概要
| 材料名 | エピスルフィド系樹脂 |
|---|---|
| 略記号 | EPIS、Episulfide Resin |
| 英語名 | Episulfide Resin、Episulfide-thiol Resin |
| 分類 | 硫黄含有高屈折率樹脂、熱硬化性光学樹脂 |
| 構造・主成分 | エピスルフィド基を持つモノマーとチオール系硬化剤を反応させた硫黄含有架橋樹脂 |
| 主な用途 | 高屈折率眼鏡レンズ、光学レンズ、プリズム、光学封止材、光学接着材 |
エピスルフィド系樹脂は、エポキシ基の酸素を硫黄に置き換えたエピスルフィド基を持つモノマーを主成分とする高屈折率樹脂である。硫黄原子を多く含むため分子屈折が大きく、透明性を保ちながら屈折率を高くできる点が特徴である。
主に眼鏡レンズなどの光学用途に用いられ、チオウレタン系樹脂やジエチレングリコールビスアリルカーボネート系樹脂よりも高屈折率化しやすい。一方、架橋密度や硫黄含有量が高いため、衝撃性、着色、耐熱黄変、成形条件には注意が必要である。
特徴
- 硫黄含有量が高く、高屈折率化しやすい。
- 透明性が高く、光学レンズ用途に適する。
- 薄肉レンズ化が可能で、眼鏡レンズの軽量化に寄与する。
- チオール硬化系では架橋構造を形成し、寸法安定性が良い。
- 一般的な汎用樹脂より耐溶剤性は良いが、強溶剤、芳香族溶剤、塩素系溶剤には注意を要する。
- 熱や紫外線により黄変する場合があるため、安定剤やコーティング設計が重要である。
構造式
代表的な基本構造は、エピスルフィド基を持つ硫黄含有モノマーがチオール化合物と開環付加反応して形成するチオエーテル系架橋構造である。
S
/ \
R-CH CH2 + HS-R'-SH → R-CH(S-R'-S-)-CH2-SH → 架橋型ポリチオエーテル樹脂
エピスルフィド基は三員環の硫黄含有環状スルフィドであり、チオール、アミン、塩基性触媒などにより開環反応する。硬化後は、チオエーテル結合、スルフィド結合、芳香族骨格、脂環式骨格などを含む架橋樹脂となる。
種類
種類の名称
| 種類 | 構成 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 標準エピスルフィド系樹脂 | エピスルフィドモノマーとチオール系硬化剤 | 高屈折率、透明性、硬度のバランスが良い。 | 眼鏡レンズ、光学レンズ |
| 高屈折率グレード | 高硫黄含有モノマー、芳香族硫黄化合物 | 屈折率を高めやすく、薄型レンズに適する。 | 超高屈折率眼鏡レンズ |
| 耐衝撃改良グレード | 柔軟骨格、ウレタン結合、改質剤を併用 | 脆さを抑え、レンズ加工性を改善する。 | 眼鏡レンズ、保護レンズ |
| 光学封止・接着グレード | 低粘度エピスルフィドモノマー、光・熱硬化系 | 透明性、密着性、屈折率調整性に優れる。 | 光学部品、センサー、LED周辺部材 |
長所
- 高屈折率であり、薄型光学部品を設計しやすい。
- 透明性が高く、光学用途に適する。
- 硬化後は架橋構造となり、耐熱性と寸法安定性を得やすい。
- チオウレタン系樹脂よりさらに高屈折率化できる場合がある。
短所
- 硫黄含有量が高いため、黄変や臭気に注意が必要である。
- 高屈折率化とアッベ数、耐衝撃性の両立が難しい。
- 硬化条件や不純物により透明性、着色、内部ひずみが変化しやすい。
- 一般成形材料ではなく、主に注型硬化、光学成形向けである。
成形加工
| 加工方法 | 適正 | 概要 |
|---|---|---|
| 注型重合 | ◎ | 眼鏡レンズなどで一般的に用いられる。モノマーを型内で熱硬化させる。 |
| 熱硬化成形 | ○ | 温度制御により硬化反応を進める。黄変、気泡、収縮管理が重要である。 |
| 光硬化 | △ | 薄膜、接着、封止用途では利用可能であるが、厚肉品では硬化深さに注意する。 |
| 射出成形 | × | 一般的な熱可塑性樹脂のような射出成形には適さない。 |
| 切削・研磨 | ○ | 硬化後のレンズ加工、研磨、コーティング工程に適用される。 |
代表的な物性値又は機械的性質
| 項目 | 単位 | 代表値 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 密度 | g/cm3 | 1.30〜1.45 | 硫黄含有量が多いほど高くなる傾向がある。 |
| 屈折率 | nD | 1.67〜1.76 | 高屈折率眼鏡レンズ用として用いられる。 |
| アッベ数 | – | 25〜36 | 高屈折率化すると低下しやすい。 |
| ガラス転移温度 | ℃ | 80〜130 | 組成、架橋密度、硬化条件で変化する。 |
| 鉛筆硬度 | – | H〜3H | レンズ用途では表面コートと併用される。 |
| 曲げ強さ | MPa | 70〜120 | 硬質であるが、衝撃には注意を要する。 |
| 吸水率 | % | 0.1〜0.5 | 一般に低吸水である。 |
| 光線透過率 | % | 85〜92 | 厚み、着色、硬化条件、コートにより変化する。 |
耐薬品性
| 薬品 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|
| 水 | ◎ | 吸水は小さく、短時間接触では良好である。 |
| 希酸 | ○ | 常温では概ね良好である。 |
| 希アルカリ | △ | 長時間接触では表面劣化に注意する。 |
| アルコール類 | ○ | 短時間接触では比較的良好である。 |
| ケトン類 | △ | 膨潤、白化、クラックに注意する。 |
| 芳香族炭化水素 | △ | トルエン、キシレンでは膨潤や応力割れに注意する。 |
| 塩素系溶剤 | × | ジクロロメタン、クロロホルムなどは不適である。 |
更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照。
SP値(溶解度パラメータ)
SP値(溶解度パラメータ)
| 項目 | SP値(δ)MPa1/2 | 備考 |
|---|---|---|
| エピスルフィド系樹脂 標準 | 20.5〜22.0 | 硫黄含有架橋樹脂であり、極性溶剤や芳香族溶剤には注意する。 |
| 高屈折率エピスルフィド系樹脂 | 21.0〜22.5 | 硫黄含有量が多く、溶解度パラメータはやや高めになりやすい。 |
| 耐衝撃改良エピスルフィド系樹脂 | 20.0〜21.5 | 柔軟成分の導入により標準品よりやや低めになる場合がある。 |
| ガラスフィラー配合品 | 20.5〜22.0 | 樹脂相のSP値が支配的であるが、寸法安定性は向上する。 |
溶解性の目安
エピスルフィド系樹脂は熱硬化性の架橋樹脂であるため、一般的な熱可塑性樹脂のように完全溶解するよりも、膨潤、白化、クラック、表面軟化として現れる場合が多い。SP値が近い溶剤ほど膨潤や応力割れのリスクが高い。
SP値から見た耐溶剤性
SP値から見た耐溶剤性
| 薬品・溶剤 | SP値(δ)MPa1/2 | SP値差 | 評価 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 水 | 47.9 | 26.7 | ◎ | SP値差が大きく、短時間接触では良好である。 |
| メタノール | 29.7 | 8.5 | ○ | 短時間では概ね良好であるが、長時間接触は避ける。 |
| エタノール | 26.0 | 4.8 | ○ | 洗浄用途では応力割れに注意する。 |
| アセトン | 20.3 | 0.9 | × | SP値が近く、膨潤、白化、クラックのリスクが高い。 |
| MEK | 19.0 | 2.2 | △ | 表面劣化や応力割れに注意する。 |
| 酢酸エチル | 18.6 | 2.6 | △ | 膨潤、表面荒れに注意する。 |
| トルエン | 18.2 | 3.0 | △ | 芳香族溶剤であり、長時間接触は避ける。 |
| キシレン | 18.0 | 3.2 | △ | 膨潤、応力割れに注意する。 |
| n-ヘキサン | 14.9 | 6.3 | ○ | 非極性溶剤であり比較的影響は小さい。 |
| ジクロロメタン | 20.2 | 1.0 | × | SP値が近く、塩素系溶剤であるため不適である。 |
| クロロホルム | 19.0 | 2.2 | × | 膨潤、クラック、白化を生じやすい。 |
| DMF | 24.8 | 3.6 | △ | 強極性溶剤であり、長時間接触は避ける。 |
上表はエピスルフィド系樹脂のSP値中央値を21.2MPa1/2として、各溶剤とのSP値差を目安にしたものである。
評価基準:◎:非常に良好 ○:概ね良好 △:注意が必要 ×:不適
特にアセトン、MEK、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエンなどは、膨潤、白化、応力割れを生じる可能性があるため注意を要する。
製法
エピスルフィド系樹脂は、エピスルフィド基を持つモノマーと多官能チオール化合物を混合し、触媒または開始剤により開環付加重合させて得られる。眼鏡レンズでは、液状モノマー組成物をガラス型や樹脂型に注入し、段階的に加熱して硬化させる注型重合が一般的である。
エピスルフィド化合物 + 多官能チオール化合物
↓ 開環付加重合
硫黄含有ポリチオエーテル架橋樹脂
基本反応では、チオール基がエピスルフィド環を開環し、チオエーテル結合を形成する。多官能成分を用いることで三次元架橋構造となり、透明性、硬度、耐熱性、寸法安定性を持つ硬化物となる。
詳細な利用用途
- 高屈折率眼鏡レンズ
- 薄型レンズ
- サングラスレンズ
- 光学レンズ
- プリズム
- 光学フィルター
- カメラ・センサー周辺部材
- 光学接着材
- 透明封止材
- 高屈折率コーティング材
関連材料との比較
| 比較材料 | 違い | 選定ポイント |
|---|---|---|
| ジエチレングリコールビスアリルカーボネート | ADC系樹脂は透明性と耐擦傷性に優れるが、屈折率はエピスルフィド系樹脂より低い。 | 標準的な眼鏡レンズならADC系、高屈折率・薄型化ならエピスルフィド系を選ぶ。 |
| CR-39 | CR-39はADC系樹脂の代表材料であり、屈折率は約1.50程度である。 | 透明性、加工性、コスト重視ならCR-39、高屈折率重視ならエピスルフィド系を選ぶ。 |
| チオウレタン系樹脂 | チオウレタン系樹脂も硫黄含有高屈折率樹脂であるが、エピスルフィド系はさらに高屈折率化しやすい。 | 耐衝撃性とのバランスならチオウレタン系、薄型化優先ならエピスルフィド系を検討する。 |
| ポリカーボネート | PCは耐衝撃性に優れるが、耐薬品性や表面硬度には注意が必要である。 | 安全性、耐衝撃性重視ならPC、高屈折率光学用途ならエピスルフィド系を選ぶ。 |
| アクリル樹脂 | PMMAは透明性が高いが、屈折率は低く、耐熱性も限定的である。 | 透明板や一般光学部品ならPMMA、薄型レンズならエピスルフィド系を選ぶ。 |
代表的なメーカー
| メーカー | 関連製品・分野 | 備考 |
|---|---|---|
| 三井化学 | 高屈折率レンズ材料、硫黄含有光学材料 | 眼鏡レンズ用モノマー・光学材料分野で代表的である。 |
| 三菱ガス化学 | 光学樹脂、特殊モノマー | 透明樹脂、光学材料、特殊化学品を展開する。 |
| HOYA | 眼鏡レンズ、光学レンズ | 高屈折率レンズ製品を展開する。 |
| ニコン・エシロール | 眼鏡レンズ、光学レンズ | 高屈折率レンズを含む光学製品を展開する。 |
| 東海光学 | 眼鏡レンズ | 高屈折率プラスチックレンズを扱う国内メーカーである。 |