半芳香族ポリアミド

概要

材料名半芳香族ポリアミド
略記号PPA、PA6T、PA9T、PA10T、PA4T、PA6I/6T
英語名Semi-aromatic Polyamide、Polyphthalamide
分類結晶性又は半結晶性エンジニアリングプラスチック、耐熱ポリアミド系樹脂
構造・主成分脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸、又は芳香族成分を含むポリアミド
主な用途自動車部品、電気電子部品、コネクタ、LED反射材、燃料系部品、冷却水系部品、金属代替部品

半芳香族ポリアミドは、ポリアミド主鎖中に芳香族環を含む耐熱性ポリアミドである。一般的なPA6PA66より耐熱性、寸法安定性、低吸水性、耐薬品性に優れる。代表例にはPA6T、PA9T、PA10T、PA4T、PA6I/6Tなどがある。

PPAと呼ばれることも多く、金属代替、はんだリフロー対応部品、高温下の機械部品に使用される。グレードにより結晶性、融点、吸水率、流動性、靭性、耐薬品性が大きく異なるため、使用温度、吸水環境、薬品、成形方法に応じた選定が必要である。

特徴

  • 芳香族環を含むため、一般ポリアミドより耐熱性と寸法安定性が高い。
  • PA6、PA66に比べて吸水率が低く、吸水による寸法変化や物性低下が小さい。
  • ガラス繊維強化により、高剛性、高強度、低線膨張化が可能である。
  • 耐油性、耐燃料性、耐薬品性が比較的良好である。
  • 高温成形が必要であり、金型温度、乾燥、滞留時間の管理が重要である。
  • 強酸、フェノール類、濃厚な無機酸、高温水蒸気条件では劣化する場合がある。
長所
  • 高耐熱、高剛性、低吸水、寸法安定性のバランスが良い。
  • 電気電子部品、自動車部品、金属代替部品に適する。
  • ガラス繊維、難燃剤、耐熱安定剤、摺動改質剤によるグレード展開が広い。
短所
  • 汎用ポリアミドより高価である。
  • 成形温度が高く、乾燥不足では加水分解や外観不良が発生しやすい。
  • 吸水は少ないがゼロではなく、湿熱環境では物性変化を確認する必要がある。
成形加工
加工方法適性主な製品例
射出成形コネクタ、リフロー対応部品、自動車部品、機構部品
押出成形△〜○チューブ、棒材、シート、特殊押出部材
ガラス繊維強化成形高剛性部品、金属代替部品、構造部品
切削加工試作部品、治具、機械部品

構造式

半芳香族ポリアミドは、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジアミン成分からなるアミド結合を基本構造とする。

HOOC-Ar-COOH + H2N-(CH2)n-NH2
→ [-CO-Ar-CO-NH-(CH2)n-NH-]m + 2mH2O

Arは芳香族環を示す。テレフタル酸を用いた場合はPA6T、PA9T、PA10Tなどとなり、イソフタル酸を併用した場合はPA6I/6Tなどの共重合ポリアミドとなる。

種類

種類の名称構成特徴主な用途
PA6T系ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸系高耐熱、高剛性である。単独重合体は融点が高く、実用上は共重合されることが多い。コネクタ、自動車電装部品、耐熱部品
PA9T系ノナンジアミンとテレフタル酸系低吸水、寸法安定性、耐薬品性に優れる。燃料系部品、冷却水系部品、電気電子部品
PA10T系デカンジアミンとテレフタル酸系耐熱性と低吸水性を持ち、バイオ由来原料を用いるグレードもある。自動車部品、電装部品、機械部品
PA4T系短鎖ジアミンとテレフタル酸系高融点、高Tg、高温剛性に優れる。高温部品、LED部品、金属代替部品
PA6I/6T系イソフタル酸、テレフタル酸を併用した共重合系非晶性又は低結晶性となり、透明性、寸法安定性、成形性を調整しやすい。透明部品、精密成形品、バリア用途
GF強化PPA半芳香族ポリアミドにガラス繊維を配合剛性、強度、耐熱変形性、寸法安定性が向上する。構造部品、金属代替部品、ハウジング

代表的な物性値又は機械的性質

性質単位PA6T系 GF30PA9T 標準PA9T GF30PA4T GF30
比重1.45〜1.551.05〜1.151.35〜1.451.45〜1.55
引張強さMPa150〜21050〜80180〜220180〜230
曲げ強さMPa220〜30070〜110260〜320270〜340
曲げ弾性率GPa8〜121.5〜2.58〜119〜13
ノッチ付き衝撃強さkJ/m²6〜125〜158〜146〜12
融点300〜330300〜306300〜306320〜345
ガラス転移温度120〜140120〜130120〜130125〜160
荷重たわみ温度260〜300120〜160260〜300280〜320
吸水率 23℃水中24h%0.2〜0.50.2〜0.40.1〜0.30.2〜0.5
成形収縮率%0.2〜1.00.8〜1.50.2〜0.80.2〜1.0
難燃性UL94HB〜V-0HBHB〜V-0HB〜V-0

耐薬品性

半芳香族ポリアミドは、油、燃料、グリース、アルコール、弱酸、弱アルカリに比較的強い。一般ポリアミドより吸水が少なく、寸法安定性にも優れる。ただし、強酸、フェノール類、濃厚酸、高温水蒸気、塩化亜鉛水溶液などには注意が必要である。

薬品・溶剤耐性備考
PA6、PA66より吸水は少ないが、湿熱条件では物性変化を確認する。
熱水△〜○高温長時間では加水分解や強度低下に注意する。
弱酸では比較的安定であるが、強酸では劣化しやすい。
アルカリ○〜△常温希薄アルカリには比較的安定であるが、高温高濃度では注意する。
アルコールメタノール、エタノール、IPAには概ね良好である。
ケトン○〜△常温短時間では比較的安定だが、応力下ではクラックに注意する。
芳香族溶剤○〜△トルエン、キシレンでは膨潤や応力割れの確認が必要である。
油・燃料◎〜○自動車燃料系、油中部品で使用されることがある。

更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照。

SP値(溶解度パラメータ)

半芳香族ポリアミドのSP値は、芳香族成分、アミド結合濃度、結晶化度、吸水状態、ガラス繊維量により変動する。下表は材料選定用の目安であり、実使用では温度、応力、薬品濃度、接触時間を含めて確認する必要がある。

項目SP値(δ)MPa1/2備考
半芳香族ポリアミド 標準25.0〜28.0アミド結合と芳香族環により比較的高いSP値を持つ。極性溶剤との相互作用に注意する。
PA6T系 GF3025.5〜28.5高芳香族成分、高結晶性、ガラス繊維により耐溶剤性は比較的良好である。
PA9T 標準24.0〜26.5低吸水で寸法安定性が良い。燃料、油、アルコールに比較的強い。
PA9T GF3024.5〜27.0ガラス繊維により剛性と寸法安定性が向上する。界面からの薬品浸透に注意する。
PA10T系23.5〜26.0脂肪族鎖が長く、PA6Tよりやや疎水性寄りとなる。
PA4T系 GF3026.0〜29.0高Tg、高耐熱で高温環境向けである。強酸、フェノール類には注意する。
PA6I/6T系26.0〜29.5非晶性又は低結晶性では溶剤膨潤を受けやすい場合がある。
SP値から見た耐溶剤性
溶解性の目安
SP値差 Δδ溶解性・膨潤の目安評価上の注意
0〜2溶解・膨潤しやすい結晶性が高い場合でも、高温や応力下では注意が必要である。
2〜5膨潤・軟化の可能性長期浸漬、応力負荷、成形残留応力でクラックが発生する場合がある。
5以上溶解しにくい化学反応性、加水分解、酸化劣化はSP値だけでは判断できない。
SP値から見た耐溶剤性
薬品・溶剤SP値(δ)MPa1/2SP値差評価備考
47.921.4SP値差は大きいが、ポリアミドであるため吸水は起こる。湿熱条件に注意する。
メタノール29.73.2常温では概ね良好であるが、長期浸漬では寸法変化を確認する。
エタノール26.00.5○〜△SP値は近いが、結晶性により実用上は比較的安定である。
IPA23.53.0洗浄用途では概ね使用可能である。応力割れは確認する。
アセトン20.06.5○〜△短時間では比較的安定であるが、応力下ではクラックに注意する。
MEK19.07.5○〜△高温、長期、応力負荷では白化や割れを確認する。
酢酸エチル18.67.9常温では比較的安定であるが、グレード差がある。
トルエン18.28.3芳香族溶剤では膨潤確認が必要である。
キシレン18.08.5高温では膨潤や応力割れに注意する。
NMP23.13.4高極性溶剤であり、非晶性PPAや高温条件では膨潤に注意する。
DMF24.81.7SP値が近く、温度上昇で浸透・膨潤しやすい。
DMSO26.70.2SP値が近い。高温長時間では物性低下を確認する。
フェノール24.91.6×ポリアミドを侵しやすい代表的溶剤である。
濃硫酸35以上8.5以上×化学的に劣化・溶解する危険がある。SP値差だけで判断してはならない。
水酸化ナトリウム水溶液47付近20.5○〜△常温希薄では比較的安定であるが、高温高濃度では加水分解に注意する。
ガソリン14〜1610.5〜12.5◎〜○燃料系用途に使われるグレードがある。アルコール混合燃料では確認が必要である。

◎:非常に良好  ○:概ね良好  △:注意が必要  ×:不適

※ 耐溶剤評価は、半芳香族ポリアミドのSP値中央値(約26.5 MPa1/2)を基準とし、溶剤とのSP値差、結晶性、吸水性、ポリアミドの化学耐性を総合的に考慮した参考評価である。

特に注意が必要な溶剤
  • フェノール類はポリアミドを侵しやすく、溶解・膨潤の危険が高い。
  • 濃硫酸、濃塩酸、濃硝酸などの強酸は分解・劣化の原因となる。
  • NMP、DMF、DMSOなどの高極性溶剤は、特に高温条件で膨潤や物性低下を起こす場合がある。
  • 湿熱、高温水、蒸気環境では加水分解と寸法変化を確認する必要がある。

製法

半芳香族ポリアミドは、芳香族ジカルボン酸又はその誘導体と脂肪族ジアミンの重縮合により製造される。代表的にはテレフタル酸とジアミンを塩形成し、高温高圧下で脱水縮合する。

n HOOC-C6H4-COOH + n H2N-(CH2)x-NH2
→ [-CO-C6H4-CO-NH-(CH2)x-NH-]n + 2n H2O

PA6Tではx=6、PA9Tではx=9、PA10Tではx=10に相当する。実用グレードでは、融点、結晶化速度、成形性、靭性を調整するためにイソフタル酸、アジピン酸、他のジアミン、共重合成分を併用することが多い。

詳細な利用用途

代表用途
  • 自動車用コネクタ、センサー、リレー、スイッチ
  • 燃料系部品、冷却水系部品、オイル周辺部品
  • LED反射材、リフローはんだ対応部品
  • スマートフォン、通信機器、精密電装部品
  • ギア、ハウジング、摺動部品、機械構造部品
工業用途
  • 金属代替部品
  • 高温電装部品
  • 耐薬品配管・継手
  • 耐熱絶縁部品
  • 軽量化部品

関連材料との比較

比較材料違い選定ポイント
PA6PA6は成形性と靭性に優れるが、吸水率と耐熱性では半芳香族ポリアミドが優れる。低コストならPA6、高温・低吸水・寸法安定性なら半芳香族ポリアミドを選ぶ。
PA66PA66は機械特性のバランスが良いが、リフロー対応や高温剛性ではPPAが有利である。一般機械部品はPA66、高温電装部品はPPAを検討する。
PBTPBTは電気特性と成形性に優れるが、高温下の剛性ではPPAが優れる。電装部品ではPBT、高温強度が必要な場合はPPAを選ぶ。
PPSPPSは耐薬品性と寸法安定性が非常に高い。PPAは靭性と加工性のバランスに優れる。耐薬品最重視ならPPS、強度と靭性のバランスならPPAを検討する。
PEEKPEEKはより高い耐熱性、耐薬品性を持つが高価である。最高性能ならPEEK、コストと高機能のバランスならPPAを選ぶ。
LCPLCPは薄肉流動性と低線膨張に優れる。PPAは靭性と機械強度のバランスに優れる。薄肉精密成形ならLCP、構造強度ならPPAを検討する。

代表的なメーカー

メーカー代表的な製品・商品名備考
クラレGENESTARPA9T系。低吸水、寸法安定性、耐熱性、耐薬品性を特徴とする。
三井化学ARLENPA6T系。耐熱性、機械特性、電装部品用途で使用される。
EnvaliorForTiiPA4T系を含む高性能PPA。高温剛性、電装、自動車用途に使用される。
SolvayAmodelPPA系。自動車、電気電子、工業部品向けに使用される。
BASFUltramid AdvancedPPA系。高温、低吸水、電装・自動車部品向けグレードがある。
EMS-GRIVORYGrivory半芳香族ポリアミド系。高剛性、低吸水、寸法安定性用途に使用される。

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