概要
| 材料名 | イソプレンゴム、ポリイソプレンゴム |
|---|---|
| 略記号 | IR |
| 英語名 | Isoprene Rubber、Polyisoprene Rubber |
| 日本語名 | イソプレンゴム、ポリイソプレンゴム、合成天然ゴム、シス-1,4-ポリイソプレン、トランス-1,4-ポリイソプレン |
| 分類 | 合成ゴム、ジエン系ゴム、汎用ゴム |
| 構造・主成分 | イソプレンを重合したポリイソプレンを主成分とする |
| 主な用途 | タイヤ、ベルト、ホース、防振ゴム、ゴムロール、医療用ゴム、接着剤 |
イソプレンゴムは、イソプレンを重合して得られる合成ゴムである。天然ゴムに近い構造を持ち、特にシス-1,4-ポリイソプレンを主体とするグレードは、天然ゴムに近い弾性、引張強さ、耐屈曲疲労性を示す。
天然ゴムより品質のばらつきが小さく、色調、臭気、異物管理の面で有利である。一方で、耐油性、耐候性、耐オゾン性は強くないため、使用環境に応じて老化防止剤、ワックス、補強材、配合剤を選定する必要がある。
特徴
- 天然ゴムに近い高い反発弾性と良好な機械的強度を持つ。
- 加工性、混練性、成形性、加硫性が良い。
- 天然ゴムより不純物が少なく、品質の安定性に優れる。
- 耐寒性、耐屈曲疲労性、耐摩耗性が良い。
- 耐油性、耐候性、耐オゾン性、耐熱老化性は限定的である。
- 実使用では温度、酸素、オゾン、油、燃料、薬品、応力を含めて評価する必要がある。
長所
- 天然ゴムに近い弾性と機械的強度を得やすい。
- 反発弾性、耐疲労性、耐摩耗性が良い。
- 透明性や淡色性が必要なゴム製品に使いやすい。
- 天然ゴムよりロット間ばらつきが小さい。
短所
- 鉱物油、燃料油、芳香族溶剤、塩素系溶剤には膨潤しやすい。
- 耐オゾン性、耐候性はEPDM、CR、IIRなどより劣る。
- 高温連続使用には限界があり、老化防止配合が重要である。
成形加工
| 加工方法 | 適正 | 主な製品例 |
|---|---|---|
| 圧縮成形 | ◎ | 防振ゴム、パッキン、ゴム板、成形ゴム部品 |
| 射出成形 | ○ | 小型ゴム部品、医療用部品、精密ゴム部品 |
| 押出成形 | ○ | チューブ、ホース、シール材、ゴムロープ |
| カレンダー加工 | ○ | シート、ゴム引布、タイヤ部材 |
| 接着・ラテックス加工 | △〜○ | 接着剤、医療・衛生用品、含浸品 |
構造式
イソプレンゴムは、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)を重合したポリイソプレンである。
天然ゴム(NR)はシス-1,4-ポリイソプレンで構成されている。イソプレンゴムは、主構造はシス-1,4-ポリイソプレンであるが、トランス-1,4-ポリイソプレン、3,4-ポリイソプレンなどの異性体が混合された状態である。基本特性は天然ゴムと同等となり、タイヤや各種ゴム製品の主原料として利用されている。

n CH2=C(CH3)−CH=CH2 → [−CH2−C(CH3)=CH−CH2−]n
重合条件、触媒、シス含有率、分子量、分子量分布により、弾性、加工性、結晶化性、機械的性質が変化する。
種類
シス-1,4-ポリイソプレン
| 名称 | 高シスイソプレンゴム |
|---|---|
| 構成 | シス-1,4構造を主体とするポリイソプレン |
| 特徴 | 天然ゴムに近い高弾性、高強度、耐疲労性を示す |
| 主な用途 | タイヤ、ベルト、防振ゴム、医療用ゴム、一般工業用ゴム |
トランス-1,4-ポリイソプレン
| 名称 | トランスポリイソプレン |
|---|---|
| 構成 | トランス-1,4構造を主体とするポリイソプレン |
| 特徴 | 結晶性が高く、硬質・半硬質ゴム的な性質を示す |
| 主な用途 | ゴルフボール、形状保持材、改質材、特殊ゴム部品 |
液状ポリイソプレン
| 名称 | 液状イソプレンゴム |
|---|---|
| 構成 | 低分子量のポリイソプレン |
| 特徴 | 可塑剤、粘着付与、接着剤、改質用途に使いやすい |
| 主な用途 | 接着剤、シーラント、ゴム改質、樹脂改質 |
代表的な物性値又は機械的性質
| 性質 | 単位 | IR標準配合 | カーボンブラック補強 | 高シスグレード |
|---|---|---|---|---|
| 比重 | – | 0.91〜0.93 | 1.05〜1.20 | 0.91〜0.93 |
| 硬さ | ショアA | 35〜65 | 50〜80 | 35〜65 |
| 引張強さ | MPa | 15〜25 | 20〜30 | 18〜28 |
| 伸び | % | 500〜800 | 300〜650 | 500〜800 |
| 引裂強さ | kN/m | 20〜45 | 30〜70 | 25〜55 |
| 反発弾性 | % | 60〜75 | 45〜65 | 60〜75 |
| 使用温度範囲 | ℃ | -50〜80 | -50〜90 | -50〜80 |
| 耐候性 | – | △ | △ | △ |
| 耐油性 | – | ×〜△ | ×〜△ | ×〜△ |
耐薬品性
イソプレンゴムは水、弱酸、弱アルカリには比較的安定であるが、鉱物油、燃料油、芳香族炭化水素、塩素系溶剤では膨潤しやすい。耐薬品性は配合、加硫系、充填材、老化防止剤、温度、接触時間で変化する。
| 薬品・溶剤 | 耐性 | 備考 |
|---|---|---|
| 水 | ○ | 常温では比較的安定である。 |
| 弱酸 | ○〜△ | 濃度、温度、酸化性により劣化する場合がある。 |
| 弱アルカリ | ○〜△ | 常温では比較的安定であるが、高温長時間では注意する。 |
| アルコール | ○〜△ | 短時間接触では比較的安定である。 |
| ケトン | △ | 配合により膨潤する場合がある。 |
| 芳香族溶剤 | × | トルエン、キシレンなどで大きく膨潤しやすい。 |
| ガソリン・燃料油 | × | 膨潤、軟化、物性低下が起こりやすい。 |
| 鉱物油 | ×〜△ | 耐油用途ではNBR、FKM、ACMなどを検討する。 |
更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照。
SP値(溶解度パラメータ)
SP値(溶解度パラメータ)
イソプレンゴムのSP値は、一般に約16.0〜17.0 MPa1/2程度である。炭化水素系ゴムであるため、SP値の近い非極性溶剤や芳香族溶剤では膨潤しやすい。
| 項目 | SP値(δ) MPa1/2 | 備考 |
|---|---|---|
| IR 標準グレード | 16.0〜17.0 | 非極性溶剤、芳香族溶剤、鉱物油で膨潤しやすい。 |
| IR 高シスグレード | 16.1〜16.8 | 天然ゴムに近い耐溶剤傾向を示す。 |
| IR カーボンブラック補強 | 16.0〜17.2 | 補強により膨潤時の形状保持性は向上するが、耐油性自体は大きく改善しにくい。 |
| IR 白色・淡色配合 | 16.0〜17.2 | シリカ、炭酸カルシウム、可塑剤の影響で膨潤挙動が変化する。 |
| 液状ポリイソプレン | 16.0〜17.0 | 溶剤、樹脂、粘着剤との相溶性が高い場合がある。 |
溶解性の目安
| SP値差 Δδ | 溶解・膨潤の目安 | IRでの考え方 |
|---|---|---|
| 0〜2 | 溶解・膨潤しやすい | 芳香族溶剤、炭化水素系溶剤では大きく膨潤しやすい。 |
| 2〜5 | 膨潤・軟化の可能性 | ケトン、エステル、一部燃料で注意が必要である。 |
| 5以上 | 溶解しにくい | 水、アルコール類などでは比較的影響が小さい。 |
SP値から見た耐溶剤性
| 薬品・溶剤 | SP値(δ)MPa1/2 | SP値差 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 水 | 47.9 | 31.4 | ◎ | SP値差が大きく、常温では膨潤しにくい。 |
| メタノール | 29.7 | 13.2 | ○ | 短時間接触では比較的安定である。 |
| エタノール | 26.0 | 9.5 | ○ | 一般的には大きな膨潤は起こりにくい。 |
| IPA(イソプロパノール) | 23.5 | 7.0 | ○〜△ | 長時間接触、配合剤抽出に注意する。 |
| アセトン | 20.0 | 3.5 | △ | 膨潤、軟化、配合剤抽出の可能性がある。 |
| MEK(メチルエチルケトン) | 19.0 | 2.5 | △ | 膨潤しやすく、長期接触には向かない。 |
| 酢酸エチル | 18.6 | 2.1 | △〜× | 膨潤、軟化が起こりやすい。 |
| トルエン | 18.2 | 1.7 | × | SP値が近く、大きく膨潤しやすい。 |
| キシレン | 18.0 | 1.5 | × | 芳香族溶剤であり、耐性は低い。 |
| ヘキサン | 14.9 | 1.6 | × | 非極性炭化水素で膨潤しやすい。 |
| シクロヘキサン | 16.8 | 0.3 | × | SP値が非常に近く、膨潤・溶解に注意する。 |
| ガソリン | 約14〜16 | 0.5〜2.5 | × | 燃料油で大きく膨潤しやすい。 |
| 鉱物油 | 約15〜17 | 0〜1.5 | × | 耐油用途には適さない場合が多い。 |
| DMF(ジメチルホルムアミド) | 24.8 | 8.3 | △ | SP値差は大きいが、高極性溶剤で配合剤抽出に注意する。 |
| DMSO(ジメチルスルホキシド) | 26.7 | 10.2 | △ | 高温長時間では膨潤や抽出に注意する。 |
◎:非常に良好 ○:概ね良好 △:注意が必要 ×:不適
※ 耐溶剤評価は、イソプレンゴムのSP値中央値(約16.5 MPa1/2)を基準とし、溶剤とのSP値差および一般的なゴムの耐薬品性を総合的に考慮した参考評価である。
特に注意が必要な溶剤
製法
不飽和炭化水素からなるゴムであり、イソプレン(IUPAC: 2-メチル-1,3-ブタジエン)の重合によって製造される。
イソプレンの重合では4 つの異なる異性体が生成され、ポリマー中の各異性体の相対量は、重合反応のメカニズムに依存している。
n-ブチルリチウムによって開始されるアニオン連鎖重合によるポリイソプレンゴムは、 90 ~ 92% が シス-1,4-ポリイソプレン、2 ~ 3% が トランス-1,4-ポリイソプレン、6 ~ 7% が 3,4-ポリイソプレンとなる。
チーグラー・ナッタ触媒 TiCl4/Al(i-C4H9)3 を使用した配位連鎖重合では、天然ゴムに似たより純粋な シス-1,4-ポリイソプレンが形成される。
チーグラー・ナッタ触媒 VCl3/Al(i-C4H9)3 を使用すると、トランス優性のポリイソプレンが形成されれる。
リン配位子とAl(OPhCH3)(i-Bu)2 助触媒によって担持された MoO2Cl2 触媒を使用した場合では、 1,2 および 3,4 が支配的なポリイソプレンが生成される。

n CH2=C(CH3)−CH=CH2 → [−CH2−C(CH3)=CH−CH2−]n
- 高シスIRでは、シス-1,4構造を高める触媒系を用いる。
- リチウム系重合では、分子量制御や液状ポリイソプレンの製造に適する。
- 重合後、未反応モノマー除去、凝固、洗浄、乾燥、ベール化を行う。
詳細な利用用途
代表用途
- タイヤ部材
- ベルト
- ホース
- 防振ゴム
- ゴムロール
- 医療用ゴム部品
- 接着剤、粘着剤
工業用途
- 自動車用ゴム部品
- 工業用パッキン、シール材
- コンベヤベルト、伝動ベルト
- スポーツ用品、履物部材
- ゴム引布、シート、チューブ
- 天然ゴム代替又は天然ゴムとのブレンド用途
関連材料との比較
| 比較材料 | 違い | 選定ポイント |
|---|---|---|
| NR | 天然ゴムは高強度であるが、天然由来のばらつきや不純物を含む。 | 高強度重視ならNR、品質安定性や淡色性重視ならIRを選ぶ。 |
| SBR | SBRは耐摩耗性とコストに優れるが、反発弾性はIRが高い。 | タイヤ、履物、一般ゴムでコスト重視ならSBRを検討する。 |
| BR | BRは低温特性と耐摩耗性に優れるが、加工性やグリーン強度はIRが有利である。 | 耐摩耗性と低発熱性重視ではBRとのブレンドを検討する。 |
| EPDM | EPDMは耐候性、耐オゾン性、耐水性に優れるが、耐油性は低い。 | 屋外用途、耐候用途ではEPDMが有利である。 |
| NBR | NBRは耐油性に優れるが、反発弾性や低温弾性はIRと異なる。 | 油、燃料、グリースに接触する用途ではNBRを選ぶ。 |
| CR | CRは耐候性、難燃性、耐油性のバランスが良い。 | 屋外・難燃・中程度耐油用途ではCRを検討する。 |
| IIR | IIRは気体透過性が低く、耐候性が良いが、反発弾性は低い。 | チューブ、気密用途、防振用途ではIIRを検討する。 |
代表的なメーカー
| メーカー | 代表的な製品・商品名 | 備考 |
|---|---|---|
| JSR | IR系合成ゴム | タイヤ、工業用ゴム、各種配合向けに使用される。 |
| 日本ゼオン | Nipol IR | 合成ゴム、特殊ゴム材料の代表メーカーである。 |
| Kuraray | 液状ポリイソプレン、クラプレン系材料 | 液状ゴム、接着剤、改質材用途で使用される。 |
| Goodyear Chemical | Natsyn | 高シスポリイソプレンの代表的製品である。 |
| Kraton | ポリイソプレン系材料 | 接着剤、粘着剤、エラストマー用途に使用される。 |
| ENEOS Materials | IR系・ジエン系ゴム関連材料 | 工業用ゴム、タイヤ、改質用途で確認する。 |