概要
| 材料名 | フロロシリコーンゴム |
|---|---|
| 略記号 | FVMQ(ISO 1629、ASTM D1418)。ASTM D2000 のタイプ・クラス表記では一般に「FK」に区分される。 |
| IUPAC | 単一構造の高分子ではないため厳密な単一 IUPAC 名は定まらない。主構成単位は poly[methyl(3,3,3-trifluoropropyl)siloxane]、加硫点としてビニル基含有シロキサン単位を共重合したものが一般的である。 |
| 英語名 | Fluorosilicone Rubber / Fluorovinylmethyl Silicone Rubber / Poly(methyl-3,3,3-trifluoropropylsiloxane) |
| 日本語名(別名) | フロロシリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、フッ素シリコーンゴム、含フッ素シリコーンゴム、トリフルオロプロピルシリコーンゴム。なお「フッ素ゴム(FKM)」とは主鎖骨格が異なる別材料であり、混同しやすいため注意する。 |
| 分類 | ゴム類、合成ゴム、シリコーン系エラストマー、耐燃料油・耐溶剤・耐寒ゴム |
| プラスチック分類 | エラストマー(加硫ゴム)。熱可塑性樹脂ではなく、一般に架橋(加硫)して使用する熱硬化性エラストマーである。 |
| 化学式または代表構造 | [ Si(CH3)(CH2CH2CF3)-O ]n-[ Si(CH3)(CH=CH2)-O ]m 繰返し単位式量(トリフルオロプロピル単位):C4H7F3OSi ≒ 156.2 |
| CAS No. | ポリマーの代表例として 63148-56-1(メチル-3,3,3-トリフルオロプロピルシロキサン系)が用いられることがある。原料環状体の代表例は 2374-14-3(1,3,5-トリメチル-1,3,5-トリス(3,3,3-トリフルオロプロピル)シクロトリシロキサン、D3F)である。CAS 番号は共重合組成、末端構造、配合により異なるため、実使用では SDS で確認する必要がある(本欄の信頼度:C)。 |
| 構造・主成分 | 主鎖は Si-O-Si(シロキサン結合)であり、側鎖の一部のメチル基を 3,3,3-トリフルオロプロピル基(-CH2CH2CF3)に置換した構造を持つ。補強充填材として比表面積の大きいフュームドシリカを 20~35 phr 程度配合し、有機過酸化物架橋又は白金触媒による付加架橋で加硫する配合系として供給されることが一般的である。 |
| 主な用途 | 燃料系 O リング、燃料ホース内層、ダイヤフラム、オイルシール、航空機用燃料系シール、自動車の燃料・オイル系シール、低温かつ油・燃料接触が同時に要求される部位のガスケット |
フロロシリコーンゴム(FVMQ)は、シリコーンゴム(VMQ)の側鎖メチル基の一部を 3,3,3-トリフルオロプロピル基に置換した含フッ素シリコーンエラストマーである。主鎖のシロキサン結合に由来する広い使用温度域と優れた低温柔軟性を維持しながら、側鎖のフッ素化アルキル基によって溶解度パラメータと極性のバランスを変化させ、シリコーンゴムの最大の弱点であった耐燃料油性・耐炭化水素溶剤性を大幅に改善した材料である。
一般に、燃料油、鉱物油、芳香族・脂肪族炭化水素に対する膨潤が VMQ に比べて著しく小さく、かつ低温側では FKM(フッ素ゴム)より優れた柔軟性を示す。このため「低温域まで柔軟性を保ちつつ、燃料や油に接触する」という、他材料では両立が難しい要求に対する解として位置付けられることが多い。一方で、機械的強度、引裂強さ、耐摩耗性はシリコーンゴム系に共通して低く、価格は合成ゴムの中でも最高水準の部類に入るため、汎用部位への適用は一般に経済的でない。
また、FVMQ はケトン、エステル、一部の極性溶剤、濃厚な酸・アルカリ、過熱水蒸気には弱い傾向がある。名称に「フロロ」が付くため FKM と同等の耐薬品性を期待されやすいが、両者は主鎖骨格が異なり、得手不得手の薬品も異なる。実使用では、グレード、硬さ、配合、加硫系、薬品の種類と濃度、温度、応力、接触時間を確認して選定する必要がある。同じシリコーン系の材料については シリコーン樹脂、フッ素を含む樹脂材料については フッ素樹脂 を参照するとよい。
特徴
| 長所 |
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|---|---|
| 短所 |
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| 外観 | 加硫物は一般に半透明~不透明であり、配合により乳白色、淡青色、赤褐色、黒色などに着色される。標準的な補強配合品は不透明である。表面は低表面エネルギーで非粘着性を示す。 |
| 耐熱性 | 連続使用温度は代表的に 175~200 ℃、短時間では 230 ℃ 程度まで許容されるグレードがある。VMQ に比べるとやや低く、高温長時間では圧縮永久ひずみの増大や硬化が進行しやすい。二次加硫(ポストキュア)の有無で長期耐熱性が大きく変わる。 |
| 耐薬品性 | 炭化水素系燃料、鉱物油、脂肪族・芳香族溶剤には良好である。一方でケトン、エステル、極性の高い溶剤、濃厚な酸・アルカリ、過熱水蒸気、アミン類には注意が必要である。SP 値のみでは判定できず、シロキサン結合の加水分解や添加剤抽出も考慮する必要がある。 |
| 加工性 | ミラブル型はロール・ニーダーで混練し、圧縮成形、トランスファー成形、押出成形が可能である。液状タイプ(LSR 型)では射出成形にも対応する。生強度(グリーンストレングス)が低く、粘着性が高いため、離型・取り扱いには注意が必要である。 |
| 分類上の注意 |
|
構造式
FVMQ の代表構造は、メチル基と 3,3,3-トリフルオロプロピル基を側鎖に持つシロキサン単位を主体とし、加硫点としてビニル基含有シロキサン単位を少量共重合したものである。トリフルオロプロピル基は、フッ素原子が Si に直接結合せず、エチレン鎖(-CH2CH2-)を介して導入されている点が構造上の特徴であり、Si-C 結合の加水分解安定性を確保している。

| 代表的な構造単位 | -[ Si(CH3)(CH2CH2CF3)-O ]-(メチルトリフルオロプロピルシロキサン単位) |
|---|---|
| 加硫点単位 | -[ Si(CH3)(CH=CH2)-O ]-(メチルビニルシロキサン単位)。代表的に 0.05~0.5 mol% 程度を共重合するが、加硫系と要求物性により変わる。 |
| モノマーまたは構成単位 | 環状三量体 D3F(1,3,5-トリメチル-1,3,5-トリス(3,3,3-トリフルオロプロピル)シクロトリシロキサン)が主原料である。副原料としてビニル基含有環状シロキサン、末端封鎖剤(ヘキサメチルジシロキサン等)を用いる。 |
| 共重合体・変性グレード |
|
| 構造と特性の関係 | トリフルオロプロピル基は、分子間力と溶解度パラメータを VMQ から変化させ、炭化水素系流体との親和性を低下させることで耐燃料油性を高める。一方、側鎖の嵩高さと分子間相互作用の増加により、VMQ に比べてガラス転移温度がやや上昇し、耐熱性と電気絶縁性は低下する傾向がある。 |
種類・代表グレード
| 種類の名称 | 主成分または特徴 | 長所 | 短所 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| ミラブル型 FVMQ(HTV、標準) | 高分子量の FVMQ 生ゴムにフュームドシリカを配合した固形コンパウンド | 物性バランスが良い。圧縮成形・押出成形に対応する | 混練設備が必要。生強度が低い | O リング、ガスケット、ホース内層 |
| 液状型 FVMQ(LSR 型、付加硬化) | 低粘度の FVMQ ベースポリマーと Si-H 架橋剤、白金触媒の 2 液系 | 射出成形が可能で量産性が高い。低分子成分が少ない | 触媒被毒に弱い。硬さ・強度の上限が低い場合がある | 精密シール、小型成形品、複雑形状部品 |
| 高強度グレード | シリカ量・処理剤・分子量分布を最適化 | 引張強さ・引裂強さを改善 | 硬さが上がりやすく、低温追従性が低下する場合がある | ダイヤフラム、シールリング |
| 低圧縮永久ひずみグレード | 加硫系・後処理を最適化 | 高温長時間のシール保持性が良い | 二次加硫が必須となる場合が多い | 燃料系 O リング、静的シール |
| 耐寒グレード | ジメチル単位又はフェニル基を導入 | 低温柔軟性・脆化温度が改善 | 耐燃料油性が標準品より低下する場合がある | 寒冷地機器、航空機用シール |
| 耐熱グレード | 耐熱向上剤(酸化鉄系等)を配合 | 高温での硬化・強度低下を抑制 | 色調が制限される | エンジン周辺のシール |
| VMQ ブレンドグレード | FVMQ と VMQ をブレンド | コストを抑えられる | 耐燃料油性が FVMQ 単独より明確に低下する | 油接触が軽度な部位 |
| 導電・帯電防止グレード | カーボンブラック等を配合 | 静電気の蓄積を抑制 | 機械的物性・耐熱性が低下しやすい | 燃料系配管部品、帯電対策部品 |
| 難燃グレード | 難燃助剤を配合 | UL 94 の高い区分を狙える | 物性・耐薬品性に影響する場合がある | 電気・電子、鉄道車両部品 |
| 食品接触・医療用途向けグレード | 低揮発分・特定配合に限定 | 規制対応の証明を取得しやすい | 採用できる添加剤が制限される | 食品機械、医療機器の一部 |
グレード区分と物性への影響
| グレード区分 | 主な改質方法 | 物性への影響 | 主用途 |
|---|---|---|---|
| 非強化・標準グレード | フュームドシリカのみで補強 | 基準となる代表物性を示す | 一般シール |
| 押出成形グレード | 可塑度・分子量分布を調整 | 形状保持性が向上、強度はやや低下する場合がある | チューブ、ホース |
| 高硬度グレード | シリカ増量、樹脂状シロキサン添加 | 硬さ・弾性率上昇、伸び低下 | バックアップリング |
| 低硬度グレード | シリカ減量、可塑剤系添加 | 柔軟性向上、強度・圧縮永久ひずみは低下 | 低荷重シール |
| 無機フィラー充填グレード | 石英粉、酸化チタン等を併用 | 熱伝導・寸法安定性を調整、伸びは低下しやすい | 放熱部材、厚肉部品 |
| ガラス繊維・炭素繊維強化グレード | エラストマーでは一般的でない | 該当なし(繊維強化は主に樹脂材料で行われる) | 該当なし |
FVMQ はエラストマーであるため、樹脂材料のような GF 強化・CF 強化グレードは一般に流通していない。強化材含有率の表記が必要な比較機能では、本材料の該当欄は「該当なし」として扱うことを想定する。
成形加工
| 加工方法 | 適性 | 理由と主な注意点 |
|---|---|---|
| 圧縮成形 | ◎ | ミラブル型の標準的な成形方法である。バリ処理と離型に注意する |
| トランスファー成形 | ◎ | 多数個取りに適する。スプルー部の廃材が発生する |
| 射出成形 | ○ | 液状型(LSR 型)で適用する。白金触媒の被毒物質の混入を避ける |
| 押出成形 | ○ | チューブ・ホース内層に適用する。連続加硫設備が必要である |
| カレンダー成形 | ○ | シート、引布に適用する。粘着性が高く離型紙が必要な場合がある |
| ディスパージョンコーティング | ○ | 溶剤分散液として基布や他材料への被覆に用いられる |
| ブロー成形 | × | 加硫ゴムであり、溶融再成形ができない |
| 真空成形・圧空成形 | × | 熱可塑性がないため適用できない |
| 回転成形 | △ | 液状型で限定的に検討されるが一般的ではない |
| 発泡成形 | △ | スポンジ化は可能であるが、耐燃料油性・寸法安定性の確認が必要である |
| 3D プリント | △ | 液状シリコーン系の造形技術は存在するが、FVMQ での実用例は限られる(推定を含む) |
| 切削加工 | △ | 弾性が高く寸法精度が出にくい。冷却・治具の工夫が必要である |
| 打抜き加工 | ○ | シートからのガスケット加工に適用される |
| インサート成形 | ○ | 金属・樹脂との一体化が可能である。プライマー処理が前提となる場合が多い |
| 二次成形 | × | 加硫後の再溶融・再成形はできない |
代表的な成形条件(材料群としての目安)
| 項目 | 単位 | 代表範囲 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 予備乾燥の要否 | - | 不要 | 吸水率が極めて低く、乾燥工程は一般に不要である |
| 混練温度(ロール) | ℃ | 室温~50 | 加硫剤添加後は温度上昇を抑える |
| 一次加硫温度(圧縮成形) | ℃ | 150~180 | 加硫系により異なる |
| 一次加硫時間 | min | 5~15 | 肉厚 2 mm 程度の目安 |
| 射出成形(液状型)金型温度 | ℃ | 150~200 | 硬化時間は形状・触媒量による |
| 二次加硫温度 | ℃ | 180~200 | 熱風循環炉で実施する |
| 二次加硫時間 | h | 4~24 | 低分子成分の除去と圧縮永久ひずみ改善が目的である |
| 成形収縮率 | % | 2.0~4.0 | 配合・硬さ・形状により変動が大きい |
| 推奨肉厚 | mm | 0.5~10 | 厚肉では内部加硫を考慮する |
| 抜き勾配 | 度 | 0.5~2 | 弾性変形により小さくできる場合がある |
成形条件はメーカー、グレード、加硫系、成形機、製品形状により異なるため、上表は材料群としての一般的な目安である。付加硬化型では、硫黄、アミン、有機スズ化合物、可塑剤、未加硫の他ゴムなどが白金触媒を被毒し、硬化不良を生じるため、設備・治具・手袋の管理を分離することが望ましい。
接合・表面処理適性
| 方法 | 適性 | 注意点 |
|---|---|---|
| 溶剤接着 | × | 架橋体であり溶剤で溶解しない |
| 接着剤接合(シリコーン系) | ○ | プライマー処理又は表面処理が前提である |
| 接着剤接合(汎用接着剤) | × | 低表面エネルギーのため未処理では接着しにくい |
| インサート成形での金属接着 | ○ | 専用プライマー又は自己接着グレードを用いる |
| プラズマ処理・コロナ処理 | ○ | 処理直後は接着性が向上するが、経時で疎水回復する |
| 塗装性・印刷性 | △ | 専用インキ・前処理が必要である |
| 機械締結 | ○ | 圧縮荷重の管理が必要である |
| 各種溶着(熱板・超音波・高周波) | × | 熱可塑性がないため適用できない |
代表的な物性値又は機械的性質
以下は、非強化・標準配合の加硫物(硬さ 60±5 Shore A 相当、二次加硫あり)を想定した材料群としての代表値である。エラストマーの物性は配合の影響が支配的であり、同一材料名でも硬さ・充填材量により大きく変動する。
物理的性質
| 項目 | 単位 | 代表値 | 代表範囲 | 備考(試験規格・条件・信頼度) |
|---|---|---|---|---|
| 密度 | g/cm³ | 1.40 | 1.35~1.60 | 加硫物、配合依存。ISO 2781 相当。信頼度 B |
| 比重 | 無次元 | 1.40 | 1.35~1.60 | 23 ℃。信頼度 B |
| 硬度(デュロメータ A) | Shore A | 60 | 40~80 | ISO 7619-1 / JIS K 6253。配合で任意に設定。信頼度 A |
| 吸水率・24 時間 | % | 0.3 | 0.1~1.0 | 23 ℃浸漬、厚さ 2 mm。信頼度 C |
| 成形収縮率 | % | 3.0 | 2.0~4.0 | 金型基準、配合・形状依存。信頼度 C |
| 線膨張係数 | 10⁻⁵/K | 25 | 20~30 | 常温付近。信頼度 C |
| ポアソン比 | 無次元 | 0.49 | 0.48~0.50 | ゴム材料の一般値。信頼度 C |
| 色調・外観 | - | 不透明 | - | 配合により着色可能。半透明グレードもある |
| ガス透過性(酸素) | - | 大 | - | VMQ より小さいが一般ゴムより大きい。数値は条件依存のためデータなし。ガス透過性を参照 |
| 屈折率 | 無次元 | 1.38 | 1.37~1.40 | ベースポリマー、推定を含む。信頼度 D |
機械的性質
| 項目 | 単位 | 代表値 | 代表範囲 | 備考(試験規格・条件・信頼度) |
|---|---|---|---|---|
| 引張強さ・破断 | MPa | 9 | 5~12 | ISO 37 / JIS K 6251、ダンベル状 3 号形。降伏点は明確でない。信頼度 A |
| 引張破断伸び | % | 250 | 100~400 | ISO 37。硬さにより大きく変動。信頼度 A |
| 100% モジュラス | MPa | 2.5 | 1.0~6.0 | ISO 37、硬さ 60 Shore A 相当。信頼度 B |
| 引裂強さ | kN/m | 15 | 8~30 | ISO 34-1、クレセント形又はアングル形で値が異なる。信頼度 B |
| 圧縮永久ひずみ(175 ℃×22 h) | % | 25 | 15~40 | ISO 815、25% 圧縮、二次加硫品。信頼度 B |
| 圧縮永久ひずみ(150 ℃×70 h) | % | 20 | 10~35 | ISO 815。配合依存。信頼度 C |
| 反発弾性 | % | 35 | 20~50 | ISO 4662。VMQ より低い傾向。信頼度 C |
| 耐摩耗性 | - | 低い | - | 一般ゴムに劣る。摺動用途は要検証。数値はデータなし |
| 引張弾性率・曲げ弾性率 | - | 該当なし | - | エラストマーであり、樹脂と同一定義の弾性率は一般化困難である |
| アイゾット/シャルピー衝撃強さ | - | 該当なし | - | ゴム材料では通常測定しない |
| 荷重たわみ温度(HDT) | - | 該当なし | - | ゴム材料では規定されない |
熱的性質
| 項目 | 単位 | 代表値 | 代表範囲 | 備考(条件・信頼度) |
|---|---|---|---|---|
| ガラス転移温度 | ℃ | −68 | −75~−60 | DSC、ベースポリマー。VMQ(約 −120 ℃)より高い。信頼度 B |
| 融点 | - | 該当なし | - | 実用上は非晶性として扱う。低温で結晶化を示す報告があるが一般化困難 |
| 脆化温度 | ℃ | −60 | −70~−55 | ISO 812 相当。配合依存。信頼度 B |
| 連続使用温度 | ℃ | 175 | 150~200 | 空気中、長期。評価基準により変動する目安値。信頼度 B |
| 短時間耐熱温度 | ℃ | 230 | 200~250 | 短時間曝露。信頼度 C |
| 低温使用限界 | ℃ | −55 | −65~−45 | 動的シールでは静的より高温側で制限される。信頼度 C |
| 熱分解開始温度 | ℃ | 350 | 300~400 | TGA、雰囲気依存。信頼度 C |
| 熱伝導率 | W/(m・K) | 0.20 | 0.15~0.30 | 配合依存。熱伝導率を参照。信頼度 C |
| 比熱 | J/(g・K) | 1.2 | 1.0~1.5 | 常温付近、推定を含む。信頼度 D |
燃焼性・難燃性
| 項目 | 単位 | 代表範囲 | 備考 |
|---|---|---|---|
| UL 94 燃焼性 | - | HB~V-0 | グレード依存。材料群として特定等級を保証するものではない。試験片厚さの明示が必要である |
| UL 94 試験片厚さ | mm | 1.5~3.0 | 認証グレードのみ有効。個別確認が必要である |
| 限界酸素指数(LOI) | % | 25~35 | 配合依存。信頼度 C |
| 燃焼残渣 | - | シリカ主体の灰 | 燃焼時に絶縁性の灰を生成する |
| 燃焼時の主な発生ガス | - | CO、CO₂、フッ化水素等 | フッ素含有のため、燃焼・熱分解時の排気管理が必要である |
| ハロゲン含有 | - | フッ素を含有 | ハロゲンフリー要求のある用途では適合しない場合がある |
電気的性質
| 項目 | 単位 | 代表範囲 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 体積抵抗率 | Ω・cm | 10¹²~10¹⁴ | VMQ(10¹⁴~10¹⁵ 程度)より低い傾向。信頼度 C |
| 絶縁破壊強さ | kV/mm | 15~25 | 厚さ・電極形状依存。信頼度 C |
| 比誘電率(1 kHz) | 無次元 | 6.0~8.0 | 極性側鎖のため VMQ(約 3)より高い。信頼度 B |
| 誘電正接(1 kHz) | 無次元 | 0.02~0.08 | 周波数・温度依存が大きい。信頼度 C |
| 耐アーク性 | s | データなし | グレード依存。個別確認が必要である |
| 用途上の位置付け | - | - | 高周波絶縁用途には一般に VMQ が適する。FVMQ は耐油性優先の場面で選定する |
耐候性・環境耐久性
| 項目 | 評価 | 内容と注意点 |
|---|---|---|
| 耐オゾン性 | ◎ | 主鎖に二重結合を持たないため、本質的にオゾン劣化に強い |
| 紫外線耐候性・屋外使用 | ◎ | 長期屋外曝露でも劣化が小さい。着色顔料の退色は別途確認する |
| 熱老化性 | ○ | 175 ℃ 程度までは良好。二次加硫の有無で差が大きい |
| 耐熱水性・耐沸騰水性 | △ | 長時間ではシロキサン結合の加水分解により物性低下が生じる場合がある |
| 耐蒸気性(過熱水蒸気) | × | 高温高圧蒸気では劣化が速い。EPDM 等の選定を検討する |
| 耐放射線性 | △ | フェニル基導入グレードでは改善する場合がある |
| 凍結融解耐久性 | ◎ | 低温柔軟性が高く、繰返し温度変化に強い |
耐薬品性
以下は、標準グレードの加硫物を室温付近で短時間~中期間接触させた場合の一般的傾向である。評価基準は、◎:一般的な条件で影響が小さい、○:概ね使用可能であるが条件確認が必要、△:膨潤・軟化・強度低下等に注意、×:溶解・著しい膨潤・分解等が生じる可能性が高い、-:データなし又は評価困難、とする。
| 薬品分類・代表薬品 | 濃度 | 温度 | 評価 | 主な劣化形態 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 水 | - | 常温 | ◎ | ほぼ影響なし | 吸水率が低い |
| 温水 | - | 60~80 ℃ | ○ | わずかな物性低下 | 長期では確認試験を推奨する |
| 熱水・沸騰水 | - | 100 ℃ | △ | 加水分解、強度低下 | 接触時間の管理が必要である |
| 水蒸気(加圧) | - | 120 ℃以上 | × | 主鎖切断、軟化 | 過熱水蒸気用途には不適である |
| 塩酸 | 希薄 | 常温 | ○ | 表面変化 | 濃厚・高温では×となる |
| 硫酸 | 希薄 | 常温 | ○ | 表面変化 | 濃硫酸は×である |
| 硝酸・濃酸類 | 濃厚 | 常温 | × | 酸化分解、脆化 | 酸化性酸に弱い |
| 有機酸(酢酸等) | 希薄 | 常温 | △ | 膨潤、軟化 | 濃度と温度で大きく変わる |
| 水酸化ナトリウム(NaOH) | 希薄 | 常温 | △ | 加水分解、表面荒れ | 濃厚・高温では×である |
| 水酸化カリウム(KOH) | 希薄 | 常温 | △ | 加水分解 | 強アルカリはシロキサン結合を切断する |
| アンモニア水・アミン類 | 希薄 | 常温 | △ | 膨潤、架橋点劣化 | 個別確認が必要である |
| 低級アルコール(エタノール、IPA) | - | 常温 | ○ | 軽度の膨潤 | 含アルコール燃料では別途確認する |
| 高級・多価アルコール(グリセリン、MMB 等) | - | 常温 | ○ | 影響小 | 高温長時間は要確認である |
| 芳香族炭化水素(トルエン、キシレン) | - | 常温 | ○ | 中程度の膨潤 | VMQ に対する最大の改良点である |
| 脂肪族炭化水素(ヘキサン、ケロシン) | - | 常温 | ◎ | 膨潤小 | 燃料系での主用途である |
| ガソリン・軽油・ジェット燃料 | - | 常温~80 ℃ | ◎ | 膨潤小 | 体積変化は代表的に 10~25% 程度である |
| 含アルコール燃料(E10 等) | - | 常温 | ○ | 膨潤増大 | アルコール濃度で挙動が変わる |
| 鉱物油・潤滑油・エンジンオイル | - | ~150 ℃ | ◎ | 膨潤小 | 添加剤の影響を確認する |
| ケトン(アセトン、MEK) | - | 常温 | × | 著しい膨潤 | FVMQ の代表的な弱点である |
| エステル(酢酸エチル等) | - | 常温 | × | 著しい膨潤 | 短時間でも変形が生じやすい |
| エーテル類 | - | 常温 | △ | 膨潤 | 種類により差が大きい |
| 塩素系溶剤(トリクロロエチレン等) | - | 常温 | △ | 膨潤 | 洗浄工程での接触に注意する |
| ブレーキ液(グリコールエーテル系) | - | 常温 | △ | 膨潤、軟化 | EPDM が一般に適する |
| 作動油(鉱油系) | - | ~120 ℃ | ◎ | 膨潤小 | リン酸エステル系は別途確認する |
| 冷却液(LLC) | - | ~100 ℃ | ○ | 影響小 | 長期は確認試験を推奨する |
| 塩水・海水 | - | 常温 | ◎ | 影響小 | 屋外用途に適する |
| 次亜塩素酸塩・酸化剤 | 希薄 | 常温 | △ | 表面酸化 | 濃厚では×である |
| 界面活性剤・洗浄剤 | 希薄 | 常温 | ○ | 影響小 | アルカリ性洗浄剤は要注意である |
| 食用油 | - | 常温~150 ℃ | ○ | 膨潤小 | 食品用途は規制適合を別途確認する |
耐薬品性は SP 値差のみで決定されるものではない。FVMQ では、シロキサン主鎖の加水分解(酸・アルカリ・高温水蒸気)、酸化剤による側鎖分解、充填材と薬品の相互作用、低分子成分の抽出なども劣化要因となる。また、応力下では膨潤が小さくても亀裂が生じる場合があるため、実部品形状での確認が必要である。エラストマー全般の流体適合性については エラストマーの流体適合性 も参照するとよい。
SP 値(溶解度パラメータ)
| 項目 | 単位 | 内容 |
|---|---|---|
| FVMQ の代表 SP 値(δ) | MPa1/2 | 約 15.5(資料により 14.5~16.5 の幅がある。単一の確定値は得られていないため推定を含む。信頼度 D) |
| 参考:VMQ の SP 値 | MPa1/2 | 約 15.0(14.9~15.6)。信頼度 C |
| 参考:FKM の SP 値 | MPa1/2 | 約 17.5(16.5~18.5)。信頼度 C |
SP 値は一次元の指標であり、水素結合力や極性項を分離していないため、SP 値だけで耐薬品性を判断することはできない。特に FVMQ では、SP 値が近い溶剤であっても、フッ素化側鎖による自由体積・分子間力の変化により実際の膨潤挙動が予測とずれる場合がある。より精度の高い一次スクリーニングを行う場合は、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)と RED 値による評価を併用し、最終判断は実薬品浸漬試験によることが望ましい。ホモポリマー・樹脂の溶解パラメータ(SP 値) も参照するとよい。
溶解性の目安
| SP 値差 | 単位 | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 0 ~ 2 | MPa1/2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2 ~ 5 | MPa1/2 | 条件により膨潤する | △ |
| 5 ~ 8 | MPa1/2 | 短時間接触では比較的安定である | ○ |
| 8 以上 | MPa1/2 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP 値から見た耐溶剤性
| 薬品名 | SP 値 (MPa1/2) | FVMQ との差 | 評価 | 備考(実挙動との整合) |
|---|---|---|---|---|
| n-ヘキサン | 14.9 | 0.6 | ◎ | SP 値差は小さいが、実際の膨潤は小さい。SP 値のみでは説明できない例である |
| トルエン | 18.2 | 2.7 | ○ | 中程度の膨潤にとどまる |
| イソオクタン | 14.1 | 1.4 | ◎ | 燃料主成分。実測膨潤は小さい |
| アセトン | 20.3 | 4.8 | × | SP 値差は中程度だが、極性項の寄与で著しく膨潤する |
| メチルエチルケトン | 19.0 | 3.5 | × | 実挙動は不適である |
| 酢酸エチル | 18.6 | 3.1 | × | 膨潤が大きい |
| エタノール | 26.0 | 10.5 | ○ | SP 値差は大きいが、長期では要確認である |
| 水 | 47.9 | 32.4 | ◎ | 常温では影響が小さい。高温水蒸気は別である |
| トリクロロエチレン | 18.8 | 3.3 | △ | 膨潤する。洗浄工程で注意する |
評価基準は、◎非常に良好、○概ね良好、△注意が必要、×不適である。上表のとおり、FVMQ では SP 値差と実挙動が一致しない例が複数存在するため、SP 値は一次スクリーニングにとどめ、最終判定は実薬品浸漬試験(体積変化率、硬さ変化、引張強さ保持率)で行う必要がある。
製法
FVMQ は、メチル(3,3,3-トリフルオロプロピル)ジクロロシランの加水分解により得られる環状三量体(D3F)を、塩基性触媒によりアニオン開環重合して高分子量の生ゴムとし、これに補強充填材と加硫剤を配合して加硫する工程で製造されるのが一般的である。加硫点となるビニル基は、ビニル含有環状シロキサンを共重合することで導入する。

| 原料 | メチル(3,3,3-トリフルオロプロピル)ジクロロシラン、又は対応するアルコキシシラン。3,3,3-トリフルオロプロピル基は、トリフルオロプロペンとメチルジクロロシランのヒドロシリル化により導入される経路が代表的である。 |
|---|---|
| 基本反応式 |
① 加水分解・環化 3 CH3(CF3CH2CH2)SiCl2 + 3 H2O → [ CH3(CF3CH2CH2)SiO ]3 + 6 HCl ② アニオン開環重合 n [ CH3(CF3CH2CH2)SiO ]3 → -[ Si(CH3)(CF3CH2CH2)-O ]3n- ③ 過酸化物架橋(模式) 2 ≡Si-CH=CH2 + R-O-O-R → ≡Si-CH2-CH2-CH2-CH2-Si≡(架橋点の生成) ④ 付加架橋(ヒドロシリル化、白金触媒) ≡Si-CH=CH2 + H-Si≡ → ≡Si-CH2-CH2-Si≡ |
| 重合方法 | 塩基性触媒(水酸化アルカリ、シラノレート等)によるアニオン開環重合が中心である。末端封鎖剤の量で分子量を制御し、重合後は触媒失活と低分子環状体のストリッピングを行う。 |
| コンパウンド | 生ゴムにフュームドシリカ(比表面積が大きい補強シリカ)を 20~35 phr 程度、構造制御剤、耐熱向上剤、加硫剤を配合し、ニーダー・ロールで混練する。シリカ表面と主鎖の相互作用が可塑度上昇(クレープハードニング)を招くため、処理剤の選定が重要である。 |
| 加硫・後処理 | 一次加硫は 150~180 ℃ の圧縮成形又は射出成形で行い、二次加硫は 180~200 ℃ で 4~24 h の熱風処理を行う。二次加硫により、低分子シロキサンと加硫残渣を除去し、圧縮永久ひずみと寸法安定性を改善する。 |
| 添加剤・充填材 | 補強シリカ、石英粉、酸化鉄(耐熱)、カーボンブラック(導電・着色)、顔料、加硫剤(有機過酸化物又は白金触媒+Si-H 架橋剤)、接着助剤などが用いられる。食品・医療用途では使用できる添加剤が制限される。 |
詳細な利用用途
| 分野 | 代表的な部品 | 選定理由と注意点 |
|---|---|---|
| 自動車 | 燃料系 O リング、燃料ホース内層、キャニスター用シール、オイルシール、ダイヤフラム | 燃料膨潤が小さく、寒冷始動時の低温シール性を確保できる。含アルコール燃料では別途確認する |
| 航空・宇宙 | 燃料タンクシール、燃料系ガスケット、配管接手用 O リング | −55 ℃ 級の低温と燃料接触が同時に要求される部位に適する。規格適合の証明が必要である |
| 機械部品 | 油圧・潤滑系の静的シール、ベローズ、防振部材 | 静的シール向きである。動的シール・高圧摺動は耐摩耗性の面で不利である |
| 電気・電子 | 油接触環境でのコネクタシール、耐油ケーブルシース内層 | 高周波絶縁用途では VMQ の方が適する場合が多い |
| 化学・プラント | 炭化水素系溶剤ラインのガスケット、ポンプ用シール | ケトン・エステル・強アルカリ・高温蒸気には適さない |
| 食品機械 | 食用油接触部のシール、耐油パッキン | 食品接触規制の適合グレードを個別に確認する必要がある |
| 医療 | 一部の薬液・油接触部材 | 一般的には VMQ が主流である。生体適合性は個別グレードで確認する |
| 建築・設備 | 油接触部のガスケット、耐候シール | 耐候性は良好だが、価格面から適用範囲は限定される |
用途別選定の適性
| 用途 | 適性 | 理由と注意点 |
|---|---|---|
| O リング(静的) | ◎ | 燃料・油系静的シールの代表用途である |
| O リング(動的) | △ | 耐摩耗性が低く、摺動条件では寿命確認が必要である |
| ガスケット | ◎ | 低温追従性と耐油性を両立できる |
| ダイヤフラム | ○ | 繰返し屈曲では引裂強さの確認が必要である |
| 燃料ホース内層 | ◎ | 外層は他材料との複合構成が一般的である |
| チューブ・配管 | ○ | 耐圧が必要な場合は補強層を併用する |
| シール(高温水蒸気) | × | 加水分解により劣化する |
| ブレーキ液接触部 | △ | グリコールエーテル系では膨潤する場合がある |
| 軸受・摺動板 | × | 摺動材としての適性は低い |
| 電気絶縁部品 | △ | 誘電率・誘電正接が VMQ より高い |
| 屋外部品 | ◎ | 耐候性・耐オゾン性が優れる |
| 食品機械部品 | △ | 適合グレードの選定と証明書確認が前提である |
| 医療・滅菌部品 | △ | 蒸気滅菌には不利である。EOG・γ線滅菌は条件確認が必要である |
| 半導体・真空装置部品 | △ | アウトガス・低分子シロキサンの管理が必要である。FFKM が選定される場合が多い |
上記評価は材料群としての一般的な適性であり、実使用ではグレード、硬さ、配合、荷重、温度、薬品、湿度、要求寿命、法規制を確認する必要がある。
注意点(劣化・故障モードと対策)
| 劣化現象 | 主な原因 | 発生しやすい条件 | 外観・性能への影響 | 予防策 | 推奨確認試験 |
|---|---|---|---|---|---|
| 加水分解 | シロキサン主鎖の切断 | 高温水蒸気、強酸・強アルカリ | 軟化、強度低下、粘着 | 蒸気接触部への適用を避ける | 熱水試験、加水分解試験 |
| 熱酸化劣化 | 長時間の高温曝露 | 200 ℃ 超、酸素存在下 | 硬化、伸び低下、亀裂 | 耐熱グレード選定、二次加硫の徹底 | 熱老化試験 |
| 圧縮永久ひずみ増大 | 架橋密度不足、二次加硫不足 | 高温長時間の圧縮保持 | シール漏れ | 低圧縮永久ひずみグレード、加硫条件最適化 | 圧縮永久ひずみ試験 |
| 膨潤・軟化 | 極性溶剤との接触 | ケトン、エステル、一部エーテル | 寸法増加、強度低下 | 薬品リストの事前確認 | 実薬品浸漬試験 |
| 引裂・欠損 | 引裂強さの低さ | 組付時のこじり、鋭利エッジ | 破断、シール不良 | 面取り、組付治具、高強度グレード | 引裂試験、実組付試験 |
| 摩耗粉発生 | 耐摩耗性の低さ | 摺動、振動 | 粉体汚染、シール性低下 | 動的部位の設計変更 | 摩耗試験、摩擦係数測定 |
| アウトガス・低分子シロキサン移行 | 未除去の低分子成分 | 真空、加熱、電気接点近傍 | 接点障害、塗装ハジキ | 二次加硫の強化、低揮発分グレード | アウトガス試験、質量減少測定 |
| 硬化不良 | 白金触媒の被毒 | 硫黄、アミン、スズ化合物の混入 | 表面べたつき、未硬化 | 設備・治具の分離管理 | 実成形試験 |
| 顔料退色 | 紫外線、熱 | 屋外長期曝露 | 色差の発生 | 耐候性顔料の選定 | 紫外線促進耐候試験 |
環境応力割れ(ESC)は、非晶性の硬質樹脂で問題となる現象であり、FVMQ のような架橋エラストマーでは同じ意味では生じにくい。ただし、膨潤下での応力集中や、加硫不良部・ウェルド部からの亀裂進展は発生し得るため、実部品形状での耐久確認が必要である。
成形不良と対策
| 不良 | 材料側の要因 | 成形条件側の要因 | 主な対策 |
|---|---|---|---|
| ボイド・気泡 | 混練時の巻き込み空気 | 脱気不足、型締め不良 | 真空脱泡、ガス抜き工程の追加 |
| 表面べたつき | 加硫剤の失活、触媒被毒 | 加硫温度・時間不足 | 加硫条件の見直し、汚染源の排除 |
| 離型不良 | 粘着性の高さ | 金型表面粗さ、離型剤不足 | 金型のフッ素系表面処理、離型剤の選定 |
| バリ | 低粘度化 | 型締力不足、余肉過多 | 金型精度向上、仕込量の管理 |
| クレープハードニング | シリカと主鎖の相互作用 | 保管期間・温度 | 構造制御剤の配合、保管管理、再素練り |
| 寸法ばらつき | 収縮率の配合依存性 | 金型温度分布 | 収縮率の実測、金型温調の均一化 |
法規制・認証
| 規制・認証 | 材料群としての一般的傾向 | 備考 |
|---|---|---|
| RoHS | 一般に対応可能 | 顔料・添加剤により異なる。個別証明書の確認が必要である |
| REACH・SVHC | 一般に対応可能 | SVHC リストは更新されるため最新版で確認する |
| PFAS 関連規制 | 影響を受ける可能性がある | 側鎖にフッ素を含むため、規制動向を継続的に確認する必要がある(推定を含む) |
| 食品衛生法・ポジティブリスト | 適合グレードが存在する | 材料名だけで適合を断定しない |
| FDA 食品接触用途 | 適合グレードが存在する | グレード・色・添加剤により異なる |
| USP Class VI・ISO 10993 | 個別グレードの証明が必要である | 医療用途では VMQ の方が実績が多い |
| UL 認証 | 個別グレードのみ | 材料群として UL 94 等級を保証するものではない |
| 自動車材料規格 | 個別規格ごとに確認 | SAE J200(ASTM D2000)では「FK」区分が用いられる |
| ハロゲンフリー | 非適合 | フッ素を含有する |
環境・リサイクル性と価格・供給性
| 項目 | 区分 | 内容 |
|---|---|---|
| 熱可塑性/熱硬化性 | 熱硬化性(加硫ゴム) | 再溶融による成形はできない |
| マテリアルリサイクル適性 | 低い | 粉砕して充填材として再利用する例が限られる |
| ケミカルリサイクル適性 | 研究段階 | 解重合によるシロキサン回収の検討例がある(推定を含む) |
| 焼却時の注意 | 要管理 | フッ素含有のため排ガス処理が必要である。シリカ残渣が生じる |
| 生分解性・バイオベース | いずれも該当なし | 「バイオベース」と「生分解性」は別概念であり、いずれも本材料には該当しない |
| 価格区分 | 極めて高価格 | 一般に VMQ の数倍、NBR の十数倍以上の水準である。市況・購入量・グレード・色により変動する |
| 供給性・入手性 | 限定的 | 供給メーカーが限られる。コンパウンド、シート、O リング完成品での入手が中心である |
| 少量購入のしやすさ | やや難 | 特注色・特注硬度では最小購入量と納期の確認が必要である |
比較用評価スコア(5:非常に優れる ~ 1:劣る、0:評価不能)
| 評価項目 | スコア | 評価理由 |
|---|---|---|
| 引張強度 | 2 | 代表 5~12 MPa であり、一般ゴムより低い |
| 剛性 | 2 | エラストマーとして低弾性率である |
| 耐熱性 | 4 | 連続 175~200 ℃。VMQ よりわずかに低い |
| 低温特性 | 5 | 脆化温度 −60 ℃ 級で、耐油ゴム中では最上位クラスである |
| 耐薬品性(燃料・油) | 5 | 燃料膨潤が小さい |
| 耐薬品性(極性溶剤) | 1 | ケトン・エステルに不適である |
| 耐候性 | 5 | 耐オゾン性・耐紫外線性が優れる |
| 耐加水分解性 | 2 | 高温水蒸気・強酸アルカリで劣化する |
| 寸法安定性 | 3 | 線膨張係数は大きいが吸水は少ない |
| 低吸水性 | 5 | 吸水率が低い |
| 摺動性・耐摩耗性 | 1 | 摩耗しやすい |
| 電気絶縁性 | 3 | VMQ より誘電率・誘電正接が高い |
| 難燃性 | 4 | LOI が高くグレードにより V-0 相当も可能である |
| 透明性 | 1 | 標準補強品は不透明である |
| 成形加工性 | 3 | 圧縮・射出とも可能だが取り扱いに配慮が要る |
| 接着性 | 2 | 低表面エネルギーで前処理が必要である |
| リサイクル性 | 1 | 加硫ゴムであり再成形できない |
| 価格優位性 | 1 | 合成ゴム中で最高水準の価格帯である |
推奨確認試験
- 実薬品浸漬試験:使用薬品、濃度、温度(常温、60 ℃、100 ℃ 等)、浸漬時間(24 h、168 h、1000 h)を設定し、体積変化率、硬さ変化、引張強さ保持率を測定する
- 燃料浸漬試験:実燃料又は標準試験燃料(Fuel C 等)、40~60 ℃、168 h 以上で体積変化率を測定する
- 圧縮永久ひずみ試験:150 ℃×70 h、175 ℃×22 h 等、実使用温度に合わせて設定する
- 熱老化試験:想定連続使用温度+25 ℃、168~1000 h での伸び保持率を確認する
- 熱水・加水分解試験:80~100 ℃ の水中、168 h 以上で強度保持率を確認する
- 低温試験:脆化温度測定(ISO 812)、および低温下でのシール漏れ確認
- ヒートサイクル試験:−55 ℃ ⇔ 150 ℃、100~1000 サイクル
- 紫外線促進耐候試験:キセノンアーク又はサンシャイン、色差と伸び保持率を評価する
- 引裂試験・実組付試験:組付時の欠損リスクを確認する
- アウトガス試験:真空・電気接点用途では質量減少と凝縮性物質量を測定する
- 実部品での耐久試験:荷重、応力、温度、薬品、繰返し回数を実条件で設定する
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | FVMQ との違い |
|---|---|---|
| シリコーンゴム(VMQ) | 耐熱性・耐寒性・電気絶縁性に優れる汎用シリコーンゴム | 低温特性と電気特性は VMQ が上回るが、燃料・炭化水素油では大きく膨潤する。耐油部位では FVMQ を選定する |
| フッ素ゴム(FKM) | 主鎖が C-C のフッ素系エラストマー。耐熱・耐油・耐薬品性が高い | 高温耐油性・機械的強度は FKM が優れるが、低温側は一般に −20 ℃ 前後が限界であり、−40 ℃ 以下では FVMQ が有利である |
| パーフルオロエラストマー(FFKM) | ほぼ全面フッ素化された最高水準の耐薬品性エラストマー | 耐薬品性は FFKM が圧倒的に優れるが、価格は桁違いに高く、低温特性は FVMQ が有利である |
| アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR) | 代表的な耐油ゴム。価格が安く機械的強度が高い | 強度・耐摩耗性・価格は NBR が有利。耐熱性、耐候性、低温耐油性は FVMQ が優れる |
| エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM) | 耐水・耐蒸気・耐ブレーキ液・耐候性に優れる | 水・蒸気・グリコール系ではEPDM が優れるが、鉱物油・燃料には使用できない。用途が明確に分かれる |
| クロロプレンゴム(CR) | 耐候性・耐オゾン性・難燃性のバランスが良い汎用合成ゴム | 価格と強度は CR が有利。耐熱性・耐燃料油性・低温特性は FVMQ が優れる |
| ポリテトラフルオロエチレン(PTFE) | 最高水準の耐薬品性と低摩擦性を持つフッ素樹脂 | PTFE は樹脂でありゴム弾性を持たない。追従性・シール復元力が必要な部位では FVMQ を選定する |
| フッ素樹脂(総称) | PTFE、PFA、FEP、ETFE、PVDF などの総称 | 耐薬品性は一般に樹脂側が優れるが、弾性回復とシール性はエラストマーである FVMQ が優れる |
代表的なメーカー
| メーカー | 代表製品・ブランド(代表例) | 概要 |
|---|---|---|
| 信越化学工業 | フロロシリコーンゴムコンパウンド(代表例) | シリコーン全般で国内最大手であり、ミラブル型・液状型を含む幅広い製品群を持つ |
| ダウ・東レ | SILASTIC™ シリーズ(代表例) | シリコーンエラストマーの主要供給者であり、フロロシリコーン系のコンパウンドを供給している |
| モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ | フロロシリコーンゴムコンパウンド(代表例) | 工業用シリコーンエラストマーを幅広く展開する |
| ワッカーケミー | ELASTOSIL® シリーズ(代表例) | 欧州系のシリコーン大手であり、各種エラストマーコンパウンドを供給する |
上記メーカー・ブランドは代表例である。ブランド名およびグレード名は改廃・統合される場合があるため、最新情報は各メーカーに直接確認すること。また、実際の部品調達では、コンパウンドメーカーとは別に、O リング・成形品メーカーのグレード指定が用いられる場合がある。
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本ページの数値及び評価は、材料群としての代表値又は目安である。実使用では、メーカー、グレード、硬さ、配合、充填材、加硫系、二次加硫条件、試験規格、温度、濃度、荷重、応力、湿度、時間、試験片形状、成形条件及び法規制を確認する必要がある。