フッ素ゴム

概要

材料名フッ素ゴム
略記号FKM、FPM
英語名Fluoro Rubber、Fluoroelastomer、Fluorocarbon Rubber
分類ゴム類、合成ゴム、フッ素系エラストマー、耐熱・耐油ゴム
プラスチック分類エラストマー系材料であり、一般的な熱可塑性プラスチック、エンプラ、スーパーエンプラには分類しない。ただし、耐熱性・耐薬品性はスーパーエンプラ領域の樹脂と比較されることが多い。
化学式代表例:VDF-HFP系共重合体
[-CH2-CF2-]m[-CF2-CF(CF3)-]n
CAS No.9011-17-0(フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体の代表例)
構造・主成分フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンなどを主成分とする部分フッ素化エラストマー
主な用途Oリング、オイルシール、ガスケット、燃料ホース、薬液シール、半導体装置部品、自動車部品、航空機部品、耐熱パッキン

フッ素ゴム(FKM)は、主鎖または側鎖にフッ素原子を多く含む合成ゴムである。炭素-フッ素結合の結合エネルギーが高いため、耐熱性、耐油性、耐薬品性、耐候性、耐オゾン性に優れる。

一般的なゴム材料の中では耐熱性と耐油性のバランスが特に良く、エンジン周辺、燃料系、化学装置、真空装置、半導体製造装置などの過酷な環境で使用される。反面、低温柔軟性、耐アミン性、耐ケトン性、耐エステル性、耐強アルカリ性には注意が必要である。

特徴

長所耐熱性、耐油性、耐燃料性、耐薬品性、耐候性、耐オゾン性、耐酸化性が非常に良い。
短所低温柔軟性はシリコーンゴムやEPDMに劣る。ケトン、エステル、アミン、強アルカリ、熱水蒸気では膨潤や劣化を起こす場合がある。
外観配合により黒色、茶色、緑色、白色などがある。シール材ではカーボンブラック配合の黒色が多い。
耐熱性連続使用温度は一般に約200℃前後であり、グレードにより230℃程度まで使用される。
耐油性鉱物油、潤滑油、燃料油、作動油に対して非常に良好である。
耐薬品性酸、油、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、塩素系溶剤に比較的強い。一方で、アセトン、MEK、酢酸エチル、アミン類、アンモニア、強アルカリには注意が必要である。
分類上の注意FKMはゴム材料であり、PTFEPVDFFEPなどのフッ素樹脂とは異なる。

構造式

FKMは単一の化学構造を持つ材料ではなく、複数の含フッ素モノマーを共重合したフッ素系エラストマーである。代表的な二元系FKMは、フッ化ビニリデン(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体である。

代表的な構成単位は以下のように表される。

n CH2=CF2 + m CF2=CF-CF3 → [-CH2-CF2-]n[-CF2-CF(CF3)-]m

三元系FKMでは、VDF、HFPに加えてテトラフルオロエチレン(TFE)を共重合する。さらに、低温性を改良するためにパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)などを導入したグレードもある。

種類

種類の名称主成分長所短所主な用途
二元系FKMVDF-HFP耐油性、耐燃料性、耐熱性のバランスが良い。低温性、耐塩基性、耐ケトン性には限界がある。Oリング、オイルシール、燃料系シール
三元系FKMVDF-HFP-TFE二元系より耐薬品性、耐燃料性、高温特性を高めやすい。グレードにより加工性や低温性が低下する場合がある。燃料ホース、薬液シール、耐熱ガスケット
低温FKMVDF-HFP-PMVE系など標準FKMより低温柔軟性が良い。一般FKMより高価であり、耐薬品性とのバランス確認が必要である。航空機シール、寒冷地用シール、燃料系部品
高フッ素FKMTFE、PMVE、VDFなど燃料、溶剤、酸に対する耐性が高い。価格が高く、配合と加硫条件の管理が必要である。化学装置、半導体装置、燃料系シール
パーフロロエラストマーFFKMFKMを超える耐熱性、耐薬品性、耐プラズマ性を持つ。非常に高価であり、一般用途には過剰性能となる場合がある。半導体装置、化学プラント、真空装置
成形加工
加工方法適正概要
圧縮成形Oリング、パッキン、ガスケットなどに多く使用される。金型内で加硫して成形する。
トランスファー成形複雑形状や寸法精度が必要なシール部品に適する。
射出成形量産性に優れる。加硫速度、金型温度、離型性の管理が重要である。
押出成形ホース、チューブ、コード、異形押出品に使用される。
カレンダー加工シート材やライニング材に用いられるが、配合粘度と加工温度の調整が必要である。

代表的な物性値又は機械的性質

項目代表値単位備考
密度1.75〜1.90g/cm3フッ素含有率が高いため、一般ゴムより高い。
硬さ60〜90Shore Aシール材では70A、75A、80Aが多い。
引張強さ7〜18MPa配合、加硫系、補強材により変動する。
伸び100〜300%低硬度品ほど伸びが大きい傾向がある。
圧縮永久ひずみ10〜35%高温シール用途では重要な選定項目である。
連続使用温度-20〜200耐熱グレードでは230℃程度まで使用される場合がある。
短時間耐熱温度250〜300短時間であっても配合、荷重、雰囲気により寿命は大きく変化する。
低温限界-10〜-30低温FKMでは-40℃付近まで対応するものがある。
体積抵抗率1010〜1014Ω・cm配合により絶縁性、導電性を調整できる。

耐薬品性

薬品・溶剤耐性備考
鉱物油耐油性は非常に良好であり、オイルシール用途に適する。
ガソリン・軽油燃料系シール、ホースに多く使用される。
芳香族炭化水素トルエン、キシレンには比較的強いが、膨潤確認が必要である。
塩素系溶剤耐性は比較的良いが、温度と濃度により膨潤する場合がある。
希酸多くの酸に良好な耐性を示す。
濃硫酸・濃硝酸酸化性酸ではグレードと条件確認が必要である。
アルコールメタノール、エタノールでは条件により使用可能である。
アセトン・MEK×ケトン系溶剤では膨潤、軟化、物性低下を起こしやすい。
酢酸エチル×エステル系溶剤では膨潤しやすい。
アミン類×アミン、アンモニア、塩基性薬品には不適である。
強アルカリ×高温・高濃度では劣化しやすい。
水・温水常温水は使用可能な場合が多いが、熱水・蒸気ではグレード確認が必要である。

更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照。

SP値(溶解度パラメータ)

FKMは架橋ゴムであるため、熱可塑性樹脂のように完全溶解するよりも、膨潤、軟化、硬化、亀裂、体積変化として現れることが多い。SP値が近い溶剤であっても、フッ素含有率、加硫系、充填材、温度、応力、浸漬時間により結果は変わる。

SP値差が小さいほど膨潤しやすい傾向があるが、FKMはフッ素原子による化学的安定性が高いため、SP値だけで耐薬品性を判断しない。ケトン、エステル、アミン、強アルカリはSP値差にかかわらず注意が必要である。

項目SP値(δ)備考
FKM標準品17.5〜19.0 MPa1/2耐油性、耐燃料性、耐炭化水素性に優れる。中央値18.2 MPa1/2を耐溶剤性評価の基準とする。
二元系FKM17.3〜18.5 MPa1/2一般的なOリング、オイルシール用途に多い。炭化水素系溶剤に比較的強い。
三元系FKM17.8〜19.2 MPa1/2耐燃料性、耐薬品性を高めたグレードである。
低温FKM17.0〜18.5 MPa1/2低温柔軟性を改良したグレードである。耐溶剤性は標準FKMと異なる場合がある。
カーボンブラック配合FKM18.0〜19.5 MPa1/2補強性、耐摩耗性、圧縮永久ひずみを調整したシール材用配合である。
溶解性の目安
SP値差溶解・膨潤の目安判定
0 ~ 2膨潤・軟化しやすい×
2 ~ 5条件により膨潤する
5 ~ 8短時間接触では比較的安定
8以上溶解・膨潤しにくい
SP値から見た耐溶剤性
薬品・溶剤SP値(δ)
MPa1/2
SP値差評価備考
n-ヘキサン14.93.3脂肪族炭化水素に対して良好である。
ガソリン14〜162.2〜4.2燃料系用途で多く使用される。
トルエン18.20.0SP値は近いが、FKMは比較的耐性を示す。膨潤確認は必要である。
キシレン18.00.2芳香族溶剤では使用条件により膨潤する。
メタノール29.711.5短時間・常温では使用できる場合があるが、燃料混合系では確認が必要である。
エタノール26.07.8アルコール燃料や混合溶剤では膨潤確認が必要である。
アセトン20.11.9×ケトン系溶剤であり、FKMには不適である。
MEK19.00.8×膨潤、軟化を起こしやすい。
酢酸エチル18.60.4×エステル系溶剤であり、FKMには不適である。
ジクロロメタン20.22.0短時間では耐える場合があるが、膨潤に注意が必要である。
47.929.7常温水は問題になりにくいが、熱水・蒸気ではグレード確認が必要である。
アンモニア水高極性×塩基性薬品であり、FKMには不適である。

上記のSP値差は、FKM標準品のSP値中央値18.2 MPa1/2を基準としている。

評価基準:◎:非常に良好 ○:概ね良好 △:注意が必要 ×:不適

注意:アセトン、MEK、酢酸エチルなどのケトン・エステル系溶剤、アミン類、アンモニア、強アルカリ、熱水蒸気では、FKMが膨潤、軟化、硬化、亀裂を起こす場合がある。実使用では温度、濃度、応力、浸漬時間、グレード、加硫系を確認する必要がある。

製法

FKMは、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンなどの含フッ素モノマーを乳化重合または懸濁重合して得られる。得られたポリマーに補強材、加硫剤、受酸剤、加工助剤を配合し、成形後に加硫してゴム弾性を付与する。

代表的な二元系FKMの基本反応式は以下のように表される。

n CH2=CF2 + m CF2=CF-CF3 → [-CH2-CF2-]n[-CF2-CF(CF3)-]m

代表的な三元系FKMの基本反応式は以下のように表される。

n CH2=CF2 + m CF2=CF-CF3 + k CF2=CF2 → VDF-HFP-TFE共重合体

加硫系には、ビスフェノール加硫、パーオキサイド加硫、ポリアミン加硫などがある。現在は耐熱性、圧縮永久ひずみ、加工安定性の面から、ビスフェノール加硫とパーオキサイド加硫が多く使用される。

詳細な利用用途

分野用途例使用理由
自動車オイルシール、燃料ホース、Oリング、ガスケット燃料、潤滑油、高温環境に強い。
化学装置薬液シール、ポンプ部品、バルブシート酸、油、溶剤に対する耐性が高い。
半導体真空シール、薬液ライン部品、装置用Oリング耐薬品性、低アウトガス性、耐熱性が求められる。
航空宇宙燃料系シール、油圧シール、耐熱パッキン高温、燃料、作動油に対する耐久性が必要である。
一般産業耐熱ベルト、ホース、ライニング、シート材長期耐熱性、耐候性、耐油性を利用する。

関連材料との比較

比較材料特徴FKMとの違い
天然ゴム機械的強度、弾性、耐摩耗性に優れる。FKMは耐熱性、耐油性、耐薬品性に優れるが、天然ゴムは引裂強さや反発弾性に優れる。
EPDM耐候性、耐オゾン性、耐水性に優れる。EPDMは水・蒸気に強いが、油や燃料には弱い。FKMは油・燃料に強い。
イソプレンゴム天然ゴムに近い弾性と機械的性質を持つ。FKMは耐熱・耐油用途、IRは汎用ゴム用途に向く。
PTFE非常に高い耐薬品性、低摩擦性、耐熱性を持つフッ素樹脂である。PTFEは樹脂でありゴム弾性は低い。FKMは弾性シール材として使用できる。
PVDF溶融成形可能なフッ素樹脂で、耐薬品性と機械強度のバランスが良い。PVDFは硬質樹脂、FKMは架橋ゴムである。
FEP溶融成形可能なフッ素樹脂で、耐薬品性が高い。FEPはライニング、チューブ用途に向き、FKMは弾性シール用途に向く。
FFKM完全フッ素化エラストマーで、最高クラスの耐薬品性を持つ。FFKMはFKMより耐薬品性、耐熱性が高いが、価格が非常に高い。

代表的なメーカー

メーカー代表製品・ブランド概要
ダイキン工業DAI-EL日本を代表するフッ素化学メーカーであり、各種FKM、低温FKM、耐薬品グレードを展開している。
ChemoursVitonFKMの代表的な商標として広く知られる。自動車、航空、化学装置用シールに使用される。
3MDyneonフッ素系エラストマー、加工助剤、特殊グレードを展開している。
SolvayTechnoflonFKM、FFKMなどの高機能フッ素系エラストマーを展開している。
AGCAFLASFEPM、FFKM系のフッ素ゴムを展開しており、耐薬品性、耐熱性、半導体用途に強い。
Gujarat FluorochemicalsFluonoxFKM、フッ素樹脂、フッ素系材料を展開している。
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