| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 材料名 | 高耐熱ポリアミド |
| 略記号 | HTPA、PPA、PA46、PA9T、PA6T系、PA10T系など |
| IUPAC | 単一のIUPAC名はない。代表例として、半芳香族ポリアミドでは poly(alkanediyl terephthalamide)、PA46では poly[imino(1,6-dioxohexamethylene)iminotetramethylene] などと表記される。 |
| 英語名 | High Temperature Polyamide、High Heat Polyamide、Polyphthalamide、PPA |
| 日本語名 | 高耐熱ポリアミド、耐熱ポリアミド、ポリフタルアミド、半芳香族ポリアミド、耐熱ナイロン |
| 分類 | ポリアミド系エンジニアリングプラスチック、半芳香族ポリアミド、耐熱ポリアミド |
| プラスチック分類 | エンジニアリング・プラスチック〜スーパーエンジニアリング・プラスチック領域 |
| 化学式または代表構造 | PPA代表構造:−NH−R−NH−CO−C6H4−CO−、PA6T代表単位:(C14H18N2O2)n、PA9T代表単位:(C17H24N2O2)n、PA46代表単位:(C10H18N2O2)n |
| CAS No. | 高耐熱ポリアミド全体に単一CAS No.はない。PA46は 50327-22-5 とされる場合がある。PPA、PA9T、PA6T系は組成・共重合比により異なる。 |
| 構造・主成分 | アミド結合(−CONH−)を主鎖に持ち、芳香環、脂肪族鎖、共重合成分、ガラス繊維、難燃剤などを組み合わせた耐熱ポリアミド樹脂である。 |
| 主な用途 | SMTコネクタ、車載電装部品、センサー、ギア、摺動部品、燃料系部品、冷却水周辺部品、LEDリフレクタ、チューブ、筐体、金属代替部品 |
概要
高耐熱ポリアミドは、一般的なポリアミドより高い耐熱性、低吸水性、高温剛性、寸法安定性を得る目的で設計されたポリアミド系樹脂である。代表的には、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を用いたPPA、PA9T、PA10T、PA6T系、および脂肪族ながら融点が高いPA46などが含まれる。
通常のPA6、PA66と比較して、吸水による寸法変化や高温時の剛性低下を抑えやすく、鉛フリーはんだリフロー、車載エンジンルーム、電動化部品、薄肉コネクタなどに使用される。多くはガラス繊維強化、難燃、耐加水分解、摺動、導電、食品接触対応などのコンパウンドとして流通する。
一方で、高融点・高結晶性材料が多いため成形温度が高く、乾燥管理、金型温度、滞留時間、金型摩耗、ガス、吸湿による外観不良に注意が必要である。実使用では、グレード、温度、湿度、薬品濃度、荷重、応力、使用時間、後工程温度を確認して選定する必要がある。
特徴
- 一般的なPA6、PA66より高い耐熱性、高温剛性、寸法安定性を得やすい。
- PPA、PA9T、PA10T、PA6T系は低吸水化しやすく、電気電子部品に多く使用される。
- PA46は脂肪族ポリアミドであるが、融点が高く、耐摩耗性、流動性、高温機械特性に優れる。
- GF強化、難燃、摺動、耐加水分解、食品接触、低アウトガスなどのグレード展開がある。
- 高温、吸湿、酸・アルカリ、熱水、成形滞留、残留応力により性能が変化する場合がある。
長所
- 荷重たわみ温度が高く、GF強化グレードでは250〜300℃程度に達する場合がある。
- 高温下での引張強さ、曲げ弾性率、クリープ特性を保持しやすい。
- 低吸水グレードでは寸法安定性、電気特性、耐リフロー性に優れる。
- 油、燃料、グリコール、アルコール類に比較的良好なグレードが多い。
- 金属、PBT、PPSなどの代替材料として検討されることがある。
短所
- 通常のポリアミドと同様、吸湿により寸法、剛性、強度、電気特性が変化する。
- 強酸、強アルカリ、高温水、加水分解条件では劣化に注意する。
- 成形温度が高く、成形機や金型の摩耗、腐食、樹脂の熱劣化、ヤケに注意する。
- GF強化グレードでは異方性、ウェルド強度、そり、表面荒れ、金型摩耗が生じやすい。
- 高性能グレードほど価格が高く、PBT、PET、PA66と比べて材料費が上がりやすい。
外観
未着色では乳白色、淡黄色、半透明〜不透明のペレットが多い。成形品は白色、ナチュラル、黒色、茶色、灰色、橙色などがあり、GF強化品では繊維浮きや流動方向の外観差が出る場合がある。難燃グレードでは色調、ガス、金型汚れ、電気特性がグレードにより異なる。
耐熱性
高耐熱ポリアミドの融点は、PA46で約295℃、PA9Tで約300〜310℃、PA6T系・PA10T系で約300〜330℃程度が目安である。GF強化グレードでは荷重たわみ温度が高く、リフロー対応コネクタ、車載電装部品、高温摺動部品に使用される。連続使用温度は一般に約130〜180℃程度が目安であるが、熱老化安定化グレードでは条件によりさらに高温域で検討される。
耐薬品性
油、燃料、グリコール、アルコール、弱酸、弱アルカリには比較的良好な場合が多い。一方、強酸、強アルカリ、高温水、フェノール類、濃厚な酸化性薬品、一部の極性溶剤では、加水分解、膨潤、白化、クラック、強度低下が起こる可能性がある。実使用では薬品名だけでなく、濃度、温度、応力、浸漬時間を確認する。
加工性
射出成形が中心である。押出グレードではチューブ、フィルム、棒材、板材に使用される場合がある。成形前乾燥、樹脂温度、金型温度、滞留時間の管理が重要である。高温成形となるため、耐摩耗・耐腐食仕様のスクリュー、シリンダー、金型材を検討する場合がある。
分類上の注意
高耐熱ポリアミドは単一樹脂名ではなく、耐熱性を高めたポリアミド群の総称として使われる。PPAは半芳香族ポリアミドを指すことが多いが、PA46のように脂肪族で高耐熱なポリアミドも高耐熱ポリアミドに含めて扱われる場合がある。PAI、PI、PEIなどのイミド系スーパーエンプラとは別材料である。
代表グレード
| グレード | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 汎用PPA | 耐熱性、低吸水性、機械強度のバランスを重視した標準グレード | コネクタ、センサー、機構部品 |
| 耐熱安定化グレード | 熱老化、高温剛性、長期使用温度を重視 | エンジン周辺部品、冷却水周辺部品 |
| 難燃グレード | UL94 V-0相当を狙うグレードが多い。ハロゲンフリー品もある。 | SMTコネクタ、端子台、電装筐体 |
| GF強化グレード | 剛性、HDT、寸法安定性を高める。異方性に注意する。 | 構造部品、コネクタ、金属代替部品 |
| CF強化グレード | 高剛性、導電性、低線膨張を狙う。価格は高めである。 | 精密部品、摺動部品、軽量構造部品 |
| 摺動グレード | PTFE、シリコーン、潤滑剤、炭素系充填材などで摩擦摩耗を改善 | ギア、軸受、スライダー、チェーンガイド |
| 食品接触・飲料水対応グレード | 規格適合を前提に選定する。耐熱水、抽出物、着色剤に注意する。 | 食品機械部品、飲料水部品、厨房機器部品 |
難燃性
| 項目 | 目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 未強化・非難燃 | HB〜V-2相当 | 樹脂種、肉厚、添加剤により異なる。 |
| GF強化・難燃 | V-0相当が可能 | 電気電子用途では薄肉でのUL94確認が重要である。 |
| ハロゲンフリー難燃 | V-0相当が可能 | リン系、窒素系、無機系難燃剤などを用いる。金属接点腐食、吸湿、ガスに注意する。 |
| 酸素指数 | 約25〜35以上 | 代表値であり、難燃剤、GF量、肉厚により変動する。 |
構造式
高耐熱ポリアミドは、主鎖中にアミド結合(−CONH−)を持つポリアミドである。PPAでは芳香環を主鎖に導入することで、耐熱性、剛性、寸法安定性を高める。PA46では芳香環を持たないが、対称性の高い短鎖脂肪族構造により高結晶性と高融点を示す。
化学式の画像相当表示
代表的なPPA構造単位:
−NH−R−NH−CO−C6H4−CO−
R = (CH2)6、(CH2)9、(CH2)10 など
PA6T代表構造単位:
−NH−(CH2)6−NH−CO−C6H4−CO−
PA9T代表構造単位:
−NH−(CH2)9−NH−CO−C6H4−CO−
PA46代表構造単位:
−NH−(CH2)4−NH−CO−(CH2)4−CO−
代表的な構造単位
| 種類 | 代表構造単位 | 特徴 |
|---|---|---|
| PA6T系 | −NH−(CH2)6−NH−CO−C6H4−CO− | 高融点、高剛性、高耐熱性を得やすい。共重合で成形性を調整する。 |
| PA9T | −NH−(CH2)9−NH−CO−C6H4−CO− | 低吸水性、耐薬品性、寸法安定性に優れる。 |
| PA10T | −NH−(CH2)10−NH−CO−C6H4−CO− | 長鎖ジアミンにより低吸水性、耐加水分解性を調整しやすい。 |
| PA46 | −NH−(CH2)4−NH−CO−(CH2)4−CO− | 脂肪族ポリアミドであるが高融点で、結晶化速度と摺動性に優れる。 |
モノマーまたは構成単位
- テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸などのジカルボン酸成分
- ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、テトラメチレンジアミンなどのジアミン成分
- 共重合成分として、PA66、PA6、PA11、PA12、イソフタル酸成分などを用いる場合がある。
- 実用材料では、GF、ミネラル、難燃剤、熱安定剤、離型剤、着色剤、潤滑剤を配合することが多い。
共重合体や変性グレード
高耐熱ポリアミドは、融点、結晶化速度、吸水率、流動性、靭性、難燃性を調整するために共重合されることが多い。PA6T/66、PA6T/6I、PA6T/6、PA9T、PA10T、PA4T、PA46などの表記が使われる。共重合比により、融点、ガラス転移温度、HDT、成形温度、吸水率、リフロー耐性が変化する。
種類
| 種類の名称 | 主成分または特徴 | 長所 | 短所 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| PPA | 半芳香族ポリアミドの総称。テレフタル酸などの芳香族成分を含む。 | 耐熱性、低吸水性、高温剛性、耐薬品性のバランスが良い。 | グレード差が大きく、成形温度が高い。 | コネクタ、車載電装、センサー、金属代替部品 |
| PA6T系 | ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸を基本とする半芳香族PA | 高融点、高剛性、耐リフロー性に優れる。 | 単独では融点が高すぎるため、共重合で成形性を調整することが多い。 | SMTコネクタ、端子台、リレー部品 |
| PA6T/66 | PA6TにPA66成分を共重合した耐熱PA | 流動性、靭性、成形性を調整しやすい。 | 吸水率はPA9Tなどより高くなる場合がある。 | 車載コネクタ、電気電子部品 |
| PA6T/6I | テレフタル酸とイソフタル酸成分を含む半芳香族PA | 高剛性、低そり、寸法安定性を調整しやすい。 | 結晶性や耐薬品性は組成により変動する。 | 精密コネクタ、薄肉部品、電装部品 |
| PA9T | ノナメチレンジアミンとテレフタル酸を基本とする長鎖PPA | 低吸水性、高耐熱性、耐薬品性、寸法安定性が良い。 | 材料費は高めで、成形条件管理が重要である。 | SMTコネクタ、ギア、燃料系部品、LED部品 |
| PA10T系 | デカメチレンジアミンとテレフタル酸を基本とする長鎖PPA | 低吸水性、耐加水分解性、耐薬品性を高めやすい。 | グレードにより剛性、耐熱性、成形温度が異なる。 | チューブ、燃料系部品、冷却水周辺部品 |
| PA46 | テトラメチレンジアミンとアジピン酸を基本とする脂肪族高耐熱PA | 高結晶性、速い結晶化、高温摺動性、耐摩耗性に優れる。 | PPAより吸水の影響を受けやすい場合がある。 | ギア、軸受、チェーンガイド、コネクタ |
| GF強化高耐熱PA | ガラス繊維を15〜50%程度配合したグレード | HDT、剛性、寸法安定性を大きく改善できる。 | そり、異方性、金型摩耗、ウェルド強度に注意する。 | 構造部品、コネクタ、金属代替部品 |
| 難燃高耐熱PA | 難燃剤、GF、安定剤を配合したグレード | UL94 V-0相当、リフロー対応、電気部品用途に適する。 | ガス、金型汚れ、金属腐食、吸湿、色調変化に注意する。 | SMTコネクタ、端子台、リレー、電装筐体 |
成形加工
高耐熱ポリアミドは、射出成形が中心である。押出成形はチューブ、フィルム、棒材、板材向けの専用グレードで使用される。高融点で吸湿性を持つため、成形前乾燥、樹脂温度、金型温度、滞留時間、パージ方法を管理する必要がある。
| 加工方法 | 適性 | 主な製品例 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 射出成形 | ◎ | コネクタ、ギア、センサー、筐体、車載部品 | 乾燥、金型温度、滞留時間、ガス、金型摩耗を管理する。 |
| 押出成形 | ○ | チューブ、フィルム、棒材、板材 | 押出専用グレードを選定する。溶融粘度と吸湿に注意する。 |
| ブロー成形 | △ | 小型中空品、特殊容器 | 汎用的ではない。溶融張力に適したグレードが必要である。 |
| 圧縮成形 | △ | 板材、厚肉素材、試作材 | 熱可塑性樹脂としては限定的である。半製品加工の条件確認が必要である。 |
| 真空成形 | △ | シート成形品、カバー | 結晶性が高く、深絞りや温度窓に注意する。 |
| 切削加工 | ○ | 治具、ギア、軸受、試作部品 | 吸湿、内部応力、GF摩耗粉、バリ、寸法変化に注意する。 |
| 溶着 | △〜○ | ケース、流体部品 | レーザー溶着、振動溶着などはグレードと色に依存する。 |
| 接着 | △ | 複合部品、インサート部品 | 表面処理、吸湿、薬品耐性、熱履歴を確認する。 |
代表的な成形条件
| 項目 | 代表値・目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 乾燥温度 | 100〜140℃ | 除湿乾燥が望ましい。グレードにより80〜150℃程度の指定がある。 |
| 乾燥時間 | 4〜8時間 | 開封後の吸湿状態、ペレット量、乾燥機性能により変わる。 |
| シリンダー温度 | 300〜350℃ | PA46、PA9T、PA6T系、PA10T系で異なる。熱劣化と未溶融に注意する。 |
| ノズル温度 | 300〜340℃ | 糸引き、固化、ヤケを避けるためグレード指定に従う。 |
| 金型温度 | 80〜160℃ | 結晶化、寸法安定性、外観、HDTに影響する。PPAでは120℃以上を指定する場合がある。 |
| 射出圧力 | 80〜180MPa | 薄肉品、GF量、流動長により高圧が必要となる場合がある。 |
| 成形収縮率 | 0.2〜1.5% | GF強化では流動方向と直角方向で差が出る。未強化では大きくなる。 |
| 推奨水分率 | 0.05〜0.15%以下 | 目安である。メーカー指定値を優先する。 |
| 滞留時間 | 短く管理 | 高温滞留により分解、ガス、黒点、強度低下が発生する場合がある。 |
代表的な物性値又は機械的性質
下表は高耐熱ポリアミドの代表値・目安である。実際の値は樹脂種、共重合比、GF量、難燃剤、吸湿状態、成形条件、試験規格により大きく変わる。設計では必ずメーカーの個別グレードデータを確認する。
| 項目 | 単位 | PPA未強化 | PPA GF30% | PPA GF50% | PA46 GF30% | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 密度・比重 | g/cm3 | 1.12〜1.25 | 1.35〜1.55 | 1.55〜1.75 | 1.35〜1.50 | GF、難燃剤、ミネラルで増加する。 |
| 引張強さ | MPa | 60〜100 | 120〜200 | 160〜260 | 130〜220 | 乾燥時の代表値。吸湿時は低下する場合がある。 |
| 伸び | % | 5〜60 | 1.5〜4 | 1〜3 | 2〜5 | 強化グレードでは低くなる。 |
| 曲げ弾性率 | GPa | 2.5〜4.0 | 8〜14 | 14〜22 | 8〜13 | 繊維配向により異方性が出る。 |
| アイゾット衝撃強さ ノッチ付き | kJ/m2 | 4〜12 | 6〜12 | 5〜10 | 5〜12 | 靭性改良グレードでは高くなる。 |
| 荷重たわみ温度 1.8MPa | ℃ | 120〜180 | 250〜300 | 270〜310 | 260〜290 | GF強化で大きく上昇する。 |
| 融点 | ℃ | 290〜330 | 290〜330 | 290〜330 | 約295 | PA9T、PA6T系、PA10T系で異なる。 |
| ガラス転移温度 | ℃ | 70〜130 | 70〜130 | 70〜130 | 約75 | PPAでは芳香族成分により高くなる場合がある。 |
| 連続使用温度 | ℃ | 130〜160 | 150〜180 | 150〜190 | 150〜170 | 長期熱老化、荷重、酸素環境で変わる。 |
| 吸水率 24h | % | 0.1〜0.5 | 0.1〜0.4 | 0.05〜0.3 | 0.5〜1.2 | PA9T、PA10T系は低吸水になりやすい。 |
| 飽和吸水率 | % | 1〜4 | 0.8〜3 | 0.5〜2 | 3〜6 | 寸法、剛性、電気特性に影響する。 |
| 体積抵抗率 | Ω・cm | 1013〜1016 | 1012〜1016 | 1011〜1015 | 1012〜1015 | 吸湿、難燃剤、カーボン配合で変化する。 |
| 線膨張係数 | ×10-5/K | 6〜10 | 2〜5 | 1.5〜4 | 2〜5 | GF方向で小さく、直角方向で大きい。 |
| 難燃性 | UL94 | HB〜V-2 | HB〜V-0 | V-2〜V-0 | HB〜V-0 | 難燃グレード、肉厚、色により異なる。 |
| 成形収縮率 | % | 0.8〜1.8 | 0.2〜1.0 | 0.1〜0.8 | 0.2〜1.0 | 流動方向と直角方向で差がある。 |
耐薬品性
高耐熱ポリアミドは、油、燃料、グリコール、アルコール類に比較的良好なグレードが多い。一方、酸・アルカリ・高温水ではアミド結合の加水分解、応力割れ、強度低下に注意する。下表は常温、無負荷、短〜中期接触の目安である。
| 薬品・溶剤 | 代表例 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 酸類 | 塩酸、硫酸、酢酸 | △〜○ | 希酸では使用可能な場合があるが、強酸・高温・長時間では劣化しやすい。 |
| 酸化性酸 | 硝酸、濃硫酸、クロム酸 | × | 酸化劣化、分解、強度低下に注意する。 |
| アルカリ類 | NaOH、KOH、水酸化ナトリウム水溶液 | △〜○ | 低濃度・常温では比較的安定な場合がある。高温・高濃度では加水分解に注意する。 |
| 低級アルコール類 | メタノール、エタノール、IPA | ○ | 多くのグレードで比較的良好であるが、応力下では確認が必要である。 |
| 高級アルコール類 | グリセリン、ブタノール、MMB | ○ | 常温では比較的良好な場合が多い。高温では膨潤・抽出に注意する。 |
| 芳香族炭化水素類 | ベンゼン、トルエン、キシレン | ○〜△ | 短時間接触では比較的安定な場合がある。高温、応力下では膨潤やクラックを確認する。 |
| 脂肪族炭化水素類 | ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン | ◎〜○ | 一般に良好である。燃料混合物では添加剤の影響を確認する。 |
| ケトン | アセトン、MEK、MIBK | ○〜△ | 短時間では耐える場合があるが、応力割れ、膨潤、表面変化に注意する。 |
| エステル | 酢酸エチル、酢酸ブチル | ○〜△ | グレード、温度、応力により変化する。 |
| 塩素系溶剤 | ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン | △〜× | 膨潤、応力割れ、抽出に注意する。 |
| フェノール類 | フェノール、m-クレゾール | × | ポリアミドを溶解・膨潤させる可能性が高い。 |
| アミド系極性溶剤 | DMF、DMAc、NMP | △〜× | 高温では膨潤・溶解・応力割れに注意する。 |
| 水・温水 | 水、温水、蒸気 | ○〜△ | 常温水では比較的安定。温水、蒸気、高圧蒸気では加水分解と吸水に注意する。 |
| 油 | 鉱油、潤滑油、エンジンオイル、ATF | ◎〜○ | 多くのグレードで良好である。添加剤、酸化劣化油、高温条件を確認する。 |
| 燃料 | ガソリン、軽油、E10、バイオ燃料 | ○〜△ | 燃料組成、アルコール含有量、温度により変化する。 |
| 冷却水 | エチレングリコール水溶液、LLC | ○〜△ | 耐加水分解グレードを選定する。高温長期試験が必要である。 |
SP値(溶解度パラメータ)
高耐熱ポリアミドのSP値(δ)は、ポリアミド種、芳香族比率、吸湿状態、結晶化度、添加剤により変動する。代表的な目安は、PPAで約25〜28 MPa1/2、PA46で約27〜30 MPa1/2程度である。
SP値は溶解・膨潤傾向を考えるための参考指標であるが、結晶性、水素結合、薬品の酸塩基性、温度、応力、濃度、接触時間、加水分解、添加剤抽出を直接表すものではない。耐薬品性はSP値だけで判断せず、実液、実温度、実応力で確認する必要がある。
溶解性の目安
| SP値差 | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|
| 0〜2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2〜5 | 条件により膨潤する | △ |
| 5〜8 | 短時間接触では比較的安定 | ○ |
| 8以上 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP値から見た耐溶剤性
下表では、高耐熱ポリアミドのSP値を代表値26.5 MPa1/2として、代表溶剤とのSP値差を示す。実際の評価は、材料グレード、結晶化度、吸湿状態、薬品の酸塩基性、温度、応力、接触時間を含めて行う。
| 薬品名 | SP値 MPa1/2 | SP値差 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 水 | 47.9 | 21.4 | ○〜△ | SP値差は大きいが吸水・加水分解があるため注意する。 |
| メタノール | 29.6 | 3.1 | ○〜△ | SP値は近いが、常温短時間では耐える場合が多い。 |
| エタノール | 26.0 | 0.5 | ○〜△ | 応力下、高温、長時間接触では確認する。 |
| IPA | 23.5 | 3.0 | ○ | 洗浄用途では乾燥後の寸法変化を確認する。 |
| アセトン | 19.9 | 6.6 | ○〜△ | 応力割れに注意する。 |
| MEK | 19.0 | 7.5 | ○〜△ | 短時間接触は可能な場合がある。 |
| 酢酸エチル | 18.2 | 8.3 | ○〜△ | グレードと応力状態により変化する。 |
| トルエン | 18.2 | 8.3 | ○〜△ | 高温、長時間では膨潤を確認する。 |
| キシレン | 18.0 | 8.5 | ○〜△ | 燃料混合物では別途評価が必要である。 |
| ヘキサン | 14.9 | 11.6 | ◎〜○ | 一般に膨潤しにくい。 |
| ジクロロメタン | 20.2 | 6.3 | △〜× | SP値差だけでなく浸透性が高く、応力割れに注意する。 |
| NMP | 23.1 | 3.4 | △〜× | 高温では膨潤・溶解に注意する。 |
| DMF | 24.8 | 1.7 | △〜× | 極性が高く、長時間接触は避ける。 |
| m-クレゾール | 約24〜25 | 約1.5〜2.5 | × | ポリアミド溶解性が高い代表溶媒である。 |
評価基準:◎非常に良好、○概ね良好、△注意が必要、×不適
製法
高耐熱ポリアミドは、ジアミン成分とジカルボン酸成分を重縮合して得られる。PPAではテレフタル酸やイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を用い、PA46ではテトラメチレンジアミンとアジピン酸を用いる。工業的には塩形成、予備重合、溶融重合、固相重合、ペレット化、コンパウンドを組み合わせる。
原料
- ジカルボン酸成分:テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸など
- ジアミン成分:ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、テトラメチレンジアミンなど
- 共重合成分:PA66成分、PA6成分、長鎖ジアミン、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸など
- 添加剤:熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、離型剤、潤滑剤、着色剤、耐候剤、金属不活性剤など
- 強化材:ガラス繊維、炭素繊維、ミネラル、ガラスフレークなど
重合方法
代表的には、ジアミンとジカルボン酸からポリアミド塩を作り、加熱脱水による重縮合を行う。高融点材料では、溶融粘度、熱劣化、反応水の除去、分子量制御が重要である。必要に応じて固相重合により分子量を上げる場合がある。
代表的な反応式
PA6T系の基本反応式:
n H2N−(CH2)6−NH2 + n HOOC−C6H4−COOH
→ [−NH−(CH2)6−NH−CO−C6H4−CO−]n + 2n H2O
PA9Tの基本反応式:
n H2N−(CH2)9−NH2 + n HOOC−C6H4−COOH
→ [−NH−(CH2)9−NH−CO−C6H4−CO−]n + 2n H2O
PA46の基本反応式:
n H2N−(CH2)4−NH2 + n HOOC−(CH2)4−COOH
→ [−NH−(CH2)4−NH−CO−(CH2)4−CO−]n + 2n H2O
ペレット化やコンパウンド
重合後のポリマーは、ストランドカット、アンダーウォーターカットなどによりペレット化される。その後、二軸押出機などでガラス繊維、炭素繊維、難燃剤、安定剤、着色剤、潤滑剤を配合する。GF強化グレードでは繊維長、分散、折損、界面密着が機械物性とそりに影響する。
工程上の注意
- ポリアミドは吸湿性があるため、ペレット包装、保管、開封後の乾燥が重要である。
- 高融点材料では押出・成形時の熱履歴が大きく、分解ガス、黒点、粘度低下に注意する。
- 難燃グレードでは金属腐食、モールドデポジット、接点腐食、アウトガスを確認する。
- 食品、医療、電気電子用途では、添加剤、着色剤、規格適合の確認が必要である。
詳細な利用用途
| 分野 | 主な用途 | 求められる特性 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 自動車 | コネクタ、センサー、冷却水周辺部品、燃料系部品、ギア、チェーンガイド、アクチュエータ | 耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性、寸法安定性、高温剛性 | LLC、燃料、油、熱老化、振動、金属インサート応力を確認する。 |
| 電気・電子 | SMTコネクタ、端子台、リレー、スイッチ、LEDリフレクタ、センサー筐体 | 耐リフロー性、難燃性、CTI、低吸水、薄肉流動性 | 鉛フリーはんだ温度、アウトガス、接点腐食、反りを確認する。 |
| 機械部品 | ギア、軸受、摺動部品、ローラー、ポンプ部品、バルブ部品 | 耐摩耗性、低摩擦、耐クリープ、高温強度 | 潤滑条件、PV値、相手材、摩耗粉、吸湿寸法変化を確認する。 |
| 医療 | 医療機器部品、電気手術器具部品、滅菌対応部品 | 耐熱性、寸法安定性、薬品耐性、成形精度 | 医療グレード、滅菌方法、抽出物、生体適合性、規制適合を確認する。 |
| 食品機械 | 搬送部品、ギア、ノズル、バルブ、耐熱治具 | 耐熱水性、耐洗剤性、耐摩耗性、食品接触適合 | FDA、食品衛生、洗浄剤、蒸気、色材の適合を確認する。 |
| 建築・設備 | 配管継手、ポンプ周辺部品、温水部品、電装カバー | 耐熱水性、耐薬品性、寸法安定性、難燃性 | 温水・薬液・屋外曝露・長期荷重で評価する。 |
| 産業機器 | 半導体製造装置部品、治具、ロボット部品、搬送部品 | 耐熱性、低アウトガス、寸法精度、耐薬品性 | 薬液、洗浄剤、発塵、アウトガス、静電気対策を確認する。 |
| チューブ・ホース | 燃料チューブ、冷却水チューブ、空圧・油圧チューブ | 耐燃料性、耐熱性、柔軟性、バリア性 | 押出グレード、曲げ疲労、低温衝撃、継手シール性を確認する。 |
用途別選定
| 用途 | 推奨される候補 | 選定ポイント |
|---|---|---|
| ギア | PA46摺動、PA9T摺動、GF/潤滑グレード | 吸水寸法変化、摩耗、騒音、PV値、相手材を確認する。 |
| 軸受 | PA46摺動、PPA摺動、CF強化グレード | 潤滑条件、高温クリープ、摩耗粉を確認する。 |
| チューブ | PA9T、PA10T系、柔軟PPA | 押出性、燃料・冷却水耐性、曲げ疲労を確認する。 |
| 筐体 | 難燃PPA、GF強化PPA | 難燃性、寸法安定性、反り、金属インサート応力を確認する。 |
| フィルム | 押出用PA9T、PPAフィルムグレード | 結晶化、延伸性、吸湿、バリア性を確認する。 |
| コネクタ | 難燃GF強化PPA、PA6T系、PA9T | リフロー耐性、薄肉流動、CTI、金属接点腐食を確認する。 |
法規制・規格上の注意
| 規格・規制 | 確認内容 | 備考 |
|---|---|---|
| RoHS | 鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、特定臭素系難燃剤、フタル酸エステルなど | 電気電子部品では材料証明、含有化学物質情報を確認する。 |
| REACH | SVHC、制限物質、登録物質情報 | 欧州向けでは最新版の確認が必要である。 |
| UL94 | HB、V-2、V-0などの難燃性 | 肉厚、色、GF量、グレードごとに認証条件が異なる。 |
| UL RTI | 長期使用温度の電気的・機械的指標 | 電装品ではRTI、CTI、絶縁破壊強さを確認する。 |
| 食品衛生・FDA | 食品接触適合、抽出物、添加剤、着色剤 | 食品機械、飲料水部品では専用グレードを選定する。 |
| 医療用途 | ISO 10993、USP Class VI、滅菌適性など | 一般グレードを医療用途へ流用しない。用途ごとの確認が必要である。 |
| 自動車規格 | IMDS、VOC、フォギング、熱老化、耐薬品性 | メーカー指定試験を行う。 |
注意点
- 加水分解:高温水、蒸気、酸・アルカリ中では分子量低下に注意する。
- 応力割れ:金属インサート、圧入、残留応力、溶剤接触でクラックが発生する場合がある。
- 吸湿:吸水により寸法、剛性、強度、絶縁性が変化する。
- 熱劣化:成形時の高温滞留により黒点、ガス、強度低下が生じる場合がある。
- アウトガス:リフロー、LED、半導体、接点用途ではアウトガスと析出物を確認する。
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | 高耐熱ポリアミドとの違い |
|---|---|---|
| PA6 | 成形性、靭性、耐摩耗性に優れる汎用ポリアミド | 高耐熱ポリアミドの方が耐熱性、低吸水性、高温剛性に優れる場合が多い。 |
| PA66 | PA6より耐熱性、剛性が高い代表的エンプラ | 高耐熱ポリアミドはPA66よりHDT、リフロー耐性、寸法安定性を高めやすい。 |
| PBT | 成形性、電気特性、寸法安定性に優れるポリエステル | PBTは成形しやすく低吸水だが、高温強度やHDTでは高耐熱ポリアミドが有利な場合がある。 |
| PET | 剛性、耐薬品性、ガスバリア性に優れるポリエステル | 高耐熱ポリアミドは靭性、摺動性、高温機械特性で検討される。PETは結晶化管理が重要である。 |
| PPS | 耐熱性、耐薬品性、難燃性、低吸水に優れるスーパーエンプラ | PPSは耐薬品性と寸法安定性が非常に良い。高耐熱ポリアミドは靭性、流動性、強度で選ばれる場合がある。 |
| PEEK | 非常に高い耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性を持つ高性能樹脂 | PEEKは高性能だが高価で成形温度が高い。高耐熱ポリアミドはコストと性能のバランスで選ばれる。 |
| LCP | 薄肉流動性、低そり、耐リフロー性に優れる液晶ポリマー | LCPは精密コネクタで有利。高耐熱ポリアミドは靭性、ウェルド強度、機械強度で有利な場合がある。 |
| PEI | 非晶性、透明琥珀色、高耐熱、難燃、耐スチーム性 | PEIは寸法安定性と透明性が特徴。高耐熱ポリアミドは結晶性で耐薬品性、摺動性、コスト面で検討される。 |
代替材料比較の例
| 比較 | 選定の目安 |
|---|---|
| PA6 vs PA66 | PA66はPA6より耐熱性と剛性が高い。さらに耐熱性が必要な場合はPPA、PA46、PA9Tを検討する。 |
| PA66 vs PPA | PPAは高温剛性、低吸水、リフロー耐性が必要な用途で有利である。 |
| PPA vs PPS | PPSは耐薬品性と低吸水性に優れる。PPAは靭性、強度、流動性で有利な場合がある。 |
| PEEK vs PPS | PEEKは高温・高負荷用途で優れるが高価である。PPSは耐薬品性と寸法安定性のバランスが良い。 |
| PEEK vs PPA | PEEKほどの耐熱・耐薬品性が不要な場合、PPAがコスト低減候補になる。 |
| PTFE vs PFA | フッ素樹脂は耐薬品性と低摩擦性に優れるが、機械強度や寸法精度では高耐熱PAやPEEKが検討される。 |
代表的なメーカー
下表は代表例である。メーカー名、ブランド、製品構成は時期、地域、販売会社により変わる場合があるため、採用時は最新のメーカー資料を確認する。
| メーカー | 代表製品・ブランド | 概要 |
|---|---|---|
| 三井化学 | ARLEN、アーレン | 変性ポリアミド6T系の高耐熱ポリアミド。電気電子部品、車載部品向けに用いられる代表例である。 |
| クラレ | GENESTAR、ジェネスタ | PA9T系を中心とする耐熱ポリアミド。低吸水性、耐熱性、耐薬品性、寸法精度を特徴とする。 |
| Envalior | ForTii、Stanyl | ForTiiはPPA系、StanylはPA46系の高性能ポリアミドとして知られる。電気電子、自動車、摺動用途に使われる。 |
| Syensqo | Amodel PPA | ポリフタルアミド系の高耐熱ポリアミド。高温強度、低吸水、耐薬品性を特徴とする代表例である。 |
| BASF | Ultramid Advanced | PA9T、PA6T系などのPPAポートフォリオを持つ。自動車、電気電子、機械部品向けに展開される。 |
| Celanese | Zytel HTN | PPA系高性能ポリアミドの代表例。高温、薬品、湿度環境での機械特性保持を狙う用途に使われる。 |
| EMS-GRIVORY | Grivory HT | PPA系の高温用ポリアミド。金属代替、寸法安定、高温剛性を求める用途に使われる。 |
| Arkema | Rilsan HT、Rilsan Matrix | 柔軟PPA、バイオベース成分を含む高温ポリアミドなどを展開する。チューブ、流体部品、複合材用途で知られる。 |
| Evonik | VESTAMID HTplus | PA10T系PPAの代表例として扱われる。低吸水、耐加水分解、高温用途向けに検討される。 |
関連キーワード
高耐熱ポリアミド PPA ポリフタルアミド 半芳香族ポリアミド PA46 PA9T PA6T PA10T 耐熱ナイロン GF強化ポリアミド 難燃ポリアミド SMTコネクタ材料 車載電装材料 金属代替樹脂 リフロー対応樹脂 低吸水ポリアミド 高温摺動材料