概要
| 材料名 | 耐衝撃性ポリスチレン |
|---|---|
| 英語名 | High Impact Polystyrene |
| 略号 | HIPS |
| 分類 | 汎用プラスチック、スチレン系樹脂、ゴム変性ポリスチレン |
| 主な構成 | ポリスチレンをポリブタジエンゴムで改質した熱可塑性樹脂である。 |
耐衝撃性ポリスチレンは、一般用ポリスチレン(GPPS)の透明性や剛性を一部犠牲にし、[[ポリブタジエンゴム]]を分散させることで衝撃強度を高めたスチレン系樹脂である。低コストで成形加工性が良く、真空成形、押出成形、射出成形に適するため、包装材、家電部品、食品容器、玩具、ディスプレイ部材などに広く使用される。
特徴
- GPPSより衝撃強度が高く、割れにくい。
- 成形加工性が良く、薄肉成形、押出シート、真空成形に適する。
- 低コストで量産性に優れる。
- 印刷性、塗装性、接着性が比較的良好である。
- 剛性、寸法安定性、外観性のバランスが良い。
- 透明性は低く、一般には乳白色から不透明である。
- 耐熱性、耐候性、耐溶剤性は高くない。
- 芳香族炭化水素、塩素系溶剤、ケトン類には弱い。
構造式
HIPSは単一の規則的な構造式で表しにくい材料であり、ポリスチレン連続相中にポリブタジエンゴム相が分散した二相構造である。
基本構成は次のように表される。
ポリスチレン相:[-CH2-CH(C6H5)-]n
ポリブタジエンゴム相:[-CH2-CH=CH-CH2-]m
HIPS:ポリスチレン連続相 + ポリブタジエンゴム分散相
実際の材料では、スチレンの重合中にポリブタジエンへグラフトした構造を含み、ゴム粒子が衝撃エネルギーを吸収することで耐衝撃性を高める。
種類
| 種類の名称 | 特徴 | 主な用途 | 長所 | 短所 |
|---|---|---|---|---|
| 標準HIPS | 汎用グレードで、剛性と耐衝撃性のバランスが良い。 | 包装材、日用品、玩具、雑貨 | 低コストで成形しやすい。 | 耐熱性、耐候性は限定的である。 |
| 高衝撃HIPS | ゴム成分を増やし、衝撃強度を高めたグレードである。 | 家電筐体、トレー、保護部品 | 割れにくく、低温衝撃性も改善される。 | 剛性、表面硬度、光沢が低下しやすい。 |
| 高剛性HIPS | 剛性を重視したグレードで、薄肉成形に向く。 | 食品容器、シート、カップ、蓋材 | 軽量化と形状保持性に優れる。 | 衝撃強度は高衝撃グレードより低い。 |
| 耐環境応力割れHIPS | ESCRを改良したグレードである。 | 冷蔵庫内装材、食品包装、発泡断熱材接触部材 | 油脂、発泡剤、洗剤接触時の割れを抑えやすい。 | 汎用品より価格が高い。 |
| 難燃HIPS | 難燃剤を配合したグレードである。 | 電気・電子部品、筐体部品 | 燃焼性を抑えられる。 | 機械特性、色調、リサイクル性に注意が必要である。 |
長所
- 汎用樹脂として安価である。
- GPPSより耐衝撃性が高い。
- 押出シート、真空成形、射出成形に適する。
- 印刷、塗装、接着、切削加工がしやすい。
- 食品容器、家電部品、包装材など用途が広い。
短所
- 透明性はGPPSより劣る。
- 耐熱性は高くない。
- 屋外耐候性は低く、紫外線で劣化しやすい。
- 芳香族炭化水素、塩素系溶剤、ケトン類で膨潤、溶解、クラックを生じやすい。
- 強酸化性薬品には適さない。
成形加工
| 加工方法 | 適正 | 概要 |
|---|---|---|
| 射出成形 | ◎ | 玩具、日用品、家電部品、筐体部品に適する。 |
| 押出成形 | ◎ | シート、フィルム、板材の量産に適する。 |
| 真空成形 | ◎ | 食品容器、トレー、冷蔵庫内装材、包装材に多用される。 |
| 切削加工 | ○ | 試作、治具、表示材の加工に使用できる。 |
| 接着・溶剤接着 | ○ | 溶剤接着は可能であるが、クラックや白化に注意する。 |
| 3Dプリント用サポート材 | △ | ABS用サポート材として使用されることがあるが、リモネンなどの溶剤処理が必要である。 |
代表的な物性値又は機械的性質
| 項目 | 単位 | 代表値 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 密度 | g/cm3 | 1.03~1.07 | 標準的なHIPSの範囲である。 |
| 引張強さ | MPa | 15~30 | GPPSより低めであるが、靭性は高い。 |
| 曲げ弾性率 | MPa | 1500~2500 | グレードにより剛性差がある。 |
| アイゾット衝撃強さ | kJ/m2 | 7~15 | 高衝撃グレードではさらに高い値を示す場合がある。 |
| 荷重たわみ温度 | ℃ | 75~95 | 耐熱用途では注意が必要である。 |
| 成形収縮率 | % | 0.3~0.7 | 寸法安定性は比較的良い。 |
| 吸水率 | % | 0.03~0.10 | 吸水は小さい。 |
| 連続使用温度 | ℃ | 60~80 | 高温連続使用には適さない。 |
耐薬品性
| 薬品名 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|
| 水 | ◎ | 吸水が少なく、常温では良好である。 |
| 希酸 | ○ | 常温、低濃度では比較的良好である。 |
| 希アルカリ | ○ | 常温では概ね使用可能である。 |
| アルコール類 | ○ | 短時間接触では比較的良好である。 |
| 油脂類 | △ | 環境応力割れに注意が必要である。 |
| 芳香族炭化水素 | × | トルエン、キシレンなどで膨潤、溶解しやすい。 |
| ケトン類 | × | アセトン、MEKなどで侵されやすい。 |
| 塩素系溶剤 | × | ジクロロメタン、クロロホルムなどで溶解、クラックを生じやすい。 |
◎:非常に良好 ○:概ね良好 △:注意が必要 ×:不適
更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照。
SP値(溶解度パラメータ)
| 項目 | SP値(δ)MPa1/2 | 備考 |
|---|---|---|
| HIPS 標準グレード | 18.0~19.0 | ポリスチレン相が主体で、芳香族溶剤に近いSP値を示す。 |
| HIPS 高衝撃グレード | 17.8~18.8 | ゴム成分の影響で標準グレードよりやや低めに見る。 |
| HIPS 高剛性グレード | 18.3~19.2 | ポリスチレン比率が高く、芳香族溶剤に注意が必要である。 |
| HIPS 難燃グレード | 18.0~19.5 | 難燃剤、添加剤により幅がある。 |
| HIPS シート・真空成形用 | 18.0~19.0 | 食品容器、トレー、家電内装材に使用される代表範囲である。 |
溶解性の目安
HIPSのSP値は概ね18.5 MPa1/2前後である。SP値が近い芳香族炭化水素、ケトン、エステル、塩素系溶剤では膨潤、白化、クラック、溶解が生じやすい。一方、水、希酸、希アルカリ、低級アルコールには比較的安定である。
SP値から見た耐溶剤性
SP値から見た耐溶剤性
| 薬品・溶剤 | SP値(δ)MPa1/2 | SP値差 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 水 | 47.9 | 29.4 | ◎ | SP値差が大きく、常温では良好である。 |
| メタノール | 29.7 | 11.2 | ○ | 短時間接触では比較的良好である。 |
| エタノール | 26.0 | 7.5 | ○ | 常温では概ね良好であるが、応力下では注意する。 |
| イソプロピルアルコール | 23.5 | 5.0 | △ | 長時間接触や応力下ではクラックに注意する。 |
| ヘキサン | 14.9 | 3.6 | △ | 膨潤、応力割れの可能性がある。 |
| 酢酸エチル | 18.6 | 0.1 | × | SP値が近く、軟化、膨潤、溶解の可能性が高い。 |
| アセトン | 20.3 | 1.8 | × | 侵されやすく、接触は避ける。 |
| MEK | 19.0 | 0.5 | × | 非常に近いSP値で、溶解やクラックを生じやすい。 |
| トルエン | 18.2 | 0.3 | × | HIPSを強く膨潤、溶解させる代表的溶剤である。 |
| キシレン | 18.0 | 0.5 | × | 芳香族溶剤であり、耐性は低い。 |
| ジクロロメタン | 20.2 | 1.7 | × | 溶解、白化、クラックを生じやすい。 |
| d-リモネン | 16.3 | 2.2 | × | HIPSを溶解または膨潤させるため、3Dプリント用サポート除去にも利用される。 |
※SP値差はHIPSのSP値中央値18.5 MPa1/2を基準として算出した目安である。実際の耐溶剤性は、グレード、添加剤、応力、温度、接触時間、成形条件により変化する。
◎:非常に良好 ○:概ね良好 △:注意が必要 ×:不適
特に注意する溶剤:トルエン、キシレン、アセトン、MEK、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、d-リモネンは、HIPSに膨潤、白化、クラック、溶解を生じやすいため、使用を避けることが望ましい。
製法
耐衝撃性ポリスチレンは、ポリブタジエンゴムをスチレンモノマーに溶解または分散させ、ラジカル重合によってポリスチレン相を形成することで製造される。重合中に一部のスチレンがポリブタジエンへグラフトし、ゴム粒子がポリスチレン中に分散した構造となる。
基本反応式は次のように表される。
n CH2=CH-C6H5 + ポリブタジエン ↓ ラジカル重合・グラフト化 [-CH2-CH(C6H5)-]n / ポリブタジエン分散相 ↓ 耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)
工業的には、塊状重合、懸濁重合、連続塊状重合などが用いられる。ゴム粒子径、ゴム含有量、分子量、添加剤配合により、衝撃強度、剛性、光沢、成形性、耐環境応力割れ性を調整する。
詳細な利用用途
- 食品容器、トレー、カップ、蓋材、ブリスターパック
- 冷蔵庫内装材、冷凍庫ライナー、家電部品
- テレビ、プリンター、OA機器などの筐体部品
- 玩具、文具、日用品、雑貨
- POPディスプレイ、看板、印刷用シート
- 医薬品包装、化粧品包装、工業用包装材
- 真空成形用シート、押出板、試作用板材
- 3Dプリント用サポート材
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | HIPSとの違い | 主な選定ポイント |
|---|---|---|---|
| ポリスチレン | 透明性、剛性、成形性に優れる。 | HIPSの方が衝撃強度に優れるが、透明性は低い。 | 透明性重視ならGPPS、耐衝撃性重視ならHIPSである。 |
| ABS樹脂 | 耐衝撃性、剛性、外観、成形性のバランスが良い。 | ABSの方が高性能であるが、HIPSの方が安価である。 | コスト重視ならHIPS、強度や外観重視ならABSである。 |
| ポリプロピレン | 軽量で耐薬品性に優れる。 | PPの方が耐薬品性に優れ、HIPSの方が印刷性、剛性感に優れる。 | 薬品接触用途ではPP、印刷・真空成形用途ではHIPSである。 |
| ポリ塩化ビニル | 難燃性、耐薬品性、加工性に特徴がある。 | PVCの方が耐薬品性、難燃性に優れるが、HIPSは軽量で成形しやすい。 | 難燃性や耐薬品性重視ならPVC、軽量・低コスト重視ならHIPSである。 |
| アクリル樹脂 | 透明性、耐候性、外観に優れる。 | PMMAは透明性と耐候性に優れ、HIPSは衝撃性と低コストに優れる。 | 透明外観ならPMMA、不透明な安価部品ならHIPSである。 |
代表的なメーカー
| メーカー名 | 主な製品・特徴 | 備考 |
|---|---|---|
| PSジャパン | ポリスチレン、HIPS系グレード | 国内の代表的なスチレン系樹脂メーカーである。 |
| 東洋スチレン | GPPS、HIPS、難燃グレード | 包装、家電、日用品用途に展開される。 |
| INEOS Styrolution | HIPS、GPPS、ABS、SANなど | スチレン系樹脂の大手メーカーである。 |
| Trinseo | HIPS、ポリスチレン系材料 | 包装、家電、工業用途に供給される。 |
| Innova | HIPS、GPPS、EPSなど | 家電、包装、冷蔵庫内装用途向けグレードを持つ。 |
| CHIMEI | HIPS、ABS、PMMAなど | アジアの代表的なスチレン系樹脂メーカーである。 |