要
| 材料名 | 熱可塑性加硫ゴム |
|---|---|
| 英語名 | Thermoplastic Vulcanizate |
| 略号 | TPV |
| 分類 | 熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、動的加硫型エラストマー |
| プラスチック分類 | 汎用プラスチック系エラストマーである。エンプラ又はスーパーエンプラには通常分類されない。 |
| 主な構成 | ポリプロピレン連続相中に、架橋したエチレンプロピレンジエンゴムを微分散させた多相材料である。 |
| 化学式 | 単一の化学式はない。代表構成はPP相:[-CH2-CH(CH3)-]n、EPDM相:エチレン・プロピレン・ジエン共重合体の架橋構造である。 |
| CAS No | TPVとしての統一CAS Noはない。代表構成成分として、ポリプロピレン:9003-07-0、EPDM:25038-36-2が用いられる。 |
特徴
熱可塑性加硫ゴムは、ゴムの弾性と熱可塑性樹脂の成形加工性を併せ持つ材料である。動的加硫によりゴム成分を架橋させながら樹脂相中に微細分散させるため、加硫ゴムに近い圧縮永久ひずみ、耐熱老化性、耐候性を示しつつ、射出成形、押出成形、ブロー成形などの熱可塑性加工が可能である。
主成分にEPDMを用いるため、耐オゾン性、耐候性、耐水性、耐酸・耐アルカリ性に優れる。一方で、芳香族炭化水素、塩素系溶剤、鉱油、燃料油に対しては膨潤しやすい。PP相を含むため比重が低く、リサイクル性、軽量性、成形サイクル性にも優れる。
TPVはエンプラではなく、熱可塑性エラストマーの一種である。ただし、耐熱性、耐候性、耐薬品性が高いグレードでは、自動車部品、建材、電気部品、ホース、シール材などでエンプラ周辺材料として使用される。
構造式
熱可塑性加硫ゴムは単一ポリマーではなく、PP連続相と架橋EPDM分散相からなる多相構造である。
| 構成相 | 模式構造 | 役割 |
|---|---|---|
| PP相 | [-CH2-CH(CH3)-]n | 熱可塑性、流動性、成形性、軽量性を与える。 |
| EPDM架橋相 | [-CH2-CH2-]x[-CH2-CH(CH3)-]y+ジエン架橋点 | ゴム弾性、耐候性、耐オゾン性、圧縮永久ひずみ特性を与える。 |
種類
| 種類の名称 | 主成分 | 特徴 | 用途 |
|---|---|---|---|
| 標準TPV | PP+架橋EPDM | 柔軟性、耐候性、成形性のバランスが良い。 | 自動車シール、建材ガスケット、一般成形品 |
| 低硬度TPV | PP+高比率EPDM | ゴム感、柔軟性、低温弾性に優れる。 | グリップ、パッキン、ソフト部品 |
| 高硬度TPV | PP+架橋EPDM+補強材 | 剛性、耐摩耗性、寸法安定性が高い。 | 機構部品、保護カバー、ハウジング |
| 耐油TPV | 改質PP+架橋EPDM | 標準品より油膨潤を抑えたグレードである。 | ホース外層、ブーツ、エンジン周辺部品 |
| 難燃TPV | TPV+難燃剤 | 電気・電子部品向けに難燃性を付与した材料である。 | ケーブル被覆、電装部品、保護部材 |
長所
- 加硫ゴムに近い弾性を持ちながら、熱可塑性樹脂と同様に成形できる。
- 耐候性、耐オゾン性、耐水性、耐酸・耐アルカリ性が良好である。
- 比重が低く、軽量化に有利である。
- 射出成形、押出成形、ブロー成形、二色成形に対応しやすい。
- 加硫工程を省略でき、スクラップの再利用も可能である。
短所
- 芳香族溶剤、塩素系溶剤、鉱油、燃料油では膨潤しやすい。
- シリコーンゴム、フッ素ゴムに比べると耐熱性、耐油性は劣る。
- 圧縮永久ひずみは一般的なTPEより良好であるが、完全加硫ゴムには及ばない場合がある。
- 高温下で長期荷重を受ける用途ではクリープに注意が必要である。
成形加工
| 加工方法 | 適正 | 備考 |
|---|---|---|
| 射出成形 | ◎ | 最も一般的である。自動車部品、シール材、グリップ類に用いられる。 |
| 押出成形 | ◎ | ウェザーストリップ、ホース、チューブ、異形押出に適する。 |
| ブロー成形 | ○ | ダクト、ブーツ、蛇腹部品などに使用される。 |
| 二色成形 | ○ | PP系基材との密着性が良い。PA、PC、ABSなどには接着設計が必要である。 |
| カレンダー加工 | △ | グレード選定が必要である。シート用途では押出シート成形が一般的である。 |
代表的な物性値又は機械的性質
| 項目 | 単位 | 代表値 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 比重 | – | 0.90 ~ 1.05 | PP系のため軽量である。 |
| 硬さ | Shore A | 35 ~ 90 | 低硬度から高硬度まで幅広い。 |
| 引張強さ | MPa | 4 ~ 12 | グレード、硬度、補強材により変動する。 |
| 伸び | % | 200 ~ 600 | ゴム弾性を示す。 |
| 圧縮永久ひずみ | % | 20 ~ 50 | 一般TPEより良好である。 |
| 連続使用温度 | ℃ | -40 ~ 120 | 短時間では150℃付近まで使用される場合がある。 |
| 成形温度 | ℃ | 175 ~ 230 | 代表的なTPVの加工温度範囲である。 |
耐薬品性
| 薬品・溶剤 | 耐性 | 備考 |
|---|---|---|
| 水 | ◎ | 吸水が少なく、常温水には安定である。 |
| 酸 | ○ | 弱酸には良好である。強酸、高温、長時間では確認が必要である。 |
| アルカリ | ○ | 弱アルカリには良好である。 |
| アルコール | ○ | エタノール、イソプロパノールには比較的良好である。 |
| ケトン | △ | アセトン、MEKでは膨潤や軟化に注意する。 |
| 芳香族溶剤 | × | トルエン、キシレンでは膨潤しやすい。 |
| 塩素系溶剤 | × | ジクロロメタン、クロロホルムでは使用に適さない。 |
| 油・燃料 | △ | 鉱油、ガソリン、軽油では膨潤が生じる場合がある。 |
更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照。
SP値から見た耐溶剤性
SP値(溶解度パラメータ)
熱可塑性加硫ゴムのSP値は、PP相、EPDM相、オイル、充填材、架橋密度により変動する。溶解性はSP値だけでなく、温度、応力、薬品濃度、接触時間で判断する必要がある。
| 項目 | SP値(δ) MPa1/2 | 備考 |
|---|---|---|
| TPV(標準グレード) | 16.5 ~ 18.5 | PP/EPDM系のため非極性溶剤に近く、芳香族溶剤や油で膨潤しやすい。 |
| TPV(低硬度グレード) | 16.0 ~ 18.0 | ゴム相、軟化油が多く、油・燃料・芳香族溶剤で膨潤しやすい。 |
| TPV(高硬度グレード) | 17.0 ~ 19.0 | PP比率が高く、標準品より寸法安定性が良い。 |
| TPV GF強化グレード | 17.0 ~ 19.5 | ガラス繊維により剛性と寸法安定性が向上するが、樹脂相の耐溶剤性は大きく変わらない。 |
| 耐油TPV | 17.5 ~ 20.0 | 改質により油膨潤を抑えたグレードであるが、フッ素ゴムほどの耐油性はない。 |
溶解性の目安
| SP値差 | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|
| 0 ~ 2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2 ~ 5 | 条件により膨潤する | △ |
| 5 ~ 8 | 短時間接触では比較的安定 | ○ |
| 8以上 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP値から見た耐溶剤性
| 薬品・溶剤 | SP値(δ)MPa1/2 | SP値差 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 水 | 47.9 | 30.4 | ◎ | SP値差が大きく、常温では安定である。 |
| メタノール | 29.7 | 12.2 | ○ | 短時間接触では比較的良好である。 |
| エタノール | 26.0 | 8.5 | ○ | 常温では比較的安定である。 |
| アセトン | 20.3 | 2.8 | △ | 膨潤、軟化に注意する。 |
| MEK | 19.0 | 1.5 | × | SP値が近く、膨潤しやすい。 |
| トルエン | 18.2 | 0.7 | × | 芳香族溶剤であり、著しい膨潤の可能性がある。 |
| キシレン | 18.0 | 0.5 | × | 膨潤、寸法変化、強度低下に注意する。 |
| ヘキサン | 14.9 | 2.6 | △ | 非極性で近いため、膨潤しやすい。 |
| ガソリン | 14 ~ 16 | 1.5 ~ 3.5 | △~× | 燃料油では膨潤しやすい。耐油TPV又は別材料を検討する。 |
| ジクロロメタン | 20.2 | 2.7 | × | 塩素系溶剤であり、使用に適さない。 |
※SP値差はTPV標準グレードの中央値17.5 MPa1/2を基準としている。
評価基準:◎:非常に良好 ○:概ね良好 △:注意が必要 ×:不適
特に注意する溶剤:トルエン、キシレン、ガソリン、ヘキサン、ジクロロメタン、MEKなどは膨潤・軟化・寸法変化を起こしやすい。油、燃料、芳香族溶剤に連続接触する用途では、耐油TPV、フッ素ゴム、PTFEなどを比較検討する必要がある。
製法
熱可塑性加硫ゴムは、PPなどの熱可塑性樹脂とEPDMなどのゴムを溶融混練しながら、混練機内でゴム相を動的に加硫することで製造される。これにより、架橋ゴム粒子がPP連続相中に微細分散した海島構造を形成する。
| 工程 | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 原料配合 | PP、EPDM、加硫剤、オイル、充填材、安定剤を配合する。 | 硬度、流動性、耐熱性、耐候性を調整する。 |
| 溶融混練 | 二軸押出機などでPPを溶融し、EPDMを分散させる。 | 多相構造を形成する。 |
| 動的加硫 | 混練中にEPDM相を架橋させる。 | ゴム弾性と圧縮永久ひずみ特性を高める。 |
| ペレット化 | 押出、冷却、カットによりペレット化する。 | 射出成形、押出成形用原料とする。 |
基本反応式の模式例:
PP + EPDM + 加硫剤 → PP連続相/架橋EPDM分散相からなるTPV
詳細な利用用途
| 分野 | 用途例 | 採用理由 |
|---|---|---|
| 自動車 | ウェザーストリップ、ガラスラン、ブーツ、ダクト、シール材 | 耐候性、耐オゾン性、軽量性、成形性が良い。 |
| 建材 | ガスケット、防水シール、目地材、窓枠シール | 屋外耐候性、耐水性、長期弾性に優れる。 |
| 電気・電子 | ケーブル被覆、コネクタシール、保護カバー | 柔軟性、絶縁性、難燃グレード展開がある。 |
| 生活用品 | グリップ、キャップ、パッキン、スポーツ用品 | ゴム感、触感、着色性、リサイクル性が良い。 |
| 工業部品 | ホース外層、保護ブーツ、防振部材、シールリング | 耐熱性、耐屈曲性、成形自由度に優れる。 |
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | TPVとの違い |
|---|---|---|
| EPDM | 耐候性、耐オゾン性、耐水性に優れる加硫ゴムである。 | EPDMは加硫工程が必要である。TPVは熱可塑性加工が可能でリサイクルしやすい。 |
| 熱可塑性エラストマー | 加熱で軟化し、冷却で固化するエラストマーの総称である。 | TPVはTPEの一種であり、ゴム相を動的加硫したタイプである。 |
| 熱可塑性ポリウレタン | 耐摩耗性、機械強度、透明性に優れる。 | TPVは耐候性、低比重、耐水性に優れる。TPUは耐摩耗性に優れる。 |
| 軟質塩化ビニル | 安価で柔軟性があり、電線被覆やシートに多用される。 | TPVは可塑剤移行が少なく、耐候性、低温性、リサイクル性に優れる。 |
| フッ素ゴム | 耐油性、耐燃料性、耐熱性に優れる高機能ゴムである。 | TPVは成形性とコストに優れるが、耐油性・耐燃料性はFKMに劣る。 |
| ポリプロピレン | 軽量で耐薬品性と成形性に優れる汎用樹脂である。 | TPVはPPを連続相に持つが、架橋EPDMによりゴム弾性を持つ。 |
代表的なメーカー
| メーカー | 代表製品・ブランド | 備考 |
|---|---|---|
| Celanese | Santoprene | 代表的なTPVブランドであり、自動車、建材、工業部品で広く使用される。 |
| 三井化学 | ミラストマー | オレフィン系熱可塑性エラストマーとして自動車、建材、生活用品に使用される。 |
| 住友化学 | エスポレックスTPE系材料 | オレフィン系エラストマー用途で使用される。 |
| Teknor Apex | Sarlink | TPV、TPEコンパウンドを展開する。 |
| RTP Company | TPVコンパウンド | 用途別改質グレードを展開する。 |