チオウレタン系樹脂

材料名チオウレタン系樹脂
略記号Thiourethane, MR™ (三井化学の商標)
英語名Thiourethane Resin
分類熱硬化性光学樹脂、高屈折率樹脂、硫黄含有樹脂
基本構造チオールとイソシアネートのチオウレタン結合構造
主な種類高屈折率レンズ用、耐衝撃改良品、低黄変品、光学グレード
主な用途用途は後述の詳細な利用用途に整理する

チオウレタン系樹脂(Thiourethane)は、熱硬化性光学樹脂、高屈折率樹脂、硫黄含有樹脂に分類される材料である。 硫黄を含む高屈折率光学樹脂である。眼鏡レンズ、光学部材に使用される。

三井化学が開発した高屈折率、高耐衝撃性、軽量性を兼ね備えたメガネレンズ材料。硫黄原子の導入により、薄くても割れにくく、クリアな視界を実現。屈折率1.60から1.74まで幅広く展開。

特徴

  • 硫黄を含む高屈折率光学樹脂である
  • 眼鏡レンズ、光学部材に使用される
  • 材料特性はグレード、添加剤、架橋、充填材、分子量により変化する
  • 耐薬品性は温度、濃度、接触時間、応力状態で変化する
  • メーカー物性表と実使用試験による確認が重要である
長所
  • 用途に応じた物性設計が可能である
  • 材料固有の耐熱性、耐薬品性、機械特性、柔軟性、透明性などを活用できる
  • 成形品、フィルム、シート、複合材料、コーティングなどに展開できる
  • 改質、共重合、充填材配合により性能を調整できる
短所
  • 耐薬品性、耐熱性、耐候性はグレードにより大きく異なる
  • 成形条件や硬化条件の管理が必要である
  • 応力、温度、薬品濃度により劣化挙動が変わる
  • 採用時にはメーカー資料と実使用試験で確認する必要がある
成形加工

チオウレタン系樹脂の加工性は、熱可塑性、熱硬化性、ゴム、複合材料の分類により異なる。 熱可塑性材料では溶融成形、熱硬化性材料では加熱硬化、ゴムでは混練・加硫、複合材料では含浸・積層・硬化が基本となる。

加工方法適性主な製品例
射出成形熱可塑性グレードの成形品、機構部品、筐体、精密部品
押出成形フィルム、シート、チューブ、板材、丸棒
圧縮成形△〜○ゴム、熱硬化性樹脂、複合材料、切削素材
注型・含浸△〜○熱硬化性樹脂、光学樹脂、FRP、コーティング
切削加工板材、丸棒、治具、精密部品
接着・塗装表面処理、プライマー、専用接着剤が必要な場合がある

構造式

構造の基本は、チオールとイソシアネートのチオウレタン結合構造である。 既存サイト内の構造部分と同じ考え方で、主鎖、側鎖、官能基、共重合成分、架橋構造、充填材の有無が、耐熱性、耐薬品性、機械特性、吸水性、透明性、電気特性に影響する。

種類

高屈折率レンズ用
名称高屈折率レンズ用
構成チオウレタン系樹脂の用途別または改質グレードである
特徴チオウレタン系樹脂の基本特性を用途に合わせて調整したタイプである
主な用途成形品、部品、フィルム、シート、複合材料、改質材など
特徴
  • 標準品に対して用途別に物性を調整した材料である
  • 耐熱性、耐薬品性、柔軟性、強度、成形性、外観性のいずれかを改善する
  • 採用時にはメーカーグレードごとの物性表を確認する必要がある
耐衝撃改良品
名称耐衝撃改良品
構成チオウレタン系樹脂の用途別または改質グレードである
特徴チオウレタン系樹脂の基本特性を用途に合わせて調整したタイプである
主な用途成形品、部品、フィルム、シート、複合材料、改質材など
特徴
  • 標準品に対して用途別に物性を調整した材料である
  • 耐熱性、耐薬品性、柔軟性、強度、成形性、外観性のいずれかを改善する
  • 採用時にはメーカーグレードごとの物性表を確認する必要がある
低黄変品
名称低黄変品
構成チオウレタン系樹脂の用途別または改質グレードである
特徴チオウレタン系樹脂の基本特性を用途に合わせて調整したタイプである
主な用途成形品、部品、フィルム、シート、複合材料、改質材など
特徴
  • 標準品に対して用途別に物性を調整した材料である
  • 耐熱性、耐薬品性、柔軟性、強度、成形性、外観性のいずれかを改善する
  • 採用時にはメーカーグレードごとの物性表を確認する必要がある
光学グレード
名称光学グレード
構成チオウレタン系樹脂の用途別または改質グレードである
特徴チオウレタン系樹脂の基本特性を用途に合わせて調整したタイプである
主な用途成形品、部品、フィルム、シート、複合材料、改質材など
特徴
  • 標準品に対して用途別に物性を調整した材料である
  • 耐熱性、耐薬品性、柔軟性、強度、成形性、外観性のいずれかを改善する
  • 採用時にはメーカーグレードごとの物性表を確認する必要がある

代表的な物性値又は機械的性質

性質単位代表値・範囲備考
比重1.25 ~ 1.45硫黄含有量、芳香族成分、硬化条件により変化する。
屈折率nD1.60 ~ 1.74高屈折率光学レンズ用途で重要な特性である。
アッベ数30 ~ 45屈折率が高いほど低下する傾向がある。
光線透過率%88 ~ 92透明性が高く、眼鏡レンズや光学部品に使用される。
引張強さMPa40 ~ 80熱硬化型の架橋密度により変化する。
引張伸び%3 ~ 20硬質グレードでは小さく、靭性改良品では大きくなる。
曲げ強さMPa70 ~ 130光学用硬質樹脂として比較的高い剛性を示す。
曲げ弾性率GPa1.8 ~ 3.5一般的な透明樹脂より高めの剛性を持つ場合がある。
アイゾット衝撃強さkJ/m²3 ~ 12硬質透明樹脂であり、衝撃性はグレード差が大きい。
ロックウェル硬さMスケールM70 ~ M100表面硬度が高く、コーティング適性も重要である。
ガラス転移温度80 ~ 130硬化組成と架橋密度により変化する。
荷重たわみ温度70 ~ 110高温使用では変形、応力緩和、黄変に注意する。
線膨張係数×10⁻⁵ /K5 ~ 8熱硬化性透明樹脂として中程度の熱膨張を示す。
成形収縮率%0.5 ~ 1.5注型硬化条件、金型形状、後硬化条件により変動する。
吸水率%0.1 ~ 0.4湿熱条件では寸法変化、屈折率変化、白化に注意する。
体積固有抵抗Ω・cm10¹⁴ ~ 10¹⁶一般に電気絶縁性は高い。

※上記は光学用チオウレタン系樹脂の代表値である。実際の物性は、ポリチオール成分、イソシアネート成分、硫黄含有量、硬化条件、添加剤、後硬化処理により変化する。

三井化学 MRシリーズ(チオウレタン系樹脂)の代表的な物性値又は機械的性質
項目単位MR-160DGMR-7MR-10MR-174備考
屈折率(ne)1.601.671.671.74高屈折率ほどレンズを薄型化できる。
アッベ数(νe)39313132値が高いほど色収差が少なく視界がクリアである。
熱変形温度868510078MR-10は高耐熱型である。
比重約1.30約1.35約1.36約1.47高屈折率化に伴い比重は上昇する傾向がある。
耐衝撃性良好ExcellentGoodOKMR-7は高屈折率帯で特に耐衝撃性に優れる。
耐熱性GoodGoodExcellentOKMR-10は熱変形やクラック耐性を重視した材料である。
染色性GoodExcellentGoodOKMR-7はサングラス用途に適した高染色性を有する。
透明性非常に良好良好良好良好均一重合により高い光学透明性を持つ。
レンズ薄肉化性能良好優秀優秀最高レベルMR-174は超高屈折率による極薄レンズ設計が可能である。
植物由来原料対応対応非対応非対応対応MR-160DGおよびMR-174はDo Green™対応材料である。
代表用途一般眼鏡レンズ薄型・染色レンズ高耐熱レンズ超薄型高級レンズ用途ごとに最適化されている。

※上記数値は三井化学株式会社公表資料に基づく代表値であり、保証値ではない。
※MRシリーズは、チオウレタン系高屈折率レンズ材料として世界的に広く採用されている。
※MR-160DGおよびMR-174は植物由来原料を一部使用した「Do Green™」対応材料である。

耐薬品性

チオウレタン系樹脂の耐薬品性は、温度、濃度、接触時間、応力、分子量、架橋密度、添加剤、充填材により変化する。 下表は一般的な材料特性として、英語圏の材料データシートで示される傾向と日本企業の物性表で用いられる実用表現を合わせて整理した目安である。

薬品・溶剤耐性備考
○〜△吸水、加水分解、白化、物性変化の有無を確認する
弱酸○〜△多くの場合で短期使用は可能だが、樹脂構造に依存する
強酸△〜×分解、膨潤、架橋劣化、加水分解に注意する
弱アルカリ○〜△材料により安定性が異なる
強アルカリ△〜×エステル、アミド、カーボネート、イミド系では注意が必要である
アルコール○〜△応力下ではクラックや膨潤に注意する
アセトン△〜×非晶性樹脂、極性樹脂、ゴムでは膨潤・溶解に注意する
MEK△〜×強溶媒となる材料が多い
トルエン△〜×芳香族溶剤に弱い材料では膨潤・溶解する
塩素系溶剤△〜×多くの樹脂で膨潤、溶解、クラックに注意する
油・燃料○〜△ゴム系、ポリオレフィン系、ポリアミド系で傾向が異なる

更に詳しくはプラスチックの耐薬品性一覧表を参照。

SP値(溶解度パラメータ)

チオウレタン系樹脂のSP値は、約21〜24 MPa1/2が目安である。 ただし、ゴム、熱硬化性樹脂、結晶性樹脂、複合材料では、SP値が近くても直ちに溶解するとは限らない。 一次判断としてSP値を使い、実際には浸漬試験、重量変化、寸法変化、外観、機械強度変化で評価する必要がある。

項目SP値(δ)
MPa1/2
備考
チオウレタン系樹脂(標準グレード)21.0 ~ 22.5硫黄原子を含む架橋構造を有し、芳香族溶剤や塩素系溶剤に影響を受けやすい。
チオウレタン系光学樹脂(MR系相当)21.5 ~ 23.0高屈折率化のため硫黄含有量が高く、ケトン系・エステル系溶剤に注意が必要である。
高架橋型チオウレタン樹脂22.0 ~ 23.5架橋密度が高いため耐薬品性は向上するが、内部応力によるクラックに注意する。
柔軟型チオウレタン樹脂20.0 ~ 21.5柔軟性向上のため低極性化されており、炭化水素系溶剤に膨潤しやすい。
耐熱型チオウレタン樹脂22.0 ~ 24.0耐熱性向上のため芳香環比率が高く、一部極性溶剤に対して応力割れを生じる場合がある。
バイオマス系チオウレタン樹脂21.0 ~ 22.5植物由来原料を含むが、基本的な耐溶剤性傾向は従来系と近い。
溶解性の目安
Δδ挙動
0〜2溶解しやすい
2〜5膨潤・軟化
5以上溶解しにくい
SP値から見た耐溶剤性
溶剤名SP値(δ)
MPa1/2
耐溶剤性備考
47.9通常条件では安定であるが、高温高湿では加水分解に注意する。
メタノール29.7短時間接触では比較的安定である。
エタノール26.0軽度の膨潤を生じる場合がある。
イソプロピルアルコール23.5SP値が近く、長時間接触で白化や応力割れの可能性がある。
アセトン20.3×膨潤、白化、クラックを生じやすい代表的危険溶剤である。
MEK(メチルエチルケトン)19.3×急速な応力割れを引き起こす場合がある。
酢酸エチル18.6×高膨潤性を示し、透明性低下を招く。
トルエン18.2芳香族成分との相互作用によりクラックを生じることがある。
キシレン18.0長時間接触で膨潤を生じやすい。
クロロホルム18.7×極めて危険であり、急速な軟化や破壊を生じる。
ジクロロメタン20.2×短時間でも大きな膨潤やクラックを引き起こす。
n-ヘキサン14.9低極性であり影響は比較的小さい。
シリコーンオイル15 ~ 16通常は安定であり、光学用途でも使用される。
エチレングリコール32.9極性差が大きく、膨潤しにくい。

◎:非常に良好 ○:概ね良好 △:注意が必要 ×:不適

※耐溶剤性はチオウレタン系樹脂のSP値中央値(約22 MPa1/2)を基準として推定した参考値である。
※実際の耐薬品性は、架橋密度、硫黄含有量、内部応力、温度、接触時間、添加剤、表面コーティングにより変化する。
※特にアセトン、MEK、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタンなどは、短時間でも白化、膨潤、クラック、光学特性低下を引き起こすため注意が必要である。
※高屈折率光学レンズ用途では、アルコール系洗浄剤であっても長時間接触や高温条件を避けるべきである。

実務上の注意
  • SP値は溶解性予測の入口であり、耐久性評価そのものではない
  • 架橋樹脂やゴムでは溶解ではなく膨潤として現れる場合が多い
  • 結晶性樹脂では温度上昇により急に膨潤・溶解しやすくなる場合がある
  • 応力下ではSP値差が大きい溶剤でもクラックが起こる場合がある

製法

硫黄原子を有するメルカプト化合物(ポリチオール)とイソシアネート化合物を不活性溶媒中に懸濁させてホスゲンにより反応硬化させる。

基本反応:R−SH + R’−NCO → R−S−CO−NH−R’。

実用材料では、重合後に安定剤、可塑剤、架橋剤、充填材、ガラス繊維、炭素繊維、難燃剤、顔料などを配合して、用途別の物性に調整する。

工程内容備考
基本反応ポリチオールとポリイソシアネートを付加反応させる。基本反応:R−SH + R’−NCO → R−S−CO−NH−R’代表的な合成・製造経路である
改質・共重合柔軟性、耐熱性、耐薬品性、透明性を調整する用途別グレード
コンパウンド充填材、安定剤、難燃剤、着色剤を配合する成形材料
成形・硬化熱可塑成形、加硫、架橋、注型、含浸、硬化を行う最終製品

詳細な利用用途

電気・電子用途
  • コネクタ
  • 絶縁部品
  • スイッチ部品
  • 筐体
  • 保護材
自動車・輸送用途
  • シール材
  • ホース
  • 内外装部品
  • 機構部品
  • 耐候部品
包装・フィルム用途
  • フィルム
  • シート
  • 容器
  • ラミネート材
  • シール層
工業・機械用途
  • ギア
  • 軸受
  • 治具
  • ライニング
  • 複合材料部品
光学・医療・特殊用途
  • レンズ
  • 医療部材
  • 透明部品
  • コーティング
  • 特殊機能材料

関連材料との比較

比較材料違い選定ポイント
ジエチレングリコールビスアリルカーボネート (CR-39}安価、耐溶剤性が良く、応力割れ(クラック)や白化に対する安定性が高いアッベ数が高いため、色にじみが少ない、周辺視が自然、長時間装用で疲れにくい
ナイロンポリアミド系材料は耐摩耗性と靭性に優れる耐摩耗・機械部品では比較対象にする
ポリオキシメチレン低摩擦、寸法安定性、機構部品に強いギアや摺動部品で比較する
シクロオレフィン・コポリマー透明性、低吸水、低複屈折に優れる医療・光学用途で比較する
ポリビニリデンフルオライドフッ素樹脂で耐薬品性と成形性のバランスが良い薬液配管や電池用途で比較する
ポリ乳酸バイオマス由来で透明性と剛性を持つ環境対応用途で比較する

代表的なメーカー

メーカー代表的な製品・商品名備考
三井化学屈折率1.60 MR-160DG™
屈折率1.67 MR-7™
屈折率1.67 MR-10™
屈折率1.74 MR-174™
供給グレードはメーカー資料で確認する
HOYA代表グレード・用途別材料供給グレードはメーカー資料で確認する
Tokuyama代表グレード・用途別材料供給グレードはメーカー資料で確認する
レンズ材料メーカー代表グレード・用途別材料供給グレードはメーカー資料で確認する

概要

略記号:MR™ (三井化学の商標)

英語名:Thiourethane resin

日本語:チオウレタン系樹脂

化学式:

由来:1980年代に三井化学が耐衝撃性に優れるウレタン樹脂に硫黄原子を導入することで屈折率を向上させることが出来る材料研究を行い、1987年に製品名MR-6という新しい分子構造を持つ光学レンズ向けのチオウレタン系材料が開発された。特性は1.60という高屈折率、高アッベ数、低比重を実現し、高屈折率メガネレンズ用として利用されている。耐熱性およびアッベ数を改善したMR-8や屈折率を1.74まで高めたMR-174、植物性由来樹脂を使用したMR-160DGなど各種種類がある。

特性

  • 高屈折率
  • 高アッベ数
  • 低比重を実現し
  • 耐熱性

製法

硫黄原子を有するメルカプト化合物とイソシアネート化合物を不活性溶媒中に懸濁させてホスゲンにより反応硬化させる。

構造

利用用途

  • 高屈折率メガネレンズ
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