| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 材料名 | ナイロン12 |
| 略記号 | PA12 |
| IUPAC | poly[imino(1-oxododecane-1,12-diyl)]、または poly(dodecano-12-lactam) と表記される場合がある |
| 英語名 | Nylon 12、Polyamide 12、PA12、Polylauryllactam |
| 日本語名 | ナイロン12、12ナイロン、ポリアミド12、ポリラウリルラクタム |
| 分類 | 脂肪族ポリアミド、長鎖ポリアミド、結晶性熱可塑性樹脂 |
| プラスチック分類 | エンジニアリング・プラスチック、熱可塑性樹脂、結晶性樹脂 |
| 化学式または代表構造 | (C12H23NO)n、代表構造単位:−NH−(CH2)11−CO− |
| CAS No. | 24937-16-4 |
| 構造・主成分 | ラウロラクタムまたは12-アミノドデカン酸由来の長鎖脂肪族ポリアミド |
| 主な用途 | 燃料チューブ、エアブレーキチューブ、空圧チューブ、ケーブル被覆、コネクタ、ギア、軸受、摺動部品、フィルム、粉末焼結3Dプリンター材料 |
概要
ナイロン12(PA12)は、主鎖中にアミド結合を持つポリアミドの一種である。一般的なナイロン6やナイロン66に比べてメチレン鎖が長く、アミド基の割合が低いため、吸水率が低く、寸法安定性、柔軟性、低温衝撃性、耐薬品性に優れる傾向がある。
PA12は、ポリアミドとしての靭性、耐摩耗性、耐油性を持ちながら、湿度変化による寸法変化や物性変化が比較的小さい材料である。このため、自動車用燃料配管、空圧配管、電線被覆、スポーツ用品、工業用チューブ、粉末床溶融結合方式の3Dプリンター材料などに広く使用される。
一方で、耐熱性や剛性はPA6、PA66などの短鎖ポリアミドより低い場合がある。実使用では、グレード、可塑剤の有無、吸湿状態、温度、燃料や薬品の種類、応力、接触時間を確認する必要がある。
特徴
- ポリアミドの中では吸水率が低い。
- 寸法安定性に優れる。
- 柔軟性、耐衝撃性、低温特性に優れる。
- 耐油性、耐燃料性、耐薬品性が良好である。
- チューブ、ホース、被覆、粉末造形用途に適する。
- 成形加工性が良く、射出成形、押出成形、ブロー成形、粉末焼結に使用される。
- 耐熱性や剛性はナイロン66、PBT、PPSなどより低い場合がある。
- 酸、フェノール類、塩素系溶剤、高温薬品では膨潤、劣化、応力割れに注意が必要である。
長所
- 低吸水であり、湿度変化による寸法変化が小さい。
- 柔軟性と靭性のバランスが良い。
- 低温衝撃性に優れ、寒冷環境のチューブ用途に使いやすい。
- 油、燃料、グリース、脂肪族炭化水素に対して比較的安定である。
- 耐摩耗性、摺動性が良好である。
- チューブ押出、電線被覆、粉末焼結などの加工適性が高い。
- ナイロン6、ナイロン66より吸湿による電気特性低下が小さい。
- 金属代替、ゴム代替、軟質配管用途に使える場合がある。
短所
- ナイロン66やPBTに比べると剛性、荷重たわみ温度が低い。
- 標準グレードの難燃性は一般に高くなく、UL94 HB相当となる場合が多い。
- 濃酸、強酸化剤、フェノール類、ギ酸、塩素系溶剤では劣化または膨潤しやすい。
- 高温環境では酸化劣化、熱劣化、寸法変化を評価する必要がある。
- 摺動用途では相手材、荷重、速度、潤滑条件により摩耗挙動が変わる。
- 長期燃料接触では燃料組成、アルコール混合、添加剤、温度による評価が必要である。
- 汎用樹脂より価格が高い。
外観
PA12の標準グレードは、ナチュラルでは乳白色から半透明のペレットまたは粉末である。成形品はグレード、結晶化度、肉厚、添加剤、顔料により、半透明から不透明になる。カーボンブラック、ガラス繊維、炭素繊維、難燃剤、摺動改質剤を配合したグレードでは黒色、灰色、白色、不透明品が多い。
耐熱性
PA12の融点は一般に約175〜180℃である。標準グレードの荷重たわみ温度は荷重条件により大きく変わり、未強化では高荷重下で高い耐熱剛性は期待しにくい。ガラス繊維強化グレードでは荷重たわみ温度と耐クリープ性が向上する。連続使用温度は代表値として約80〜100℃、耐熱安定グレードでは約100〜120℃程度を目安とするが、実使用では荷重、酸素、薬品、湿度、時間を含めて評価する必要がある。
耐薬品性
PA12は、ポリアミドの中では耐燃料性、耐油性、耐加水分解性、耐薬品性のバランスが良い材料である。脂肪族炭化水素、油、グリース、燃料、アルカリ、低級アルコールには比較的安定な場合が多い。一方で、強酸、強酸化剤、フェノール類、ギ酸、塩素系溶剤、芳香族溶剤、高温薬品では、膨潤、軟化、割れ、強度低下に注意する必要がある。
加工性
PA12は、射出成形、押出成形、チューブ押出、ブロー成形、電線被覆、フィルム成形、粉末焼結3Dプリンター材料として使用される。吸水率はPA6やPA66より低いが、成形前の水分管理は重要である。乾燥不足では、シルバー、気泡、分子量低下、外観不良、物性低下が起こる場合がある。
分類上の注意
ナイロン12はポリアミドの一種であり、ポリアミド12、PA12、12ナイロン、ポリラウリルラクタムは同系の材料名として扱われる。ただし、PA6、PA66、PA11、PA610、PA612とは吸水率、融点、剛性、柔軟性、原料、用途が異なる。また、PA12をハードセグメントとするポリエーテルブロックアミドはPA12系材料ではあるが、厳密にはPA12ホモポリマーではなく熱可塑性エラストマーである。
構造式
ナイロン12は、ラウロラクタムの開環重合、または12-アミノドデカン酸の重縮合により得られる長鎖脂肪族ポリアミドである。代表的な繰り返し単位は、下記のように表記できる。
| 項目 | 構造 |
|---|---|
| 代表的な構造単位 | −NH−(CH2)11−CO− |
| 化学式 | (C12H23NO)n |
| 構造式の文字表記 | [−NH−CH2−CH2−CH2−CH2−CH2−CH2−CH2−CH2−CH2−CH2−CH2−CO−]n |
| モノマーまたは構成単位 | ラウロラクタム、または12-アミノドデカン酸 |
| 構造上の特徴 | 長いメチレン鎖とアミド結合を持つため、PA6やPA66より疎水性が高く、柔軟性が大きい。 |
PA12は、主鎖中のアミド結合が水素結合を形成するため、靭性、耐摩耗性、耐薬品性を示す。一方で、メチレン鎖が長いため、短鎖ポリアミドに比べて吸水率が低く、柔軟性と低温衝撃性に優れる傾向がある。
実用グレードには、未強化PA12、可塑化PA12、耐熱安定PA12、耐候PA12、GF強化PA12、CF強化PA12、摺動改質PA12、難燃PA12、食品接触対応グレード、粉末造形用PA12などがある。共重合、可塑剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、ガラス繊維、炭素繊維、潤滑剤、難燃剤の有無により、柔軟性、剛性、寸法安定性、耐熱性、難燃性、耐薬品性が変化する。
種類
| 種類の名称 | 主成分または特徴 | 長所 | 短所 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 標準PA12 | 未強化のポリアミド12 | 低吸水、靭性、耐薬品性、成形性のバランスが良い。 | 高荷重下の耐熱剛性は高くない。 | 射出成形部品、機械部品、電気部品、一般工業部品 |
| 押出・チューブ用PA12 | 押出粘度、柔軟性、耐衝撃性を調整したグレード | チューブ成形性、耐燃料性、低温特性が良い。 | グレードにより可塑剤移行や寸法変化を確認する必要がある。 | 燃料チューブ、エアブレーキチューブ、空圧チューブ、油圧チューブ |
| 耐熱安定PA12 | 熱安定剤を配合したPA12 | 長期熱老化に対する物性保持を高めやすい。 | 耐熱上限はPA66、PPS、PEEKほど高くない。 | 自動車配管、エンジン周辺部品、電線被覆 |
| 耐候PA12 | 耐候安定剤、カーボンブラックなどを配合したグレード | 屋外使用での紫外線劣化を抑制しやすい。 | 色調、物性、規格適合はグレード別に確認が必要である。 | 屋外チューブ、ケーブル保護管、スポーツ用品 |
| GF強化PA12 | ガラス繊維を配合した強化PA12 | 剛性、寸法安定性、荷重たわみ温度、耐クリープ性が向上する。 | 柔軟性、衝撃性、外観、相手材摩耗に注意が必要である。 | 構造部品、ギア、ブラケット、電装部品、精密部品 |
| CF強化PA12 | 炭素繊維を配合したPA12 | 高剛性、軽量、低線膨張、導電性付与が可能である。 | 異方性、導電性、摩耗、コストに注意が必要である。 | 軽量構造部品、3Dプリンター部品、治具、機械部品 |
| 摺動PA12 | 潤滑剤、PTFE、シリコーン、MoS2などを配合する場合がある | 摩擦係数、摩耗量、スティックスリップを改善しやすい。 | 相手材、荷重、速度、温度、潤滑条件で性能が変わる。 | 軸受、ギア、スライダー、ローラー、摺動ガイド |
| 難燃PA12 | 難燃剤を配合したPA12 | UL94 V-2、V-0相当を狙えるグレードがある。 | 機械物性、耐薬品性、成形性、電気特性が変化する場合がある。 | コネクタ、電装部品、ケーブル部品、筐体 |
| 食品接触対応PA12 | 食品接触規格への適合を想定したグレード | 食品機械、包装、チューブ用途に使用しやすい。 | 日本、米国、EUなどの適合証明をグレード別に確認する必要がある。 | 食品用チューブ、包装フィルム、食品機械部品 |
| 粉末造形用PA12 | SLS、MJFなどの粉末床溶融結合に用いるPA12粉末 | 造形安定性、靭性、寸法安定性が良く、試作から小ロット生産に適する。 | 射出成形品とは密度、異方性、表面粗さ、疲労特性が異なる。 | 3Dプリンター部品、治具、ダクト、機能試作、小ロット部品 |
成形加工
PA12は、射出成形、押出成形、チューブ押出、フィルム成形、ブロー成形、粉末焼結に適した熱可塑性樹脂である。PA6やPA66より吸水率は低いが、成形前の水分管理は重要である。乾燥条件、シリンダー温度、金型温度、背圧、滞留時間、スクリュー形状により外観と物性が変化する。
| 加工方法 | 適性 | 主な製品例 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 射出成形 | ◎ | コネクタ、ギア、軸受、クリップ、ハウジング、精密部品 | 流動性は良好である。吸湿、結晶化、収縮異方性を確認する。 |
| 押出成形 | ◎ | チューブ、ホース、棒材、板材、シート、電線被覆 | PA12の代表的な加工法である。押出粘度に応じたグレードを選定する。 |
| チューブ押出 | ◎ | 燃料チューブ、エアブレーキチューブ、空圧チューブ、油圧チューブ | 寸法管理、耐圧、耐薬品、低温衝撃性の確認が重要である。 |
| フィルム成形 | ○ | 包装フィルム、工業フィルム、複合フィルム | 延伸、共押出、接着層、食品適合性を確認する。 |
| ブロー成形 | ○ | 小型容器、ダクト、ベローズ、特殊中空品 | 溶融強度とパリソン安定性に適したグレードを使用する。 |
| 圧縮成形 | △ | 厚板、試験片、特殊成形品 | 一般量産では射出・押出が中心である。 |
| 真空成形 | △ | 薄肉カバー、トレー、特殊成形品 | シートグレード、予熱、結晶化条件の確認が必要である。 |
| 切削加工 | ○ | 治具、試作部品、摺動部品、機械加工部品 | 吸湿と熱膨張による寸法変化、バリ、加工熱に注意する。 |
| 溶着 | ○〜△ | チューブ接合、ケース、機能部品 | 熱板、振動、超音波、レーザーなどはグレードと形状に依存する。 |
| 接着 | △ | 複合部品、補修部品 | 表面処理、プライマー、接着剤選定が必要である。 |
| 粉末焼結3Dプリント | ◎ | SLS部品、MJF部品、治具、機能試作、小ロット部品 | 粉末粒度、リサイクル率、造形方向、後処理で物性が変化する。 |
代表的な成形条件
| 項目 | 代表値・目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 乾燥温度 | 70〜90℃ | 防湿袋入りであっても開封後は水分管理が必要である。 |
| 乾燥時間 | 3〜8時間 | 吸湿状態、ペレット量、乾燥機能力により調整する。 |
| 目標水分率 | 0.1%以下を目安 | 厳密値はメーカー推奨値を確認する。 |
| シリンダー温度 | 190〜250℃ | 射出、押出、グレード、粘度により異なる。 |
| ノズル温度 | 200〜250℃ | 過度な滞留と熱劣化を避ける。 |
| 金型温度 | 30〜90℃ | 結晶化、収縮、表面外観、寸法安定性に影響する。 |
| 樹脂温度 | 210〜260℃ | 高温滞留では黄変、分解、物性低下に注意する。 |
| 成形収縮率 | 約0.8〜2.0% | 未強化グレードの目安である。肉厚、ゲート、結晶化で変わる。 |
| GF強化品の収縮率 | 約0.2〜0.8% | 流動方向と直角方向で異方性が出やすい。 |
| 金型設計上の注意 | 結晶性樹脂として収縮と反りを考慮する | 寸法精度が必要な部品では実成形評価が必要である。 |
代表的な物性値又は機械的性質
下表は代表値または目安である。PA12はグレード、成形方法、吸湿状態、温度、添加剤、繊維強化、造形条件により物性が変化する。量産設計では、メーカー物性表、実成形品、吸湿後物性、長期試験を確認する必要がある。
| 項目 | 単位 | 標準PA12 | 可塑化・チューブ用PA12 | GF30強化PA12 | CF強化PA12 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 密度 | g/cm3 | 1.01〜1.03 | 0.98〜1.03 | 1.20〜1.35 | 1.10〜1.25 | 充填材、可塑剤、顔料で変化する。 |
| 引張強さ | MPa | 45〜60 | 30〜50 | 90〜130 | 70〜120 | 乾燥時と吸湿時で変わる。 |
| 伸び | % | 50〜300 | 100〜300以上 | 2〜6 | 2〜10 | 柔軟グレードでは大きい。 |
| 曲げ弾性率 | GPa | 1.1〜1.7 | 0.6〜1.3 | 4.0〜7.0 | 5.0〜9.0 | GF、CFで大きく上昇する。 |
| アイゾット衝撃強さ ノッチ付き | J/m | 50〜150 | 100〜破壊せずの場合あり | 60〜120 | 40〜100 | 低温衝撃性はグレード依存が大きい。 |
| 荷重たわみ温度 1.8MPa | ℃ | 40〜60 | 35〜55 | 140〜170 | 120〜170 | 高荷重条件では未強化品は低めである。 |
| 荷重たわみ温度 0.45MPa | ℃ | 120〜150 | 90〜140 | 160〜175 | 150〜175 | 試験荷重により値が大きく変わる。 |
| 融点 | ℃ | 175〜180 | 170〜180 | 175〜180 | 175〜180 | DSC測定条件により差がある。 |
| ガラス転移温度 | ℃ | 約40〜50 | 約20〜45 | 約40〜50 | 約40〜50 | 可塑剤や吸湿で低下する場合がある。 |
| 連続使用温度 | ℃ | 80〜100 | 70〜100 | 100〜120 | 100〜120 | 熱安定グレード、荷重、薬品、寿命設計により異なる。 |
| 吸水率 23℃水中飽和 | % | 1.2〜1.8 | 1.0〜1.8 | 0.8〜1.5 | 0.8〜1.5 | PA6、PA66より低い。 |
| 吸湿率 23℃ 50%RH | % | 0.4〜0.8 | 0.4〜0.8 | 0.3〜0.7 | 0.3〜0.7 | 寸法変化と電気特性に影響する。 |
| 体積抵抗率 | Ω・cm | 1013〜1015 | 1012〜1015 | 1012〜1015 | 導電性グレードでは低下 | 吸湿、添加剤、カーボン配合で大きく変化する。 |
| 成形収縮率 | % | 0.8〜2.0 | 0.8〜2.0 | 0.2〜0.8 | 0.1〜0.8 | 結晶化、肉厚、繊維配向で変化する。 |
| 難燃性 | UL94 | HB相当が多い | HB相当が多い | HB〜V-0相当 | HB〜V-0相当 | 難燃グレードではV-2、V-0を狙う場合がある。 |
| 酸素指数 | % | 約20〜22 | 約20〜22 | 約20〜25 | 約20〜25 | 難燃剤配合で上昇する。 |
代表グレードの目安
| 代表グレード区分 | 特徴 | 確認すべき項目 |
|---|---|---|
| 汎用グレード | PA12本来の低吸水、靭性、耐薬品性を利用する。 | 吸湿後寸法、曲げ剛性、衝撃性、成形収縮率 |
| 耐熱グレード | 熱安定剤により長期熱老化を抑制する。 | 熱老化後強度、酸化劣化、連続使用温度 |
| 難燃グレード | 電気電子部品向けに難燃性を付与する。 | UL94、CTI、ブリード、成形ガス、RoHS、REACH |
| GF強化グレード | 剛性、耐熱剛性、寸法安定性を高める。 | 繊維配向、反り、相手材摩耗、ウェルド強度 |
| 摺動グレード | 摩擦係数と摩耗を低減する。 | 相手材、荷重、速度、温度、潤滑、摩耗粉 |
| 食品接触グレード | 食品機械、食品包装、飲料チューブなどに用いる。 | 食品衛生法、FDA、EU 10/2011、溶出、洗浄薬品 |
| 医療用途グレード | カテーテル、チューブ、器具部品などに検討される。 | ISO 10993、USP、滅菌、抽出物、薬液、責任範囲 |
耐薬品性
PA12は、ポリアミド系材料の中では耐薬品性が良好で、油、燃料、脂肪族炭化水素、アルカリ、低級アルコールに対して比較的安定である。一方で、強酸、酸化性酸、フェノール類、ギ酸、塩素系溶剤、芳香族溶剤、ケトン、エステルでは、温度、濃度、応力、接触時間により膨潤、軟化、白化、割れ、強度低下が起こる場合がある。
| 薬品・溶剤 | 代表例 | 耐性 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 水 | 常温水、純水 | ◎ | PA6、PA66より吸水は少ないが、寸法変化は確認する。 |
| 温水 | 60〜90℃温水 | ○〜△ | 長期では加水分解、可塑剤、添加剤の影響を確認する。 |
| 酸類 | 希塩酸、希硫酸 | ○〜△ | 希酸では使用可能な場合があるが、濃度と温度に注意する。 |
| 強酸・酸化性酸 | 濃硫酸、濃硝酸、クロム酸 | × | アミド結合の分解、酸化劣化、強度低下が起こりやすい。 |
| 有機酸 | 酢酸、クエン酸 | ○〜△ | 濃度、温度、接触時間により確認が必要である。 |
| ギ酸 | 蟻酸 | × | ポリアミドを強く侵す溶媒として扱う。 |
| アルカリ類 | 水酸化ナトリウム、NaOH、KOH | ○ | 常温の希アルカリでは比較的安定である。高温高濃度では確認する。 |
| アンモニア水 | 希アンモニア水 | ○ | 常温短期では比較的安定である。 |
| 低級アルコール類 | メタノール、エタノール、IPA | ◎〜○ | 短時間接触では比較的安定である。応力下では確認する。 |
| 高級アルコール類 | ブタノール、グリセリン、MMB | ○〜△ | SP値が近い溶剤では膨潤の可能性を確認する。 |
| 芳香族炭化水素類 | トルエン、キシレン、ベンゼン | △ | 膨潤、軟化、寸法変化を確認する。高温では注意が必要である。 |
| 脂肪族炭化水素類 | ヘキサン、ヘプタン、灯油 | ◎〜○ | 一般に比較的良好である。長期燃料接触では確認する。 |
| 燃料 | ガソリン、軽油、アルコール混合燃料 | ◎〜○ | PA12の代表用途である。燃料組成、温度、圧力、透過性を評価する。 |
| 油 | 潤滑油、作動油、グリース | ◎ | 耐油性は良好である。添加剤、温度、シール相手材を確認する。 |
| ケトン | アセトン、MEK、MIBK | △ | 長時間接触、応力下、高温では膨潤やクラックに注意する。 |
| エステル | 酢酸エチル、酢酸ブチル | △ | 膨潤、軟化、寸法変化を確認する。 |
| エーテル類 | THF、ジオキサン | △〜× | 強い膨潤または物性低下の可能性がある。 |
| 塩素系溶剤 | 塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエチレン | △〜× | 膨潤、応力割れ、抽出に注意する。 |
| フェノール類 | フェノール、クレゾール | × | ポリアミドの強溶媒として作用する場合がある。 |
| 極性非プロトン性溶剤 | DMF、DMSO、NMP | △〜× | 温度上昇で膨潤、軟化、溶解性が増す場合がある。 |
更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照。実使用では、薬品名だけでなく、濃度、温度、接触時間、応力、成形残留応力、洗浄条件、乾湿サイクルを含めて確認する必要がある。
SP値(溶解度パラメータ)
| 材料 | SP値(δ) | 単位 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ナイロン12(PA12) | 約22〜23 | MPa1/2 | 長鎖脂肪族ポリアミドであり、PA6やPA66より疎水性が高い。 |
| GF強化PA12 | 約22〜23 | MPa1/2 | 樹脂相のSP値はPA12に近いが、繊維界面と添加剤の影響を受ける。 |
| 可塑化PA12 | 約21〜23 | MPa1/2 | 可塑剤により溶剤感受性、柔軟性、抽出性が変わる。 |
SP値は溶解、膨潤、応力割れを予測するための目安である。PA12のような結晶性ポリアミドでは、SP値が近い溶剤であっても、結晶化度、水素結合、温度、吸湿、成形残留応力、薬品濃度により挙動が大きく変化する。したがって、SP値だけで耐薬品性を判断してはならない。
溶解性の目安
| SP値差 Δδ | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|
| 0〜2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2〜5 | 条件により膨潤する | △ |
| 5〜8 | 短時間接触では比較的安定 | ○ |
| 8以上 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP値から見た耐溶剤性
下表では、PA12の代表SP値を22.5 MPa1/2として、代表溶剤とのSP値差を整理する。実際の耐薬品性は、SP値差だけでなく、結晶性、水素結合、温度、応力、接触時間、添加剤、吸湿状態により変化する。
| 溶剤・薬品 | SP値(δ) MPa1/2 | PA12とのSP値差 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 水 | 47.9 | 約25.4 | ◎ | SP値差は大きいが、吸水による寸法変化は確認する。 |
| メタノール | 29.7 | 約7.2 | ○ | 短時間では比較的安定である。 |
| エタノール | 26.0 | 約3.5 | ○〜△ | SP値上は近いが、実用上は比較的良好な場合が多い。 |
| IPA | 23.5 | 約1.0 | △ | 応力下、長時間、高温では確認が必要である。 |
| グリセリン | 約33.8 | 約11.3 | ◎〜○ | 常温では比較的安定な場合が多い。 |
| MMB | 約22〜23 | 約0〜1 | △〜× | SP値が近いため、膨潤、抽出、応力割れを確認する。 |
| トルエン | 18.2 | 約4.3 | △ | 芳香族炭化水素では膨潤や寸法変化に注意する。 |
| キシレン | 18.0 | 約4.5 | △ | 長時間接触や高温では確認が必要である。 |
| n-ヘキサン | 14.9 | 約7.6 | ○ | 脂肪族炭化水素には比較的良好である。 |
| ガソリン | 約14〜16 | 約6.5〜8.5 | ◎〜○ | PA12の代表用途であるが、燃料組成と温度で評価する。 |
| アセトン | 19.9 | 約2.6 | △ | 短時間でも応力下ではクラックを確認する。 |
| MEK | 19.0 | 約3.5 | △ | 膨潤、白化、寸法変化に注意する。 |
| 酢酸エチル | 18.6 | 約3.9 | △ | エステル類は条件確認が必要である。 |
| 塩化メチレン | 20.2 | 約2.3 | △〜× | 膨潤、応力割れ、抽出に注意する。 |
| THF | 18.5 | 約4.0 | △〜× | エーテル系強溶剤として確認が必要である。 |
| DMF | 24.8 | 約2.3 | △〜× | 高温では膨潤、軟化の可能性が高まる。 |
| ギ酸 | 約26.5 | 約4.0 | × | SP値だけでなく化学的にポリアミドを侵す。 |
評価基準:◎非常に良好、○概ね良好、△注意が必要、×不適。最終判断は、実使用条件での浸漬試験、応力負荷試験、寸法測定、質量変化、外観観察、機械物性保持率により行う。
製法
ナイロン12は、主にラウロラクタムの開環重合、または12-アミノドデカン酸の重縮合により製造される。工業的には、原料、重合方法、分子量調整、安定剤、可塑剤、顔料、充填材、強化材を組み合わせ、ペレット、粉末、コンパウンドとして供給される。
| 工程 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 原料 | ラウロラクタム、または12-アミノドデカン酸を使用する。 | 炭素数12のモノマーに由来するためナイロン12と呼ばれる。 |
| 開環重合 | ラウロラクタムを開環させ、アミド結合を形成して高分子化する。 | PA12の代表的な製法である。 |
| 重縮合 | 12-アミノドデカン酸のアミノ基とカルボキシル基が反応し、水を副生して高分子化する。 | 水分除去と分子量制御が重要である。 |
| 分子量調整 | 重合度、末端基、粘度を制御する。 | 射出、押出、チューブ、フィルム、粉末用途で粘度を変える。 |
| ペレット化 | 溶融樹脂をストランドまたは水中カットでペレット化する。 | 防湿包装で供給される場合が多い。 |
| コンパウンド | 熱安定剤、耐候剤、可塑剤、難燃剤、GF、CF、潤滑剤、顔料などを配合する。 | 耐熱、難燃、摺動、強化、食品接触、導電などのグレードを作る。 |
| 粉末化 | 粉砕、沈殿、分級などにより粒度を調整する。 | SLS、MJFなどの3Dプリンター粉末に用いられる。 |
基本反応式
| 製法 | 代表的な反応式 |
|---|---|
| ラウロラクタムの開環重合 | n C12H23NO → [−NH−(CH2)11−CO−]n |
| 12-アミノドデカン酸の重縮合 | n H2N−(CH2)11−COOH → [−NH−(CH2)11−CO−]n + n H2O |
実用材料では、ベース樹脂そのものよりも、分子量、可塑剤、熱安定剤、耐候剤、繊維強化、難燃剤、摺動改質剤の設計が用途適合性を左右する。特に自動車配管、食品接触、医療、電気電子用途では、物性だけでなく、規格適合、溶出、耐薬品性、長期寿命を確認する必要がある。
詳細な利用用途
| 分野 | 主な用途 | 選定理由 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 自動車 | 燃料チューブ、エアブレーキチューブ、冷却ライン、ケーブル保護管、コネクタ、クリップ | 低吸水、耐燃料性、低温衝撃性、柔軟性、耐候性が有効である。 | 燃料組成、圧力、透過性、熱老化、規格適合を確認する。 |
| 電気・電子 | コネクタ、絶縁部品、ケーブル被覆、センサー部品、電装ハウジング | 寸法安定性、電気絶縁性、耐薬品性、成形性が良い。 | UL94、CTI、吸湿後絶縁性、難燃剤の影響を確認する。 |
| 機械部品 | ギア、軸受、ローラー、スライダー、摺動ガイド、治具 | 耐摩耗性、靭性、低吸水、低騒音化に寄与する。 | 荷重、速度、温度、相手材、潤滑条件を評価する。 |
| 医療 | チューブ、カテーテル部材、医療機器部品、器具部品 | 柔軟性、耐薬品性、寸法安定性、加工性を活かせる。 | 医療グレード、滅菌方法、生体適合性、抽出物、薬液を確認する。 |
| 食品機械 | 食品用チューブ、搬送部品、ローラー、包装フィルム、配管部品 | 耐油性、低吸水、耐薬品性、柔軟性が有効である。 | 食品衛生法、FDA、EU規則、洗浄薬品、溶出を確認する。 |
| 建築・設備 | 空圧チューブ、保護管、配管部品、ケーブルガイド、屋外部品 | 耐候性グレードでは屋外使用に対応しやすい。 | 紫外線、温水、薬品、圧力、施工条件を確認する。 |
| スポーツ・生活用品 | 靴底部品、スポーツ用品、眼鏡部品、結束部品、ファスナー | 軽量、柔軟、低温衝撃性、耐摩耗性が有効である。 | 外観、耐候性、着色、汗・油・洗剤への耐性を確認する。 |
| 包装・フィルム | 食品包装、医薬包装、複合フィルム、工業フィルム | 靭性、耐ピンホール性、耐油性、柔軟性を活かせる。 | バリア性、接着性、シール性、食品適合性を確認する。 |
| 3Dプリンター | SLS部品、MJF部品、治具、ダクト、機能試作、小ロット製品 | 造形安定性、靭性、寸法安定性、後加工性が良い。 | 造形方向、表面粗さ、粉末再利用率、疲労特性を確認する。 |
用途別選定の目安
| 用途 | 推奨されるグレード傾向 | 主な確認項目 |
|---|---|---|
| ギア | 標準PA12、摺動PA12、GF強化PA12 | 摩耗、歯面温度、騒音、吸湿寸法、相手材 |
| 軸受 | 摺動PA12、潤滑剤配合PA12 | PV値、摩擦係数、摩耗粉、潤滑条件 |
| チューブ | 押出用PA12、可塑化PA12、耐熱・耐候PA12 | 耐圧、低温衝撃、燃料、曲げ疲労、規格 |
| 筐体 | 標準PA12、GF強化PA12、難燃PA12 | 剛性、反り、難燃性、外観、寸法精度 |
| フィルム | フィルム用PA12、共押出用PA12 | 透明性、耐ピンホール性、接着性、食品適合性 |
| コネクタ | GF強化PA12、難燃PA12、耐熱PA12 | UL94、CTI、寸法安定性、端子保持力 |
| 3Dプリント治具 | 粉末造形用PA12、CF強化PA12粉末 | 造形方向、寸法精度、ねじ強度、耐熱性 |
難燃性と法規制
| 項目 | 代表的な扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| UL94 | 標準PA12はHB相当が多く、難燃グレードではV-2、V-0相当を狙う場合がある。 | 厚み、色、充填材、ロット、認証ファイルを確認する。 |
| 酸素指数 | 標準PA12は約20〜22%程度が目安である。 | 難燃剤配合で上昇するが、物性や加工性に影響する。 |
| RoHS | 対応グレードが多いが、添加剤と顔料を含めて確認する。 | 最新の適合証明を入手する必要がある。 |
| REACH | 欧州向けではSVHC情報を確認する。 | グレード、添加剤、サプライチェーンで変わる。 |
| 食品衛生 | 食品接触対応グレードがある。 | 日本食品衛生法、FDA、EU 10/2011などを用途別に確認する。 |
| FDA | 食品接触用途で適合グレードが設定される場合がある。 | 対象条件、温度、食品種、溶出条件を確認する。 |
| 医療用途 | 医療対応グレードが選定される場合がある。 | ISO 10993、USP、滅菌、薬液、長期体内使用の可否を確認する。 |
| 自動車配管規格 | エアブレーキ、燃料、空圧用途で各種規格が指定される場合がある。 | SAE、DIN、ISO、OEM規格をグレード別に確認する。 |
実務上の注意点
- PA12は低吸水であるが、完全に吸水しない材料ではない。
- 吸湿により寸法、剛性、衝撃性、電気特性が変化する。
- 成形前乾燥が不十分な場合、外観不良、気泡、分子量低下が起こる場合がある。
- 燃料チューブでは燃料透過、アルコール混合燃料、添加剤、低温衝撃性を確認する。
- 高温薬品、塩素系溶剤、芳香族溶剤、フェノール類では応力割れに注意する。
- 可塑化グレードでは可塑剤の抽出、移行、低温柔軟性、食品適合性を確認する。
- GF、CF強化グレードでは反り、繊維配向、摩耗、導電性、金型摩耗を確認する。
- 3Dプリンター造形品は射出成形品とは異なる物性、密度、表面粗さ、異方性を持つ。
- アウトガス、低分子成分、抽出物が問題となる用途では、実成形品で評価する。
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | ナイロン12との違い |
|---|---|---|
| PA6 | 汎用性が高く、機械強度、耐摩耗性、成形性のバランスが良い。 | PA12の方が吸水率が低く柔軟である。PA6の方が剛性と耐熱性で有利な場合がある。 |
| PA66 | PA6より耐熱性、剛性、機械強度に優れる代表的なポリアミドである。 | PA12は低吸水、低温衝撃、チューブ用途に強い。PA66は高温剛性、強度に強い。 |
| PA11 | 長鎖ポリアミドであり、低吸水、柔軟性、耐薬品性に優れる。植物由来原料グレードがある。 | PA12と近い用途で競合する。PA11はバイオベース性、PA12は流通性やグレードにより選定される。 |
| PA612 | PA66より吸水が低く、寸法安定性と剛性のバランスが良い。 | PA12の方が柔軟で低吸水傾向が強い。PA612はPA12より剛性が高い場合がある。 |
| POM | 低摩擦、耐摩耗、疲労特性、寸法安定性に優れる結晶性エンプラである。 | ギアや摺動ではPOMが有利な場合がある。PA12は耐燃料性、柔軟チューブ、低温衝撃で有利である。 |
| PBT | 成形性、電気特性、耐薬品性、寸法安定性に優れる結晶性ポリエステルである。 | PBTは剛性と電装部品に強い。PA12は低吸水、柔軟性、燃料チューブ、低温衝撃に強い。 |
| PET | 剛性、透明性、フィルム性、ボトル用途、繊維用途に強いポリエステルである。 | PETは包装と高剛性用途に強い。PA12は柔軟性、耐ピンホール性、耐油性で使われる場合がある。 |
| PPS | 耐熱性、難燃性、耐薬品性、寸法安定性に優れるスーパーエンプラである。 | PPSは高温・難燃・高耐薬品用途に適する。PA12は柔軟性、低温衝撃、チューブ成形性に優れる。 |
| PEEK | 高耐熱、高強度、耐薬品性、耐摩耗性に優れる高性能スーパーエンプラである。 | PEEKは最高性能用途向けで高価である。PA12は中温域の柔軟配管、軽量部品、3D造形に使いやすい。 |
代表的なメーカー
PA12は、世界的に供給メーカーが限られる材料である。下表は代表例であり、実際の採用では、供給地域、グレード、規格、食品・医療・自動車認証、長期供給性を確認する必要がある。
| メーカー | 代表製品・ブランド | 概要 |
|---|---|---|
| UBE株式会社 | UBESTA、UBE Nylon 12 | PA12樹脂、押出、射出、チューブ、強化、耐熱、耐候グレードを展開する代表的メーカーである。 |
| Evonik Industries AG、ダイセル・エボニック株式会社 | VESTAMID、DAIAMID、VESTOSINT | PA12樹脂、粉末、チューブ、電線被覆、工業部品向けグレードを展開する代表的メーカーである。 |
| Arkema | Rilsamid、Orgasol | PA12樹脂、押出、射出、ブロー、粉末材料を展開する代表的メーカーである。 |
| EMS-CHEMIE、EMS-GRIVORY | Grilamid L | 長鎖ポリアミドとしてPA12グレードを展開し、射出、押出、チューブ、工業用途に使用される。 |
| BASF Forward AM | Ultrasint PA12 | 粉末床溶融結合方式の3Dプリンター向けPA12粉末材料の代表例である。 |
| EOS GmbH | PA 2200、PA12系粉末材料 | SLS方式の粉末造形用PA12材料を展開する代表例である。 |
| HP | HP 3D High Reusability PA 12 | Multi Jet Fusion向けPA12粉末材料の代表例である。 |
関連キーワード
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