炭素繊維強化プラスチック

略記号:CFRP

英語名:Carbon Fiber Reinforced Plastic

日本語:炭素繊維強化プラスチック

化学式:C(炭素) + 樹脂

炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、高強度・高弾性率を持つ炭素繊維を、エポキシ樹脂や熱可塑性樹脂などのマトリックスで束ねた複合材料です。繊維配向や積層角度を設計することで、荷重方向に対して非常に優れた性能を得られます。

特性

  • 炭素繊維:単繊維径は数 µm、繊維はトウ(束)やプレプレグ、編布などで供給される。
  • マトリックス樹脂:主にエポキシ樹脂、最近は熱可塑性樹脂(PEEK、PEIなど)も使用。
  • 補助材料:剥離防止剤、導電助材、コア材(サンドイッチ構造)など。

物理・機械特性(代表値)

下表は代表的な炭素繊維複合材料(エポキシマトリックス、UD積層/繊維方向に沿った値)の概略です。組成や製法によって大きく変動します。

項目代表値(目安)備考
引張強さ(繊維方向)800–3,500 MPa炭素繊維種に依存
引張弾性率(繊維方向)70–600 GPa高弾性繊維は600 GPa 程度
密度1.4–1.6 g/cm³鋼(~7.8)よりはるかに軽量
曲げ強度500–1,200 MPa積層や方向で変動
熱膨張係数(繊維方向)-1 to +5 ×10⁻⁶ /K繊維により負の値を示すことも
ガラス転移温度(エポキシ系)120–180 ℃高温用途は熱可塑性系を検討

注目すべき特徴

  • 方向性が強い(設計自由度が高いが異方性に注意)
  • 疲労特性が優れる一方で、低速衝撃や穴あきに弱いことがある
  • 電気伝導性があり、静電気や電磁シールドに利用可能

製法

主な材料供給形態

プレプレグ

樹脂を含浸済みの炭素繊維シート。熱処理(オートクレーブ)で硬化。

ドライファブリック/トウ

後で樹脂を含浸(RTM等)。大型部品に有利。

短繊維ペレット

射出成形用。ランダム配向で等方的特性に近づく。

熱可塑性シート

短時間で成形可能、リサイクル性が良好。

代表的な成形法

  • オートクレーブ成形:高品質だがコスト高。航空宇宙に多用。
  • RTM(樹脂トランスファ成形):金型を用いてドライ織物へ樹脂注入。自動車部品等で採用。
  • 真空バッグ/インフュージョン:大型構造物(風力ブレード)に適する。
  • 射出成形(短繊維):量産部品向け、設計は等方寄り。
  • 熱成形(熱可塑性プレート):サイクル短縮・リサイクル性で注目。

製造上のポイント

硬化収縮や残留応力に対する対策(工程設計)が重要。

気泡(ボイド)や含浸不良は強度低下の大きな原因。

積層角度と繊維配向の最適化が性能を決定する。

構造

炭素繊維(C)+各種樹脂の複合体

利用用途

  • 航空機構造材(翼・胴体部材)
  • 自動車(高級・高性能車のボディ・シャーシ部材)
  • スポーツ用品(テニスラケット、自転車フレーム、ゴルフクラブ)
  • 風力発電ブレード(大型複合構造)
  • モータースポーツ、海洋構造物、医療機器など

長所

  • 高強度・高剛性で軽量(重量当たり強度が高い)
  • 設計自由度(積層角や繊維配向で最適化可能)
  • 耐腐食性・耐疲労性に優れる場合がある
  • 電気的・熱的特性の調整が可能

短所

  • 製造コストが高い(特に高性能プレプレグ+オートクレーブ工程)
  • 異方性が強く、設計・解析が必要
  • 衝撃(局所ダメージ)に対し脆弱な場合がある
  • リサイクル性・廃棄処理が課題(熱可塑性系が改善策)

設計上の注意点

  • 荷重方向の解析:繊維方向に性能が偏るため、荷重経路に沿った積層設計が重要。
  • プレストレスと締結:ねじ締結部は集中応力で損傷しやすく、インサートやリベット、補強プレートを検討。
  • 表面処理:接着や塗装のためのプライマー処理が必要なことが多い。
  • 非破壊検査:内部剥離やボイド検出のために超音波検査やX線が推奨される。

リサイクルと環境配慮

従来の熱硬化性CFRPはリサイクルが難しいが、近年は以下のようなアプローチがある:

  • 熱分解による繊維回収(品質低下の課題あり)
  • 機械的リサイクル(粉砕し充填材や短繊維複合材として利用)
  • 熱可塑性マトリックスの採用による再加工・溶融リサイクル
  • ライフサイクルアセスメント(LCA)で製造工程の最適化・低炭素化を図る

よくある質問(FAQ)

Q. CFRPは金属よりも錆びますか?

A. 炭素繊維自体は腐食しませんが、導電性があるため金属との接触で局所腐食(ガルバニック腐食)が発生する場合があります。金属接合部は絶縁対策が必要です。

Q. 修理は可能ですか?

A. 損傷の種類により局所補修(パッチや樹脂注入)で修理可能ですが、重大な構造損傷は交換が推奨されます。非破壊検査で損傷範囲を正確に把握することが重要です。

Q. 高温環境での使用は?

A. エポキシ系は Tg(ガラス転移温度)を越えると機械特性が低下します。高温用途では高 Tg の樹脂や熱可塑性マトリックスを選定します。

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