概要
| 材料名 | ジアリルカーボネート |
|---|---|
| 略記号 | DAC |
| 英語名 | Diallyl carbonate |
| IUPAC名 | Diprop-2-en-1-yl carbonate |
| 日本語別名 | 炭酸ジアリル、炭酸O,O-ジアリル |
| 化学式 | C7H10O3 |
| CAS番号 | 15022-08-9 |
| 分類 | アリルカーボネート系モノマー、反応性炭酸エステル、熱硬化性樹脂原料 |
| 構造・主成分 | 炭酸エステル基の両側にアリル基を持つ二官能性モノマーである。 |
| 主な用途 | アリルカーボネート樹脂原料、架橋性モノマー、中間体、反応性希釈材、光学・電気絶縁系熱硬化樹脂の原料である。 |
ジアリルカーボネートは、炭酸エステル基と2つのアリル基を有する二官能性モノマーである。ジアリルカーボネート樹脂とは別物である。単独では低粘度の液体であり、重合・共重合・架橋反応により熱硬化性樹脂の原料として利用される。アリル系モノマーの中では、耐候性、耐水性、電気絶縁性、寸法安定性に寄与しやすい原料として位置付けられる。
特徴
- 二官能性のアリル基を持つため、架橋性を付与しやすいモノマーである。
- 低粘度液体であり、含浸、注型、配合、共重合設計に使いやすい。
- アリルカーボネート系樹脂では、耐候性、耐水性、電気絶縁性、寸法安定性に寄与しやすい。
- 不飽和ポリエステル用スチレンのような高反応性モノマーに比べ、重合速度は穏やかであり、硬化条件の最適化が必要である。
- 単量体としては可燃性液体であり、保存時は熱、光、酸化、重合開始物質の混入に注意が必要である。
- 実使用では、単体の性質と、硬化後樹脂の性質を分けて評価する必要がある。
長所
- 低粘度で配合しやすい。
- 二官能性であるため、架橋密度を与えやすい。
- 透明性が求められる配合系にも適用しやすい。
- 電気絶縁用途、耐候用途、寸法安定用途の設計に使いやすい。
短所
- モノマー単体では刺激性、可燃性に注意が必要である。
- ラジカル硬化では酸素阻害や硬化収縮、残留モノマー管理が必要である。
- 強極性溶剤や高温条件では取り扱いに注意が必要である。
- 最終物性は共重合成分、開始剤、硬化温度、後硬化条件に大きく依存する。
成形加工
ジアリルカーボネートはモノマーであるため、熱可塑性樹脂のような溶融成形材ではない。主として、注型、含浸、塗布、樹脂配合、加熱硬化、ラジカル硬化用原料として使う。単体の加工性というより、硬化系原料としての取り扱い性を評価する材料である。
| 加工方法 | 適性 | 主な用途・備考 |
|---|---|---|
| 注型硬化 | ◎ | 透明硬化物、電気絶縁部材、光学系樹脂、含浸系材料に適する。 |
| 含浸・積層 | ◎ | ガラス繊維、無機充填材、紙、布などへの含浸用原料として使いやすい。 |
| 塗布・含有配合 | ○ | 反応性希釈、表面処理系、硬化型配合系に利用しやすい。 |
| 射出成形 | × | モノマー単体では適用しない。硬化後樹脂は切削・二次加工対象となる。 |
| 押出成形 | × | モノマー単体では適用しない。 |
| 圧縮成形 | △ | プレミックス、Bステージ材、充填系樹脂としては適用余地がある。 |
加工条件
| 項目 | 標準的な配合系の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 開始剤 | 有機過酸化物系を使用することが多い | 硬化温度・ゲルタイムに合わせて選定する。 |
| 硬化温度 | 60~120℃程度 | 実際には段階加熱・後硬化条件で調整する。 |
| 後硬化 | 80~130℃程度 | 残留モノマー低減、硬化度向上、寸法安定化に有効である。 |
| 脱泡 | 必要 | 透明部材、電気絶縁用途では気泡管理が重要である。 |
| 保管 | 冷暗所保管 | 重合禁止剤管理、光・熱の遮断が望ましい。 |
構造式
ジアリルカーボネートの基本構造は、炭酸基の両端にアリル基が結合した構造である。既存サイト内の構造説明と同様に、主鎖、側鎖、官能基、共重合成分、架橋密度の違いにより、耐熱性、耐薬品性、透明性、機械特性、電気特性が変化する。
| 示性式 | CH2=CH-CH2-O-CO-O-CH2-CH=CH2 |
|---|---|
| SMILES | C=CCOC(=O)OCC=C |
| 官能基 | アリル基、炭酸エステル基 |
| 反応性 | アリル二重結合によりラジカル重合・共重合が可能である。 |
構造上のポイント
- 炭酸エステル基は極性を与え、密着性や相溶性に影響する。
- アリル基は重合反応点となり、三次元網目構造形成に寄与する。
- 単量体では低分子液体であるが、硬化後は耐候性、電気絶縁性、寸法安定性を持つ硬化物になりやすい。
種類
種類の名称
| 名称 | 標準ジアリルカーボネート |
|---|---|
| 構成 | ジアリルカーボネート単量体を主成分とする一般グレードである。 |
| 特徴 | 基本的な反応性と低粘度を持ち、配合・含浸・注型用途に使いやすい。 |
| 主な用途 | 架橋性モノマー、電気絶縁用途、透明硬化物用原料である。 |
特徴
- モノマーとしての汎用性が高い。
- 共重合・改質設計の基礎原料として扱いやすい。
種類の名称
| 名称 | 高純度グレード |
|---|---|
| 構成 | 着色、不純物、水分、重合阻害成分を低減した高純度品である。 |
| 特徴 | 透明性や色相を重視する用途に向く。 |
| 主な用途 | 光学部材、透明キャスト材、電子材料用原料である。 |
特徴
- 黄変や着色の抑制を重視する配合に向く。
- 微量不純物による硬化不良を抑えやすい。
種類の名称
| 名称 | 反応性希釈・共重合用グレード |
|---|---|
| 構成 | 他の不飽和モノマー、オリゴマー、プレポリマーとの併用を前提にしたグレードである。 |
| 特徴 | 粘度調整と架橋点導入を両立しやすい。 |
| 主な用途 | 配合樹脂、含浸樹脂、硬化型塗工系である。 |
特徴
- 単独使用よりも配合設計で使うことが多い。
- 硬化速度、収縮、密着性、透明性は配合相手で変化する。
代表的な物性値又は機械的性質
| 性質 | 単位 | 代表値 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 分子量 | g/mol | 142.15 | モノマーの理論分子量である。 |
| 外観 | – | 無色~淡黄色透明液体 | 高純度品では無色透明に近い。 |
| 純度 | % | 98~99以上 | 試薬・高純度品の代表的な範囲である。 |
| 密度 | g/cm3 | 0.99~1.00(25℃) | 20/20比重1.00、25℃密度0.991 g/mL付近が代表値である。 |
| 沸点 | ℃ | 95~97/60 mmHg、166(常圧換算参考) | 測定条件差により表示が異なる。 |
| 屈折率 | – | nD20 1.428 | 代表的な公開値である。 |
| 引火点 | ℃ | 約59 | 可燃性液体として取り扱う。 |
| 蒸気圧 | kPa | 低い | 常温では高揮発性溶剤ほどではない。 |
| 粘度 | mPa・s | 低粘度 | 反応性希釈用途に適しやすい。 |
| 水への溶解性 | – | 低い | 水とは完全相溶ではない。 |
耐薬品性
ジアリルカーボネートはモノマーであり、完成樹脂とは耐薬品性の考え方が異なる。単量体は有機溶剤との相溶性が比較的高く、硬化物よりも化学的影響を受けやすい。特に強酸、強アルカリ、高温水分環境では炭酸エステル結合の加水分解や変質に注意が必要である。
| 薬品・溶剤 | 耐性 | 備考 |
|---|---|---|
| 水 | △ | 常温短時間では大きな問題は生じにくいが、長時間接触や高温では加水分解に注意が必要である。 |
| 酸 | △~× | 強酸条件では炭酸エステル結合の分解や副反応に注意が必要である。 |
| アルカリ | × | アルカリ加水分解を受けやすく、長時間接触は不適である。 |
| アルコール | ○ | 低級アルコールとは比較的なじみやすいが、配合系では反応性や抽出に注意する。 |
| ケトン | △ | 相溶しやすい傾向があり、容器・配管・混合時の影響確認が必要である。 |
| 芳香族溶剤 | △ | 混和しやすい系があり、長期保管には注意する。 |
| エステル系溶剤 | △ | 近い極性を持つため相溶・膨潤性に注意が必要である。 |
| 油・脂肪族炭化水素 | ○ | 極性差が大きい系では比較的影響を受けにくい場合がある。 |
更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照
製法
ジアリルカーボネートは、従来はホスゲン法で工業的に製造されてきた。近年では、ホスゲンを用いない方法として、一酸化炭素と酸素を用いる酸化的カルボニル化法や、炭酸ジメチルとアリルアルコールとのエステル交換法なども検討・採用されている。
ホスゲン法
アリルアルコールを塩基存在下でホスゲンと反応させ、塩化水素を中和しながらジアリルカーボネートを得る方法である。
| 基本反応式 | 2 CH2=CH-CH2OH + COCl2 → CH2=CH-CH2OCOOCH2CH=CH2 + 2 HCl |
|---|
エステル交換法
炭酸ジメチルとアリルアルコールをエステル交換させ、段階的にアリル化してジアリルカーボネートを得る方法である。非ホスゲン法として扱いやすい。
| 基本反応式 | (CH3O)2CO + 2 CH2=CH-CH2OH → CH2=CH-CH2OCOOCH2CH=CH2 + 2 CH3OH |
|---|
酸化的カルボニル化法
アリルアルコール、一酸化炭素、酸素を触媒存在下で反応させる非ホスゲン法である。高純度化や安全性改善の観点で採用余地がある。
| 概略反応式 | 2 CH2=CH-CH2OH + CO + 1/2 O2 → CH2=CH-CH2OCOOCH2CH=CH2 + H2O |
|---|
詳細な利用用途
- アリルカーボネート系熱硬化樹脂の原料
- 透明注型樹脂の共重合原料
- 電気絶縁材料用硬化系の架橋性モノマー
- ガラス繊維、紙、布、不織布の含浸樹脂原料
- 接着・塗工・封止用の反応性希釈成分
- 中間体、官能性炭酸エステル原料
- 研究用途におけるアリル化・カルボネート化反応原料
関連材料との比較
| 比較材料 | 位置付け | 主な違い | 備考 |
|---|---|---|---|
| ジエチレングリコールビスアリルカーボネート | DACより分子量の大きい二官能アリルカーボネートモノマーである。 | DACより柔軟なスペーサーを持ち、重合後はCR-39系として知られる。 | 光学レンズ材料の代表例である。 |
| ジアリルフタレート | 代表的なアリル系熱硬化性樹脂原料である。 | 芳香環を持つため、DACより耐熱性・電気特性設計で使われる場面が多い。 | 成形材料用途での知名度が高い。 |
| 不飽和ポリエステル+スチレン | 代表的な架橋系樹脂である。 | DACはスチレンより低臭気化設計の余地がある一方、反応性は穏やかである。 | 硬化条件の最適化が重要である。 |
| アリルアルコール | DACの原料アルコールである。 | 単官能であり、DACのような二官能架橋点は持たない。 | 製法原料として重要である。 |
| 炭酸ジメチル | 非ホスゲン法の原料候補である。 | DACそのものではなく、エステル交換用の炭酸エステル原料である。 | グリーンケミストリー文脈でも使われる。 |
SP値(溶解度パラメータ)
ジアリルカーボネートのSP値は公開資料に統一的な代表値が少ないため、構造類似の炭酸エステル、公開物性、ならびに既存サイトのアリルカーボネート系材料の傾向を踏まえた設計値として扱うのが実務的である。モノマーは硬化物よりも一般に溶剤影響を受けやすい。
SP値(溶解度パラメータ)
| 項目 | SP値(δ) MPa1/2 | 備考 |
|---|---|---|
| ジアリルカーボネート(標準) | 18.5~19.5 | 炭酸エステル基を持つ中程度極性モノマーであり、エステル、ケトン、芳香族溶剤との相互作用に注意が必要である。 |
| ジアリルカーボネート(高純度) | 18.5~19.5 | SP値自体はほぼ同等であるが、不純物、水分、着色成分の低減により透明用途向けの扱いやすさが向上する。 |
| ジアリルカーボネート配合系 | 18.0~20.0 | 共重合モノマーやオリゴマーにより見かけの相溶性と硬化挙動が変化する。 |
溶解性の目安
| Δδ | 溶解性の目安 |
|---|---|
| 0~2 | 溶解しやすい、又は強く混和しやすい |
| 2~5 | 膨潤、軟化、抽出、長期影響に注意が必要 |
| 5以上 | 溶解しにくい傾向である |
SP値から見た耐溶剤性
| 溶剤 | SP値(δ) MPa1/2 | 耐性 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|---|
| 水 | 47.9 | ○ | SP値差は大きいが、長時間接触や高温では加水分解に注意が必要である。 |
| メタノール | 29.7 | △ | 極性差はあるが低級アルコールとは相互作用しやすく、長期接触では注意が必要である。 |
| エタノール | 26.0 | △ | 短時間では扱いやすいが、保管や抽出用途では注意する。 |
| IPA(イソプロパノール) | 23.5 | △ | DACのSP値に比較的近く、混和性・抽出性を考慮する必要がある。 |
| アセトン | 20.0 | △ | SP値差が小さく、相溶性が高い側である。容器材や洗浄時に注意が必要である。 |
| MEK(メチルエチルケトン) | 19.0 | × | SP値が非常に近く、溶解・混和しやすい代表例である。 |
| 酢酸エチル | 18.6 | × | SP値がほぼ一致し、強く相溶しやすい。 |
| トルエン | 18.2 | △ | 芳香族溶剤であり、相溶・希釈挙動に注意が必要である。 |
| キシレン | 18.0 | △ | トルエン同様に近い相互作用を示しやすい。 |
| DMF | 24.8 | △ | 強極性溶剤であり、配合・洗浄・抽出用途では影響確認が必要である。 |
| DMSO | 26.7 | △ | 極性が高く、溶解補助的に作用する場合がある。 |
| NMP | 23.1 | △ | 樹脂溶解力の高い溶剤であり、長時間接触は注意が必要である。 |
| ヘキサン | 14.9 | ○ | 極性差が大きく、比較的溶解しにくい側である。 |
| 鉱物油 | 15~17 | ○ | 脂肪族炭化水素系では比較的影響が小さいことが多い。 |
◎:非常に良好 ○:概ね良好 △:注意が必要 ×:不適
※ 耐溶剤評価は、ジアリルカーボネートのSP値中央値(約19 MPa1/2)を基準とした目安である。実際には、温度、濃度、接触時間、水分、開始剤、共重合成分、硬化前後の状態を含めて評価する必要がある。
※ 特に注意する溶剤は、MEK、酢酸エチル、アセトン、IPA、トルエン、キシレン、NMP、DMF、DMSOである。これらは洗浄、希釈、抽出、容器選定時に注意が必要である。
代表的なメーカー
| メーカー | 代表的な製品・位置付け | 備考 |
|---|---|---|
| 東京化成工業(TCI) | 研究用ジアリルカーボネート | 高純度試薬として流通している。 |
| Sigma-Aldrich | 研究開発用Diallyl carbonate | 物性公開値が比較的参照しやすい。 |
| 各種化学品商社・受託供給先 | 工業用・中間体用グレード | 純度、阻害剤、水分、色相は個別仕様確認が必要である。 |