概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 材料名 | ポリエーテルイミド |
| 略記号 | PEI |
| IUPAC | 厳密な単一IUPAC名で表しにくい高分子であり、代表的には芳香族エーテルイミド構造を持つポリマーとして扱われる。 |
| 英語名 | Polyetherimide |
| 日本語名 | ポリエーテルイミド、ポリエーテルイミド樹脂、PEI樹脂 |
| 分類 | 熱可塑性樹脂、非晶性樹脂、イミド系樹脂、芳香族高耐熱樹脂 |
| プラスチック分類 | スーパーエンジニアリング・プラスチック |
| 化学式または代表構造 | 代表構造単位:−[芳香族環−O−芳香族環−C(CH3)2−芳香族環−O−芳香族イミド結合]−n。代表組成式はグレードにより異なるが、文献上は繰り返し単位として(C37H24O6N2)nが用いられる場合がある。 |
| CAS No. | 61128-46-9が代表的なPEI樹脂として用いられる場合がある。ただし、共重合、末端基、添加剤、充填材により材料グレード単位では異なる場合がある。 |
| 構造・主成分 | 芳香族イミド結合とエーテル結合を主鎖に持つ非晶性熱可塑性樹脂である。 |
| 主な用途 | 電気電子部品、コネクタ、半導体関連治具、医療機器部品、航空機内装部品、自動車電装部品、耐熱機械部品、食品機械部品、3Dプリント用フィラメントなど。 |
ポリエーテルイミド(PEI)は、芳香族イミド結合による高い耐熱性、エーテル結合による熱可塑成形性、非晶性樹脂としての寸法安定性を併せ持つスーパーエンジニアリング・プラスチックである。代表的にはアンバー色から透明性を持つ樹脂で、耐熱性、難燃性、電気絶縁性、機械強度、低発煙性に優れる材料として使用される。
PEIはポリイミド系の高耐熱樹脂に近い位置付けであるが、一般的な熱硬化性ポリイミドやフィルム用ポリイミドと異なり、射出成形や押出成形が可能な熱可塑性樹脂である点が大きな特徴である。耐熱性はPEEKやPPSと比較しても高水準であるが、PEIは非晶性であるため、結晶性スーパーエンプラとは耐薬品性、成形収縮、寸法安定性、耐疲労性の傾向が異なる。
材料選定では、連続使用温度、荷重たわみ温度、難燃性、透明性、寸法精度、薬品接触、吸水、応力割れ、アウトガス、法規制を総合的に判断する必要がある。特に高温下、応力下、薬品接触下では、標準グレード、GF強化グレード、摺動グレード、医療・食品接触グレードで性能が異なるため、実使用ではグレード、温度、濃度、荷重、応力、使用時間を確認する必要がある。
特徴
長所
- 非晶性樹脂としては耐熱性が高く、ガラス転移温度は代表値で約215〜220℃である。
- 一般に連続使用温度は約170℃前後の高温域まで使用されることが多い。
- 自己消火性が高く、グレードによりUL94 V-0相当の難燃性を示す。
- 低発煙性、低アウトガス性に優れるグレードがあり、航空機、半導体、医療、電気電子用途に適用される。
- 非晶性であるため、成形収縮が比較的小さく、寸法精度を出しやすい。
- 電気絶縁性が高く、高温環境でも電気特性を維持しやすい。
- 熱可塑性であり、射出成形、押出成形、切削加工、3Dプリントに対応できるグレードがある。
- 蒸気滅菌、熱水、洗浄工程に比較的強いグレードがある。
短所
- PEEK、PPS、PTFEなどの結晶性高耐熱樹脂に比べると、強溶剤に対する耐性は劣る場合がある。
- 塩素系溶剤、強極性溶剤、芳香族溶剤、一部のケトン、エステルでは、膨潤、白化、クラック、応力割れが起こる場合がある。
- 高温高湿、強酸、強アルカリではイミド結合の劣化や物性低下に注意が必要である。
- 成形温度が高く、乾燥管理、金型温度、滞留時間、せん断発熱の管理が必要である。
- 材料価格は一般エンプラより高く、成形機、金型、乾燥設備にも耐熱対応が必要となる。
- GF強化グレードでは異方性、反り、金型摩耗、ウェルド強度低下に注意が必要である。
外観
標準的なPEIは、アンバー色から透明の非晶性樹脂である。着色グレード、不透明グレード、ガラス繊維強化グレード、炭素繊維強化グレードでは外観が異なる。透明性が必要な場合は、グレード、肉厚、成形条件、熱履歴、乾燥状態を確認する必要がある。
耐熱性
PEIは、非晶性熱可塑性樹脂として高い耐熱性を持つ。代表的なガラス転移温度は約215〜220℃であり、荷重たわみ温度は未強化グレードで約190〜210℃、GF強化グレードで約210〜215℃程度が目安である。ただし、荷重、肉厚、時間、応力、雰囲気、成形履歴により実使用限界は変化する。
耐薬品性
水、熱水、蒸気、油、燃料、低級アルコール、脂肪族炭化水素には比較的安定な場合が多い。一方、塩素系溶剤、強極性溶剤、芳香族炭化水素、一部のケトン、エステル、強酸、強アルカリでは、膨潤、応力割れ、白化、強度低下が発生する場合がある。特に非晶性樹脂であるため、応力下での溶剤接触には注意する必要がある。
加工性
PEIは熱可塑性であり、射出成形、押出成形、シート成形、切削加工に対応しやすい。ただし、成形温度は高く、一般にシリンダー温度は約340〜400℃、金型温度は約120〜180℃の高温域が用いられる。吸湿による外観不良、分子量低下、シルバー、ボイドを避けるため、成形前乾燥が重要である。
分類上の注意
PEIは名称に「イミド」を含むためポリイミドと混同されやすいが、一般的な熱硬化性ポリイミド、ポリイミドフィルム、全芳香族ポリイミドとは成形方法、耐熱限界、価格、用途が異なる。PEIは「熱可塑性の非晶性イミド系スーパーエンプラ」として整理するのが実務上わかりやすい。
構造式

芳香族イミド結合とエーテル結合を含む非晶性構造。構造中の官能基、結晶性、架橋密度、芳香族骨格、充填材の有無により、耐熱性、耐薬品性、機械的性質、成形性が変化する。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 代表的な構造単位 | −Ar−O−Ar−C(CH3)2−Ar−O−Ar−imide−n |
| 代表組成式 | (C37H24O6N2)nとして表される場合がある。 |
| 主な構成要素 | 芳香族環、エーテル結合(−O−)、イミド環、ビスフェノールA由来骨格など。 |
| モノマーまたは構成単位 | 代表例として、芳香族ビスエーテル無水物と芳香族ジアミンを用いる。実際の工業グレードでは原料、末端基、共重合成分、分子量が異なる場合がある。 |
| 構造上の特徴 | 芳香族イミド結合が耐熱性、剛性、難燃性を高め、エーテル結合が熱可塑加工性を与える。 |
| 共重合体・変性グレード | 標準PEI、耐熱グレード、透明グレード、難燃グレード、GF強化グレード、CF強化グレード、摺動グレード、医療・食品接触対応グレード、3Dプリント用グレードなどがある。 |
PEIの構造は、剛直な芳香族骨格とイミド環を含むため、Tg、剛性、難燃性、寸法安定性が高い。一方、非晶性で自由体積を持つため、SP値が近い強溶剤や応力下の薬品接触では、結晶性のPEEKやPPSより膨潤・応力割れが問題になりやすい場合がある。
種類
| 種類の名称 | 主成分または特徴 | 長所 | 短所 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 標準PEI | 未強化の非晶性ポリエーテルイミド | 耐熱性、寸法安定性、電気絶縁性、難燃性のバランスが良い。 | 強溶剤、応力割れ、成形乾燥に注意が必要である。 | 電気電子部品、コネクタ、絶縁部品、機械部品、透明耐熱部品 |
| 透明グレード | アンバー透明性を活かしたグレード | 高耐熱透明材料として使用できる。 | 無色透明が必要な用途ではポリカーボネートやアクリル樹脂との比較が必要である。 | 医療部品、観察窓、耐熱カバー、光学周辺部品 |
| 耐熱・高流動グレード | 成形性、耐熱性、流動性を調整したPEI | 薄肉部品、複雑形状、精密成形に適用しやすい。 | 高流動化により靭性、耐薬品性、耐熱性が標準グレードと異なる場合がある。 | 薄肉コネクタ、電子部品、精密機構部品 |
| 難燃グレード | PEI自体の難燃性を活かしたグレード | ハロゲン系難燃剤を多量に使わずに難燃性を得やすい。 | UL94等級は肉厚、色、添加剤、認証範囲で異なる。 | 電装部品、航空機内装、電源周辺部品、コネクタ |
| GF強化PEI | ガラス繊維で剛性、寸法安定性、耐熱変形性を高めたグレード | 曲げ弾性率、HDT、低収縮、寸法安定性に優れる。 | 反り、異方性、金型摩耗、外観低下、ウェルド強度低下に注意する。 | 高剛性部品、電気電子筐体、機械構造部品、自動車電装部品 |
| CF強化PEI | 炭素繊維により剛性、耐摩耗性、導電性を付与したグレード | 高剛性、低熱膨張、摺動性、静電気対策に有利である。 | 高価であり、成形異方性、繊維露出、導電性管理が必要である。 | 半導体治具、搬送部品、摺動部品、精密機械部品 |
| 摺動グレード | PTFE、シリコーン、グラファイト、炭素繊維などを配合したグレード | 摩擦係数、摩耗量、焼付き性を改善できる。 | 添加剤により強度、寸法、耐薬品性、接着性が変化する。 | ギア、軸受、ブッシュ、ローラー、摺動ガイド |
| 医療・食品接触対応グレード | 生体適合性、滅菌、食品接触規制を考慮したグレード | 蒸気滅菌、耐熱水、洗浄性、寸法安定性が必要な用途に向く。 | FDA、USP、ISO 10993、食品衛生法などの適合範囲はグレード単位で確認が必要である。 | 医療機器部品、分析機器、食品機械部品、滅菌トレー |
成形加工
PEIは熱可塑性スーパーエンプラであり、射出成形と押出成形を中心に使用される。成形温度が高いため、耐熱仕様の成形機、スクリュー、ノズル、金型温調、乾燥機が必要となる場合がある。乾燥不足ではシルバー、気泡、物性低下、外観不良が生じやすい。
| 加工方法 | 適正 | 主な製品例 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 射出成形 | ◎ | コネクタ、電気電子部品、医療部品、機械部品 | 乾燥、樹脂温度、金型温度、滞留時間、ガス抜き管理が重要である。 |
| 押出成形 | ○ | シート、フィルム、ロッド、チューブ、異形押出材 | 高温押出、溶融粘度、熱履歴、厚みムラに注意する。 |
| ブロー成形 | △ | 特殊容器、耐熱中空部品 | 一般的ではない。溶融張力、成形温度、グレード選定が必要である。 |
| 圧縮成形 | △ | 板材、厚肉素材、試作材 | 熱可塑性素材の二次成形として用いられる場合がある。 |
| 真空成形 | ○ | 耐熱トレー、カバー、医療・航空機関連部材 | シート品質、加熱温度、ドローダウン、残留応力に注意する。 |
| 切削加工 | ◎ | 治具、半導体部品、試作部品、少量部品 | 残留応力、バリ、発熱、寸法変化、吸水管理に注意する。 |
| 3Dプリント | ○ | 治具、試作部品、耐熱部品 | 高温ノズル、高温チャンバー、反り、層間強度、乾燥管理が必要である。 |
| 接着・溶着 | △ | 組立部品、二次加工品 | 表面処理、溶剤影響、残留応力、耐熱性の低下を確認する。 |
代表的な成形条件
| 項目 | 代表条件 | 備考 |
|---|---|---|
| 予備乾燥 | 約150℃、4〜6時間 | 吸湿状態、ペレット保管、グレードにより調整する。メーカー推奨条件を優先する。 |
| シリンダー温度 | 約340〜400℃ | 高温成形材料であり、滞留分解に注意する。 |
| ノズル温度 | 約350〜390℃ | 糸引き、ドローリング、焼け、ガス発生を確認する。 |
| 金型温度 | 約120〜180℃ | 寸法安定性、ウェルド、表面外観、残留応力に影響する。 |
| 成形収縮率 | 未強化:約0.5〜0.8% GF強化:約0.2〜0.5% | 肉厚、ゲート位置、繊維配向、金型温度により変動する。 |
| 再生材使用 | 限定的に検討 | 熱履歴、乾燥、難燃認証、医療・食品規制用途では特に注意する。 |
代表的な物性値又は機械的性質
以下は代表値又は目安であり、実際の物性はメーカー、グレード、成形条件、試験規格、試験片形状、吸水状態、充填材量により変動する。設計値として使用する場合は、必ず対象グレードのメーカー物性表と実機評価で確認する必要がある。
| 項目 | 単位 | PEI 未強化 | PEI GF30 | PEI CF強化 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 密度 | g/cm3 | 約1.27 | 約1.45〜1.55 | 約1.35〜1.45 | 充填材量により大きく変化する。 |
| 引張強さ | MPa | 約100〜120 | 約140〜170 | 約130〜190 | 試験速度、吸水、繊維配向により変動する。 |
| 伸び | % | 約40〜80 | 約2〜5 | 約1〜4 | 強化グレードでは伸びが低下する。 |
| 曲げ弾性率 | GPa | 約3.0〜3.5 | 約8〜11 | 約10〜18 | GF、CFで剛性が大きく向上する。 |
| アイゾット衝撃強さ | J/m | 約40〜80 | 約50〜100 | 約30〜80 | ノッチ有無、肉厚、成形条件で差が大きい。 |
| 荷重たわみ温度 | ℃ | 約190〜210 | 約210〜215 | 約210〜220 | 1.8MPa付近の代表値。荷重条件で変わる。 |
| ガラス転移温度 | ℃ | 約215〜220 | 約215〜220 | 約215〜220 | 非晶性樹脂であり明確な融点は持たない。 |
| 連続使用温度 | ℃ | 約160〜180 | 約160〜180 | 約160〜180 | UL温度指数、荷重、雰囲気、時間で判断する。 |
| 吸水率 | % | 約0.2〜0.3 | 約0.2〜0.4 | 約0.2〜0.4 | 24時間吸水の目安。寸法精度用途では吸湿平衡を確認する。 |
| 体積抵抗率 | Ω・cm | 約1016以上 | 約1014〜1016 | 導電グレードでは低下 | CF、カーボン、帯電防止剤で大きく変化する。 |
| 線膨張係数 | ×10-5/K | 約5〜6 | 約2〜3 | 約1〜3 | 繊維配向方向と直角方向で異なる。 |
| 難燃性 | UL94 | V-0相当のグレードあり | V-0相当のグレードあり | グレードによる | 肉厚、色、添加剤、認証範囲に依存する。 |
| 酸素指数 | % | 約45〜47 | 約45以上 | グレードによる | 代表値であり、試験規格とグレード確認が必要である。 |
耐薬品性
PEIの耐薬品性は、一般に水、熱水、蒸気、油、脂肪族炭化水素、低級アルコールに対して比較的良好である。一方で、非晶性樹脂であるため、SP値が近い溶剤や強極性溶剤、塩素系溶剤、芳香族溶剤では膨潤、軟化、応力割れが生じる場合がある。耐薬品性は温度、濃度、接触時間、応力、残留ひずみ、洗浄頻度、乾燥状態で大きく変化する。
| 薬品分類 | 代表薬品 | 耐性 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 酸類 | 希塩酸、希硫酸、酢酸、クエン酸 | ○〜△ | 低濃度・常温では比較的安定な場合がある。強酸、高温、長時間では劣化や強度低下に注意する。 |
| 強酸化性酸 | 濃硝酸、発煙硫酸、クロム酸 | ×〜△ | 酸化劣化、変色、脆化の可能性がある。原則として実液試験が必要である。 |
| アルカリ類 | NaOH、KOH、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液 | △〜× | 強アルカリ、高温、高濃度ではイミド結合の劣化や加水分解に注意する。 |
| 低級アルコール類 | メタノール、エタノール、IPA | ○ | 常温短時間では比較的良好である。応力下、長時間、消毒工程の繰り返しではクラック確認が必要である。 |
| 高級アルコール類 | グリセリン、ブタノール、MMB | ○〜△ | 分子量、極性、温度により膨潤傾向が変わる。洗浄剤配合では界面活性剤との併用影響を確認する。 |
| 芳香族炭化水素類 | トルエン、キシレン、エチルベンゼン | △〜× | 膨潤、白化、応力割れが起こる場合がある。高温、応力下では避ける方が安全である。 |
| 脂肪族炭化水素類 | ヘキサン、ヘプタン、ミネラルスピリット | ○〜◎ | 常温では比較的良好な場合が多い。燃料混合物、添加剤、温度上昇時は確認する。 |
| ケトン | アセトン、MEK、MIBK、シクロヘキサノン | △〜× | 膨潤、軟化、応力割れに注意する。特にアセトン、MEK洗浄は事前評価が必要である。 |
| エステル | 酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エステル | △〜× | 非晶性PEIでは膨潤やクラックの可能性がある。塗料、接着剤、洗浄剤用途では注意する。 |
| 塩素系溶剤 | ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン | × | 溶解、膨潤、応力割れのリスクが高い。原則として長時間接触には不向きである。 |
| 強極性溶剤 | NMP、DMF、DMAc、DMSO | ×〜△ | SP値が近く、膨潤又は溶解に注意する。高温では特に危険である。 |
| 水・温水 | 水道水、純水、温水、蒸気 | ○〜◎ | PEIは加水分解安定性が比較的高いが、高温高圧蒸気、洗浄剤併用、長期使用では確認する。 |
| 油 | 潤滑油、作動油、シリコーン油、植物油 | ○〜◎ | 多くの油に比較的安定である。添加剤、酸化劣化油、高温では評価する。 |
| 燃料 | ガソリン、軽油、灯油、アルコール混合燃料 | ○〜△ | 炭化水素系は比較的良好な場合があるが、芳香族成分、アルコール、添加剤で変化する。 |
SP値(溶解度パラメータ)
ポリエーテルイミドのSP値(δ)は、文献値、推算法、グレード、分子量、添加剤、吸水状態により差がある。代表値としては約24〜26 MPa1/2程度を目安に扱うのが実務上わかりやすい。ただし、PEIは非晶性の高Tg樹脂であり、SP値だけで溶解・膨潤・応力割れを判断することはできない。
| 項目 | 代表値 | 備考 |
|---|---|---|
| PEIのSP値(δ) | 約24〜26 MPa1/2 | 代表値又は推定値であり、グレードや評価方法により変動する。 |
| 耐溶剤性の見方 | SP値差が小さいほど膨潤・溶解リスクが高い | ただし、結晶性、Tg、分子量、HSP、温度、応力、接触時間の影響が大きい。 |
| 特に注意する溶剤 | NMP、DMF、DMAc、DMSO、塩素系溶剤、芳香族溶剤、一部ケトン | SP値又はHSPが近く、非晶性PEIでは膨潤・溶解・応力割れが問題になりやすい。 |
溶解性の目安
| SP値差 | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|
| 0〜2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2〜5 | 条件により膨潤する | △ |
| 5〜8 | 短時間接触では比較的安定 | ○ |
| 8以上 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP値から見た耐溶剤性
以下ではPEIの代表SP値を25 MPa1/2として、代表溶剤とのSP値差を概算する。実際の耐溶剤性はHSP、温度、濃度、接触時間、残留応力、吸水、成形ひずみ、添加剤、表面処理で変化するため、SP値差は一次スクリーニングとして扱うべきである。
| 薬品名 | 代表SP値 MPa1/2 | PEIとの差 | SP値上の目安 | 実用評価 |
|---|---|---|---|---|
| 水 | 約47.9 | 約22.9 | ◎ | ○〜◎。熱水、蒸気、洗浄剤併用では確認する。 |
| エタノール | 約26.0 | 約1.0 | × | ○。SP値は近いが、常温短時間では比較的安定な場合が多い。応力下では確認する。 |
| IPA | 約23.5 | 約1.5 | × | ○。消毒・洗浄用途では繰り返し接触と応力割れを確認する。 |
| グリセリン | 約33.8 | 約8.8 | ◎ | ○〜◎。高温、吸湿、添加剤併用では確認する。 |
| アセトン | 約19.9 | 約5.1 | ○ | △〜×。非晶性樹脂では応力割れ、膨潤に注意する。 |
| MEK | 約19.0 | 約6.0 | ○ | △〜×。洗浄剤、塗料溶剤としての接触は避ける方が安全である。 |
| 酢酸エチル | 約18.6 | 約6.4 | ○ | △〜×。エステル系溶剤では白化、膨潤、クラックを確認する。 |
| トルエン | 約18.2 | 約6.8 | ○ | △〜×。芳香族溶剤では応力割れに注意する。 |
| キシレン | 約18.0 | 約7.0 | ○ | △〜×。高温又は長時間接触では避ける。 |
| ヘキサン | 約14.9 | 約10.1 | ◎ | ○〜◎。脂肪族炭化水素には比較的安定な場合が多い。 |
| ジクロロメタン | 約20.2 | 約4.8 | △ | ×。塩素系溶剤では溶解、膨潤、応力割れのリスクが高い。 |
| NMP | 約23.0 | 約2.0 | △ | ×〜△。高温では膨潤又は溶解に注意する。 |
| DMF | 約24.8 | 約0.2 | × | ×。強極性溶剤であり、接触用途には不向きである。 |
| DMSO | 約26.7 | 約1.7 | × | ×〜△。高温、長時間では膨潤・溶解に注意する。 |
評価基準:◎非常に良好、○概ね良好、△注意が必要、×不適。SP値差が大きくても、HSPの水素結合項、極性項、溶剤の拡散性、樹脂の残留応力により応力割れが発生する場合がある。PEIの溶剤評価では、SP値差だけでなく、実液浸漬試験、曲げ応力下試験、熱サイクル試験を併用する必要がある。
製法
PEIは、一般に芳香族ビスエーテル無水物と芳香族ジアミンの縮合・イミド化により製造される熱可塑性ポリイミド系樹脂である。実際の工業プロセスでは、原料純度、溶媒、重合温度、分子量制御、末端基制御、脱揮、ペレット化、コンパウンド条件が物性に影響する。

原料
- 芳香族ビスエーテル二無水物:ビスフェノールA由来の芳香族エーテル二無水物などが代表例である。
- 芳香族ジアミン:m-フェニレンジアミンなどの芳香族ジアミンが代表例として挙げられる。
- 溶媒、触媒、末端封止剤:分子量、色調、流動性、熱安定性を調整する目的で使用される場合がある。
- 充填材・添加剤:ガラス繊維、炭素繊維、PTFE、グラファイト、着色剤、熱安定剤、離型剤などが使用される場合がある。
重合方法
PEIの基本的な考え方は、芳香族二無水物と芳香族ジアミンからポリアミック酸又は中間体を形成し、脱水イミド化によってイミド環を形成する反応である。熱可塑性を持たせるため、主鎖中にエーテル結合を導入して加工性を付与する。
代表的な反応式
n H2N−Ar−NH2 + n O(OC)2−Ar−O−Ar−(CO)2O → −[Ar−N(CO)2−Ar−O−Ar−(CO)2N−Ar]−n + 2n H2O
上式はPEI生成の概念式であり、実際の工業反応では原料構造、中間体、溶媒、反応温度、脱水条件、末端基制御が異なる。厳密な構造はメーカーグレードにより異なるため、用途設計では対象グレードの技術資料を確認する必要がある。
ペレット化やコンパウンド
重合後のPEIは、脱揮、濾過、ペレット化を経て成形材料となる。GF強化、CF強化、摺動、難燃、着色、医療、食品接触用途では、二軸押出機などで充填材や添加剤を配合する。コンパウンド条件により、繊維長、分散、熱履歴、アウトガス、色調、流動性が変化する。
添加剤、充填材、強化材
| 添加・強化材 | 目的 | 注意点 |
|---|---|---|
| ガラス繊維 | 剛性、HDT、寸法安定性、低収縮化 | 反り、異方性、金型摩耗、ウェルド強度低下に注意する。 |
| 炭素繊維 | 高剛性、低熱膨張、導電性、摺動性 | 導電性管理、繊維配向、外観、コストに注意する。 |
| PTFE・グラファイト | 摩擦低減、耐摩耗性向上 | 強度低下、接着性低下、摩耗粉、食品・医療適合を確認する。 |
| 着色剤 | 識別性、意匠性、遮光性 | 耐熱性、難燃認証、医療・食品規制への影響を確認する。 |
| 安定剤・離型剤 | 成形性、熱安定性、離型性の改善 | アウトガス、接着性、塗装性、電気特性への影響を確認する。 |
詳細な利用用途
| 用途分野 | 具体例 | PEIが選ばれる理由 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 自動車 | センサー部品、電装コネクタ、ランプ周辺部品、耐熱絶縁部品 | 耐熱性、寸法安定性、難燃性、電気絶縁性が高い。 | 燃料、オイル、冷却液、融雪剤、熱サイクルで確認する。 |
| 電気・電子 | コネクタ、ソケット、リレー部品、スイッチ部品、絶縁体 | 高温電気特性、難燃性、寸法精度に優れる。 | リフロー温度、端子圧入、ウェルド、吸湿、絶縁劣化を確認する。 |
| 半導体・精密機器 | ウェハ搬送治具、検査治具、耐熱治具、絶縁スペーサー | 低アウトガス、耐熱性、寸法安定性、切削加工性が有利である。 | パーティクル、金属汚染、洗浄薬品、帯電、アウトガス規格を確認する。 |
| 機械部品 | ギア、軸受、ブッシュ、ローラー、インペラ、ポンプ部品 | 高温下での剛性、耐摩耗性、寸法安定性が必要な用途に使える。 | 摺動用途ではPV値、摩耗粉、相手材、潤滑油、熱発生を確認する。 |
| 医療 | 滅菌トレー、分析機器部品、器具ハンドル、透明耐熱部品 | 蒸気滅菌、耐熱水、寸法安定性、透明性を活かせる。 | ISO 10993、USP、FDA、滅菌回数、薬液洗浄適合をグレード単位で確認する。 |
| 食品機械 | 耐熱治具、搬送部品、絶縁部品、洗浄工程部品 | 耐熱性、耐蒸気性、寸法安定性が必要な環境に適用される。 | 食品接触適合、アルカリ洗浄剤、次亜塩素酸、熱水洗浄で確認する。 |
| 航空・鉄道 | 内装部品、電装部品、難燃部品、低発煙部品 | 難燃性、低発煙性、低毒性、軽量化に有利である。 | FST規格、認証グレード、燃焼試験条件を確認する。 |
| 建築・設備 | 耐熱絶縁部品、照明周辺部品、設備機器部材 | 耐熱性、難燃性、寸法安定性を活かせる。 | 屋外紫外線、薬品洗浄、長期荷重、クリープを確認する。 |
| 3Dプリント | 高耐熱治具、試作部品、機能部品 | 耐熱性、強度、難燃性を持つ造形材料として使用される。 | 層間強度、反り、空隙、乾燥、造形方向による異方性を確認する。 |
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | 対象材料との違い |
|---|---|---|
| ポリイミド(PI) | 極めて高い耐熱性を持つイミド系高耐熱樹脂である。 | PIはPEIより高耐熱のグレードが多いが、成形加工性、溶融成形性、コストではPEIが扱いやすい場合がある。 |
| ポリエーテルエーテルケトン(PEEK) | 結晶性の芳香族ケトン系スーパーエンプラで、耐薬品性、耐摩耗性、耐疲労性が高い。 | PEEKは耐薬品性と摺動性で有利な場合が多い。PEIは非晶性で寸法精度、透明性、難燃性、成形収縮の小ささに利点がある。 |
| ポリフェニレンサルファイド(PPS) | 結晶性で耐薬品性、難燃性、寸法安定性に優れる硫黄含有芳香族樹脂である。 | PPSは耐薬品性と低吸水で有利である。PEIは非晶性で透明性、低収縮、電気特性、衝撃性で有利な場合がある。 |
| ポリスルホン(PSU) | 非晶性の耐熱透明樹脂で、熱水、蒸気、寸法安定性に優れる。 | PEIはPSUより耐熱性、剛性、難燃性で有利な場合が多い。PSUは靭性や透明性、成形性で有利な場合がある。 |
| ポリエーテルスルホン(PES) | 非晶性のスルホン系スーパーエンプラで、耐熱水性、耐薬品性、寸法安定性が良い。 | PEIは難燃性、剛性、電気特性で有利な場合がある。PESは熱水、膜用途、医療・食品用途で採用されることが多い。 |
| ポリカーボネート(PC) | 透明性、耐衝撃性、成形性に優れるエンジニアリングプラスチックである。 | PEIはPCより耐熱性、難燃性、寸法安定性で有利である。PCは透明性、価格、成形性、耐衝撃性で有利な場合が多い。 |
| ポリフェニルサルホン(PPSU) | 非晶性スルホン系樹脂で、耐熱水性、耐衝撃性、蒸気滅菌性に優れる。 | 医療・滅菌用途ではPPSUが有利な場合がある。PEIは高剛性、難燃性、電気絶縁性、低発煙性で有利な場合がある。 |
| 液晶ポリマー(LCP) | 高流動、低吸水、低線膨張、薄肉成形性に優れるスーパーエンプラである。 | LCPは薄肉コネクタや高周波部品で有利である。PEIは非晶性で靭性、透明性、切削加工性、構造部品用途で使いやすい場合がある。 |
代表的なメーカー
以下は実在する主要メーカー又は供給元の代表例である。ブランド、グレード、供給形態、認証範囲は地域、時期、代理店により異なるため、採用時には最新のメーカー資料を確認する必要がある。
| メーカー | 代表製品・ブランド | 概要 |
|---|---|---|
| SABIC | ULTEM | PEI樹脂の代表的なブランドとして広く知られる。標準、透明、GF強化、医療、食品接触、難燃、フィルム、フォームなど幅広いグレードがある。 |
| RTP Company | RTP PEI Compounds | PEIをベースとしたガラス繊維強化、炭素繊維強化、導電、摺動、着色などのコンパウンドを扱う代表的なコンパウンダーである。 |
| Ensinger | TECAPEI | PEIの板、丸棒、切削加工用素材などを供給する加工材料メーカーである。半導体、医療、機械部品用途で使用される。 |
| Drake Plastics | PEI stock shapes | PEIのロッド、プレート、加工素材を供給するメーカーであり、少量加工部品や高機能部品用途で用いられる。 |
| Goodfellow | PEI materials | 研究開発、試作、小ロット用途向けにPEI材料を取り扱う材料供給元である。 |
| 三菱ケミカルグループ系加工材料事業 | PEI加工素材の代表例 | PEIを含む高機能樹脂の板材、丸棒、切削加工用素材を扱う場合がある。実際の取扱品、ブランド、在庫は販売窓口で確認が必要である。 |
法規制・規格上の注意
| 項目 | 確認内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| RoHS | 鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBB、PBDE、フタル酸エステル類など | 樹脂単体だけでなく、着色剤、難燃剤、添加剤、再生材の確認が必要である。 |
| REACH | SVHC、制限物質、登録状況 | 欧州向け部品では最新のSVHCリストをグレード単位で確認する。 |
| UL94 | V-0、V-1、V-2、5VAなどの燃焼等級 | 肉厚、色、グレード、成形条件で認証範囲が異なる。 |
| 食品衛生・FDA | 食品接触用途への適合性 | 全PEIが食品接触に使えるわけではない。対象グレードの適合証明が必要である。 |
| 医療用途 | ISO 10993、USP Class VI、滅菌耐性など | 医療グレード、製造変更管理、抽出物、滅菌回数の確認が必要である。 |
| 航空・鉄道 | FST、低発煙、低毒性、難燃規格 | 用途別規格と認証グレードを確認する必要がある。 |
用途別選定の目安
| 用途 | 推奨されやすいグレード | 選定理由 | 確認試験 |
|---|---|---|---|
| コネクタ | 標準、難燃、高流動、GF強化 | 耐熱性、難燃性、寸法精度、電気絶縁性が必要である。 | リフロー耐熱、端子保持力、絶縁抵抗、ウェルド強度、吸湿後寸法 |
| ギア | 摺動、GF強化、CF強化 | 高温下での剛性、耐摩耗性、寸法安定性が必要である。 | 摩耗試験、PV試験、騒音、相手材攻撃性、潤滑油耐性 |
| 軸受・ブッシュ | 摺動、CF強化、PTFE配合 | 摩擦低減、耐摩耗、耐熱寸法安定性が必要である。 | 摩擦係数、摩耗量、温度上昇、クリープ、長期荷重 |
| チューブ・シート | 押出グレード | 耐熱性、電気絶縁性、難燃性、寸法安定性を活かせる。 | 押出安定性、肉厚精度、曲げ、耐薬品、熱老化 |
| 筐体 | 標準、難燃、GF強化、着色 | 難燃性、剛性、耐熱性、寸法精度が必要である。 | 落下衝撃、燃焼、反り、薬品清掃、熱サイクル |
| フィルム | フィルム用PEI | 耐熱性、電気絶縁性、難燃性を活かせる。 | 絶縁破壊、耐熱老化、寸法変化、吸湿、誘電特性 |
| 医療・食品機械部品 | 医療対応、食品接触対応、透明グレード | 滅菌、熱水、透明性、寸法安定性が必要である。 | 滅菌サイクル、薬液浸漬、抽出物、食品接触適合、洗浄耐性 |
使用上の注意点
- PEIは高耐熱樹脂であるが、Tgを超える温度域では剛性低下、クリープ、寸法変化が大きくなる。
- 非晶性樹脂であるため、塩素系溶剤、芳香族溶剤、ケトン、エステル、強極性溶剤との接触では応力割れに注意する。
- 乾燥不足は成形外観、強度、寸法、アウトガスに影響するため、成形前乾燥と保管管理が重要である。
- 高温高湿、強アルカリ、強酸では加水分解や化学劣化の可能性がある。
- GF強化、CF強化では成形収縮の異方性、反り、繊維露出、金型摩耗を考慮する必要がある。
- 医療、食品、航空、電気安全用途では、材料名だけでなくグレード単位の認証、適合証明、変更管理を確認する必要がある。
- 低アウトガス用途では、樹脂グレード、成形条件、アニール、洗浄、包装、保管まで含めて確認する必要がある。
推奨試験
| 評価項目 | 試験内容 | 確認する現象 |
|---|---|---|
| 耐熱性 | 熱老化、HDT、熱サイクル、連続加熱 | 強度低下、寸法変化、変色、脆化、クリープ |
| 耐薬品性 | 実液浸漬、拭き取り、洗浄サイクル、曲げ応力下浸漬 | 膨潤、重量変化、白化、クラック、引張強度低下 |
| 吸水・寸法安定性 | 吸水率、湿熱試験、乾湿サイクル | 寸法変化、反り、電気特性低下、重量変化 |
| 難燃性 | UL94、酸素指数、FST試験 | 燃焼挙動、発煙、滴下、規格適合性 |
| 電気特性 | 絶縁抵抗、誘電率、耐トラッキング、絶縁破壊 | 高温高湿後の絶縁劣化、沿面放電、漏れ電流 |
| 摺動性 | 摩擦摩耗試験、PV試験、相手材評価 | 摩耗量、摩擦係数、発熱、摩耗粉、相手材摩耗 |
| 成形性 | 流動長、ウェルド強度、反り、外観、ガス評価 | ショート、焼け、シルバー、ボイド、反り、寸法ばらつき |
| アウトガス | TDS、GC-MS、真空加熱、重量減少 | 低分子成分、添加剤揮発、汚染、臭気 |
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