ポリブチレンナフタレート

概要

材料名ポリブチレンナフタレート
略記号PBN
英語名Polybutylene Naphthalate
分類エンジニアリングプラスチック、熱可塑性樹脂、結晶性樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂
化学式(C16H14O4)n
構成単位−O−(CH2)4−O−CO−C10H6−CO−
主な種類標準PBN、摺動PBN、GF強化PBN、耐熱PBN、フィルム・バリア用途PBN、PBNアロイ
主な用途半導体製造装置部品、液晶製造装置部品、ガラス製造関連治具、食品・飲料製造関連部品、燃料用部品、摺動部品

ポリブチレンナフタレート(PBN)は、帝人が開発したナフタレンジカルボン酸またはその誘導体と1,4-ブタンジオールを重縮合して得られる結晶性芳香族ポリエステルである。 構造的にはポリブチレンテレフタレート(PBT)に近いが、芳香環がベンゼン環ではなくナフタレン環であるため、耐熱性、バリア性、耐摩耗性、耐加水分解性が向上しやすい。

PBNは、PBTPETPENと同じポリエステル系材料である。 PBTより耐熱性、耐摩耗性、バリア性に優れ、PETより結晶化速度と成形性に優れる傾向がある。

特徴

  • 結晶性の芳香族ポリエステルである
  • ナフタレン骨格を持つため、PBTより剛直な構造である
  • 耐摩耗性に優れる
  • 耐加水分解性に優れる
  • 耐薬品性に優れる
  • 耐ガソリン性に優れる
  • 耐熱性に優れる
  • ガス透過率が低い
  • 水蒸気透過率が低い
  • 線膨張係数が小さい
  • 結晶化速度が速い
  • 寸法安定性に優れる
  • 摺動材料として使用しやすい
  • 強アルカリ、高温高湿、強酸化剤では劣化に注意が必要である
長所
  • 耐摩耗性が高い
  • 摺動性が良い
  • 耐加水分解性が良い
  • 耐薬品性が良い
  • 耐ガソリン性が良い
  • 耐熱性が高い
  • ガスバリア性が高い
  • 水蒸気バリア性が高い
  • 線膨張係数が小さい
  • 結晶化速度が速く、成形サイクルを短縮しやすい
  • 寸法安定性が良い
短所
  • 汎用樹脂やPBTより高価である
  • 流通量が多くない
  • 強アルカリでは加水分解に注意が必要である
  • 高温高湿下ではポリエステル系樹脂として加水分解リスクがある
  • 耐衝撃性はPCやPA系高靭性グレードほど高くない
  • 透明性は基本的に低い
  • グレード数やメーカー選択肢が限られる
成形加工

PBNは結晶化速度が速く、射出成形に適したポリエステル系エンジニアリングプラスチックである。 ただし、ポリエステル系材料であるため、成形前の乾燥が不十分な場合には加水分解による分子量低下、脆化、シルバー、物性低下が起こる。

加工方法適性主な製品例
射出成形摺動部品、燃料系部品、半導体製造装置部品、精密部品、治具
押出成形シート、フィルム、棒材、板材、チューブ
フィルム成形バリアフィルム、工業フィルム、包装関連フィルム
真空成形△〜○トレー、カバー、工業用成形品
ブロー成形特殊容器、燃料系容器、バリア容器
切削加工治具、摺動部品、精密機械部品、半導体装置部品
溶着超音波溶着、熱板溶着など条件限定

構造式

ポリブチレンナフタレート

PBNは、1,4-ブタンジオール由来のブチレン鎖と、2,6-ナフタレンジカルボン酸由来のナフタレン環を持つ芳香族ポリエステルである。 主鎖中にエステル結合を持つため、ポリエステル系樹脂として加水分解には注意が必要である。

一方で、ナフタレン環を含む剛直な構造により、PBTやPETと比較して、耐熱性、バリア性、耐摩耗性、寸法安定性が向上しやすい。

種類

標準PBN
名称標準PBN
構成ナフタレンジカルボン酸と1,4-ブタンジオールからなる結晶性芳香族ポリエステル
特徴耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、バリア性のバランスが良い
主な用途工業部品、燃料系部品、摺動部品、食品・飲料製造関連部品
特徴
  • PBNの標準グレードである
  • PBTよりバリア性と耐熱性を高めやすい
  • 結晶化速度が速く、成形性が良い
  • 燃料や薬品に接触する部品に適する
摺動PBN
名称摺動PBN
構成PBNの耐摩耗性と摺動性を活かしたグレード
特徴摩耗量が小さく、低速摺動や荷重変動下で安定しやすい
主な用途軸受、スライダー、ローラー、ギア、搬送部品、機械摺動部品
特徴
  • 耐摩耗性を重視したPBNである
  • 摺動条件の変化に対して摩耗挙動が安定しやすい
  • 低速スティックスリップの抑制に有利な場合がある
  • 相手材、荷重、速度、潤滑条件の確認が必要である
GF強化PBN
名称ガラス繊維強化PBN
構成PBNにガラス繊維を配合した強化グレード
特徴剛性、耐熱性、寸法安定性、耐クリープ性が向上する
主な用途半導体製造装置部品、液晶製造装置部品、精密治具、構造部品
特徴
  • 標準PBNより剛性が高い
  • 線膨張係数を低減しやすい
  • 荷重下での寸法安定性が向上する
  • 摺動用途では相手材への攻撃性に注意が必要である
耐熱PBN
名称耐熱PBN
構成分子量、結晶化、強化材、添加剤により耐熱性を高めたPBN
特徴高温環境での剛性、寸法安定性、耐薬品性を維持しやすい
主な用途高温治具、ガラス製造関連治具、熱履歴を受ける機械部品
特徴
  • PBNの耐熱性を活かしたグレードである
  • PBTより高温寸法安定性を得やすい
  • 結晶化制御が重要である
  • 高温高湿下では加水分解評価が必要である
フィルム・バリア用途PBN
名称フィルム・バリア用途PBN
構成ガスおよび水蒸気バリア性を活かしたPBNグレード
特徴ガス透過率、水蒸気透過率が低い
主な用途包装フィルム、工業フィルム、バリア容器、特殊シート
特徴
  • ナフタレン骨格によりバリア性が高い
  • PETやPBTよりガスバリア性を高めやすい
  • 延伸や結晶化条件により物性が変わる
  • 包装用途では食品適合性と成形条件を確認する必要がある

代表的な物性値又は機械的性質

項目単位標準PBN摺動PBNGF強化PBN耐熱PBN
比重なし約1.31約1.31〜1.40約1.45〜1.65約1.31〜1.50
融点約243約243約243約243
ガラス転移温度約78約78約78約78
引張強さMPa約6555〜75100〜16065〜110
引張伸び%約8720〜1002〜1010〜80
曲げ弾性率GPa約1.922.0〜3.05.0〜9.02.0〜6.0
アイゾット衝撃強さ
ノッチ付き
J/m約3430〜8040〜10030〜80
ロックウェル硬さなしM102M90〜M105M100以上M100前後
成形収縮率%1.16〜1.260.8〜1.50.2〜0.80.5〜1.3
吸水率%低い低い低い低い
耐摩耗性なし高い非常に高い高い高い

耐薬品性

PBNはポリエステル系樹脂の中でも耐薬品性、耐加水分解性、耐ガソリン性に優れる材料である。 酸、油、燃料、アルコール、多くの有機溶剤に対して比較的安定である。 一方で、強アルカリ、高温高湿、強酸化剤ではエステル結合の加水分解や劣化に注意する必要がある。

薬品・溶剤耐性備考
常温では比較的安定である。高温水では加水分解評価が必要である
熱水○〜△一般ポリエステルより耐加水分解性は良いが、長期評価が必要である
希酸比較的安定である
強酸濃度、温度、接触時間により劣化する場合がある
弱アルカリ△〜○条件により加水分解に注意が必要である
強アルカリ×〜△ポリエステル系樹脂として加水分解を受けやすい
アルコール短期使用では比較的安定である
油・潤滑油耐油性は良好である
ガソリン耐ガソリン性に優れる
アセトン△〜○短期接触では限定的だが、応力下では確認が必要である
MEK膨潤、クラック、物性変化を確認する必要がある
トルエン△〜○長時間接触では確認が必要である
キシレン△〜○長時間接触では確認が必要である
塩素系溶剤△〜×溶剤種、温度、応力条件により影響が大きい
強酸化剤×〜△酸化劣化に注意が必要である

更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照。

SP値(溶解度パラメータ)

PBNは芳香族ポリエステルであり、ナフタレン環とエステル結合を持つ極性材料である。 SP値はPBTやPETに近い領域にあるが、ナフタレン骨格と結晶性の影響により、単純なSP値だけでは溶解性を判断しにくい。

材料SP値(δ)特徴
ポリブチレンナフタレート(PBN)約21〜23 MPa1/2芳香族ポリエステルであり、強アルカリ、強溶媒、高温高湿に注意が必要である
溶解性の目安
Δδ挙動
0〜2溶解しやすい
2〜5膨潤・軟化
5以上溶解しにくい
SP値から見た耐溶剤性
溶媒SP値挙動備考
約47.9 MPa1/2常温では比較的安定である
エタノール約26.0 MPa1/2短期接触では比較的安定である
IPA約23.5 MPa1/2○〜△応力下では確認が必要である
アセトン約19.9 MPa1/2長時間接触、応力下では膨潤やクラックを確認する
MEK約19.0 MPa1/2条件確認が必要である
トルエン約18.2 MPa1/2△〜○短期では比較的安定な場合がある
THF約18.5 MPa1/2△〜×強溶媒側として確認が必要である
フェノール系溶媒高極性×ポリエステル系樹脂の溶解・分析用途に使われる場合がある

◎:非常に良好 ○:概ね良好 △:注意が必要 ×:不適

実務上の注意
  • PBNはSP値だけでなく、結晶性とナフタレン骨格の影響を考慮する必要がある
  • 耐薬品性はPBT、PETより良い場合があるが、強アルカリでは加水分解に注意する
  • 燃料系部品ではガソリン、アルコール混合燃料、添加剤の影響を確認する
  • 摺動用途では薬品耐性だけでなく、摩耗、相手材、荷重、速度、温度を評価する
  • 食品・飲料製造関連では、低溶出性と規格適合を確認する

製法

PBNは、ナフタレンジカルボン酸またはナフタレンジカルボン酸ジメチルと1,4-ブタンジオールを重縮合して製造される。 既存サイトでも、ナフタレンジカルボン酸と1,4-ブタンジオールの重縮合により製造されると整理されている。

工程内容備考
原料2,6-ナフタレンジカルボン酸またはナフタレンジカルボン酸ジメチルと1,4-ブタンジオールを使用するナフタレン骨格がPBNの耐熱性、バリア性、耐摩耗性に寄与する
直接エステル化法ナフタレンジカルボン酸と1,4-ブタンジオールを反応させる水を副生する
エステル交換法ナフタレンジカルボン酸ジメチルと1,4-ブタンジオールを反応させるメタノールを副生する
重縮合減圧下で高分子量化するポリエステル樹脂として分子量を調整する
コンパウンドガラス繊維、潤滑剤、安定剤、難燃剤、顔料などを配合する摺動、耐熱、強化グレードを作る
基本反応式
直接エステル化n HOOC−C10H6−COOH + n HO−(CH2)4−OH → [−O−(CH2)4−O−CO−C10H6−CO−]n + 2n H2O
エステル交換法n CH3OOC−C10H6−COOCH3 + n HO−(CH2)4−OH → [−O−(CH2)4−O−CO−C10H6−CO−]n + 2n CH3OH

詳細な利用用途

半導体・液晶製造装置用途
  • 半導体製造装置部品
  • 液晶製造装置部品
  • 洗浄装置周辺部品
  • 搬送治具
  • 耐薬品性が必要な精密部品
ガラス製造・高温治具用途
  • ガラス製造関連治具
  • 高温搬送部品
  • 耐摩耗治具
  • 寸法安定性が必要な部品
食品・飲料製造関連用途
  • 食品製造装置部品
  • 飲料製造関連部品
  • 低溶出性が求められる部品
  • 洗浄薬品に接触する部品
燃料系用途
  • 燃料用部品
  • ガソリン接触部品
  • 燃料チューブ関連部品
  • 燃料バリア部品
摺動・機械部品用途
  • 軸受
  • スライダー
  • ギア
  • ローラー
  • 搬送部品
  • 低摩耗部品
フィルム・バリア用途
  • バリアフィルム
  • 工業フィルム
  • 包装フィルム
  • ガス透過を抑えるシート
  • 水蒸気透過を抑える部材

関連材料との比較

比較材料PBNとの違い選定ポイント
PBTPBTは成形性、流通性、コストに優れる。PBNは耐摩耗性、耐加水分解性、バリア性、耐熱性に優れる汎用電装部品ならPBT、高バリア・耐摩耗・燃料系ならPBN
PETPETはボトル、フィルム、繊維用途に強い。PBNは結晶化速度と摺動・耐薬品用途で有利な場合がある包装・汎用フィルムならPET、特殊工業部品ならPBN
PENPENは高耐熱・高バリアフィルム用途に強い。PBNはブチレン鎖により成形性と結晶化速度の面で扱いやすい場合がある高性能フィルムならPEN、成形部品や摺動部品ならPBN
POMPOMは低摩擦性と機械部品用途に強い。PBNは耐薬品性、耐ガソリン性、耐加水分解性、バリア性に特徴がある一般ギアならPOM、燃料・薬品接触の摺動ならPBN
PAPAは靭性と耐摩耗性に優れるが吸水による寸法変化が大きい。PBNは吸水影響が比較的小さく寸法安定性が良い靭性ならPA、低吸水・バリア・燃料接触ならPBN
PPSPPSは耐熱性、難燃性、耐薬品性に優れる。PBNはポリエステル系として摺動性、バリア性、成形性のバランスが良い高温・難燃ならPPS、摺動・バリア・ポリエステル系用途ならPBN
PEEKPEEKは高温機械特性、耐薬品性に非常に優れるが高価である。PBNはコストと性能のバランスを取りやすい最高性能ならPEEK、中高性能の耐摩耗・燃料系ならPBN

代表的なメーカー

メーカー代表的な製品・商品名備考
帝人PBN樹脂、PBN摺動材料耐摩耗性、低溶出性、耐薬品性、ガス・水蒸気バリア性、速い結晶化速度を特徴とするPBNを展開
Indorama VenturesPolybutylene Naphthalate ResinNDCまたはPNDAと1,4-ブタンジオール由来の特殊ポリエステルとして展開
特殊ポリエステルメーカーPBN系樹脂、共重合ポリエステル、バリア材料用途別グレード、フィルム、成形材料として供給される場合がある
コンパウンドメーカーGF強化PBN、摺動PBN、耐熱PBNガラス繊維、潤滑剤、安定剤などで用途別に調整される
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