ポリビニルフルオライド

概要

材料名ポリビニルフルオライド
英称Polyvinyl Fluoride
略号PVF
分類フッ素樹脂、熱可塑性樹脂
主な形態フィルム、ラミネート材、表面保護材

ポリビニルフルオライド(PVF)は、ビニルフルオライドを重合して得られるフッ素系熱可塑性樹脂である。代表的にはフィルム形態で使用され、耐候性、耐紫外線性、耐薬品性、耐汚染性に優れる。特に屋外暴露環境での色調保持性、表面保護性、長期耐久性が高く、建材、太陽電池バックシート、航空機内装、輸送機器、看板、膜材などに使用される。

PVFはポリビニリデンフルオライド(PVDF)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などと同じフッ素樹脂に分類されるが、PVDFやPTFEと比較すると主用途は成形品よりもフィルム・表面保護用途に偏る。

特徴

  • 耐候性、耐紫外線性、耐オゾン性に優れる。
  • 屋外暴露環境でも変色、白化、劣化が起こりにくい。
  • 酸、アルカリ、油、洗浄剤、汚染物質に対して比較的安定である。
  • フィルムとして柔軟性、引張強さ、耐折り曲げ性を持つ。
  • 表面の防汚性、耐汚染性が高く、建材や太陽電池用途に適する。
  • 透明品、白色品、着色品があり、意匠性と保護性を両立できる。
  • 単体で射出成形・押出成形されることは少なく、主にフィルムとして使用される。
  • 強極性溶剤、高温溶剤、強酸化性薬品では膨潤、白化、性能低下に注意を要する。

構造式

ポリビニルフルオライドは、ビニルフルオライド(CH2=CHF)を付加重合して得られる。

基本構造は次の通りである。

-[ CH2-CHF ]n

重合反応式は次のように表される。

n CH2=CHF → -[ CH2-CHF ]n

種類

種類の名称特徴主な用途長所短所
PVF透明フィルム透明性を持つ標準的なPVFフィルムである。保護フィルム、意匠フィルム、ラミネート材耐候性と透明性を両立する。厚肉成形品には不向きである。
PVF白色フィルム顔料を配合した白色タイプである。太陽電池バックシート、建材表皮材隠蔽性、耐紫外線性、外観保持性に優れる。透明性はない。
PVF着色フィルム顔料により着色した意匠用フィルムである。外装材、看板、車両部材、航空機内装色調保持性、耐汚染性に優れる。色調により耐候性が変動する。
二軸延伸PVFフィルム分子配向により機械強度を高めたフィルムである。高耐久ラミネート材、屋外保護材引張強さ、寸法安定性が高い。熱収縮や加工条件の管理が必要である。
無延伸PVFフィルム柔軟性と追従性を重視したフィルムである。複雑形状ラミネート、表皮材基材への追従性が良い。機械強度は延伸品より低い。
長所
  • 屋外耐候性が非常に高い。
  • 紫外線、水分、酸素、汚染物質に対して安定である。
  • 多くの酸、アルカリ、油、洗浄剤に耐える。
  • フィルムとして柔軟で、ラミネート加工に適する。
  • 白色・着色フィルムでは意匠性と保護性を両立できる。
短所
  • 一般的な射出成形材料としてはほとんど使用されない。
  • 高温下の強極性溶剤では膨潤や白化を起こす場合がある。
  • PTFEやPFAほどの最高耐熱性、最高耐薬品性はない。
  • フィルム材料としての供給が中心で、厚肉部品設計には制約がある。
成形加工
加工方法適正概要注意点
フィルム成形PVFの代表的な加工形態である。厚み、配向、表面処理条件により物性が変動する。
ラミネート加工金属、樹脂、繊維、太陽電池部材などの表面保護に使用する。接着剤、プライマー、熱圧条件の選定が重要である。
熱圧着基材との積層に用いられる。過熱により収縮、しわ、外観不良を生じる場合がある。
射出成形一般的な用途は少ない。PVFはフィルム用途が中心であり、成形材料としての流通は限定的である。
押出成形特殊条件でフィルム・シート化される。熱安定性、粘度、分解ガス管理が必要である。

代表的な物性値又は機械的性質

項目代表値単位備考
密度約1.38〜1.45g/cm3フッ素樹脂としては比較的軽量である。
融点約190〜210グレード、配向、添加剤により変動する。
連続使用温度約100〜120屋外保護フィルム用途で長期耐久性を示す。
引張強さ約50〜170MPa延伸フィルムでは高くなる。
伸び約50〜200%無延伸品、延伸品で大きく異なる。
引張弾性率約1.0〜3.0GPaフィルム配向により変動する。
吸水率低い耐湿性、耐加水分解性に優れる。
屈折率約1.45透明フィルム用途で参考となる。
燃焼性自己消火性を示す場合がある厚み、配合、規格条件により異なる。

耐薬品性

PVFは多くの酸、アルカリ、油、洗浄剤、汚染物質に対して良好な耐性を示す。ただし、強極性溶剤、高温溶剤、強酸化性薬品では膨潤、白化、接着層劣化、外観変化に注意が必要である。

薬品・溶剤耐性備考
吸水が少なく、耐湿性、耐加水分解性に優れる。
○〜◎多くの無機酸に安定である。強酸化酸では条件確認が必要である。
アルカリ常温のアルカリには比較的安定である。高温・高濃度では注意する。
アルコールエタノール、イソプロパノールなどには比較的良好である。
脂肪族炭化水素○〜◎ヘキサン、鉱物油、燃料油には比較的安定である。
芳香族溶剤△〜○トルエン、キシレンでは膨潤、白化、接着層への影響に注意する。
ケトンアセトン、MEKでは条件により膨潤、表面変化が起こる場合がある。
エステル酢酸エチルなどでは長時間接触や高温条件に注意する。
強極性溶剤△〜×DMF、NMP、DMSOなどでは膨潤、軟化の可能性がある。
塩素系溶剤ジクロロメタン、クロロホルムなどでは膨潤や外観変化に注意する。

更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照。

SP値(溶解度パラメータ)
SP値(溶解度パラメータ)

PVFのSP値は、結晶化度、配向、顔料、添加剤、フィルム構成、接着層の有無により変動する。ここでは実用上の耐溶剤性評価に用いやすい代表範囲として示す。

項目SP値(δ)
MPa1/2
備考
PVF(標準フィルム)約20.5〜22.0耐候性、耐薬品性に優れる。多くの水系薬品、油、洗浄剤に安定である。
PVF透明フィルム約20.5〜21.8透明性と耐候性を両立する。溶剤接触では白化、膨潤に注意する。
PVF白色フィルム約20.8〜22.2顔料配合により耐紫外線性、隠蔽性が高い。溶剤浸透はやや抑制される傾向がある。
PVF着色フィルム約20.8〜22.3顔料・添加剤の影響で範囲が広い。色調保持性と耐汚染性を重視する用途に適する。
二軸延伸PVFフィルム約21.0〜22.5配向により寸法安定性、機械強度が高い。溶剤浸透は低下する傾向がある。
PVFラミネート材約20.5〜22.5PVF自体は安定であるが、接着層、基材、プライマーの耐溶剤性も考慮する必要がある。
溶解性の目安
SP値差(Δδ)溶解性・膨潤性の目安評価上の注意
0〜2溶解、膨潤、軟化が起こりやすい範囲である。強極性溶剤や高温条件では短時間でも注意が必要である。
2〜5膨潤、白化、応力クラックが起こる場合がある。ラミネート材では接着層の劣化も確認する。
5以上一般に溶解しにくい範囲である。酸化性、加水分解性、添加剤抽出はSP値だけでは判断できない。
SP値から見た耐溶剤性
SP値から見た耐溶剤性

下表はPVF標準フィルムのSP値中央値を21.3 MPa1/2として算出した目安である。

薬品・溶剤SP値(δ)MPa1/2SP値差評価備考
47.926.6SP値差が大きく、PVFは耐水性、耐湿性に優れる。
メタノール29.78.4常温短時間では比較的安定であるが、長時間接触では確認が必要である。
エタノール26.04.7洗浄用途では比較的良好である。
イソプロピルアルコール23.52.2○〜△近い範囲であるため、長時間接触や応力下では注意する。
アセトン20.11.2SP値が近く、膨潤、白化、表面変化に注意する。
メチルエチルケトン19.02.3塗装、洗浄、接着工程では事前確認が必要である。
酢酸エチル18.62.7膨潤、外観変化、接着層への影響に注意する。
トルエン18.23.1△〜○PVF自体は比較的耐える場合があるが、ラミネート構成では注意する。
キシレン18.03.3△〜○長時間接触、高温条件では膨潤や白化に注意する。
ヘキサン14.96.4SP値差が大きく、脂肪族炭化水素には比較的安定である。
ガソリン約14〜16約5.3〜7.3○〜◎燃料油には比較的良好であるが、添加剤や温度条件を確認する。
ジクロロメタン20.21.1△〜×SP値が近く、膨潤や表面変化が起こりやすい。
クロロホルム18.72.6塩素系溶剤であり、長時間接触は避ける。
DMF24.83.5△〜×強極性溶剤であり、SP値差だけでなく極性相互作用に注意する。
NMP23.11.8×高温条件では膨潤、軟化、外観変化の可能性が高い。
DMSO26.75.4SP値差はあるが、強極性溶剤であるため注意が必要である。

上表はPVF標準フィルムのSP値中央値21.3 MPa1/2を基準としている。

評価基準:◎:非常に良好 ○:概ね良好 △:注意が必要 ×:不適

特に注意する溶剤は、アセトン、MEK、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、DMF、NMP、DMSOなどである。PVFフィルム単体では耐える場合でも、ラミネート材では接着層、プライマー、基材が先に劣化することがあるため、実使用条件で確認する必要がある。

製法

PVFは、ビニルフルオライドをラジカル重合することにより製造される。重合後、樹脂をフィルム化し、必要に応じて延伸、熱処理、表面処理、顔料配合、ラミネート加工を行う。

基本反応式は次の通りである。

n CH2=CHF → -[ CH2-CHF ]n

工程内容管理ポイント
モノマー精製ビニルフルオライドを重合に適した純度に調整する。不純物、水分、酸素を管理する。
ラジカル重合開始剤を用いてビニルフルオライドを重合する。分子量、分子量分布、反応温度、圧力を管理する。
樹脂回収重合体を回収し、乾燥、安定化を行う。残留モノマー、揮発分を低減する。
フィルム化溶融または特殊加工によりフィルム化する。厚み、表面平滑性、欠点を管理する。
延伸・熱処理必要に応じて分子配向を与え、寸法安定性を高める。引張強度、伸び、収縮率を調整する。
表面処理・ラミネート接着性を高め、基材に積層する。接着剤、プライマー、基材との相性を確認する。

詳細な利用用途

用途分野具体例採用理由
太陽電池バックシート、保護フィルム耐候性、耐紫外線性、耐湿性、電気絶縁性に優れる。
建築・建材外装材、膜材、屋根材、壁材表皮屋外耐久性、耐汚染性、色調保持性に優れる。
航空機内装パネル、装飾フィルム、保護ラミネート軽量性、耐汚染性、外観保持性に優れる。
輸送機器車両内外装、保護フィルム、装飾材耐候性、耐薬品性、洗浄性が良い。
看板・サイン屋外看板、表示板、グラフィック保護紫外線劣化、汚染、変色を抑える。
工業用ラミネート金属板、樹脂板、繊維材の表面保護基材に耐候性、防汚性、耐薬品性を付与する。

関連材料との比較

比較材料特徴PVFとの違い主な用途
PVDF耐薬品性、耐候性、成形性に優れるフッ素樹脂である。PVDFは成形品、配管、ライニングにも使われる。PVFはフィルム用途が中心である。配管、バルブ、フィルム、電池部材
PTFE最高レベルの耐薬品性、耐熱性、低摩擦性を持つ。PTFEは耐薬品性・耐熱性でPVFを上回るが、PVFは表面保護フィルムとして扱いやすい。シール、摺動材、ライニング、絶縁材
FEP溶融成形可能なフッ素樹脂で、耐薬品性に優れる。FEPは高耐薬品・高耐熱用途向けである。PVFは耐候フィルム、建材、太陽電池用途に強い。チューブ、電線被覆、フィルム
ETFE機械強度、耐候性、軽量性に優れるフッ素樹脂である。ETFEは膜構造材やフィルムで使用される。PVFは表面保護、ラミネート用途に適する。建築膜材、電線被覆、フィルム
PCTFEガスバリア性、低温特性に優れるフッ素樹脂である。PCTFEはバリア性重視、PVFは耐候性・表面保護性重視である。包装、低温機器、バリアフィルム
PEEK高耐熱、高強度、高耐薬品性を持つスーパーエンプラである。PEEKは構造部品に適し、PVFはフィルム表面保護に適する。機械部品、航空宇宙、医療、電気電子

代表的なメーカー

メーカー代表製品・関連製品特徴
DuPontTedlarPVFフィルムの代表的メーカーであり、太陽電池、建材、航空機、輸送機器、グラフィック用途で使用される。
平岡織染PVFフィルムラミネート膜材建築膜材、屋外膜構造材などでPVFフィルムを用いた製品を展開する。
各種ラミネートメーカーPVFラミネート材、太陽電池バックシートPVFフィルムを基材、接着層、金属、樹脂フィルムなどと複合化して使用する。
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