屋外部品 | ○ | 耐オゾン・耐候性が良い。 | 価格面でEPDMが有利な場合がある。 |
| 接着剤・塗料・コーティング | △ | HNBRラテックスや特殊バインダー用途がある。 | 一般用途ではなく、溶媒・架橋系を個別設計。 |
| 複合材料マトリックス | ○ | 繊維、亜鉛塩等との複合化で高強度化できる。 | 成形・界面設計が必要。 |
品質・成形不良
| 不良 | 材料側の要因 | 成形条件側の要因 | 主な対策 |
|---|---|---|---|
| スコーチ | 架橋剤量、混練履歴、保管温度 | シリンダー・ランナーの高温滞留 | 低温管理、滞留短縮、スコーチ時間確認。 |
| 加硫不足 | 架橋剤不足、分散不良 | 金型温度不足、時間不足 | 加硫曲線に基づき温度・時間を調整。 |
| 気泡・ボイド | 揮発分、水分、分散不良 | エア抜き不足、厚肉、急加熱 | 真空、ベント、予熱、加硫速度調整。 |
| バリ | 低粘度、過剰可塑化 | 型締力不足、金型摩耗 | 粘度・圧力・型締・パーティング精度を調整。 |
| ショート | 高粘度、低流動 | 射出圧力不足、金型温度不適 | 予熱、射出条件、ゲートを最適化。 |
| 表面粗れ・フローマーク | 分散不良、ブルーム | 流速、金型表面、エア巻込み | 混練条件、射出速度、ベントを見直す。 |
| 金属接着剥離 | 接着剤不適合、配合剤移行 | 前処理不足、加硫不足、汚染 | 脱脂、ブラスト、プライマー、加硫条件を管理。 |
| 変色・黒点 | 熱履歴、異物、老化防止剤 | 局所過熱、長時間滞留 | 設備清掃、温度均一化、滞留防止。 |
注意点・劣化・故障モード
| 劣化現象 | 主な原因 | 発生しやすい条件 | 外観・性能への影響 | 予防策 | 推奨確認試験 |
|---|---|---|---|---|---|
| 熱酸化劣化 | 高温酸素、残存不飽和 | 150℃超、長時間 | 硬化、伸び低下、亀裂 | 高水素化グレード、耐熱配合 | 熱老化試験 |
| 膨潤 | 溶剤・燃料の吸収 | 芳香族、ケトン、エステル、高温 | 寸法増加、硬度低下、押出し | 高ACN化、媒体適合確認 | 実薬品浸漬試験 |
| 添加剤抽出 | 溶剤・高温水 | 長期浸漬、洗浄 | 質量減少、硬化、汚染 | 低抽出配合 | 質量変化・抽出物試験 |
| 圧縮永久ひずみ | 高温、過大圧縮、架橋不適 | 高温静的シール | シール力低下、漏れ | 溝設計、架橋・ポストキュア最適化 | ISO 815 / ASTM D395 |
| 摩耗・疲労 | 摺動、発熱、潤滑不足 | 高速往復、回転、高圧 | 摩耗粉、亀裂、漏れ | 硬度・補強・潤滑設計 | 摩耗・疲労試験 |
| RGD損傷 | 高圧ガスの急減圧 | CO2、H2S、炭化水素ガス、高圧 | 内部ブリスター、亀裂 | 耐RGD配合、減圧速度管理 | NORSOK M-710 / ISO 23936相当 |
| 低温硬化 | Tg接近 | 高ACN品、-20~-40℃以下 | シール追従性低下 | 低ACN・低温グレード | 低温復元・TR試験 |
| 接着界面剥離 | 油侵入、表面処理不良 | 金属接着部、高温油中 | 界面剥離、漏れ | 専用接着剤、表面処理 | 浸漬後接着強度試験 |
| アウトガス | 低分子添加剤、未反応成分 | 真空、高温 | 汚染、真空度悪化 | 低揮発配合、ポストキュア | TML/CVCM又は用途別アウトガス試験 |
推奨確認試験
- 実薬品浸漬試験:実液、実濃度、実温度で168 h、500 h、1000 h等の段階評価を行い、体積・質量・硬度・引張特性を測定する。
- 圧縮永久ひずみ・応力緩和試験:実部品に近い圧縮率、温度、時間でシール力保持を確認する。
- 熱老化試験:連続使用温度+安全側温度で、硬度、伸び、引張強さ、亀裂を評価する。
- 低温試験:最低使用温度でTR、低温復元、漏れ、動的追従性を確認する。
- 摩耗・疲労試験:実相手材、実潤滑、実速度・荷重・温度で行う。
- 高圧ガス・RGD試験:石油・ガス用途では使用ガス組成、圧力、保持時間、減圧速度を再現する。
- 冷媒・潤滑油混合浸漬試験:空調用途では冷媒単独でなく実潤滑油との混合媒体で評価する。
- 実部品耐久試験:最終判断は部品形状、金型履歴、圧縮率、表面粗さ、相手材、実荷重を含めた耐久試験で行う。
環境・リサイクル性
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 材料形態 | 架橋型エラストマー。加硫後は熱硬化性に近い挙動を示し、再溶融できない。 |
| マテリアルリサイクル | 粉砕ゴムとしての再利用や限定的な再生技術はあるが、バージン材同等への単純再溶融はできない。 |
| ケミカルリサイクル | 一般的な確立ルートは限定的である。 |
| サーマルリサイクル | 窒素を含む有機ゴムであり、適切な燃焼排ガス処理設備が必要である。 |
| 生分解性 | 一般に生分解性材料ではない。 |
| バイオベース | 一般的商用HNBRは石油化学原料由来であり、バイオベースを意味しない。 |
価格・供給性
| 項目 | 一般的傾向 |
|---|---|
| 価格区分 | 比較的高価格~高価格。NBR、EPDM等の汎用ゴムより高価で、FKMより低価格となる場合が多いが、特殊グレードでは逆転する場合がある。 |
| 国内入手性 | 良好。原料ポリマー及びコンパウンドを専門商社・ゴム材料メーカーから調達できる。 |
| 少量購入 | 原料ポリマーは最小ロットが大きい場合があり、成形品又はコンパウンドの少量調達は加工メーカー経由が現実的である。 |
| 供給形態 | ベール、コンパウンド、シート、押出材、Oリング、成形シール等。 |
| 特注性 | 硬度、色、ACN量、耐低温、耐RGD、食品・医療規制、導電性等で特注配合となる場合がある。 |
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | HNBRとの違い |
|---|---|---|
| アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR) | 耐油性とコストのバランスに優れる汎用ニトリルゴム。 | HNBRはNBRを水素化して耐熱・耐オゾン・高温機械特性を改善した材料である。NBRは低価格で、中温油用途では有力。 |
| フッ素ゴム(FKM) | 耐熱、耐油、耐燃料、耐薬品性が非常に高い。 | FKMは200℃級や芳香族燃料・薬品で優位。HNBRは低温、耐摩耗、機械強度、蒸気・一部作動液、価格で有利な場合がある。 |
| エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM) | 耐水、耐蒸気、耐候、耐オゾンに優れる。 | EPDMは鉱物油・炭化水素に弱い。HNBRは油・燃料環境に大幅に有利だが、水系用途ではEPDMが低価格で有力。 |
| シリコーンゴム(VMQ) | 非常に広い高低温範囲、耐候性、電気特性。 | VMQは低温・高温で優れるが、HNBRは耐油、耐摩耗、引裂・高強度、ガスバリアで有利な場合が多い。 |
| エチレンプロピレンゴム(EPM) | 飽和主鎖で耐熱・耐候・電気特性が良好。 | HNBRは耐鉱油・耐燃料性が高い。EPMは水系・電気用途や低比重で有利。 |
| アクリルゴム(ACM) | 高温油、耐熱老化に優れる自動車用ゴム。 | ACMは高温油用途で競合するが、HNBRは低温性、機械強度、耐摩耗、燃料適性で有利な場合がある。ACM個別ページが確認できないためトップページへリンクしている。 |
| クロロプレンゴム(CR) | 耐候、難燃、接着、中程度の耐油性を持つ。 | HNBRは高温耐油・耐燃料・機械強度で優れる。CRは接着性、難燃性及びコストで有利な場合がある。現時点でCR個別URLのページ内容不整合が確認されたためトップページへリンクしている。 |
代替材料選定の考え方
- 100~150℃の鉱油・ATF・エンジン油と高い機械強度が必要な場合はHNBRを優先候補とする。
- 150~200℃以上、芳香族燃料、高耐薬品性が支配的な場合はFKMを比較する。
- 常温~中温の鉱油用途でコストを最優先する場合はNBRを比較する。
- 水、温水、蒸気、屋外耐候性が主要求で鉱物油がない場合はEPDMを比較する。
- -50℃以下の低温柔軟性又は200℃級の乾熱が主要求の場合はVMQを比較する。
代表的なメーカー
| メーカー | 代表製品・ブランド | 概要 |
|---|---|---|
| 日本ゼオン株式会社 / Zeon Corporation | Zetpol®、Zeoforte® | 極高ニトリル、高ニトリル、中高ニトリル、耐寒、ラテックス、HNBRアロイ等を展開する主要HNBRメーカー。ACN量及び残存不飽和度の異なる複数グレードを供給。 |
| ARLANXEO | Therban® | 完全飽和・部分飽和、低温、高耐熱等のHNBRグレードを展開する主要メーカー。自動車、油田、機械、航空宇宙等に使用される。 |
ブランド、グレード、法規制適合及び供給地域は変更される場合がある。採用時には各メーカーの最新TDS、SDS、適合証明書、認証情報及び供給状況を確認する。
関連キーワード
水素化ニトリルゴム / HNBR / Hydrogenated Nitrile Butadiene Rubber / NBR / アクリロニトリルブタジエンゴム / アクリロニトリル / 1,3-ブタジエン / FKM / EPDM / シリコーンゴム / EPM / ACM / CR / エラストマーの耐薬品性 / SP値 / ゴムの熱伝導率 / 熱硬化性エラストマー / Oリング / オイルシール / タイミングベルト / 耐RGD / NORSOK M-710 / ISO 23936
本ページの評価はHNBR材料群としての一般的傾向である。実使用では、グレード、ACN量、水素化度、硬度、架橋方式、温度、薬品濃度、圧力、荷重、応力、湿度、接触時間、試験片形状、成形条件、法規制及び要求寿命を確認し、実部品での評価により最終決定する必要がある。