ポリ塩化ビニリデン

概要

項目内容
材料名ポリ塩化ビニリデン
略記号PVDC
IUPACpoly(1,1-dichloroethene)
英語名Polyvinylidene Chloride、Poly(1,1-dichloroethylene)
日本語名・別名ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン樹脂、PVDC樹脂、ビニリデンクロライド樹脂
分類熱可塑性樹脂、塩素系樹脂、結晶性〜半結晶性樹脂、高バリア性樹脂
プラスチック分類汎用プラスチック、高機能包装材料、バリア材料
化学式または代表構造[−CH2−CCl2−]n、組成式:(C2H2Cl2)n
ポリ塩化ビニリデン
CAS No.9002-85-1
構造・主成分塩化ビニリデンを主成分とする付加重合体である。実用グレードでは、塩化ビニル、アクリル酸エステル、アクリロニトリルなどとの共重合体として用いられることが多い。
主な用途食品包装フィルム、医薬包装、ラップフィルム、ハム・ソーセージ包装、バリアコート、ブリスターパック、紙・フィルムへの防湿コーティング、金属防食塗料

ポリ塩化ビニリデン(PVDC)は、塩化ビニリデンを主成分とする塩素系の熱可塑性樹脂である。酸素、水蒸気、香気成分、油分に対するバリア性が非常に高く、食品包装、医薬包装、ラップフィルム、バリアコーティング材料として使用される。

PVDCは、ポリ塩化ビニル(PVC)と同じ塩素系樹脂に分類されるが、分子中の塩素含有率が高く、分子鎖の凝集力が大きいため、PVCよりもガスバリア性、水蒸気バリア性、耐油性に優れる。一方で、熱安定性は高くなく、融点付近で熱分解しやすいため、実用材料では共重合、安定剤、可塑化、ラテックス化、コーティング化などにより加工性を調整する。

材料選定では、PVDC単体の物性だけでなく、共重合組成、塗布量、基材フィルム、乾燥条件、残留溶媒、食品接触適合性、塩素系材料に関する規制、焼却時の扱い、使用温度、薬品濃度、接触時間を確認する必要がある。特に包装用途では、酸素透過率、水蒸気透過率、ヒートシール性、透明性、耐屈曲性、レトルト適性を実使用条件で確認することが重要である。

特徴

  • 酸素バリア性、水蒸気バリア性が非常に高い。
  • 油脂、香気成分、におい成分の透過を抑えやすい。
  • 透明性があり、薄膜コーティングやフィルム用途に適する。
  • 塩素を多く含むため、自己消火性を示しやすい。
  • 熱安定性は限定的であり、成形加工温度の管理が重要である。
  • 単独の溶融成形よりも、共重合体、フィルム、ラテックス、コーティング材料として用いられることが多い。
長所
  • 酸素透過率が非常に低く、食品の酸化劣化を抑えやすい。
  • 水蒸気透過率が低く、防湿包装に適する。
  • 香気保持性が高く、食品、香料、医薬品包装に適する。
  • 耐油性が良く、油脂食品包装に使用しやすい。
  • 透明フィルム、コーティング層として使用できる。
  • 薄いコート層でも高いバリア性を付与できる。
  • 塩素系樹脂であるため、燃えにくい傾向がある。
  • フィルム、ラテックス、溶液、コーティングなどの形で多層包装設計に組み込みやすい。
短所
  • 熱安定性が低く、成形時に塩化水素を発生する場合がある。
  • 単独の射出成形材料としては一般的ではない。
  • 強アルカリ、高温水、特定の極性溶剤、芳香族溶剤、塩素系溶剤では劣化、膨潤、溶解に注意が必要である。
  • 塩素を含むため、焼却、リサイクル、環境規制への配慮が必要である。
  • 金属腐食を避けるため、加工設備では熱分解ガスへの対策が必要である。
  • バリア性は塗布量、ピンホール、屈曲、湿度、温度、基材との密着性に影響される。
  • 用途により食品衛生、FDA、EU規制、RoHS、REACHなどの適合確認が必要である。
外観

PVDCは、一般に白色粉末、ペレット、乳白色ラテックス、透明〜半透明フィルム、透明コート層として供給される。フィルムやコーティングでは透明性を有するが、結晶化度、添加剤、塗膜厚み、基材、乾燥条件により、ヘーズや光沢が変化する。

耐熱性

PVDCの融点は代表的には約160〜200℃の範囲にあるが、ホモポリマーでは融点付近またはそれ以下で熱分解が始まりやすい。実用グレードでは共重合や安定剤により加工性を改善するが、一般に高温成形には適しにくい。連続使用温度はフィルム、コーティング、共重合組成により異なるが、包装用途では概ね60〜80℃程度を目安とする。レトルトや高温殺菌用途では、基材構成とグレード適合性を確認する必要がある。

耐薬品性

PVDCは水、油、脂肪族炭化水素、低級アルコール、希酸に対して比較的安定である。一方で、ケトン、エステル、芳香族炭化水素、塩素系溶剤、強アルカリ、高温薬液では膨潤、軟化、溶解、脱塩化水素などが起こる場合がある。耐薬品性は塗膜厚み、共重合成分、温度、応力、接触時間で変化する。

加工性

PVDCは、単独の溶融成形では熱分解しやすいため、一般的な射出成形材料とは異なる。実用上は、押出フィルム、共押出バリア層、ラテックスコーティング、溶液コーティング、ディップコート、グラビアコート、紙・フィルムへのバリアコートとして加工されることが多い。加工では温度管理、滞留時間、せん断発熱、安定剤、設備腐食対策が重要である。

分類上の注意

PVDCは、PVCと同じ塩素系ビニル樹脂であるが、構造、塩素含有率、バリア性、加工性が大きく異なる。また、包装材料としてはEVOHPETPPPE、アルミ蒸着フィルム、ナイロン系フィルムと比較される。PVDCは高バリア性に優れる一方、塩素系材料である点、熱安定性、リサイクル適性には注意が必要である。

構造式

ポリ塩化ビニリデンの代表構造単位は、塩化ビニリデン(1,1-ジクロロエチレン)の付加重合により形成される。

項目構造
モノマーCH2=CCl2
モノマー名塩化ビニリデン、1,1-ジクロロエチレン、Vinylidene Chloride
代表的な構造単位−CH2−CCl2
ポリマー表記[−CH2−CCl2−]n
重合形式ラジカル付加重合
構造式の表記H2C=CCl2 → [−CH2−CCl2−]n

PVDCの主鎖は炭素−炭素結合で構成され、側鎖に2個の塩素原子を持つ。この高い塩素含有率と分子鎖の凝集力により、酸素、水蒸気、香気成分に対する透過性が極めて低くなる。一方で、熱分解時には塩化水素を発生しやすいため、加工時には熱安定性が重要となる。

実用グレードでは、塩化ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリロニトリルなどとの共重合により、結晶性、柔軟性、溶融加工性、塗工性、密着性、ヒートシール性を調整する。ホモポリマーよりも共重合体として使用される例が多い。

種類

種類の名称主成分または特徴長所短所主な用途
PVDCホモポリマー塩化ビニリデン単独重合体バリア性、耐油性、難燃性が高い熱安定性が低く、溶融加工が難しい基礎材料、特殊バリア材料、研究用途
塩化ビニリデン・塩化ビニル共重合体PVDCに塩化ビニルを共重合した材料加工性、フィルム成形性、ヒートシール性を調整しやすい組成によりバリア性が変化するラップフィルム、食品包装、収縮フィルム
塩化ビニリデン・アクリル酸エステル共重合体PVDCにアクリル酸エステルを共重合した材料柔軟性、塗膜形成性、密着性を付与しやすい耐熱性、耐溶剤性は配合に依存するバリアコート、紙コート、フィルムコート
PVDCラテックス水系エマルションまたはディスパージョン水系塗工が可能で、薄膜バリア層を形成しやすい乾燥条件、残留水分、基材密着性に注意が必要食品包装フィルム、医薬包装、紙、アルミ箔、PET・PPフィルムへの塗工
PVDC押出グレード共押出やフィルム成形に対応する安定化グレード多層フィルムのバリア層として使用できる加工温度範囲が狭く、設備腐食対策が必要バリアフィルム、医薬ブリスター、食品包装
PVDCコーティングフィルムPET、PP、PVC、紙、セロファンなどにPVDCを塗布した複合材料基材の機械特性とPVDCのバリア性を両立できるリサイクル性、層間密着、屈曲時のクラックに注意が必要菓子包装、医薬包装、蓋材、レトルト補助包装
耐熱・レトルト対応グレード高温処理に対応する共重合・多層設計品高温殺菌後もバリア性を維持しやすい単層PVDCではなく、基材構成との総合評価が必要ソーセージ包装、畜肉加工品、常温保存食品包装
防食コーティング用PVDC金属、建材、コンクリート、床材向けの防湿・防食系樹脂水蒸気バリア性、耐水性、防食性を付与しやすい屋外耐候性、下地密着性、上塗り適性の確認が必要金属防食、床用プライマー、防湿コート、建築材料

成形加工

PVDCは熱可塑性樹脂であるが、熱分解しやすいため、一般的な汎用樹脂と同じ温度範囲で自由に成形できる材料ではない。射出成形よりも、押出、共押出、フィルム成形、コーティング、ラテックス塗工が中心となる。

加工方法適性主な製品例注意点
射出成形×〜△特殊成形品、試作部品熱安定性が低く、一般的な射出成形材料としては扱いにくい。
押出成形フィルム、シート、バリア層共重合グレード、安定剤、加工温度、滞留時間の管理が必要である。
共押出成形多層バリアフィルム、食品包装、医薬包装接着層、基材樹脂、層厚み、熱履歴を確認する。
ブロー成形多層容器のバリア層PVDC単独よりも多層構成で使用される。
インフレーション成形ラップフィルム、収縮フィルム、包装フィルム熱安定性、フィルム厚み、ブロッキング、ヒートシール性を確認する。
コーティングPVDCコートPET、PVDCコートOPP、紙コート、医薬ブリスターラテックスまたは溶液塗工が多く、乾燥温度、残留成分、密着性が重要である。
圧縮成形×〜△特殊試験片熱分解を避ける温度管理が必要であり、量産用途では一般的でない。
真空成形△〜○PVDCコートシート、ブリスター用多層シートPVDC層単独ではなく、PVC、PET、PPなどの基材に依存する。
切削加工試験片、研究用サンプル市販板材が少なく、通常はフィルム・コート層として評価される。
ヒートシール○〜◎食品包装、蓋材、袋材共重合組成、塗布量、基材、シール温度で性能が変化する。
成形条件の目安
項目代表値・目安備考
乾燥温度40〜60℃ラテックス、ペレット、フィルム基材により異なる。過乾燥や高温乾燥で劣化する場合がある。
シリンダー温度150〜180℃程度共重合グレードの目安である。高温滞留により脱塩化水素が起こるため、メーカー条件を優先する。
ダイス温度150〜175℃程度押出、共押出では温度ムラ、滞留、焦げに注意する。
金型温度20〜50℃程度射出成形用途は限定的であり、実際にはフィルム・シート・コーティング条件で設計する。
成形収縮率0.5〜2.0%程度結晶化度、共重合組成、成形方法、フィルム延伸条件により大きく変化する。
塗工乾燥温度80〜140℃程度基材耐熱性、ライン速度、塗布量、残留水分、熱分解を考慮する。
加工上の注意滞留時間短縮、局部過熱防止、腐食対策熱分解により塩化水素が発生する場合があるため、設備材質、排気、清掃管理が重要である。

代表的な物性値又は機械的性質

下表はPVDCおよびPVDC系フィルム・コーティング材料の代表値である。実際の値は、ホモポリマー、共重合体、塗布量、延伸条件、可塑剤、安定剤、基材フィルム、測定条件により変化する。

項目単位PVDC代表値PVDC共重合フィルム・コート層備考
密度g/cm31.65〜1.901.55〜1.75塩素含有率が高く、汎用樹脂より高密度である。
引張強さMPa35〜7030〜90フィルムでは延伸方向、基材構成により大きく変化する。
伸び20〜15030〜300共重合、可塑化、フィルム延伸で変化する。
曲げ弾性率MPa1,000〜2,500500〜2,000塗膜用途では基材の剛性が支配的となる。
アイゾット衝撃強さJ/m20〜80基材依存単独成形品としてのデータは限定的である。
荷重たわみ温度60〜9050〜100荷重、基材、共重合組成により変化する。
融点160〜200140〜180ホモポリマーでは融点付近で分解しやすい。
ガラス転移温度−20〜−10程度−25〜0程度共重合組成、可塑剤、測定方法により変化する。
連続使用温度60〜8060〜90包装用途では基材と層構成を含めて評価する。
吸水率0.05〜0.20.05〜0.5樹脂自体の吸水は低いが、塗膜欠陥や基材吸湿に注意する。
体積抵抗率Ω・cm1013〜10151012〜1015湿度、添加剤、可塑剤により変化する。
酸素透過性相対評価非常に低い非常に低いPVDCの代表的な長所である。フィルム厚み、温湿度で変化する。
水蒸気透過性相対評価非常に低い非常に低いEVOHと比較して高湿度でも防湿性を維持しやすい。
難燃性UL94目安自己消火性を示しやすい構成依存UL94等級はグレード、厚み、添加剤、基材で確認する必要がある。
酸素指数約40〜60構成依存塩素含有率が高く、燃えにくい傾向がある。
代表グレードと用途上の位置づけ
代表グレード特徴主な用途注意点
汎用バリアグレード酸素・水蒸気バリア性を重視した標準グレード食品包装、菓子包装、乾燥食品包装塗布量、ヒートシール性、基材との密着を確認する。
耐熱グレード高温殺菌、熱処理への適性を高めたグレードソーセージ包装、レトルト補助包装、医薬包装実際の殺菌温度、時間、圧力、食品成分で評価する。
難燃グレード塩素系樹脂として燃えにくい特性を活用するグレード特殊フィルム、防湿シート、防食塗膜UL94などの等級は材料単体でなく構成材として確認する。
GF強化グレード一般的ではない特殊用途に限定PVDCは成形材料よりフィルム・コート用途が中心である。
摺動グレード一般的ではないほとんど使用されない摺動部品にはPOM、PA、PTFE、PPSなどが選定される。
食品接触グレード食品包装用途に適合したラテックス、フィルム、コート材食品包装、ラップフィルム、蓋材食品衛生法、FDA、EU規制、移行試験、残留モノマーを確認する。
医薬包装グレード防湿性、酸素バリア性、透明性を重視したグレードPTP包装、ブリスター包装、薬剤包装医薬品との相互作用、抽出物、規格適合性を確認する。

耐薬品性

PVDCは、塩素を多く含む高凝集性ポリマーであり、水、油、脂肪族炭化水素、低級アルコール、希酸に対して比較的安定である。一方で、SP値が近い溶剤、極性有機溶剤、芳香族溶剤、塩素系溶剤では膨潤または溶解する場合がある。実使用では、グレード、温度、濃度、応力、接触時間、塗膜厚み、基材を含めて確認する必要がある。

薬品分類代表薬品評価備考
酸類塩酸、硫酸、リン酸、酢酸○〜◎希酸では比較的安定である。高濃度酸、高温では確認が必要である。
強酸化性酸濃硝酸、クロム酸、過酸化水素高濃度液△〜×酸化劣化、脱塩化水素、塗膜劣化に注意する。
アルカリ類NaOH、KOH、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム低濃度・短時間では使用可能な場合があるが、強アルカリや高温では劣化しやすい。
低級アルコール類メタノール、エタノール、IPA○〜◎常温短時間では比較的安定である。配合や塗膜状態により白化や膨潤を確認する。
高級アルコール類グリセリン、ベンジルアルコール、MMB○〜△高沸点溶剤では長時間接触による膨潤に注意する。
芳香族炭化水素類トルエン、キシレン、ベンゼン△〜×膨潤または溶解する場合があり、包装・塗膜用途では注意が必要である。
脂肪族炭化水素類ヘキサン、ヘプタン、ミネラルスピリット○〜◎比較的安定であるが、高温・長時間では膨潤を確認する。
ケトンアセトン、MEK、MIBK、シクロヘキサノン△〜×軟化、膨潤、溶解が起こる場合がある。
エステル酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル△〜×溶剤型インキや接着剤との接触では塗膜耐性を確認する。
塩素系溶剤ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン×膨潤または溶解しやすく、使用は避ける。
エーテル類THF、ジオキサン、ジエチルエーテル△〜×THFなどでは膨潤・溶解に注意が必要である。
水・温水水、温水、蒸気水には比較的安定であるが、高温水、蒸気、レトルト条件では基材構成で評価する。
植物油、動物油、鉱物油、脂肪酸エステル○〜◎耐油性は良好である。可塑剤や溶剤を含む油では確認が必要である。
燃料ガソリン、軽油、灯油○〜△耐油性はあるが、芳香族成分や添加剤により膨潤する場合がある。
洗剤・界面活性剤中性洗剤、アルカリ洗剤、界面活性剤水溶液○〜△アルカリ性、温度、浸漬時間により塗膜劣化を確認する。
SP値(溶解度パラメータ)

PVDCの代表的なSP値(δ)は、約24.9 MPa1/2である。従来単位の(cal/cm3)1/2では約12.2に相当する。SP値が近い溶剤では、膨潤、軟化、溶解が起こりやすくなる。

ただし、SP値は耐薬品性を判断するための目安であり、実際の耐薬品性は、結晶化度、共重合組成、塗膜厚み、温度、濃度、応力、添加剤、溶剤の水素結合性、極性、混合溶剤効果に大きく影響される。SP値だけで最終判断してはならない。

溶解性の目安
SP値差溶解・膨潤の目安判定
0〜2膨潤・軟化しやすい×
2〜5条件により膨潤する
5〜8短時間接触では比較的安定
8以上溶解・膨潤しにくい
SP値から見た耐溶剤性

PVDCのSP値を24.9 MPa1/2として、代表溶剤とのSP値差を比較した目安である。評価基準は、◎非常に良好、○概ね良好、△注意が必要、×不適である。

薬品名SP値
MPa1/2
PVDCとの差評価備考
47.923.0SP値差は大きく、水には一般に不溶である。
メタノール29.74.8○〜△常温短時間では比較的安定だが、塗膜では白化や膨潤を確認する。
エタノール26.01.1SP値上は近いが、実際には短時間接触で使用できる場合がある。
IPA23.51.4長時間浸漬、応力下、塗膜欠陥に注意する。
アセトン20.34.6△〜×膨潤、軟化の可能性がある。
MEK19.05.9SP値差だけでは良好に見えるが、実使用では溶剤作用を確認する。
酢酸エチル18.66.3塗膜や印刷層との接触で影響が出る場合がある。
トルエン18.26.7△〜×芳香族溶剤であり、膨潤・溶解に注意する。
キシレン18.06.9△〜×長時間接触や高温では不適となる場合が多い。
ジクロロメタン19.85.1×塩素系溶剤であり、膨潤・溶解しやすい。
クロロホルム19.05.9×塩素系溶剤として不適である。
ヘキサン14.910.0○〜◎常温では比較的安定であるが、油脂や添加剤を含む系では確認する。
グリセリン33.88.9○〜◎SP値差は大きいが、高温・長時間条件では塗膜状態を確認する。

SP値評価では、エタノールやIPAのようにPVDCと数値が近くても、実際には短時間接触で使用可能な場合がある。一方で、トルエン、キシレン、塩素系溶剤のようにSP値差がやや大きくても、芳香族性や溶剤力により膨潤、軟化、溶解を生じる場合がある。したがって、SP値、実測耐薬品性、温度、接触時間を組み合わせて判断する必要がある。

製法

原料

PVDCの主原料は塩化ビニリデンモノマー(CH2=CCl2)である。用途により、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリルなどを共重合モノマーとして用いる。実用グレードでは、熱安定剤、滑剤、可塑剤、加工助剤、乳化剤、防腐剤、消泡剤、接着性付与剤などが配合される場合がある。

重合方法

PVDCは、塩化ビニリデンのラジカル重合により製造される。代表的には懸濁重合、乳化重合、溶液重合が用いられる。フィルム、押出用樹脂では懸濁重合または塊状に近い樹脂化が用いられ、コーティング用途では水系ラテックスとして乳化重合されることが多い。

代表的な反応式
工程反応式・内容
モノマー重合n CH2=CCl2 → [−CH2−CCl2−]n
共重合例x CH2=CCl2 + y CH2=CHCl → [−CH2−CCl2−]x[−CH2−CHCl−]y
アクリル酸エステル共重合例x CH2=CCl2 + y CH2=CHCOOR → PVDC系アクリル共重合体
熱分解上の注意[−CH2−CCl2−]n → 脱塩化水素、着色、架橋、分解生成物の発生
ペレット化やコンパウンド

押出用途では、重合後のPVDC樹脂に安定剤、滑剤、加工助剤などを混合し、ペレット化または粉体として供給される。熱分解しやすいため、コンパウンド温度、せん断発熱、滞留時間の管理が重要である。成形機やダイスの腐食を抑えるため、設備材質、排気、清掃、パージ材の選定も重要となる。

ラテックス・コーティング材料

コーティング用途では、PVDCを水系ラテックスとして製造し、必要に応じて乳化剤、保護コロイド、pH調整剤、消泡剤、架橋剤、濡れ剤、密着助剤を加える。PET、OPP、PVC、紙、アルミ箔、セロファンなどの基材に塗布し、乾燥・熱処理によりバリア層を形成する。塗膜のバリア性は、塗布量、乾燥条件、ピンホール、結晶化、基材密着性に影響される。

添加剤、充填材、強化材

PVDCでは、一般的なガラス繊維強化や炭素繊維強化グレードは主流ではない。用途の中心はフィルムとコーティングであるため、添加剤としては熱安定剤、滑剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、帯電防止剤、密着性改良剤、架橋剤、界面活性剤が使われる場合が多い。食品接触用途では、添加剤の移行性、法規制、臭気、味への影響を確認する必要がある。

詳細な利用用途

分野主な用途採用理由注意点
食品包装ラップフィルム、ハム・ソーセージ包装、チーズ包装、菓子包装、乾燥食品包装酸素バリア性、水蒸気バリア性、香気保持性、耐油性が高い食品衛生適合、残留モノマー、移行試験、ヒートシール性を確認する。
医薬包装PTP包装、ブリスター包装、防湿包装、薬剤保護フィルム防湿性と酸素バリア性に優れる医薬品との相互作用、吸着、抽出物、規格適合性を確認する。
自動車防湿フィルム、特殊包装、部品保護包装油分、湿気、酸素から内容物を保護しやすい高温環境、燃料成分、可塑剤、長期耐久性を確認する。
電気・電子電子部品包装、防湿包装、静電対策包装の構成層湿気や酸素による劣化を抑えやすい帯電防止性、アウトガス、イオン性不純物、クリーン性を確認する。
機械部品部品保護包装、防錆包装、防湿包装金属部品の酸化、湿気、油分移行を抑制しやすい防錆剤との相性、塗膜欠陥、包装内環境を確認する。
医療医療材料包装、滅菌前後の保護包装バリア性、透明性、包装安定性を付与できる滅菌方法、抽出物、規格適合性、医療用途グレードを確認する。
食品機械包装機用フィルム、蓋材、シール材、包装ライン部材ヒートシール性とバリア性を両立しやすい直接接触部材として使う場合は食品接触適合を確認する。
建築・設備防湿コート、防湿シート、防食コーティング、床用プライマー水蒸気バリア性、防湿性、防食性を付与できる下地密着、アルカリ性下地、屋外耐候性、施工条件を確認する。
印刷・紙加工紙コート、アルミ箔ラミネート、包装紙、防湿紙紙に防湿性、耐油性、バリア性を付与できるリサイクル性、塗工ムラ、乾燥温度、インキ密着性を確認する。
用途別選定フィルム、チューブ、筐体、コネクタ、ギア、軸受PVDCは主にフィルム・コート層に適し、機械部品には通常選定されにくいギア、軸受、筐体、コネクタにはPOM、PA、PBT、PPS、PEEKなどを検討する。

関連材料との比較

比較材料特徴対象材料との違い
PVC(ポリ塩化ビニル)塩素系の汎用プラスチックであり、硬質・軟質の幅広い用途がある。PVDCはPVCより塩素含有率が高く、ガスバリア性と防湿性に優れる。一方で、PVDCは熱安定性が低く、成形品用途は限定的である。
EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)酸素バリア性に非常に優れる高バリア樹脂である。EVOHは酸素バリア性に優れるが、高湿度で性能が低下しやすい。PVDCは酸素と水蒸気の両方に対するバリア性を持ち、防湿性に優れる。
PET(ポリエチレンテレフタレート)透明性、機械強度、耐熱性、フィルム成形性に優れるポリエステルである。PETは基材フィルムとして優れるが、PVDCほどの水蒸気・酸素バリア性はない。PVDCコートPETとして組み合わせて使われることが多い。
PP(ポリプロピレン)軽量で耐薬品性、成形加工性、ヒートシール性に優れる汎用プラスチックである。PPは防湿性は比較的良いが、酸素バリア性はPVDCに劣る。PVDCコートOPPとして包装用途に用いられる。
PE(ポリエチレン)柔軟性、耐水性、ヒートシール性、低温特性に優れるポリオレフィンである。PEはシール層として優れるが、酸素バリア性は低い。PVDCはバリア層、PEはシール層として多層構成で使い分ける。
PA(ポリアミド)強度、耐摩耗性、耐油性、耐ピンホール性に優れるエンプラである。PAは機械強度と耐屈曲性に優れるが、吸湿により寸法やバリア性が変化する。PVDCは防湿性と酸素バリア性を重視する用途に適する。
EVA(エチレン・酢酸ビニル共重合体)柔軟性、透明性、接着性、低温特性に優れる共重合体である。EVAはシール性や柔軟性を付与しやすいが、バリア性はPVDCに劣る。PVDCはバリア層、EVAは接着・シール層として使われる場合がある。
PETG樹脂透明性、耐衝撃性、熱成形性に優れるグリコール変性ポリエステルである。PETGは透明成形品やシートに適するが、PVDCのような高防湿・高酸素バリア材料ではない。包装では基材とバリア層の役割が異なる。

代表的なメーカー

PVDCは、樹脂、ラテックス、フィルム、コーティング材料として供給される。メーカーやブランドは事業再編、地域、用途により変わるため、実際の採用時には最新の製品安全データシート、規格適合表、食品接触適合証明を確認する必要がある。

メーカー代表製品・ブランド概要
株式会社クレハクレハロン、PVDC系フィルム関連製品PVDC系フィルム、食品包装、ソーセージ包装などで知られる日本メーカーである。用途によりフィルム製品として展開される。
SyensqoDiofan、IxanPVDCラテックス、PVDCコーティング材料、押出グレードなどを展開する代表的メーカーである。食品包装、医薬包装、防食コーティングなどに用いられる。
Asahi Kasei GroupSaran系材料・フィルム製品の代表例サラン系の塩化ビニリデン関連フィルムで知られる。用途、地域、製品形態により確認が必要である。
SK Geo CentricSK Saranなどの代表例PVDC系樹脂・フィルム用途の代表例として挙げられる。採用時には入手地域、グレード、規格適合を確認する。
その他フィルム・包装材料メーカーPVDCコートPET、PVDCコートOPP、PVDCコートPVCPVDC樹脂単体ではなく、コートフィルム、ラミネートフィルム、包装材として供給される場合が多い。

法規制・使用上の注意

項目確認内容注意点
RoHS鉛、カドミウム、水銀、六価クロム、臭素系難燃剤、フタル酸エステル類などPVDC自体は塩素系樹脂であるが、添加剤、安定剤、印刷層、接着剤を含めて確認する。
REACHSVHC、残留モノマー、添加剤、加工助剤欧州向け用途ではサプライヤー証明と最新リストへの適合確認が必要である。
食品衛生食品衛生法、ポジティブリスト、移行試験食品接触用途では、グレード、添加剤、接着剤、印刷層、基材を含めて確認する。
FDA・EU食品接触米国FDA、EU食品接触規則輸出包装では地域別規制に適合したグレードを選定する。
医療用途生物学的安全性、抽出物、滅菌適性医療用途では一般包装用グレードを流用せず、医療・医薬包装向けグレードを確認する。
難燃性UL94、酸素指数、燃焼時ガス塩素系樹脂で燃えにくいが、燃焼時ガス、煙、腐食性ガスに注意する。
熱劣化脱塩化水素、着色、脆化、臭気高温成形、長時間滞留、過熱乾燥、焼却時に注意する。
アウトガス残留モノマー、添加剤、分解生成物電子部品包装、医薬包装、精密用途ではアウトガス評価が必要である。
リサイクル塩素系材料の混入、分別、焼却処理PET、PP、PEなどのリサイクル工程ではPVDCコート層が問題となる場合がある。

注意点

  • PVDCは高バリア材料であるが、ピンホール、クラック、屈曲、シール不良があると包装全体のバリア性は大きく低下する。
  • 高温で脱塩化水素を起こしやすいため、成形温度、乾燥温度、滞留時間を厳密に管理する必要がある。
  • 塩素系溶剤、芳香族溶剤、ケトン、エステルとの接触では膨潤、軟化、溶解に注意する。
  • 強アルカリや高温水では劣化する場合があるため、洗浄工程、レトルト工程、薬液接触条件を確認する。
  • 食品・医薬用途では、樹脂単体ではなく、基材、接着剤、印刷インキ、添加剤、残留モノマーを含めて規格適合を確認する。
  • PVDCは構造材料や摺動部品ではなく、主にバリアフィルム、コート層、防湿層として使用する材料である。
  • 実使用では、温度、湿度、薬品濃度、荷重、応力、屈曲、使用時間を含めて評価する必要がある。

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