概要
| 材料名 | ポリビニリデンフルオライド |
|---|---|
| 略記号 | PVDF |
| 英語名 | Polyvinylidene Fluoride |
| 別名 | ポリフッ化ビニリデン、二フッ化ビニリデン樹脂 |
| 分類 | 結晶性フッ素樹脂、エンジニアリングプラスチック |
| 構造・主成分 | ビニリデンフルオライドを重合したフッ素系高分子 |
| 主な用途 | 配管、バルブ、ポンプ部品、電線被覆、リチウムイオン電池用バインダー、膜材料、耐候性塗料 |
ポリビニリデンフルオライドは、ビニリデンフルオライドを主成分とする結晶性フッ素樹脂である。 PTFEに比べて溶融成形しやすく、耐薬品性、耐候性、耐摩耗性、難燃性、電気特性のバランスが良い。 フッ素樹脂の中では機械的強度が高く、射出成形、押出成形、フィルム成形、コーティングに適用しやすい材料である。
特徴
- 耐薬品性が良く、酸、塩類、多くの脂肪族炭化水素に対して安定である。
- 耐候性、耐紫外線性が良く、屋外用途や化学設備部品に使用される。
- フッ素樹脂としては機械的強度が高く、耐摩耗性も良い。
- 融点は約170℃前後で、PTFEより低温で溶融成形できる。
- 難燃性が高く、UL94 V-0相当のグレードが多い。
- 誘電特性、絶縁性が良く、電線被覆や電子材料に使用される。
- 強アルカリ、高温アルカリ、極性溶媒、アミン類、ケトン類、エステル類では膨潤・溶解・劣化に注意が必要である。
構造式
ポリビニリデンフルオライドは、ビニリデンフルオライドの付加重合により得られる。
繰り返し構造:
-[ CH2-CF2 ]n-
基本反応式:
n CH2=CF2 → -[ CH2-CF2 ]n-
種類
| 種類の名称 | 特徴 | 主な用途 | 長所 | 短所 |
|---|---|---|---|---|
| PVDFホモポリマー | 標準的なPVDFで、強度、耐薬品性、耐候性のバランスが良い。 | 配管、バルブ、ポンプ、継手、シート、丸棒 | 剛性、耐薬品性、耐候性が良い。 | 低温衝撃性や柔軟性は共重合タイプに劣る。 |
| PVDFコポリマー | 柔軟性、耐衝撃性、低温特性を改良したタイプである。 | チューブ、フィルム、ライニング、電線被覆 | 柔軟性、耐ストレスクラック性が良い。 | ホモポリマーより剛性や耐熱性が低い場合がある。 |
| 高純度PVDF | 抽出物や金属不純物を低減したタイプである。 | 半導体、医薬、超純水、薬液配管 | 清浄性、耐薬品性が良い。 | 一般グレードより高価である。 |
| PVDFフィルム | 薄膜化したPVDFで、耐候性、圧電性、誘電性を利用する。 | センサー、コンデンサ、膜材料、保護フィルム | 薄膜加工性、電気特性が良い。 | 厚肉構造材には適さない。 |
| PVDF塗料・粉体塗装用 | 耐候性塗膜を形成するグレードである。 | 建材外装、金属パネル、屋外部材 | 耐候性、耐汚染性、光沢保持性が良い。 | 専用の配合、焼付け条件が必要である。 |
長所
- 耐薬品性、耐候性、耐紫外線性が良い。
- フッ素樹脂の中では機械的強度が高い。
- PTFEより溶融成形しやすい。
- 難燃性、低吸水性、電気絶縁性が良い。
短所
- 強アルカリ、アミン類、極性溶媒には注意が必要である。
- 連続使用温度はPTFE、PFA、FEPより低い。
- 汎用樹脂より高価である。
- 成形時の熱履歴や結晶化条件により物性が変化しやすい。
成形加工
| 加工方法 | 適正 | 概要 |
|---|---|---|
| 射出成形 | ◎ | コネクタ、バルブ、ポンプ部品、機械部品に適する。 |
| 押出成形 | ◎ | パイプ、チューブ、シート、丸棒、電線被覆に適する。 |
| フィルム成形 | ○ | 電池、膜材料、圧電フィルム、保護フィルムに使用される。 |
| 圧縮成形 | ○ | 厚板、切削素材、特殊部材に用いられる。 |
| 粉体塗装・コーティング | ○ | 耐候性、耐薬品性を付与する塗膜用途に適する。 |
| 切削加工 | ○ | 丸棒、板材から精密部品を加工できる。 |
SP値(溶解度パラメータ)
| 項目 | SP値(δ) MPa1/2 | 備考 |
|---|---|---|
| PVDF 標準グレード | 23.0 | 耐薬品性は良いが、極性溶媒では膨潤・溶解に注意する。 |
| PVDF ホモポリマー | 22.5~23.5 | 剛性と耐薬品性に優れる。強アルカリ、アミン類には注意が必要である。 |
| PVDF コポリマー | 22.0~23.0 | 柔軟性が高く、低温衝撃性が良い。溶剤耐性はグレード差がある。 |
| PVDF フィルム | 23.0 | 薄膜では溶剤による膨潤、応力割れ、寸法変化に注意する。 |
| PVDF GF強化 | 23.0 | 樹脂相のSP値はほぼ同等である。剛性、寸法安定性が向上する。 |
| PVDF CF強化 | 23.0 | 耐摩耗性、導電性、寸法安定性を付与したグレードである。 |
溶解性の目安
| Δδ | 挙動 |
|---|---|
| 0〜2 | 溶解しやすい |
| 2〜5 | 膨潤・軟化 |
| 5以上 | 溶解しにくい |
SP値から見た耐溶剤
| 溶剤・薬品 | SP値(δ) MPa1/2 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 水 | 47.9 | ◎ | 吸水率が低く、寸法安定性は良い。 |
| メタノール | 29.7 | ○ | 常温では概ね良好である。 |
| エタノール | 26.0 | ○ | 常温では概ね良好である。 |
| アセトン | 20.1 | △ | 膨潤、応力割れに注意する。 |
| メチルエチルケトン | 19.0 | △ | 長時間接触、高温では注意が必要である。 |
| 酢酸エチル | 18.6 | △ | グレード、応力状態により膨潤する場合がある。 |
| トルエン | 18.2 | ○ | 常温では比較的良好である。 |
| ヘキサン | 14.9 | ◎ | 脂肪族炭化水素には良好である。 |
| NMP | 23.0 | × | PVDFを溶解・膨潤させる代表的な溶媒である。 |
| DMF | 24.8 | × | 溶解性があり、使用は避ける。 |
| DMAc | 22.7 | × | 溶解性があり、使用は避ける。 |
| DMSO | 26.7 | △~× | 高温や長時間接触では注意が必要である。 |
| 希硫酸 | - | ◎ | 酸には比較的強い。 |
| 水酸化ナトリウム水溶液 | - | △ | 高温、濃アルカリでは劣化に注意する。 |
評価基準:◎:非常に良好 ○:概ね良好 △:注意が必要 ×:不適
上表はPVDFのSP値中央値23.0 MPa1/2を基準として、溶剤のSP値、極性、実使用での化学的影響を併せて評価した目安である。
注意:NMP、DMF、DMAc、DMSO、アミン類、強アルカリ、高温アルカリ、ケトン類、エステル類では、膨潤、溶解、応力割れ、強度低下が起こる場合がある。実使用では温度、濃度、応力、接触時間を確認する必要がある。
代表的な物性値又は機械的性質
| 項目 | 単位 | 代表値 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 密度 | g/cm3 | 1.75~1.80 | 標準グレードの代表範囲である。 |
| 融点 | ℃ | 165~178 | 結晶性フッ素樹脂である。 |
| ガラス転移温度 | ℃ | 約-40 | 低温でも比較的靭性を保つ。 |
| 引張強さ | MPa | 35~55 | フッ素樹脂の中では高い。 |
| 引張弾性率 | GPa | 1.5~2.5 | グレード、結晶化度で変化する。 |
| 伸び | % | 20~300 | ホモポリマー、コポリマーで差が大きい。 |
| 曲げ強さ | MPa | 50~100 | 成形条件により変動する。 |
| ロックウェル硬さ | - | R80~R120 | 比較的硬質で耐摩耗性が良い。 |
| 吸水率 | % | 0.03~0.05 | 低吸水で寸法安定性が良い。 |
| 連続使用温度 | ℃ | 約120~150 | 条件、グレードにより異なる。 |
| 体積抵抗率 | Ω・cm | 1014以上 | 電気絶縁性が良い。 |
| 燃焼性 | UL94 | V-0相当 | 難燃性が高い。 |
耐薬品性
| 薬品分類 | 耐薬品性 | 備考 |
|---|---|---|
| 水・塩類水溶液 | ◎ | 吸水率が低く、寸法安定性が良い。 |
| 無機酸 | ◎ | 希酸、多くの酸に対して良好である。 |
| アルカリ | △ | 常温低濃度では使用できる場合があるが、高温・高濃度では注意が必要である。 |
| 脂肪族炭化水素 | ◎ | ヘキサン、鉱物油などに対して良好である。 |
| 芳香族炭化水素 | ○ | 常温では比較的良好であるが、温度と応力に注意する。 |
| アルコール | ○ | 常温では概ね良好である。 |
| ケトン | △ | アセトン、MEKでは膨潤や応力割れに注意する。 |
| エステル | △ | 酢酸エチルなどではグレード差がある。 |
| アミド系溶媒 | × | NMP、DMF、DMAcは溶解性があり不適である。 |
| ハロゲン系溶剤 | △~○ | 種類、温度、応力により評価が変わる。 |
更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照
製法
PVDFは、ビニリデンフルオライド(VDF)を乳化重合、懸濁重合などによりラジカル重合して製造される。 重合後、洗浄、乾燥、造粒を行い、射出成形用、押出成形用、フィルム用、塗料用、電池バインダー用などのグレードに調整される。
基本反応式:
n CH2=CF2 → -[ CH2-CF2 ]n-
詳細な利用用途
- 化学設備:配管、継手、バルブ、ポンプ、タンクライニング、薬液移送部品
- 半導体・医薬:高純度薬液配管、超純水設備、フィルター、膜材料
- 電気・電子:電線被覆、ケーブルシース、絶縁部品、コンデンサフィルム
- 電池:リチウムイオン電池の正極・負極バインダー、セパレーター関連材料
- 建材:耐候性塗料、金属パネル、外装材コーティング
- 機械部品:摺動部品、ギア、ローラー、切削加工部品
- 膜・分離:精密ろ過膜、限外ろ過膜、水処理膜、ガス分離膜
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | PVDFとの違い | 主な選定ポイント |
|---|---|---|---|
| PTFE | 代表的なフッ素樹脂で、耐薬品性と耐熱性が非常に高い。 | PVDFはPTFEより成形しやすく、機械強度が高いが、耐熱性と耐薬品性はPTFEが優れる。 | 最高レベルの耐薬品性ならPTFE、溶融成形性と強度ならPVDF。 |
| PFA | 溶融成形可能な高耐薬品性フッ素樹脂である。 | PFAはPVDFより耐熱性、耐薬品性が高いが高価である。 | 高温薬液にはPFA、コストと強度のバランスではPVDF。 |
| ETFE | 耐薬品性、耐候性、機械強度のバランスが良いフッ素樹脂である。 | ETFEは耐衝撃性に優れ、PVDFは剛性、耐候性、バリア性で使われる。 | フィルム、電線、耐衝撃用途ではETFEも候補となる。 |
| FEP | 溶融成形でき、電気特性と耐薬品性が良い。 | FEPは耐薬品性が高いが、PVDFの方が機械的強度に優れる場合が多い。 | 電線、チューブの柔軟性と耐薬品性を重視する場合に比較する。 |
| PVC | 安価で加工しやすい汎用樹脂である。 | PVDFはPVCより耐候性、耐薬品性、耐熱性が高いが高価である。 | 薬液配管で耐久性を重視する場合はPVDFが有利である。 |
| PEEK | 高耐熱、高強度のスーパーエンプラである。 | PEEKは耐熱性、機械強度が高く、PVDFは耐薬品性、耐候性、フッ素樹脂特性に優れる。 | 高温荷重ではPEEK、薬液・屋外・電池用途ではPVDF。 |
代表的なメーカー
| メーカー | 代表ブランド・製品名 | 特徴 |
|---|---|---|
| アルケマ | Kynar | 配管、電線、塗料、電池、膜材料など幅広いPVDFグレードを展開する。 |
| ソルベイ | Solef | 高純度、押出、射出、フィルム、電池用途向けのPVDFを展開する。 |
| クレハ | KFポリマー | リチウムイオン電池バインダー、成形材料、フィルム用途で知られる。 |
| ダイキン工業 | ネオフロン系フッ素樹脂 | フッ素樹脂全般を展開し、用途に応じた材料選定が可能である。 |
| 3M | Dyneon系フッ素樹脂 | フッ素系材料の技術を有し、各種産業用途で使用される。 |