ジアリルフタレート樹脂

材料名ジアリルフタレート樹脂
略記号DAP
英語名Diallyl Phthalate Resin
分類熱硬化性樹脂、アリル系樹脂
基本構造ジアリルフタレートを主成分とする架橋構造
主な種類DAP成形材料、DAP積層材料、電気絶縁用DAP、ガラス繊維強化DAP
主な用途電気部品、コネクタ、スイッチ、リレー、インサート成形品、耐熱絶縁部品

ジアリルフタレート樹脂(DAP)は、熱硬化性樹脂、アリル系樹脂に分類される材料である。 ジアリルフタレートを主成分とする架橋構造を基本構造または代表構造とし、電気部品、コネクタ、スイッチ、リレー、インサート成形品、耐熱絶縁部品などに使用される。

特徴

  • ジアリルフタレートを主成分とする熱硬化性樹脂である
  • 耐熱性、電気特性、寸法安定性に優れる
  • 高温下でも電気特性を維持しやすい
  • 腐食性ガスを発生しにくく、インサート成形に適する
  • 耐薬品性強化タイプもある
長所
  • 電気特性が良い
  • 耐熱性が良い
  • 寸法安定性が高い
  • 耐衝撃性が比較的良い
  • インサート成形に適する
短所
  • 熱硬化性のため再溶融できない
  • 透明性は低い
  • 価格は汎用熱硬化性樹脂より高い場合がある
  • 成形サイクルが熱可塑性樹脂より長い
成形加工

ジアリルフタレート樹脂の加工性は、樹脂の種類、分子量、充填材、硬化系、添加剤、成形温度により大きく変化する。 成形時には乾燥、熱分解、残留応力、結晶化、硬化条件、離型性を確認する必要がある。

加工方法適性主な製品例
射出成形成形材料グレードで対応する。複雑形状部品、機構部品、電気電子部品に使用する
押出成形シート、フィルム、チューブ、棒材、板材に使用する
圧縮成形△〜○熱硬化性樹脂や高耐熱材、切削素材で使用する
注型・含浸△〜○熱硬化性樹脂、塗料、ワニス、複合材料で使用する
切削加工板材、丸棒、精密部品、治具に使用する
接着・塗装材料の表面性により表面処理や専用接着剤が必要である

構造式

ジアリルフタレート

ジアリルフタレート樹脂の構造は、材料分類、重合方法、共重合成分、充填材の有無により変化する。 構造中の極性基、芳香環、フッ素原子、シロキサン結合、イミド結合、エステル結合などが、耐熱性、耐薬品性、機械特性、吸水性、電気特性に影響する。

種類

DAP成形材料
名称DAP成形材料
構成ジアリルフタレート樹脂の用途別または改質グレードである
特徴ジアリルフタレート樹脂の基本特性を用途に合わせて調整したグレードである
主な用途電気部品、コネクタ、スイッチ、リレー、インサート成形品、耐熱絶縁部品
特徴
  • 用途に応じて物性を調整したグレードである
  • 標準品と比較して耐熱性、耐薬品性、機械特性、成形性のいずれかを改善する
  • 実使用条件ではメーカーグレードごとのデータ確認が必要である
DAP積層材料
名称DAP積層材料
構成ジアリルフタレート樹脂の用途別または改質グレードである
特徴ジアリルフタレート樹脂の基本特性を用途に合わせて調整したグレードである
主な用途電気部品、コネクタ、スイッチ、リレー、インサート成形品、耐熱絶縁部品
特徴
  • 用途に応じて物性を調整したグレードである
  • 標準品と比較して耐熱性、耐薬品性、機械特性、成形性のいずれかを改善する
  • 実使用条件ではメーカーグレードごとのデータ確認が必要である
電気絶縁用DAP
名称電気絶縁用DAP
構成ジアリルフタレート樹脂の用途別または改質グレードである
特徴ジアリルフタレート樹脂の基本特性を用途に合わせて調整したグレードである
主な用途電気部品、コネクタ、スイッチ、リレー、インサート成形品、耐熱絶縁部品
特徴
  • 用途に応じて物性を調整したグレードである
  • 標準品と比較して耐熱性、耐薬品性、機械特性、成形性のいずれかを改善する
  • 実使用条件ではメーカーグレードごとのデータ確認が必要である
ガラス繊維強化DAP
名称ガラス繊維強化DAP
構成ジアリルフタレート樹脂の用途別または改質グレードである
特徴ジアリルフタレート樹脂の基本特性を用途に合わせて調整したグレードである
主な用途電気部品、コネクタ、スイッチ、リレー、インサート成形品、耐熱絶縁部品
特徴
  • 用途に応じて物性を調整したグレードである
  • 標準品と比較して耐熱性、耐薬品性、機械特性、成形性のいずれかを改善する
  • 実使用条件ではメーカーグレードごとのデータ確認が必要である

代表的な物性値又は機械的性質

性質単位標準無機充填ガラス繊維強化
比重1.70 ~ 1.851.80 ~ 2.001.70 ~ 1.95
吸水率%0.20 ~ 0.300.20 ~ 0.350.15 ~ 0.30
引張強さMPa60 ~ 8065 ~ 9070 ~ 110
曲げ強さMPa100 ~ 130110 ~ 150120 ~ 170
曲げ弾性率GPa10 ~ 1312 ~ 1613 ~ 18
圧縮強さMPa140 ~ 170150 ~ 190160 ~ 210
アイゾット衝撃強さ
(ノッチ付き)
kJ/m²4 ~ 73 ~ 64 ~ 8
荷重たわみ温度
(1.82MPa)
180 ~ 240220 ~ 260230 ~ 270
ガラス転移温度150 ~ 180160 ~ 200170 ~ 235
連続使用温度140 ~ 180150 ~ 200160 ~ 220
線膨張係数×10⁻⁵/K2.5 ~ 3.51.5 ~ 3.01.0 ~ 2.5
体積固有抵抗Ω・cm10¹⁵ ~ 10¹⁷10¹⁵ ~ 10¹⁷10¹⁴ ~ 10¹⁷
耐アーク性120 ~ 180130 ~ 180130 ~ 190
耐トラッキング性 CTIV400 ~ 600500 ~ 600以上600以上
誘電率3.8 ~ 4.54.0 ~ 5.04.0 ~ 5.2
難燃性UL94V-0 ~ V-1V-0V-0

※ 最新の高耐熱DAP成形材料では、Tg 235℃、CTI 800V級を示すグレードもある。

性質単位標準合成繊維
充填
無機質
充填
ガラス
短繊維
充填
ガラス
長繊維
充填
寸法変化温度 55℃
相対湿度95%
4週間
+0.0075+0.0014+0.0016+0.0011+0.0011
寸法変化温度 150℃
4週間
-0.0015-0.0022-0.0022-0.0006-0.0006
体積固有抵抗( 25℃)Ω・cm10151016101510161015
体積固有抵抗(100℃)Ω・cm10121015101410151013
体積固有抵抗(200℃)Ω・cm10101013101310121011

耐薬品性

ジアリルフタレート樹脂の耐薬品性は、樹脂構造、温度、濃度、接触時間、応力状態、グレード、充填材により変化する。 下表は一般的な目安であり、薬液タンク、配管、洗浄治具、食品・医療用途では実使用条件で確認する必要がある。

薬品・溶剤耐性備考
材料種により吸水、加水分解、白化に注意が必要である
弱酸多くの場合で短期使用は可能である
強酸△〜×樹脂構造により劣化、分解、膨潤が起こる
弱アルカリ○〜△材料により安定性が異なる
強アルカリ△〜×エステル、イミド、アミド、カーボネート系では注意が必要である
アルコール○〜△応力下ではクラックや膨潤に注意する
アセトン△〜×非晶性樹脂や極性樹脂では膨潤・溶解しやすい
MEK△〜×溶剤種、温度、応力条件で影響が大きい
トルエン芳香族溶剤に弱い材料では膨潤・クラックが起こる
塩素系溶剤△〜×多くの樹脂で膨潤・溶解・クラックに注意が必要である
油・燃料○〜△ポリオレフィン系、ポリアミド系などでは比較的良い場合がある

更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照。

SP値(溶解度パラメータ)

ジアリルフタレート樹脂のSP値は、約20〜23 MPa1/2が目安である。 SP値が近い溶剤では膨潤や溶解が起こりやすいが、結晶性、架橋構造、水素結合、分子量、充填材、温度の影響も大きいため、SP値は一次判断として扱う必要がある。

ジアリルフタレート樹脂(DAP)のSP値(溶解度パラメータ)

項目SP値(δ)
MPa1/2
備考
標準成形材料20.0 ~ 21.5架橋型熱硬化性樹脂であり、耐熱性・耐電気特性に優れる。芳香族系溶剤や塩素系溶剤には注意が必要である。
無機充填グレード19.5 ~ 21.0シリカ・ガラス粉充填により寸法安定性と耐溶剤性が向上する。膨潤しにくい。
GF30% 強化グレード19.0 ~ 20.5ガラス繊維補強により耐クラック性と耐薬品性が向上する。極性溶剤への耐久性も比較的高い。
高耐熱電子材料グレード20.5 ~ 22.0高架橋密度化により耐溶剤性が向上するが、ケトン系溶剤への長期接触では表面劣化の可能性がある。
積層材料(ガラスクロス積層)19.0 ~ 20.0電気絶縁積層板用途で使用される。吸湿が少なく、多くの工業薬品に安定である。
溶解性の目安
Δδ挙動
0〜2溶解しやすい
2〜5膨潤・軟化
5以上溶解しにくい
SP値から見た耐溶剤性
溶剤名SP値(δ)
MPa1/2
耐溶剤性備考
47.9吸水は少なく、通常使用では安定である。
メタノール29.7短時間接触では問題が少ないが、長期浸漬では表面劣化の可能性がある。
エタノール26.0比較的安定である。
IPA23.5電子部品洗浄用途でも比較的使用しやすい。
アセトン20.3DAPのSP値に近く、膨潤やクラックの原因となる。
MEK19.3長時間接触では表面侵食や応力割れに注意が必要である。
酢酸エチル18.6膨潤しやすい傾向がある。
トルエン18.2芳香族溶剤であり、長期暴露ではクラックの可能性がある。
キシレン18.0高温条件下では劣化リスクが増加する。
クロロホルム19.0×強い膨潤・表面劣化を引き起こしやすい。
ジクロロメタン20.2×SP値が近く、侵食性が非常に強い。
n-ヘキサン14.9非極性溶剤には比較的安定である。
鉱物油16.0 ~ 17.5工業油環境でも比較的安定である。

※ 耐溶剤性評価は、DAP樹脂のSP値中央値(約20.5 MPa1/2)を基準として、溶剤とのSP値差および一般的な化学耐性傾向を基に分類した目安である。

◎:非常に良好 ○:概ね良好 △:注意が必要 ×:不適

特にアセトン、MEK、ジクロロメタン、クロロホルムなど、DAP樹脂のSP値に近いケトン系・塩素系溶剤は膨潤、応力割れ、表面侵食を発生させやすいため注意が必要である。高温環境や応力が加わった状態では劣化が加速する傾向がある。

DAP樹脂は熱硬化性架橋構造を持つため、一般的な熱可塑性樹脂より耐溶剤性は高いが、SP値が近い強溶剤では表面劣化や微細クラックが発生する場合がある。

実務上の注意
  • SP値は溶解性の目安であり、耐久性そのものではない
  • 結晶性樹脂や熱硬化性樹脂では、SP値が近くても溶解しにくい場合がある
  • 非晶性樹脂では、応力クラックが耐薬品性の主要問題になりやすい
  • 実使用では温度、濃度、接触時間、応力、成形残留応力を確認する必要がある

製法

ジアリルフタレート樹脂は、対応するモノマーの重合、重縮合、付加反応、共重合、架橋反応、コンパウンドなどにより製造される。 実用材料では、添加剤、充填材、安定剤、難燃剤、可塑剤、強化繊維などを配合して性能を調整する。

製法特徴主な製品形態
重合・重縮合基本ポリマーを合成するベース樹脂
共重合・変性耐熱性、柔軟性、耐薬品性、成形性を調整する改質グレード
コンパウンドガラス繊維、難燃剤、安定剤、潤滑剤などを配合する成形材料
成形・硬化熱可塑性樹脂は溶融成形、熱硬化性樹脂は加熱硬化する最終成形品

詳細な利用用途

電気・電子用途
  • コネクタ
  • スイッチ部品
  • 絶縁部品
  • 筐体
  • 高周波部品
自動車・輸送用途
  • 内外装部品
  • 機構部品
  • 耐熱部品
  • 摺動部品
  • 燃料・配管関連部品
工業用途
  • ギア
  • 治具
  • ライニング
  • シール材
  • 機械カバー
包装・生活用品用途
  • フィルム
  • 容器
  • シート
  • 日用品
  • 保護部材

関連材料との比較

比較材料違い選定ポイント
PVCジアリルフタレート樹脂とは分類と用途が異なる。PVCは難燃性と低コスト性に優れる低コスト・建材・配管ならPVC、高機能用途なら用途別に選定する
PPPPは軽量で耐薬品性が良いが、耐熱性や機械特性は限定される低コスト・耐薬品ならPP、高機能性なら対象材料を選ぶ
PETPETは透明性、剛性、包装適性に優れる包装・フィルムならPET、耐熱・機械特性は用途別に比較する
PCPCは透明性と耐衝撃性に優れる透明防護部品ならPC、耐薬品・耐熱用途では対象材料を選ぶ
PTFEPTFEは耐薬品性と低摩擦性が極めて高い最高耐薬品性ならPTFE、成形性や強度は用途別に比較する

代表的なメーカー

メーカー代表的な製品・商品名備考
代表メーカー大阪ソーダ、住友ベークライト、熱硬化性成形材料メーカー材料・グレードにより供給状況が異なる
国内外コンパウンダー各種改質グレードGF強化、難燃、摺動、耐候グレード
成形材料メーカー用途別グレードメーカー物性表で確認が必要である
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