シアネートエステル

概要

材料名シアネートエステル
略記号CE、Cyanate Ester
英語名Cyanate Ester Resin
分類熱硬化性樹脂、スーパーエンプラ相当、耐熱・低誘電樹脂
構造・主成分シアネート基(−OCN)を持つ芳香族モノマーが三量化し、トリアジン環を形成した架橋樹脂
主な用途高周波基板、航空宇宙用複合材、レドーム、電子材料、耐熱接着剤、プリント配線板

シアネートエステル樹脂は、分子内にシアナト基(-O-C≡N)を持つ熱硬化性樹脂である。加熱によって3つのシアナト基が反応し、強固な「トリアジン環」を形成して三次元網目構造を構築する。硬化によりトリアジン環を形成し、耐熱性、寸法安定性、低誘電特性、低吸湿性に優れる。

エポキシ樹脂を凌ぐ高い耐熱性と、フッ素樹脂に匹敵する優れた低誘電特性を併せ持つため、次世代の高速通信基板や宇宙航空分野のマトリックス樹脂として不可欠な高機能材料である。

高周波特性や耐熱性に優れる場合が多く、ポリイミドよりも加工性に優れる。高性能材料である一方、価格が高く、硬化条件や吸湿管理、脆性、接着性の設計に注意が必要である。

特徴

  • 耐熱性、低誘電率、低誘電正接、低吸湿性に優れる。
  • 硬化によりトリアジン環を形成し、高い架橋密度と寸法安定性を示す。
  • 高周波基板、航空宇宙用複合材、レドーム、電子材料に適する。
  • エポキシ樹脂、ビスマレイミド、ポリイミドなどと比較して、低誘電・低吸湿用途で有利である。
  • 硬化条件、触媒、充填材、ガラスクロス、炭素繊維、他樹脂とのブレンドにより物性が大きく変化する。
長所
  • 耐熱性が高く、ガラス転移温度はおおむね200〜300℃級である。
  • 極めて高い耐熱性と連続使用温度
  • 誘電率と誘電正接が低く、高周波・高速通信基板に適する。
  • 熱硬化性樹脂の中でトップクラスの低誘電特性(高周波対応)
  • 吸水率が低く、湿度による電気特性変化が比較的小さい。
  • エポキシ樹脂より耐熱性、低吸湿性、誘電特性に優れる場合が多い。
  • ガラス繊維、炭素繊維との複合化により高強度・高剛性材料となる。
  • 金属箔(銅箔)や補強繊維との接着性が良好
短所
  • 一般エポキシ樹脂より高価である。
  • 硬化温度が高く、長時間の加熱(ポストキュア)を要する場合がある
  • 硬化条件の管理が必要で、未硬化成分や硬化不足は耐熱性・耐薬品性を低下させる。
  • 高架橋性のため、グレードによっては脆さが出やすい。
  • 強アルカリ、高温水蒸気、強酸化性薬品には注意が必要である。
  • 単独での射出成形用途ではなく、主にプリプレグ、積層、注型、接着、複合材用途で使われる。
成形加工

シアネートエステルは熱硬化性樹脂であり、プリプレグ、積層成形、オートクレーブ成形、RTM、注型、接着剤、ワニス、基板材料として使用される。硬化温度、後硬化、触媒、充填材により最終物性が変化する。

加工方法適正主な製品例
プリプレグ積層成形高周波基板、航空宇宙用積層板、構造部材
オートクレーブ成形炭素繊維複合材、航空宇宙部品、レドーム
RTM・VaRTM大型複合材、構造部材、電波透過部材
注型・ポッティング電子部品封止、耐熱絶縁部材
接着・ワニス塗布耐熱接着剤、銅張積層板、絶縁ワニス
射出成形×一般的な熱可塑性樹脂のような射出成形には不向き

構造式

シアネートエステルは、芳香族骨格にシアネート基(−OCN)を有するモノマーを基本とする。硬化反応ではシアネート基が三量化し、トリアジン環を形成する。

基本構造例:

Ar−O−C≡N

硬化反応の模式式:

3 Ar−O−C≡N → トリアジン環含有架橋構造

代表的にはビスフェノールA型、ビスフェノールE型、ノボラック型、ジシクロペンタジエン型などの芳香族シアネートエステルが用いられる。芳香族骨格、架橋密度、硬化条件、充填材の有無により、耐熱性、誘電特性、吸水率、機械的性質が変化する。

種類

ビスフェノールA型シアネートエステル
名称ビスフェノールA型シアネートエステル
構成ビスフェノールA骨格にシアネート基を導入した標準的なCE樹脂
特徴耐熱性、加工性、機械特性のバランスが良い
主な用途電子材料、複合材、接着剤、積層板
ノボラック型シアネートエステル
名称ノボラック型シアネートエステル
構成多官能ノボラック骨格を持つ高架橋型CE樹脂
特徴高Tg、高耐熱、高寸法安定性を示す
主な用途高耐熱基板、航空宇宙複合材、耐熱接着剤
ジシクロペンタジエン型シアネートエステル
名称DCPD型シアネートエステル
構成ジシクロペンタジエン骨格を含む低吸湿・低誘電型CE樹脂
特徴低吸湿性、低誘電特性、耐熱性に優れる
主な用途高周波基板、ミリ波部材、低誘電積層板
変性シアネートエステル
名称エポキシ変性、BMI変性、熱可塑性樹脂変性シアネートエステル
構成CE樹脂にエポキシ樹脂、ビスマレイミド、熱可塑性樹脂、ゴム成分などを配合した改質グレード
特徴靱性、接着性、加工性、コストバランスを改善する
主な用途プリント配線板、複合材、接着剤、封止材

代表的な物性値又は機械的性質

性質単位標準CEガラス布積層CE炭素繊維強化CE
比重1.20〜1.351.75〜1.951.45〜1.65
引張強さMPa60〜90250〜500600〜1200
曲げ強さMPa100〜150350〜650700〜1500
曲げ弾性率GPa3.0〜4.518〜2850〜130
ガラス転移温度220〜290220〜300230〜320
熱分解開始温度350〜420350〜430370〜450
吸水率%0.3〜1.00.2〜0.80.2〜0.7
誘電率2.7〜3.23.2〜4.0用途により変動
誘電正接0.002〜0.0080.003〜0.010用途により変動
難燃性UL94V-0相当グレードありV-0相当グレードありV-0相当グレードあり

上記は代表値であり、実際の値はモノマー構造、硬化条件、触媒、繊維、充填材、積層構成により変化する。

耐薬品性

シアネートエステルは、硬化が十分であれば水、アルコール、炭化水素、燃料、油類に比較的安定である。強酸、強アルカリ、高温水蒸気、強極性溶剤では、膨潤、加水分解、物性低下に注意する。

薬品・溶剤耐性備考
吸水率は比較的低いが、高温水・長期浸漬では物性変化に注意する。
△〜○希酸には比較的安定。強酸、酸化性酸では劣化に注意する。
アルカリ強アルカリ、高温条件では加水分解や表面劣化の可能性がある。
アルコールメタノール、エタノール、IPAには比較的安定である。
ケトンアセトン、MEKでは短時間は比較的安定な場合があるが、応力負荷・高温では注意する。
芳香族溶剤△〜○トルエン、キシレンではグレードにより膨潤の可能性がある。
油・燃料航空燃料、油類には比較的良好であるが、添加剤や温度条件に注意する。
強極性溶剤△〜×NMP、DMF、DMSOでは膨潤・浸透・物性低下に注意する。

更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照。

SP値(溶解度パラメータ)

シアネートエステルのSP値は、樹脂骨格、硬化度、架橋密度、充填材、繊維強化の有無により変動する。硬化後の架橋樹脂は単純なSP値一致だけでは溶解しにくく、膨潤、浸透、クラック、加水分解を含めて評価する必要がある。

項目SP値(δ)
MPa1/2
備考
シアネートエステル(標準硬化物)21.5〜23.5低吸湿・低誘電性を持つ。一般溶剤には比較的安定である。
ビスフェノールA型CE22.0〜23.5標準的なCE樹脂。芳香族骨格により耐熱性と耐薬品性のバランスが良い。
ノボラック型CE22.5〜24.5高架橋密度で耐熱性が高い。強極性溶剤や高温アルカリには注意する。
DCPD型CE20.0〜22.0低吸湿・低誘電型。非極性溶剤とのSP値差は小さいため、長期浸漬では確認が必要である。
ガラス繊維強化CE21.5〜23.5樹脂相のSP値は標準CEに近い。界面、ボイド、ガラスクロス処理剤の影響を受ける。
炭素繊維強化CE21.0〜23.0剛性と耐熱性に優れる。繊維界面への溶剤浸透、層間剥離に注意する。
エポキシ変性CE22.0〜24.0接着性と靱性を改善する。エポキシ比率が高いと吸水率や耐熱性が変化する。
溶解性の目安
SP値差(Δδ)挙動備考
0〜2膨潤・浸透しやすい熱可塑性樹脂では溶解しやすい範囲である。CEでは架橋構造のため溶解より膨潤・物性低下として現れやすい。
2〜5膨潤・軟化の可能性温度、応力、接触時間によりクラックや層間剥離が生じる場合がある。
5以上溶解しにくいSP値上は安定しやすいが、酸・アルカリ・酸化剤などの化学反応性は別途評価する。
SP値から見た耐溶剤性
薬品・溶剤SP値(δ)MPa1/2SP値差評価備考
47.9約25.4SP値差は大きいが、高温水・水蒸気では加水分解や吸湿に注意する。
メタノール29.7約7.2常温短時間では比較的安定である。
エタノール26.0約3.5一般洗浄用途では比較的安定である。
IPA(イソプロパノール)23.5約1.0SP値は近いが、硬化物では溶解しにくい。長期浸漬は確認が必要である。
アセトン20.0約2.5短時間接触では使用可能な場合があるが、応力負荷や長期浸漬では膨潤に注意する。
MEK(メチルエチルケトン)19.0約3.5ケトン系溶剤であり、樹脂相への浸透と表面変化に注意する。
トルエン18.2約4.3△〜○芳香族溶剤であり、DCPD型や低架橋グレードでは膨潤確認が必要である。
キシレン18.0約4.5△〜○高温長時間では膨潤や層間剥離に注意する。
酢酸エチル18.6約3.9エステル系溶剤であり、塗布・洗浄用途では事前確認が必要である。
NMP(N-メチル-2-ピロリドン)23.1約0.6×〜△SP値が近く、強極性溶剤であるため膨潤・浸透・物性低下に注意する。
DMF(ジメチルホルムアミド)24.8約2.3強極性溶剤であり、高温・長時間接触では注意が必要である。
DMSO(ジメチルスルホキシド)26.7約4.2高極性で浸透性があるため、電子材料用途では確認が必要である。
濃硫酸35以上約12.5以上×SP値差だけでは判断できない。強酸化性・脱水性により劣化する。
濃硝酸約31約8.5×〜△酸化劣化の可能性がある。
水酸化ナトリウム水溶液47付近約24.5SP値差は大きいが、強アルカリ・高温条件では化学劣化に注意する。

◎:非常に良好 ○:概ね良好 △:注意が必要 ×:不適

※ 耐溶剤評価は、シアネートエステル硬化物のSP値中央値(約22.5 MPa1/2)を基準とし、溶剤とのSP値差および実際の熱硬化性樹脂としての化学耐性を総合的に考慮した参考評価である。

特に注意が必要な溶剤
  • NMP、DMF、DMSOなどの強極性溶剤は、SP値が近く膨潤・浸透・物性低下を起こす可能性がある。
  • 濃硫酸、濃硝酸などの強酸・酸化性酸は、SP値差にかかわらず化学劣化の危険がある。
  • 強アルカリ水溶液は、高温条件で架橋構造や界面を劣化させる場合がある。
  • アセトン、MEK、酢酸エチルなどは、短時間洗浄では使用できる場合があるが、応力負荷や長期浸漬では注意する。

製法

シアネートエステルは、フェノール性水酸基を持つ芳香族化合物をシアン化剤と反応させ、シアネート基を導入してモノマーを得る。代表例として、ビスフェノールAを塩化シアン又は臭化シアンなどでシアネート化し、ビスフェノールA型シアネートエステルを合成する。

基本反応式:

Ar−OH + X−CN → Ar−O−C≡N + HX

硬化反応では、シアネート基が三量化してトリアジン環を形成する。

硬化反応式:

3 Ar−O−C≡N → トリアジン環含有架橋構造

  • フェノール性化合物をシアネート化してシアネートエステルモノマーを得る。
  • 触媒、加熱、後硬化により三量化反応を進める。
  • ガラスクロス、炭素繊維、シリカ、難燃剤、エポキシ樹脂などを配合し、プリプレグや積層材料とする。
  • 硬化不足は耐熱性、耐薬品性、誘電特性の低下につながるため、硬化条件管理が重要である。

詳細な利用用途

代表用途
  • 高周波プリント配線板
  • ミリ波・5G・6G関連基板
  • 航空宇宙用複合材
  • レドーム、アンテナカバー
  • 耐熱接着剤
  • 電子部品封止材
工業用途
  • 銅張積層板
  • 低誘電プリプレグ
  • 炭素繊維強化複合材
  • ガラス繊維強化積層板
  • 高温構造部材
  • 宇宙・防衛関連部材
  • 耐熱絶縁材料
  • 高信頼性電子材料

関連材料との比較

比較材料違い選定ポイント
エポキシ樹脂エポキシ樹脂は接着性、汎用性、コストに優れる。シアネートエステルは低誘電、低吸湿、耐熱性に優れる。一般接着・封止ではエポキシ、高周波・低吸湿・高耐熱用途ではCEを検討する。
ポリイミドポリイミドは非常に高い耐熱性を持つ。CEは低誘電性と複合材加工性に優れる。最高耐熱ではPI、低誘電・複合材・基板用途ではCEを選ぶ。
ビスマレイミドBMIは高耐熱複合材に使われる。CEは低吸湿・低誘電特性に優れる。航空機構造材ではBMI、電波透過性や低誘電性重視ではCEを検討する。
PEEKPEEKは熱可塑性スーパーエンプラであり、CEは熱硬化性樹脂である。射出成形や切削部品ではPEEK、積層・複合材・低誘電基板ではCEを選ぶ。
PPSPPSは耐薬品性と成形性に優れる熱可塑性樹脂である。CEは低誘電・高耐熱積層用途に強い。量産成形部品ではPPS、高周波基板や航空宇宙複合材ではCEを検討する。

代表的なメーカー

メーカー代表的な製品・商品名備考
三菱ガス化学シアネートエステル系樹脂、低誘電材料関連グレード電子材料、低誘電基板、積層板用途で使用される。
ロンザPrimasetシアネートエステル樹脂の代表的ブランドである。
Huntsman高性能熱硬化性樹脂関連グレード複合材、電子材料、接着剤用途で使用される。
Hexcelシアネートエステル系プリプレグ航空宇宙用複合材、レドーム用途で使用される。
Toray Advanced CompositesCE系複合材料、プリプレグ航空宇宙、電波透過部材、耐熱複合材に使用される。

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