ポリスルホン

概要

項目内容
材料名ポリスルホン
略記号PSU(旧称:PSF とも表記される場合がある)
IUPAC名Poly[oxy-1,4-phenylenesulfonyl-1,4-phenyleneoxy-1,4-phenylene(1-methylethylidene)-1,4-phenylene]
英語名Polysulfone / Polyarylsulfone
日本語名(別名)ポリスルホン、ポリアリールスルホン、PSU、PSF(旧略号)
分類熱可塑性スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)
プラスチック分類非晶性熱可塑性プラスチック(アモルファス)
化学式(繰り返し単位)–[O–C₆H₄–C(CH₃)₂–C₆H₄–O–C₆H₄–SO₂–C₆H₄]n–
CAS No.25135-51-7(ビスフェノールA系PSU代表値)
構造・主成分ビスフェノールA(BPA)と4,4′-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)を縮合重合したポリアリールエーテルスルホン
主な用途医療器具・滅菌部品、膜分離(限外ろ過膜)、食品接触部品、電気絶縁部品、航空宇宙・自動車部品

ポリスルホン(PSU)は、主鎖にジフェニルスルホン基(–Ar–SO₂–Ar–)とビスフェノールAユニットを有する非晶性の熱可塑性スーパーエンジニアリングプラスチックである。 ガラス転移温度(Tg)は約185〜190℃と高く、連続使用温度も150〜170℃程度に達するため、高温環境下での構造材料・機能部品として幅広く用いられる。

PSUは透明〜淡黄色の外観を示し、剛性・寸法安定性・電気絶縁性に優れる。 また、酸・アルカリ・油脂類に対して優れた耐薬品性を示す一方、ケトン・エステル・塩素系溶剤などの極性有機溶剤には侵されやすいため、使用環境に応じた溶剤管理が必要である。 医療分野では繰り返し蒸気滅菌(オートクレーブ:134℃)に耐えることから、手術器具・透析器部品・歯科機器など数多くの用途で採用実績がある。

スルホン系樹脂ファミリーにはPSU(ビスフェノールA系)のほか、 ポリエーテルスルホン(PES/PESU)ポリフェニルスルホン(PPSU) が存在し、それぞれ耐熱性・靭性・耐薬品性のバランスが異なる。 用途に応じてグレード・材種の選定が重要である。

特徴

長所
  • 高いガラス転移温度(Tg ≈ 185〜190℃)と連続使用温度(150〜170℃)
  • 繰り返しオートクレーブ滅菌(121℃・134℃)に耐える加水分解安定性
  • 高い剛性(曲げ弾性率 2,500〜2,700 MPa)と優れた寸法安定性
  • 低い吸水率(0.3〜0.7%)で寸法変化が小さい
  • 酸・アルカリ・脂肪族炭化水素・油脂類への優れた耐薬品性
  • 優れた電気絶縁性(体積抵抗率 10¹⁵〜10¹⁶ Ω·cm)
  • 透明性(透光率:グレードにより異なるが可視光領域で高い透過性を示す)
  • FDA・EU食品接触規制適合グレードが存在する
  • 射出成形・押出成形・切削加工による精密部品の製造が可能
短所
  • 極性有機溶剤(ケトン・エステル・塩素系溶剤・一部のアルコール)に侵されやすい
  • 連続使用温度は他のスーパーエンプラ(PEEK、PPS等)より低い
  • 紫外線(UV)照射により黄変・劣化しやすく、屋外長期使用は不向き
  • 成形前に十分な乾燥が必要(吸湿により加水分解・発泡が生じる)
  • 材料コストはPEEKよりは低いが汎用エンプラより高い
  • 難燃性はグレードにより異なり、無添加品はUL94 V-0に達しない場合がある
外観

透明〜淡黄褐色(アンバー色)の非晶性樹脂。フィラー・難燃剤添加品は不透明となる場合がある。

耐熱性

Tg:185〜190℃、荷重たわみ温度(1.82 MPa):160〜180℃、連続使用温度:150〜170℃(グレード・環境により差異あり)。

耐薬品性

酸・アルカリ・脂肪族炭化水素・油脂類には優れた安定性を示すが、ケトン・エステル・芳香族炭化水素・塩素系溶剤には注意が必要。詳細は耐薬品性の項を参照。

加工性

射出成形・押出成形・切削加工に適する。成形前の十分な乾燥(120℃×4〜6時間)が不可欠。成形温度は330〜380℃と比較的高く、金型温度は60〜100℃が一般的。

分類上の注意

「スルホン系樹脂」とはPSU・PES(PESU)・PPSUの総称であり、それぞれ化学構造・物性が異なる。 国際規格(ISO/ASTM)ではPSUはビスフェノールA系、PES(PESU)はビスフェノールS(ジフェニルスルホン)系、PPSUはビフェニル系として区別されている。 カタログ上の「ポリスルホン」がいずれの材種を指すか、確認が必要である。

構造式

ポリスルホン(PSU)の繰り返し単位(代表構造):

ポリスルホン(PSU)化学構造式 PSUの繰り返し単位の化学構造式。ビスフェノールAユニットとジフェニルスルホンユニットが交互に連結している。 [ ] n ─O─ C CH₃ CH₃ ─O─ S O O ビスフェノールAユニット ジフェニルスルホンユニット(DCDPS由来) ポリスルホン(PSU)繰り返し単位 CAS No. 25135-51-7 | 非晶性・熱可塑性スーパーエンプラ

※ –SO₂– はスルホニル基(ジフェニルスルホン構造の中核)であり、高い熱安定性と剛性の源となっている。
※ –C(CH₃)₂– はイソプロピリデン基(ビスフェノールA由来)であり、靭性・加工性に寄与する。
※ 左ユニット(BPA)と右ユニット(DCDPS)が交互に繰り返して高分子鎖を形成する。

モノマー・構成単位
モノマー化学式役割
ビスフェノールA(BPA)(CH₃)₂C(C₆H₄OH)₂ジオール成分、靭性・透明性付与
4,4′-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)Cl–C₆H₄–SO₂–C₆H₄–Clジハライド成分、耐熱性・剛性付与
共重合体・変性グレードの注意

PES(PESU)はBPAを使用せずビスフェノールSベースの構造を持ち、PSUより高いTgを示す。 PPSUはビフェニル基導入により靭性・耐加水分解性が向上している。 GF(ガラス繊維)強化・難燃(FR)グレードなど各種変性品が市販されており、特性が大きく変わる場合がある。

種類

種類 主成分・特徴 長所 短所 主な用途
汎用グレード(標準) ビスフェノールA系PSU未添加 透明性・剛性・耐熱性のバランス 難燃性・UV耐性に制限 医療器具、フィルター、食品機器
GF強化グレード(GF10〜30%) ガラス繊維10〜30%配合 高剛性・高強度・低クリープ 衝撃強さ低下、異方性 構造部品、電気絶縁部品
難燃グレード(FR) 難燃剤添加(ハロゲン系またはノンハロゲン系) UL94 V-0達成 コスト増、機械特性に影響あり 電気・電子部品、航空機内装
食品接触グレード FDA 21 CFR適合添加剤使用 食品・飲料・医療安全性 添加剤制限によりコスト増 食品機械部品、給水器具
膜(メンブレン)用グレード 高純度・均質化処方 精密ろ過・限外ろ過膜への成形性 膜成形に特殊技術が必要 血液透析膜、工業用UF膜
導電・帯電防止グレード カーボン等を配合 ESD対策、帯電防止 透明性喪失、強度変化あり 半導体搬送、電子部品トレー

成形加工

加工方法適性備考
射出成形最も一般的。シリンダー温度 330〜380℃、金型温度 60〜100℃。事前乾燥(120℃×4〜6h)必須。
押出成形シート・棒・チューブ・フィルムの製造に使用。乾燥必須。
ブロー成形特定グレードで可能だが一般的ではない。
圧縮成形一部特殊部品・試験片に用いられる。
真空成形・熱成形シート材から可能だが、高温加工が必要で設備依存。
切削加工板・棒素材から精密部品の製造が可能。仕上げ面は良好。
溶剤接着塩化メチレン・NMP等の溶剤で接着可能。安全管理が必要。
超音波溶着・熱板溶着非晶性樹脂のため比較的容易。
メッキ・塗装前処理が必要。グレードにより適性が異なる。
3Dプリント(FDM)高温対応プリンター(ノズル360℃以上)が必要な特殊用途。
成形条件の目安(射出成形)
パラメータ推奨値(目安)
乾燥温度120〜130℃
乾燥時間4〜6時間(露点 –40℃以下の除湿乾燥機を推奨)
シリンダー温度(後部〜前部)320〜340 → 340〜360 → 350〜380℃
金型温度60〜100℃
射出圧力80〜140 MPa(肉厚・形状による)
成形収縮率0.5〜0.7%(GF強化品:0.2〜0.5%)

代表的な物性値(機械的・熱的・電気的性質)

物性項目単位PSU(汎用)PSU GF30%備考
密度g/cm³1.24〜1.251.40〜1.45ISO 1183
引張強さMPa65〜80100〜130ISO 527
引張弾性率MPa2,500〜2,7006,000〜9,000ISO 527
引張伸び(破断)%20〜802〜4ISO 527
曲げ強さMPa100〜120160〜200ISO 178
曲げ弾性率MPa2,500〜2,7007,000〜10,000ISO 178
アイゾット衝撃強さ(ノッチあり)kJ/m²60〜8050〜70ISO 180
シャルピー衝撃強さ(ノッチあり)kJ/m²40〜6040〜55ISO 179
ガラス転移温度(Tg)185〜190185〜190DSCまたはDMA
荷重たわみ温度(1.82 MPa)160〜175170〜185ISO 75-2
連続使用温度150〜170150〜170UL RTI等による
吸水率(24h浸漬)%0.3〜0.70.2〜0.5ISO 62
線膨張係数×10⁻⁵/℃5〜62〜3(流れ方向)ISO 11359
体積抵抗率Ω·cm10¹⁵〜10¹⁶10¹⁴〜10¹⁵IEC 60093
絶縁破壊電圧kV/mm15〜18IEC 60243
難燃性(UL94)V-2〜HB(標準品)グレードによるUL94
酸素指数(LOI)%30〜34ISO 4589
比熱J/(g·K)約 1.3参考値
熱伝導率W/(m·K)0.26〜0.29参考値

※ 物性値はグレード・測定条件・充填材の有無により大きく異なる。実設計では必ずメーカーデータシートの値を確認すること。

耐薬品性

薬品分類代表薬品例評価備考
希酸(弱酸)酢酸(希薄)、リン酸(希薄)高濃度・高温では注意
強酸(濃硫酸・濃塩酸)濃硫酸、濃塩酸、硝酸△〜×濃度・温度が高いほど侵される
希アルカリNaOH(希薄)、KOH(希薄)、NH₃水(希薄)長期接触では注意
強アルカリNaOH(高濃度・高温)、KOH(高濃度)高温・高濃度では劣化が進む
低級アルコールエタノール(低濃度)、IPA(希薄)○〜△高濃度・長期では膨潤リスクあり
高級アルコールグリセリン、エチレングリコール概ね安定
芳香族炭化水素トルエン、キシレン、ベンゼン△〜×膨潤・白化のリスクあり
脂肪族炭化水素ヘキサン、ヘプタン、ミネラルスピリット概ね良好
ケトン類アセトン、MEK(メチルエチルケトン)×強く侵される(溶剤接着にも利用される)
エステル類酢酸エチル、酢酸ブチル×膨潤・溶解のリスクが高い
塩素系溶剤塩化メチレン(DCM)、クロロホルム、TCE×溶解または強い膨潤。接着溶剤として使用される場合あり
水・温水蒸留水、水道水、温水(80℃以下)◎〜○繰り返し蒸気滅菌にも耐える。長期高温浸漬では注意
蒸気滅菌(オートクレーブ)121℃・134℃蒸気繰り返し滅菌に耐える(グレードによる)。PPSUより劣る場合あり
油脂類(鉱物油・シリコーン油)タービン油、ギヤ油、シリコーンオイル概ね優れた耐性
燃料(ガソリン・軽油)ガソリン、軽油、灯油○〜△芳香族含有量の高い燃料では注意
洗浄剤・界面活性剤アニオン系・ノニオン系洗剤概ね良好。種類・濃度確認要

※ 評価基準:◎非常に良好、○概ね良好、△注意が必要、×不適。いずれも23℃、短期浸漬を基準とした一般的な目安であり、実使用では濃度・温度・接触時間・応力状態を必ず確認すること。

SP値(溶解度パラメータ)
項目
PSU(ビスフェノールA系)のSP値(δ)約 19〜21 MPa1/2(代表値:約 20 MPa1/2

※ SP値はグレード・測定法・文献により差異がある。SP値のみで耐薬品性を断定することはできず、実環境での試験を推奨する。

溶解性の目安
SP値差(|δ₁ – δ₂|)溶解・膨潤の目安評価
0〜2 MPa1/2膨潤・軟化しやすい×
2〜5 MPa1/2条件により膨潤する
5〜8 MPa1/2短時間接触では比較的安定
8以上 MPa1/2溶解・膨潤しにくい
SP値から見た耐溶剤性(代表的な溶剤との比較)
溶剤名SP値(MPa1/2PSUとのSP値差評価
アセトン20.0≈ 0× 溶解・強膨潤
塩化メチレン(DCM)19.8≈ 0〜1× 溶解
クロロホルム19.0≈ 1× 溶解・強膨潤
酢酸エチル18.6≈ 1〜2× 膨潤
トルエン18.2≈ 2△〜× 膨潤注意
エタノール26.0≈ 6○(低濃度・短期)
ヘキサン14.9≈ 5〜6○ 安定
47.9≈ 28◎ 非常に安定
鉱物油14〜16≈ 4〜6○〜◎

※ SP値差のみで耐薬品性を判断することは困難であり、酸・アルカリによる化学的攻撃、温度、接触時間、力学的応力、材料グレードなども総合的に評価する必要がある。

製法

原料
  • ビスフェノールA(BPA):4,4′-イソプロピリデンジフェノール
  • 4,4′-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)
  • 塩基:炭酸カリウム(K₂CO₃)または水酸化ナトリウム(NaOH)
  • 溶媒:ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、スルホラン等
重合方法

ポリスルホンの代表的な製法は、求核芳香族置換(SNAr)重縮合である。 ビスフェノールAのフェノキシドアニオンがDCDPSの活性化された塩素(スルホニル基の電子求引効果により活性化)を求核攻撃し、HClを脱離させながら高分子量ポリエーテルスルホンが生成する。

ポリスルホン製造反応式(SNAr重縮合) ビスフェノールAと4,4′-ジクロロジフェニルスルホンが塩基性条件下でSNAr重縮合によりポリスルホンと塩化カリウムを生成する反応式。 PSU製造反応式ウSNArウ重縮合 n HO C CH₃ CH₃ OH ビスフェノールA(BPA) + n Cl S O O Cl 4,4′-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS) K₂CO₃ / DMSO 160〜200℃ / 数時間 [ ─O─ C CH₃ CH₃ ─O─ S O O ] n ポリスルホン(PSU) + 2n KCl (副生塩、除去) 反応機構:K₂CO₃がBPAのフェノール性OHを脱プロトン化しフェノキシドアニオンを生成。 フェノキシドがDCDPSのスルホニル基に活性化されたC–Cl結合を求核攻撃(SNAr)。 これが繰り返されることで高分子量のPSUが生成し、KClが副生する。
代表的な製造工程
ポリスルホン(PSU)製造工程フロー PSUの製造工程フローチャート。原料調製から重縮合、末端封止、析出洗浄、乾燥、ペレット化の6工程。 PSU製造工程フロー BPA ビスフェノールA DCDPS ジクロロジフェニルスルホン K₂CO₃ / DMSO 塩基・溶媒 ① 原料調製 所定モル比で溶媒(DMSO)に溶解・混合 ② 重縮合反応(SNAr) 160〜200℃ / 数時間 / 副生KCl除去 副生:2n KCl ③ 末端封止・分子量調整 過剰モノマーで末端基・Mwを制御 ④ 析出・洗浄 水・メタノールで析出 → 残留塩・溶媒除去 ⑤ 乾燥 ⑥ ペレット化・コンパウンド 熱風・真空乾燥でパウダー回収 二軸押出 / GF・難燃剤等を添加
工程内容
① 原料調製BPA・DCDPS・炭酸カリウムを所定のモル比で溶媒に溶解
② 重縮合反応160〜200℃で数時間加熱撹拌。副生水・KClを系外へ排出しながら高分子量化
③ 末端封止・分子量調整末端クロライドまたはフェノール過剰量で分子量・末端基を制御
④ 析出・洗浄反応液を水・メタノール等で析出、ポリマーを回収。残留塩・溶媒を洗浄除去
⑤ 乾燥熱風乾燥または真空乾燥でポリマー粉末を乾燥
⑥ ペレット化・コンパウンド二軸押出機でペレット化。GF・難燃剤・安定剤などを必要に応じて添加
添加剤・充填材

市販グレードには熱安定剤(リン系・ヒンダードフェノール系)、離型剤、UV吸収剤(屋外用途)、ガラス繊維(GF)、炭素繊維(CF)、難燃剤(ハロゲン系・リン系)、グラファイト・PTFE(摺動性改善)などが添加される場合がある。

詳細な利用用途

分野代表的な用途採用理由
医療・ヘルスケア手術器具、歯科機器、血液透析膜ハウジング、内視鏡部品、体外循環部品繰り返しオートクレーブ滅菌耐性、生体適合性、透明性
膜分離・水処理限外ろ過(UF)膜、精密ろ過(MF)膜、血液透析膜、工業用ろ過膜成膜性、耐薬品性、機械強度、親水化改質の容易さ
食品・飲料食品接触部品、給水機器フィルター、コーヒーメーカー部品FDA・EU食品接触規制適合、耐熱性、耐薬品性
電気・電子コネクタ、絶縁スペーサー、半導体ウェーハキャリア、高周波部品電気絶縁性、高Tg、寸法安定性
自動車センサーハウジング、電気系統部品、燃料系統周辺部品高耐熱、剛性、耐油性
航空宇宙機内設備部品、断熱材基材、軽量構造材(CF強化品)高耐熱、難燃性(FR品)、軽量化
分析・研究クロマトグラフィーカラム部品、フィルターハウジング、実験器具耐薬品性、透明性、高純度グレードの入手容易性
産業機械ポンプ部品、バルブ本体、配管継手(化学プラント)耐薬品性、耐熱性、精密加工性

関連材料との比較

材料 Tg / 連続使用温度 耐薬品性 靭性 コスト PSUとの主な違い
PES(PESU)
ポリエーテルスルホン
Tg 220〜230℃ / 180〜200℃ PSUより高い 同等〜やや低 PSUより高 BPA不使用、より高Tg・耐熱性、耐薬品性も向上。透明性は同等。
PPSU
ポリフェニルスルホン
Tg 220〜230℃ / 180〜200℃ PSUより高い PSUより高い PSUより高 ビフェニル構造によりPSUより優れた耐衝撃性・耐加水分解性を示す。医療・航空用途に多用。
PEEK
ポリエーテルエーテルケトン
Tg 143℃ / 連続250℃ 非常に優れる 高い 大幅に高 半結晶性。連続使用温度・耐薬品性がPSUを大きく上回る。コストも大幅に高い。
PPS
ポリフェニレンサルファイド
Tg 85℃ / 連続220℃ 非常に優れる 低め PSUより低 半結晶性・難燃性(V-0)。耐薬品性・連続使用温度ではPSUを上回る。靭性はPSUが有利。
PAI
ポリアミドイミド
Tg 280〜290℃ / 連続220℃ 非常に優れる 高い 非常に高 高Tg・高強度だがコストが高く成形も難しい。PSUより高温用途に適する。
PC
ポリカーボネート
Tg 145〜150℃ / 連続110〜120℃ 劣る 非常に高い 大幅に低 透明性・耐衝撃性はPCが優秀だが、耐熱性・耐薬品性はPSUが有利。コストはPCが大幅に安い。
PEI
ポリエーテルイミド(ウルテム)
Tg 215〜220℃ / 連続170℃ 高い 同等 PSUより高 高Tg・難燃性に優れる。耐薬品性・耐熱性でPSUをやや上回る場合が多い。

代表的なメーカー

メーカー代表製品・ブランド概要
ソルベイ(Solvay) Udel® PSU 世界最大のPSUメーカーの一つ。Udel®ブランドはスルホン系樹脂の代名詞的存在。医療・膜用途を含む多グレードをラインナップ。
ビーエーエスエフ(BASF) Ultrason® S(PSU) スルホン系樹脂(Ultrason®シリーズ)のPSUグレード。医療・食品・工業用途向けに展開。
住友化学(代表例) スミカエクセル(PES中心)等 スルホン系樹脂の国内供給に実績あり(グレード確認推奨)。
RTP Company(代表例) コンパウンドグレード各種 GF強化・難燃・導電性等の特殊コンパウンドを専業で供給。

※ メーカー・ブランド情報は変更となる場合がある。最新情報は各社公式サイトで確認すること。

代表グレードと特性の目安

グレード分類主な特徴代表用途
汎用(標準)バランス型。透明性・耐熱性・剛性の標準値。医療器具、フィルター部品、食品接触部品
GF10〜30%強化剛性・強度向上。線膨張係数低下。反り・異方性に注意。構造部品、電気絶縁部品
難燃(FR)グレードUL94 V-0達成品あり。添加剤により特性変化あり。電気・電子、航空機内装
食品接触・FDA対応FDA 21 CFR §177、EU 10/2011等適合。食品機械、給水装置
膜成形用高純度グレード均質・高分子量。溶液キャスト法に適合。UF/MF膜、透析膜
帯電防止・導電グレード表面抵抗率 10⁶〜10¹⁰ Ω/□。半導体部品トレー、電子部品搬送

注意点(実使用における留意事項)

  • 加水分解リスク:PSUは加水分解安定性が高いが、高温・高濃度アルカリ下の長期接触では緩やかな加水分解が生じる場合がある。PPSUやPEEKと比較した場合は不利な側面もあるため、用途・環境を十分確認すること。
  • 溶剤割れ(ESC):ケトン・エステル・塩素系溶剤との接触は、応力集中部での環境応力割れを引き起こしやすい。成形残留応力がある場合は特に注意する。
  • 吸湿による成形不良:吸水したPSUを成形するとシルバーストリーク・発泡・強度低下が生じる。乾燥条件(120〜130℃、4〜6時間、露点 –40℃以下)を厳守すること。
  • UV劣化・黄変:紫外線照射により表面が黄変・脆化する。屋外長期使用には対UV安定化グレードまたはUVコーティングを検討すること。
  • 熱劣化・アウトガス:成形時の過熱(380℃超)や長時間滞留によりポリマーの熱劣化・アウトガスが発生する。クリーンルームや医療用途での使用では特に管理が必要。
  • 法規制:医療器具用途ではISO 10993生体適合性評価、食品接触用途ではFDA 21 CFR §177.2440やEU規制10/2011の適合確認が必要。REACH・RoHS対応グレードの確認も推奨。

関連キーワード

ポリスルホン(PSU)/Polysulfone

概要

項目内容
材料名ポリスルホン
略記号PSU(旧称:PSF とも表記される場合がある)
IUPAC名Poly[oxy-1,4-phenylenesulfonyl-1,4-phenyleneoxy-1,4-phenylene(1-methylethylidene)-1,4-phenylene]
英語名Polysulfone / Polyarylsulfone
日本語名(別名)ポリスルホン、ポリアリールスルホン、PSU、PSF(旧略号)
分類熱可塑性スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)
プラスチック分類非晶性熱可塑性プラスチック(アモルファス)
化学式(繰り返し単位)–[O–C₆H₄–C(CH₃)₂–C₆H₄–O–C₆H₄–SO₂–C₆H₄]n–
CAS No.25135-51-7(ビスフェノールA系PSU代表値)
構造・主成分ビスフェノールA(BPA)と4,4′-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)を縮合重合したポリアリールエーテルスルホン
主な用途医療器具・滅菌部品、膜分離(限外ろ過膜)、食品接触部品、電気絶縁部品、航空宇宙・自動車部品

ポリスルホン(PSU)は、主鎖にジフェニルスルホン基(–Ar–SO₂–Ar–)とビスフェノールAユニットを有する非晶性の熱可塑性スーパーエンジニアリングプラスチックである。 ガラス転移温度(Tg)は約185〜190℃と高く、連続使用温度も150〜170℃程度に達するため、高温環境下での構造材料・機能部品として幅広く用いられる。

PSUは透明〜淡黄色の外観を示し、剛性・寸法安定性・電気絶縁性に優れる。 また、酸・アルカリ・油脂類に対して優れた耐薬品性を示す一方、ケトン・エステル・塩素系溶剤などの極性有機溶剤には侵されやすいため、使用環境に応じた溶剤管理が必要である。 医療分野では繰り返し蒸気滅菌(オートクレーブ:134℃)に耐えることから、手術器具・透析器部品・歯科機器など数多くの用途で採用実績がある。

スルホン系樹脂ファミリーにはPSU(ビスフェノールA系)のほか、 ポリエーテルスルホン(PES/PESU)ポリフェニルスルホン(PPSU) が存在し、それぞれ耐熱性・靭性・耐薬品性のバランスが異なる。 用途に応じてグレード・材種の選定が重要である。

特徴

長所
  • 高いガラス転移温度(Tg ≈ 185〜190℃)と連続使用温度(150〜170℃)
  • 繰り返しオートクレーブ滅菌(121℃・134℃)に耐える加水分解安定性
  • 高い剛性(曲げ弾性率 2,500〜2,700 MPa)と優れた寸法安定性
  • 低い吸水率(0.3〜0.7%)で寸法変化が小さい
  • 酸・アルカリ・脂肪族炭化水素・油脂類への優れた耐薬品性
  • 優れた電気絶縁性(体積抵抗率 10¹⁵〜10¹⁶ Ω·cm)
  • 透明性(透光率:グレードにより異なるが可視光領域で高い透過性を示す)
  • FDA・EU食品接触規制適合グレードが存在する
  • 射出成形・押出成形・切削加工による精密部品の製造が可能
短所
  • 極性有機溶剤(ケトン・エステル・塩素系溶剤・一部のアルコール)に侵されやすい
  • 連続使用温度は他のスーパーエンプラ(PEEK、PPS等)より低い
  • 紫外線(UV)照射により黄変・劣化しやすく、屋外長期使用は不向き
  • 成形前に十分な乾燥が必要(吸湿により加水分解・発泡が生じる)
  • 材料コストはPEEKよりは低いが汎用エンプラより高い
  • 難燃性はグレードにより異なり、無添加品はUL94 V-0に達しない場合がある
外観

透明〜淡黄褐色(アンバー色)の非晶性樹脂。フィラー・難燃剤添加品は不透明となる場合がある。

耐熱性

Tg:185〜190℃、荷重たわみ温度(1.82 MPa):160〜180℃、連続使用温度:150〜170℃(グレード・環境により差異あり)。

耐薬品性

酸・アルカリ・脂肪族炭化水素・油脂類には優れた安定性を示すが、ケトン・エステル・芳香族炭化水素・塩素系溶剤には注意が必要。詳細は耐薬品性の項を参照。

加工性

射出成形・押出成形・切削加工に適する。成形前の十分な乾燥(120℃×4〜6時間)が不可欠。成形温度は330〜380℃と比較的高く、金型温度は60〜100℃が一般的。

分類上の注意

「スルホン系樹脂」とはPSU・PES(PESU)・PPSUの総称であり、それぞれ化学構造・物性が異なる。 国際規格(ISO/ASTM)ではPSUはビスフェノールA系、PES(PESU)はビスフェノールS(ジフェニルスルホン)系、PPSUはビフェニル系として区別されている。 カタログ上の「ポリスルホン」がいずれの材種を指すか、確認が必要である。

構造式

ポリスルホン(PSU)の繰り返し単位(代表構造):

ポリスルホン(PSU)化学構造式 PSUの繰り返し単位の化学構造式。ビスフェノールAユニットとジフェニルスルホンユニットが交互に連結している。 [ ] n ─O─ C CH₃ CH₃ ─O─ S O O ビスフェノールAユニット ジフェニルスルホンユニット(DCDPS由来) ポリスルホン(PSU)繰り返し単位 CAS No. 25135-51-7 | 非晶性・熱可塑性スーパーエンプラ

※ –SO₂– はスルホニル基(ジフェニルスルホン構造の中核)であり、高い熱安定性と剛性の源となっている。
※ –C(CH₃)₂– はイソプロピリデン基(ビスフェノールA由来)であり、靭性・加工性に寄与する。
※ 左ユニット(BPA)と右ユニット(DCDPS)が交互に繰り返して高分子鎖を形成する。

モノマー・構成単位
モノマー化学式役割
ビスフェノールA(BPA)(CH₃)₂C(C₆H₄OH)₂ジオール成分、靭性・透明性付与
4,4′-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)Cl–C₆H₄–SO₂–C₆H₄–Clジハライド成分、耐熱性・剛性付与
共重合体・変性グレードの注意

PES(PESU)はBPAを使用せずビスフェノールSベースの構造を持ち、PSUより高いTgを示す。 PPSUはビフェニル基導入により靭性・耐加水分解性が向上している。 GF(ガラス繊維)強化・難燃(FR)グレードなど各種変性品が市販されており、特性が大きく変わる場合がある。

種類

種類 主成分・特徴 長所 短所 主な用途
汎用グレード(標準) ビスフェノールA系PSU未添加 透明性・剛性・耐熱性のバランス 難燃性・UV耐性に制限 医療器具、フィルター、食品機器
GF強化グレード(GF10〜30%) ガラス繊維10〜30%配合 高剛性・高強度・低クリープ 衝撃強さ低下、異方性 構造部品、電気絶縁部品
難燃グレード(FR) 難燃剤添加(ハロゲン系またはノンハロゲン系) UL94 V-0達成 コスト増、機械特性に影響あり 電気・電子部品、航空機内装
食品接触グレード FDA 21 CFR適合添加剤使用 食品・飲料・医療安全性 添加剤制限によりコスト増 食品機械部品、給水器具
膜(メンブレン)用グレード 高純度・均質化処方 精密ろ過・限外ろ過膜への成形性 膜成形に特殊技術が必要 血液透析膜、工業用UF膜
導電・帯電防止グレード カーボン等を配合 ESD対策、帯電防止 透明性喪失、強度変化あり 半導体搬送、電子部品トレー

成形加工

加工方法適性備考
射出成形最も一般的。シリンダー温度 330〜380℃、金型温度 60〜100℃。事前乾燥(120℃×4〜6h)必須。
押出成形シート・棒・チューブ・フィルムの製造に使用。乾燥必須。
ブロー成形特定グレードで可能だが一般的ではない。
圧縮成形一部特殊部品・試験片に用いられる。
真空成形・熱成形シート材から可能だが、高温加工が必要で設備依存。
切削加工板・棒素材から精密部品の製造が可能。仕上げ面は良好。
溶剤接着塩化メチレン・NMP等の溶剤で接着可能。安全管理が必要。
超音波溶着・熱板溶着非晶性樹脂のため比較的容易。
メッキ・塗装前処理が必要。グレードにより適性が異なる。
3Dプリント(FDM)高温対応プリンター(ノズル360℃以上)が必要な特殊用途。
成形条件の目安(射出成形)
パラメータ推奨値(目安)
乾燥温度120〜130℃
乾燥時間4〜6時間(露点 –40℃以下の除湿乾燥機を推奨)
シリンダー温度(後部〜前部)320〜340 → 340〜360 → 350〜380℃
金型温度60〜100℃
射出圧力80〜140 MPa(肉厚・形状による)
成形収縮率0.5〜0.7%(GF強化品:0.2〜0.5%)

代表的な物性値(機械的・熱的・電気的性質)

物性項目単位PSU(汎用)PSU GF30%備考
密度g/cm³1.24〜1.251.40〜1.45ISO 1183
引張強さMPa65〜80100〜130ISO 527
引張弾性率MPa2,500〜2,7006,000〜9,000ISO 527
引張伸び(破断)%20〜802〜4ISO 527
曲げ強さMPa100〜120160〜200ISO 178
曲げ弾性率MPa2,500〜2,7007,000〜10,000ISO 178
アイゾット衝撃強さ(ノッチあり)kJ/m²60〜8050〜70ISO 180
シャルピー衝撃強さ(ノッチあり)kJ/m²40〜6040〜55ISO 179
ガラス転移温度(Tg)185〜190185〜190DSCまたはDMA
荷重たわみ温度(1.82 MPa)160〜175170〜185ISO 75-2
連続使用温度150〜170150〜170UL RTI等による
吸水率(24h浸漬)%0.3〜0.70.2〜0.5ISO 62
線膨張係数×10⁻⁵/℃5〜62〜3(流れ方向)ISO 11359
体積抵抗率Ω·cm10¹⁵〜10¹⁶10¹⁴〜10¹⁵IEC 60093
絶縁破壊電圧kV/mm15〜18IEC 60243
難燃性(UL94)V-2〜HB(標準品)グレードによるUL94
酸素指数(LOI)%30〜34ISO 4589
比熱J/(g·K)約 1.3参考値
熱伝導率W/(m·K)0.26〜0.29参考値

※ 物性値はグレード・測定条件・充填材の有無により大きく異なる。実設計では必ずメーカーデータシートの値を確認すること。

耐薬品性

薬品分類代表薬品例評価備考
希酸(弱酸)酢酸(希薄)、リン酸(希薄)高濃度・高温では注意
強酸(濃硫酸・濃塩酸)濃硫酸、濃塩酸、硝酸△〜×濃度・温度が高いほど侵される
希アルカリNaOH(希薄)、KOH(希薄)、NH₃水(希薄)長期接触では注意
強アルカリNaOH(高濃度・高温)、KOH(高濃度)高温・高濃度では劣化が進む
低級アルコールエタノール(低濃度)、IPA(希薄)○〜△高濃度・長期では膨潤リスクあり
高級アルコールグリセリン、エチレングリコール概ね安定
芳香族炭化水素トルエン、キシレン、ベンゼン△〜×膨潤・白化のリスクあり
脂肪族炭化水素ヘキサン、ヘプタン、ミネラルスピリット概ね良好
ケトン類アセトン、MEK(メチルエチルケトン)×強く侵される(溶剤接着にも利用される)
エステル類酢酸エチル、酢酸ブチル×膨潤・溶解のリスクが高い
塩素系溶剤塩化メチレン(DCM)、クロロホルム、TCE×溶解または強い膨潤。接着溶剤として使用される場合あり
水・温水蒸留水、水道水、温水(80℃以下)◎〜○繰り返し蒸気滅菌にも耐える。長期高温浸漬では注意
蒸気滅菌(オートクレーブ)121℃・134℃蒸気繰り返し滅菌に耐える(グレードによる)。PPSUより劣る場合あり
油脂類(鉱物油・シリコーン油)タービン油、ギヤ油、シリコーンオイル概ね優れた耐性
燃料(ガソリン・軽油)ガソリン、軽油、灯油○〜△芳香族含有量の高い燃料では注意
洗浄剤・界面活性剤アニオン系・ノニオン系洗剤概ね良好。種類・濃度確認要

※ 評価基準:◎非常に良好、○概ね良好、△注意が必要、×不適。いずれも23℃、短期浸漬を基準とした一般的な目安であり、実使用では濃度・温度・接触時間・応力状態を必ず確認すること。

SP値(溶解度パラメータ)
項目
PSU(ビスフェノールA系)のSP値(δ)約 19〜21 MPa1/2(代表値:約 20 MPa1/2

※ SP値はグレード・測定法・文献により差異がある。SP値のみで耐薬品性を断定することはできず、実環境での試験を推奨する。

溶解性の目安
SP値差(|δ₁ – δ₂|)溶解・膨潤の目安評価
0〜2 MPa1/2膨潤・軟化しやすい×
2〜5 MPa1/2条件により膨潤する
5〜8 MPa1/2短時間接触では比較的安定
8以上 MPa1/2溶解・膨潤しにくい
SP値から見た耐溶剤性(代表的な溶剤との比較)
溶剤名SP値(MPa1/2PSUとのSP値差評価
アセトン20.0≈ 0× 溶解・強膨潤
塩化メチレン(DCM)19.8≈ 0〜1× 溶解
クロロホルム19.0≈ 1× 溶解・強膨潤
酢酸エチル18.6≈ 1〜2× 膨潤
トルエン18.2≈ 2△〜× 膨潤注意
エタノール26.0≈ 6○(低濃度・短期)
ヘキサン14.9≈ 5〜6○ 安定
47.9≈ 28◎ 非常に安定
鉱物油14〜16≈ 4〜6○〜◎

※ SP値差のみで耐薬品性を判断することは困難であり、酸・アルカリによる化学的攻撃、温度、接触時間、力学的応力、材料グレードなども総合的に評価する必要がある。

製法

原料
  • ビスフェノールA(BPA):4,4′-イソプロピリデンジフェノール
  • 4,4′-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)
  • 塩基:炭酸カリウム(K₂CO₃)または水酸化ナトリウム(NaOH)
  • 溶媒:ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、スルホラン等
重合方法

ポリスルホンの代表的な製法は、求核芳香族置換(SNAr)重縮合である。 ビスフェノールAのフェノキシドアニオンがDCDPSの活性化された塩素(スルホニル基の電子求引効果により活性化)を求核攻撃し、HClを脱離させながら高分子量ポリエーテルスルホンが生成する。

ポリスルホン製造反応式(SNAr重縮合) ビスフェノールAと4,4′-ジクロロジフェニルスルホンが塩基性条件下でSNAr重縮合によりポリスルホンと塩化カリウムを生成する反応式。 PSU製造反応式ウSNArウ重縮合 n HO C CH₃ CH₃ OH ビスフェノールA(BPA) + n Cl S O O Cl 4,4'-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS) K₂CO₃ / DMSO 160〜200℃ / 数時間 [ ─O─ C CH₃ CH₃ ─O─ S O O ] n ポリスルホン(PSU) + 2n KCl (副生塩、除去) 反応機構:K₂CO₃がBPAのフェノール性OHを脱プロトン化しフェノキシドアニオンを生成。 フェノキシドがDCDPSのスルホニル基に活性化されたC–Cl結合を求核攻撃(SNAr)。 これが繰り返されることで高分子量のPSUが生成し、KClが副生する。
代表的な製造工程
ポリスルホン(PSU)製造工程フロー PSUの製造工程フローチャート。原料調製から重縮合、末端封止、析出洗浄、乾燥、ペレット化の6工程。 PSU製造工程フロー BPA ビスフェノールA DCDPS ジクロロジフェニルスルホン K₂CO₃ / DMSO 塩基・溶媒 ① 原料調製 所定モル比で溶媒(DMSO)に溶解・混合 ② 重縮合反応(SNAr) 160〜200℃ / 数時間 / 副生KCl除去 副生:2n KCl ③ 末端封止・分子量調整 過剰モノマーで末端基・Mwを制御 ④ 析出・洗浄 水・メタノールで析出 → 残留塩・溶媒除去 ⑤ 乾燥 ⑥ ペレット化・コンパウンド 熱風・真空乾燥でパウダー回収 二軸押出 / GF・難燃剤等を添加
工程内容
① 原料調製BPA・DCDPS・炭酸カリウムを所定のモル比で溶媒に溶解
② 重縮合反応160〜200℃で数時間加熱撹拌。副生水・KClを系外へ排出しながら高分子量化
③ 末端封止・分子量調整末端クロライドまたはフェノール過剰量で分子量・末端基を制御
④ 析出・洗浄反応液を水・メタノール等で析出、ポリマーを回収。残留塩・溶媒を洗浄除去
⑤ 乾燥熱風乾燥または真空乾燥でポリマー粉末を乾燥
⑥ ペレット化・コンパウンド二軸押出機でペレット化。GF・難燃剤・安定剤などを必要に応じて添加
添加剤・充填材

市販グレードには熱安定剤(リン系・ヒンダードフェノール系)、離型剤、UV吸収剤(屋外用途)、ガラス繊維(GF)、炭素繊維(CF)、難燃剤(ハロゲン系・リン系)、グラファイト・PTFE(摺動性改善)などが添加される場合がある。

詳細な利用用途

分野代表的な用途採用理由
医療・ヘルスケア手術器具、歯科機器、血液透析膜ハウジング、内視鏡部品、体外循環部品繰り返しオートクレーブ滅菌耐性、生体適合性、透明性
膜分離・水処理限外ろ過(UF)膜、精密ろ過(MF)膜、血液透析膜、工業用ろ過膜成膜性、耐薬品性、機械強度、親水化改質の容易さ
食品・飲料食品接触部品、給水機器フィルター、コーヒーメーカー部品FDA・EU食品接触規制適合、耐熱性、耐薬品性
電気・電子コネクタ、絶縁スペーサー、半導体ウェーハキャリア、高周波部品電気絶縁性、高Tg、寸法安定性
自動車センサーハウジング、電気系統部品、燃料系統周辺部品高耐熱、剛性、耐油性
航空宇宙機内設備部品、断熱材基材、軽量構造材(CF強化品)高耐熱、難燃性(FR品)、軽量化
分析・研究クロマトグラフィーカラム部品、フィルターハウジング、実験器具耐薬品性、透明性、高純度グレードの入手容易性
産業機械ポンプ部品、バルブ本体、配管継手(化学プラント)耐薬品性、耐熱性、精密加工性

関連材料との比較

材料 Tg / 連続使用温度 耐薬品性 靭性 コスト PSUとの主な違い
PES(PESU)
ポリエーテルスルホン
Tg 220〜230℃ / 180〜200℃ PSUより高い 同等〜やや低 PSUより高 BPA不使用、より高Tg・耐熱性、耐薬品性も向上。透明性は同等。
PPSU
ポリフェニルスルホン
Tg 220〜230℃ / 180〜200℃ PSUより高い PSUより高い PSUより高 ビフェニル構造によりPSUより優れた耐衝撃性・耐加水分解性を示す。医療・航空用途に多用。
PEEK
ポリエーテルエーテルケトン
Tg 143℃ / 連続250℃ 非常に優れる 高い 大幅に高 半結晶性。連続使用温度・耐薬品性がPSUを大きく上回る。コストも大幅に高い。
PPS
ポリフェニレンサルファイド
Tg 85℃ / 連続220℃ 非常に優れる 低め PSUより低 半結晶性・難燃性(V-0)。耐薬品性・連続使用温度ではPSUを上回る。靭性はPSUが有利。
PAI
ポリアミドイミド
Tg 280〜290℃ / 連続220℃ 非常に優れる 高い 非常に高 高Tg・高強度だがコストが高く成形も難しい。PSUより高温用途に適する。
PC
ポリカーボネート
Tg 145〜150℃ / 連続110〜120℃ 劣る 非常に高い 大幅に低 透明性・耐衝撃性はPCが優秀だが、耐熱性・耐薬品性はPSUが有利。コストはPCが大幅に安い。
PEI
ポリエーテルイミド(ウルテム)
Tg 215〜220℃ / 連続170℃ 高い 同等 PSUより高 高Tg・難燃性に優れる。耐薬品性・耐熱性でPSUをやや上回る場合が多い。

代表的なメーカー

メーカー代表製品・ブランド概要
ソルベイ(Solvay) Udel® PSU 世界最大のPSUメーカーの一つ。Udel®ブランドはスルホン系樹脂の代名詞的存在。医療・膜用途を含む多グレードをラインナップ。
ビーエーエスエフ(BASF) Ultrason® S(PSU) スルホン系樹脂(Ultrason®シリーズ)のPSUグレード。医療・食品・工業用途向けに展開。
住友化学(代表例) スミカエクセル(PES中心)等 スルホン系樹脂の国内供給に実績あり(グレード確認推奨)。
RTP Company(代表例) コンパウンドグレード各種 GF強化・難燃・導電性等の特殊コンパウンドを専業で供給。

※ メーカー・ブランド情報は変更となる場合がある。最新情報は各社公式サイトで確認すること。

代表グレードと特性の目安

グレード分類主な特徴代表用途
汎用(標準)バランス型。透明性・耐熱性・剛性の標準値。医療器具、フィルター部品、食品接触部品
GF10〜30%強化剛性・強度向上。線膨張係数低下。反り・異方性に注意。構造部品、電気絶縁部品
難燃(FR)グレードUL94 V-0達成品あり。添加剤により特性変化あり。電気・電子、航空機内装
食品接触・FDA対応FDA 21 CFR §177、EU 10/2011等適合。食品機械、給水装置
膜成形用高純度グレード均質・高分子量。溶液キャスト法に適合。UF/MF膜、透析膜
帯電防止・導電グレード表面抵抗率 10⁶〜10¹⁰ Ω/□。半導体部品トレー、電子部品搬送

注意点(実使用における留意事項)

  • 加水分解リスク:PSUは加水分解安定性が高いが、高温・高濃度アルカリ下の長期接触では緩やかな加水分解が生じる場合がある。PPSUやPEEKと比較した場合は不利な側面もあるため、用途・環境を十分確認すること。
  • 溶剤割れ(ESC):ケトン・エステル・塩素系溶剤との接触は、応力集中部での環境応力割れを引き起こしやすい。成形残留応力がある場合は特に注意する。
  • 吸湿による成形不良:吸水したPSUを成形するとシルバーストリーク・発泡・強度低下が生じる。乾燥条件(120〜130℃、4〜6時間、露点 –40℃以下)を厳守すること。
  • UV劣化・黄変:紫外線照射により表面が黄変・脆化する。屋外長期使用には対UV安定化グレードまたはUVコーティングを検討すること。
  • 熱劣化・アウトガス:成形時の過熱(380℃超)や長時間滞留によりポリマーの熱劣化・アウトガスが発生する。クリーンルームや医療用途での使用では特に管理が必要。
  • 法規制:医療器具用途ではISO 10993生体適合性評価、食品接触用途ではFDA 21 CFR §177.2440やEU規制10/2011の適合確認が必要。REACH・RoHS対応グレードの確認も推奨。

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