概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 材料名 | ABS樹脂 |
| 略記号 | ABS |
| IUPAC | poly[(2-propenenitrile)-co-(1,3-butadiene)-co-styrene]を基本とする共重合体又はグラフト共重合体 |
| 英語名 | Acrylonitrile Butadiene Styrene Resin、ABS Resin |
| 日本語名 | ABS樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体 |
| 分類 | 熱可塑性樹脂、非晶性樹脂、スチレン系樹脂、ゴム強化樹脂 |
| プラスチック分類 | 汎用プラスチックに分類されることが多い。用途によっては準エンジニアリングプラスチック的に扱われる。 |
| 化学式または代表構造 | アクリロニトリル単位 −CH2−CH(CN)−、ブタジエンゴム単位 −CH2−CH=CH−CH2−、スチレン単位 −CH2−CH(C6H5)− からなる多相構造 |
| CAS No. | 9003-56-9 |
| 構造・主成分 | ポリブタジエン系ゴム相に、スチレン・アクリロニトリル共重合体(SAN、AS樹脂)がグラフト又は分散した構造を持つ。 |
| 主な用途 | 家電筐体、OA機器、プリンター部品、自動車内装部品、めっき部品、玩具、雑貨、住宅設備部品、電気電子部品、3Dプリンター材料 |
ABS樹脂(ABS)は、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンを主成分とする代表的なスチレン系熱可塑性樹脂である。一般に、アクリロニトリルは耐薬品性と剛性、ブタジエンは耐衝撃性、スチレンは成形性と外観性に寄与するとされ、三成分の比率やゴム粒子径、グラフト構造により性質が調整される。
ABSは、剛性、耐衝撃性、成形加工性、外観性、寸法安定性のバランスが良く、家電、OA機器、自動車、日用品などで広く使用される。標準グレードのほか、耐熱、難燃、耐候、めっき、摺動、透明、GF強化、帯電防止、食品接触対応など多くのグレードがある。
一方で、屋外での長期使用ではブタジエン成分の酸化劣化により変色や脆化が生じやすく、ケトン、エステル、芳香族炭化水素、塩素系溶剤には膨潤、軟化、応力割れが起こる場合がある。実使用では、グレード、温度、薬品濃度、荷重、応力、接触時間、成形履歴を確認する必要がある。
特徴
長所
- 耐衝撃性、剛性、硬度、寸法安定性のバランスが良い。
- 射出成形性が良好で、複雑形状や薄肉部品に適用しやすい。
- 成形品の外観性、着色性、光沢性に優れる。
- 切削、接着、塗装、印刷、ホットスタンプ、めっきなどの二次加工に対応しやすい。
- 吸水率が比較的低く、寸法変化が小さい。
- グレード展開が広く、耐熱、難燃、耐衝撃、摺動、めっき、食品接触用途などに対応できる場合がある。
短所
- 耐候性は高くなく、屋外用途では変色、チョーキング、衝撃強度低下に注意が必要である。
- ケトン、エステル、芳香族炭化水素、塩素系溶剤に弱く、膨潤、軟化、応力割れが起こる場合がある。
- 標準グレードの耐熱性は高くなく、高温荷重下では変形やクリープに注意する必要がある。
- 標準グレードは可燃性であり、難燃性が必要な用途では難燃グレードを選定する必要がある。
- 成形時の熱履歴が大きいと変色、ガス、物性低下が生じる場合がある。
- 食品接触、医療、電気電子用途では、法規制、溶出、アウトガス、添加剤を確認する必要がある。
外観
標準的なABSは、乳白色から淡黄色の不透明な非晶性樹脂である。着色性が良く、黒色、白色、メタリック調、高光沢、低光沢、シボ外観などに調整しやすい。透明ABSは特定の屈折率調整により透明性を付与したグレードであり、一般ABSとは物性や耐薬品性が異なる。
耐熱性
標準ABSの荷重たわみ温度は、1.8MPa条件でおおよそ80〜100℃程度を目安とする。耐熱ABSでは、α-メチルスチレン系成分やN-フェニルマレイミド系成分などの導入により、100〜115℃程度又はそれ以上の耐熱性を示す場合がある。実使用では荷重、肉厚、リブ形状、成形残留応力、使用時間を含めて確認する必要がある。
耐薬品性
ABSは、水、低級アルコール、一部の油、弱酸、弱アルカリに対しては一般に比較的安定である。一方、アセトン、MEK、酢酸エチル、トルエン、キシレン、ジクロロメタンなどには侵されやすい。応力がかかった成形品では、薬品接触により環境応力割れが生じることがある。
加工性
ABSは射出成形性が良好で、家電筐体や精密成形品に広く使用される。押出成形によるシート、板、異形押出、真空成形、切削加工、接着、塗装、めっきにも対応する。成形前乾燥は必須ではないグレードもあるが、外観不良や銀条、気泡を避けるため、一般に70〜85℃で2〜4時間程度の乾燥を行うことが多い。
分類上の注意
ABSは汎用プラスチックに分類されることが多いが、用途によっては高機能汎用樹脂又は準エンプラとして扱われる。ポリカーボネートとのアロイであるPC/ABS、耐候性を高めたASA樹脂、AES樹脂、ACS樹脂などは、ABS系樹脂として近い位置づけで扱われるが、主成分や耐候性、難燃性、耐衝撃性は異なる。
構造式

ABS樹脂は単一の規則的な繰り返し構造を持つ単純なホモポリマーではなく、アクリロニトリル・スチレン共重合体相とブタジエンゴム相から構成され、単一の完全な繰り返し単位で表しにくい多相系共重合体である。 一般には、ブタジエンゴム粒子をスチレン・アクリロニトリル共重合体が取り囲むような構造を持つ。
アクリロニトリル成分は耐薬品性、剛性、耐熱性を高める。 ブタジエン成分は耐衝撃性を高める。 スチレン成分は流動性、成形性、光沢、硬さに寄与する。 この三成
ABS樹脂は。代表的には、ポリブタジエンゴム相にスチレン・アクリロニトリル共重合体(SAN、AS樹脂)がグラフトした構造として表される。
| 項目 | 構造 |
|---|---|
| アクリロニトリル単位 | −CH2−CH(CN)− |
| ブタジエン単位 | −CH2−CH=CH−CH2− 又は −CH2−CH(CH=CH2)− |
| スチレン単位 | −CH2−CH(C6H5)− |
| 代表構造表記 | [−CH2−CH(CN)−]x / [−CH2−CH=CH−CH2−]y / [−CH2−CH(C6H5)−]z |
| モノマー又は構成単位 | アクリロニトリル CH2=CH−CN、1,3-ブタジエン CH2=CH−CH=CH2、スチレン C6H5−CH=CH2 |
製法やグレードにより、ブタジエンゴム粒子の含有量、粒子径、SAN相のアクリロニトリル量、分子量、グラフト率、添加剤が異なる。耐熱ABS、透明ABS、難燃ABS、めっきABS、摺動ABS、PC/ABS、PVC/ABSなどの改質グレードでは、基本物性と耐薬品性が標準ABSと異なる場合がある。
種類
| 種類の名称 | 主成分または特徴 | 長所 | 短所 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 汎用ABS | SAN樹脂とポリブタジエンゴムを基本とする標準グレード | 剛性、衝撃性、成形性、外観性のバランスが良い | 耐候性、耐溶剤性、耐熱性には限界がある | 家電筐体、OA機器、雑貨、玩具、カバー |
| 高衝撃ABS | ゴム成分を多くした耐衝撃グレード | 低温衝撃性、落下衝撃性を高めやすい | 剛性、硬度、耐熱性、光沢が低下する場合がある | 工具ケース、ヘルメット部品、搬送部品、衝撃を受ける筐体 |
| 高剛性ABS | SAN相の剛性や分子量、ゴム量を調整したグレード | 寸法安定性、表面硬度、剛性感に優れる | 衝撃性は高衝撃グレードより低い場合がある | プリンター部品、事務機器部品、機械カバー |
| 耐熱ABS | 耐熱性を高めた共重合成分やブレンドを用いるグレード | 荷重たわみ温度、熱変形抵抗が向上する | 流動性や衝撃性が低下する場合がある | 自動車内装部品、温風周辺部品、電装筐体 |
| 難燃ABS | 難燃剤を配合し、UL94 V-2、V-0相当などを狙うグレード | 電気電子部品で使いやすい | 比重上昇、物性低下、成形ガス、規制対応確認が必要である | 電源周辺部品、電気電子筐体、端子台、制御機器 |
| めっきABS | エッチング性と密着性を考慮したゴム粒子設計のグレード | クロムめっき、金属調外観に適する | めっき工程、薬品、残留応力管理が重要である | 自動車加飾部品、水栓部品、装飾部品 |
| 透明ABS | ゴム相と樹脂相の屈折率を調整した透明グレード | 透明性とABSらしい成形性を両立しやすい | 耐薬品性、耐衝撃性、耐熱性は標準ABSと異なる | 透明ケース、容器、ディスプレイ部品、雑貨 |
| GF強化ABS | ガラス繊維を配合した高剛性・低収縮グレード | 剛性、寸法安定性、HDTが向上する | 外観、ウェルド強度、異方性、工具摩耗に注意する | 構造部品、機械部品、治具、筐体骨格 |
| 摺動ABS | 潤滑剤、PTFE、シリコーン、鉱物系添加剤などで改質したグレード | 摩擦係数や摩耗を低減できる場合がある | 塗装、接着、外観、強度に影響することがある | ギア、軸受、スライダー、摺動カバー |
| 食品接触対応ABS | 食品接触用途に配合や添加剤を管理したグレード | 厨房機器、食品機械部品に適用できる場合がある | 国・地域、食品種、温度、接触時間の確認が必要である | 食品機械カバー、ハンドル、厨房機器部品 |
成形加工
ABSは、射出成形を中心に、押出、シート成形、真空成形、切削加工、接着、塗装、めっきなどに広く使用される。乾燥不足、過度な熱履歴、金型内の残留応力は、銀条、変色、焼け、寸法不良、応力割れの原因になる場合がある。
| 加工方法 | 適性 | 主な製品例 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 射出成形 | ◎ | 家電筐体、OA機器、自動車内装、コネクタ周辺部品 | 乾燥、シリンダー温度、金型温度、残留応力を管理する |
| 押出成形 | ○ | シート、板、異形材、パイプ状部材 | 押出グレードを選定し、溶融粘度と冷却収縮を確認する |
| ブロー成形 | △ | 容器、ダクト、特殊中空部品 | 専用グレードが必要であり、パリソン強度を確認する |
| 圧縮成形 | △ | 板材、試験片、特殊成形品 | 熱可塑性樹脂としては一般的ではない |
| 真空成形 | ○ | トレー、カバー、内装パネル、成形シート | 押出シートの厚み、加熱温度、ドローダウンを管理する |
| 切削加工 | ○ | 試作部品、治具、カバー、模型部品 | 切削熱、バリ、クラック、寸法変化に注意する |
| 接着 | ○ | 筐体組立、試作、模型、透明部品接合 | 溶剤系接着剤では応力割れに注意する |
| 塗装・印刷 | ◎ | 家電外装、車載内装、加飾部品 | 離型剤、表面汚染、溶剤クラックを確認する |
| めっき | ◎ | 自動車加飾、水栓、ノブ、装飾部品 | めっきABSグレードを選定し、エッチング条件と密着性を確認する |
| 3Dプリンター造形 | ○ | 試作部品、治具、筐体試作 | 反り、層間強度、臭気、換気、寸法精度に注意する |
成形条件の目安
| 項目 | 代表値・範囲 | 備考 |
|---|---|---|
| 乾燥温度 | 70〜85℃ | 外観重視では乾燥を行う。乾燥条件はグレードにより異なる。 |
| 乾燥時間 | 2〜4時間 | 吸湿状態、乾燥機、ペレット量により調整する。 |
| シリンダー温度 | 190〜250℃ | 標準ABSの目安。耐熱、難燃、GF強化では条件が異なる。 |
| 金型温度 | 40〜80℃ | 外観、寸法、ウェルド、残留応力に影響する。 |
| 成形収縮率 | 0.4〜0.8% | 非強化品の目安。GF強化では0.2〜0.5%程度になる場合がある。 |
| 樹脂温度上限 | おおよそ260℃以下 | 滞留時間が長い場合は熱劣化、変色、ガス発生に注意する。 |
代表的な物性値又は機械的性質
下表は代表値又は目安である。ABSはグレード差が大きく、同じABSでもゴム量、分子量、難燃剤、充填材、成形条件、試験規格により値が変動する。材料選定ではメーカー物性表、成形品形状、実使用温度、荷重、応力、使用時間を確認する必要がある。
| 項目 | 単位 | 汎用ABS | 耐熱ABS | 難燃ABS | GF強化ABS | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 密度・比重 | g/cm3 | 1.03〜1.07 | 1.04〜1.08 | 1.10〜1.25 | 1.15〜1.30 | 難燃剤、ガラス繊維で上昇する |
| 引張強さ | MPa | 35〜55 | 40〜60 | 35〜55 | 60〜95 | 試験規格、ゴム量により変動する |
| 伸び | % | 10〜50 | 5〜30 | 5〜30 | 2〜5 | 耐衝撃グレードでは高くなる場合がある |
| 曲げ強さ | MPa | 55〜85 | 65〜95 | 55〜85 | 90〜140 | 剛性評価の目安 |
| 曲げ弾性率 | GPa | 1.8〜2.8 | 2.0〜3.0 | 2.0〜3.2 | 4.0〜8.0 | GF強化で大きく向上する |
| アイゾット衝撃強さ | J/m | 100〜400 | 80〜300 | 70〜250 | 60〜200 | ノッチ付き、23℃の目安。グレード差が大きい |
| シャルピー衝撃強さ | kJ/m2 | 10〜35 | 8〜30 | 6〜25 | 6〜20 | 非破壊となる高衝撃グレードもある |
| 荷重たわみ温度 | ℃ | 80〜100 | 95〜115 | 75〜105 | 95〜120 | 1.8MPa条件の目安 |
| ビカット軟化温度 | ℃ | 95〜110 | 105〜125 | 90〜110 | 100〜120 | 耐熱グレードで高くなる |
| 融点 | ℃ | 明確な融点なし | 明確な融点なし | 明確な融点なし | 明確な融点なし | 非晶性樹脂である |
| ガラス転移温度 | ℃ | 約100〜110 | 約105〜125 | 約95〜110 | 約100〜115 | SAN相のTg目安。ゴム相は低温側にTgを持つ |
| 連続使用温度 | ℃ | 60〜80 | 80〜95 | 60〜85 | 70〜95 | 荷重、規格、寿命要求により変わる |
| 線膨張係数 | ×10-5/K | 7〜11 | 7〜10 | 6〜10 | 2〜5 | GF強化では異方性が大きい |
| 成形収縮率 | % | 0.4〜0.8 | 0.4〜0.7 | 0.4〜0.8 | 0.2〜0.5 | 金型、肉厚、ゲート、成形条件で変動する |
| 吸水率 | % | 0.2〜0.5 | 0.2〜0.5 | 0.2〜0.6 | 0.2〜0.5 | 23℃水中24h程度の目安。PAより低い |
| 体積抵抗率 | Ω・cm | 1014〜1016 | 1014〜1016 | 1013〜1016 | 1013〜1015 | 帯電防止、導電グレードでは大きく低下する |
| 難燃性 | UL94 | HB程度 | HB程度 | V-2〜V-0相当 | HB〜V-0相当 | 厚み、色、難燃剤、認証範囲を確認する |
| 酸素指数 | % | 18〜20 | 18〜21 | 24〜30以上 | 19〜25 | 難燃グレードでは高くなる |
耐薬品性
ABSの耐薬品性は、アクリロニトリル含有量、ゴム量、残留応力、温度、薬品濃度、接触時間、成形品の肉厚により変化する。下表は常温短時間接触を中心とした目安であり、長時間浸漬、加温、荷重下、応力集中部では評価が低下する場合がある。
| 薬品分類 | 代表薬品 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 酸類 | 希塩酸、希硫酸、酢酸 | ○ | 常温・低濃度では比較的良好。濃酸、酸化性酸、長時間接触では注意する。 |
| 強酸・酸化性酸 | 濃硝酸、発煙硫酸、クロム酸 | × | 酸化劣化、変色、脆化、表面劣化の可能性が高い。 |
| アルカリ類 | 水酸化ナトリウム、KOH、アンモニア水 | ○ | 常温・低濃度では比較的安定。高温、高濃度では応力割れや劣化に注意する。 |
| 低級アルコール類 | メタノール、エタノール、IPA | ○ | 短時間接触では比較的良好。応力がある部品では白化やクラックを確認する。 |
| 高級アルコール類 | ブタノール、グリセリン、MMB | ○〜△ | 分子量や極性により異なる。長時間接触では膨潤を確認する。 |
| 芳香族炭化水素類 | ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン | × | 膨潤、軟化、溶解、応力割れを起こしやすい。 |
| 脂肪族炭化水素類 | ヘキサン、ヘプタン、ミネラルスピリット | ○〜△ | 短時間では比較的安定な場合があるが、油分や添加剤で膨潤する場合がある。 |
| ケトン | アセトン、MEK、MIBK、シクロヘキサノン | × | 溶解又は強い膨潤を起こしやすい。接着や表面処理に利用される場合がある。 |
| エステル | 酢酸エチル、酢酸ブチル | × | 膨潤、軟化、クラックが発生しやすい。 |
| エーテル | THF、ジオキサン | × | 溶解性が高く、一般に不適である。 |
| 塩素系溶剤 | ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン | × | 強く侵される場合が多く、応力割れにも注意する。 |
| 水・温水 | 水道水、温水 | ◎〜○ | 常温水には比較的良好。熱水、蒸気、長時間では寸法変化や劣化を確認する。 |
| 油 | 鉱物油、潤滑油、機械油 | ○〜△ | 油種、添加剤、温度により膨潤や応力割れが生じる場合がある。 |
| 燃料 | ガソリン、灯油、軽油 | △〜× | 芳香族成分や添加剤の影響を受けやすい。燃料接触用途では実液評価が必要である。 |
| 洗剤・界面活性剤 | 中性洗剤、アルカリ洗浄剤 | ○〜△ | 配合成分、濃度、温度により応力割れが起こる場合がある。 |
SP値(溶解度パラメータ)
ABS樹脂の代表的なSP値(δ)は、一般に約19〜21 MPa1/2程度を目安とする。ABSは多相構造であり、SAN相とポリブタジエン相の比率、アクリロニトリル量、グラフト状態により溶剤への応答が変わるため、単一のSP値だけで耐薬品性を判断することはできない。
| 材料 | SP値(δ) MPa1/2 | 特徴 |
|---|---|---|
| ABS樹脂 | 約19〜21 | ケトン、エステル、芳香族炭化水素などSP値が近い溶剤に膨潤・溶解しやすい。 |
| AS樹脂(SAN) | 約19〜21 | ABSの連続相に近い性質を持ち、極性溶剤に注意が必要である。 |
| ポリブタジエン | 約16〜18 | ゴム相として耐衝撃性に寄与するが、酸化劣化や油・溶剤膨潤に注意する。 |
溶解性の目安
| SP値差 | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|
| 0〜2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2〜5 | 条件により膨潤する | △ |
| 5〜8 | 短時間接触では比較的安定 | ○ |
| 8以上 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP値から見た耐溶剤性
SP値は、溶剤と樹脂の親和性を比較するための簡易的な指標である。ただし、ABSの耐薬品性は、ゴム相への浸透、樹脂中の残留応力、溶剤の水素結合性、混合溶剤、温度、濃度、時間により変化する。SP値差が大きい場合でも、応力割れや抽出が起こる場合があるため、実液での確認が必要である。
| 薬品名 | SP値(δ)MPa1/2 | ABSとの差の目安 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 水 | 約47.9 | 約27〜29 | ◎ | SP値差は大きく、常温水では比較的安定である。 |
| メタノール | 約29.7 | 約9〜11 | ○ | 短時間接触では比較的良好。応力割れ確認が必要である。 |
| エタノール | 約26.0 | 約5〜7 | ○ | 濃度、添加物、接触時間で白化する場合がある。 |
| IPA | 約23.5 | 約2〜5 | △〜○ | 短時間では使用される場合があるが、応力部は注意する。 |
| アセトン | 約20.0 | 約0〜1 | × | ABSを溶解又は強く膨潤させやすい。 |
| MEK | 約19.0 | 約0〜2 | × | 溶解性が高く、洗浄用途には一般に不適である。 |
| 酢酸エチル | 約18.6 | 約0〜3 | × | 膨潤、軟化、クラックが生じやすい。 |
| トルエン | 約18.2 | 約1〜3 | × | 芳香族溶剤であり、ABSを侵しやすい。 |
| キシレン | 約18.0 | 約1〜3 | × | 膨潤、応力割れに注意が必要である。 |
| ヘキサン | 約14.9 | 約4〜6 | △〜○ | 短時間では比較的安定な場合があるが、ゴム相の膨潤を確認する。 |
| ジクロロメタン | 約20.2 | 約0〜1 | × | 非常に侵されやすい。 |
| グリセリン | 約33.8 | 約13〜15 | ○〜◎ | 常温では比較的安定な場合が多いが、添加剤や温度を確認する。 |
製法
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原料 | アクリロニトリル、1,3-ブタジエン、スチレンを主原料とする。必要に応じて耐熱性改良モノマー、難燃剤、安定剤、顔料、潤滑剤、充填材を用いる。 |
| 重合方法 | 乳化重合、塊状重合、懸濁重合、塊状・懸濁併用法などが用いられる。一般に、ポリブタジエンラテックスにスチレンとアクリロニトリルをグラフト重合する方法が代表的である。 |
| 基本構造形成 | ゴム相であるポリブタジエン粒子の周囲又は内部にSAN相を形成し、衝撃吸収と剛性を両立させる。 |
| ペレット化 | 重合後に凝析、洗浄、乾燥を行い、SAN樹脂や添加剤と混合し、押出機で溶融混練してペレット化する。 |
| コンパウンド | 難燃剤、ガラス繊維、摺動剤、帯電防止剤、耐候剤、顔料、熱安定剤、めっき適性改良剤などを配合する。 |
| 品質調整 | ゴム量、ゴム粒子径、グラフト率、AN量、分子量、MFR、残留モノマー、色相、熱安定性を用途に応じて調整する。 |
代表的な反応式
ABSは厳密には単一の反応式だけで表せないが、構成モノマーからの共重合又はグラフト共重合として、概念的には次のように表すことができる。
x CH2=CH−CN + y CH2=CH−CH=CH2 + z C6H5−CH=CH2 → [−CH2−CH(CN)−]x / [−CH2−CH=CH−CH2−]y / [−CH2−CH(C6H5)−]z
実際のABSでは、ポリブタジエンゴム相にスチレン・アクリロニトリル共重合体がグラフトし、さらに遊離SAN相が混在する。したがって、単純なランダム三元共重合体ではなく、多相構造を持つゴム強化スチレン系樹脂として理解することが重要である。
詳細な利用用途
| 分野 | 主な用途 | 選定理由 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 自動車 | 内装トリム、コンソール、メーターパネル、グリル、めっき加飾部品 | 外観性、成形性、耐衝撃性、めっき性が良い | 耐熱、耐候、フォギング、VOC、耐薬品性を確認する |
| 電気・電子 | 電気機器筐体、リモコン、プリンター部品、コネクタ周辺カバー | 成形性、寸法安定性、電気絶縁性、難燃グレード展開がある | UL94、CTI、RoHS、REACH、難燃剤、発熱部温度を確認する |
| 機械部品 | カバー、ギア、ノブ、ハンドル、治具、摺動部品 | 切削性、成形性、剛性、耐衝撃性がある | 摩耗、クリープ、潤滑油、応力割れを確認する |
| 医療 | 医療機器外装、検査機器筐体、操作部品 | 外観性、成形性、寸法安定性に優れる | 滅菌方法、薬液、抽出物、医療グレード適合を確認する |
| 食品機械 | 厨房機器カバー、操作ノブ、食品機械外装 | 成形性と外観性が良く、食品接触対応グレードがある | 食品衛生、FDA、温水、洗剤、油、接触時間を確認する |
| 建築・設備 | 住宅設備部品、換気部品、配管周辺カバー、化粧パネル | 成形性、着色性、外観性に優れる | 屋外ではASA、AES、耐候グレードを検討する |
| 日用品・玩具 | 玩具、文具、ケース、雑貨、収納用品 | 成形性、耐衝撃性、着色性、コストバランスが良い | 安全規格、可塑剤・添加剤、落下衝撃、誤飲部品を確認する |
| 3Dプリンター | 試作品、治具、機能確認モデル | 耐熱性、後加工性、アセトン蒸気処理性がある | 反り、臭気、換気、積層方向強度、寸法精度を確認する |
用途別選定の目安
| 用途 | 推奨されるグレード例 | 確認項目 |
|---|---|---|
| 筐体 | 汎用ABS、難燃ABS、耐熱ABS、PC/ABS | 剛性、衝撃、難燃、外観、成形収縮率 |
| ギア | 摺動ABS、GF強化ABS、POM代替検討 | 摩耗、騒音、潤滑、クリープ、寸法精度 |
| 軸受・スライダー | 摺動ABS、潤滑剤配合ABS | 摩擦係数、相手材、荷重、速度、油脂 |
| チューブ・ダクト | 押出ABS、ブローABS | 耐薬品、耐熱、曲げ、接合方法 |
| コネクタ周辺部品 | 難燃ABS、耐熱ABS、PC/ABS | UL94、耐熱、寸法安定性、電気特性 |
| めっき部品 | めっきABS | 密着性、エッチング性、残留応力、薬品工程 |
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | ABS樹脂との違い |
|---|---|---|
| ポリスチレン(PS) | 透明性、成形性、剛性に優れるスチレン系汎用樹脂である。 | ABSはPSより耐衝撃性に優れるが、透明性ではGPPSが有利である。 |
| AS樹脂(SAN) | スチレンとアクリロニトリルの共重合体で、透明性、耐薬品性、剛性がある。 | ABSはAS樹脂にゴム相を加えた材料と考えられ、耐衝撃性は高いが透明性は低い。 |
| ポリカーボネート(PC) | 透明性、耐衝撃性、耐熱性に優れるエンジニアリングプラスチックである。 | PCは耐熱性と耐衝撃性で有利であるが、ABSは成形性、外観性、コストで有利な場合がある。 |
| アクリル樹脂(PMMA) | 透明性、耐候性、表面硬度に優れる透明樹脂である。 | PMMAは透明性と耐候性に優れるが、ABSは衝撃性と成形性で有利である。 |
| ポリ塩化ビニル(PVC) | 難燃性、耐薬品性、軟質化のしやすさに特徴がある汎用樹脂である。 | PVCは難燃性と耐候性で有利な場合があり、ABSは外観性、耐衝撃性、成形加工性で有利な場合がある。 |
| ポリアセタール(POM) | 摺動性、耐疲労性、寸法安定性に優れる結晶性エンプラである。 | POMはギアや摺動部品に有利であるが、ABSは筐体、外観部品、めっき部品に適する。 |
| ナイロン6(PA6) | 靭性、耐摩耗性、耐油性に優れるポリアミド系樹脂である。 | PA6は機械部品や耐摩耗用途に有利であるが、吸水による寸法変化があり、ABSは低吸水で外観性に優れる。 |
| ASA樹脂 | アクリルゴムを用いた耐候性ABS系樹脂である。 | ASAは屋外耐候性でABSより有利であるが、コストや衝撃性はグレードにより比較が必要である。 |
| AES樹脂 | EPDM系ゴムを用いた耐候性スチレン系樹脂である。 | AESは耐候性、耐光性が改善されるが、ABSとは低温衝撃性、成形性、価格が異なる。 |
| ポリブチレンテレフタレート(PBT) | 電気特性、寸法安定性、耐薬品性に優れる結晶性ポリエステルである。 | PBTはコネクタや電装部品に有利であるが、ABSは外観部品や大型筐体の成形性で有利な場合がある。 |
代表的なメーカー
ABS樹脂は世界的に多くのメーカーが製造している。下表は代表例であり、グレード、供給地域、規格適合、食品接触、難燃認証、リサイクル材対応は各メーカーの最新資料で確認する必要がある。
| メーカー | 代表製品・ブランド | 概要 |
|---|---|---|
| テクノUMG株式会社 | TECHNO ABS、TECHNOLOYなど | ABS、ASA、AES、ACS、PC/ABSなどのスチレン系樹脂・アロイを扱う代表的な国内メーカーである。 |
| 東レ株式会社 | TOYOLAC | ABS樹脂、透明ABS、高機能ABS、PC/ABSなどを展開する代表的メーカーである。 |
| LG Chem | LG ABS | 汎用、耐熱、難燃、めっき、押出、透明系などのABSを扱う大手化学メーカーである。 |
| INEOS Styrolution | Novodur、Terluranなど | スチレン系樹脂の大手メーカーであり、ABS、ASA、SAN、ABS系アロイを展開する。 |
| CHIMEI Corporation | POLYLAC | ABS、AS、PMMA、PCなどを扱う樹脂メーカーで、ABSの代表的ブランドを持つ。 |
| Trinseo | MAGNUM ABSなど | ABS、ポリカーボネート、スチレン系樹脂を扱うグローバルメーカーである。 |
| SABIC | CYCOLAC、CYCOLOYなど | ABS及びPC/ABSなどのエンジニアリング熱可塑性樹脂を展開するメーカーである。 |
| LOTTE Chemical | STAREXなど | ABS、PC、PC/ABSなどを扱う大手化学メーカーである。 |
法規制・規格上の注意
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| RoHS | 難燃剤、顔料、安定剤、再生材を含め、制限物質の含有を確認する必要がある。 |
| REACH | SVHC、添加剤、残留モノマー、着色剤、難燃剤の情報を確認する必要がある。 |
| 食品衛生 | 食品接触用途では、日本のポジティブリスト制度、食品衛生法、使用温度、食品種、接触時間を確認する。 |
| FDA | 米国向け食品接触用途では、該当するFDA規格とグレードの適合範囲を確認する。 |
| 医療用途 | 生体接触、滅菌、抽出物、細胞毒性、薬液耐性、トレーサビリティを確認する必要がある。 |
| 難燃性 | UL94の等級は厚み、色、グレード、成形条件で異なる。認証カードの確認が必要である。 |
| リサイクル材 | 再生ABSでは熱履歴、異物、臭気、物性ばらつき、規制適合を確認する必要がある。 |
注意点
- 屋外用途では、紫外線によりブタジエン相が劣化しやすいため、ASA、AES、耐候ABS、塗装、着色、表面処理を検討する。
- 溶剤、洗剤、油、燃料に接触する用途では、環境応力割れを含めて実液試験を行う必要がある。
- 高温荷重下では、クリープや熱変形が問題になる場合がある。
- 成形時の滞留、過熱、せん断過多により、変色、焼け、ガス、アウトガス、臭気が生じる場合がある。
- 乾燥不足や成形残留応力は、銀条、寸法不良、塗装割れ、溶剤クラックの原因となる。
- 難燃ABSでは、難燃剤の種類により、成形腐食、ガス、電気特性、環境規制への対応が異なる。
- 食品、医療、電気電子、自動車内装では、グレード指定、証明書、規格適合、ロット管理を確認する必要がある。
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