概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 材料名 | 液状シリコーンゴム |
| 略記号 | LSR、LIM用シリコーンゴム、液状VMQ |
| IUPAC | 主鎖成分は一般に poly(dimethylsiloxane) であり、付加硬化型ではビニル基含有ポリジメチルシロキサンとメチルハイドロジェンシロキサン系架橋剤から構成される。 |
| 英語名 | Liquid Silicone Rubber、Liquid Silicone Elastomer、LSR |
| 日本語名 | 液状シリコーンゴム、液状シリコーンエラストマー、液状シリコーン、LIM用シリコーンゴム |
| 分類 | 熱硬化性エラストマー、シリコーン系ゴム、付加硬化型シリコーンゴム |
| プラスチック分類 | プラスチックというよりは熱硬化性エラストマーに分類される。汎用プラスチック、エンプラ、スーパーエンプラとは分類軸が異なる材料である。 |
| 化学式または代表構造 | 主鎖の代表構造:[-Si(CH3)2-O-]n。架橋後は Si-O-Si 主鎖を持つ三次元網目状エラストマーとなる。 |
| CAS No. | 架橋後の液状シリコーンゴム全体としては単一のCAS No.で表しにくい。代表的なポリジメチルシロキサンは 63148-62-9、ビニル末端ポリジメチルシロキサンは 68083-19-2 が用いられることがある。 |
| 構造・主成分 | ビニル基含有ポリジメチルシロキサン、シリカ系補強充填材、白金触媒、ハイドロジェンシロキサン系架橋剤、抑制剤、顔料、必要に応じて耐熱剤、難燃剤、接着付与剤などからなる。 |
| 主な用途 | 医療部品、食品接触部品、乳幼児用品、シール、パッキン、Oリング、コネクタシール、キーパッド、電気絶縁部品、車載部品、光学部品、ウェアラブル部品、チューブ、膜、バルブなど。 |
液状シリコーンゴム(LSR)は、低粘度の二液型シリコーンゴムを混合し、加熱金型内で白金触媒による付加反応により硬化させる熱硬化性エラストマーである。一般にA液とB液に分かれて供給され、射出成形機により定量混合、脱泡、射出、加熱硬化を行う。成形システムはLIM(Liquid Injection Molding)またはLIMS(Liquid Injection Molding System)と呼ばれることが多い。
シリコーンゴム基本骨格はシリコーンゴムと同じSi-O-Si結合を持つポリシロキサンであり、耐熱性、耐寒性、耐候性、電気絶縁性、生理的安定性に優れる。ミラブル型シリコーンゴムに比べて自動化成形、短サイクル成形、精密成形、複合成形に適しており、医療、食品、自動車、電気・電子分野で広く用いられる。
一方で、引裂強さ、耐摩耗性、耐油性、耐溶剤性、ガスバリア性は有機ゴムや一部のエンプラに劣る場合がある。材料選定では、硬さ、透明性、圧縮永久ひずみ、低分子シロキサン、二次加硫の要否、食品接触・医療規格、使用温度、薬品接触、圧縮荷重、使用時間を確認する必要がある。
特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 長所 | 耐熱性、耐寒性、耐候性、電気絶縁性、透明性、柔軟性、低圧縮永久ひずみ、生体適合性、食品接触適性に優れるグレードが多い。低粘度で複雑形状へ充填しやすく、射出成形の自動化に適する。 |
| 短所 | 一般に耐摩耗性、引裂強さ、耐油性、耐燃料性、耐芳香族溶剤性、耐塩素系溶剤性は限定的である。シリコーン特有のガス透過性、アウトガス、低分子シロキサン、金型汚れ、白金触媒阻害にも注意を要する。 |
| 外観 | 原料は透明から半透明の液状またはペースト状である。硬化後は透明、半透明、乳白色、着色品などがあり、光学用では高透明・低ヘイズグレードが使用される。 |
| 耐熱性 | 一般に連続使用温度は約150〜200℃程度が目安であり、耐熱グレードではさらに高温短時間使用に対応する。長時間使用では硬化、圧縮永久ひずみ、物性低下、揮発成分を確認する必要がある。 |
| 耐寒性 | 低温柔軟性に優れ、一般に-50℃前後でも弾性を保持しやすい。低温シール、屋外部品、冷凍・低温機器用途に適する。 |
| 耐薬品性 | 水、温水、希酸、希アルカリ、アルコール類には比較的安定な場合が多い。一方、芳香族炭化水素、ガソリン、燃料油、塩素系溶剤、強酸、強アルカリ、高温蒸気では膨潤・劣化する場合がある。 |
| 加工性 | 液状射出成形に非常に適する。低粘度で細部に流れやすく、バリレス、ランナーレス、自動取出し、多数個取り、インサート成形、2色・2材成形に対応しやすい。 |
| 分類上の注意 | 名称に「ゴム」を含むため、熱可塑性プラスチックではない。硬化後は再溶融しない熱硬化性エラストマーであり、液状シリコーン、シリコーン、シリコーンオイルとは用途・架橋状態が異なる。 |
構造式
化学式の画像
画像タグは使用せず、白黒表示相当のテキスト構造式で示す。液状シリコーンゴムの代表的な主鎖構造は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)の -Si-O- 主鎖である。
| 項目 | 構造・内容 |
|---|---|
| 代表的な構造単位 | [-Si(CH3)2-O-]n |
| ビニル基含有成分 | CH2=CH-Si(CH3)2-O-[-Si(CH3)2-O-]n-Si(CH3)2-CH=CH2 |
| 架橋剤の代表構造 | [-Si(CH3)(H)-O-]m を含むメチルハイドロジェンシロキサン系ポリマー |
| 基本反応 | ≡Si-CH=CH2 + H-Si≡ → ≡Si-CH2-CH2-Si≡ |
| 反応形式 | 白金触媒によるヒドロシリル化付加反応であり、一般に縮合型のようなアルコールや水などの副生成物を発生しにくい。 |
| モノマーまたは構成単位 | ジメチルシロキサン単位、メチルビニルシロキサン単位、メチルハイドロジェンシロキサン単位、シリカ補強充填材など。 |
| 共重合体・変性グレード | 高透明、耐熱、低圧縮永久ひずみ、自己接着、医療、食品接触、難燃、導電、熱伝導、フロロシリコーン系などの変性グレードがある。耐油・耐燃料性を重視する場合はフロロシリコーンゴム系LSRが候補となる。 |
種類
| 種類の名称 | 主成分または特徴 | 長所 | 短所 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 汎用LSR | ビニル基含有PDMSとシリカ補強材を主体とする標準グレード | 成形性、耐熱性、耐寒性、柔軟性のバランスが良い | 耐油性、耐燃料性、耐摩耗性は限定的 | パッキン、キーパッド、日用品、一般工業ゴム部品 |
| 高透明LSR | 透明性を高めたシリカ配合および屈折率調整グレード | 透明性、耐候性、耐UV性に優れる | 汚れ、気泡、金型表面状態の影響を受けやすい | レンズ、導光部品、光学カバー、LED部品 |
| 耐熱LSR | 耐熱安定剤を配合した高温使用向けグレード | 高温下での硬化劣化や圧縮永久ひずみを抑えやすい | 着色、透明性低下、コスト上昇が生じる場合がある | 車載シール、オーブン部品、電装部品、高温パッキン |
| 低圧縮永久ひずみLSR | シール用途向けに圧縮永久ひずみを抑えたグレード | 長期シール性、復元性に優れる | 硬さ、成形条件、二次加硫条件の管理が重要 | Oリング、ガスケット、バルブ、密封部品 |
| 自己接着LSR | 接着付与成分を含み、樹脂や金属との一体成形に対応するグレード | プライマー工程を省ける場合があり、複合部品を量産しやすい | 相手材、表面状態、金型温度、成形条件により接着力が変化する | PC、PBT、PA、金属との複合シール、コネクタ、ハウジング一体部品 |
| 医療・食品接触LSR | 抽出物や揮発成分を抑え、各種規格適合を意識したグレード | 清浄性、生体適合性、耐滅菌性に優れるグレードがある | 規格適合はグレード単位で確認が必要であり、全LSRに適用できるわけではない | 医療チューブ、マスク、弁、乳首、食品機械シール、調理器具 |
| 難燃LSR | 難燃性を付与したシリコーンゴムグレード | 電気・電子部品で難燃性要求に対応しやすい | 機械特性、透明性、成形性に影響する場合がある | 電気絶縁部品、コネクタ、ケーブル周辺部品 |
| 導電・熱伝導LSR | カーボン、金属酸化物、セラミック系フィラーなどを配合 | 柔軟性を保ちながら導電性または放熱性を付与できる | 粘度上昇、成形性低下、比重上昇、引裂強さ低下に注意が必要 | 導電接点、EMI部品、放熱シート、電子部品封止周辺部品 |
| 液状フロロシリコーンゴム | フロロシリコーン構造を持つLSR系材料 | 通常のLSRより燃料、油、溶剤に対する耐性を高めやすい | コストが高く、硬さや成形条件の選択範囲が限定される場合がある | 燃料系シール、車載流体部品、航空機・産業機器シール |
成形加工
| 加工方法 | 適性 | 内容・注意点 |
|---|---|---|
| 液状射出成形(LIM、LIMS) | ◎ | 最も代表的な加工方法である。A/B二液を定量混合し、冷却された射出部から高温金型へ射出して短時間で硬化させる。 |
| インサート成形 | ◎ | 金属、PC、PBT、PAなどとの一体成形に適する。自己接着グレードではプライマーを省略できる場合がある。 |
| 多色・多材成形 | ◎ | 熱可塑性樹脂との複合部品に適する。相手材の耐熱性、金型温度、接着性、寸法収縮差を確認する。 |
| 圧縮成形 | ○ | 小ロットや試作では対応できるが、液状材料の流動管理、バリ、計量性に注意が必要である。 |
| トランスファー成形 | ○ | 液状材料を金型内へ移送して加熱硬化させる。射出成形ほどの自動化性はないが、部品形状により採用される。 |
| 押出成形 | △ | 一般的なLSRは射出成形向けが中心である。押出チューブやコーティングには専用液状シリコーンやシリコーンゴムグレードを選定する。 |
| 押出コーティング | ○ | 繊維、フィルム、チューブへのコーティング用途で使用されることがある。接着性、硬化条件、塗布厚みの管理が重要である。 |
| ブロー成形 | × | 熱可塑性樹脂のように溶融パリソンを膨らませる加工には適さない。 |
| 真空成形 | × | 熱可塑性シートを加熱軟化させる成形ではないため、一般的な真空成形には適さない。 |
| 切削加工 | △ | 硬化後のゴム弾性が高く、寸法精度やバリ処理が難しい。試作や単純形状では可能だが、量産は金型成形が一般的である。 |
| 接着・二次加工 | ○ | シリコーン系接着剤、プラズマ処理、プライマーを用いる場合がある。低表面エネルギーのため、接着設計には注意が必要である。 |
代表的な成形条件
| 項目 | 代表値・目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 材料乾燥 | 通常不要 | 吸湿性は低いが、結露、水分混入、異物混入は外観不良や硬化不良の原因となる。 |
| A/B混合比 | 一般に1:1 | グレードにより異なるため、メーカー指定条件を優先する。 |
| 材料供給温度 | 20〜30℃程度 | ポンプ供給、計量、混合安定性のため、材料温度の変動を抑える。 |
| シリンダー・射出部温度 | 冷却または低温管理 | 射出部で反応硬化しないように、熱可塑性樹脂とは逆に低温側で管理する。 |
| 金型温度 | 120〜180℃程度 | 一般には150〜180℃付近で使用されることが多い。肉厚、硬化速度、接着性により調整する。 |
| 硬化時間 | 数秒〜数分 | 肉厚、金型温度、グレード、硬さ、成形品形状により大きく変化する。 |
| 成形収縮率 | 2.0〜4.0%程度 | グレード、硬さ、フィラー量、金型温度、後加硫条件で変化する。 |
| 二次加硫 | 必要に応じて実施 | 低分子シロキサン低減、圧縮永久ひずみ改善、医療・食品用途の抽出物低減を目的に行う場合がある。 |
| 金型設計 | 冷却ランナー、高温キャビティ、真空引きが有効 | 材料の低粘度によりバリが出やすい。ベント、離型、熱膨張、シール面精度が重要である。 |
代表的な物性値又は機械的性質
| 項目 | 単位 | 汎用LSR | 高透明LSR | 耐熱LSR | フィラー高充填LSR | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 硬さ | Shore A | 30〜70 | 5〜70 | 40〜80 | 40〜90 | 代表値であり、軟質から高硬度まで幅広い。 |
| 密度・比重 | g/cm3 | 1.08〜1.18 | 1.03〜1.15 | 1.10〜1.25 | 1.3〜2.5 | 熱伝導・導電グレードではフィラーにより大きくなる。 |
| 引張強さ | MPa | 5〜10 | 4〜9 | 5〜10 | 3〜8 | シリカ補強、硬さ、二次加硫条件により変化する。 |
| 伸び | % | 300〜800 | 250〜900 | 200〜700 | 100〜500 | 柔軟で高伸長のグレードが多い。 |
| 引裂強さ | kN/m | 15〜45 | 10〜40 | 15〜45 | 10〜35 | 切欠き、バリ、成形品形状の影響を受けやすい。 |
| 曲げ弾性率 | MPa | 該当しにくい | 該当しにくい | 該当しにくい | 該当しにくい | ゴム材料であるため、プラスチックの曲げ弾性率より硬さ、100%モジュラス、圧縮特性で評価することが多い。 |
| 100%モジュラス | MPa | 0.5〜4.5 | 0.3〜4.0 | 0.8〜5.0 | 1.0〜8.0 | 硬さと補強材量に依存する。 |
| アイゾット衝撃強さ | kJ/m2 | 該当しにくい | 該当しにくい | 該当しにくい | 該当しにくい | 熱可塑性樹脂の衝撃試験より、反発弾性、引裂、疲労性で評価する。 |
| 圧縮永久ひずみ | % | 10〜35 | 10〜40 | 10〜30 | 15〜45 | 温度、時間、圧縮率、二次加硫条件で大きく変化する。 |
| 荷重たわみ温度 | ℃ | 該当しにくい | 該当しにくい | 該当しにくい | 該当しにくい | ゴム弾性材料のため、HDTより連続使用温度と圧縮永久ひずみで評価する。 |
| 融点 | ℃ | なし | なし | なし | なし | 硬化後は熱硬化性網目構造となり、明確な融点を示さない。 |
| ガラス転移温度 | ℃ | -120前後 | -120前後 | -120前後 | -120前後 | 低温柔軟性に優れる要因である。 |
| 連続使用温度 | ℃ | -50〜180 | -50〜180 | -50〜200 | -40〜180 | 短時間では200℃を超える使用が可能な場合もあるが、時間と圧縮応力で確認が必要である。 |
| 吸水率 | % | 0.1以下 | 0.1以下 | 0.1以下 | 0.1〜0.3 | PA、PBT、PET、PUと比較して吸水による寸法変化は小さい。 |
| 体積抵抗率 | Ω・cm | 1014〜1016 | 1014〜1016 | 1014〜1016 | 100〜1016 | 導電グレードでは配合により大きく低下する。 |
| 誘電率 | 1MHz | 2.8〜3.3 | 2.8〜3.3 | 2.8〜3.5 | 3〜10以上 | 電気絶縁用途では周波数、温度、湿度で確認する。 |
| 難燃性 | UL94 | HB〜V-0相当グレードあり | グレードによる | グレードによる | V-0相当グレードあり | UL認定は材料グレード、厚み、色で確認する。 |
| 酸素指数 | % | 25〜35程度 | 25〜35程度 | 25〜35程度 | 30以上のグレードあり | 難燃グレードでは高くなる場合がある。 |
耐薬品性
| 薬品分類 | 代表薬品 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 酸類 | 希塩酸、希硫酸、酢酸 | ○ | 常温・低濃度では比較的安定である。強酸、高温、長時間接触では劣化する場合がある。 |
| 強酸 | 濃硫酸、濃硝酸、発煙酸 | × | 酸化性強酸では分解、硬化、膨潤、表面劣化が起こりやすい。 |
| アルカリ類 | 希水酸化ナトリウム、希KOH | ○ | 低濃度・常温では使用可能な場合が多いが、高温高濃度ではSi-O主鎖の劣化に注意する。 |
| 強アルカリ | 濃水酸化ナトリウム、濃水酸化カリウム | △ | 濃度、温度、時間により劣化する。シール用途では実液試験が必要である。 |
| 低級アルコール類 | メタノール、エタノール、IPA | ○ | 短時間接触では比較的安定な場合が多い。抽出物、膨潤、硬さ変化を確認する。 |
| 高級アルコール類 | グリセリン、ベンジルアルコール、MMB | ○〜△ | 分子量、極性、温度により膨潤性が変わる。長期浸漬では確認が必要である。 |
| 芳香族炭化水素類 | トルエン、キシレン、エチルベンゼン | × | SP値が近く膨潤しやすい。長時間接触やシール用途には一般LSRは適しにくい。 |
| 脂肪族炭化水素類 | ヘキサン、ヘプタン、ミネラルスピリット | △〜× | 膨潤しやすい場合がある。燃料・油用途ではフロロシリコーン系を検討する。 |
| ケトン | アセトン、MEK、MIBK | △ | 短時間接触では使用できる場合もあるが、膨潤、抽出、硬さ変化に注意する。 |
| エステル | 酢酸エチル、酢酸ブチル | △〜× | 膨潤しやすい薬品がある。塗料、接着剤、洗浄剤との接触では確認が必要である。 |
| 塩素系溶剤 | ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン | × | 著しく膨潤する場合が多く、一般には不適である。 |
| 水・温水 | 水道水、純水、温水 | ◎〜○ | 常温水には良好である。高温水、蒸気、加圧熱水では加水分解や圧縮永久ひずみに注意する。 |
| 油 | シリコーンオイル、植物油、鉱物油、潤滑油 | ○〜△ | 油種により膨潤が異なる。燃料油や芳香族成分を含む油では注意が必要である。 |
| 燃料 | ガソリン、軽油、アルコール混合燃料 | × | 一般LSRは膨潤しやすい。燃料接触では液状フロロシリコーンゴムやFKMなどを検討する。 |
| 洗浄剤 | 界面活性剤水溶液、中性洗剤 | ○ | 多くの場合は使用可能であるが、アルカリ性洗浄剤、溶剤系洗浄剤では確認が必要である。 |
SP値(溶解度パラメータ)
液状シリコーンゴムの主成分であるポリジメチルシロキサン系シリコーンゴムの代表的なSP値(δ)は、一般に約15〜16 MPa1/2程度が目安である。ただし、硬化後のLSRは三次元架橋構造を持つため、熱可塑性樹脂のように単純な溶解ではなく、膨潤、抽出、硬さ変化、圧縮永久ひずみ、表面劣化として現れることが多い。
SP値は溶剤との親和性を判断する目安であるが、耐薬品性はSP値だけでは判断できない。実使用では薬品の濃度、温度、接触時間、応力、圧縮率、添加剤、低分子シロキサン、二次加硫の有無、洗浄条件を確認する必要がある。
溶解性の目安
| SP値差 | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|
| 0〜2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2〜5 | 条件により膨潤する | △ |
| 5〜8 | 短時間接触では比較的安定 | ○ |
| 8以上 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP値から見た耐溶剤性
| 薬品名 | SP値 MPa1/2 | LSRとの差 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| ヘキサン | 14.9 | 約0〜1 | × | SP値が近く、膨潤しやすい。 |
| トルエン | 18.2 | 約2〜3 | × | 芳香族炭化水素は膨潤が大きくなりやすい。 |
| キシレン | 18.0 | 約2〜3 | × | 長時間接触には適しにくい。 |
| 酢酸エチル | 18.6 | 約3 | △〜× | グレード、温度、時間により膨潤する。 |
| MEK | 19.0 | 約3〜4 | △ | 短時間接触でも膨潤や抽出を確認する。 |
| アセトン | 20.3 | 約4〜5 | △ | 短時間では使用可能な場合があるが、長期浸漬は注意する。 |
| IPA | 23.5 | 約8 | ○ | 洗浄用途で使われることがあるが、抽出物を確認する。 |
| エタノール | 26.0 | 約10〜11 | ○ | 常温短時間では比較的安定である。 |
| メタノール | 29.7 | 約14 | ○ | 高温、長期接触では物性変化を確認する。 |
| 水 | 47.9 | 約32 | ◎ | 常温水には非常に良好である。高温蒸気は別途確認する。 |
| シリコーンオイル | 約15〜16 | 約0 | △ | 同系材料で親和性が高く、膨潤やブリードに注意する。 |
| ガソリン | 約14〜18 | 約0〜3 | × | 一般LSRは燃料用途に不適な場合が多い。 |
評価基準は、◎非常に良好、○概ね良好、△注意が必要、×不適である。SP値差による評価は目安であり、架橋密度、フィラー、硬さ、二次加硫、接触温度、圧縮応力、薬品中の添加剤により結果が変わる。
製法
| 工程 | 内容 |
|---|---|
| 原料 | ビニル基含有ポリジメチルシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン系架橋剤、白金触媒、シリカ補強充填材、抑制剤、顔料、添加剤などを使用する。 |
| ポリマー合成 | 環状シロキサンやシロキサン中間体を開環重合または平衡化反応によりポリジメチルシロキサン系ポリマーへ調整する。 |
| コンパウンド | ベースポリマーへ補強シリカ、処理剤、添加剤を混練・分散する。LSRでは低粘度・ポンプ供給性を維持する配合設計が重要である。 |
| A液・B液分割 | 白金触媒を含む成分と、Si-H架橋剤を含む成分を分けて供給する。保管中に反応が進まないように抑制剤を配合する。 |
| 成形時混合 | 成形機でA液とB液を定量混合し、必要に応じて着色剤や添加剤を混合する。混合不良は硬化不良、粘着、物性低下の原因となる。 |
| 硬化反応 | 高温金型内で白金触媒によりビニル基とSi-H基が付加反応し、三次元網目構造を形成する。 |
| 二次加硫 | 用途により熱風炉で二次加硫を行い、揮発成分低減、圧縮永久ひずみ改善、臭気低減、医療・食品用途への適合性向上を図る。 |
| ペレット化 | 液状シリコーンゴムは一般的な熱可塑性樹脂のようなペレットではなく、ドラム、ペール、カートリッジなどの二液材料として供給される。 |
| 添加剤・充填材 | シリカ、耐熱剤、難燃剤、顔料、接着付与剤、導電フィラー、熱伝導フィラー、低摩擦添加剤などが用途に応じて使用される。 |
代表的な反応式
ビニル基含有シロキサンとハイドロジェンシロキサンの付加反応は、次のように表される。
≡Si-CH=CH2 + H-Si≡ 白金触媒・加熱 → ≡Si-CH2-CH2-Si≡
この反応はヒドロシリル化反応であり、一般に副生成物を発生しにくい。なお、硫黄、アミン、リン化合物、有機スズ、過酸化物残渣、一部の可塑剤や接着剤成分は白金触媒を阻害し、硬化不良を起こす場合がある。
詳細な利用用途
| 用途分野 | 代表用途 | 選定理由 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 自動車 | コネクタシール、Oリング、ガスケット、ダイヤフラム、センサー周辺部品、EV関連絶縁部品 | 耐熱性、耐寒性、圧縮復元性、電気絶縁性、自動成形性に優れる。 | 燃料、エンジンオイル、冷却液、ブローバイガスへの耐性は実液で確認する。燃料系ではフロロシリコーン系が候補となる。 |
| 電気・電子 | コネクタ防水シール、絶縁部品、キーパッド、LEDレンズ、センサー保護部品 | 絶縁性、耐熱性、耐候性、透明性、精密成形性に優れる。 | 低分子シロキサンによる接点障害、アウトガス、難燃性、UL認定を確認する。 |
| 機械部品 | パッキン、バルブ、ダンパー、柔軟カバー、保護キャップ | 弾性、低温柔軟性、耐候性、圧縮復元性に優れる。 | 摩耗、引裂、油、溶剤、摺動用途には注意が必要である。 |
| 医療 | チューブ、マスク、弁、シール、カテーテル部品、ウェアラブルセンサー接触部 | 生体適合性、柔軟性、透明性、耐滅菌性に優れるグレードがある。 | USP、ISO 10993、抽出物、二次加硫、滅菌方法、薬液接触をグレード単位で確認する。 |
| 食品機械・食品接触 | 食品機械シール、弁、パッキン、乳幼児用品、調理器具、製菓型 | 耐熱性、柔軟性、食品接触適性を持つグレードがある。 | FDA、BfR、食品衛生法、抽出物、着色剤、洗浄剤、蒸気殺菌条件を確認する。 |
| 建築・設備 | 屋外シール、耐候パッキン、防水部品、照明カバー、配管シール | 耐候性、耐UV性、耐オゾン性、温度範囲の広さに優れる。 | 機械的強度、引裂、施工時の接着性、長期圧縮ひずみを確認する。 |
| 光学 | LEDレンズ、導光体、透明カバー、光学センサー部品 | 高透明、低黄変、耐熱、耐UV、複雑形状成形が可能である。 | 屈折率、ヘイズ、気泡、金型転写、アウトガス、耐汚染性を確認する。 |
| 消費財 | スマートウォッチバンド、イヤホン部品、保護ケース、日用品、スポーツ用品 | 肌触り、柔軟性、耐汗性、着色性、耐候性に優れる。 | 皮脂、日焼け止め、化粧品、洗剤、着色移行、表面粘着を確認する。 |
代表グレード
| グレード区分 | 特徴 | 代表用途 | 選定上の注意 |
|---|---|---|---|
| 汎用 | 硬さ、引張、伸び、成形性のバランスを重視した標準グレード | 一般シール、キーパッド、日用品 | 耐油、耐燃料、耐摩耗用途では不足する場合がある。 |
| 耐熱 | 高温下での物性保持を重視したグレード | 車載、電装、高温パッキン | 連続使用温度、圧縮永久ひずみ、熱老化試験を確認する。 |
| 難燃 | UL94 V-0相当などを狙ったグレード | 電気・電子、コネクタ、絶縁部品 | 厚み、色、ULファイル、発煙、機械特性を確認する。 |
| フィラー強化 | シリカ、セラミック、カーボンなどを配合し、強度、熱伝導、導電性を付与 | 放熱部品、導電部品、耐久シール | 粘度上昇、成形圧、金型摩耗、比重上昇に注意する。 |
| 摺動・低摩擦 | 表面摩擦や粘着を抑えたグレード | 摺動シール、バルブ、操作部品 | 摩耗粉、相手材、潤滑剤、耐久試験を確認する。 |
| 食品接触 | 食品接触規格への適合を意識したグレード | 調理器具、食品機械シール、乳幼児用品 | FDA、BfR、食品衛生法、着色剤、二次加硫条件を確認する。 |
| 医療 | 生体適合性、低抽出物、清浄性を重視したグレード | 医療チューブ、弁、シール、マスク | ISO 10993、USP、滅菌条件、薬液接触、製造管理を確認する。 |
法規制・規格
| 項目 | 確認内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| RoHS | 鉛、カドミウム、水銀、六価クロム、PBB、PBDE、フタル酸エステル類などの制限物質 | 顔料、添加剤、難燃剤を含めてグレード単位で確認する。 |
| REACH | SVHC、制限物質、登録状況 | 欧州市場向けでは最新版の適合証明を確認する。 |
| 食品衛生 | 食品衛生法、ポジティブリスト、FDA 21 CFR、BfRなど | 食品接触用途では、原料、着色剤、二次加硫条件、抽出試験を確認する。 |
| 医療用途 | ISO 10993、USP Class VI、抽出物、溶出物、滅菌適性 | 医療用として販売されるグレードでも、最終製品での適合性確認が必要である。 |
| UL94 | HB、V-2、V-1、V-0などの燃焼性 | 認定厚み、色、グレード名を確認する。 |
| 低分子シロキサン | D3、D4、D5、D6などの揮発性環状シロキサン | 電気接点、光学部品、医療・食品用途ではアウトガスや揮発成分を確認する。 |
用途別選定
| 用途 | 推奨される確認項目 | 候補グレード |
|---|---|---|
| ギア | 摩耗、引裂、圧縮変形、寸法精度 | 一般には不向きである。柔軟ダンパー用途なら高硬度LSRを検討する。 |
| 軸受 | 摩擦、摩耗、荷重、発熱、油接触 | 一般には不向きである。摺動シール用途では低摩擦グレードを検討する。 |
| チューブ | 透明性、屈曲性、抽出物、滅菌、薬液適性 | 医療用LSR、食品接触LSR、押出用シリコーンゴム |
| 筐体 | 剛性、寸法安定性、表面傷、汚れ | 単独筐体には不向きであり、PC、PBT、PAなどとの複合シールとして使う。 |
| フィルム・膜 | 膜厚、透明性、ガス透過性、引裂、粘着 | コーティング用LSR、膜成形用シリコーンエラストマー |
| コネクタ | 防水性、圧縮永久ひずみ、耐熱、難燃、低分子シロキサン | 低圧縮永久ひずみLSR、難燃LSR、低シロキサングレード |
| シール・パッキン | 圧縮率、温度、薬品、使用時間、復元性 | 汎用LSR、低圧縮永久ひずみLSR、耐熱LSR |
| 光学部品 | 透過率、ヘイズ、黄変、アウトガス、金型転写 | 高透明LSR、光学用LSR |
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | 液状シリコーンゴムとの違い |
|---|---|---|
| ミラブルシリコーンゴム | 固形のシリコーンゴムで、圧縮成形、押出成形、カレンダー成形に使われる。 | LSRは液状で射出成形自動化に適し、精密・大量生産に向く。ミラブルは押出や大型部品に向く。 |
| フロロシリコーンゴム | 耐油性、耐燃料性を高めたシリコーン系ゴム。 | 一般LSRより燃料・油に強いが、コストが高く、選択できるグレードが限定される。 |
| EPDM | 耐候性、耐水性、耐蒸気性に優れる汎用合成ゴム。 | EPDMはコスト面で有利な場合が多いが、LSRは低温柔軟性、透明性、医療・食品用途、自動成形性で有利である。 |
| フッ素ゴム(FKM) | 耐油、耐燃料、耐薬品、耐熱性に優れる高機能ゴム。 | FKMは油・燃料に強いが、LSRは低温柔軟性、透明性、食品・医療用途、成形自動化で有利である。 |
| ポリウレタン(PU) | 耐摩耗性、機械強度、弾性に優れる。 | PUは摩耗や荷重に強いが、LSRは耐熱、耐候、低温柔軟性、生体適合性で有利である。 |
| ポリカーボネート(PC) | 透明性、耐衝撃性、剛性に優れる熱可塑性樹脂。 | PCは剛性部材、LSRは柔軟シール・レンズ・複合部材に使われる。自己接着LSRとの一体成形が行われる。 |
| PBT | 電気特性、寸法安定性、耐熱性に優れるエンプラ。 | PBTはコネクタハウジング、LSRは防水シールとして組み合わせられることが多い。 |
| PTFE | 耐薬品性、低摩擦性、耐熱性に非常に優れるフッ素樹脂。 | PTFEは耐薬品・摺動で優れるが、弾性シール性や射出による複雑形状量産ではLSRが有利な場合がある。 |
代表的なメーカー
| メーカー | 代表製品・ブランド | 概要 |
|---|---|---|
| 信越化学工業 | KE-1950シリーズ、KEGシリーズ、LIMS関連グレード | 日本の主要シリコーンメーカーであり、液状シリコーンゴム、自己接着グレード、食品・ヘルスケア向けグレードなどを展開している。 |
| Dow | SILASTIC | 液状シリコーンゴム、フロロ液状シリコーンゴム、医療・食品・工業向けシリコーン材料を幅広く展開する。 |
| Wacker Chemie | ELASTOSIL LR | 液状シリコーンゴムの主要メーカーであり、標準、自己接着、光学、医療、食品接触向けなどのグレードを展開している。 |
| Momentive Performance Materials | Silopren LSR | 液状シリコーンゴム、自己接着LSR、高透明LSR、医療関連シリコーンなどを展開する。 |
| Elkem Silicones | SILBIONE、BLUESIL | 医療、ヘルスケア、工業用途向けのシリコーンエラストマーを展開している。 |
| KCC Silicone | KCC LSR関連グレード | シリコーンゴム、液状シリコーンゴム、電子・自動車・ヘルスケア向け材料を扱う。 |
注意点
- 液状シリコーンゴムは熱硬化性エラストマーであり、熱可塑性樹脂のように再溶融成形できない。
- 吸水率は低いが、結露、水分、異物混入は外観不良、気泡、硬化不良の原因となる。
- 白金触媒は硫黄、アミン、リン化合物、有機スズ化合物、一部の可塑剤、接着剤、ゴム薬品により阻害される場合がある。
- 低分子シロキサンによるアウトガス、電気接点障害、光学部品の曇り、塗装・接着不良に注意する。
- 一般LSRは芳香族溶剤、塩素系溶剤、燃料油に膨潤しやすい。燃料系ではフロロシリコーン、FKM、PTFEなどと比較検討する。
- 高温使用では硬化、圧縮永久ひずみ、引裂強さ低下、揮発成分、変色を確認する。
- 蒸気、熱水、強酸、強アルカリでは条件により加水分解や劣化が進む場合がある。
- シール用途では硬さだけでなく、圧縮率、圧縮永久ひずみ、反力、温度、薬液、使用時間を確認する必要がある。
- 食品・医療用途では、材料グレードだけでなく、成形条件、二次加硫、洗浄、包装、滅菌後の最終製品評価が重要である。
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