概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 材料名 | パラキシリレン系樹脂 |
| 略記号 | PPX(poly(p-xylylene))。実務ではParylene N、C、D、HTなどのグレード名で呼ばれることが多い。 |
| IUPAC | poly(1,4-xylylene) または poly(p-xylylene) |
| 英語名 | Poly(p-xylylene), Parylene |
| 日本語名 | ポリ(p-キシリレン)、ポリパラキシリレン、パリレン |
| 分類 | 芳香族炭化水素系ポリマー、真空蒸着重合型コンフォーマルコーティング |
| プラスチック分類 | 特殊機能性プラスチック。一般的な射出成形用エンプラやスーパーエンプラとは用途・加工法が異なる。 |
| 代表構造 | [–CH2–C6H4–CH2–]n |
| CAS No. | Parylene N:一般に26022-14-2として扱われる例がある。置換体は別CASとなるため、SDSで個別確認が必要である。 |
| 構造・主成分 | p-キシリレン単位が連鎖した半結晶性ポリマー。芳香環上の塩素置換やメチレン部のフッ素置換により、バリア性、耐熱性、誘電特性などを調整する。 |
| 主な用途 | 電子基板、センサー、MEMS、コイル、磁性部品、医療機器、カテーテル、金属防食、微細構造保護、低摩擦表面。 |
パラキシリレンは、一般にパリレンと呼ばれるポリ(p-キシリレン)系樹脂の基本骨格を指す名称である。代表的な無置換タイプはParylene Nであり、芳香環を塩素置換したParylene CおよびD、フッ素置換したParylene HT/AF系などが実用化されている。
通常の射出成形用ペレットとは異なり、主に[2.2]パラシクロファン系ダイマーを減圧下で気化・熱分解し、生成したp-キシリレンモノマーを基材表面で直接重合させる。溶剤塗布ではないため、複雑形状、微細隙間、実装基板、MEMS、細線、コイルなどに比較的均一な膜厚で成膜しやすい。
膜は一般に透明から半透明であり、電気絶縁、防湿、ガスバリア、耐薬品、低摩擦、防食などの機能を付与する。一方、膜性能はグレードだけでなく、膜厚、基材、前処理、端部形状、成膜条件、温度、湿度、薬品濃度、荷重、応力、使用時間に大きく左右される。
特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 長所 | 溶剤を用いない気相成膜、複雑形状への高い追従性、薄膜での電気絶縁性、防湿性、耐薬品性、低摩擦性、生体適合グレードの存在。 |
| 短所 | 専用真空装置が必要で、成膜はバッチ処理が中心である。膜の再加工・除去が難しく、紫外線、酸素存在下の高温、密着不良、ピンホール、膜端部からの浸入に注意が必要である。 |
| 外観 | 一般に無色透明から淡色の薄膜。膜厚、結晶化、基材粗さ、熱履歴により透明性や光沢が変化する。 |
| 耐熱性 | Parylene Cは空気中で概ね80~100℃級、Parylene Nは60~80℃級、Dは100℃級、フッ素系HTはより高温域に対応する例がある。実用上限は膜厚、酸素、荷重、時間で変化する。 |
| 耐薬品性 | 水、希酸、希アルカリ、油類、多くの有機溶剤に比較的安定であるが、長時間浸漬、高温、応力、強酸化剤、ハロゲン系薬品では個別評価が必要である。 |
| 加工性 | 通常の溶融成形ではなく、ダイマーの気化、熱分解、基材表面での蒸着重合により成膜する。マスキング、表面前処理、膜厚管理、治具設計が重要である。 |
| 分類上の注意 | 「パラキシリレン」は反応中間体名や骨格名としても使われる。材料ページでは実用材料であるポリ(p-キシリレン)系、すなわちパリレン系コーティングとして整理する。 |
構造式

代表的な構造単位
無置換のParylene Nは、–CH2–C6H4–CH2–を繰返し単位とする。芳香環のpara位をメチレン鎖が連結するため、主鎖中に芳香環を含む直鎖状ポリマーとなる。
モノマーまたは構成単位
成膜工程では、[2.2]パラシクロファン系ダイマーを熱分解して反応性の高いp-キシリレン中間体を生成し、基材表面で重合させる。Parylene CおよびDは芳香環に塩素を、Parylene HT/AF系は主にフッ素を導入した誘導体である。
共重合体・変性グレード
反応性官能基を導入したパリレン、異種ダイマーを併用した共重合系、表面固定化用途向けのアミノ基・カルボキシ基含有系などが研究・実用化されている。一般的な物性や法規制適合は、置換基と成膜条件により大きく変化する。
種類・代表グレード
| 種類・代表グレード | 主成分・特徴 | 長所 | 短所 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| Parylene N | 無置換ポリ(p-キシリレン) | 低誘電率、隙間への浸透性、柔軟性 | 防湿性はCより低い場合があり、空気中高温・UVに注意 | 電子部品、微細構造、絶縁膜 |
| Parylene C | 芳香環にClを1個有する置換体 | 防湿性、絶縁性、成膜性、コストのバランスが良い | 高温酸化、UV、除膜性に注意 | 基板、コイル、センサー、一般防湿 |
| Parylene D | 芳香環にClを2個有する置換体 | Cより高温域に対応しやすい | 原料・成膜条件の制約、流通性 | 高温電子部品、特殊保護膜 |
| Parylene HT/AF系 | フッ素置換パラキシリレン系 | 高温安定性、低誘電率、低摩擦、低吸水 | 高価格、成膜効率、密着管理 | 航空宇宙、半導体、真空、高温センサー |
| 反応性・機能化パリレン | アミノ基、カルボキシ基、アルキン基などを導入した誘導体 | 表面固定化、バイオ機能化、接着性設計 | 材料・工程の標準化が限定的 | バイオセンサー、研究用途、機能性界面 |
成形加工
| 加工方法 | 適性 | 理由・主な注意点 |
|---|---|---|
| 真空蒸着重合 | ◎ | 主加工法である。ダイマー気化、熱分解、室温付近での蒸着重合により均一薄膜を形成する。 |
| 射出成形 | × | 一般的なペレット溶融成形材料ではない。 |
| 押出成形 | × | 高分子量・不溶不融に近い性質のため一般的ではない。 |
| ブロー成形 | × | 一般的な成形法ではない。 |
| 圧縮成形 | × | 厚肉バルク材の成形には通常用いない。 |
| 真空成形 | × | シートを再加熱して賦形する材料ではない。 |
| 切削加工 | △ | 厚膜や自立膜の微細加工例はあるが、一般部品加工には不向きである。 |
| レーザー加工 | ○ | 局所除膜・パターニングに利用できるが、熱影響、残渣、基材損傷を確認する。 |
| 接着 | △ | 低反応性表面のため、プラズマ、コロナ、プライマー、表面粗化などが必要となる場合がある。 |
| 塗装・印刷 | △ | 表面処理後は可能であるが、未処理膜では密着性が不足しやすい。 |
代表的な成膜条件
| 項目 | 単位 | 一般的な目安 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 予備乾燥 | - | 基材と治具を十分乾燥 | 吸着水は密着性、真空到達、ピンホールに影響する。 |
| ダイマー気化温度 | ℃ | 約100~180 | ダイマー種と装置により異なる。 |
| 熱分解温度 | ℃ | 約550~750 | 置換体、流量、滞留時間により最適値が異なる。 |
| 成膜室温度 | ℃ | 約15~35 | 通常は基材を積極加熱せず成膜する。 |
| 真空度 | Pa | 数Pa~数十Pa程度 | 装置方式と膜質により異なる。 |
| 代表膜厚 | µm | 0.1~50 | 電子用途では数µm~数十µmが多い。 |
| 成膜速度 | µm/h | 装置・条件依存 | 膜厚分布とダイマー利用効率を確認する。 |
代表的な物性値又は機械的性質
以下は主にParylene N、C、D、HTの公開代表値を比較して整理した目安である。比較機能ではParylene C相当を代表値として扱う項目があるが、数値は膜厚、成膜条件、熱履歴、試験法、基材の影響を受ける。
| 項目 | 単位 | 代表値 | 代表範囲 | 条件・規格 | 材料状態・備考 | 信頼度 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 密度 | g/cm³ | 1.29 | 1.10~1.42 | 代表資料比較 | Parylene N~D。Cの代表値は約1.29 | A |
| 比重 | 無次元 | 1.29 | 1.10~1.42 | 23℃目安 | グレード依存 | B |
| 吸水率・24時間 | % | 0.06 | <0.01~0.10 | ASTM D570相当の公開例 | 膜厚・試験片条件依存 | B |
| 引張強さ・破断 | MPa | 69 | 48~76 | 薄膜引張、代表資料 | N、C、D、HTで差がある | B |
| 引張弾性率 | GPa | 2.8 | 2.4~3.0 | 薄膜、室温目安 | 成膜条件・結晶化度依存 | B |
| 引張破断伸び | % | 200 | 150~250 | 薄膜、室温目安 | 膜厚・欠陥・熱履歴依存 | B |
| 硬度 | ロックウェルR | 80 | 80~122 | ASTM D785相当の公開例 | HTは高い例がある | B |
| 動摩擦係数 | 無次元 | 0.29 | 0.13~0.31 | 乾燥、代表例 | 相手材、荷重、速度依存 | B |
| ガラス転移温度 | ℃ | データなし | 一般化困難 | 測定法・グレード依存 | 結晶性および熱履歴の影響が大きい | C |
| 融点 | ℃ | 290 | 290~>500 | 代表資料 | C:約290、N:約420、D:約380、HT:>500 | A |
| 連続使用温度 | ℃ | 80 | 60~350 | 空気中の一般目安 | C:約80、N:約60、D:約100、HT:約350 | B |
| 短時間耐熱温度 | ℃ | 100 | 80~450 | 一般目安 | 酸素濃度、時間、膜厚で変化 | B |
| 熱伝導率 | W/(m・K) | 0.084 | 0.084~0.126 | 25℃代表例 | C~N。膜構造で変化 | B |
| 線膨張係数 | 10⁻⁵/K | 3.5 | 3.5~6.9 | 25℃付近 | Nは約6.9、Cは約3.5 | B |
| 体積抵抗率 | Ω・cm | 1×1016 | 1015~1017 | 乾燥、室温目安 | 膜厚、湿度、欠陥依存 | B |
| 絶縁破壊強さ | kV/mm | 220 | 200~280 | 薄膜代表例 | 試験法・膜厚依存 | B |
| 比誘電率・1 kHz | 無次元 | 3.15 | 2.5~3.15 | 1 kHz目安 | HT/Nは低め、Cは高め | B |
| 誘電正接・1 kHz | 無次元 | 0.02 | 0.0002~0.02 | 1 kHz目安 | グレード・周波数依存 | C |
| UL 94燃焼性 | 等級 | グレード依存 | データなし | 認証グレードで確認 | 材料名のみで断定不可 | C |
難燃性
パリレン系のUL 94等級は材料名だけで一律に決まらない。グレード、膜厚、基材、試験片構成、色、添加剤、成膜条件を含む認証条件を確認する必要がある。塩素含有のCおよびDと、ハロゲンフリーのN、フッ素系HTでは燃焼挙動と規制上の扱いが異なる。
寸法精度・設計特性
- 薄膜であるため基材寸法への影響は小さいが、数µm単位の公差部品では膜厚を設計寸法へ組み込む必要がある。
- 鋭角部、深い穴、接触面、マスキング境界では膜厚分布が変化する。
- 基材との線膨張係数差により、温度サイクルで膜応力、クラック、剥離が発生する場合がある。
- 短時間の引張物性を、そのまま長期耐久や設計許容応力へ使用しない。
品質・成膜不良
| 不良 | 主な原因 | 主な対策 |
|---|---|---|
| ピンホール | 異物、膜厚不足、ガス放出、鋭角部 | 基材洗浄、真空乾燥、膜厚増加、治具最適化 |
| 密着不良 | 油分、水分、離型剤、低表面エネルギー | 脱脂、プラズマ、コロナ、適切なシランプライマー |
| 膜厚むら | 治具遮蔽、搭載密度、流れ不均一 | 基材配置、回転治具、供給条件の見直し |
| 白化・曇り | 粗面、結晶化、厚膜、熱履歴 | 膜厚・熱処理・基材表面の見直し |
| クラック | 過大膜厚、基材変形、熱膨張差 | 膜厚最適化、角R、応力緩和、グレード選定 |
| マスキング不良 | 密封不足、剥離時の膜引き | 専用マスキング、切れ目設計、剥離手順管理 |
耐薬品性
評価は一般的なパリレン薄膜の傾向であり、Parylene N、C、D、HTで異なる。実使用では、薬品濃度、温度、接触時間、浸漬または飛沫、応力、膜厚、基材、端部処理、前処理を含めて確認する。
| 薬品・環境 | 濃度・条件 | 評価 | 主な劣化形態・理由 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 水 | 23℃、長時間浸漬 | ◎ | 吸水が小さく、膜自体への影響は一般に小さい | 端面・欠陥から基材側へ浸入し得る |
| 温水 | 60~80℃、長時間 | ○ | 温度上昇で透過・界面剥離が進みやすい | 膜厚と密着性を確認 |
| 塩水・海水 | 3.5% NaCl、23℃ | ◎ | 防食バリアとして有効な場合が多い | ピンホール、端部処理が重要 |
| 塩酸 | 10%、23℃ | ○ | 一般に比較的安定 | 高温・高濃度では個別試験 |
| 硫酸 | 10%、23℃ | ○ | 希薄条件では比較的安定 | 濃硫酸・高温は注意 |
| 硝酸 | 10%、23℃ | △ | 酸化性により変色・劣化の可能性 | 濃度と温度の影響が大きい |
| 水酸化ナトリウム | 10%、23℃ | ○ | 一般に比較的安定 | 高温濃厚液は確認 |
| エタノール | 99%、23℃ | ◎ | 膨潤が小さい場合が多い | 長時間浸漬では重量・寸法確認 |
| IPA | 99%、23℃ | ◎ | 一般に良好 | 残留応力・界面密着を確認 |
| グリセリン | 23℃ | ◎ | 多価アルコールに比較的安定 | 温度上昇時は透過を確認 |
| MMB | 23℃ | ○ | グリコールエーテル系であり長時間接触に注意 | 膜厚・グレード依存 |
| トルエン | 23℃ | ○ | 室温では溶解しにくいが長時間で膨潤の可能性 | 高温・薄膜は注意 |
| n-ヘキサン | 23℃ | ◎ | 脂肪族炭化水素に比較的安定 | 油中添加剤の影響を別途確認 |
| アセトン | 23℃ | ○ | 一般に溶解しにくい | 界面・基材への浸透に注意 |
| 酢酸エチル | 23℃ | ○ | 膜は比較的安定 | 長時間接触で膨潤確認 |
| ジクロロメタン | 23℃ | △ | ハロゲン系溶剤は膨潤・透過に注意 | 膜除去工程に使われる場合もあり個別確認 |
| 潤滑油 | 23~100℃ | ○ | 油に対するバリア・低摩擦用途がある | 添加剤、温度、圧力依存 |
| 燃料 | 23~60℃ | ○ | 炭化水素系燃料に比較的安定な場合がある | 芳香族分、含酸素燃料、温度を確認 |
| 次亜塩素酸ナトリウム | 200~1000 ppm、23℃ | △ | 酸化剤であり長期暴露に注意 | 濃度、pH、紫外線併用を確認 |
| 過酸化水素 | 3%、23℃ | △ | 酸化劣化や界面影響の可能性 | 医療洗浄・滅菌条件では実試験必須 |
SP値(溶解度パラメータ)
ポリ(p-キシリレン)系の代表的なSP値は、資料と推算方法により差があるが、概ね19~21 MPa1/2程度を参考範囲として扱う。置換基、結晶化度、分子量、薄膜構造により変化するため、単一値での断定は避けるべきである。
パリレンは高分子量、半結晶性、架橋に近い不溶挙動、薄膜界面の影響を受けるため、SP値差だけで耐薬品性を判断できない。酸化、加水分解、界面剥離、透過、添加剤抽出、基材の環境応力割れも考慮する必要がある。
溶解性の目安
| SP値差 Δδ | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|
| 0~2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2~5 | 条件により膨潤する | △ |
| 5~8 | 短時間接触では比較的安定 | ○ |
| 8以上 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP値から見た耐溶剤性
以下はPPXの代表SP値を20 MPa1/2と仮定した参考計算である。実測耐薬品性とは一致しない場合があり、特にパリレンでは結晶性、分子運動性、膜厚、透過性、界面密着が支配的となる。
| 溶剤 | SP値 MPa1/2 | PPXとの差の目安 | 評価 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| n-ヘキサン | 14.9 | 約4~5 | △ | 実際には結晶性と不溶性により良好な場合がある |
| トルエン | 18.2 | 約1~2 | × | SP差だけでは膨潤リスクが高く見える |
| 酢酸エチル | 18.6 | 約1~2 | × | 長時間・高温で確認 |
| MEK | 19.0 | 約1以下 | × | 膜と界面の両方を評価 |
| アセトン | 19.9 | 約1 | × | 実測では耐える場合もありSP単独判定不可 |
| IPA | 23.5 | 約4~5 | △ | 一般に実使用性は比較的良い |
| エタノール | 26.0 | 約6~7 | ○ | 長時間浸漬を確認 |
| 水 | 47.9 | 約28~29 | ◎ | 透過と界面剥離は別評価 |
製法

| 工程 | 内容 | 主な管理項目 |
|---|---|---|
| 原料準備 | [2.2]パラシクロファンまたは置換ダイマーを精製し、必要量を秤量する。 | 純度、水分、異物、保管履歴 |
| 気化 | 減圧下でダイマーを加熱し、蒸気として反応系へ導入する。 | 気化温度、供給速度、真空度 |
| 熱分解 | 高温部でダイマーを開裂させ、反応性p-キシリレンモノマーを生成する。 | 熱分解温度、滞留時間、配管温度 |
| 蒸着重合 | 室温付近の基材表面でモノマーが吸着し、連鎖重合して薄膜を形成する。 | 基材温度、真空度、膜厚、治具・回転 |
| 前処理・密着向上 | 洗浄、乾燥、プラズマ、シラン系プライマーなどを用いる場合がある。 | 表面汚染、濡れ性、基材耐熱性 |
| 後処理・検査 | マスキング除去、膜厚測定、外観、ピンホール、絶縁、密着、漏れ試験を行う。 | 膜厚分布、欠陥、端部、再現性 |
代表的な反応式
[2.2]パラシクロファン誘導体 → 2 p-キシリレン誘導体 → [–CH2–C6H4–CH2–]n
実際には、ダイマーの昇華・気化、熱分解、モノマー輸送、基材表面への吸着、連鎖成長が連続的に進行する。溶剤や通常の重合触媒を基本的に必要としないことが特徴である。
添加剤・充填材・強化材
一般的な射出成形樹脂のようにGFやCFをコンパウンドする材料ではない。機能付与は、置換基設計、共重合、積層膜、プラズマ処理、プライマー、無機薄膜とのハイブリッド化、膜厚制御によって行うことが多い。
詳細な利用用途
| 分野 | 代表用途 | 適性 | 選定理由・注意点 |
|---|---|---|---|
| 電気・電子 | 基板、コイル、センサー、磁性部品、コネクタ保護 | ◎ | 薄膜絶縁、防湿、複雑形状追従。リワーク性と端部密封を確認。 |
| 半導体・MEMS | MEMS、微細電極、ゲート絶縁、パッケージ保護 | ◎ | 低温成膜とコンフォーマル性。パーティクル、アウトガス、膜応力を管理。 |
| 医療 | カテーテル、ガイドワイヤ、インプラント機器表面 | ○ | 低摩擦、生体適合グレードの存在。ISO 10993、USP Class VI、滅菌耐久を個別確認。 |
| 自動車 | センサー、電子制御基板、燃料・湿気環境部品 | ○ | 防湿、防食、薄膜化。温度サイクル、燃料組成、振動を確認。 |
| 航空宇宙・防衛 | 高信頼電子部品、真空・高温センサー | ○ | HT系の耐熱・低アウトガスが有利。規格適合と長期真空特性を確認。 |
| 機械部品 | 微小摺動面、ばね、細線、刃物、ノズル | ○ | 低摩擦、防食、寸法影響が小さい。摩耗寿命と剥離を確認。 |
| 食品機械 | センサー、計測部品、局所防食 | △ | 食品接触適合グレードと洗浄薬品耐久の確認が必要。 |
| 建築・設備 | 特殊センサー、腐食環境の小型部品 | △ | 大面積・屋外UV・コスト面で限定的。 |
用途別選定
| 用途 | 適性 | 理由・注意点 |
|---|---|---|
| ギア・軸受・ブッシュ | △ | バルク材ではなく表面低摩擦膜として限定的に有効。摩耗寿命を確認。 |
| チューブ・ホース | ○ | 内外面バリア、低摩擦、生体適合用途に使われる。屈曲耐久と膜均一性を確認。 |
| フィルム・シート | △ | 自立膜は可能だが、一般包装フィルムとしては高コスト。 |
| 電気コネクタ・絶縁部品 | ◎ | 薄膜絶縁と防湿に適する。接点部のマスキングが必要。 |
| 電子部品筐体 | ○ | 局所防湿・防食に有効。大面積ではコストと真空槽サイズが制約。 |
| 透明カバー・レンズ | △ | 薄膜透明性はあるが、散乱、干渉色、UV劣化を確認。 |
| 燃料系部品 | ○ | センサー・微小部品の保護に有効な場合がある。燃料組成と温度を確認。 |
| 医療機器部品 | ○ | 適合グレードと工程管理が前提。滅菌・生体安全性・抽出物を確認。 |
| 半導体製造装置部品 | ○ | 絶縁、防食、低粒子化に有効。高純度・アウトガス評価が必要。 |
| 真空装置部品 | ○ | HT系や高純度膜が候補。TML、CVCM、脱ガスを確認。 |
| 建築・屋外部品 | △ | UV、面積、コストにより限定的。 |
| 接着剤・塗料 | × | PPX自体を液状接着剤・塗料として使う材料ではない。 |
| コーティング | ◎ | 主要用途である。複雑形状に均一な薄膜を形成しやすい。 |
| 複合材料マトリックス | × | 一般的なFRPマトリックス用途には用いない。 |
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | PPXとの違い |
|---|---|---|
| ポリテトラフルオロエチレン(PTFE) | 耐薬品性、低摩擦、耐熱性に優れる。 | PTFEはバルク成形材・フィルムとして利用しやすい。PPXは気相成膜で複雑形状へ薄く均一に形成しやすい。 |
| ポリイミド(PI) | 高耐熱、電気絶縁、フィルム用途に優れる。 | PIはフィルムや成形品として使われる。PPXは室温付近での蒸着重合と高いコンフォーマル性が特徴である。 |
| ポリエーテルエーテルケトン(PEEK) | 高強度、高耐熱、耐薬品性に優れるスーパーエンプラ。 | PEEKは構造部品向け溶融成形材。PPXは数µm~数十µmの表面保護膜向けである。 |
| ポリフェニレンサルファイド(PPS) | 耐熱、耐薬品、難燃、寸法安定性に優れる。 | PPSは射出成形部品向け。PPXは薄膜絶縁・防湿と微細隙間への被覆性に優れる。 |
| ポリフッ化ビニリデン(PVDF) | 耐薬品、耐候、圧電性、成膜性を持つフッ素樹脂。 | PVDFは溶融・溶液加工が可能。PPXは無溶剤の真空蒸着重合で成膜する。 |
| ポリエチレンテレフタレート(PET) | 透明フィルム、絶縁、包装用途で汎用性が高い。 | PETは基材フィルムとして安価である。PPXは被覆対象へ直接成膜し、ピンホールの少ない保護膜を形成しやすい。 |
| エポキシ樹脂 | 接着、封止、含浸、厚膜形成に優れる。 | エポキシは液状塗布・硬化で厚膜化しやすい。PPXは薄膜、低温、気相成膜で微細構造への追従性が高い。 |
比較用評価スコア
スコアは材料群としての一般的傾向を5段階で示したものであり、特定グレードの最高性能を表すものではない。
| 評価項目 | スコア | 評価理由 |
|---|---|---|
| 引張強度 | 3 | 薄膜として十分な強度を持つが、構造材用途ではない。 |
| 剛性 | 3 | 一般的な樹脂薄膜相当であり、グレード差がある。 |
| 衝撃強度 | 3 | 柔軟な膜であるが、膜厚・基材・欠陥に依存する。 |
| 耐熱性 | 3 | N/Cは中程度、D/HTは高い。材料群全体では中程度と評価する。 |
| 耐薬品性 | 4 | 多くの薬品に比較的安定であるが、酸化剤・高温・長時間条件では確認が必要。 |
| 耐候性 | 2 | N/C/Dは紫外線による黄変・劣化に注意。HT系は改善される。 |
| 低吸水性 | 5 | 吸水率が小さく、防湿膜として優れる。 |
| 摺動性 | 4 | 低摩擦グレードがあり、微小摺動用途に有効。 |
| 電気絶縁性 | 5 | 薄膜で高い絶縁破壊強さと体積抵抗率を示す。 |
| 成形加工性 | 2 | 専用真空蒸着設備が必要で、一般成形には不向き。 |
| 接着性 | 2 | 未処理膜は接着・印刷が難しく、表面処理を要する場合がある。 |
| リサイクル性 | 1 | 基材上の薄膜であり、分離回収が困難。 |
| 価格優位性 | 1 | 一般塗料や樹脂フィルムより高コストであることが多い。 |
代表的なメーカー
| メーカー・事業者 | 代表製品・ブランド | 概要 |
|---|---|---|
| KISCO株式会社/第三化成株式会社 | diX® | 高純度パリレン材料およびコーティングサービスを展開する国内企業グループ。 |
| Specialty Coating Systems, Inc. | SCS Parylene N、C、D、HTなど | パリレン原料、成膜装置、コーティングサービスをグローバルに展開する。 |
| Curtiss-Wright Surface Technologies | Parylene coating services | 航空宇宙、医療、電子など向けのパリレンコーティングサービスを提供する。 |
法規制・認証
| 法規制・認証項目 | 一般的な扱い | 確認事項 |
|---|---|---|
| RoHS | 適合可能なグレード・工程が存在する。 | 原料、残留不純物、下地処理、製造拠点の証明書を確認する。 |
| REACH・SVHC | 個別製品で確認が必要である。 | ダイマー、添加剤、プライマー、洗浄剤を含めてSDS・宣言書を確認する。 |
| FDA食品接触 | 食品接触用途に使用可能な事例はあるが、材料名だけでは適合を断定できない。 | グレード、膜厚、接触食品、温度、時間、用途区分を確認する。 |
| 日本の食品衛生法 | 個別確認が必要である。 | ポジティブリスト、溶出、基材、接着促進剤を確認する。 |
| USP Class VI・ISO 10993 | 医療用途向け適合グレード・評価実績が存在する。 | 完成品での生物学的安全性、滅菌法、残留物、製造変更管理を確認する。 |
| UL認証 | 認証グレード・システムが存在する場合がある。 | 膜厚、基材、色、工程を含む認証条件を確認する。 |
| PFAS関連規制 | N、C、Dはフッ素系ではないが、HT/AF系はフッ素化材料である。 | 対象法令の定義、用途、地域、含有情報を確認する。 |
環境・リサイクル性
パリレン膜は熱可塑性高分子に分類されるが、実用上は基材上に極薄膜として形成され、分離してマテリアルリサイクルすることは困難である。廃棄・焼却時は、Parylene CおよびDでは塩素、HT/AF系ではフッ素を含むため、地域の法令、排ガス処理、基材の材質を含めて評価する。バイオベースや生分解性材料として一般化することはできない。
価格・供給性
| 項目 | 相対評価・傾向 |
|---|---|
| 価格区分 | 高価格~極めて高価格。材料費だけでなく、真空成膜設備、治具、マスキング、前処理、検査費を含む。 |
| 国内入手性 | コーティングサービス経由で入手しやすい。原料ダイマー単体の少量調達は用途・純度により制約がある。 |
| 供給形態 | ダイマー、成膜受託、装置、技術ライセンス、完成コーティング部品。 |
| 少量試作 | 対応可能な事業者があるが、最小ロット、治具費、マスキング費を確認する。 |
| 特注グレード | 機能化パリレン、特殊膜厚、部分成膜、積層膜は個別検討となる。 |
注意点・劣化故障モード
| 劣化現象 | 主な原因 | 発生しやすい条件 | 影響 | 予防策 | 推奨確認試験 |
|---|---|---|---|---|---|
| 密着不良・剥離 | 油分、水分、離型剤、低表面エネルギー、前処理不足 | 高湿度、温度サイクル、薬液浸漬 | バリア性低下、端部からの浸入 | 洗浄、乾燥、プラズマ、適切なプライマー、端部設計 | クロスカット、90°ピール、高温高湿後密着 |
| ピンホール・膜切れ | 異物、鋭角、影、膜厚不足、治具不良 | 微細突起、深い凹部、複雑なマスキング | 絶縁破壊、腐食、漏れ | 清浄化、治具最適化、膜厚管理、多方向成膜 | 絶縁破壊、リーク、蛍光浸透、顕微鏡観察 |
| 熱酸化劣化 | 酸素存在下の長時間加熱 | C/N系の高温連続使用 | 黄変、脆化、クラック、絶縁低下 | 耐熱グレード選定、温度低減、酸素遮断 | 熱老化、TGA、FT-IR、絶縁抵抗 |
| 紫外線劣化 | 芳香族骨格の光酸化 | 屋外、UVランプ近傍 | 黄変、脆化、密着低下 | 遮光、トップコート、HT系検討 | キセノンアーク、UV促進耐候 |
| 環境応力・界面割れ | 基材残留応力、熱膨張差、機械変形 | 曲げ部、圧入部、急激な温度変化 | クラック、剥離、局所腐食 | 応力緩和、膜厚最適化、角R設計 | 曲げ耐久、ヒートサイクル、応力負荷薬液試験 |
| 摩耗・膜消失 | 摺動、粒子、相手材粗さ | 高荷重、高速度、無潤滑 | 摩擦増加、基材露出、粉発生 | 膜厚・グレード選定、表面粗さ管理 | 往復摺動、摩耗量、摩擦係数 |
| アウトガス | 未反応物、吸着物、前処理残渣 | 真空、高温、半導体・宇宙用途 | 汚染、光学曇り、電気不良 | 高純度原料、真空ベーク、工程管理 | TML/CVCM、GC-MS、昇温脱離 |
推奨確認試験
- 実薬品浸漬試験:実使用濃度、温度、時間で重量変化、外観、膜厚、密着、絶縁を確認する。
- 高温高湿試験:85℃・85%RHなどを参考に、端部からの浸入、絶縁抵抗、腐食、剥離を確認する。
- 熱老化試験:使用上限温度付近で500~2000時間程度の外観、質量、伸び、絶縁を追跡する。
- ヒートサイクル試験:低温から高温までの繰返しで、線膨張差によるクラックと剥離を確認する。
- 摩耗試験:相手材、荷重、速度、温度、潤滑条件を実機に合わせる。
- 溶着・接着性試験:表面処理条件ごとに初期および湿熱後の接着強度を確認する。
- アウトガス試験:真空・半導体・宇宙用途ではTML、CVCM、GC-MS、昇温脱離を確認する。
- 実成膜・実部品耐久試験:治具、マスキング、膜厚分布、端部、ねじ部、可動部を含む完成品で評価する。
関連キーワード
パラキシリレン、 ポリ(p-キシリレン)、 パリレン、 PPX、 Parylene N、 Parylene C、 Parylene D、 Parylene HT、 コンフォーマルコーティング、 真空蒸着重合、 防湿コーティング、 電気絶縁膜、 低摩擦コーティング、 ポリイミド、 PTFE、 PEEK、 PPS、 PVDF、 SP値、 耐薬品性