概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 材料名 | シンジオタクチックポリスチレン |
| 略記号 | SPS(s-PS とも表記) |
| IUPAC名 | Poly(1-phenylethylene)(シンジオタクチック立体規則性) |
| 英語名 | Syndiotactic Polystyrene |
| 日本語名(別名) | シンジオタクチックポリスチレン/s-PS/結晶性ポリスチレン(旧称) |
| 分類 | スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ) |
| プラスチック分類 | 熱可塑性樹脂 / 結晶性プラスチック |
| 化学式(繰り返し単位) | –[CH2–CH(C6H5)]n–(フェニル基がシンジオ配列) |
| CAS No. | 28325-31-9 |
| 構造・主成分 | スチレンモノマーをメタロセン触媒により重合した高立体規則性(シンジオ配列率 >98 %)の結晶性ポリスチレン |
| 主な用途 | 自動車エンジン周辺部品、電気・電子コネクタ、5G通信用低誘電フィルム・基板、精密機器部品 |
シンジオタクチックポリスチレン(SPS)は、スチレンモノマーをチタン系メタロセン触媒を用いてシンジオタクチック立体規則性で重合した半結晶性熱可塑性樹脂である。従来の汎用ポリスチレン(GPPS)はアタクチック(不規則)構造であり非晶性であるのに対し、SPSはフェニル基がポリマー主鎖に対して交互に配置(シンジオ配列)することにより高度な結晶構造を形成し、融点 270 ℃前後という汎用樹脂系では異例の耐熱性を示す。
SPSはスーパーエンジニアリングプラスチックに分類される高性能材料であり、低誘電率・低誘電正接という優れた電気特性、広範な耐薬品性、極めて低い吸水率(PA系の約 1/10)を同時に満足する点が特徴である。一方で脆性(耐衝撃性の低さ)が課題であり、実用グレードではガラス繊維(GF)強化や耐衝撃改良剤の添加によりこの弱点が補われている。
1980年代に出光興産が独自のメタロセン触媒技術を用いて世界で初めて開発・商業化に成功した材料であり、「XAREC(ザレック)」ブランドとして市場に供給されている。近年は5G通信機器用の低誘電材料としての需要が拡大しており、フィルム・積層板・コネクタ分野での採用が増加している。
特徴
長所
- 高融点(Tm ≈ 270 ℃)による優れた耐熱性(GF強化品で連続使用温度 200〜220 ℃前後)
- 低比重(1.05 g/cm3):スーパーエンプラ中でも軽量の部類
- 低誘電率(ε ≈ 2.5 at 1 GHz)・低誘電正接(tan δ ≈ 0.0003〜0.0005 at 1 GHz):5G対応に有利
- 低吸水率(≤ 0.01 %):電気特性の安定性・寸法安定性に優れる
- 広範な耐薬品性(希酸・アルカリ・脂肪族炭化水素・アルコール類に耐性)
- ハロゲンフリー難燃化が可能(難燃グレードで UL94 V-0 対応)
- 優れた寸法安定性(GF強化時の低成形収縮)
- 鉛フリーリフロー対応(260 ℃ピークに耐えられる数少ない低コスト系材料)
短所
- 未強化グレードは脆性が高く耐衝撃性が劣る(アイゾット衝撃強さ:ノッチ付き 15〜25 J/m 程度)
- 高融点・高成形温度(シリンダー 290〜320 ℃)のため成形コストが高い
- 芳香族炭化水素(トルエン・キシレン)・塩素系溶剤には膨潤・溶解するリスクがある
- 材料コストが汎用エンプラより高い
- ウェルドラインの強度低下に注意が必要
- 国内主要供給源が限定的
外観
未着色グレードは乳白色〜半透明。GF強化品は白色不透明。表面光沢はやや低め。
耐熱性
融点(Tm)は約 270 ℃(グレードにより 265〜275 ℃)、ガラス転移温度(Tg)は約 100 ℃。GF30 % 強化グレードの荷重たわみ温度(HDT、1.82 MPa)は 250 ℃以上に達するものがある。連続使用温度はグレード・負荷状態により異なるため、必ずメーカーデータシートを確認すること。
耐薬品性
酸・アルカリ・脂肪族炭化水素・アルコール類に対して概ね良好。トルエン・キシレン等の芳香族系、クロロホルム等の塩素系溶剤では膨潤・溶解する場合がある。詳細は耐薬品性の項参照。
加工性
射出成形が主体。シリンダー温度 290〜320 ℃、金型温度 120〜150 ℃が目安。高融点・高粘度のため専用スクリュー仕様が推奨される場合がある。押出成形・二軸延伸フィルム成形も可能。
分類上の注意
「ポリスチレン(PS)」と略称・外観が類似しているが、汎用 GPPS・HIPS とは結晶構造・耐熱性・用途が全く異なる別材料である。リサイクルコード「PS(6)」と混同しないよう注意が必要。
構造式
SPSの繰り返し単位を以下に示す。フェニル基(–C6H5)がシンジオタクチック配列(隣接モノマーで交互に逆側)を取ることが最大の特徴である。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 代表的な構造単位 | –[CH2–CH(C6H5)]n–(シンジオタクチック立体規則性) |
| モノマー | スチレン(CH2=CH–C6H5) |
| シンジオ配列率 | 通常 98 % 以上(13C-NMR によるラセミ二連子分率で評価) |
| 結晶構造 | α型・β型・γ型・δ型など複数の多形が存在;成形条件により結晶形が変化する |
| 変性・共重合グレード | 耐衝撃改良(エラストマーブレンド)、GF/CF強化、ハロゲンフリー難燃グレードが存在する |
種類
| 種類 | 主成分・特徴 | 長所 | 短所 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 汎用グレード(純SPS) | 未強化・未改質の基本グレード | 軽量、低誘電率、低吸水率 | 脆性高い、成形難易度高め | フィルム、基礎研究用 |
| GF10〜20 % 強化 | ガラス繊維 10〜20 % 配合のバランス型 | 剛性・耐熱性向上、薄肉成形に有利 | GF30 % 品より剛性劣る | 精密部品、電気部品 |
| GF30 % 強化 | ガラス繊維 30 % 配合の標準グレード | 高剛性・高耐熱、HDT 250 ℃以上 | 比重増加、異方性収縮、工具摩耗大 | コネクタ、センサーハウジング、自動車部品 |
| 耐衝撃改良グレード(IMP) | SEBS等エラストマーブレンド | 脆性改善、靭性向上 | 剛性・耐熱性がやや低下 | 精密機器カバー、工業部品 |
| GF強化+耐衝撃改良 | GF配合+エラストマーの複合タイプ | 機械強度と靭性を両立 | 材料コスト増、バランス調整が必要 | 自動車エンジン周辺、電気部品 |
| 難燃グレード(FR) | ハロゲンフリー難燃剤(リン系等)配合 | UL94 V-0対応、環境対応 | 難燃剤による物性低下の場合あり | 電気・電子部品、車載部品 |
| 低誘電フィルムグレード | 二軸延伸フィルム対応(OPSとは別物) | 誘電率 2.5 前後、5G・ミリ波対応 | 成形・加工難易度が高い、専用設備が必要 | アンテナ基板、フレキシブル回路基板 |
| 食品接触グレード | FDA・食品衛生法対応添加剤使用 | 食品機械・医療器具への適用可 | 用途・温度・接触形態の確認が必須 | 食品機器部品、医療器材 |
成形加工
| 成形・加工法 | 適性 | 備考 |
|---|---|---|
| 射出成形 | ◎ | 主要加工法。シリンダー温度 290〜320 ℃、金型温度 120〜150 ℃。高融点・高粘度のため専用スクリュー仕様推奨。滞留劣化に注意。 |
| 押出成形 | ○ | シート・フィルム成形に適用可。二軸延伸フィルム(低誘電基板用)にも使用される。 |
| ブロー成形 | △ | 溶融粘度特性により対応可能なグレードは限定的。一般的ではない。 |
| 圧縮成形 | △ | 特殊用途に適用例あり。一般的な加工法ではない。 |
| 真空・圧空成形 | △ | シート状素材からの熱成形が可能な場合がある。グレード・条件による。 |
| 切削加工 | ○ | 脆性があるため刃先条件に注意。GF強化品は工具摩耗が大きい。切削油の耐薬品性確認が必要。 |
| フィルム成形(二軸延伸) | ◎ | 低誘電フィルム製造の主要工程。延伸条件により物性が大きく変化する。 |
| 溶着(超音波・振動・熱板) | ○ | 適切な条件設定で接合可能。レーザー溶着は透過率の確認が必要。 |
| 接着 | △ | 表面極性が低いためプライマー処理・表面改質(コロナ、プラズマ)が推奨される場合が多い。 |
成形条件の目安
| 条件項目 | 目安値 | 備考 |
|---|---|---|
| 乾燥温度・時間 | 120〜130 ℃ × 4〜6 h | 吸水率は低いが乾燥推奨(ガス発生防止)。除湿乾燥機使用が望ましい。 |
| シリンダー温度(後部〜ノズル) | 290〜320 ℃ | グレード・充填材量により調整。320 ℃超の長時間滞留は熱劣化に注意。 |
| 金型温度 | 120〜150 ℃ | 結晶化促進のため高め設定推奨。低金型温度では結晶化不足・ヒケリスク。 |
| 射出速度 | 中〜高速 | 流動性が低いため充填不足に注意。ゲート設計が重要。 |
| 成形収縮率 | 0.3〜0.6 %(流れ方向) | GF強化品は MD/TD 方向差異(異方性収縮)に注意。精密部品は試作測定推奨。 |
| アニール処理 | 150〜200 ℃ × 1〜4 h | 結晶化促進・残留応力除去に有効。耐熱グレード部品に推奨。 |
代表的な物性値(機械的・熱的・電気的性質)
| 物性項目 | 単位 | SPS(未強化) | SPS-GF30 | 備考・試験規格 |
|---|---|---|---|---|
| 密度 | g/cm3 | 1.04〜1.07 | 1.27〜1.30 | ISO 1183 / ASTM D792 |
| 引張強さ | MPa | 35〜45 | 100〜130 | ISO 527 / ASTM D638 |
| 引張伸び | % | 1〜3 | 1〜2 | 脆性材料のため伸びは小さい |
| 曲げ強さ | MPa | 50〜70 | 150〜190 | ISO 178 / ASTM D790 |
| 曲げ弾性率 | GPa | 3.0〜3.5 | 9.0〜11 | ISO 178 / ASTM D790 |
| アイゾット衝撃強さ(ノッチ付) | J/m | 15〜25 | 40〜70 | ISO 180 / ASTM D256。未強化品は脆性に注意。 |
| 荷重たわみ温度(HDT)1.82 MPa | ℃ | 220〜240 | 245〜260 | ISO 75-1 / ASTM D648 |
| 融点(Tm) | ℃ | 265〜275 | 265〜275 | DSC による。グレードにより変動。 |
| ガラス転移温度(Tg) | ℃ | 約 100 | 約 100 | DSC による。 |
| 連続使用温度(目安) | ℃ | 150〜180 | 200〜220 | 負荷・環境条件により異なる。グレード仕様書要確認。 |
| 吸水率(23 ℃、24 h 水浸) | % | ≤ 0.01 | ≤ 0.01〜0.02 | ISO 62 / ASTM D570。極めて低吸水。 |
| 成形収縮率(流れ方向) | % | 0.4〜0.7 | 0.2〜0.4 | GF強化品は異方性収縮に注意。 |
| 誘電率(1 GHz) | — | 2.5〜2.6 | 3.0〜3.5 | GF添加で上昇する点に注意。低誘電用途は未強化品推奨。 |
| 誘電正接 tan δ(1 GHz) | — | 0.0003〜0.0005 | 0.001〜0.003 | 低誘電材料として優秀な部類。 |
| 体積抵抗率 | Ω·cm | > 1016 | > 1015 | IEC 60093 / ASTM D257 |
| UL94 難燃性 | — | HB(標準品) | V-0(難燃グレード) | 難燃グレードはハロゲンフリー対応品あり。 |
| 酸素指数(LOI) | % | 約 18〜22 | (難燃グレードで向上) | ASTM D2863 |
| 線膨張係数(流れ方向) | ×10-5/K | 5〜7 | 2〜3 | GF強化で大幅低減。寸法安定性向上。 |
※ 上記数値は代表値・目安であり、実際のグレード・成形条件・試験方法により異なる。設計・材料選定には各メーカーのデータシートを必ず確認すること。
耐薬品性
SPSは低極性の結晶性ポリマーであり、酸・アルカリ・脂肪族系溶剤・アルコール類に対して概ね良好な耐性を示す。一方、SP値が近い芳香族炭化水素・ハロゲン系溶剤では膨潤・溶解のリスクがある。実使用では温度・濃度・接触時間・荷重状態を考慮した確認試験を実施すること。
| 薬品分類 | 代表的な薬品例 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 酸類(希) | 塩酸(10 %)、酢酸(10 %)、フッ酸(希) | ◎〜○ | 希酸には良好。高濃度・高温では注意。 |
| 酸類(濃・酸化性) | 濃硫酸、濃硝酸 | △〜× | 酸化性濃酸では侵食・変色のリスク。使用不可。 |
| アルカリ類 | NaOH(10〜30 %)、KOH、アンモニア水 | ○〜◎ | アルカリ耐性は良好。高温・高濃度は確認要。 |
| 低級アルコール類 | エタノール、IPA、メタノール | ◎ | 良好。アルコール系洗浄剤への耐性高い。 |
| 高級アルコール類 | グリセリン、ブタノール | ◎ | 良好。 |
| 芳香族炭化水素 | トルエン、キシレン、ベンゼン | × | SP値が近く膨潤・溶解するリスク大。不適。 |
| 脂肪族炭化水素 | ヘキサン、シクロヘキサン、石油系溶剤 | ○〜◎ | 概ね良好。長期浸漬・高温は確認要。 |
| ケトン類 | アセトン、MEK(ブタノン) | △〜○ | アセトンは短時間では比較的安定だが長期は注意。MEKは要注意。 |
| エステル類 | 酢酸エチル、酢酸ブチル | △〜○ | 条件・グレードにより変動。確認試験推奨。 |
| 塩素系溶剤 | クロロホルム、塩化メチレン、TCE | × | 溶解・膨潤リスクあり。不適。 |
| 水・温水 | 純水(25 ℃・80 ℃)、水蒸気 | ◎ | 低吸水性、耐加水分解性良好。高温蒸気は長期確認推奨。 |
| 油類 | 機械油、エンジンオイル、ギアオイル | ◎ | 耐油性良好。自動車部品への採用理由の一つ。 |
| 燃料類 | ガソリン、軽油、アルコール混合燃料 | ○〜△ | 芳香族系成分が高い燃料は注意。確認試験推奨。 |
| 洗浄剤(界面活性剤系) | 中性洗剤、弱アルカリ性洗剤 | ◎ | 良好。 |
| 洗浄剤(溶剤系) | アセトン系クリーナー、芳香族系クリーナー | ×〜△ | 溶剤系成分の確認が必須。芳香族含有品は不適。 |
評価基準:◎ 良好(長期使用可)、○ 概ね良好(使用可、条件確認推奨)、△ 要注意(短期・限定的使用)、× 不適(使用不可)
※ 上記評価はあくまで目安であり、実用前には実際の使用条件(温度・濃度・接触時間・荷重)での試験を必ず実施すること。
SP値(溶解度パラメータ)
| 項目 | 値 |
|---|---|
| SPS の SP値(δ) | 約 17.5〜18.5 MPa1/2(代表値:約 18 MPa1/2) |
| 参考:GPPS(アタクチックPS)の SP値 | 約 17.4〜18.7 MPa1/2 |
※ SP値(溶解度パラメータ)はポリマーの溶解・膨潤傾向の目安であるが、結晶性・架橋度・添加剤・成形履歴・使用温度によって実際の耐薬品性は大きく異なる。SP値のみで耐薬品性を最終判断することは避けること。
溶解性の目安
| SP値差(MPa1/2) | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|
| 0〜2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2〜5 | 条件により膨潤する | △ |
| 5〜8 | 短時間接触では比較的安定 | ○ |
| 8以上 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP値から見た耐溶剤性(対SPS:δ ≈ 18 MPa1/2)
| 溶剤名 | SP値(MPa1/2) | SP値差 | 評価 | 注記 |
|---|---|---|---|---|
| トルエン | 18.2 | ≈ 0 | × | 膨潤・溶解リスク大 |
| キシレン | 18.0 | ≈ 0 | × | 同上 |
| クロロホルム | 19.0 | ≈ 1 | × | 溶解リスクあり |
| MEK(ブタノン) | 19.0 | ≈ 1 | △〜× | 条件次第で膨潤 |
| 酢酸エチル | 18.6 | ≈ 1 | △ | 短時間は比較的安定な場合もある |
| アセトン | 20.0 | ≈ 2 | △ | 長時間・高温は注意 |
| ヘキサン | 14.9 | ≈ 3 | ○ | 概ね安定 |
| IPA(イソプロパノール) | 23.5 | ≈ 5〜6 | ○ | 安定。洗浄用途で広く使用可。 |
| エタノール | 26.0 | ≈ 8 | ◎ | 良好 |
| 水 | 47.9 | ≈ 30 | ◎ | 極めて良好。低吸水率。 |
※ SP値差のみで最終判断を行うことは危険であり、結晶化度・添加剤・成形履歴・使用温度・接触時間・応力状態を考慮した実評価試験を実施すること。
製法
原料
- スチレンモノマー(CH2=CH–C6H5、純度 > 99.9 %)
- チタン系メタロセン触媒(例:CpTiCl3)
- 助触媒:メチルアルミノキサン(MAO)
重合反応(基本反応式)
重合方法
出光興産が開発したチタン系メタロセン触媒(CpTiX3 / MAO系)を用いたスラリー重合または溶液重合が主体である。触媒の立体選択性により、フェニル基の交互配置(シンジオ配列率 >98 %)が実現され、通常の汎用ラジカル重合・アニオン重合では得られない高立体規則性ポリマーが生成する。重合温度・触媒量・モノマー濃度の制御が分子量・立体規則性・結晶化度を左右する重要なパラメータである。
後工程・コンパウンド
- 重合後、未反応モノマー・溶媒を除去し、乾燥・ペレット化を行う。
- GF強化グレードは二軸押出機でガラス繊維(チョップドストランド)をコンパウンドする。繊維長・配向が物性に大きく影響する。
- 難燃グレードにはリン系・窒素系難燃剤をブレンド。ハロゲン不使用が標準。
- 耐衝撃改良グレードにはSEBS等の熱可塑性エラストマーを添加。
- 酸化防止剤・加工安定剤・核剤(結晶化促進剤)が一般に配合される。
詳細な利用用途
| 用途分野 | 代表的な製品・部品 | 採用理由・特記事項 |
|---|---|---|
| 自動車 | エンジンカバー、エアダクト、センサーハウジング、ブレーキ周辺部品、EV・HEV用電動化部品 | 高耐熱性・耐油性・低比重。エンジン高温環境に対応。金属代替として軽量化に貢献。 |
| 電気・電子 | コネクタ、ICソケット、プリント基板材料、高周波回路部品、電子機器ハウジング | 低誘電率・低誘電正接・低吸水率。5G対応高周波部品に最適。耐リフロー性(260 ℃ピーク対応)。 |
| フィルム・基板 | 低誘電フィルム(アンテナ・ミリ波レーダー基板用)、FPC基板フィルム | 二軸延伸SPSフィルムは誘電率 2.5 前後を実現。フレキシブルアンテナ素材として注目。 |
| 機械部品 | ギア、カム、摺動部品(GF強化品)、構造フレーム部品 | 高剛性・耐熱性を活かす。ただし脆性があるため設計時の応力集中に注意が必要。 |
| 医療・食品機械 | 医療器材カバー、食品機械部品、薬品耐性部品 | 耐薬品性・低溶出性。食品接触・各種滅菌対応グレードは確認が必要。 |
| 産業機器 | ポンプ部品、化学薬品配管周辺部品、計測器ハウジング | 耐薬品性・寸法安定性を活かした化学産業での採用例あり。 |
| 通信インフラ | 5G基地局用部品、ミリ波レーダーモジュール、高速通信ケーブル絶縁材 | 低誘電・低損失特性。通信速度・信号品質向上に直結する材料特性を持つ。 |
関連材料との比較
| 比較材料 | 主な特徴 | SPSとの違い・選定上のポイント |
|---|---|---|
| PPS(ポリフェニレンスルフィド) | 結晶性スーパーエンプラ。耐熱・耐薬品性・難燃性に優れる。 | SPSより誘電率が高い(ε ≈ 3.8)・比重が大きい(1.35)。難燃性・耐薬品性はPPSが優位な場面も多い。コスト的にはPPSが有利な場合が多い。 |
| PEEK(ポリエーテルエーテルケトン) | 最高レベルの耐熱性・機械強度・耐薬品性を持つスーパーエンプラ。 | SPSより耐熱性・機械強度・耐衝撃性が大幅に優れる。材料コストが非常に高く、誘電率もSPSより高い(ε ≈ 3.2〜3.5)。高機能・高付加価値用途向け。 |
| LCP(液晶ポリマー) | 超低吸水・低誘電・高耐熱・超高流動性の結晶性樹脂。 | LCPは流動性・薄肉成形性・耐熱性でSPSを上回る。異方性が大きく、コストも高い。5G部品ではSPSと競合する代表材料。 |
| GPPS・HIPS(汎用ポリスチレン) | アタクチックPS。非晶性・安価・成形容易。 | SPSとは化学組成は同じだが立体規則性が異なり、耐熱性・耐薬品性・機械強度が大幅に劣る。完全に別材料として扱う。リサイクルコード混同に注意。 |
| PA66(ナイロン66) | 機械強度・耐熱性に優れる汎用エンプラ。広く普及。 | PA66は吸水率が高く(3〜4 %)誘電特性が吸湿により変化する。SPSは低吸水・安定した電気特性が優位。耐衝撃性はPA66が有利。 |
| PBT(ポリブチレンテレフタレート) | 結晶性エンプラ。電気部品・自動車用途に広く普及。 | SPSより耐熱性やや劣るが耐衝撃性は良好。加水分解に注意が必要。コストはSPSより有利。一般エンプラ用途での代替候補。 |
| PTFE(ポリテトラフルオロエチレン) | フッ素樹脂。最高レベルの耐薬品性・低摩擦係数・低誘電特性。 | SPSより耐薬品性・耐熱性・低誘電性でPTFEが優れる。成形加工困難・高コスト・比重大(2.1〜2.2)。極限用途ではPTFEが適切。 |
代表的なメーカー
| メーカー | 代表製品・ブランド | 概要 |
|---|---|---|
| 出光興産株式会社(日本) | XAREC(ザレック) | 世界初のSPS商業生産・販売メーカー。SPSの主要サプライヤーとして未強化品・GF強化品・難燃品・フィルムグレードを幅広く展開。技術サポートも充実している。 |
| Dow Inc.(米国) | Questra(クエストラ)※旧ブランド | 過去にSPSの商業生産を行っていたが、供給状況は変化している可能性がある。最新情報は各社へ直接確認されたい。 |
※ 上記は実在する主要メーカーの代表例である。不確かな情報は控えめに記載しており、最新の供給状況は各社へ直接確認すること。
法規制・環境対応
| 規制・基準 | 対応状況 | 備考 |
|---|---|---|
| RoHS指令(EU) | ○ 対応グレードあり | 難燃グレードはハロゲンフリー設計により対応。グレード確認必須。 |
| REACH規則(EU) | ○ 基本的に対応 | SVHC含有有無は各グレードのSDS・技術資料を確認。 |
| FDA(米国食品医薬品局) | △ グレードによる | 食品接触グレードはFDA規格対応品が存在する場合あり。用途・接触形態により確認要。 |
| 食品衛生法(日本) | △ グレードによる | 食品機器用途には対応グレード・用途確認が必須。 |
| UL94 難燃性 | HB(標準品)〜V-0(難燃グレード) | 難燃グレードはUL94 V-0対応。製品設計ではULカード確認推奨。 |
| 耐リフロー性 | ◎(Pb フリーリフロー対応) | Tm ≈ 270 ℃のため 260 ℃ピークのリフロー工程に耐えられる数少ない低コスト系材料の一つ。 |
注意点・設計上のポイント
- 脆性:未強化SPSは衝撃に弱く、ノッチ感度が高い。設計時は応力集中箇所の排除・コーナーRの付与が重要。耐衝撃改良グレードまたはGF強化グレードの選定を検討すること。
- 高成形温度:290〜320 ℃のシリンダー温度が必要。スクリュー・バレルの耐熱性確認、および滞留時間の管理(分解ガス発生防止)が必要。
- 金型温度管理:結晶化促進のため 120〜150 ℃以上の金型温度が推奨される。低温成形では結晶化不足・収縮ムラが発生しやすい。
- 成形収縮の異方性:GF強化品は流れ方向と垂直方向で収縮率が異なる。精密寸法部品では試作・測定による収縮率確認が必須。
- リサイクル混同:リサイクルコード「PS(6)」の汎用ポリスチレンとは根本的に異なる材料。分別管理が必要。
- 芳香族・塩素系溶剤:洗浄工程・使用環境でトルエン・キシレン・クロロ系溶剤が存在する場合は使用不可。接触薬液の事前確認を必ず行うこと。
- 熱劣化:320 ℃超での長時間加熱・滞留により分解・変色が生じる。成形機の温度設定管理とパージ管理が重要。
- アウトガス:高温使用時(特に 200 ℃以上)ではスチレン等のアウトガス発生に注意。密閉空間・精密機器周辺での使用は事前確認が必要。