概要
| 材料名 | メタクリル酸グリシジル |
|---|---|
| 略記号 | GMA |
| 英語名 | Glycidyl Methacrylate |
| IUPAC名 | 2-Oxiranylmethyl 2-methylprop-2-enoate |
| 別名 | メタクリル酸-2,3-エポキシプロピル、2-オキシラニルメチル=2-メチルプロパ-2-エノアート |
| 分類 | 反応性アクリル系モノマー、エポキシ基含有メタクリル酸エステル、樹脂改質剤、相溶化剤原料 |
| CAS番号 | 106-91-2 |
| 化学式 | C7H10O3 |
| 主な用途 | アクリル塗料、粉体塗料、接着剤、樹脂改質剤、相溶化剤、UV硬化材料、感光性材料、繊維・紙処理剤 |
メタクリル酸グリシジル(GMA)は、メタクリロイル基とエポキシ基を同一分子内に持つ融点-41.5℃、沸点189℃で、常温において無色透明の液体の反応性モノマーである。メタクリル酸グリシジルは「メタクリル酸2,3-エポキシプロピル」「GMA」などとも呼ばれている有機化合物です。
メタクリロイル基はラジカル重合に関与し、エポキシ基はアミン、酸無水物、カルボキシル基、ヒドロキシ基などと反応するため、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリオレフィン改質、ポリマーアロイの相溶化などに使用される。
単独で構造材料として使用されることは少なく、主に共重合、グラフト重合、架橋反応により、樹脂へ接着性、密着性、耐薬品性、耐熱性、反応性を付与する目的で用いられる。
また、フタル酸ジブチルは、PRTR法において第1種指定化学物質に指定されています。また、労働安全衛生法において変異原性が認められた既存化学物質に、消防法において「第4類危険物・第三石油類(非水溶性液体)」に指定されています。このほか、毒物および劇物取締法における劇物。
- 多機能な反応性:メタクリロイル基による熱・光重合と、エポキシ基による熱・触媒架橋の二段構えの反応が可能。
- 密着性の向上:エポキシ基が金属、ガラス、極性樹脂(PETやPAなど)に対して強力な化学結合を作るため、コーティング剤の密着性を劇的に改善する。
- 耐候性と透明性:アクリル骨格を持つため、純粋なエポキシ樹脂よりも紫外線による黄変が少なく、屋外使用に耐える。
- 相溶化作用:本来混ざり合わない異種ポリマー(例:ポリエチレンとナイロン)を混ぜ合わせる際の「相溶化剤」として機能し、合金化(ポリマーアロイ)を可能にする。
特徴
- メタクリロイル基とエポキシ基を併せ持つ二官能性モノマーである。
- ラジカル重合によりアクリル系、スチレン系、アクリロニトリル系などと共重合しやすい。
- エポキシ基により金属、ガラス、ポリエステル、ポリアミドなどの極性材料との密着性を高めやすい。
- ポリエチレン、ポリプロピレンなどの非極性樹脂にグラフトすることで、接着性や相溶性を改善できる。
- 塗料、接着剤、樹脂改質、ポリマーアロイ、反応性エマルジョン、感光性材料に使用される。
- 常温では無色透明の液体であり、揮発性、刺激性、反応性を考慮した取り扱いが必要である。
- モノマー状態では皮膚刺激性、感作性、毒性に注意が必要である。
- 貯蔵中の重合を防ぐため、重合禁止剤、温度管理、光・熱管理が重要である。
長所
- 1分子で2種類の硬化システム(ラジカルとイオン)を利用できる
- 少量添加で樹脂の密着性、反応性、架橋性を改善しやすい。
- 極めて微量の添加で樹脂の物性(密着性、耐熱性)を底上げできる
- アクリル骨格により透明性、耐候性、塗膜外観を保ちやすい。
- エポキシ基により接着性、耐薬品性、耐熱性の向上に寄与する。
- 異種樹脂間の相溶化剤、反応性改質剤として有効である。
- 既存のアクリル樹脂生産ラインを流用して高機能化が可能
短所
- モノマーは刺激性があり、皮膚接触、吸入、眼への暴露を避ける必要がある
- 反応性が高く、保管条件によっては重合、ゲル化、品質劣化が起こる
- 貯蔵中に重合(ゲル化)しないよう温度管理や重合禁止剤の調整が不可欠
- 単独樹脂としての使用例は少なく、配合設計や共重合設計が必要である
- 強酸、強塩基、アミン類、酸無水物などとは反応しやすく、保管・混合条件に注意を要する
成形加工
| 加工方法 | 適正 | 備考 |
|---|---|---|
| ラジカル重合 | ◎ | メタクリロイル基により、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリルなどと共重合できる。 |
| グラフト重合 | ◎ | PE、PP、エラストマーなどへ反応性官能基を導入する目的で使用される。 |
| 架橋反応 | ◎ | エポキシ基がアミン、カルボン酸、酸無水物、ヒドロキシ基などと反応する。 |
| 射出成形 | △ | GMA単体ではなく、GMA変性樹脂や共重合体として成形される。 |
| 押出成形 | ○ | GMA変性ポリオレフィン、相溶化剤、接着性樹脂として押出加工される。 |
| 塗料・コーティング | ◎ | 粉体塗料、アクリル塗料、UV硬化材料、接着性付与剤として使用される。 |
構造式
メタクリル酸グリシジルは、メタクリル酸エステル構造とグリシジル基を持つ。代表構造は以下の通りである。

CH2=C(CH3)COOCH2CHCH2O
上記の末端部は三員環のエポキシ環を形成している。すなわち、分子内に「重合可能な炭素−炭素二重結合」と「開環反応可能なエポキシ基」を持つことが、GMAの最も重要な構造的特徴である。
種類
| 種類の名称 | 主な形態 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| GMAモノマー | 液体モノマー | メタクリロイル基とエポキシ基を持つ反応性原料である。 | 共重合原料、塗料原料、接着剤原料、感光性材料 |
| GMA共重合アクリル樹脂 | 樹脂、溶液、エマルジョン | アクリル樹脂にエポキシ反応性を付与した材料である。 | 粉体塗料、熱硬化型塗料、接着剤、コーティング |
| GMA変性ポリオレフィン | ペレット、フィルム、接着性樹脂 | PE、PPなどへ極性・接着性を付与する。 | 多層フィルム、接着層、樹脂改質、ポリマーアロイ |
| GMA系相溶化剤 | ペレット、添加剤 | 異種樹脂間で反応性相溶化を行う。 | PA/PP、PET/PO、ABS系改質、リサイクル材改質 |
代表的な物性値又は機械的性質
| 項目 | 単位 | 代表値 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 外観 | – | 無色透明液体 | 常温で液体である。 |
| 分子量 | g/mol | 142.15 | C7H10O3としての値である。 |
| 融点 | ℃ | -41.5 | 低温でも液体状態を保ちやすい。 |
| 沸点 | ℃ | 約189 | 加熱時は揮発、重合、分解に注意する。 |
| 密度 | g/cm3 | 約1.07 | 20〜25℃付近の代表値である。 |
| 屈折率 | – | 約1.45 | 透明樹脂、光硬化材料の設計で参考となる。 |
| 引火点 | ℃ | 約76〜85 | 消防法上の危険物として管理が必要である。 |
| 水への溶解性 | – | 低い〜わずかに溶ける | エステル基とエポキシ基を持つが、完全水溶性ではない。 |
| 反応性 | – | 高い | ラジカル重合とエポキシ開環反応の両方に関与する。 |
耐薬品性
| 薬品 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|
| 水 | ○ | 短時間接触では比較的安定であるが、加水分解や不純物による反応に注意する。 |
| アルコール類 | △ | 溶解・希釈しやすい場合があり、反応条件によってエポキシ基との反応も考慮する。 |
| ケトン類 | × | アセトン、MEKなどには溶解しやすく、モノマーの希釈溶剤として扱われる。 |
| 芳香族炭化水素 | × | トルエン、キシレンなどに溶解しやすい。 |
| エステル類 | × | 酢酸エチルなどとは親和性が高い。 |
| 強酸 | × | エポキシ基の開環、エステル部の分解、重合促進が起こる可能性がある。 |
| 強アルカリ | × | エステル部の加水分解やエポキシ基の反応に注意する。 |
| アミン類 | × | エポキシ基と反応しやすいため、混合安定性に注意する。 |
更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照。
SP値(溶解度パラメータ)
SP値(溶解度パラメータ)
| 項目 | SP値(δ)MPa1/2 | 備考 |
|---|---|---|
| メタクリル酸グリシジル(GMAモノマー) | 約19.0〜20.0 | エステル基とエポキシ基を持つため、中程度以上の極性溶剤と親和性が高い。 |
| GMA共重合アクリル樹脂 | 約18.5〜21.0 | 共重合組成により変動する。MMA、BA、St、ANなどの比率で溶剤親和性が変わる。 |
| GMA変性ポリオレフィン | 約17.0〜19.0 | ポリオレフィン骨格の影響でGMA単体より低めになる。接着性と非極性樹脂への相溶性を両立する。 |
| GMA系相溶化剤 | 約17.5〜20.5 | ベース樹脂がPO系、アクリル系、スチレン系かにより差が出る。 |
溶解性の目安
溶解性の目安
| 溶剤分類 | 溶解性の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| ケトン類 | 溶解しやすい | アセトン、MEK、MIBKなどとはSP値が近く、親和性が高い。 |
| エステル類 | 溶解しやすい | 酢酸エチル、酢酸ブチルなどとは相溶しやすい。 |
| 芳香族炭化水素 | 溶解しやすい | トルエン、キシレンなどに溶けやすい。 |
| アルコール類 | 一部溶解 | メタノール、エタノール、IPAなどでは濃度、温度、含水率で挙動が変わる。 |
| 水 | 溶けにくい | 完全水溶性ではないが、長期接触では加水分解、反応、白濁に注意する。 |
| 脂肪族炭化水素 | 溶けにくい | ヘキサン、ミネラルスピリットなどとはSP値差が大きい。 |
SP値から見た耐溶剤性
SP値から見た耐溶剤性
| 薬品・溶剤 | SP値(δ)MPa1/2 | SP値差 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 水 | 47.9 | 約28.4 | ○ | SP値差は大きいが、反応性官能基を持つため長期接触や加水分解には注意する。 |
| メタノール | 29.7 | 約10.2 | △ | 極性が高く、条件により膨潤、希釈、反応の可能性がある。 |
| エタノール | 26.0 | 約6.5 | △ | 短時間では使用可能な場合があるが、濃度と温度に注意する。 |
| イソプロピルアルコール | 23.5 | 約4.0 | △ | GMAとの親和性があり、保管溶剤としては安定性確認が必要である。 |
| アセトン | 20.0 | 約0.5 | × | SP値が近く、溶解・希釈しやすい。 |
| メチルエチルケトン | 19.0 | 約0.5 | × | 非常に親和性が高い。 |
| 酢酸エチル | 18.6 | 約0.9 | × | エステル系溶剤であり、GMAと相溶しやすい。 |
| トルエン | 18.2 | 約1.3 | × | 芳香族溶剤であり、溶解・膨潤しやすい。 |
| キシレン | 18.0 | 約1.5 | × | 塗料系溶剤として親和性が高い。 |
| ヘキサン | 14.9 | 約4.6 | ○ | SP値差があり、相溶性は比較的低いが、混合系では確認が必要である。 |
※SP値差は、メタクリル酸グリシジルのSP値中央値を19.5MPa1/2として算出した目安である。
評価基準:◎:非常に良好 ○:概ね良好 △:注意が必要 ×:不適
特に注意する溶剤:アセトン、MEK、MIBK、酢酸エチル、トルエン、キシレンなどはGMAと親和性が高く、溶解・希釈・膨潤が起こりやすい。また、アミン類、強酸、強塩基はエポキシ基やエステル基と反応する可能性があるため、単なる溶解性だけでなく反応性も考慮する必要がある。
製法
メタクリル酸グリシジルは、主にメタクリル酸塩と[[エピクロロヒドリン]]の反応により合成される。
メタクリル酸グリシジルは、ラジカル重合開始剤により二重結合による重合を行う。また、ルイス酸によりエポキシ基の開環重合を行う。加えて、スチレン、塩化ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリルなどと容易に共重合する特徴がある。
GMAは単独で重合させるよりも、他のモノマー(スチレン、アクリル酸エステル等)と共重合させることで、ポリマー鎖にエポキシ基を導入する目的で多用される。
基本反応式は以下のように表される。
CH2=C(CH3)COONa + ClCH2CH(O)CH2 → CH2=C(CH3)COOCH2CH(O)CH2 + NaCl
実際の製造では、エピクロロヒドリンの過剰使用、触媒、重合禁止剤、精製蒸留、低温管理などが重要となる。GMAはメタクリロイル基を持つため、製造・保管中の不要な重合を防止する必要がある。
反応・硬化メカニズム
- 共重合:まずGMAを他のアクリルモノマー等とラジカル重合させ、側鎖にエポキシ基がぶら下がった状態のポリマー(プレポリマー)を作る。
- 架橋(硬化):成形や塗装の段階で、アミン類、酸無水物、またはカルボキシル基を持つ樹脂と反応させることで、側鎖のエポキシ基同士が架橋し、強固な硬化物となる。
主な派生製品・混合形態
- GMA変性ポリオレフィン:接着性のないポリエチレン等にGMAをグラフト重合させたもので、金属との積層フィルムなどに使われる。
- アクリルエポキシハイブリッド樹脂:GMAを用いることで、アクリルの美粧性とエポキシの強靭さを分子レベルで融合させた樹脂。
詳細な利用用途
メタクリル酸グリシジルの性質を基に、アクリル粉体塗料や溶剤型アクリル塗料などの塗装用樹脂の原料として用いられている。また、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂 (ABS樹脂) とポリスチレン樹脂における樹脂改質剤およびアクリル樹脂エマルジョン系の接着剤樹脂などの原料としても利用されている。
主に塗料、接着剤、樹脂改質の分野で「高機能化の要」として使用される。
- 自動車用粉体塗料:高級車のクリアコートにおいて、耐擦傷性と耐酸性雨性を両立させる架橋剤。
- ポリマーアロイ改質剤:ポリオレフィン(PP/PE)やエンジニアリングプラスチックの耐衝撃性改良。
- 感光性材料:半導体レジスト、フォトレジスト、UV硬化インクの原料。
- 繊維・紙処理剤:繊維の防皺加工や、紙の強度向上、撥水性付与。
- 歯科材料:歯科用レジン(詰め物)の密着性向上成分。
| 用途分野 | 使用目的 | 具体例 |
|---|---|---|
| 塗料 | 架橋性、密着性、耐薬品性の付与 | アクリル粉体塗料、自動車用クリア塗料、金属塗装、工業用コーティング |
| 接着剤 | 極性材料への密着性向上 | 金属、ガラス、PET、PA、紙、繊維向け接着剤 |
| 樹脂改質 | 反応性官能基の導入 | ABS、PS、PMMA、アクリル樹脂、ポリオレフィン改質 |
| 相溶化剤 | 異種樹脂間の界面接着改善 | PA/PP、PET/PE、PBT/PO、リサイクル樹脂ブレンド |
| 感光性材料 | 光硬化性、現像性、密着性の付与 | フォトレジスト、UV硬化インク、感光性樹脂、電子材料 |
| 繊維・紙処理 | 架橋、撥水、強度向上 | 繊維処理剤、紙力増強剤、表面改質剤 |
| 医療・歯科材料 | 樹脂との密着性向上 | 歯科用レジン、接着性モノマー、複合材料用改質成分 |
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | GMAとの違い | 関連リンク |
|---|---|---|---|
| メタクリル酸メチル | 透明性、耐候性に優れるアクリル樹脂原料である。 | GMAはエポキシ基を持つため、反応性と密着性付与能力が高い。 | PMMA |
| アクリル樹脂 | 透明性、耐候性、塗装性に優れる。 | GMAを共重合することで、アクリル樹脂に架橋性と接着性を付与できる。 | アクリル樹脂 |
| エポキシ樹脂 | 接着性、耐薬品性、機械的強度に優れる熱硬化性樹脂である。 | GMAはエポキシ基を持つモノマーであり、アクリル系やポリオレフィン系へエポキシ反応性を導入できる。 | エポキシ樹脂 |
| ポリプロピレン | 軽量で耐薬品性が良いが、接着性は低い。 | GMAグラフトにより、PPへ極性と接着性を付与できる。 | PP |
| ポリエチレン | 耐水性、耐薬品性、低温特性に優れるが、接着性は低い。 | GMA変性により、多層フィルムや接着層に適した材料となる。 | PE |
| ポリアミド | 強度、耐摩耗性、耐油性に優れるエンジニアリングプラスチックである。 | GMA変性樹脂はPAとの反応性相溶化に使用される。 | PA |
| ポリエチレンテレフタレート | 透明性、耐薬品性、寸法安定性に優れるポリエステルである。 | GMA系相溶化剤はPETやPBTなどのポリエステル改質に使用される。 | PET |
代表的なメーカー
| メーカー | 主な関連製品・分野 | 備考 |
|---|---|---|
| 三菱ケミカルグループ | アクリル系材料、機能性モノマー、樹脂改質材料 | アクリル系材料、メタクリル酸エステル関連の技術基盤を持つ。 |
| 日本触媒 | アクリル酸系、特殊エステル、機能性化学品 | 反応性モノマー、機能性化学品分野で関連する。 |
| 日油 | 機能性モノマー、特殊アクリレート、改質剤 | 塗料、接着剤、電子材料向けの機能性原料を扱う。 |
| Dow | GMA、アクリル系モノマー、コーティング材料 | 塗料、接着、樹脂改質向けの化学品を展開する。 |
| Evonik | メタクリレート、特殊モノマー、樹脂材料 | アクリル・メタクリル系機能性材料の代表的メーカーである。 |
| Arkema | アクリル系材料、機能性ポリマー、添加剤 | コーティング、接着、樹脂改質分野に関連する。 |