概要
略記号:ABS
英語名:acrylonitrile butadiene styrene, ABS resin
日本語:アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの共重合体
化学式:
- アクリロニトリル(AN)とブタジエン(BD)、スチレン(ST)の頭文字を取ってABS樹脂と呼ばれている。
- 実際にはブタジエン系ゴム(PBD、SBR、NBR)の存在下で、スチレン、アクリロニトリルをグラフト共重合して製造されている。
特性
- ABS樹脂は、アクリロニトリル(AN)、ブタジエン(BD)、スチレン(ST)の結合方法が製法によって異なる。
- アクリロニトリル(AN)、ブタジエン(BD)、スチレン(ST)の成分比を変えることで多くの種類が製造可能。
- 非晶性であり、一般的には不透明な樹脂である。
- 表面光沢にすぐれ、任意な着色も可能なため、外観部品としてデザインの多様性を与える。
- 着色性・めっき性にすぐれる。
- 酸やアルカリ、無機塩などの無機薬品には強いが、ケトン、エステル、塩素化炭化水素などには溶解してしまい、アルコールや炭化水素には不溶だが長時間浸漬すると膨潤する。
- 極性をもつ樹脂、ゴムとの相溶性があり、ポリマーアロイに広く利用される。
- 耐候性は、ブタジエン成分の紫外線劣化のため良好でなく、表面変色と光沢劣化する。
- すすを出して燃え独特な臭気を発生する。
- 剛性があり、堅牢で、機械的性質はバランスが取れており、成形性も優れている。
- 引張り強さ、曲げ強さ、衝撃強さ、クリープ強さなどにすぐれる。
- 衝撃強さは種々のものが販売されている。
- 耐熱性は、一般的な用途で使用する範囲では充分である。
- 荷重たわみ温度は、80~110℃で、耐寒性にもすぐれており、幅広い温度で使用可能である。
- 耐熱性を高めた耐熱性ABS樹脂も供給されている。
- 電気的性質は、広い周波数範囲にわたって良い絶縁性を示し、温度や湿度の影響をほとんど受けない。
- 誘電率もきわめて低く、60~103Hzの周波数では変わらない。
- 成形加工性にすぐれ、射出成形、押出成形、カレンダー加工、中空成形などあらゆる加工技術が可能である。
- 成形収縮率が小さい。
- 成形前に予備乾燥が必要である。
ABS樹脂の特性一覧表
性質 | 単位 | 一般 | 耐熱 | 耐衝撃性 |
---|---|---|---|---|
比重 | 1.04 | 1.04 | 1.03 | |
吸水率 | % | 0.3 | 0.3 | 0.3 |
引張強さ | MPa | 41 | 51 | 34 |
引張弾性率 | GPa | 2.1 | 2.8 | 1.7 |
曲げ強さ | MPa | 68 | ||
曲げ弾性率 | GPa | 2.3 | ||
アイゾット衝撃強さ (ノッチ付き、23℃) | J/m | 300 | 140 | 410 |
アイゾット衝撃強さ (ノッチ付き、-40℃) | J/m | 100 | 28 | 100 |
ロックウェル硬さ | R102 | R111 | R87 | |
荷重たわみ温度 (1.82MPa) | ℃ | 89 | 108 | 87 |
荷重たわみ温度 (0.45MPa) | ℃ | 98 | 116 | 100 |
熱膨張率 | 10-5/℃ | 9.8 | 5.9 | 10 |
燃焼性 | HB | |||
成形収縮率 | % | 0.5 | 0.4 | 0.7 |
- ABS樹脂は、種々のプラスチック類とブレンドすることが出来る。
- ABS/PVC(ポリ塩化ビニル)は、自己消化性がある。
- ABS/PC(ポリカーボネート)は剛性に優れている。
- ABS/PUR(ポリウレタン)は、低温における衝撃が強くなる。
ABSブレンド樹脂の特性一覧表
性質 | 単位 | ABS/ 硬質PVC | ABS/ 軟質PVC | ABS/ PUR | ABS/ PC |
---|---|---|---|---|---|
比重 | 1.21 | 1.13 | 1.04 | 1.14 | |
引張強さ | MPa | 38 | 21 | 31 | 57 |
引張弾性率 | GPa | 2.2 | 0.7 | 1.5 | 2.5 |
アイゾット衝撃強さ (ノッチ付き、23℃) | J/m | 640 | 820 | 440 | 570 |
アイゾット衝撃強さ (ノッチ付き、-40℃) | J/m | 70 | 60 | 130 | 80 |
ロックウェル硬さ | R102 | R50 | R82 | R118 | |
荷重たわみ温度 (1.82MPa) | ℃ | 64 | 74 | 83 | 119 |
荷重たわみ温度 (0.45MPa) | ℃ | 72 | 91 | 97 | 127 |
耐薬品性
- 耐薬品性一覧はこちら
製法
- ABS樹脂の製法には、3通りの方法がある。
- グラフト法
ラテックス状のポリブタジエン中にアクリロニトリルとスチレンを加えて重合させ、ポリブタジエン分子にアクリロニトリル・スチレン共重合体が枝状に化学結合させる方法
- ブレンド法
アクリロニトリル・スチレンの共重合体(AS樹脂)と、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(ニトリルゴム、NBR)をブレンドして、機械的に均一に分散させる方法
- グラフト・ブレンド複合法
アクリロニトリル・スチレン共重合体とアクリロニトリル・ブタジエン共重合体の一部を化学結合させたブレンド方法
構造
利用用途
- 冷蔵庫・洗濯機・掃除機・扇風機・テレビ・DVDプレイヤー・テープレコーダー・ドライヤー・エアコンなどのハウジングや構造部品
- フロントグリル
- ラジターグリル
- インストルメントパネル
- コンソールボックス
- ドアパネル
- メーターケース
- フロントカバー
- ドアミラーハウジング
- 複写機
- プリンタ
- 電話機・ファクシミリなどのハウジング
- 時計・光学機器部品
- トナー供給ノズル
- 家庭用ゲーム機
- パチンコ台
- 文房具
- 玩具
- 鞄類
- 靴ヒール
- 家庭用品
- スポーツ・衛生機器用品
- フェンス表皮
- ウォッシュレット部品
- 医療介護用品
- 紡績機器部品