概要
| 材料名 | ポリ酢酸ビニル |
|---|---|
| 略記号 | PVAc |
| 英語名 | Polyvinyl Acetate |
| 分類 | 熱可塑性樹脂、ビニル系樹脂、非晶性樹脂、接着剤用樹脂 |
| 化学式 | (C4H6O2)n |
| 構成単位 | −CH2−CH(OCOCH3)− |
| 主な用途 | 木工用ボンド、接着剤、エマルション、チューインガム、洗濯のり、化粧品 |
ポリ酢酸ビニル(PVAc)は、酢酸ビニルを重合して得られるビニル系熱可塑性樹脂である。 無色透明の樹脂であり、接着剤、エマルション、塗料、紙加工、繊維加工などに広く使用される。
特に水性エマルション接着剤としての利用が多く、木工用ボンドの主成分として代表的な材料である。 また、ポリビニルアルコール(PVA)の原料としても重要であり、PVAcをけん化することでPVAが得られる。
ポリ塩化ビニル(PVC)と同じビニル系樹脂であるが、PVAcは構造中に酢酸エステル基を持つため、接着性、造膜性、極性溶媒との相互作用に特徴がある。
特徴
- 熱可塑性樹脂である
- 無色透明の樹脂である
- 接着性、造膜性に優れる
- 水性エマルション化しやすい
- 木材、紙、繊維などの多孔質材料への接着に適する
- 柔軟な皮膜を形成しやすい
- ポリビニルアルコール(PVA)の原料となる
- 耐水性は高くない
- 耐熱性は高くない
- アルカリ条件ではけん化を受けやすい
- ケトン、エステル、芳香族溶剤などに溶解または膨潤しやすい
長所
- 接着性が良い
- 造膜性が良い
- 透明性がある
- 水性エマルションとして扱いやすい
- 木材、紙、繊維に対する接着適性が高い
- 常温乾燥で皮膜形成しやすい
- 比較的安価である
- 配合設計により硬さや柔軟性を調整しやすい
短所
- 耐水性が低い
- 耐熱性が低い
- アルカリによりけん化しやすい
- 有機溶剤に弱い
- 構造材料としての強度は高くない
- 屋外耐久性は高くない
- 高温多湿条件では接着性能が低下しやすい
成形加工
ポリ酢酸ビニルは、一般的な射出成形用構造材料としてよりも、エマルション、溶液、接着剤、コーティング材として使用されることが多い。 熱可塑性樹脂であるため加熱により軟化するが、実用上はエマルション重合品や溶液品としての加工が中心である。
| 加工方法 | 適性 | 主な製品例 |
|---|---|---|
| エマルション化 | ◎ | 木工用ボンド、紙加工剤、繊維加工剤 |
| 溶液化 | ○ | 接着剤、コーティング材、塗料 |
| 塗布・乾燥 | ◎ | 接着層、皮膜、表面処理剤 |
| フィルム形成 | ○ | 接着皮膜、保護膜 |
| 射出成形 | △ | 一般的ではない |
| 押出成形 | △ | 単独樹脂としては限定的 |
構造式

ポリ酢酸ビニルは、ビニル主鎖に酢酸エステル基を持つ高分子である。 この酢酸エステル基により極性を持ち、接着性、造膜性、有機溶剤への溶解性を示す。
また、ポリ酢酸ビニルの酢酸エステル基をけん化すると、ポリビニルアルコール(PVA)になる。 このためPVAcはPVA製造の中間体としても重要である。
種類
ホモポリマーPVAc
| 名称 | ポリ酢酸ビニルホモポリマー |
|---|---|
| 構造 | 酢酸ビニル単独重合体 |
| 特徴 | 透明性、接着性、造膜性に優れる |
| 主な用途 | 木工用接着剤、紙加工剤、塗料、エマルション |
特徴
- PVAcの基本タイプである
- 接着性が高い
- 耐水性は低い
- 水性エマルションとして多用される
PVAcエマルション
| 名称 | ポリ酢酸ビニルエマルション |
|---|---|
| 構造 | PVAc粒子を水中に分散した水性系 |
| 特徴 | 水性で扱いやすく、常温乾燥で接着皮膜を形成する |
| 主な用途 | 木工用ボンド、紙加工、繊維加工、包装用接着剤 |
特徴
- 水性接着剤として代表的である
- 安全性と作業性に優れる
- 乾燥により透明な皮膜を形成する
- 耐水性向上には架橋や共重合が必要である
酢酸ビニル共重合体
| 名称 | VAc共重合体 |
|---|---|
| 構造 | 酢酸ビニルと他モノマーの共重合体 |
| 特徴 | 柔軟性、耐水性、接着性、耐候性を調整できる |
| 主な用途 | 接着剤、塗料、建材用エマルション、紙加工剤 |
主な共重合例
- 酢酸ビニル・エチレン共重合体(VAE)
- 酢酸ビニル・アクリル共重合体
- 酢酸ビニル・バーサチック酸ビニル共重合体
- 酢酸ビニル・塩化ビニル共重合体
部分けん化PVAc
| 名称 | 部分けん化ポリ酢酸ビニル |
|---|---|
| 構造 | PVAcの一部をビニルアルコール単位に変換したもの |
| 特徴 | 水溶性、親水性、接着性を調整できる |
| 主な用途 | PVA中間体、粘着剤、保護コロイド、繊維加工 |
特徴
- けん化度により水溶性と耐水性が変化する
- 親水性が増加する
- PVA関連材料との中間的性質を持つ
代表的な物性値又は機械的性質
| 項目 | 単位 | PVAcホモポリマー | PVAcエマルション皮膜 | VAE共重合体 |
|---|---|---|---|---|
| 外観 | なし | 無色透明 | 透明〜乳白色皮膜 | 透明〜乳白色皮膜 |
| 密度 | g/cm³ | 約1.18〜1.20 | 約1.1〜1.2 | 約1.0〜1.2 |
| ガラス転移温度 | ℃ | 約28〜35 | 約25〜35 | エチレン量により低下 |
| 軟化温度 | ℃ | 低い | 低い | 低い〜中程度 |
| 引張強度 | MPa | 中程度 | 配合依存 | 配合依存 |
| 伸び | % | 低〜中程度 | 配合依存 | 高い |
| 硬さ | なし | 中程度 | 中程度 | 柔軟 |
| 耐水性 | なし | 低い | 低い〜中程度 | 中程度 |
| 接着性 | なし | 高い | 高い | 高い |
| 透明性 | なし | 高い | 高い | 高い |
耐薬品性
ポリ酢酸ビニルは極性のある酢酸エステル基を持つため、ケトン、エステル、芳香族溶剤、塩素系溶剤などに溶解または膨潤しやすい。 一方で、水には完全に不溶ではないものの、エマルション皮膜では吸水や白化が問題になりやすい。
| 薬品・溶剤 | 耐性 | 備考 |
|---|---|---|
| 水 | △ | 吸水、白化、接着力低下が起こりやすい |
| 酸 | ○〜△ | 弱酸には比較的安定だが、条件により加水分解に注意 |
| アルカリ | × | けん化によりポリビニルアルコール化しやすい |
| アルコール | △ | 膨潤または軟化する場合がある |
| アセトン | × | 溶解しやすい |
| MEK | × | 溶解しやすい |
| 酢酸エチル | × | 溶解しやすい |
| トルエン | △〜× | 膨潤または溶解する場合がある |
| THF | × | 強い溶解性を示す |
| 塩素系溶剤 | × | 溶解または著しく膨潤する |
更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照。
SP値(溶解度パラメータ)
ポリ酢酸ビニルは酢酸エステル基を持つ極性ポリマーであり、SP値はポリスチレンやポリ塩化ビニルに近い領域にある。 ケトン、エステル、THFなどの溶媒と相性が良く、溶解しやすい。
| 材料 | SP値(δ) | 特徴 |
|---|---|---|
| ポリ酢酸ビニル(PVAc) | 約19.2〜19.6 MPa1/2 | 極性を持ち、ケトン・エステル・THFに溶解しやすい |
溶解性の目安
| Δδ | 挙動 |
|---|---|
| 0〜2 | 溶解しやすい |
| 2〜5 | 膨潤・軟化 |
| 5以上 | 溶解しにくい |
PEと代表溶媒の相性
| 溶媒 | SP値 | 挙動 | 備考 |
|---|---|---|---|
| アセトン | 約19.9 MPa1/2 | ◎(溶解) | 代表的な溶解溶媒である |
| MEK | 約19.0 MPa1/2 | ◎(溶解) | PVAcと相性が良い |
| 酢酸エチル | 約18.6 MPa1/2 | ◎(溶解) | 接着剤・塗料系で使われやすい |
| THF | 約18.5 MPa1/2 | ◎(溶解) | 強溶媒である |
| トルエン | 約18.2 MPa1/2 | ○〜△(膨潤〜溶解) | 配合や分子量により差がある |
| エタノール | 約26.0 MPa1/2 | △(膨潤・軟化) | 単独では溶解性が限定的である |
| 水 | 約47.9 MPa1/2 | △(吸水・白化) | PVAc自体は水溶性ではないが、皮膜性能は低下しやすい |
◎:非常に良好 ○:概ね良好 △:注意が必要 ×:不適
実務上の注意
- PVAcはアセトン、MEK、酢酸エチル、THFに溶解しやすい
- アルカリではけん化反応により性質が変化する
- 水性エマルション皮膜では吸水、白化、接着力低下に注意が必要である
- 耐水性が必要な場合は架橋型、VAE系、アクリル共重合系などを検討する
製法
ポリ酢酸ビニルは、酢酸ビニルをラジカル重合することで製造される。 既存ページでも、酢酸ビニルをラジカル重合することで得られる樹脂として整理されている。:contentReference[oaicite:1]{index=1}
| 製法 | 特徴 | 主な製品形態 |
|---|---|---|
| 乳化重合 | 水中で酢酸ビニルを重合し、PVAcエマルションを得る | 木工用ボンド、紙加工剤、繊維加工剤 |
| 溶液重合 | 有機溶媒中で重合し、溶液型樹脂を得る | 接着剤、コーティング材、塗料 |
| 懸濁重合 | 粒状のPVAcを得やすい | 樹脂原料、改質原料 |
| けん化反応 | PVAcをアルカリまたは酸で加水分解しPVAへ変換する | ポリビニルアルコール原料 |
詳細な利用用途
接着剤用途
- 木工用ボンド
- 紙用接着剤
- 包装用接着剤
- ラベル用接着剤
- 繊維用接着剤
紙加工・繊維加工用途
- 紙力増強剤
- 表面処理剤
- 不織布バインダー
- 繊維仕上げ剤
- 洗濯のり
塗料・コーティング用途
- 水性塗料用バインダー
- 内装用塗料
- 表面保護皮膜
- コーティング樹脂
食品・生活用品用途
- チューインガムベース
- 化粧品原料
- 生活用品用接着剤
- 文具用のり
PVA原料用途
- ポリビニルアルコール製造原料
- 保護コロイド
- 水溶性フィルム原料
- 繊維加工用樹脂
関連材料との比較
| 比較材料 | PVAcとの違い | 選定ポイント |
|---|---|---|
| ポリビニルアルコール(PVA) | PVAはPVAcをけん化して得られる。PVAは水溶性・親水性が高い | 水溶性やフィルム性を重視する場合はPVA、接着剤エマルション用途ではPVAc |
| PVC | PVCは耐薬品性・難燃性が高い。PVAcは接着性・造膜性に優れる | 構造材や建材ならPVC、接着剤やバインダーならPVAc |
| EVOH | EVOHはエチレン・酢酸ビニル共重合体をけん化して得られる高バリア樹脂である | ガスバリア用途ならEVOH、接着・バインダー用途ならPVAc |
| VAE | VAEは酢酸ビニルとエチレンの共重合体で、PVAcより柔軟性と耐水性を付与しやすい | 柔軟性や低温造膜性が必要な場合はVAEが有利である |
| アクリルエマルション | アクリル系は耐候性、耐水性、透明性を高めやすい | 屋外耐久性ならアクリル系、木工接着ならPVAcが使いやすい |
| PE | PEは非極性で接着しにくい。PVAcは極性材料への接着性が高い | 容器・フィルムならPE、接着剤・バインダーならPVAc |
代表的なメーカー
| メーカー | 代表的な製品・用途 | 備考 |
|---|---|---|
| クラレ | 酢酸ビニル系樹脂、PVA関連材料 | PVAc、PVA、EVOH関連で重要 |
| 日本合成化学 | 酢酸ビニル系、PVA系材料 | PVA・ビニル系樹脂関連 |
| レゾナック系メーカー | 接着剤・エマルション関連材料 | 工業用バインダー用途 |
| Celanese | Vinyl acetate polymer / emulsion products | グローバル酢酸ビニル系材料メーカー |
| Wacker | VINNAPAS系エマルション | VAE、PVAc系バインダー材料 |
| Dow | エマルション・接着剤用樹脂 | 塗料、接着剤、建材用途 |
| Henkel | PVAc系接着剤 | 木工・包装・工業用接着剤 |