概要
| 材料名 | アクリロニトリル・スチレン・α-メチルスチレン・N-フェニルマレイミド共重合物 |
|---|---|
| 略記号 | 一般的に統一された略号は少ないが、AS/α-MS/NPMI系、耐熱AS系樹脂、NPMI変性SAN系樹脂として扱われることが多い |
| 英語名 | Acrylonitrile Styrene α-Methylstyrene N-Phenylmaleimide Copolymer |
| 分類 | 高耐熱スチレン系樹脂、熱可塑性樹脂、非晶性樹脂 |
| 構造・主成分 | AN、ST、α-MS、NPMIからなるランダム共重合系又は高耐熱改質SAN系共重合構造 |
| 主な用途 | 電気電子筐体、車載内装部品、照明部材、家電外装、高耐熱透明部品、OA機器部品 |
アクリロニトリル・スチレン・α-メチルスチレン・N-フェニルマレイミド共重合物は、アクリロニトリル(AN)、スチレン(ST)、α-メチルスチレン(α-MS)、N-フェニルマレイミド(NPMI)を主成分とする高耐熱スチレン系熱可塑性樹脂である。
AS樹脂(SAN)の透明性、剛性、成形性を基礎に、α-メチルスチレンとN-フェニルマレイミドの導入によって耐熱性、表面硬度、寸法安定性を高めた材料群として用いられる。非晶性であり、外観性に優れ、耐熱筐体、電気電子部品、車載内装部品、照明部品などに適する。
特徴
- AS樹脂系の透明性、剛性、成形性を保ちながら、耐熱性と表面硬度を高めやすい。
- α-メチルスチレン及びN-フェニルマレイミド由来の高Tg成分により、耐熱変形性の向上が期待できる。
- ABS系ほどの高衝撃性は得にくいが、非晶性で外観が良く、寸法精度を確保しやすい。
- 実使用では、残留応力、薬品接触時間、温度、板厚、成形条件により耐久性が変化する。
- 耐熱AS系樹脂、高耐熱スチレン系樹脂、NPMI変性スチレン系樹脂を扱うメーカー及びコンパウンドメーカーで供給される。
- グレード名はメーカーごとに異なり、AS系、NAS系、SMI系、耐熱透明スチレン系樹脂として流通する場合がある。
- 実際の採用時は、HDT、Vicat、UL、透明性、色調、流動性、耐薬品性を各社データで比較する必要がある。
長所
- AS樹脂より高い耐熱性を持たせやすい。
- 透明又は高外観グレードの設計が可能である。
- 剛性、表面硬度、寸法安定性に優れる。
- 電気電子用途、車載内装用途で使いやすい物性バランスを取りやすい。
短所
- 強極性溶剤、ケトン、芳香族溶剤では応力割れや膨潤に注意が必要である。
- 耐衝撃性はABSやAESのようなゴム変性系に及ばない場合がある。
- 高耐熱化に伴い流動性が低下し、成形条件の最適化が必要になる。
- グレード差が大きく、最終判断にはメーカー物性表と実機評価が必要である。
成形加工
本材料は非晶性の高耐熱スチレン系樹脂であり、射出成形を中心に、押出成形、シート成形、真空成形などに適用される。高耐熱グレードほど溶融粘度が上がりやすいため、樹脂温度、金型温度、保圧、乾燥管理を含めて調整する必要がある。
| 加工方法 | 適性 | 主な製品例 |
|---|---|---|
| 射出成形 | ◎ | 筐体、内部構造部品、コネクタ周辺部品、加飾部品 |
| 押出成形 | ○ | シート、フィルム、板材、プロファイル材 |
| 真空・圧空成形 | ○ | 外装カバー、表示パネル、家電カバー |
| 切削加工 | △ | 試作部品、評価片、治具 |
加工条件
| 項目 | 標準グレード | 高耐熱グレード | 高流動グレード |
|---|---|---|---|
| 乾燥 | 80℃ × 2〜4時間 | 80〜90℃ × 3〜4時間 | 80℃ × 2〜3時間 |
| 樹脂温度(℃) | 240〜270 | 250〜290 | 235〜260 |
| 金型温度(℃) | 50〜80 | 60〜90 | 40〜70 |
| 成形収縮率(%) | 0.3〜0.6 | 0.3〜0.5 | 0.3〜0.6 |
| 留意点 | 外観と寸法のバランス重視 | 焼け、残留応力、黄変に注意 | ウェルド部の強度確認が必要 |
構造式
本材料は、アクリロニトリル、スチレン、α-メチルスチレン、N-フェニルマレイミドを構成単位とする高耐熱共重合体である。実際の商業材ではモノマー比率、連鎖分布、末端基、分子量設計により透明性、耐熱性、流動性、耐薬品性が変化する。
| 基本構造 | [–CH2–CH(C6H5)–]x [–CH2–CH(CN)–]y [–CH2–C(CH3)(C6H5)–]z [–CH(–CO–N(C6H5)–CO–)–CH–]w |
|---|---|
| 構造の要点 | STが外観性と成形性、ANが耐薬品性と剛性、α-MSが高Tg化、NPMIが更なる耐熱性と表面硬度向上に寄与する。 |
基本反応式
n AN + m ST + p α-MS + q NPMI → 〔AN/ST/α-MS/NPMI共重合物〕
一般には、ラジカル重合によりランダム共重合体又は高耐熱改質SAN系樹脂として製造する。実際の工業生産では、塊状重合、溶液重合、懸濁重合などが使い分けられる。
種類
種類の名称
標準グレード
| 名称 | 標準アクリロニトリル・スチレン・α-メチルスチレン・N-フェニルマレイミド共重合物 |
|---|---|
| 構成 | AN、ST、α-MS、NPMIのバランス型共重合組成 |
| 特徴 | 耐熱性、透明性、剛性、成形性のバランスが良い。 |
| 主な用途 | 家電筐体、OA機器、照明部品、車載内装部品 |
高耐熱グレード
| 名称 | 高耐熱グレード |
|---|---|
| 構成 | α-MS及びNPMI比率を高めた耐熱重視組成 |
| 特徴 | HDT、Vicat、表面硬度、寸法安定性に優れる。 |
| 主な用途 | 高温環境筐体、照明反射部材、電装カバー、加熱機器周辺部材 |
高流動・薄肉成形グレード
| 名称 | 高流動・薄肉成形グレード |
|---|---|
| 構成 | 分子量及び組成を調整した流動性重視組成 |
| 特徴 | 薄肉成形性、転写性、成形サイクル性に優れる。 |
| 主な用途 | 薄肉ハウジング、意匠部品、小型電気部品 |
難燃・電気電子向けグレード
| 名称 | 難燃・電気電子向けグレード |
|---|---|
| 構成 | 難燃剤、熱安定剤、流動改良剤等を配合した改質組成 |
| 特徴 | UL規格対応、耐熱保持、電気特性の安定化を図りやすい。 |
| 主な用途 | 電装筐体、コネクタ周辺、電源ユニットカバー |
代表的な物性値又は機械的性質
| 性質 | 単位 | 標準 | 高耐熱 | 高流動 |
|---|---|---|---|---|
| 比重 | — | 1.07〜1.11 | 1.08〜1.12 | 1.06〜1.10 |
| 引張強さ | MPa | 65〜80 | 70〜85 | 60〜75 |
| 引張伸び | % | 2〜5 | 2〜4 | 2〜5 |
| 曲げ強さ | MPa | 100〜125 | 110〜135 | 95〜120 |
| 曲げ弾性率 | GPa | 2.7〜3.3 | 2.9〜3.5 | 2.6〜3.1 |
| アイゾット衝撃強さ(ノッチ付き) | kJ/m² | 1.5〜3.5 | 1.5〜3.0 | 1.5〜3.5 |
| ロックウェル硬さ | Rスケール | 118〜125 | 120〜128 | 116〜123 |
| 荷重たわみ温度(1.82MPa) | ℃ | 100〜118 | 115〜135 | 95〜112 |
| ビカット軟化温度 | ℃ | 118〜135 | 130〜155 | 112〜128 |
| ガラス転移温度(Tg) | ℃ | 120〜145 | 140〜165 | 115〜135 |
| 線膨張係数 | ×10−5/K | 6.0〜8.5 | 5.5〜8.0 | 6.5〜9.0 |
| 体積固有抵抗 | Ω・cm | 1014〜1016 | 1014〜1016 | 1013〜1016 |
耐薬品性
AS樹脂より耐熱性は高いが、耐薬品性は主としてAN成分と高Tg芳香族成分の影響を受ける。水、希酸、希アルカリ、油類には比較的安定である一方、ケトン、芳香族溶剤、強極性溶剤、塩素系溶剤では膨潤、白化、応力割れに注意が必要である。
| 薬品・溶剤 | 耐性 | 備考 |
|---|---|---|
| 水 | ○ | 常温水では比較的安定である。 |
| 希酸 | ○ | 短時間接触では安定しやすいが、高温では確認が必要である。 |
| 強酸 | △〜× | 酸化性の強い酸や高濃度条件では劣化の可能性がある。 |
| アルカリ | △〜○ | 低濃度では比較的安定であるが、高温高濃度では注意が必要である。 |
| アルコール | ○ | メタノール、エタノール、IPAには比較的安定である。 |
| ケトン | × | アセトン、MEKは膨潤、白化、応力割れの原因になりやすい。 |
| 芳香族溶剤 | △〜× | トルエン、キシレンでは外観不良や亀裂に注意する。 |
| 塩素系溶剤 | × | 強い膨潤又は溶解の可能性が高い。 |
| 油・グリース | ○ | 一般工業油には比較的安定である。 |
更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照。
SP値(溶解度パラメータ)
本材料のSP値は共重合比、分子量、NPMI比率、α-メチルスチレン比率、添加剤の有無により変動する。非晶性スチレン系高耐熱樹脂としては中〜やや高い範囲に位置し、ケトンや芳香族溶剤には注意が必要である。
SP値(溶解度パラメータ)
| 項目 | SP値(δ) MPa1/2 | 備考 |
|---|---|---|
| 標準グレード | 20.3〜21.1 | AS樹脂よりやや高耐熱で、アルコール類には比較的安定である。 |
| 高耐熱グレード | 20.7〜21.6 | NPMI及びα-MS比率上昇により高Tg化しやすい。強極性溶剤には注意する。 |
| 高流動グレード | 20.1〜20.9 | 流動性重視設計であり、耐溶剤性は標準グレードと同等又はやや低下する場合がある。 |
| 難燃・電気電子向けグレード | 20.4〜21.3 | 難燃剤や添加剤の影響で実際の耐薬品性は差が出るため個別確認が必要である。 |
溶解性の目安
| Δδ | 挙動 |
|---|---|
| 0〜2 | 溶解又は強い膨潤を生じやすい |
| 2〜5 | 膨潤、白化、応力割れに注意が必要である |
| 5以上 | 溶解しにくい傾向である |
SP値から見た耐溶剤性
| 溶剤 | SP値(δ) MPa1/2 | 耐性 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|---|
| 水 | 47.9 | ◎ | 常温では安定である。長期高温水では確認が必要である。 |
| メタノール | 29.7 | ○ | 常温短時間では比較的安定である。 |
| エタノール | 26.0 | ○ | 一般用途では比較的使いやすい。 |
| IPA(イソプロパノール) | 23.5 | △ | SP値差が小さく、残留応力があると白化やクラックの可能性がある。 |
| アセトン | 20.0 | × | 膨潤、白化、応力割れの危険が高い。 |
| MEK(メチルエチルケトン) | 19.0 | × | 溶剤クラックを起こしやすく、使用は避けたい。 |
| 酢酸エチル | 18.6 | × | 外観劣化、軟化の可能性がある。 |
| トルエン | 18.2 | △〜× | 芳香族溶剤であり、応力負荷時に特に注意が必要である。 |
| キシレン | 18.0 | △〜× | 高温時は膨潤しやすい。 |
| NMP(N-メチル-2-ピロリドン) | 23.1 | × | 強極性溶剤であり、膨潤、外観不良、劣化に注意が必要である。 |
| DMF(ジメチルホルムアミド) | 24.8 | × | 高温では特に影響が大きい。 |
| DMSO(ジメチルスルホキシド) | 26.7 | △〜× | 浸透性が高く、長時間接触では注意する。 |
| 鉱物油 | 16〜18 | ○ | 一般工業油には比較的安定である。 |
◎:非常に良好 ○:概ね良好 △:注意が必要 ×:不適
※ 耐溶剤評価は、本材料のSP値中央値(約20.8 MPa1/2)を基準とし、溶剤とのSP値差及びスチレン系高耐熱樹脂の一般的な耐薬品傾向を総合して示した参考値である。
※ 特にアセトン、MEK、酢酸エチル、トルエン、キシレン、NMP、DMF、DMSOは外観不良、膨潤、応力割れを生じやすいため注意が必要である。
製法
本材料は、アクリロニトリル、スチレン、α-メチルスチレン、N-フェニルマレイミドをラジカル共重合して得る。工業的には塊状重合、溶液重合、懸濁重合が中心であり、分子量調整剤、開始剤、熱安定剤を用いて分子量、流動性、透明性、耐熱性を制御する。
基本反応
n CH2=CHCN + m CH2=CHC6H5 + p CH2=C(CH3)C6H5 + q NPMI → [AN/ST/α-MS/NPMI共重合物]
製造上の要点
- NPMIは高耐熱化に有効であるが、過剰にすると流動性や脆性に影響しやすい。
- α-メチルスチレンは高Tg化に寄与するが、成形条件によっては黄変や熱履歴の影響に注意が必要である。
- 分子量と組成設計により、透明性、耐熱性、流動性、耐薬品性のバランスを取る。
詳細な利用用途
- 家電筐体、調理家電外装、ドライヤー部品、ヒーター周辺カバー
- OA機器の外装、内部保持部品、トナー周辺の耐熱部材
- 車載内装加飾部品、照明周辺部品、スイッチ部材、表示窓周辺部材
- 照明機器、反射カバー、耐熱透明カバー、光学外装部材
- 工業機器のカバー、端子台周辺部材、電装ボックス部材
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | 本材料との違い |
|---|---|---|
| AS樹脂(SAN) | 透明性、剛性、成形性に優れる。 | 本材料の方が耐熱性、表面硬度、寸法安定性を高めやすい。 |
| ABS樹脂 | 耐衝撃性、成形性、汎用性に優れる。 | 本材料の方が透明性及び耐熱性に優れやすいが、衝撃性ではABSが有利な場合が多い。 |
| ASA樹脂 | 耐候性に優れるスチレン系樹脂である。 | 本材料は耐候性よりも耐熱性、表面硬度、外観性を重視する用途に向く。 |
| AES樹脂 | 耐候性と耐衝撃性のバランスが良い。 | 本材料は透明性及び高温剛性で有利になりやすい。 |
| ACS樹脂 | 耐候性ABS系として使われる。 | 本材料はゴム相を持たない高耐熱・高剛性設計に向く。 |
| SMI系樹脂 | スチレン・マレイミド系で高耐熱化しやすい。 | 本材料はAN及びα-MSを併用することで、耐薬品性、流動性、外観性の調整幅を確保しやすい。 |
代表的なメーカー
- 耐熱AS系樹脂、高耐熱スチレン系樹脂、NPMI変性スチレン系樹脂を扱うメーカー及びコンパウンドメーカーで供給される。
- グレード名はメーカーごとに異なり、AS系、NAS系、SMI系、耐熱透明スチレン系樹脂として流通する場合がある。
- 実際の採用時は、HDT、Vicat、UL、透明性、色調、流動性、耐薬品性を各社データで比較する必要がある。