概要
| 材料名 | ジアリルカーボネート樹脂 |
|---|---|
| 略記号 | PDAC、DAC樹脂 |
| 英語名 | Poly(diallyl carbonate), Diallyl carbonate resin |
| 分類 | アリルカーボネート系熱硬化性樹脂、架橋型透明樹脂、電気絶縁用樹脂 |
| 構造・主成分 | ジアリルカーボネート(DAC)をラジカル重合して得られる架橋ポリカーボネート様ネットワーク構造である。 |
| 主な用途 | 電気絶縁部品、低圧成形材料、注型部材、透明成形材、耐候性を要する部材、電気・電子封止部材である。 |
| 関連呼称 | ジアリルカーボネート(DAC)はモノマー名であり、本項のジアリルカーボネート樹脂はその重合・硬化後材料を指す。ジエチレングリコールビスアリルカーボネート(ADC)およびCR-39は別系統のアリルカーボネート樹脂である。 |
ジアリルカーボネート樹脂は、ジアリルカーボネート(モノマー)を重合・架橋して得られる熱硬化性樹脂である。アリル基由来の架橋構造を持つため、耐候性、耐水性、電気絶縁性、寸法安定性に優れる傾向がある。単純な熱可塑性樹脂のように再溶融して成形する材料ではなく、注型、含浸、低圧成形、加熱硬化を中心に用いる材料である。
実用上は、透明性を活かした注型用途よりも、電気絶縁部品や耐湿性を要する成形用途で評価されることが多い。材料特性はモノマー純度、開始剤、充填材、プレポリマー化の程度、硬化条件により大きく変化するため、採用時には実機条件での確認が重要である。
特徴
- 熱硬化性樹脂であり、硬化後は再溶融しない。
- 耐候性、耐汚染性、耐水性、電気絶縁性、寸法安定性に優れる傾向がある。
- 低圧成形、注型、含浸硬化との相性が良い。
- 一般的な透明熱硬化樹脂と比較して、吸湿による電気特性変化が比較的小さい。
- 物性は架橋密度、配合剤、充填材、硬化スケジュールにより大きく変化する。
- 強溶剤、強アルカリ、高温長時間暴露では劣化する場合がある。
長所
- 耐候性に優れる。
- 耐水性、耐湿性に優れる。
- 電気絶縁性が良好である。
- 寸法安定性が良い。
- 低圧成形や注型で複雑形状に対応しやすい。
- 透明系または半透明系配合にも展開しやすい。
短所
- 熱可塑性樹脂のような再溶融成形はできない。
- 硬化収縮、残留応力、気泡管理が必要である。
- ケトン系、芳香族系、塩素系など一部溶剤には注意が必要である。
- 耐衝撃性はポリカーボネートなどの高靭性透明樹脂より低い場合がある。
- 物性公開例が少なく、配合ごとの差が大きい。
成形加工
ジアリルカーボネート樹脂は熱硬化性材料であるため、射出成形・押出成形のような溶融流動主体の加工ではなく、プレポリマー化した成形材料の低圧成形、注型、含浸、圧縮成形、加熱硬化が中心である。硬化時には気泡、硬化発熱、残留応力、収縮を抑えるため、段階昇温や脱泡工程を組み合わせることが多い。
| 加工方法 | 適正 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 低圧成形 | ◎ | 電気絶縁部品、端子板、コイルボビン、スイッチ部品などに適する。 |
| 圧縮成形 | ○ | プレポリマー化材料や充填材配合品の硬化成形に用いる。 |
| 注型重合 | ○ | 透明板、試験片、含浸品、封止材の作製に用いる。 |
| 含浸・積層硬化 | ○ | ガラス基材、繊維基材、積層絶縁材への応用が可能である。 |
| 後硬化 | ◎ | 硬化度向上、耐熱性向上、残留モノマー低減に有効である。 |
| 射出成形 | × | 一般的なDAC樹脂単体の主加工法ではない。 |
| 押出成形 | × | 一般的なDAC樹脂単体の主加工法ではない。 |
加工条件
| 項目 | 代表条件 |
|---|---|
| 前処理 | モノマーまたはプレポリマーを濾過し、必要に応じて真空脱泡する。 |
| 開始剤 | 有機過酸化物を少量添加してラジカル重合を開始する設計が一般的である。 |
| 硬化温度 | おおむね60~140℃の範囲で段階昇温する設計が多い。 |
| 硬化時間 | 肉厚、配合、開始剤により異なるが、数時間~十数時間で管理することが多い。 |
| 後硬化 | 100~150℃程度で後硬化し、硬化度と寸法安定性を高める場合がある。 |
| 注意点 | 硬化収縮、内部応力、黄変、気泡、未反応残分の管理が重要である。 |
構造式

ジアリルカーボネート樹脂の基本は、DACモノマーのアリル基がラジカル反応して三次元架橋ネットワークを形成した構造である。モノマーのカーボネート結合を含みつつ、アリル基同士の反応により架橋点を形成するため、硬化後は不溶・不融の熱硬化性材料となる。
モノマー: CH2=CH-CH2-O-CO-O-CH2-CH=CH2 硬化後の概念構造: [-CH2-CH(-CH2-O-CO-O-CH2-)-]n を含む 三次元架橋アリルカーボネートネットワーク
官能基、架橋密度、未反応アリル基の残存量、添加剤、充填材の有無が、耐熱性、耐薬品性、機械的性質、電気特性、吸水性に影響する。
種類
種類の名称
| 名称 | 標準ジアリルカーボネート樹脂 |
|---|---|
| 構成 | DACを主体に重合・架橋した標準的な熱硬化樹脂である。 |
| 特徴 | 耐候性、耐水性、電気絶縁性、寸法安定性のバランスが良い。 |
| 主な用途 | 電気絶縁部品、一般成形材、注型品、低圧成形品である。 |
特徴
- DAC樹脂の基本グレードである。
- バランス型の耐候性、耐湿性、絶縁性を持つ。
- 電気・電子部品用途に適しやすい。
種類の名称
| 名称 | 充填材強化グレード |
|---|---|
| 構成 | ガラス粉、無機充填材、繊維状充填材などを配合した改質系である。 |
| 特徴 | 寸法安定性、剛性、難燃性、追跡耐性などを改善しやすい。 |
| 主な用途 | 端子台、スイッチ、コイルボビン、絶縁ハウジングなどである。 |
特徴
- 標準品より寸法安定性と剛性を高めた系である。
- 充填材により比重、成形収縮、電気特性が変化する。
- 耐アーク性や耐トラッキング性を重視する設計に用いられる。
種類の名称
| 名称 | 低圧成形用プレポリマーグレード |
|---|---|
| 構成 | DACを部分重合して粘度調整した成形用樹脂系である。 |
| 特徴 | 流動性と硬化性のバランスをとり、低圧成形や含浸に適合させた系である。 |
| 主な用途 | 封止材、含浸材、積層材、低圧成形部品である。 |
特徴
- 注型性、含浸性、脱泡性を重視したタイプである。
- 硬化収縮や内部応力の制御がしやすい。
- 硬化設備に合わせた昇温設計が必要である。
種類の名称
| 名称 | 透明・注型用途グレード |
|---|---|
| 構成 | 着色、不純物、気泡を抑えた透明性重視の配合系である。 |
| 特徴 | 透明性、外観性、表面平滑性を重視する。 |
| 主な用途 | 透明注型部材、絶縁窓材、試験片、外観評価部材である。 |
特徴
- 透明性を重視した用途に向く。
- 気泡、黄変、硬化むらの管理が重要である。
- 耐擦傷性は表面処理で補うことが多い。
代表的な物性値又は機械的性質
| 性質 | 単位 | 標準樹脂 | 充填材強化品 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 比重 | – | 1.15~1.22 | 1.25~1.45 | 充填材配合で上昇する。 |
| 引張強さ | MPa | 45~70 | 60~90 | 硬化度と充填材で変動する。 |
| 引張伸び | % | 1.5~4.0 | 1.0~2.5 | 高架橋のため伸びは大きくない。 |
| 曲げ強さ | MPa | 80~120 | 100~160 | 電気絶縁部品用途で十分な剛性を示す。 |
| 曲げ弾性率 | GPa | 2.3~3.5 | 4.0~8.0 | 無機充填で高くなる。 |
| アイゾット衝撃強さ (ノッチ付き) | kJ/m² | 1~3 | 1~2 | 一般に脆性寄りである。 |
| ロックウェル硬さ | Mスケール | M90~M105 | M100~M115 | 硬化度上昇でやや高くなる。 |
| 荷重たわみ温度 | ℃ | 90~130 | 110~150 | 配合と後硬化で改善しやすい。 |
| ガラス転移温度 | ℃ | 100~140 | 120~160 | 高架橋化で上昇する。 |
| 体積固有抵抗 | Ω・cm | 1013~1016 | 1012~1015 | 電気絶縁材料として良好である。 |
| 絶縁破壊強さ | kV/mm | 12~20 | 10~18 | 充填材によりやや変動する。 |
| 吸水率(24h) | % | 0.1~0.4 | 0.1~0.3 | 耐湿性は比較的良好である。 |
| 線膨張係数 | ×10-5/K | 5~8 | 2~5 | 充填材配合で低下する。 |
耐薬品性
ジアリルカーボネート樹脂の耐薬品性は、架橋密度、残留モノマー、配合剤、温度、濃度、接触時間、応力状態により変化する。一般には水、希酸、油類に対しては比較的安定であるが、ケトン系、芳香族系、塩素系の強溶剤や強アルカリには注意が必要である。
| 薬品・溶剤 | 耐性 | 備考 |
|---|---|---|
| 水 | ○ | 常温水では比較的安定である。 |
| 温水 | △~○ | 長時間では物性低下や微小クラックに注意する。 |
| 希酸 | ○ | 常温・短時間では比較的安定である。 |
| 強酸 | △ | 高濃度、高温、長時間では劣化の可能性がある。 |
| アルカリ | △~× | カーボネート結合の分解リスクがあるため注意が必要である。 |
| エタノール | ○ | 短時間接触では比較的安定である。 |
| IPA | ○ | 一般的な清拭では問題が少ないが、応力集中部では注意する。 |
| アセトン | × | 白化、膨潤、クラックの原因となりやすい。 |
| MEK | × | ケトン系溶剤として影響を受けやすい。 |
| 酢酸エチル | △ | 長時間接触で膨潤や表面劣化の恐れがある。 |
| トルエン | △~× | 芳香族溶剤として膨潤しやすい。 |
| キシレン | △~× | 外観劣化や応力クラックに注意する。 |
| 鉱物油 | ○ | 比較的安定である。 |
| 洗剤水溶液 | ○ | 一般的な中性洗剤では問題が少ない。 |
更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照
SP値(溶解度パラメータ)
ジアリルカーボネート樹脂のSP値は、架橋樹脂であるため液体モノマーのように厳密に一値では扱いにくいが、一般的なDAC由来架橋樹脂の目安としてはおおむね20.0~21.0 MPa1/2の範囲で整理できる。架橋体ではSP値が近くても直ちに溶解するとは限らず、実際には膨潤、白化、応力割れとして現れることが多い。
| 項目 | SP値(δ) MPa1/2 | 備考 |
|---|---|---|
| 標準 | 20.0~20.8 | 架橋型熱硬化樹脂としての代表域であり、アルコールには比較的安定、ケトン・芳香族溶剤には注意が必要である。 |
| 高架橋品 | 20.3~21.0 | 架橋密度向上により膨潤しにくいが、強溶剤では表面劣化を生じる場合がある。 |
| 低圧成形用 | 19.8~20.6 | プレポリマー化度合いや配合助剤の影響で見掛けのSP傾向がやや低下することがある。 |
| 充填材強化品 | 20.0~21.0 | 樹脂相のSP値は大きく変わらないが、充填材により膨潤挙動は変化する。 |
溶解性の目安
| Δδ | 挙動 |
|---|---|
| 0~2 | 膨潤、白化、軟化、応力割れが生じやすい。 |
| 2~5 | 接触時間や温度によっては影響を受ける。 |
| 5以上 | 溶解しにくく、一般には比較的安定である。 |
SP値から見た耐溶剤性
| 溶剤 | SP値(δ) MPa1/2 | 耐性 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|---|
| 水 | 47.9 | ○ | SP差は大きく、常温では比較的安定である。 |
| メタノール | 29.7 | ○ | 短時間接触では概ね良好であるが、長時間浸漬では確認が必要である。 |
| エタノール | 26.0 | ○ | 一般的な清拭や短時間接触では問題が少ない。 |
| IPA(イソプロパノール) | 23.5 | ○ | 比較的良好であるが、応力が残る部位では長時間接触を避ける。 |
| 酢酸エチル | 18.6 | △ | SP値が近く、膨潤や表面曇りの可能性がある。 |
| アセトン | 20.0 | × | SP値が極めて近く、白化、膨潤、クラックが起こりやすい。 |
| MEK(メチルエチルケトン) | 19.0 | × | ケトン系で影響が大きく、長時間接触は避ける。 |
| トルエン | 18.2 | △~× | 芳香族溶剤として膨潤しやすく、外観劣化に注意する。 |
| キシレン | 18.0 | △~× | トルエン同様に芳香族溶剤として注意が必要である。 |
| NMP | 23.1 | △ | 高極性溶剤であり、高温では浸透・劣化しやすい。 |
| DMF | 24.8 | △ | 高温・長時間条件では膨潤リスクがある。 |
| DMSO | 26.7 | △ | 強極性溶剤として高温条件では注意が必要である。 |
| 水酸化ナトリウム水溶液 | 47付近 | △~× | SP差は大きいが、カーボネート結合の加水分解リスクがあるため注意する。 |
| 濃硫酸 | 35以上 | × | 強酸環境では化学劣化の可能性が高い。 |
※上表の評価はSP値の中央値を基準とした一次的な目安である。架橋樹脂では、実際の挙動は溶解よりも膨潤、白化、表面劣化、応力割れとして現れることが多い。
◎:非常に良好 ○:概ね良好 △:注意が必要 ×:不適
特にアセトン、MEK、トルエン、キシレン、NMP、DMF、DMSO、強アルカリは注意が必要である。応力が残る成形品や透明部材では、短時間接触でも白化やクラックの原因となる場合がある。
製法
ホスゲン使用による製法
アルコールと非常に有毒なガスのホスゲンとの反応から製造することができる。ホスゲンの第2の塩素原子はカルボニル炭素原子の求電子性を高める。アルコールと酸塩化物との反応と同様に、副生成物であるHClを中和するために塩基が必要である。

ジアルキルカーボネートは、ホスゲンを使用した製法の他に①アリルハライドと炭酸ナトリウムを反応させる方法や②炭酸ジメチルとアリルアルコールとをエステル交換させる方法、③アルキレンカーボネートとアリルアルコールとを反応させる方法、④アリルアルコールと尿素を反応させる方法などもある。
基本反応式
n CH2=CH-CH2-O-CO-O-CH2-CH=CH2 → 架橋ポリ(ジアリルカーボネート)
重合反応の概念式
アリル基のラジカル反応により C=C 二重結合が開裂し、 三次元網目構造を形成する。
原料モノマーの代表的製法
2 CH2=CH-CH2-OH + COCl2 → CH2=CH-CH2-O-CO-O-CH2-CH=CH2 + 2 HCl
また、工業的にはホスゲン法のほか、炭酸ジメチルとのエステル交換法、アリルハライドと炭酸塩を用いる方法なども検討される。硬化条件は開始剤種、配合剤、肉厚、透明性要求、成形方式により調整する。
詳細な利用用途
- モーターのローター部電気接点、整流子、絶縁ブラシ保持部材
- 変圧器、変成器、コイルボビン、端子板
- ターミナル端子、ソケット部、コネクター絶縁部材
- 高圧配電盤用ハウジング、磁気遮断用ハウジング
- スイッチ、プラグキャップ、封止部材
- 電気・電子機器の低圧成形部品
- 透明注型板、絶縁窓材、試験片
- 家具、建材、内装部材の表面材または樹脂含浸用途
- 耐候性、耐汚染性、寸法安定性を要する熱硬化部材
関連材料との比較
| 比較材料 | 関係 | 相違点 |
|---|---|---|
| ジアリルカーボネート(DAC) | 同一系材料である。 | DACはモノマー名であり、ジアリルカーボネート樹脂はその重合・硬化後材料である。 |
| ジエチレングリコールビスアリルカーボネート(ADC) | 同じアリルカーボネート系である。 | ADCはエーテル鎖を持つ二官能性モノマーであり、硬化後は一般にCR-39系樹脂として扱われる。DAC樹脂とは主骨格が異なる。 |
| CR-39 | 関連光学樹脂である。 | CR-39はADC由来ポリマーの慣用名・商標系名称であり、DAC樹脂そのものではない。 |
| ジアリルフタレート樹脂 | 近縁のアリル系熱硬化樹脂である。 | DAP樹脂は耐熱性、電気絶縁性に優れ、成形材料としての実績がより大きい。DAC樹脂はカーボネート結合を持つ点が異なる。 |
| エポキシ樹脂 | 同じ熱硬化性樹脂である。 | エポキシ樹脂は接着性と高機械特性に優れる一方、DAC樹脂は耐候性、低圧成形適性、電気絶縁性の面で比較される。 |
| 不飽和ポリエステル樹脂 | 注型・硬化型樹脂として比較対象となる。 | UPはFRP用途に広く用いられるのに対し、DAC樹脂は電気絶縁や低圧成形用途の比重が高い。 |
代表的なメーカー
| メーカー | 代表的な製品・位置付け | 備考 |
|---|---|---|
| 試薬・モノマー供給各社 | DACモノマー | ジアリルカーボネート自体は試薬・中間体として流通する例がある。 |
| 電気絶縁用熱硬化成形材料メーカー | アリル系成形材料、低圧成形材料 | 実用途では単独DACホモポリマーより、改質系・成形材料として流通することが多い。 |
| 配合・受託成形メーカー | 電気絶縁部品、封止部材 | 用途別に充填材や開始剤を調整した材料供給が行われる。 |
| 関連メーカー:PPG Industries | アリルカーボネート系光学モノマー分野 | DAC樹脂そのものの代表メーカーというより、関連するアリルカーボネート系光学材料分野で著名である。 |
| 関連メーカー:Mitsui Chemicals | 光学レンズ・コーティング関連分野 | DAC樹脂そのものではなく、関連するアリルカーボネート系基材や表面処理材料分野で実績がある。 |