ジアリルカーボネート

概要

項目内容
材料名ジアリルカーボネート
略記号DAC
IUPAC名bis(prop-2-en-1-yl) carbonate
英語名Diallyl carbonate、Bis(2-propenyl) carbonate
日本語名ジアリルカーボネート、炭酸ジアリル、ジアリル炭酸エステル
分類二官能性アリルモノマー、炭酸エステル、架橋性モノマー
プラスチック分類硬化前は低分子モノマー、重合後は熱硬化性アリルカーボネート樹脂
分子式C7H10O3
モル質量142.16 g/mol
CAS No.15022-08-9として流通例があるが、供給者SDSで必ず確認する。名称類似物質との取り違えに注意する。
代表構造CH2=CH-CH2-O-C(=O)-O-CH2-CH=CH2
構造・主成分炭酸エステル基の両側にアリル基を持つ二官能性モノマーである。ラジカル重合により三次元網目構造を形成する。
主な用途架橋性モノマー、反応性希釈剤、透明注型樹脂、電気絶縁材料、共重合原料、研究用中間体

ジアリルカーボネート(DAC)は、炭酸エステル基の両側にアリル基を持つ二官能性の架橋性モノマーである。過酸化物などのラジカル開始剤によりアリル基が反応し、三次元網目構造を持つ熱硬化性樹脂を形成する。硬化物は、配合と硬化条件により透明性、電気絶縁性、耐候性、耐汚染性を付与できる。

実用上は、DAC単独のホモポリマーよりも、他のアリルモノマー、不飽和ポリエステル、アクリレート、充填材などを組み合わせた配合系として扱われることが多い。したがって、材料群としての物性幅が大きく、特定グレードの数値をDAC全体の代表値として扱うことは適切でない。

名称が近いジエチレングリコールビスアリルカーボネート(ADC)およびCR-39は、エーテル鎖を含む別のモノマー・硬化物系である。眼鏡レンズで一般的なCR-39系の物性を、単純なDAC硬化物へそのまま転用してはならない。

特徴

項目内容
長所二官能性アリル基により架橋可能であり、硬化物は透明性、電気絶縁性、耐候性、寸法安定性を付与しやすい。
短所アリル重合は一般に反応速度が比較的遅く、酸素阻害、開始剤選定、発熱管理、未反応モノマー残留に注意を要する。硬化物は熱可塑性樹脂のように再溶融できない。
外観モノマーは一般に無色から淡黄色の液体、硬化物は透明から半透明である。純度、阻害剤、開始剤、熱履歴により着色が変化する。
耐熱性硬化物は架橋密度により中程度から良好な耐熱性を示すが、DAC単独硬化物の一般化された公開値は少ない。実用配合では共重合成分、充填材、硬化度に依存する。
耐薬品性硬化後は水、希酸、油類に比較的安定な場合がある一方、ケトン、エステル、芳香族溶剤、塩素系溶剤では膨潤、抽出、応力割れを確認する必要がある。
加工性注型、含浸、圧縮成形、トランスファー成形、共重合に適する。一般的な熱可塑性射出成形、押出成形、ブロー成形には適さない。
分類上の注意DACは単純なジアリルカーボネートであり、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート(ADC、CR-39系)とは分子構造、分子量、硬化物性が異なる。

構造式

ジアリルカーボネートの基本構造は、炭酸基の両端にアリル基が結合した構造である。既存サイト内の構造説明と同様に、主鎖、側鎖、官能基、共重合成分、架橋密度の違いにより、耐熱性、耐薬品性、透明性、機械特性、電気特性が変化する。

ジアリルカーボネートの構造式 炭酸エステル基の両側にアリル基を持つジアリルカーボネートの代表構造 ジアリルカーボネート(DAC) CH₂=CH-CH₂-O-C(=O)-O-CH₂-CH=CH₂ CH₂ CH CH₂-O C O O-CH₂ CH CH₂ 両末端のアリル基がラジカル反応し、架橋網目を形成する。

代表構造はCH2=CH-CH2-O-C(=O)-O-CH2-CH=CH2である。炭酸エステル結合は極性を持ち、両末端のアリル基が架橋点として機能する。

モノマーまたは構成単位
  • モノマー:ジアリルカーボネート(DAC)
  • 官能基:アリル基2個、炭酸エステル基1個
  • 重合形式:ラジカル付加重合を主体とする架橋反応
  • 硬化物:明確な線状繰返し単位だけでは表現しにくい三次元網目構造
共重合体・変性系

アリルフタレート、アリルジグリコールカーボネート、アクリレート、不飽和ポリエステルなどとの共重合・配合が考えられる。共重合成分により、反応速度、架橋密度、耐熱性、柔軟性、屈折率、収縮率、耐溶剤性が変化する。

示性式CH2=CH-CH2-O-CO-O-CH2-CH=CH2
SMILESC=CCOC(=O)OCC=C
官能基アリル基、炭酸エステル基
反応性アリル二重結合によりラジカル重合・共重合が可能である。

種類・代表グレード

種類・グレード主成分または改質方法長所短所主な用途
非強化・標準配合DAC主体、開始剤、必要に応じ安定剤透明性と絶縁性を得やすい硬化収縮、未反応分、脆さに注意透明注型、試験片、電気絶縁
共重合・柔軟化配合他のアリル系または柔軟性モノマー靱性、反応性、加工余裕を調整可能耐熱性や硬度が低下する場合があるコーティング、含浸、封止
耐熱配合高架橋性共重合成分、耐熱フィラーHDT、寸法安定性を高めやすい脆化、粘度上昇、透明性低下電気・電子絶縁部品
難燃配合難燃剤、無機フィラー燃焼性を改善可能透明性、機械特性、電気特性への影響電気部品、筐体内部材
GF強化配合ガラス繊維、一般に配合依存剛性、強度、寸法安定性を改善繊維浮き、異方性、透明性消失成形絶縁部品
無機充填配合シリカ、アルミナ等収縮、CTE、耐熱性を調整比重増加、粘度上昇、摩耗性封止、絶縁、寸法精度部品
光学配合高純度モノマー、低着色開始剤透明性、色調、光学均一性を重視硬化履歴と不純物管理が厳しい透明部材、光学試験用途
食品・医療用途向け個別適合グレードのみ規制適合設計が可能な場合がある材料名だけで適合判断不可証明書確認を要する限定用途

成形加工

加工方法適性理由・主な注意点
射出成形×一般的な熱可塑性射出成形には不適である。BMC等の特殊熱硬化射出は配合次第である。
押出成形×硬化前モノマーは液状であり、通常の熱可塑性押出には不適である。
ブロー成形×溶融パリソンを形成できないため不適である。
インフレーション成形×熱可塑性フィルム成形には不適である。
Tダイフィルム成形×一般的な溶融フィルム成形には不適である。
真空成形×架橋硬化後は再加熱成形できない。
圧空成形×架橋硬化後の熱成形には不適である。
圧縮成形充填材を含む熱硬化性成形材料としては適用可能である。
トランスファー成形低粘度配合や封止用途で適用可能であるが、硬化速度管理が必要である。
注型成形液状モノマーの代表的加工法である。発熱、収縮、気泡、酸素阻害を管理する。
含浸成形繊維、紙、布、コイル等への含浸に適する。
切削加工硬化物は切削可能であるが、欠け、発熱、残留応力に注意する。
接着表面状態と硬化度に依存する。研磨、プラズマ、プライマーが有効な場合がある。
塗装・印刷表面清浄化と必要に応じ前処理を行う。
めっき直接めっきは難しく、粗化、触媒化、下地処理を要する。

評価基準:◎非常に適する、○適する、△条件付き、×一般に不適、-評価困難。実際の適性はモノマー純度、開始剤、充填材、粘度、製品肉厚、硬化設備、後硬化条件により変化する。

一般的な硬化・成形条件の目安
項目単位代表範囲・目安注意点
予備乾燥モノマーは乾燥より水分管理を重視吸湿、洗浄水、容器からの水分混入を避ける。
許容水分ppm個別仕様光学用途では低水分管理が重要である。
開始剤濃度質量%0.5~5開始剤種、純度、肉厚、昇温条件で調整する。
初期硬化温度40~70急激な発熱と気泡を避けるため段階昇温が有効である。
最高硬化温度80~120硬化系と型材の耐熱性に合わせる。
硬化時間h5~30厚さ、開始剤、温度履歴で大きく変わる。
後硬化温度80~140残留モノマー低減とTg向上に有効な場合がある。
後硬化時間h1~8変色、反り、内部応力を確認する。
注型圧力MPa常圧~低圧脱泡、型締め、漏れ防止を重視する。
成形収縮率%3~10充填材、共重合、硬化速度で低減可能である。

代表的な物性値又は機械的性質

以下は非強化・無充填または透明硬化配合を想定した代表範囲である。DAC単独硬化物の体系的な公開データは限られるため、信頼度Cの値は比較用の確定値ではなく、候補材料の一次選定用参考値として扱う。

物理・光学特性
項目単位代表範囲試験規格試験温度(℃)材料状態グレード区分備考信頼度
密度g/cm³1.20~1.3523不明非強化硬化物配合・硬化度依存。公開値が少なく参考範囲である。C
比重無次元1.20~1.3523不明非強化硬化物密度と同等の参考範囲。C
吸水率・24時間%0.1~0.6ASTM D570相当の例23成形直後非強化硬化物厚さ、硬化度、抽出成分に依存。C
屈折率無次元1.47~1.52589 nm付近の例23乾燥透明硬化物ADC/CR-39値と混同しない。共重合組成で変化する。C
光線透過率%85~92厚さ2~3 mmの可視光例23乾燥光学配合純度、色、気泡、厚さ、表面状態に依存。C
成形収縮率%3~10硬化後非充填注型配合アリル系架橋反応の体積収縮。充填材で低減可能。C
線膨張係数10⁻⁵/K5~923~80乾燥非強化硬化物充填材と架橋密度により大きく変化。C
機械的性質
項目単位代表範囲試験規格試験温度(℃)材料状態グレード区分備考信頼度
引張強さ・破断MPa35~70ASTM D638またはISO 527相当23乾燥非強化硬化物配合、硬化度、試験片形状依存。C
引張弾性率GPa2.0~3.5ISO 527相当23乾燥非強化硬化物代表範囲。C
引張破断伸び%1~5ISO 527相当23乾燥非強化硬化物架橋密度が高いほど低下しやすい。C
曲げ強さMPa60~110ISO 178相当23乾燥非強化硬化物代表範囲。C
曲げ弾性率GPa2.2~3.8ISO 178相当23乾燥非強化硬化物代表範囲。C
アイゾット衝撃強さ・ノッチ付きkJ/m²1~5ISO 180相当23乾燥非強化硬化物ASTMのJ/m値とは直接比較しない。C
硬度ロックウェルM80~M100ASTM D785相当23乾燥硬化物表面硬化、配合、測定厚さ依存。C
熱的性質
項目単位代表範囲試験規格試験温度(℃)材料状態グレード区分備考信頼度
ガラス転移温度80~140DSC/DMA乾燥硬化物組成と硬化度により幅が大きい。C
融点該当なし熱硬化性硬化物三次元架橋体であり明確な融点を持たない。A
HDT・0.45 MPa70~130ISO 75乾燥硬化物配合・後硬化依存。C
HDT・1.80 MPa55~110ISO 75乾燥硬化物配合・後硬化依存。C
連続使用温度60~100一般的目安乾燥硬化物電気、機械、色調の許容変化で異なる。C
短時間耐熱温度100~140一般的目安乾燥硬化物荷重、時間、後硬化度を確認する。C
熱伝導率W/(m・K)0.18~0.2523乾燥非充填硬化物無機充填で上昇する。C
電気的性質
項目単位代表範囲試験規格試験温度(℃)材料状態グレード区分備考信頼度
体積抵抗率Ω・cm1×1014~1×1016ASTM D257相当23乾燥硬化物吸湿と温度上昇で低下し得る。C
絶縁破壊強さkV/mm12~25IEC 60243相当23乾燥硬化物厚さ、電極、昇圧速度依存。C
比誘電率・1 kHz無次元3.2~4.5IEC 62631相当23乾燥硬化物充填材と吸湿の影響を受ける。C
誘電正接・1 kHz無次元0.01~0.05IEC 62631相当23乾燥硬化物周波数、温度、吸湿依存。C
CTIVデータなしIEC 60112個別グレードの認証値を確認する。
難燃性
項目単位代表値・範囲備考
UL 94燃焼性等級グレード依存材料名だけでは等級を断定できない。認証グレード、色、厚さごとにUL Yellow Card等を確認する。
試験片厚さmm個別認証値厚さが異なる認証値を流用しない。
限界酸素指数・LOI%データなし未難燃配合を難燃材料として扱わない。
ハロゲン含有DAC骨格自体はハロゲンを含まない難燃剤、添加剤、顔料の組成は個別確認する。
燃焼時の主な生成物CO、CO₂、未完全燃焼有機物換気を行い、煙を吸入しない。

耐薬品性

薬品名濃度試験条件の目安応力評価主な劣化形態備考
23℃、24 h浸漬無応力わずかな吸水、長期で物性変化高温・長期は確認する。
温水60~80℃、168 h浸漬無応力吸水、加水分解、白化硬化度と残留モノマーの影響が大きい。
塩酸10%23℃、24 h浸漬無応力表面変化、長期強度低下の可能性高温・高濃度は実試験を行う。
硫酸10%23℃、24 h浸漬無応力変色、脆化、加水分解濃硫酸は不適側である。
酢酸10%23℃、24 h浸漬無応力膨潤、加水分解濃度と温度依存。
水酸化ナトリウム10%23℃、24 h浸漬無応力炭酸エステル結合の加水分解強アルカリ、高温で劣化が進みやすい。
エタノール100%23℃、24 h浸漬無応力膨潤、抽出応力下ではクラックを確認する。
IPA100%23℃、24 h浸漬無応力膨潤、表面変化長時間接触を避ける。
グリセリン100%23℃、168 h浸漬無応力軽微な吸収の可能性高温では確認する。
トルエン100%23℃、24 h浸漬無応力膨潤、軟化SP値が近い側である。
ヘキサン100%23℃、24 h浸漬無応力長期で膨潤の可能性配合中の低分子抽出に注意。
アセトン100%23℃、1~24 h接触無応力×膨潤、軟化、クラック洗浄溶剤として原則避ける。
MEK100%23℃、1~24 h接触無応力×著しい膨潤、軟化不適側である。
酢酸エチル100%23℃、1~24 h接触無応力×膨潤、抽出不適側である。
ジクロロメタン100%23℃、短時間接触無応力×強い膨潤、亀裂原則不適である。
鉱物油23℃、168 h浸漬無応力低分子抽出の可能性油種、添加剤、高温を確認する。
ガソリン市販相当23℃、24 h浸漬無応力芳香族成分による膨潤燃料組成に依存する。
次亜塩素酸Na500 ppm23℃、24 h浸漬無応力長期で酸化・変色高濃度、高温、繰返し洗浄は確認する。
海水人工海水相当23℃、168 h浸漬無応力吸水、界面劣化金属との複合部品では腐食も確認する。

耐薬品性は硬化度、架橋密度、残留モノマー、充填材、温度、濃度、接触時間、応力、試験片厚さに依存する。特に透明注型品は、外観変化が小さくても内部応力と溶剤接触によりクレージングや割れを生じる場合がある。

SP値(溶解度パラメータ)

DACモノマーおよびDAC硬化物について、広く合意された単一のSP値は確認しにくい。一次スクリーニングでは、炭酸エステル構造と類似物質から、モノマーまたは低架橋状態の代表値をおおむね18.5~19.5 MPa1/2、硬化物の見かけ値をおおむね19~21 MPa1/2の参考範囲として扱うことがある。これは推定を含むため、データ信頼度Dであり、確定値としてACFへ登録しないことが望ましい。

SP値差は溶解・膨潤の熱力学的傾向を示すにすぎず、架橋体の溶解不能性、拡散速度、加水分解、酸化、応力割れ、添加剤抽出を評価できない。最終判断には実薬品試験が必要である。

溶解性の目安
SP値差 Δδ(MPa1/2溶解・膨潤の目安判定
0~2膨潤・軟化しやすい。架橋体は溶解せず、著しい膨潤となる場合がある。×
2~5条件により膨潤、抽出、応力割れが生じる。
5~8短時間接触では比較的安定な場合がある。
8以上溶解・膨潤しにくい傾向であるが、反応性薬品は別評価を要する。
SP値から見た耐溶剤性
溶剤SP値 δ(MPa1/2DACとの差の目安評価注意点
47.9約29SP差は大きいが、高温では加水分解を別途考慮する。
メタノール29.7約11SP差だけでは良好側だが、水素結合と抽出性に注意。
エタノール26.0約7長期接触や応力下では膨潤確認が必要。
IPA23.5約4.5比較的近く、膨潤・抽出に注意。
アセトン20.0約1×近似し、膨潤・軟化リスクが高い。
MEK19.0約0×非常に近く、不適側である。
酢酸エチル18.6約0.4×非常に近く、膨潤・抽出に注意。
トルエン18.2約0.8×芳香族溶剤であり実液試験を要する。
キシレン18.0約1×膨潤リスクが高い側である。
ヘキサン14.9約4.1SP差は中程度だが、長期接触を確認する。

上表はDACの参考SP値を19 MPa1/2として計算した一次スクリーニングである。実際の耐性は硬化状態と実液条件で確認する。

製法

代表的な非ホスゲン法は、炭酸ジメチルとアリルアルコールのエステル交換である。触媒存在下で反応させ、副生するメタノールを除去して平衡を生成物側へ移動する。従来のホスゲン法では、アリルアルコールとホスゲンを塩基存在下で反応させるが、ホスゲンの強い毒性と設備管理上の負担が大きい。

非ホスゲン法の概略反応式は、(CH3O)2CO + 2 CH2=CH-CH2OH → CH2=CH-CH2-O-CO-O-CH2-CH=CH2 + 2 CH3OH である。

ジアリルカーボネートの製造と硬化工程 炭酸ジメチルとアリルアルコールのエステル交換によるモノマー製造、および開始剤を用いた架橋硬化工程 代表的な非ホスゲン製造・硬化工程 炭酸ジメチル (CH₃O)₂CO アリルアルコール 2 CH₂=CH-CH₂OH 触媒、加熱 メタノール除去 ジアリルカーボネート CH₂=CH-CH₂-O-CO-O-CH₂-CH=CH₂ + 2 CH₃OH 開始剤、加熱、後硬化 架橋ポリ(ジアリルカーボネート) 工程管理上の要点 純度・水分・阻害剤・開始剤濃度・酸素・発熱・収縮・後硬化 厚肉品では段階昇温し、気泡、局所過熱、内部応力を抑制する。
重合・硬化

精製したDACへ有機過酸化物などのラジカル開始剤を加え、脱泡、注型、段階昇温、後硬化を行う。アリル基の反応により三次元網目構造が形成される。硬化速度はアクリレート系より遅い場合があり、開始剤濃度を過度に上げると発熱、気泡、着色、内部応力が増加する。

ペレット化・コンパウンド

DACモノマーは液状原料として扱われることが多い。充填材、ガラス繊維、顔料、難燃剤、離型剤などを配合した熱硬化性成形材料では、プリフォーム、ペースト、含浸基材、BMC状材料などの供給形態が考えられる。一般的な熱可塑性ペレットとは加工原理が異なる。

ホスゲン法

アリルアルコールを塩基存在下でホスゲンと反応させ、塩化水素を中和しながらジアリルカーボネートを得る方法である。

基本反応式2 CH2=CH-CH2OH + COCl2 → CH2=CH-CH2OCOOCH2CH=CH2 + 2 HCl
エステル交換法

炭酸ジメチルとアリルアルコールをエステル交換させ、段階的にアリル化してジアリルカーボネートを得る方法である。非ホスゲン法として扱いやすい。

基本反応式(CH3O)2CO + 2 CH2=CH-CH2OH → CH2=CH-CH2OCOOCH2CH=CH2 + 2 CH3OH
酸化的カルボニル化法

アリルアルコール、一酸化炭素、酸素を触媒存在下で反応させる非ホスゲン法である。高純度化や安全性改善の観点で採用余地がある。

概略反応式2 CH2=CH-CH2OH + CO + 1/2 O2 → CH2=CH-CH2OCOOCH2CH=CH2 + H2O

詳細な利用用途

用途適性選定理由注意点
透明注型板・窓材透明性と電気絶縁性を利用可能厚肉硬化、黄変、残留応力、耐衝撃性を確認
光学部材高純度配合で透明化可能CR-39/ADCと同一視しない。屈折率、アッベ数、複屈折を実測
電気絶縁部品高体積抵抗率と低圧含浸性吸湿後、熱老化後の絶縁特性を確認
コイル・巻線含浸低粘度配合で含浸可能硬化収縮、発熱、銅線との密着性を確認
封止材架橋硬化と充填設計が可能CTE、発熱、接着性、アウトガスを確認
複合材料マトリックス繊維含浸と耐候性を設計可能靱性、界面接着、硬化収縮を確認
接着剤共重合・配合で接着系へ応用可能DAC単独では接着性が十分でない場合がある
塗料・コーティング架橋性と耐候性を利用可能酸素阻害、硬化速度、基材密着を確認
ギア・軸受×一般的な摺動材としての実績が乏しい摩耗、脆性、成形性の面でPOM等が適する
配管・タンク耐薬品配合で限定使用可能長期浸漬、衝撃、接合、修理性を確認
食品機械部品適合グレードがあれば可能食品衛生法、溶出、洗浄薬品、温度を確認
医療機器部品個別医療グレードに限定ISO 10993、滅菌耐久、溶出、残留モノマーを確認
屋外部品アリル系硬化物は耐候性を得やすいUV安定剤、顔料、熱水、温度サイクルを確認

用途適性は材料群としての一般的な評価である。実使用ではグレード、荷重、温度、薬品、湿度、寿命、法規制、硬化条件、残留応力を確認する。

接合・表面処理適性

方法適性主な注意点
接着剤接合研磨・脱脂・プラズマ処理・プライマーにより改善できる。溶剤型接着剤はESCに注意する。
機械締結座面圧、穴端距離、締付トルクを抑え、金属ワッシャーで応力を分散する。
タッピングねじ脆性割れを生じやすいため、下穴、ボス径、締付管理が必要である。
インサート硬化収縮と熱膨張差により界面応力が生じる。ローレット形状と予熱を検討する。
塗装・印刷表面清浄度、離型剤残留、濡れ性を確認する。
めっき粗化、触媒化、導電下地が必要である。
コロナ・プラズマ処理表面エネルギー向上に有効だが、経時失活を考慮する。
レーザーマーキング吸収剤配合、黄変、クラック、焦げを確認する。

寸法精度・設計特性

  • 硬化収縮は一般に無視できず、肉厚差、温度勾配、型拘束により反りと内部応力が生じる。
  • 透明品では偏光観察により残留応力を確認することが有効である。
  • 短時間の引張強さや曲げ強さを、そのまま長期設計許容応力として使用してはならない。
  • ねじ、圧入、インサート、鋭いコーナーでは応力集中を避け、十分なRと肉厚を設ける。
  • 温度、薬品、湿度が重なる用途では、クリープと環境応力割れの複合評価を行う。

品質・成形不良

不良主な原因発生しやすい条件影響主な対策
気泡・ボイド脱泡不足、水分、揮発分、急速硬化厚肉、複雑形状、高粘度配合透明性、強度、絶縁性低下真空脱泡、原料管理、段階昇温
黄変過熱、開始剤分解物、不純物高温長時間硬化、厚肉中心部色調、透過率低下低着色開始剤、温度均一化、純度管理
表面べたつき酸素阻害、硬化不足開放面、低温、開始剤不足汚染、接着不良不活性雰囲気、フィルム被覆、後硬化
クラック収縮、温度差、型拘束、溶剤厚肉、急冷、鋭角、圧入外観・強度低下R設計、緩慢冷却、アニール、溶剤変更
反り不均一硬化、厚さ差、片面加熱大面積、非対称形状寸法不良均一加熱、治具、充填材、形状修正
離型不良型表面、離型剤不足、収縮拘束深い形状、抜き勾配不足欠け、割れ離型剤、型表面処理、適正抜き勾配

注意点・劣化・故障モード

劣化現象主な原因発生しやすい条件外観・性能への影響予防策推奨確認試験
未硬化・硬化不足開始剤不足、低温、酸素阻害、短時間厚肉中心部、表面、低温工程べたつき、臭気、強度低下、抽出開始剤・温度履歴・脱気を最適化残留モノマー、DSC、硬度、溶剤拭き取り
発熱・暴走開始剤過多、急速昇温、大容量バッチ厚肉、大型注型、断熱条件気泡、黄変、亀裂、型損傷段階昇温、少量化、熱除去内部温度測定、DSC、試作注型
硬化収縮・反り架橋収縮、温度勾配、型拘束厚さ差、大面積、片面加熱寸法不良、残留応力、割れ充填材、均一加熱、後硬化治具寸法測定、複屈折、ヒートサイクル
気泡・ボイド溶存空気、水分、揮発分、急速硬化高粘度配合、厚肉、粗い基材透明性低下、絶縁低下、強度低下真空脱泡、原料乾燥、緩慢昇温X線、断面観察、耐電圧
黄変・変色開始剤分解物、過熱、不純物、UV高温後硬化、屋外、長期熱老化透過率低下、外観不良低着色開始剤、純度管理、UV安定剤YI、分光透過率、促進耐候
環境応力割れ残留応力と有機溶剤の相乗作用切削傷、圧入、締結部、洗浄クレージング、亀裂、破損アニール、R低減、溶剤変更定ひずみESC、実部品浸漬
加水分解熱水、強酸、強アルカリ高温、高濃度、長時間白化、強度低下、表面荒れ薬品条件緩和、保護コート熱水、酸・アルカリ浸漬、FT-IR
アウトガス未反応モノマー、開始剤残渣、低分子真空、高温、密閉電子機器曇り、臭気、接点汚染十分な後硬化、真空ベークTML/CVCM相当、GC-MS、ヘッドスペース
環境応力割れ・ESC

硬化物は、無応力浸漬で外観変化が小さい溶剤でも、切削傷、圧入、ねじ締結、急冷、硬化収縮による残留応力が存在すると、クレージングや割れを生じる場合がある。アセトン、MEK、エステル、芳香族炭化水素、塩素系溶剤を使用する工程では、定ひずみ試験または実部品への応力負荷下接触試験を行う。

法規制・認証

制度・規格一般的な位置付け確認事項
RoHSDAC骨格そのものから特定制限物質を直ちに推定できない。添加剤、触媒、顔料、残留不純物を含む個別製品の適合証明を確認する。
REACH・SVHC物質登録、用途、供給量、組成により対応が異なる。最新SDS、SVHC非含有証明、曝露シナリオを確認する。
TSCA米国での製造・輸入用途により確認が必要である。現行インベントリー収載と用途制限を供給者へ確認する。
日本の食品衛生法・ポジティブリスト材料名だけで適合を断定できない。食品接触用グレード、使用温度、食品種、接触時間、溶出試験を確認する。
FDA食品接触個別組成・用途条件に依存する。該当条項、使用条件、抽出物、供給者書簡を確認する。
USP Class VI・ISO 10993一般DAC材料が自動的に適合するものではない。医療グレードの生物学的安全性資料、滅菌方法、変更管理を確認する。
UL認証グレード、色、厚さごとに認証される。UL 94、RTI、CTI等は個別Yellow Cardを確認する。
PFAS関連規制DAC骨格はフッ素を含まない。離型剤、界面活性剤、コーティング等にPFASが含まれないか確認する。

環境・リサイクル性

項目評価・内容注意点
熱可塑性/熱硬化性熱硬化性硬化後は再溶融できない。
マテリアルリサイクル難しい粉砕充填材として限定的に再利用できる場合がある。
ケミカルリサイクル一般化困難架橋網目と炭酸エステルの選択的分解技術が必要である。
サーマルリサイクル条件付き燃焼設備、発熱量、排ガス管理を確認する。
再生材利用限定的粉砕材混合では強度、外観、絶縁性が低下する場合がある。
バイオベース性通常は化石資源由来バイオ由来アリルアルコール等を用いる特別設計は別評価である。
生分解性一般に生分解性材料として扱わない炭酸エステル結合を持つことと生分解性は同義ではない。
焼却時の注意CO、CO₂、未完全燃焼有機物が発生し得る適切な焼却設備と排ガス処理を用いる。

価格・供給性

項目相対評価内容
価格帯比較的高価格汎用熱可塑性樹脂より高い傾向であり、試薬・少量品は特に高価である。
国内入手性限定的研究用試薬または受託・商社経由が中心となる場合がある。
少量購入可能な場合がある試薬グレードは少量入手しやすいが、工業用仕様とは異なる。
供給形態液状モノマー、配合液、含浸材、受託硬化品一般的なペレット材ではない。
最小購入量供給者依存工業用ではドラム、コンテナ、受託ロットになる場合がある。
特注性高い純度、阻害剤、水分、色相、粘度、開始剤、充填材を用途別に調整する。

比較用評価スコア

評価項目スコア相対評価評価理由
引張強度3標準的非強化硬化物は中程度であるが、配合幅が大きい。
剛性3標準的架橋体として中程度。無機充填・GFで改善可能。
衝撃強度2やや劣る高架橋配合では脆性とノッチ感受性に注意する。
耐熱性3標準的後硬化と共重合で調整可能だが、超耐熱樹脂には及ばない。
耐薬品性3標準的水・油に比較的良好な場合があるが、近似SP溶剤と反応性薬品に注意。
耐候性4優れるアリル系架橋体は比較的良好な耐候性を得やすい。
耐加水分解性2やや劣る炭酸エステル結合があり、高温水、酸、アルカリで確認を要する。
寸法安定性3標準的硬化後のクリープは小さくしやすいが、硬化収縮と残留応力がある。
低吸水性4優れる一般に吸水は低い側だが、配合依存である。
電気絶縁性4優れる乾燥時は高抵抗を得やすい。吸湿後を確認する。
透明性4優れる高純度・非充填配合で高透明化可能。
成形加工性2やや劣る熱可塑性成形不可。注型・含浸には適する。
切削加工性3標準的硬化物は切削可能だが欠けと残留応力に注意。
接着性2やや劣る基材と表面処理に依存し、プライマーが必要な場合がある。
リサイクル性1劣る熱硬化性で再溶融できない。
価格優位性2やや劣る汎用熱可塑性樹脂より高く、少量品は高価になりやすい。

スコアは5:非常に優れる、4:優れる、3:標準的、2:やや劣る、1:劣る、0:評価不能またはデータなしである。特定の最高性能グレードではなく、DAC系硬化材料の一般的傾向を示す。

関連材料との比較

比較材料特徴ジアリルカーボネートとの違い
ジエチレングリコールビスアリルカーボネート(ADC)アリルカーボネート系光学モノマーエーテル鎖を持ち、CR-39系硬化物の原料である。DACより柔軟な分子構造で、眼鏡レンズ用途の実績が大きい。
CR-39ADC由来の透明熱硬化性樹脂一般に眼鏡レンズ用硬化物を指す。DAC単独硬化物とは別材料であり、物性値を流用しない。
ジアリルカーボネート樹脂DACを含む硬化樹脂系モノマー名と硬化後材料名の関係である。実用樹脂は共重合・充填配合を含むことが多い。
ジアリルフタレート樹脂代表的なアリル系熱硬化性樹脂芳香環を持ち、耐熱性・電気特性・成形材料実績に優れる場合がある。DACは炭酸エステル骨格である。
エポキシ樹脂接着・封止用熱硬化性樹脂接着性と機械強度の設計自由度が高い。DAC系は低粘度含浸、透明性、耐候性で比較される。
不飽和ポリエステル樹脂注型・FRP用熱硬化性樹脂FRP、成形材料の供給性とコストで優れる。DACは共重合原料または反応性成分として検討される。
アクリル樹脂(PMMA)透明熱可塑性樹脂射出・押出・熱成形が容易である。DAC硬化物は再溶融できないが、架橋による耐溶剤性・耐熱性を設計可能である。
ポリカーボネート透明高耐衝撃熱可塑性樹脂耐衝撃性と成形性に優れる。DAC硬化物は表面硬度、耐候性、電気絶縁性で比較される。

代表的なメーカー

メーカー代表製品・ブランド概要
東京化成工業Diallyl Carbonate(研究用試薬としての供給例)研究・合成用途。現行製品名、純度、阻害剤、CAS番号は購入時に最新SDSを確認する。
Sigma-Aldrich / MerckDiallyl carbonate(研究用試薬としての供給例)研究用途。販売地域、在庫、仕様は時期により変動する。
PPG IndustriesCR-39 MonomerDACそのものではなく、関連するADC/CR-39系光学モノマーの代表企業である。
各種受託合成・化学品商社工業用DACまたは類縁アリルカーボネート純度、水分、阻害剤、色相、最小購入量、法規制資料を個別確認する。

製品の販売状況、名称、純度、CAS番号、阻害剤、法規制適合は変更される場合があるため、採用時にはメーカーまたは供給者の最新SDS、仕様書、適合証明を確認する。

推奨確認試験

  • 実薬品浸漬試験:想定濃度、実使用温度、24時間・168時間・1000時間を目安に、質量、寸法、外観、硬度、強度を評価する。
  • 環境応力割れ試験:実部品または定ひずみ試験片へ想定応力を付与し、洗浄剤、溶剤、油、燃料へ接触させる。
  • 硬化条件確認:DSC、硬度、残留モノマー、抽出物、内部温度履歴、複屈折を確認する。
  • 熱老化・高温高湿試験:使用上限温度および85℃・85%RH等で、外観、絶縁、強度、寸法を評価する。
  • ヒートサイクル試験:低温から高温の反復により、亀裂、界面剥離、インサート周辺応力を確認する。
  • 電気絶縁試験:乾燥状態と吸湿後について、体積抵抗率、耐電圧、誘電特性を測定する。
  • アウトガス試験:真空・高温・密閉用途ではTML/CVCM相当、GC-MS、曇り試験を実施する。
  • 実成形試験:厚肉、形状、型材、離型剤、段階昇温、後硬化を実機で確認する。

関連キーワード

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本ページの代表値は材料群の一次選定用目安である。実使用では、個別グレード、純度、開始剤、硬化度、充填材、温度、濃度、荷重、応力、湿度、接触時間、試験片形状、成形条件、法規制適合を確認する。

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